研究ノート
白鴎女子短大論集 1999,24(2),253−269わが国の少子化 現状と問題点一
堀 眞由美はじめに
わが国は、戦後の高度経済成長のもとで、生活環境の改善や医学の進歩な どにより平均寿命が伸び、世界有数の長寿国となった。しかし、近年、生ま れてくる子供の数が減り続け、いわゆる「少子化」が急速に進んでいる。 2100年には、総人口は現在の人口の半分程度にまで減少し、今後、人口減少 と合わせて高齢化が同時に進むという時代を迎えることが予測されている。 本稿では、少子化の現状を把握しその背景や今後の見通し、経済社会への 影響を探り、少子化社会への対応の一助としたいと願うものである。1.少子化の現状と今後の見通し
近年、わが国において、高齢者が増加する一方で、生まれてくる子供の数 が減り続ける傾向にある。「合計特殊出生率」(15歳から49歳までの女性の年 齢別出生率を合計したもの。1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一 生の問に子供を産むとした場合の平均子供数)でその状況を見てみると、わ が国の合計特殊出生率は、戦後の第1次ベビーブームの時期(1947年∼49年) には、4.32であったが、1950年頃から急速に減少しはじめ、1950年台半ばに は2に低下した。その後安定的に推移し第2次ベビーブームの時期(1971年 ∼74年)には2.14であったが、それ以降再度減少をはじめ、現在まで低下傾 向が続いている。現在のわが国の人口約1億2,600万人(1999年3月現在) を維持するには、合計特殊出世率が2.08必要だが、1998年には、1.38に落ち 込んでいる状況である。出生数で見てみると、1949年は270万人、1973年は 一253一209万人、1997年は119万人に減少している。(図1) 図1 出生率および合計特殊出生率の推移 人山 万30 250
200
出 生数150
100 50 0 0 第1次ベビーブーム /270万人 第2次ベビーブーム 209万人 □出生数 中合計特殊出生率 ひのえうま 136万人0
432 1996(平成8)年 121万人0
2.14\
0
薗0
1.58 143 1947 1q55 1qR5 1q7『 1qR『 1qq∩ 1qqF 1947 (日召禾022) 資料: 1955 1965 1975 (30) (40) (50) 厚生省大臣官房統計情報部「人口動態統計」 1985 1990 (60) (平成2)5
合計特殊出生率 4 3 21
0
1995 (7) 国立社会保障・人口問題研究所が1997年に推計したところによると、今後 の見通しについては、わが国の人口は出生率がある程度回復したとしても、 2007年を頂点として減少に転じ、現在の人口1億2,600万人が2050年には約 1億人、2100年には約6,700万人になると見込まれている。(図2)一方、老 年人口は急速に増加傾向にあり、1997年の15.7%から2050年頃には32.3%、 3,300万人前後で、国民の3人に1人は65歳以上という時代を迎え、その後 横ばい状態を続けた後、穏やかに減少していくと予測されている。(図3) 20世紀に年平均で83万人ずつ人口が増加し続けた時代から、21世紀には年 平均60万人ずつ人口が減少し続ける時代へ、まさに少子高齢化社会が現実に 到来しようとしているのである。わが国の少子化 図2 我が国の総人口の見通し (干人) 150,000 120,000 90,000 60,000 30,000
\
1920(大正9)年 5,596万人 I I I I I I I I I i\ ド 11995(平成7)年 112,577万人 1967(昭和42)牛 10,020万人 1 [初めて1億沫を超える 1 実績値←1→推計値 l l l I I I I I I I I I l I I I11,096万人 10, 人 1, 万人I
l
l
I
I→参考推計値I
I
I
9,0 同 6,7 中 9万人 推計 7万人 計 推 8万人0
氏 イ 推計 I I 1920193019401950196019701980199020002010202020302040205020602070208020902100 (大正9)(昭和5)(15)(25〉(35)(45)(55)(平成2)(12)(22)(32)(42)(52)(62)(72)(82)(92)(102)(112) (年) 資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 (1997(平成9)年1月推計)」 一255一図3 老年人口の推移(中位推計) 老年人口︵干人︶ 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 32,396 3,245万人 28.8% 1,82 人 14.6% 1,941万人 参考推計値
