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地方公営企業会計制度の見直しとその背景

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Academic year: 2021

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(1)国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. (論 文). 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. 永 江 総 宜 キーワード. 地方公営企業 地方公営企業会計 会計制度改革 地方財政 財政健全化. はじめに 近年、地方公営企業の会計制度に大きな見直しが加えられた。地方公営企業という耳慣れない対 象の制度が変わることにどのような意味があるのであろうか。本稿では、地方公営企業の財務数値 を材料として、その背景にあるものの検討を試みた。 地方公営企業とは水道事業など、地方自治体が運営する企業体を指している。これらは、地方自 治体の一部でありながら、独自の会計基準に基づく特別会計を持ち、独立採算制で運営されている。 そこには、一般的な企業会計に近いものの、その一部には特有の論理に基づく処理が行われている。 今回の制度見直しでは、こうした地方公営企業特有の部分が大きく減じられ、現状の企業会計によ り近づく事となった。一般的に制度が見直されるにはそれなりの理由が存在する。今回の見直しに おいてもその背景は説明されているが、それらはかなり集約され、抽象的な感は否めない。そのさ らに背後にあるものを考えることで、地方自治体のあり方の変化も見えるのではないか。このよう な問題意識が研究の端緒となった。 地方公営企業という、これまでほとんど研究がなされて来なかった分野で、新たな視点から分析 を加えていくことは、会計的な側面のみならず、法制度や行政の側面からも大きな意義があるもの と考える。 1.地方公営企業と地方公営企業会計 (1)地方公営企業の意義 地方公営企業や、その制度改革に関する研究は数少ない。特に、今回の制度見直しについては、時 期的に間もないこともあり、研究は未だなされてはいない。しかしながら瓦田(2005)は以前の制 度見直しである、平成13年度の報告(総務省、2001)を基に、地方公営企業会計制度全般、および その時点での見直し内容について詳細な検討を行なっている。瓦田は立法趣旨や国会答弁なども踏 まえ、地方公営企業会計制度における特殊性などを総合的に検討している。以下、これらの基本的 な制度設計なども踏まえ、地方公営企業および地方公営企業会計制度についてまず概観していこう。 ながえ のぶよし:淑徳大学 国際コミュニケーション学部 人間環境学科 教授. — 23 —. 1.

(2) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. 地方公営企業とは地方公共団体がその組織の一部として運営する企業体であり、制度的には地方 財政法および地方公営企業法により規定されているものである。具体的には上水道事業、ガス事業、 軌道事業、鉄道事業、自動車運送(バス)事業、電気事業などが法定されている1)。 また、直接法定されているわけではないが、同法の規定を準用する事業として病院事業が挙げら れている2)。現在では上水道や鉄道・バスなどと並んで、公立病院は典型的な地方公営企業とみな されているように思われる。法制度上の取り扱いは若干異なるとしてもこうした事業体をイメージ することで、地方公営企業というものの理解は可能であろう。 こうした地方公営企業は現在、地方公営企業法により基本的にほぼ企業会計に近い会計処理が要 求されている3)。以上のように同法によって地方公営会計が適用される企業は「法適用企業」 、それ 以外で地方公営企業会計は任意適用となる企業は「法非適用企業」もしくは「任意適用企業」と呼 ばれている。 (2)地方公営企業会計の意義 地方公営企業法施行令第九条では企業会計原則とほぼ同様の会計原則を掲げ、 「正規の簿記の原則」 に従わなければならないことを明示している。ここから基本的に発生主義、複式簿記による、いわ ゆる企業会計が採用されることとなった。これが地方公営企業会計と呼ばれるものである。