看護早期体験実習における学生の意味化した経験の構造
浅 井 直 美, 小 林 瑞 枝, 荒 井 真紀子
齋 藤 やよい
要 旨 【目 的】 看護早期体験実習の学習効果を評価するために, 学生の意味化した経験の特徴を明らかにする. 【方 法】 学生 27名の実習レポートを 析対象とし, 質的帰納的研究技法によって抽出した 217の経験内 容を 析した. 【結 果】 経験内容は 17サブカテゴリーに 類され,〔情報を獲得し, その情報から印象を 受け感情を抱いた経験〕〔情報を既存の知識と照合し情報を理解した経験〕〔情報を既存の知識と照合し情報 を理解し,感情を抱いた経験〕〔情報と既存の知識を照合し疑問や問題意識を抱いた経験〕〔既存の知識を加え ながら,情報に基づき異なる状況を え,推し量った経験〕〔情報から看護への関心を拡げた経験〕〔情報を契 機に自己を客観視した経験〕の 7カテゴリーに統合された. 【結 語】 学生の体験は情報の理解・照合・疑 問・推論を経て, さまざまな感情を伴う看護の経験へと変化し, 看護への関心や対象の理解, 自己理解を深め る機会となっていた.(Kitakanto Med J 2007;57:17∼27) キーワード:看護学生, 早期体験, 臨地実習, 意味化過程, 内容 析 は じ め にわが国における早期臨床体験実習 early clinical expo-sureは, 1985年に医学教育において早期に医学生に学習 への動機づけを与えることを目的として導入され, 以降 各大学で広く取り入れられるようになった. 1995年に は,当時の文部省が「わが国の文教施策」として医学教育 等の改善・充実と医療技術者の養成について「アーリー・ エクスポージャー (早期体験学習) の導入などカリキュ ラムや教育方法の改善を進めている.」ことを示した. 看護教育では, 厚生労働省が人々の 康生活のニーズ や社会的なニーズの変化に着実に対応できる看護学教育 を行うために, 2001年に看護学教育の在り方に関する検 討会を行った. そこでは大学における看護実践能力の育 成に向けた検討がなされ, 看護学の教育内容のコアとな る技術学習項目について, 臨地実習という教育形態が重 要な意味を持つことや, 条件が整えば早期の学年次から 組み込むことの必要性を報告した. このような背景の中 で, 看護学においても早期体験型実習を導入する体制が 整いつつある. 従来,看護学実習は「各看護学の講義,演習により得た 科学的知識, 技術を実際の患者・クライエントを対象に 実践し, 既習の理論,知識,技術を統合,深化,検証すると ともに, 看護の社会的価値を顕彰する授業である.」と位 置づけられ, クライエントを対象に, 析的思 に基づ く看護過程を展開することを重要視してきた. しかし, 初学者を対象とする早期体験実習の位置づけは明確でな く, 看護実践能力の向上のために, どのような教育が有 効なのか, どのような教育的関わりが学生の意味ある経 験となるのかといった評価も十 ではない. そのため看 護早期体験実習は医学教育に準ずる内容で計画されるこ とが多く, 担当する教育者の経験や え方に依存する現 状にある. 杉森は, 経験は, 知覚による客観の認識と規定すると, 体験は個々の主観に属し, 客観性に乏しく知性による加 工, 普遍化を経ていない. まさに看護学における実習と いう授業展開は, 体験を経験とする学習場面として極め て重要な意味を持つ.」と述べている. これは, 実習での 1 群馬県みどり市笠懸町阿左美606-7 桐生短期大学看護学科 2 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 3 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 4 東京都文京区湯島1-5-45 東京医科歯科大学大学院保 衛生学研 究科 平成18年11月27日 受付 論文別刷請求先 〒379-2392 群馬県みどり市笠懸町阿左美606-7 桐生短期大学看護学科 浅井直美
体験がどんなに豊かであっても, その体験の認識が学生 の意識化に至らなければ, 主観的な体験で終わってしま うことを示唆する. 看護早期体験実習においても, 主観 的な体験に終わらせずに, 学習経験の認識を促すための 教育的な関わりが必要である. これまで, 看護早期体験実習における学生の経験内容 を明らかにした研究では, 実習のプログラムおよび実習 の体験内容に照らした学生の記述内容の 析や, 看護活 動を観察したことによる学生の学びの内容 析, 援助の あり方に関する学生の学びの内容 析があった. これ らの研究を通して, 看護早期体験実習における学生の経 験や, 学習内容, 学習プロセスを明らかにするためには, 学生の記述したレポートを研究対象とし, 質的に 析す る方法が有効であることが確認されている. そこで本研究では, 看護学の 析的思 を基盤としな い学生の主観的体験のうち, どのような体験に学生自ら が意味を見出すのかという視点から, 早期体験実習にお ける学生の意味化した学習経験の内容と特徴を明らかに することを目的とする. 学生自らが意味を見出した経験, すなわち意味化した 学習経験の特徴を明らかにすれば, 経験を客観的に評価 するための指標とすることができる. そのことにより, 学生は自 が体験したことの意味を見出し, 意味化した 経験とすることができる. また, 教師は, 学生の体験を経 験とするための教授方法を検討することができる. なお,本研究で用いる「体験」は,存在者と出来事を含 む情報を獲得する過程で伴った主観の認識であり, 思 を通じた認識の加工や普遍化を経ておらず, 客観的な意 識化には至っていない認識とした. ここで存在者とは, 実習の場で実際に存在した学生以外の人であり, 出来事 とは実習の場で実際に起こったことである. また, 経 験」は, 体験の中から, 思 を通じた情報の加工, 普遍化 を伴う客観的で意識化された認識内容とした. さらに 「意味化した学習経験」は,経験のうち,学生が思 した 結果, 言語化することにより, 意味を見出し, 文字として レポートに記述した認識内容とした. 対 象 と 方 法 看護早期体験実習の概要 対象とした看護早期体験実習は, 保 師助産師看護師 学 養成所指定規則第 7条の看護師学 養成所の指定基 準で示された教育内容 (臨地実習) の基礎看護学実習に 位置づけられた. 