→
一 一老年人ロ ー老年人口割合 35.0 30.0 25.0 老年人口割合︵% 0 0 α 巳 2 1 10、0 5.0 0 0.0 199520002010202020302040205020602070208020902100(年) (平成7)(12)(22)(32)(42)(52)(62)(72)(82)(92)(102)(112) 年次 資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 (1997(平成9)年1月推計)」わが国の少子化
2.少子化がもたらす経済的・社会的影響
少子化は、わが国にさまざまな影響を及ぼすであろうと予測されている。 総務庁統計局「労働力調査」によると、1997年の労働力人口(就業者+完全 失業者)は6,787万人である。労働力人口は、1975年以降平均67万人ずつ増 加してきたが、少子高齢化の影響で今後労働力人口の減少傾向が続くであろ うといわれている。20歳代の人口は1996年までは増加しており、その後減少 傾向に転じている。(図4) 図4 労働力人ロの推移 人oo 万β ︵7 6,000 5,000 4,000 6,384 6,787 6,840 b,δ/U 6,750 6,560 1,350 (20,6) 6,400 1,320 (207) ■4,σ20 .(6零8) 1,06台 (総、6〉 6260 910 (134) 4,239 (62,5) ,638 (24、τ) 980 (14,3) :4,孚60 .(6牢3). 1,騰 く234) 1,130 (16,5) 1,330 (197) 732 4,丁刀・ (b54)・ 1,330 (2L2) 41340 (庫3・2 1,尋G9 (2段,4〉 4,20D ’(62,2) 1,22G (18、τ) 4,1}σ (62も) 1,10G 〈総,9) 3,85α (a1,5) 1,080 (τ7、3) 等.47 (2,1〉 6,870 (%) 25 24 22 20 18 口60歳 以上 □30∼ 59歳 口15∼ 29歳 一60歳以 上割合 3,000 16 60 歳 2,000 14以 上1,000 12製
口 0 10 1990 1997 2000 2005 2010 2015 2020 2025 (年) (平成2) (9) (12) (17) (22) (27) (32) (37) (注)()内は構成割合 資料:1990(平成2)年、1997(平成9)年は総務庁「労働力調査」 2000(平成12)年以降は労働省職業安定局推計(1997(平成9)年6月) 「「65歳現役社会』の政策ビジョンー構築のためのシナリオと課題一」 (労働省発表) さらに労働力人口の高齢化も同時に進行すると思われる。高齢者は、一般 的には短時間勤務を希望する者が多いと推測されるので、実労働時間数から みた場合の労働力供給は一層減少すると予測される。 一257一女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)については、 50.4%と前年に比べ0.4%ポイント上昇した。女性の労働力率は1993年以降 低下傾向にあったが、6年ぶりに上昇している。 しかしながら、女性労働力率の上昇傾向の延長と高齢者雇用を促進する現 行諸施策の効果を見込んでも、2005年以降労働力人口は減少し、2025年には 約6,260万人にまで減少すると見込まれている。このような労働力人口の減 少により、わが国の労働生産性の伸びはかつてのようには期待し難く、経済 成長を制約するおそれがあるといわれている。 さらに、年金、医療、福祉等の社会保障についても、現役世代の負担は増 加する見通しである。厚生省の1997年推計によると、国民所得に占める社会 保障給付に係る負担は、1995年度は18.5%、2025年度には29.5%∼35.5%に まで上昇すると予測されている。(図5)このような現役世代の負担の増大 や1人当たりの所得の伸びの低下などにより、税・社会保険料を差し引いた 手取り所得額は低下し、2025年には年平均伸び率が0.3%減少に転じると予 測されている。 