上記の ように、地方公営企業会計は、基本的に企業会計と同様の構造と処理方法を持つものである。しか し、一部には非常に独特な仕組みを持っている。例えば、株式の払込が無いため「資本金」は総資 産から負債を控除した残額のうち、会計処理上資本に組み入れたものと、さらにその残額、という ような形で逆算される。もちろん自治体本会計などからの資金提供分、という意味で資本としての 意味合いを考えることもできるのであるが、こうした「資本金」の性質上、 「減資」の概念が無いな ど、独特の位置づけとなっていた。 また、今回の見直しの対象ともなっている「借入資本金」という独特の勘定区分も存在している。 これは施設の建設改良に要する企業債もしくは他会計からの長期借入金を資本(純資産)の部に区 分するものである。これは地方公営企業にとって施設の建設改良が半永久的に維持されなければな らない、民間企業で言う株主資本に該当する概念である、との考え方によるものである(総務省、 2001)。また同様に、補助金等で施設の建設改良を行った場合も、資産計上すると共にそれに見合 う額を「組入れ資本金」といった形で資本として計上する。こうして、施設に関しては処分、流出 ができなくなるような処理方法となっている。 このような企業会計の手法が導入されるようになったきっかけについては、地方公営企業制度が できた昭和27年まで遡らなければならないが、基本的には料金収入など独自の収益によってその費 用を賄うような事業において、能率的、効率的な運営を実現するためであったと説明されている(瓦 田、2005)。 実際に、効率的な運営がどの程度なされるようになったのか、その効果については不明であるが、 2. いずれにしても自治体活動の中で、企業会計というある意味特殊な形で会計処理が行われ、財務報 告もなされているということである。 2.制度見直しの経過と内容 (1)見直しの背景 平成24年5月に、総務省より「地方公営企業会計制度の見直しについて」4)が公表され、説明会 が行われた。. — 24 —.

(3) 国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. この資料によれば、「地方公営企業会計制度等の見直しの背景」として、 ①企業会計基準の見直しの進展 ②地方独法の会計制度の導入及び地方公会計改革の推進 ③地域主権改革の推進 ④公営企業の抜本改革の推進 の4点が挙げられている。 これらの内容については、次のように説明されている5)。 ①企業会計基準の見直しの進展 国際基準に沿う形での改革が進められてきた企業会計との整合を図る必要性がある。 ②地方独法の会計制度の導入及び地方公会計改革の推進 地方独法化を選択する地方公営企業も増えていることから、同種事業の団体間比較のため、企業 会計原則に準じた地方独法会計との整合を図る必要性、また、企業会計原則に準じた地方公会計の 会計モデルの導入が進んでいること。 ③地域主権改革の推進 いわゆる「義務付け・枠付け」の見直しと条例制定権の拡大、及び「地方自治体の財務会計にお ける透明性の向上と自己責任の拡大」。 ④公営企業の抜本改革の推進 「債務調整等に関する調査研究会報告書」における、 「総務省においては、公営企業の経営状況等 をより的確に把握できるよう、公営企業会計基準の見直し、各地方公共団体における経費負担区分 の考え方の明確化等、所要の改革を行うべきである。 」との提言に沿ったもの。 すなわち、第一義的には基本的に企業会計の方式に準じている地方公営企業会計を、企業会計の 変化に応じる形で見直そうということになる。また、地方分権の流れを受けて、地域主権の確立に 伴う経営責任の明確化、といった意味合いが強調されている。いずれも、昨今の社会情勢の変化を 踏まえた見直し理由となっている。しかしながら、これらの見直しの背景については、なぜ地方主 権の確立のために会計制度が見直されるのかなど、その必要性についていくつか検討を要する事項 があると考えられ、これらについては3.以降で検討を加えることとする。 (2)見直しの内容 今回の総務省の見直しの内容は、以下のようなものである(総務省、2012) 。 ○Ⅰ 資本制度の見直し ○Ⅱ 会計基準の見直し ・借入資本金 ・補助金等により取得した固定資産の償却制度等 ・引当金 3. ・繰延資産 ・たな卸資産の価額 ・減損会計 ・リース取引に係る会計基準 ・セグメント情報の開示 ・キャッシュ・フロー計算書 ・勘定科目等の見直し. — 25 —.