実習時期は, 大学第 1学年次の前期 (5 月∼ 7月) であり, 目的は「学習の初期において, 医療の 場を知り 康障害をもった人々と直接関わることを通し て, 看護の機能・役割について理解する.」および, 実習 を通して, 今後の学習の動機づけとする.」であった. 実習は学内講義と病院実習により行われた. 学内講義は, 医療に関連する様々な業種と業務内容を テーマに 7回の講義が行われ, 病院実習は病棟・外来実 習, 施設見学, 病棟オリエンテーリングにより行われた. 病棟実習では看護師 1名と学生 1名が共に行動し (シャ ドーイング実習), 学生は合計 8時間の看護活動の実際を 見学した. 外来実習では, 再来患者に学生が同行し (エス コート実習),患者の目線から病院を評価した.また,施設 見学では医療廃棄物集荷所等を見学し, 院内オリエン テーリングは, 病院案内図を基にグループで病棟以外の 病院内を自由に見学した. 実習のまとめと報告会では, グループごとに任意の テーマを設定し, テーマに関連した主な体験内容と, 全 体で討議したいこと, 今後の課題をまとめて報告し, 討 論した. そして, 学生は学内講義で学んだこと, えたこ とをまとめるとともに, 患者の目線からみた病院とその 入院生活に焦点をあてたタイトルを設定し, 個々に実習 を通して学んだことをレポートした. この個人レポート を本研究の 析対象とした. 析対象と方法 研究対象者は, A 大学看護学専攻の第 1年次の学生 80 名のうち, 研究参加に同意した 73名とした. 同意の確認 は,まず学生に研究説明書・同意書を渡し,口頭で研究の 趣旨・内容を説明した.そして,同意しないことが何ら不 利益にならないことを説明した. 研究協力の同意が得ら れた場合には, 同意書に署名をしてもらい, 記録した課 題レポートを提出してもらった. データ 析は,Berelson Bの内容 析 に基づき,次の 手順でデータ化とカテゴリー化を行った. まず学生が記述したレポートより, ①存在者と②出来 事を含む情報と, ③情報を獲得したことによる認識内容, の三要素が記述された文脈を記録単位とした. 一つの文 脈の中で, 異なる認識内容を表す記述が複数あった場合 は, 認識内容によって 割し, 複数の記録単位とした. こ の記録単位は学生個人を特定することが可能であるた め, プライバシー保護のために, 類似した記録単位をま とめ表現を抽象化することによってデータ化を行った. カテゴリー化の第 1段階では, 学生が獲得した情報内 容に基づき, 学生の学習経験を 類し, 抽象度を高めて サブカテゴリー化した. そして個々の内容と全サブカテ ゴリーの中での位置づけ, 各サブカテゴリー間の関係か ら, データ 類およびサブカテゴリーネームの適切性に ついて検討した上で命名した. 第 2段階では, サブカテ ゴリーをさらに高次概念でカテゴリー化し, 同様にして 命名した. サブカテゴリーの飽和は無作為に抽出した 27名の
析終了段階で確認された. これらの 析過程は, 信頼性・妥当性を保持できるよ う質的研究法を熟知した研究者にスーパービジョンを受 け, 3名の協議によって行った. 結 果 析対象者 27名のレポートから, 学習経験は 217記 録単位に整理された. これらの記録単位から 17サブカ テゴリーを抽出し,最終的に〔情報を獲得し,その情報か ら印象を受け感情を抱いた経験〕,〔情報を既存の知識と 照合し情報を理解した経験〕,〔情報を既存の知識と照合 し情報を理解し, 感情を抱いた経験〕,〔情報と既存の知 識を照合し疑問や問題意識を抱いた経験〕,〔既存の知識 を加えながら, 情報に基づき異なる状況を え, 推し 量った経験〕,〔情報から看護への関心を拡げた経験〕, 〔情報を契機に自己を客観視した経験〕の 7つのカテゴ リーを抽出した (表 1). 以下, サブカテゴリーは >, そこに含まれた記録単 位は「 」で示し, カテゴリーごとに特徴を示す. 情報を獲得し, その情報から印象を受け感情を抱いた経 験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報自体には操作 を加えず, 獲得した情報から直接的な印象を受け, 情報 に対する感情を抱いた経験を示した. 情報を獲得し,そ の情報から印象を受けた経験>, 情報を獲得し, その情 報に感情を抱いた経験> の 2サブカテゴリー, 16記録単 位で構成され, 全体の 7.4%を占めた. 情報を獲得し,その情報から印象を受けた経験>は学 生が情報を獲得し, その情報に対する印象を直接的に感 じた経験であった. 看護師の行動を見て, 看護師の仕事 に対する印象を受けた経験や, 患者や看護師に対する印 象を受けた経験や, 患者と共に過ごし患者の行動から待 ち時間が長いと感じた経験で示された. 11記録単位で構 成された. 学生は「看護師がカルテの整理や検温をして いる姿を見た. 看護師は常に忙しく仕事をしている印象 を受けた.」と表現した. 情報を獲得し,その情報に感情を抱いた経験>は学生 が情報を獲得し, その情報に対して快・不快という感情 を抱いた経験であった. 看護師の患者に対する活動や学 生の関わりによる患者の反応に快感情を抱いた経験や, 患者・看護師関係に快感情を抱いた経験や, 看護師の行 動やその場の 囲気から不快な感情を抱いた経験で示さ れた. 5記録単位で構成された. 学生は「看護師から, 患 者に話しかけてと言われ, 意識がないと思っていた患者 に,『気 はどうですか.』と話しかけたら,『うん.いいで す.』と途切れ途切れに答えた. ゆっくり自 のことを話 してくれる患者の姿勢をとてもうれしく感じた.」と表現 した. 情報を既存の知識と照合し情報を理解した経験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報を既存の知識 と照合するという操作をした結果, 情報と既存の知識と の共通部 を発見し, 獲得した情報の抽象度を高めるこ とで情報を理解した経験を示した. 情報を既存の知識 と照合し, 情報を知った経験>, 情報を既存の知識と照 合し,情報を一般化した経験>の 2サブカテゴリー,37記 録単位で構成され, 全体の 17.1%を占めた. 