社会的影響は、兄弟姉妹数の減少と寿命の伸びにより、子と同居しないま たは同居できない高齢者が増加し、さらに未婚率の増加など、単独世帯が増 加するという家族形態の変化をもたらしている。 子供数の減少は、親の過保護・過干渉にもつながりかねない。さらには、 子供同士の交流、異年齢との交流機会の減少により、子供の社会性が育まれ にくくなっている。これは健全な成長に大いに影響を及ぼすであろう。不登 校や校内暴力、家庭内暴力など、子供数の減少によりさまざまな問題が山積 みされている状態である。お互いが思いやり、支え合うという人間生活の基 本が損なわれているのである。さらにそのような状況で育った子供が親の世 代になった時の二重の影響も懸念される。 疎外化・高齢化が広範な地域で進行すると、農村漁村では後継者難や結婚 難も進みさらには福祉サービスや医療保険の制度運営など、住民に対する基 礎的なサービスの提供が困難になるのではなかろうかとも予想されている。
わが国の少子化 図5 社会保障(現行制度)の給付と負担の見通し 【試算の前提】 (1)経ヲ斉才旨杉票 ・名目国民所得の伸び率について 試算A 2000年度まで3,5%、2001年度以降3.0% 試算B 2000年度まで1,75%、2001年度以降2,0% 試算G 2000年度まで1,75%、200等年度以降15% (2)人口推計 ・国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口(1997(平成9)年1月推計)」中位推計 (3)制度 ・1997(平成9)年の医療保険制度改革後のものについて算定 ・介護保険制度が創設されるものとして算定 / // // 87∼88兆円 ./
1年金
1 65兆円 、/ ヨ1医療1
L 」 ニ ユハヨ 1福祉等1L 34兆円 24兆円 7兆円 47∼48兆円 26兆円 13兆円 137∼154兆円/ 73∼86兆円 46兆円 18∼22兆円 216∼274兆円 / / / / / ! / / / 試 試 算 算 C A / / ! / / 98∼142兆円/ / / / / / / / / / // / / / 90兆円 試算試算C A
27∼41兆円 1995 (平成7) 0︶0201
2︵ 2︵ 0∩⊂−り︻0︶ (年度)2025 (37) 社会保障に係る負担 181/2% 20∼ 201/2% 241/2% 26% 291/2∼ 351/2% 国民所得 (注)上段は試算Aの場合、下段は試算Cの場合である 一方で、人口減少は環境への負担を減らし、大都市での住宅、土地問題、 交通混雑等の諸問題を改善し、1人当たりの社会資本の量の増加などのプラ ス面の影響を指摘する意見もある。子供を何人産み育てるかという点につい ても、少子化により密度の濃い教育が実現でき、それにより受験戦争も緩和 されるのではなかろうかという意見もでている。しかしながら、それらは短 期的な見通しであり、経済成長の低下が生活水準の低下をもたらす以上、生 活にゆとりはなくなるのではなかろうか。 総理府が1999年2月に実施した少子化に関する初の世論調査によると、少 子化が社会経済に与える影響については、「社会保障負担など若い人の負担 が増えること(69.2%)」が最も多く、以下「人口の減少に伴い社会全体の 一259一活力が低下すること(50.6%)」「労働力人口の減少などにより経済が鈍化す る可能性があること(38.2%)」「子供同士が触れ合う機会が減ること(37.9 %)」「地域により過疎化が一層進むこと(30.3%)」などの順となっており、 少子化が社会経済にさまざまな影響を及ぼすであろうと懸念される。
3.少子化の要因
第1次ベビーブームの後の出生率の低下は、主に有配偶出生率(結婚した 女性が産む子供の数)の低下によって生じているが、これは経済が豊かにな り、避妊手段や知識が普及し衛生状態等が改善されたことにより、多産多死 の時代から少産少死の時代へと人口構造の転換が起こったためと思われる。 多産多死の時代では、乳幼児の死亡率が高く、たくさんの子供を産み育て その中から生き残る子供は農業等の家内労働力の担い手として手伝わせ、さ らに親の老後の生活を子供に依存していた社会である。これは経済合理1生に かなったものでもあり、現在でも発展途上国ではこのような状況下にある。 衛生状況等の改善により死亡率が減少すると、たくさんの子供を産む必要が なくなる。加えて社会が豊かになると、今度は子供に十分な教育を受けさせ たいという問題が生じ、一人の子供にかかる費用の負担も増加していった。 戦後2回目の出生率の低下は、1970年代半ば以降である。