(4) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. ・組入資本金制度の廃止(資本制度の見直しの積み残し) これらについて細かい説明は省くが、基本的には確かに近年の国際化をにらんだ企業会計の改革 に沿ったものである6)。特に「借入資本金」、「補助金等により取得した固定資産の償却制度」 、 「引 当金」といった項目については、公営企業の実態をできるだけ「ありのまま」に表示しようとする 重要なものである。例えば「借入資本金」については、前述のように建設改良に要した企業債や長 期借入金を資本の部に区分するものである。これらは資本的な意味合いを持っており、その充実の 観点から資本の部に表示されていたものが、負債の部への表示に変更された。それ自体は数値が変 わるものではないが、この金額が大きい公営企業は、この制度変更によって一気に債務超過の状態 となる可能性が指摘されており、財務体質の問題が顕在化することになる。 「補助金等により取得した固定資産の償却制度等」についても同様のことが言える。これまでは補 助金等によって施設など固定資産を取得した場合には、その部分は固定資産の価額から除く、いわ ゆる「みなし償却」を行うことができ、結果として資産が過小に表示されていたが、この見直しで は、総額を表示したうえ、経過年数に応じて減価償却し、それに見合う補助金額を長期前受金から 徐々に収益化するという方法で、資産の全体像を表示しようとするものである。 引当金も、近年各企業でも問題となっている退職給付引当金を指しており、その他の見直し内容 についても、その多くが公営企業の実際の財産状況、経営状況をできるだけ「ありのまま」に表示 し、その実像がつかめるようなものとなっているのが特徴的である。 また、その前段で行われていた「資本制度の見直し」においては、利益処分や減資など、これま で明確に規定されていなかった資本の処分や取り扱いについて、条例や議決などにより自治体独自 の判断で行えるようになった。こうした内容がセットとなることで、地方公営企業会計の基本的な 方向性は大きく変わることとなった。すなわち、そこにはそれまでの「資本の維持」から「実態の 明示」という大きな方向転換が読み取れる。 これらの内容は、前節の「背景」と密接に関連している。公営企業をとりまく経営環境の変化に より、その経営状況が悪化していても、これまでの制度ではその実態がなかなか表面化、顕在化し てこなかった。しかし、それらの実態を明確に表示した上で、自治体が地方公営企業の経営に関し て早期に経営判断をすることができるようにしようとのねらいがある。 3.「背景」の問題点 (1)制度見直しの背景に対する仮説 総務省によって説明された見直しの「背景」には、いくつかの疑問点がある。例えば、最初に挙 げられている「企業会計基準の見直しの進展」であるが、これはいわゆる会計ビッグバンと呼ばれ る会計制度改革を中心とした、最近の企業会計制度の変革を指しているものと考えられる。会計ビ ッグバンは、我が国の企業活動がグローバル化する中で、より国際基準に近い形での企業会計基準 の見直しを進めようとするものであり、現在でも大きな流れとなっている。地方公営企業において 4. も、その財務報告を他の一般的な企業との比較可能性を高める形で報告することは望ましいことで はある。しかしながら、これまでの地方公営企業会計においては、既に述べたように、 「資本の維持」 という独自の意義付けにより「借入資本金」や「みなし償却制度」などを存続させてきた。それが 現在になってなぜ、「一般企業との比較可能性」を急に意識しなければならないのか。ましてや原則 として投資家との関連性を考える必要がない地方公営企業は、国際基準といったことを考慮する必 要性ももともと存在しない。 ②の「地方独法の会計制度の導入及び地方公会計改革の推進」については、比較的理解がしやす. — 26 —.