表1 学生の意味化した学習経験の 類 学生の意味化した学習経験 記録単位 カテゴリー サブカテゴリー 数 % 情報を獲得し, その情報から印象を受けた経験 8 3.7 情報を獲得し, その情報に印象や感情 を抱いた経験 情報を獲得し, その情報に感情を抱いた経験 8 3.7 情報を既存の知識と照合し, 情報を知った経験 5 2.3 情報を既存の知識と照合し情報を理解 した経験 情報を既存の知識と照合し, 情報を一般化した経験 32 14.7 情報を理解し, 快感情を抱いた経験 4 1.8 情報を既存の知識と照合し情報を理解 し感情を抱いた経験 情報を理解し, 不快な感情を抱いた経験 4 1.8 情報と既存の知識を照合し疑問を抱いた経験 2 0.9 情報と既存の知識を照合し疑問や問題 意識を抱いた経験 情報と既存の知識を照合し問題意識を抱いた経験 6 2.8 既存の知識を加えながら, 情報に基づき異なる状況を えた経験 4 1.8 既存の知識を加えながら, 情報に基づ き異なる状況を え, 推し量った経験 既存の知識を加えながら, 情報に基づき推し量った経験 30 13.8 情報から関心を拡げ興味を示した経験 1 0.5 情報から関心を拡げ想像した経験 42 19.4 情報から看護への関心を拡げた経験 情報から関心を拡げあるべきことを願った経験 20 9.2 情報から関心を拡げ既存の知識を価値づけた経験 27 12.4 情報から関心を拡げ既存の知識を強化した経験 7 3.2 情報を契機に現在の自己を自覚した経験 7 3.2 情報を契機に自己を客観視した経験 情報を契機に今後の課題や目標を明確にした経験 10 4.6 217 100
情報を既存の知識と照合し,情報を知った経験>は学 生が獲得した情報を既存の知識と照合し, 既存の知識と の共通部 を発見し, 獲得した情報を知った経験であっ た. 病院の設備と患者の病院の設備に対する言動から, 病院の環境を知った経験や, 患者の えを表した言動内 容から患者の えを知った経験で示された. 5記録単位 で構成された. 学生は「患者から, 外来棟は大きすぎて, 案内もわかりにくく, 初めて来たときはとても迷ったと 聞いた. 患者が病院に対して感じていることは, 色々あ ると知った.」と表現した. 情報を既存の知識と照合し,情報を一般化した経験> は学生が情報を既存の知識と照合し, 情報と既存の知識 との共通部 を発見し, その情報を一般化したことによ り情報を理解した経験であった. 患者の特性や行動を一 般化した経験や,患者・看護師の相互の行動から患者・看 護師関係を一般化した経験で示された. また, 看護師を 含む医療者の活動や病院の設備を一般化した経験で示さ れた.32記録単位で構成された.学生は「看護師の褥瘡処 置を見た. しゃべることができない患者で, 身体を動か そうとすると, 激痛があるらしく, 必死に苦しそうな声 をあげ, じっと私の方を見つめていた. 看護師は, 『痛い よね.ごめんね.』と言っていた.患者が嫌がっても,苦し がっても, それが患者にとって最も良い治療方法なら, やらなければならないことを学んだ.」と表現した. 情報を既存の知識と照合し情報を理解し感情を抱いた経 験 このカテゴリーは, 前述した〔情報を既存の知識と照 合し情報を理解した経験〕に加え,快・不快という感情を 抱いた経験を示した. 情報を理解し快感情を抱いた経 験>, 情報を理解し不快な感情を抱いた経験> の 2サブ カテゴリー, 8記録単位で構成され, 全体の 3.7%を占め た. 情報を理解し快感情を抱いた経験> は学生が情報を 理解したことにより, 快感情を抱いた経験であった. 看 護師の活動内容の目的を理解し, その技に驚いた経験や, 患者にとっての看護師の存在を理解し, うれしいという 快感情を抱いた経験や, 医療従事者以外の活動の成果を 理解し驚いた経験で示された. 4記録単位で構成された. 学生は「看護師と患者がコミュニケーションをとってい た. 看護師が患者の話し方や受け答えから体調を感じ とったり, 何気ない会話から患者の要求や不満を聞き 取ったりすることをすごいと思った.」と表現した. 情報を理解し不快な感情を抱いた経験> は学生が情 報を理解したことにより, 不快な感情を抱いた経験で あった. 4記録単位で構成された. 患者の えや看護師の えを理解し, 気の毒に感じ, 歯がゆさを感じた経験や, 看護師の説明の医療者も感染の危険があるという内容を 理解し,不快な感情を抱いた経験で示された.学生は「患 者が, 看護師に話しかけようとした瞬間に, 看護師が次 の患者のところに行った. 自 のニードを伝えられない 患者も, 会話をしたくてもできない看護師もどちらも気 の毒に思った.」と表現した. 情報と既存の知識を照合し疑問や問題意識を抱いた経験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報と既存の知識 を照合するという操作をしたが, 情報との共通部 を見 出せず, 矛盾を感じ疑問や問題意識を抱いた経験を示し た. 情報と既存の知識を照合し疑問を抱いた経験>, 情 報と既存の知識を照合し問題意識を抱いた経験> の 2サ ブカテゴリー, 8記録単位で構成され, 全体の 3.7%を占 めた. 情報と既存の知識を照合し疑問を抱いた経験> は学 生が獲得した情報と既存の知識に矛盾を感じ, 情報と既 存の知識が異なるのではないかという疑問を抱いた経験 であった. 患者の行動と看護師の行動を, 既存の知識と 照合し, 情報との違いに疑問を抱いた経験で示された. 4 記録単位で構成された.学生は「患者が,看護師の様子を 見て『忙しいなら大 夫ですよ.』と気を っている場面 を何度か見た. 看護師が, 患者のニードを把握できてい るのか疑問に思った.」と表現した. 情報と既存の知識を照合し問題意識を抱いた経験> は学生が獲得した情報を既存の知識と照合し, 情報に対 し問題意識を抱いた経験であった. 患者の行動と医療者 の行動に問題意識を抱いた経験や, 患者の言動と実際の 医療費を見て, 医療費に問題意識を抱いた経験や, 看護 師の活動を見て, 看護師の活動に問題意識を抱いた経験 で示された.6記録単位で構成された.学生は「外来で,処 方箋が出て院内で薬をもらうまで, 患者とともに過ごし, 患者を見ていた. 待ち時間のわりに, ほんの数 で, 診察 が済んでしまうことは, 問題だと思う.」と表現した. 既存の知識を加えながら, 情報に基づき異なる状況を え, 推し量った経験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報の意味を え るため, 情報自体の抽象度を変えるのではなく, 既存の 知識を活用することにより, 獲得した情報の存在者に限 定し, 情報とは異なる場面や存在者の思 を推し量った 経験を示した. 既存の知識を加えながら, 情報に基づき 異なる状況を えた経験>, 既存の知識を加えながら, 情報に基づき推し量った経験> の 2サブカテゴリー, 34 記録単位で構成され, 全体の 15.6%を占めた. 既存の知識を加えながら, 情報に基づき異なる状況 を えた経験> は学生が獲得した情報を根拠とし, 獲得