この要因は、晩 婚化の進行や未婚率の上昇があげられるだろう。最近では、結婚しても子供 はいらないという新たな家族形態を選択する者もいる。 総務庁統計局の年齢別未婚率を見ると、25∼29歳の女性の未婚率は、1975 年の20.9%から1995年には48.0%へと増加し、25∼29歳の男性の未婚率も、 1975年の48.3%から1995年には66.9%となっている。中でも30∼34歳の男性 の未婚率の増加が顕著で、1975年の14.3%から1995年の37.3%と約2.6倍に上 昇している。(図6) 晩婚化進行の背景には、生活のために結婚するという、結婚=永久就職と まで呼ばれた時代から、今日では女性の高学歴化が進み、経済的に自立して 生活できる時代へと変化してきており、女性が仕事で活躍できる場面が増加I( )'jJ' 4 (o/o) l OO 80 60 40 20 o ]6
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7.7 9.1 81.4 85 86 4 48 ' o 40 . 21 30 . 61 19.7 13 . 91 10.4 5.5 6.8 5.8 5.3 5.5 6.6 7.5 10.0 l 920 ( 9) l g25 (14) l 930 (l 5) l g35 (lO) l g40 (15) l g50 (25) l 955 (3O 196C Ig65 1970 (35) (40) (45) l g75 (5O l 98C ( 55 ) 1985 1990 19g5( ) (6O ( 2) ( 7 ) (o/o) l oo 80 60 40 20 o( ) 90 ' 9
84 . 2 . 979 . 6 l
70 9 72.4o/ L fl
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14.3/ 19.022.6
14.2 4 8.5 l 920 ( g) =4 l g25 (14) l 9SC (B D5) l 935 (lO) 'f '*!; r 'yL P l g40 (15) l 950 (25) r 1 ='--・"= i J l g55 (30) 1960 1965 197C (35) (4O (45) l 975 (50) l g80 (55) 1985 1990 Igg5( ) (60) ( 2) ( 7 ) 261-してきたことがあげられるだろう。「男は仕事、女は家庭」という性別役割 分業意識はもはや通用しないであろう。女性が仕事を続ける上で、家庭と仕 事の両立や、出産・育児・介護等の負担を考えると、結婚や出産を決断する ことも足踏みしてしまうようになったのである。結婚生活に夢や期待を感じ られなくなり、自分自身の自由な生活を楽しみ、苦労はしたくない、親離れ ができていない未婚女性・男性が増加している様子がうかがえる。(図7) (%)
7060
66.11
54.1 35.5 30.7 24.9 20.4 8.7 9.1 9.2 0.7 2 図7 晩婚化の理由 女性の晩婚化の理由 独身生活の方が自由である 結婚しないことに対する世間 のこだわりが少なくなった 仕事のためには、独身のほ うが都合がよい 仕事をもつ女性が増えて、 女性の経済力が向上した 家事、育児に対する負担感、 拘束感が大きい 相手に高望みをしている 社会慣行としての見合いが 減少した 親離れができていない 婚姻による改姓が障害となっ ている(注) その他 わからない 50 40 30 20 10 0 男性の晩婚化の理由 0 10 20 30 40 50 (%)6070
59.6 26、9 19.3 26 7.3 12.5 17.3 23.3 1165
4
2
(複数回答) (注)きょうだいの数が減ったことや一人っ子どうしが増えたために、婚姻による 改姓が障害となっている。 資料:総理府広報室「男女共同参画社会に関する世論調査」(1997(平成9)年)わが国の少子化
4.少子化への対応
4−1.行政