(5) 国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. い。これまでは地方公営企業として運営されてきたものでも、平成15年の地方独立行政法人法によ り設立が可能となった地方独立行政法人を選択できるようになり、これらの比較可能性を確保する 必要性は明らかである。また、公会計への企業会計導入の普及により、特別会計としての地方公営 企業会計も整合性を取る必要は求められる。 ③の「地域主権改革の推進」が背景とされているのは、少し議論が必要である。国の補助金との 関係で、いわゆる「義務付け・枠付け」のような条件付けが見直され、自治体としての自主性が高 まると同時に、財務の透明性の向上と自己責任の拡大が求められる、との説明自体はもっともなこ とであるが、それが既存の公営企業会計では不十分であるのはなぜなのか。また制度の見直しによ る「透明性の向上」と「自己責任の拡大」とはどのようなことを意味しているのか、その結びつき は今ひとつ抽象的である。 ④の「公営企業の抜本改革の推進」については、自治体の費用負担について明確にするために、 地方公営企業の経営状況を的確に把握できるような改革を進めよとのことである。ということは地 方公営企業に対する費用負担が大きな問題となっている、もしくはこれから問題となると読み取る こともできる。実際にそうなのであろうか。 今この段階で、これまでの方針を転換してまで、民間企業も含めた多様な事業組織間で比較可能 性を確保し、財務の透明性を高め、費用負担について検討しなければならないとするならば、総務 省が列挙している背景のさらに背後に、何らかの意図があるのではないのか。地方公営企業は何ら かの経営状況の不安に陥っており、その状態を回避するために、会計制度の大きな見直しに踏み切 ろうとしているのではないだろうか。そうであるとするならば、経営状況にそれが現れている可能 性がある、との仮説が立てられる。この仮説に基づいて、地方公営企業の経営状況について確認し てみよう。 (2)地方公営企業の経営状況 地方公営企業の経営状況を確認するために、総務省の「地方公営企業年鑑」から、地方公営企業 法の適用を受ける「法適用企業」の財務数値の全事業合計額を用いた。 まず、損益計算書を基に損益状況の確認を行うが、地方公営企業の損益計算書には民間企業でい う収益、費用に加え、補助金、負担金などの収入が比較的多額に含まれている。また、自治体本会 計との資金のやり取りである「繰入金」、「繰出金」といった科目が含まれているため、こうした形 で損失補填がなされていることが多く、公営企業単体での損益が見えづらくなっている。そこで、 損益計算書からこうした金額を除いたうえでの損益を把握することで、その経営状況を確認する。 まず、民間企業の売上にあたる「経常収益」から、補助金等を控除する。補助金等は「他会計補 助金」、「他会計負担金」。「国庫補助金」、「都道府県補助金」の合計額とした。経常収益から補助金 等を控除したものを「補助金等控除後経常収益」として、公営企業自体の売上状況が明らかになる ようにした。 同様に損益計算書の「経常損益」から上記補助金等を控除したものを「補助金等控除後経常損益」 として、公営企業自体の事業による「利益(または損失) 」とした。これによれば、補助金控除後の 経常収益は平成12年度の8兆7千億円あまりから、平成17年度の9兆5千億円あまりにかけて、ゆ るやかに増加した後、平成22年度の8兆7千億円程度まで、ゆるやかに減少しているものの、全体 としてはほぼ横這いの推移を示している。一方で、補助金控除後の経常損益は、一貫して1兆円規 模の大きな赤字であることが明らかとなった。ただし、平成12年度の1兆5千億円の赤字から、平 成22年度の9千億円程度の赤字まで緩やかではあるが改善を続けている。 (表1、図1). — 27 —. 5.

(6) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. 表1 法適用企業の決算状況 (単位:百万円) 平成 経常収益(a) 経常損益(b) 補助金等※(c) 補助金等控除後経常 収益(a)-(c). 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 10,155,032 10,469,060 10,232,042 10,465,103 10,823,735 10,925,733 10,278,940 10,484,548 10,451,487 -80,415 -20,688 -52,589 105,977 153,992 254,093 160,749 338,177 127,860 1,419,068 1,423,761 1,409,423 1,416,163 1,382,744 1,371,820 1,355,034 1,363,253 1,385,716 8,735,964. 9,045,299. 8,822,619. 9,048,940. 9,440,991. 9,553,913. 8,923,906. 9,121,295. 9,065,771. 21年度 9,874,890 298,838 1,400,505. 22年度 9,976,087 480,235 1,384,220. 8,474,385. 8,591,867. 補助金等控除後経常 -1,499,483 -1,444,449 -1,462,012 -1,310,186 -1,228,752 -1,117,727 -1,194,285 -1,025,076 -1,257,856 -1,101,667 損益(a)-(c) 補助金等控除後経常 100 104 101 104 108 109 102 104 104 97 収益(平成12年度=100) 補助金等控除後経常 100 104 102 113 118 125 損益(平成12年度=100) ※経常収益のうち、他会計補助金、他会計負担金、国庫補助金、都道府県補助金の合計額. 120. 132. 116. 127. -903,985 98 140. 総務省「地方公営企業年鑑」より作成. 図1 補助金等控除後の経常収益および経常損益の推移. 総務省 前掲. 実数ではこれらの動きが読みにくいため、試みに平成12年度を基準に指数化したものが図2であ る。なお、収益額はそのまま指数化したが、損益額は赤字の状態であり、またケースによっては途 中で黒字転換することもあるため、そのままでは指数化できない。そこで、基準値である平成12年 度の赤字額と同額を各年度の補助金等控除後損益額に加算し、一旦0を基準とした増減となるよう にした。次いでそれを基準値である平成12年度の赤字額を正の数値にして除すことで増減比率を計 算し、さらに1を加えて100倍することで、平成12年度の額の絶対値に対する相対的な変動を示す ように補正した指数値を得た。 こうして見ると、平成12年度からの10年間で、収益はほぼ横這いであるのに対して、経常損益は 40%改善していることがわかる。すなわち、補助金を除いた業績は伸びていないにもかかわらず、 6. 経常ベースでの損益は改善してきていることとなる。損益計算書によれば、これは職員給与や支払 利息の漸減によるもののようである。. — 28 —.