した情報の存在者が異なる行動をとった場面を想い描い た経験であった. 医療者の活動に基づき, その医療者が 異なる活動をした場面を想い描いた経験で示された. 4 記録単位で構成された.学生は「病棟で,同じ患者から何 回もナースコールがあった. その時に, 看護師が, いい加 減な対応をせずに, 一回一回しっかりと患者に対応して いたのを見た. 看護師が, 患者の訴えにいい加減な対応 をしていて, 患者の訴えが本当であったら, 医療ミスに つながる.」と表現した. 既存の知識を加えながら, 情報に基づき推し量った 経験> は学生が情報を根拠に, 獲得した情報の存在者に 限定し, 看護活動の対象である患者や看護活動を行う看 護師の思 を推し量った経験であった. 患者の様子や行 動を根拠とし, 患者の現在や過去の えを推し量った経 験や, 看護師や学生に対する患者の反応や行動を根拠と し, 患者の えを推し量った経験や, 看護師の活動に対 する患者の反応から, 看護活動による患者の影響を推し 量った経験で示された. また, 看護師の学生に対する説 明内容と患者の様子から患者の姿勢を推し量った経験 や, 看護師の患者に対する活動から, 看護師の活動の目 的を推し量った経験で示された. 30記録単位で構成され た. 学生は「看護師が, 患者と話しをしていて, 楽しそう に話しをする患者や, 看護師とあまりしゃべりたがらな い患者がいた. 看護師は, それぞれの患者にあった接し 方をしていたように思った.」と表現した. 情報から看護への関心を拡げた経験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報の理解や吟味 をするのではなく, 情報を獲得したことにより, レポー トに記述した情報に限定せず, 興味を示すことや, 想像 やあるべきことを願うことや既存の知識の価値づけや強 化により, 看護への関心を拡げた経験を示した. 情報か ら関心を拡げ興味を示した経験>, 情報から関心を拡げ 想像した経験>, 情報から関心を拡げあるべきことを 願った経験>, 情報から関心を拡げ既存の知識を価値づ けた経験>, 情報から関心を拡げ既存の知識を強化した 経験>の 5サブカテゴリー,97記録単位で構成され,全体 の 44.7%を占め, 最も割合が多かった. 情報から関心を拡げ興味を示した経験> は学生が文 字として記述していない情報以外のことに, 興味を抱い た経験であった. 1記録単位のみであった. 病棟の患者 のほとんどが,車椅子での生活・移動だった.病院の中で, 車椅子の患者は, 快適に生活を送れているのか, 不自由 な点はどのようなところなのかなどに興味がわいた.」と 学生は車椅子の患者の行動を見たことを契機に, 車椅子 を 用する患者の えや生活に関心を拡げ, 興味を示し た経験を表現した. 情報から関心を拡げ想像した経験> は学生が情報を 獲得したことにより, 関心を拡げ, 文字として記述して いない人や実際を想像した経験であった. 患者と時間を 過ごし, 時間がかかる原因を想像した経験や, 医療者の 行動から, 患者の えや看護師の患者に対する人数を想 像した経験や, 医療以外のサービス内容から, 患者に とっての意味や病院のシステムを想像した経験や, 患者 の言動から, 一般的な患者が抱く えや行動を想像した 経験で示された. また, 看護師の思 の説明内容や活動 から, 患者の えや行動を想像した経験や, 患者の行動 や看護師の思 の説明内容から, 特定の活動の実際を想 像し, 難しいと えた経験で示された. 42記録単位で構 成された. ナースコールが鳴っても, 看護師がすぐに病 室に行けなかった. 看護師の人数が足りないと感じた.」 と学生は一人の看護師の行動を見て, その病棟の看護師 を想像した経験を表現した. 情報から関心を拡げあるべきことを願った経験> は 学生が情報を根拠とはせず, 情報を獲得したことにより, 関心を拡げ, あるべきことを直感的に えた経験であっ た. 情報から 析的に問題を え, 予測し, 解決方法を えていく 析的な思 に基づく経験とは異なる経験で あった. 患者の言動から, 医療者のあるべき活動や病院 のあるべき環境や医療制度を えた経験で示された. 20 記録単位で構成された. 学生は「駐車場に車を入れるま で時間がかかり, 検査の予約を入れても同じ時間に他に もたくさん患者がいて時間がかかり, 検査後の医師の診 察までに時間がかかると聞いた. 検査の予約は同じ時間 に予約できる患者の数を減らしたり, 一人一人細かい待 ち時間で予約を入れたり工夫すべきだと思った.」と表現 した. 情報から関心を拡げ既存の知識を価値づけた経験> は学生が情報を獲得したことにより, 関心を拡げ, 何と なく知っていた既存の知識を思い起こし, 既存の知識を 価値づけた経験であった. 情報から, 関心を拡げ, 具体的 な看護師の姿勢や行動や活動を重要であると価値づけた 経験で示された. 27記録単位で構成された. 高熱に苦し んで, うなされながらも, 何かを言おうとしている患者 や, 声を出すことができない患者を見た. 患者のちょっ とした変化に気づくことができる能力がとても大切であ ると思った.」と学生は患者の行動を見たことをきっかけ に, 看護師の能力に関心を拡げ, 看護師は患者の変化に 気づくことが大切であると価値づけた経験を表現した. 情報から関心を拡げ既存の知識を強化した経験> は 学生が情報を獲得したことにより, 価値を見出していた 既存の知識を思い起こし, 既存の知識をさらに強化した 経験であった. 看護師の思 の説明や学生に対する患者 の反応から, 既存の知識を強化した経験で示された. 7記