1997年に人口問題審議会は、「少子化に関する基本的考え方について」と いう報告書を取りまとめた。この報告書は、政府の審議会として初めて少子 化について取り上げたものである。少子化の影響への対応とともに要因への 対応をする必要があると考え、その政策的対応の中核として、固定的な男女 の役割分業や雇用慣行の是正と、育児と仕事の両立に向けて子育て支援を挙 げている。 1998年6月に厚生省は「平成10年版厚生白書」の中で、「少子社会を考え る一子どもを産み育てることに「夢」を持てる社会を一」の実現に向けて、 少子化の背景を探りつつ、自立した個人の生き方を尊重し、お互いを支え合 える家族、自立した個人が連帯し合える地域、多用な生き方と調和する職場 や学校の姿を展望し、更なる問題提起を試みた。 1998年7月に「少子化への対応を考える有識者会議」(内閣総理大臣主宰) が設置された。結婚や出産について、個人が望む選択ができるような環境整 備についての具体的な提案を行い、国民全体への議論を呼びかけた。この会 議の構成メンバーは、30歳代∼40歳代の男女ほぼ同数、半数以上は公募によ るメンバーであり、様々な職種や経歴を有するもので構成されている。同年 12月に「夢ある家庭づくりや子育てができる社会を築くために」という提言 を提出している。 この提言によると、家庭や子育てに夢を持つことができるような社会にす るための環境整備を実行するためには、若い男女が新たな家庭を築き、子ど もを育てていく喜びや楽しさを経験することを困難にしている社会的・心理 的な要因を、社会全体の取組みとして取り除いていかなくてはならないとの 述べている。しかしながら、結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられる べきであり、押し付けてになってはいけない。少子化が進行することは、経 済的にも社会的にも深刻な影響を及ぼすが、女性を家庭に戻すべきであると いうようなことは非現実的なことであり、女性の就労機会を制限することも 一263一不適切・不合理である。さらに、男女の固定的な性別役割分業の見直し、職 場優先の企業風土の是正、働き方の多様性など、仕事と育児の両立を支援し、 家庭での男女共同参画、保育園等の整備などの具体策を提案している。こう した環境整備を進めていくためには国民的な広がりのある取り組みがなによ りも必要であり、提言したものを実施に移すために「国民会議(仮称)」を 設け、国が実施主体となるべき方策を推進するための閣僚レベルでの取り組 みの必要性を提言している。 1999年5月これらの提言を受けて、「少子化対策推進関係閣僚会議」を開 催し、今後の少子化対策の推進について「少子化への対応を推進する国民会 議」を設置したところである。 国の経済的支援策として、現在第3子以降に対して3歳未満の子供に月1 万円を支給している。しかし3歳以上の子供は対象外となっている。 東京都は、合計特殊出生率が1996年で1.07と全国平均の1.43を大きく下回 り全国で最下位である。そこで1998年10月より、3歳以上7歳未満の第三子 以降の子供に月1万円を支給する独自な制度を導入した。所得制限は、扶養 家族が妻と子供の場合、個人事業主、サラリーマンなどの区別なく、 2,776,000円となっている。(読売新聞1998年2月8日朝刊)
4−2.職場
1996年度の労働省の調査によると、育児休業制度を導入している事業所は 60.8%と、1993年度の50.8%から10ポイント上昇しており、特に規模が500 人以上の事業所では97.1%の導入という状況である。 この制度を導入している事業所で1995年度の出産者(配偶者が出産した男 性を含む。)の労働者に占める割合は、3.4%(女性3.3%、男性3.4%)であ る。育児休業を取得した者のうち99.2%が女i生で、男性はわずか0.8%である。 男性の育児休暇取得率が少ない理由として、仕事を中断しにくく、職場優 先が当たり前という日本社会の雇用慣行にあると考えられる。育児休業等で 仕事を中断すると、昇進・昇給へ影響すると懸念を抱く者も多数いるのが実わが国の少子化 情である。経営者側への調査結果からも、男性社員の育児休暇取得に対して 違和感を感じる経営者は35.0%と、違和感を感じない経営者31.9%を上回っ ている。さらに、育児休暇取得中の仕事の中断がその後の処理に大きく影響 すると考える経営者が29.3%となっている。 1995年4月より育児休業取得者には、休業前の賃金の25%が雇用保険から 給付され、一定の所得が保障されるようになった。また育児休業期間中の社 会保険料も本人負担分が免除されるようになり、経済的支援は整備されつつ ある。定期昇給については「定期昇給時期に昇給する(32.5%)」「復職後に 昇給する(27.2%)」となっている。 育児休業取得後の職場復帰については、「原則として原職復帰(82.2%)」 「会社の人事管理の都合により決定(13.4%)」「本人の希望を考慮し会社が 決定(3。2%)」となっている。