(7) 国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. 図2 補助金控除後の経常収益、経常損益の指数(平成12年度=100). 総務省 前掲. この結果を見ると、経営状況は良くないものの継続的に改善が進んでおり、 「経営状況の悪化」が あったために会計制度の見直しに踏み切ったという仮説は単純には検証されないこととなる。ちなみ に、他の指標をいくつか参照してみると他の数値においても経営状況の改善が伺える。 (表2、図3) 「経常損失を生じた事業数」 (補助金を控除していない) 、 「累積欠損金」および「不良債務」の額の 推移を指標化したもので見ると、経常損失を生じた事業数および不良債務の額について、平成12年 度から一旦増加するもののここ数年で改善傾向にあり、特に平成20年度以降は急速に改善している。 これらの理由の詳細は定かではないが、経営状況に関して「悪化している」ということはできない。 表2 経常損失を生じた事業数、累積債務、不良債権の推移 (単位:百万円) 平成 経常損失を生じた事業数 累積欠損金 不良債務 経常損失を生じた事業数 累積欠損金 不良債務. 12年度. 13年度. 14年度. 15年度. 16年度. 17年度. 18年度. 19年度. 20年度. 1,098. 1,156. 1,195. 1,158. 1,099. 975. 1,033. 1,017. 986. 4,874,510 326,409. 4,433,163 331,971. 4,742,014 341,596. 4,498,106 348,130. 4,697,072 352,523. 4,664,483 361,019. 4,809,702 362,969. 4,938,114 360,121. 5,135,537 280,897. 100 100 100. 105 91 102. 109 97 105. 105 92 107. 100 96 108. 89 96 111. 94 99 111. 93 101 110. 90 105 86. 21年度 902. 22年度 752. 5,132,873 5,088,183 254,578 223,759 (平成16年度=100) 82 105 78. 68 104 69. 総務省 前掲. 図3 経常損失を生じた事業数、累積債務、不良債権の推移(平成12年度=100). 7. 総務省 前掲. — 29 —.