録単位で構成された.学生は「看護師と患者は,人間同士 なので, コミュニケーションをとるのに, 苦労すること があると, 看護師から聞いた. 授業で患者とうまくコ ミュニケーションをとることが, 患者の治療に影響する と学んだが, それを再認識した.」と表現した. 情報を契機に自己を客観視した経験 このカテゴリーは, 学生が獲得した情報の理解や吟味 をするのではなく, 情報の獲得を契機に, 自己に関心を 向け自己を客観的に見つめた経験を示した. 情報を契 機に現在の自己を自覚した経験>, 情報を契機に今後の 課題や目標を明確にした経験>, の 2サブカテゴリー, 17 記録単位で構成され, 全体の 7.8%を占めた. 情報を契機に現在の自己を自覚した経験> は学生が 情報を契機に自己を客観視し, 現在の自己を自覚した経 験であった. 患者の行動から, 医療者の活動に関して知 識が足りないことを自覚した経験や, 患者と関わり患者 の反応から, 患者に関わることができないことを自覚し た経験や, 患者の えを聞いても患者に援助ができない と感じ, 感情を抱いた経験で示された. 7記録単位で構成 された. 学生は「患者から, 外来棟は大きすぎて, 案内も わかりにくく, 初めて来たときはとても迷ったと聞いた. 患者の生の声を聞いても, 自 は何もできないと悔しく なった.」と表現した. 情報を契機に今後の課題や目標を明確にした経験> は学生が情報を契機に, 今後に役立つ自己の課題や目標 を明確にした経験であった. 患者の えを聞き, 自己の え方の傾向を把握した経験や, 患者の行動から援助者 としての自己を自覚した経験や, 看護師の説明内容から, 今後の自己の課題を明確にした経験で示された. また, 看護師の活動や患者の反応から, 自己の目標とする看護 師像を明確にした経験で示された. 10記録単位で構成さ れた.学生は「褥瘡処置の見学やお風呂介助,シーツ 換, 着替えやオムツの 換を一緒にやらせてもらった. その 間に, 看護師は患者に話しかけていた. 将来疲れた顔を 見せず, 患者にとても優しく話しかけていた看護師みた いなあたたかい看護師になりたい.」と表現した. 察 看護早期体験実習における, 学生の意味化した学習経 験には,〔情報を獲得し, その情報から印象を受け感情を 抱いた経験〕,〔情報を既存の知識と照合し情報を理解し た経験〕,〔情報を既存の知識と照合し情報を理解し, 感 情を抱いた経験〕,〔情報と既存の知識を照合し疑問や問 題意識を抱いた経験〕,〔既存の知識を加えながら, 情報 に基づき異なる状況を え, 推し量った経験〕,〔情報か ら看護への関心を拡げた経験〕,〔情報を契機に自己を客 観視した経験〕の 7つのカテゴリーが内包されているこ とが明らかになった. Bruner JS は学習の過程には三つの同時的な過程があ ると示し, その過程を次のように説明している. 第 1の 面は新しい情報の獲得である. 第 2の面は変形とよばれ るもので, 知識を操作して新しい課題に適合させる過程 である. 情報を整理するのに他の情報をそのなかに挿入 したり, そのそとにつけ加えたり, または別の形に転換 させたりする方法でするために,情報の「正体を暴露」し たり, 析したりすることを学習するのである. 変形は その情報を越えてすすむために, それを操作する緒方法 を含んでいるのである. 第 3の面は評価であり, 情報を 操作した方法が適切であるかどうか評価することであ る. 〔情報を獲得し, その情報から印象を受け感情を抱い た経験〕のみ, 獲得した情報には操作を加えていない経 験であり,Bruner JSのいう第 1の「新しい情報の獲得」 に該当し, さらに獲得した情報から直接的な印象を感じ とり, 素直な感情を抱いた経験であった. 学生は実習の 場において, 数多くの様々な情報を獲得し, その中でも 特に着目した情報から強い印象を受け感情を抱く. 野島 は問題解決行動に移すための前提となる 5つの思 過程 の第 1段階に「そこに現れている事象に注目する段階」 があることを示している. この経験は野島のいう事象 そのものに注目し, さらに事象を情報として受け取り, 情報から印象や感情を抱いた経験である. また, Izard CE は情動は知覚や思 や行為を動機づけ組織し, 選ば れた方向にエネルギーを注いで, 心的かつ肉体的な活動 を導くと述べているが, 学生が情報に注目し感情を抱い た経験は, 思 や行為を動機づける経験である. 学生は この経験により, さらに思 や行為を発展させていくと える. また,Carnevale は「ポジティブな感情は,より対人 渉を可能にし, 対人 渉に役立つ最適の技を発見するこ とを促進する.」と示唆している. 学生は学生の関わりに 対する患者の反応に快感情を抱いた経験を表現してい た. 学習の初期の段階において, 学生は患者との関係性 を築くことを学習していくが, この時期に, 学生が患者 に関わり患者が反応し, その患者の反応にポジティブな 感情を抱いた経験は, 学生にとっては, 患者との関係性 を促進させ関係性を築く技を発見する手がかりとなった と える. したがって, 教師は学生に対し, 事象に注目したこと に終わらせないよう, 強く印象に残り感情を抱いた情報 を学生が意識できるよう促し, 情報から印象を受け感情 を抱いた経験を十 に認め, また, 次の思 へとつなげ ていけるよう働きかけていく必要がある. 特に, 患者と