復帰後の勤務時間については、41.2%の企業 が、短時間勤務、所定外労働免除、始業・終業時刻繰上げ・繰下げ等の措置 を講じている。復帰に向けて「休業中の情報提供(80.8%)」「職場復帰のた めの講習(31.5%)」等職業能力の維持、向上のための措置を講じている事 業所もある。 保育施設について見てみると、事業所内保育施設は1997年では全国で 3,861施設で、その88%は民間施設となっている。業種別では、医療(59.6 %)、販売(22。6%)が約8割を占めている。定員20人未満の施設が74.3% で全体の7割と規模は小さい。事業所内の保育施設は、利用金額も比較的安 く、臨時利用も可能のところがあり、全国で約5万8千人の利用者がいると 見込まれている。事業所の中には、このような事業所内保育施設を専門のベ ビーシッター会社に委託したり、保育費用の一部を補助したりしているとこ ろもある。しかしながら、育児支援に係る費用が、法定外福利厚生費全体に 占める割合は0.1%と極めて低いのが実情である。 企業が支払う家族手当のうち配偶者手当を支払っている企業は78%、月額 平均9,300円である。子供の扶養手当を支払っている企業は74%、月額平均3, 700円である。女性の職場進出が増加し、家族形態も多用化している。配偶 一265一
者が専業主婦の雇用者は共働きや単身の雇用者より優遇され、配偶者が働い ている場合にはその年収により配偶者手当の支給を制限する等の問題も生じ ている。妻が働く場合にも、配偶者手当の支給限度を超えないように仕事を 制限している者も多く、これが女性労働力を抑制している原因の一つとなっ ているのではなかろうか。 仕事と育児の両立のためのさらなる支援の充実と育児休業を取得しやすい 職場の体制や雰囲気づくりが課題であろう。 企業のなかには、福利厚生に関する事項を雇用者が一定の持ち点の範囲で 必要に応じて幅広い選択ができるように「選択的福利厚生制度」を導入し始 めているところもある。(株式会社ベネッセコーポレーション)この制度は アメリカでスタートし、医療費、健康診断、個人年金、保育サービス、住宅 等多用なサービス・現金給付が選択肢として盛り込まれているものである。 社員一人一人の新たな需要に対応し、雇用者の家族構成や生活スタイルの多様化 に合わせて公平に各自が選択できる制度で、日本での今後の普及が期待される。
5.諸外国の児童福祉・家族政策
わが国の急速な少子化の進行と一方では高齢者の割合の増加により、人口 構造のバランスが崩れかけており、これまで見てきたように経済、将来の社 会保障などへの影響から家族形態、育児など個人にかかわる問題にまでさま ざまな方面で影響を及ぼさざるをえない。 児童福祉・家族政策について先進諸外国ではどのような取り組みがなされ ているのであろうか。 スウェーデンは現在、合計特殊出生率は1.71である。(平成10年版厚生白 書)女性の社会進出が世界でも最も進んだ国の一つであり、就学前の子供を 持つ女性の労働力率も約8割に達している。男性も女性も最低30日ずつ育児 休業を取得することが義務づけられている。育児休業期間中の所得保障制度 として、医療保険から支給される両親手当があり、8歳未満の子供について、 360日まで従前賃金の80%が支給される。さらに90日まで延長した場合はわが国の少子化 1日につき60クローネ(約800円)が支給される。子供1人当たり年額9,000 クローネ(約120,000円)を基本額とする児童手当(3子目以降は、さらに 多子加算あり)が給付される。16歳以上でも、基礎学校(義務教育)在学中 であれば延長手当が支給され、20歳未満で総合高等学校や大学に在学中であ れば奨学手当てが支給されることになっている。1948年に児童手当制度を導 入後は、税制上の児童扶養控除は廃止された。一般的には、子供が1歳にな るまでは育児休業をとり家庭で親が育て、その後就学まではさまざまな保育 サービスを利用する。 イギリスは現在、合計特殊出生率は1.71である。すべての児童に給付され る児童給付、児童を養育する低所得の勤労家庭に対する追加的な給付で収入 によって給付額が決まる家族所得補助給付(ファミリークレジット)などが ある。税制上の扶養控除は1977年に廃止されている。児童給付は16歳未満 (全日制教育の場合は19歳未満)の児童を扶養する家庭に、第1子で週13.55 ポンド(約2,500円)、第2子以降は週9.00ポンド(約1,600円)支給される。 イギリスでは、単親家庭が増大し、その多くが社会保障給付の受給者となっ ていることが指摘されている。