(8) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. 一方、累積債務は一旦減少した後、ゆるやかな増加に転じている。地方公営企業年鑑によれば最 終損益の合計額は全体としてはやや黒字を維持しているため、累積債務も解消していってしかるべ きである。しかしこれは統計上「累積債務を有する企業」の、その合計額であると思われる。従っ て、そうした企業においては赤字傾向が定着していることは伺える。 以上のように、経営状況は必ずしも一方的に悪化はしておらず、それを背景とした見直しという わけでは必ずしもないことが推察された。しかしながら、補助金等が恒常的に存在し、これらを除 くと、改善傾向はあるとはいえ大幅な赤字が存在し、そうした補助金なしには経営継続が困難であ ろうことも伺える。同時に補助金や負担金などが、自治体本会計や国庫から支出されていることか ら、財政状況が厳しさを増している折、これらが大きな負担になっている可能性は否めない。事実、 上記「補助金等」は平成12年度の1兆4千200億円から平成18年度の1兆3千600億円まで一旦減 少しているが、その後再び増加し1兆4千億円レベルまで戻ってしまっている(表1) 。それではこ うした資金的な負担の側面から考えていく必要があるのではないだろうか。そこでもう一つのステ ップとして、損益だけでなく資金的な負担の側面から検討を加えて見ることとする。 4.資金的「背景」 (1)地方公営企業の資金状況 損益と同様に、地方公営企業年鑑データを基に資金状況について確認を行う。同資料では資本的 収支の集計がなされている。資本的収支には、損益取引に該当しない資金の出入りが該当する。具 体的には、資本的収入は「企業債」、「他会計出資金」 、 「他会計負担金」 、 「他会計借入金」 、 「他会計 補助金」、「固定資産売却代」、「国庫(県)補助金」 、 「工事負担金」などである。また、資本的支出 は「建設改良費」、「企業債償還金」、「他会計への支出」から成っている。ここにも補助金等が存在 するが、全体的な資金の流れをつかむため、ここでは収入に含めておく。 資本的収入と支出の差額である資本的収支は、一貫してマイナスであり、資本的な資金は流出が 続いている。特に平成13年度から平成16年度にかけては2兆円程度から2兆4千億円前後に赤字幅 が拡大し、さらに平成19年度にかけては2兆7千億円程度までさらに一段悪化している。内訳を確 認してみると、この原因として大きな金額を占めているのは、企業債の収入と償還金である。そこ でこの両者のみを比較してみると、平成12年時点では企業債収入が上回っているが、平成13年度か ら15年度にかけては2兆円前後でほぼ同額、平成16年度以降は逆転し、企業債償還金が大きく上回 るようになっている(表3、図4)。すなわち、過去の企業債償還金負担は大きくなっているが、新 規の企業債はそれに見合う分が起こされておらず、抑制されている。このため資本的収支は逼迫し ている状況にあることがわかる。 表3 資本的収支及び企業債収入・償還の推移. 8. 平成 資本的収入(純計)※ 資本的支出. 12年度. 13年度. 14年度. 15年度. 16年度. 17年度. 18年度. 19年度. 20年度. (単位:百万円) 21年度 22年度. 3,883,752 5,848,595. 3,450,899 5,510,224. 3,265,849 5,525,120. 3,154,940 5,414,097. 3,561,642 6,012,983. 3,319,806 5,678,248. 3,171,611 5,490,567. 3,706,288 6,460,807. 3,729,322 6,436,470. 3,177,381 5,782,052. 3,129,996 5,751,775. 資本的収支 -1,964,843 -2,059,325 -2,259,271 -2,259,157 -2,451,341 -2,358,442 -2,318,956 -2,754,519 -2,707,148 -2,604,671 -2,621,779 企業債収入 2,327,162 2,046,524 1,912,904 1,800,879 1,961,172 1,741,310 1,708,157 2,441,167 2,447,250 1,846,565 1,866,328 企業債償還金 1,794,607 1,775,981 1,976,904 2,126,958 2,021,726 2,578,755 2,518,999 3,683,045 3,512,278 3,028,509 3,027,012 ※資本的収入総額から「翌年度へ繰り越される支出の財源充当額」と「前年度許可債で今年度収入分」を控除したもの. 総務省 前掲. — 30 —.

