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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2006年 4月号

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Academic year: 2018

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− 12 − − 13 − は じ め に

 中国の近代史の歴史の授業は、えてして戦争・ 事件等を網羅的に教えて終わる、という単調なも のになりがちである。そのため生徒も流れが把握 しにくく、覚えるのが困難である。しかしこうい う時代を扱う際、その時代を象徴する人物の人生 や履歴を通して授業を行うと、生徒にとってわか りやすく、かつ興味をひく授業になることが多い。 今回は、李鴻章というこの時代を代表する人物を 通して中国の近代史並びに近代化の過程を教える 授業案を提示する。その際、評価の「4つの観点」 を踏まえ、生徒に資料を活用させたり、生徒本人 が歴史上の人物だったらどうするか等考えさせる 点を重視して進めていく。

導    入

【質問1】次に挙げるのは、これから学ぶ「中国 の近代化」において重要な役割を果たした人物の 略歴である。その人物の名前を帝国書院教科書「明 解世界史A 最新版」p.127と130から探して答え なさい。

 1847年 科挙に合格

 1859年〜 曾国藩の幕僚となる。その後独自に淮 軍を率いて太平天国軍と戦う

 1870年〜洋務運動を推進

 1895年  日清戦争の講和の際、清側代表として 渡日し下関条約締結

 何人かの生徒に答えさせる。そしてその李鴻章 が19世紀後半の清(中国)を、軍人として、政治 家として、そして外交官として大きくリードした 人物であること、そして彼を中心にその時代の清

を学習することを説明する。

太平天国の乱と李鴻章

【質問2】太平天国の乱を鎮圧した時、もしあな たが李鴻章だったらどのようなことを感じるか、 教科書p.126〜127を参考にして空欄に記入しなさ い。

 何人かに質問したあと、太平天国の乱について 復習する。そして、清の正規軍である八旗や緑営 が太平天国軍に無力であり、義勇兵である曾国藩 の湘軍や李鴻章の淮軍などの郷勇の強さが確認で きる。そして、外国人が指揮した常勝軍が乱の鎮 圧に多大な功績があったのを目にし、清の軍制改 革の実施やヨーロッパの(軍事)技術を導入する ことで清の近代化を図る必要性を痛感したのでは ないか、と説明する。

洋務運動と李鴻章

【質問3】下に挙げる事項は、洋務運動で李鴻章 が行ったことです。この表から、彼がどんな分野 に力を注いで近代化をめざしたか答えなさい。  江南製造総局(鉄砲・汽船の製造)を設立  外国語学校学生30人を米国に派遣

 上海に輸船招商局(汽船運送所)を設立  開平炭鉱を開設

 海軍・造船を学ぶため学生30人を英・仏に派遣  上海機器織布局(綿布工場)を設立

 天津電報局を開設  中興炭鉱会社を設立  承徳銅鉱山を開設

 天津水師学堂(海軍学校)設立  天津鉄道会社を開設

世界史 A 授業研究

李鴻章を通して学ぶ中国近代史・近代化の授業案

(2)

− 12 − − 13 −  天津造幣局を開設

 北洋海軍を編制  華盛紡織工場を設立  軍事関係を中心にい ろいろな答えが出てく るが、洋務運動は「西 洋の軍事技術などを導 入して富国強兵をはか ろ う と し た 近 代 化 運 動」で「『中体西用』の 精神に基づいて、政治

改革をさけ、西洋近代技術の表面的な模倣に終始 した」(山川出版社 世界史用語集より)という 説明だけでは、後世への影響を考えるとその一面 しかとらえていないということが生徒にも理解さ れるであろう。

 たしかに、ヨ ーロッパ式の兵 器や艦船を製造 し、洋式の軍隊 を編成したのは 事実である。し かし、①軍事関 連企業が発達し、 民間資本を利用 し た 経 営 方 式 (=官督商弁)で、

近代化の基盤と なる運輸・通信

の設置、鉱業の開発、製鉄等の民間企業活動が開 始されたことの意義は大きい。また、②洋務運動 では綿糸・綿布業にも力を入れたことも大切であ る。様々な国内の批判や企業の私物化はあったに せよ、平和的な民需産業であり、その後の輸出品 に占める割合はしだいに大きくなった。そして教 科書p.131の「世界史のなかの日本」にも記され ているように、日本の産業革命の初期の象徴とも いえる生糸・綿糸・綿布ともアジア域内交易圏に おいて棲み分けが可能になるほどにその後成長し た点は見過ごしすることはできない。さらに、③

多くの留学生を欧米列強に派遣したことは、あま り授業では扱わないことであるが、洋務運動がそ の後の中国の近代化に果たした役割として注目す べき点である。

 上記のことを示す例として以下の資料を生徒に 読ませる。

【資料】1890年、駐香港鈴木領事は、日本商人が 香港において清商に敗北を喫していることを述べ、 さらに清商が日本の商人を飛び越えて日本の製造 業者と直結して買いつけを行い、日本商人より安 価に購入している。もし現状を放置したならば、 商圏のみならず通商の利益を獲得できない。そし て国益の大部分を清商に摂取される。