の関係性を築く過程においてポジティブな感情を抱いた 経験を大いに認めていくことが重要である. 〔情報を既存の知識と照合し情報を理解した経験〕は Bruner JS のいう「変形」の「情報を整理するのに他の情 報をそのなかに挿入する.」という意味にあたる.つまり, 学生は獲得した情報を整理しようとし, 獲得した情報に 存在する既存の知識との共通性を発見し, 情報を変形さ せ情報を理解できるのである. 学生は情報を獲得し, その情報の正体が何であるのか 探り出す. その際, 学生はそれまでの経験で培った知識 と情報を照合させる. 井上 は「実習経験の少ない学生 は, 学習活動の初期の頃は特に生活者としての過去の経 験データを同化して学習課題を解決する. つまり, 学生 個人の生活者としての経験の豊富さが学習課題の解決に 影響を及ぼす.」と述べている.このように,ここで示した 既存の知識は学習によって得た知識だけではなく, 生活 体験で得た知識も含めた知識ということが言える. また, 学生個人の経験の豊富さが, 情報と既存の知識との共通 性の発見を促進させることを示す. 野島 は問題解決行動に移すための前提となる思 過 程の第 2の段階に「注目したその事象を構成している多 種多様な事実の中から一般的な (共通する) 性質を見出 す概念形成の段階がある.」と述べている.この経験は野 島の示した第 2の段階の思 過程とほぼ同じ内容であ る. 学生は今後数多くの看護場面に遭遇したとき, 以前 に経験したことと本質は同じであることや異なることな どと, 学生が思 することができ, 今後大いに役立たせ ることができる. そのため, 情報の抽象度を高め情報を 理解した経験はこのことからも重要な経験と言える. したがって, 教師は学生に, 生活体験や学習による既 存の知識と情報を照合させ, 共通性を発見させながら情 報の抽象度を高めさせることが必要である. また, 情報 の抽象度を高めることが情報の理解につながることを, 学生が意識できるような働きかけが必要である. 〔情報を既存の知識と照合し情報を理解し感情を抱い た経験〕は前述した〔情報を既存の知識と照合し情報を 理解した経験〕に加え, 快感情や不快な感情を抱いた経 験であった. 学生は獲得した情報を理解し, 理解した内 容に対し, 快・不快という感情を抱く. 「看護師が患者の話し方や受け答えから体調を感じ とったり, 何気ない会話から患者の要求や不満を聞き 取ったりすることをすごいと思った.」と学生が表現して いるように, 学生は看護師の技に感心し, 快感情を抱い ていた. 看護への動機づけには主体的看護実践によって 学生の内面に感動が起きること, さらに, その感動が指 導者によって是認され, 意味づけされることが不可欠で ある と言われているが, 情報を理解し快感情を抱いた 経験は, 学生の内面に感動が起き, 看護への動機づけ, す なわち看護してみたいという気持ちになることを促進す ることを示す. また, 学生は快感情だけではなく, 不快な感情も抱い ていた. 患者の えや看護師の えを理解し, 気の毒に 感じ, 歯がゆさを感じた経験をしていた. これは医療の 場で起こっている現実を理解し, 矛盾を感じるまでには 至らない不快感を抱いた経験である. 学習の動機づけに は, 学習すること自体のなかに報酬を見出そうとする内 的動機と賞罰の報酬による外的動機がある. Berlyne E は内発的な動機の状態に関して, 重要な外的刺激の パターンの特性は,概念上の 藤が重要で「困惑」「疑い」 「矛盾」「概念上の不一致」「的はずれ」であると述べて いる. このように, 学生が抱いた矛盾を感じるまでには 至らない不快感は, 困惑」という感情に近い. そのため, この不快な感情を抱いた経験により, 学生は内的動機が 高められると える.内的動機が高められると,その「困 惑」の正体が何であるのか, 解明しようというエネル ギーが学生自身の中に起こる. そして, この経験により 学生はさらに学習への動機づけが高まる. したがって, 教師は学生の情報を理解し快感情を抱い た経験だけを認めるのではなく, 不快な感情を抱いた経 験も否定することなく共に認めることが重要である. さ らに, 不快な感情を抱いた経験を次の学習へと促進させ ていくことが重要である. 〔情報と既存の知識を照合し疑問や問題意識を抱いた 経験〕は前述した〔情報を既存の知識と照合し情報を理 解した経験〕,〔情報を既存の知識と照合し情報を理解し, 感情を抱いた経験〕と同様に,Bruner JSのいう「変形」 の「情報を整理するのに他の情報をそのなかに挿入す る.」という意味にあたる.しかし,前述した 2つのカテゴ リーで示した経験と異なる点は, 情報と既存の知識との 共通部 を見出せず, 情報と既存の知識との矛盾を発見 したことである. 「患者が,看護師の様子を見て『忙しいなら大 夫です よ.』と気を っている場面を何度か見た.看護師が,患者 のニードを把握できているのか疑問に思った.」と表現し ているように, 学生は患者の立場に立ち, 学習で得た知 識を活用し, 矛盾を発見している. 井上は看護学生の実 習経験には, 学習活動への意識を軸とした, 生活者から 学習者, さらに援助者への自己意識の発展を示すもので あると示唆している. このように, 学生は生活者として の意識で, 医療の場を見て, さらに学習で学んだ知識と 照らし合わせ, 援助者として えようとしたときに矛盾 を感じ, 疑問を抱くという経験になったと える. した がって, 学生には援助者としての視点だけではなく, 生 活者や学習者としての視点で医療の現場を見ることを意
識づけることが重要である. 先にも述べたように, 内発的な動機の状態に関して, 重要な外的刺激のパターンの特性に「疑い」「矛盾」があ る と言われているように, 学生が情報に, 矛盾を感じ, 疑問や問題意識を抱くことは, 内発的な動機づけの重要 なパターンとなり, 学生にとっては, 内的動機を高める ことになる. 内的動機が高まれば, 自然とその矛盾を解 明しようというエネルギーが学生自身の中に起こる. そ のため, この経験により学生はさらに学習への動機づけ が高まる. したがって, 教師は学生に情報と既存の知識との矛盾 を発見させることや, その疑問や問題意識を解明しよう と努力することが大切であると意識づけることが重要で ある. 〔既存の知識を加えながら, 情報に基づき異なる状況 を え,推し量った経験〕は Bruner JSの学習の過程から みると, 変形」の「情報を整理するのに, 他の情報をそ のそとにつけ加える.」ことにあたり, 学生が獲得した情 報に基づき, 獲得した情報の存在者に限定し既存の知識 を加えながら, 情報を変形させ, 存在者の行動とは異な る状況を え, 推し量った経験であった. 