(9) 国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. 図4 企業債収入と企業債償還の推移. 総務省 前掲. 以上のように、損益面では徐々に改善しつつも恒常的な赤字体質が存在し、資金的には逆に状況 は悪化している。一面だけでは見えづらいが、両者を合わせると、地方公営企業は自治体にとって 大きな資金負担対象となり続けていることがわかる。 これらのことから次のようなことが考えられる。これまでは、 「資本の維持」の名目のもと、 「借 入資本金」、「組入れ資本金」などの概念によって施設用の資産を資本化してきた。ところが、少子 高齢化の進展、将来の人口減などにより需要の減少が予想される現在、過大な資産を維持しておく 必要はない。そこで施設の建設や現状の資産の維持に要する企業債の発行は減少していく。一方で 過去の投資に対する負担は企業債の償還という形で跳ね返り、これからも続いていくことになる。 ところが、地方財政の悪化により、償還のための資金はこれまでのように本会計からの繰出し、国 庫等からの補助金等に頼ることもできない状況になってきている。この時点においては、自らの収 益によって資金償還を行わざるを得ず、ある程度の経営改善によって公営企業自らその負担を賄わ おうとしているように見える。平成12年度から平成22年度までの資本収支の赤字額はほぼ6千億円 程度増加しており、同期間の補助金等控除後経常損益もほぼ同程度の改善を見せている。つまり損 益の改善は、単純な経営努力ではなく、必要に迫られた結果としてのものであったと考えることも できる。無論、このことだけでそれが資本収支のマイナスに充てられたということはできない。た だ、当初の仮説とは異なり、単純に損益面での悪化によって会計制度の見直しが図られたのではな く、資金負担の大きさと、それがさらに増大していくという危機感の大きさがその背後に見て取れ るのである。 (2)制度見直しにおける説明 以上のような議論を裏付ける資料が、今回の見直しの議論の中にも見ることができた。 地方公営企業会計の見直しにあたって、総務省内に「地方公営企業会計制度等研究会」が設置さ れている。この研究会は平成21年6月から平成22年3月に渡り、8回開催され、今回の制度見直し の内容について討議された。この時の配布資料に、今回参考となるいくつかの記述が見られる。 第一回会合の配布資料3である「債務調整に関する調査研究会報告書(抜粋) 」には、 「第三セク ター、地方公社、及び公営企業の抜本的改革について」とのタイトルで「Ⅳ.公営企業に係る改革」 が提示されている。そこには、地方自治体と別の法人格を持つ第三セクターとは異なるものの、独 立採算制をとる地方公営企業において一部は「経営が著しく悪化し、将来的な財政負担の軽減を図. — 31 —. 9.

(10) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. る観点から、存廃を含む抜本的改革を行うべきケースも見られる。 」として、将来の財政負担の可能 性に言及している。 また、同会合の配布資料7である「『地方公共団体の財政の健全化に関する法律』について」では、 地方公共団体とその周辺の事業について、地方公営企業から一部事務組合、第三セクターに至るま で、グループ企業のような連結化をイメージし、地方自治体財政の健全化について説明されている (図5)。これまでの法制度の課題点として、わかりやすい会計情報の開示が不十分であり、公営企 業にも早期是正の機能がないこと、ストック情報がないため財政状況に課題があっても検討の対象 にならないことなどが挙げられ、ストク情報も含めた指標の整備と情報開示の徹底、財政の早期健 全化、あるいは財政の再生のための制度整備などが、資料における提言の骨子となっている。 図5 健全化判断率の対象について. 出所:総務省自治財政局公営企業課、「地方公営企業会計制度等研究会第一回会合配布資料7 『「地方公共団体財政の健全化に関する法律」について』」、2009、p.2.. これらの資料が会合の初期段階から提示されたのは、地方公営企業の会計制度見直しが、地方財 政の健全化の一部であると位置づけられているためであることは疑いない。それも早期に財政悪化 の兆候をつかみ、早期に対応することによって地方財政全体の負担を抑えようとする方向性が明確 である。そしてそのために企業実態をできるだけありのままに反映するような会計情報が求められ ている。従って、今回の会計制度見直しはこうした流れの中で進められてきたものであると推察さ れる。特に上記配布資料7の中で取り上げられているのは「資金不足比率」や「将来負担比率」と いったストック情報である。同資料7によれば、資金不足比率とは法適用企業の資金の不足額であ 10. り、「流動負債の額から流動資産の額を控除し、さらに建設改良費等以外の経費の財源に充てるため に起こした企業債の残高を加算した額を基本としている」と説明されている。いわば経営分析にお ける流動比率のような考え方で、流動資産を超える流動的な負債の額が事業規模に占める比率を表 している。同様に将来負担比率とは「企業債の現在高(固定負債と借入資本金とを区別しない)に、 直近3か年の企業債元金償還金に対する一般会計等からの繰り入れの割合を乗じて算出する」とし ており、いわば借入返済の本会計の肩代わり部分である(図6) 。. — 32 —.