これらの世帯が社会保障給付に過度に依存し ないために、職業訓練や職業紹介の強化を行い、雇用機会を得ることができ るような政策がとられている。就学前の児童の保育は、健康、発達という観 点から見て問題のある児童について公的福祉サービスが利用できる。但し、 共働き家庭の保育は対象外であり、育児休業制度もない。そのため民間サー ビスを自費で利用しているのが現状である。 アメリカは現在、合計特殊出生率は2.96である。児童を福祉する低所得家 庭を対象とした貧困家庭一時扶助制度や、その受給者を対象とした教育・訓 練、保育サービスなどがあるが、いずれも低所得者を対象としており、一般 的な児童手当制度などは実施していない。1993年初めて育児などのための休 業制度を保障する家族医療休暇法が成立した。 これは労働者が新生児や養子の育児、家族の介護、本人の病気を理由に、 1年問で12週問の無給休暇を取得できるように一定規模以上の企業の事業主 一267一
に義務づけたものである。 一般的な保育の形態は、家族や親類による保育や保育サービスを提供する 個人の家庭による保育、保育施設の利用などである。保育サービスについて は、補助額が増額され、また労働者が保育などに必要な額の最高30%まで税 控除を受けられるようになっている。これらの制度は、小学生などの放課後 保育や13歳未満の児童の保育を対象としている。アメリカは国の公的制度が 北欧等に比べ充実してはいないにもかかわらず、合計特殊出生率が高い。そ の背景として、個人や企業など民間の保育がさまざまな形で発達しており、 また女性が出産・子育てにより離職しその後再就職できるような再雇用市場 が発達していることがあげられるだろう。 ドイッでは現在、合計特殊出生率は1.30である。有子家庭と無子家庭との 負担調整を行うために児童手当と児童扶養控除制度があり、選択制をとって いる。児童手当は、所得にかかわらず18歳未満のすべての子供に支払われる。 第1子、第2子が月額220マルク(約17,500円)、第3子が300マルク(約 17,550円)、第4子以降は350マルク(約20,500円)である。両親が別居した り離婚した場合には、子供を扶養している方の親に支払われる。また、育児 のため週19時間未満の就労しかできない親は、子供が2歳になるまで月額最 高600マルク(約35,100円)の育児手当が支払われる。さらに、誕生から3 年間、児童養育期間として保険料を支払わなくても公的年金制度に強制加入 できることになっており、その平均報酬の75%の報酬に相当する保険料を支 払ったものとして評価される。育児休業制度については、就業している親は、 子供が3歳になるまで取得することができる。両親のうち育児休暇を取得す る者は、この間、3回まで交替することが可能である。満3歳に達した児童 はすべて就学までの間、法律上、幼稚園に通園することになっている。
結びにかえて
少子化の現状を概観すると、そこには高度経済成長の波に流された日本を 垣間見ることができる。あらためてさまざまな方面へ多大な影響を及ぼすでわが国の少子化 あろうことがわかる。 少子化問題を考える時に、本来、結婚や出産、育児というものは、良識あ る個人の裁量に委ねられるべきことであろう。しかしながら、結婚はしたい が今の仕事との両立が困難であったり、家事・育児さらには教育費等の負担 を考えると、子供を産み育てることさえも躊躇してしまう社会であるならば、 それらの抱える問題を社会全体で考えていかねばなるまい。 さまざまな障害について雇用環境、家庭、社会を整備し変革をしていく必 要がある。なによりも結婚や育児に夢を持てるような社会が早急に求められ ている。そのためには、仕事・家庭に生きがいを感じることができ、さらに は仕事と家庭を両立できるような新しい社会への実現へ向けて取り組んでい かなくてはならない。現在の状況では、少子化の進行は避けられない。国に よる子育ての社会的支援、保育サービスの充実、教育費負担軽減等、また企 業は仕事と育児が両立できるようにこれまでの雇用慣行を変更し、職場全体 での協力体制が必要である。生活の場では、男性が性別を超えた「ジェンダー フリー」の視点を持ち、家事や育児、介護の共同参画をしていく地道な努力 が必要であろう。家庭や育児の大切さを痛感し、さらにしつけをはじめとす る親としての役割の見直しも不可欠であり、偏差値重視の教育も改めなくて はならない。女性が社会や男性に甘んじるということではなく、女性自らも 新たな意識改革をしなければならないということを意味しているのではなか ろうか。