野島 は「新人もエキスパートも, 仮説を立てるのは, 手がかりとなるデータを十 に収集し切ってからではな く, データ収集段階のかなり早い時点で既にいくつかの 仮説を立てる. しかし, 実務経験が増すにつれ, 目の前に 露に見えている手がかりを単純に結びつけただけの仮説 の数が減少する.」と述べている. 新人よりもはるかに看 護の知識も経験も浅い入学して数ヶ月の学生の仮説は, 情報を単純に結びつけた仮説が多いことが えられる. だからといって, この経験は, 価値がないわけではなく, 学生が学習や生活体験で得た知識を活用し, 情報を根拠 とし仮説を立てた経験である. これは, 援助者として臨 床という場で起こっている事実を見るというよりは, 生 活者という目で臨床の場で起こっている情報から推し量 ることになり, 医療を受ける側の立場により近い視点で 推し量った経験ということが言える. また, この経験は 未熟ではあるが, 得た情報を根拠とした 析的思 によ る経験であった. 析的思 に基づく看護過程を学習す る以前の学生ではあるが, 得た情報の事実に基づく 析 的思 による経験をしていたことが示された. したがって, 教師は学生に対し, 獲得した情報の存在 者に限定し異なる場面や存在者の思 を推し量らせるこ とが必要であり, また, 看護場面では, 情報に基づき思 することの重要性を意識させる必要がある. 〔情報から看護への関心を拡げた経験〕は Bruner JSの 学習の過程でいうと, 変形」の「情報を整理するのに,別 の形に転換させる」ことにあたる.つまり,学生は獲得し た情報自体の理解や吟味をしようとするのではなく, 情 報を獲得したことで, 看護への関心という別の形に転換 させていた. 学生は情報に基づき思 するのではなく, 情報の獲得を契機とし, 自ら看護に興味を示し, 想像や あるべきことを願い, 既存の知識の価値づけや強化によ り看護への関心を拡げていくという主体的な学習をして いた. また, この経験は学生の学習経験の約半数の割合 を占めていることから, 学生はこの経験に最も意味を見 出していると言える. Bruner JSは内的動機の報酬につ いて好奇心, 能力の欲求, モデルを見習おうとする熱望, 社会的相互性という深い意味での献身にこそ求められる と述べている. 情報の獲得を契機とし, 獲得した情報を 超えて看護への関心を拡げた経験は, 学生自ら好奇心を 抱いた経験であり, 内的動機が高まり, 今後の学習への 動機づけにつながる経験と言える. また, 情報から想像やあるべきことを願った経験は, 直感的思 といえる経験である. Bruner JSは直感的思 の特徴について, 思 しているひとはそこに至った 過程をほとんど意識することなしに解決に達するのであ るが, その解決は正しいかもしれないが反対にまちがい かもしれないのである. 直感的思 をするには, それに 関連している知識領域とその知識の構造に精通している ことが必要であるが, そうすることによって, 思 して いるひとは段階をとびこえ近道をしながら自在に進むこ とができる.」と示している. 看護の知識領域に精通して いない入学して数ヶ月の学生は, 段階をとびこえ近道を するため, 時には誤った想像をし, 誤ってあるべきこと を願う可能性はある. だからといって, この経験を否定 するのではない. 学生は近道をしながら, 学生なりの自 由な発想をすることで, 早期体験実習での限られた情報 をきっかけに, 看護に興味を示し, 看護への関心を拡げ ていく. したがって, 教師はこの経験を認めながらも, 誤った知識を修正していく必要がある. さらに, Bruner JS は直感的思 について「演繹的であろうと帰納的であ ろうと, もっと 析的な手段によって結論をあとでふた たび照合する必要がある.」と指摘している. そのため, 学生には看護早期体験実習で直感的思 により得られた 知識を, その後の実習で 析的にその概念を構成する事 実と結びつけて思 する機会が必要である. したがって, 教師は学生に情報にとどまらせず大いに 関心を拡げさせ, 看護への興味を示したり, 想像やある べきことを願ったり, 既存の知識の価値づけや強化した 経験を十 に認めていく関わりをしていく必要がある. また, 看護早期体験実習で得た知識を今後の実習で, 事 実と結びつけて思 していく重要性を学生が意識できる ような関わりをしていくことが必要である. 〔情報を契機に自己を客観視した経験〕は, Bruner JS
の学習の過程からいうと,〔情報から看護への関心を拡 げた経験〕と同様に, 変形」の「情報を整理するのに,別 の形に転換させる」ことにあたる. これは情報を獲得し たことを契機に自己という別の形に転換させ, 自己を客 観視し, 現在の自己を自覚し今後の自己の課題や目標を 明確にした経験であった. 学生は患者の えを聞いても 患者に援助ができないと感じ, 感情を抱いた経験を表現 していたが, このような経験は, 学生によっては, 自尊感 情を損なうことにもなる. 田 は「看護学実習の目標達 成に必要不可欠な教授活動には, 学生心情の受容と共感 がある.」と示しているように,教師には,実習初期の学生 の心情を受容し, 支えとなることが求められる. また, 現 在の自己を自覚することで, 今後の課題や目標を明確に した経験につながると える. 内的動機の報酬に, モデ ルを見習おうとする熱望がある と言われているよう に, 学生が情報で得た看護師をロールモデルとし, 自己 の目標にしたことは, 内的動機の報酬であり, 内的動機 が高まった経験である. したがって, 教師は現在の自己を自覚した経験をした 学生に対し, その経験を認め, 学生の心情を受容するこ とが重要である. さらに, 教師は現在の自己を自覚した 経験から, 今後の学習課題や目標を明確にした経験とな るような働きかけをしていく必要がある. 前者 5つのカテゴリーは学生が獲得した情報に基づき 思 した経験であった. それに対し, 後者 2つのカテゴ リーは学生が獲得した情報自体の理解や吟味をしようと することはせず, 情報から看護への関心を拡げたり自己 を客観視したりといった, 情報の獲得を契機に思 した 経験であった. 