(11) 国際経営・文化研究 Vol.17 No.2 March 2013. 図6 資金不足比率等と地方公営企業会計. 出所:前掲、p.5.. 上記の資金不足比率や将来負担比率の数値そのものは、現段階では一部の数値が筆者のもとに得 られていないため算出することができないが、いずれにしてもストック情報を基にした資金負担の 問題であり、地方公営企業の現在の損益状況を問題視するものではない。 このように見てくると、今回の見直しの真の背景は、 「将来に渡る地方自治体の財政負担の軽減」 であり、そのための基本的な環境整備を図ったととらえることができよう。見直しの内容そのもの は、資本制度の見直しと会計基準の見直しがセットになったものであった。これは第一ステップと して資本金の縛りを少なくして自治体独自の判断で資本の減額などの処分ができるようにし、次ス テップで企業の経営状況をできるだけありのままに開示する「実態の明示」によって、経営状況の 悪化を早期に把握するものであった。 資本制度を敢えて見直したのは、不要な資産を処分しコンパクトな経営ができるようにするため の布石であろう。これで場合によっては公営企業のスクラップも自治体独自の判断でできるように なった。そして、その判断基準を自治体関係者のみならず、議会や住民に開示するために会計基準 の見直しがなされた、ということであると思われる。そうであるならば、この会計基準に従った財 務諸表により、各地方自治体は、地方公営企業の存在意義を大いに議論しなければならなくなった というべきであろう。 おわりに 地方公営企業会計という、あまり問題視されなかった分野ではあるが、大きな制度見直しがなさ れたことから、その背後にある環境変化について検討を試みた。今回は当初の仮説から、地方公営 企業全体の損益および資本収支という側面のみに着目している。しかし、実際の制度見直しの動き 全体は、より大きなロジックで動いているようであり、財務的な数値でそれを推し量るのは興味深 くはあるが、全体像は掴み切れないことを痛感した。 今回の制度見直しに関連して、総務省を始めとする各行政部門から多数の通知や説明の文書が発 せられている。今後、こうした文書の内容などを精査することにより、より深層に渡る制度見直し の意義が明らかになるものと考える。今後は、こうした別のアプローチも含めて多面的に分析を続. — 33 —. 11.

(12) 地方公営企業会計制度の見直しとその背景. けることとしたい。 なお、今後は地方の議会や住民自身が、自治体の行う事業の経営判断をしていくという、全く新 しい局面が予想される。この点についても、経営判断の基準や分析・評価など別途の研究が必要と されると考えられ、この点についても今後の検討課題としていきたい。 注 1)地方公営企業法第二条第一項 2)地方公営企業法第二条第二項 3)地方公営企業法第二十条、地方公営企業法施行令第九条 4)総務省自治財政局公営企業課「地方公営企業会計制度の見直しについて」2012年5月 5)前傾資料、p.2 6)国際会計基準審議会(IASB)が公表した国際財務報告基準(IFRS)に合わせる形で、1999年度以降、我が国におい てもいわゆる「会計ビッグバン」と呼ばれる制度改革が行われ、連結会計、税効果会計、金融商品の時価会計、退 職給付会計計などの新基準が順次設定されてきた。. 文 献 ※様式は日本広報学会『広報研究』の様式に準じている。 瓦田太賀四、『地方公営企業会計論』、清文社、2005. 企業会計審議会、「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告) 」 、2009. 総務省自治財政局編、「地方公営企業年鑑」第52集(平成16年度)~ 58集(平成22年度) 、2006 ~ 2012. 総務省自治財政局公営企業課、「地方公営企業会計制度の見直しについて」 、2012. 総務省、地方公営企業会計制度等研究会、第一回会合配布資料3、 「債務調整に関する調査研究会報 告書(抜粋)」、2010. 総務省、地方公営企業会計制度等研究会、第一回会合配布資料7、 「 『地方公共団体の財政の健全化 に関する法律』について」、2010. 総務省 21世紀を展望した公営企業の戦略に関する研究会、 「地方公営企業会計制度に関する報告 書」、2001. (受理 平成25年1月18日). 12. — 34 —.

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