(浜下武志『近代中国の国際的契機』より一部改)

 世界史的視点で見ると、オスマン帝国のタンジ マート、清の洋務運動、そして日本の明治維新か ら殖産興業は、19世紀から強くなった「西洋の衝 撃(=ウエスタン・インパクト)」を受けてのア ジア側の改革の動きと位置づけられる。そして前 二者はその失敗例で、日本がその成功例と教える ことも多い。しかしオスマン帝国の「改革」同様、 清の洋務運動も確かに挫折はしたが、後世への影 響を考えると、再検討並び再評価に値する「アジ アの改革」運動であったと認識すべきである。

外交官としての李鴻章

【作業】李鴻章がかかわったおもな外交事項   台湾出兵(台湾事件)

  琉球問題(琉球処分)   イリ紛争

  清仏戦争   日清戦争   義和団事件

 上記のように、李鴻章は19世紀後半の清の外交 の大半を担当しリードしました。このうち、清仏 戦争と日清戦争の背景・経過・結果について、教 科書・資料集・インターネット等を用い調べてま とめなさい。

 このような作業を図書館やコンピュータ室でや タペストリー*p.210 1

教科書p.130② 清朝官僚と近代兵器

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− 14 − − 15 − らせると、生徒は楽しんで取り組む。世界史の授

業でも、生徒が卒業後必要とされる情報収集能力 や情報処理能力を高める指導が必要であると考え る。そしてそのレポートを回収したのち教室で講 義式の授業を展開する。

 まず清仏戦争について。ナポレオン3世後のフ ランスはヴェトナムの植民地化を進め、サイゴン 条約でコーチシナ東部三省を獲得する。それに対 し李鴻章は、フランス公使と交渉して清とフラン スでヴェトナムを二分する覚書を交わした。しか しフランスの政変でそれがほごにされ、フランス はユエ条約によりヴェトナムを保護国とした。宮 廷内で主戦論が沸騰した清はフランスと開戦する も、圧倒的な軍事力の前に破れた。その講和条約 の天津条約により、清はヴェトナムの宗主権を喪 失した。

 次に日清戦争について。1894年に朝鮮で甲午農 民戦争が勃発すると、朝鮮政府は清に出兵を要請。 清が天津条約(1885年)に基づいて日本に派兵通 告を行うと、日本も兵を朝鮮に派遣した。対日主 戦派が多いなか、李鴻章はロシアなどの仲介によ って日本との戦いを回避しようとした。しかし日 本が1894年7月25日に豊島沖で清国艦隊を攻撃し、 日清戦争の戦端が開かれた。清は内部の派閥争い で南洋海軍が出撃せず、李鴻章の虎の子の北洋海 軍も防衛作戦に徹していたためその多くは日本軍 の水雷艇等により撃沈された。清は敗戦の色が濃 くなったため、主戦派の光緒帝も日本が講和の相 手として要求していた

李鴻章に和議収拾を委 ねた。その結果、1895 年3月20日から下関の 春帆楼で休戦交渉が始 まった。中国側の代表 は李鴻章、日本側の代 表が伊藤博文であった。 李鴻章狙撃事件をへて、 30日にまず休戦が、4 月17日に講和条約(下 関条約)の調印にいた

った。この第一条で清は、朝鮮が「完全無欠ナル 独立自主ノ国」であることを認め、朝鮮に対する 宗主権を失った。

 この2つの戦争により、東アジアにおける中国 を中心とした前近現代の国際秩序である冊封体制 (教科書p.17参照)が崩壊した。

 これによって清は西欧の国際秩序に組み込まれ る(=近代世界システムに「周辺」として組み込 まれる)こととなり、以後列強の帝国主義的侵略 および資本投下の地となって半植民地化が決定的 なものとなる。

 このような事態を招いた李鴻章の外交は軟弱外 交とか弱腰外交と呼ばれることが多い。しかし彼 以外、王朝の弱体化、弱肉強食の帝国主義という この時期の清の外交を担える人物はいなかった。 彼は下関条約調印後に失脚したが、義和団事件を 契機に再登用され直隷総督に復活し、講和を担当 したのち生涯を閉じる。冊封体制が崩壊し、西欧 の国際秩序に対峙するようになった結果、変法運 動が起こり、そして孫文を中心とする革命運動が 生まれてきたともいえるのではないだろうか。

終 わ り に

 「はじめに」にも書いたように、世界史の授業 は事項の羅列で興味が沸かないという生徒が多い。 しかし、そんな生徒たちも(歴史的)人物には関 心を持っていることがある。そこで、時代を代表 するような人物の人生をおいつつ、その時代の歴 史事項を絡ませて教えれば、生徒が「無味乾燥」 と考えている歴史に興味を持ってくれるのではな いだろうか。この小論はそのための試案である。

【おもな参考文献】

中島嶺雄編『中国現代史』(有斐閣選書) 『図説 中国近現代史』(法律文化社) 浜下武志『 近代中国の国際的契機〜朝貢貿易システ

ムと近代アジア』(東京大学出版会) 『アジアから考える[2] 地域システム』

(東京大学出版会)

参照

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