看護技術の講義の受講以降に実施される臨地実習は, 学生と患者との相互作用を通し, 学生が自ら情報を能動 的に収集していく形態の実習である. そこでは獲得した 情報を根拠とした, 析的思 に基づく学習が重要視さ れている. しかし, 看護早期体験実習における実習は看 護技術の講義以前の実習であり, 能動的な情報収集では なく, 学生は受動的に情報を与えられることになる. そ のため, 限られた情報に基づき思 する経験のみでは, 早期体験実習の目的を達成するには不十 であり, 学生 が情報を獲得したことを契機に学生の関心を看護や自己 に向けていくといった経験も重要である. したがって, 臨地実習の中でも, 看護早期体験実習に おいては, 教師には情報自体を吟味し思 する経験と情 報の獲得を契機に看護や自己への関心を拡げて思 する 経験ともに重要視していくことが求められる. 学生の意味化した学習経験を Bruner JSの学習の過程 で述べてきたが, 学習が成立するためには, 学習の過程 である第 3の「評価」が必要である. 田は看護学実習の 目標達成に必要不可欠な教授活動には, 実習状況査定に よる目標達成度の評価と伝達があることを明らかにして いる. このように, 看護早期体験実習において, 学生の 経験を学生自身が評価する, あるいは教師が評価するこ とが必要である. 学生が実習の場で情報を獲得し, レ ポートに自 の経験を記述したことは, 自 の経験を評 価したことになる. さらに, 学生の経験を, 教師が十 に 価値のある経験と認め, それを学生に伝達することで, 学生は, 自 の経験に価値を見いだすことが可能となる. 以上のことから, 今回明らかになった学習経験に意味 化させるための教授活動の必要性が示唆された. 本研究によって明らかになった, 学生が意味化した 7 つのカテゴリーについて, その内容と特徴, 有効な教授 活動について 察した. 今後, 研究対象を増やし, この結 果の精度を高め, 学生の学習経験の順序性や各経験との 関連性について検討を行っていく. 文 献
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Deepening of Understanding by Learning Experiences
as a Result of Early Exposure to Clinical Practice
Naomi Asai,
Mizue Kobayashi,
Makiko Arai
and Yayoi Saito
1 Kiryu Junior College, Nursing
2 Gunma University Hospital, Division of Nursing
3 Gunma University School of Health Sciences, Faculty of Medicine 4 Graduate School of Health Science, Tokyo Medical and Dental University
Purpose: To evaluate the learning effects of early exposure to clinical practice,we clarified the character-istics of the experiences described by students. M ethods: Clinical practice reports by 27 students were analyzed,and 217 experiences extracted by the qualitative inductive technique were analyzed. Results: The extracted experiences were classified into 17 categories and combined into the following 7 categories: experience of acquiring information and having impressions of and feelings toward the information , experience of understanding information by referring to existing knowledge , experience of understand-ing information by referrunderstand-ing to existunderstand-ing knowledge and feelunderstand-ings , experience of becomunderstand-ing doubts or becoming aware of problems by referring to existing knowledge , experience of considering and inferring different situations based on both information and existing knowledge , experience of expand-ing interest on nursexpand-ing-based on information ,and experience of objectively observexpand-ing oneself based on information . Conclusion : Nursing students practices changed to nursing experience accompanied by various feelings through the understanding /verifying /doubting /inferring,and provided an opportu-nity to deepen their interest in nursing, their understanding of the clients, and self-understanding.
(Kitakanto Med J 2007;57:17∼27)
Key Words: nursing students, early exposure, clinical practice, deepening of understand-ing, content analysis