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資料8 道垣内委員のご意見

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2017210

早 稲 田 大 学 法 科 大 学 院 教 授・ 道

垣 内

正 人

原 子 炉 メ ーカー等 の 原 子 力 責 任 の あり 方 に 関 する メモ 1. 現 在

原 子 力 損 害 賠 償 制 度 に おいては、原 子 力 の 民 生 利 用 が 始 まった当 初(1950年 代)から、原 子 炉 メー カー等(総 合 重 電 機 メーカーに 限ら ず、部 品 製 造 者 、土 木 工 事 施 工 者 を含 む。)の 製 造 物 責 任 は否 定さ れてき た。

原 子 力 事 故 に よる 損 害の 賠 償 法 制 に おいては、各 国 とも 、原 子 力 事 業 者 だ けが 責 任 を負 うこ ととし (責 任 集 中 制 度)、原 子 炉 メーカー等 の 製 造 物 責 任 を否 定 する 制 度 となっている1。原 子 力 損 害 に つ いての 製 造 物 責 任 の 否 定 は 、いわゆる パリ 条 約 、ウィーン 条 約 、CSC(原 子 力 損 害 の 補 完 的 な補 償 に 関 する 条 約)等 に おいても同 じであり、原 子 力 損 害 賠 償 に 関 する 一 般 的 ・ 普 遍 的 原 則 となっている 。

この 製 造 物 責 任 の 否 定 は、原 子 力 の 民 生 利 用 を促 進 し ようとする 政 策 を推し 進 める 上 で、民 間 企 業 による 研 究 開 発 を促 すに は必 要 なこ ととさ れ 、また、原 子 力 事 業 者 だ け 賠 償 措 置 をとる(法 律 上 の 義 務 とし て 責 任 保 険 等 でリ スク・ヘッジする)こ とに より、保 険 の 重 複 を避け る というメリ ットもある と説 明 され てき た。そし て、多 くの 国 では、原 子 力 事 業 者 の 責 任 は 有 限 責 任 とされ 、そ の 責 任 限 度 額 までのリ スク を様 々な方 法 でヘッジするこ とにより事 業 運 営 上 の 予 測 可 能 性 は確 保 さ れる とさ れてきた。

日 本 の 原 子 力 損 害 賠 償 法 に おいても、製 造 物 責 任 を否 定 する 点(41項・3)では国 際 標 準 に 合 致し ている が(アメリ カから 日 本 への 原 子 力 技 術 等 の 移 転 のための 要 件 の 一 つが 製 造 物 責 任 の 否 定 であったとされ ている 。)、原 子 力 事 業 者 の 責 任 に 上 限 を設 ける 有 限 責 任 制 度 は採 用 されず、無 限 責 任 を 負 うし く み と な っ て いる 点 に お いて 、ド イ ツ 等 と と も に 例 外 的 な 法 制 と な っ て い る 。 な お 、 日 本 で は 、 原 子 力 事 業 者 の 賠 償 責 任 額 がその 賠 償 措 置 額 を超 え ,かつ,原 賠 法 の 目 的(被 害 者 保 護 及 び原 子 力 事 業 の 健 全 な発 達)を達 成 する ため必 要 が ある と認 めるとき は,政 府 が 必 要 な援 助 をする というバッ クアップの 制 度が ある(原 子 力 損 害 賠 償 法161項 。ただ し、これ は国 の 義 務 ではない。)

現 に、福 島 第1原 発 事 故 の 被 害 者 のGE、東 芝 及 び日 立 製 作 所 に 対 する 損 害 賠 償 等 の 請 求 は棄 却 されている(東 京 地 裁 平 成28713日 判 決 。控 訴さ れている 。)

2. 問 題 点

製 造 物 責 任 制 度 は、直 接 的 に は、弱 小 で賠 償 金 支 払 い 能 力 に 欠 け る おそれ が ある 小 売 業 者 とともに 、 メーカー等 に 責 任 を負 わせるこ とに より被 害 者 保 護 を図 るこ とに 目 的 が ある ところ 、原 子 力 の 分 野 では 賠 償 措 置 が 義 務 づけられ ている 原 子 力 事 業 者 が 責 任 を 負 い、国の バックアップ制 度 もあるこ とから、 その 面 では特 に 問 題 はない。

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アメリカでは、製 造 物 責 任 に 関する 不 法 行 為 法 は州 法 であって、連 邦 法 ではその 内 容 を左 右 するこ とは でき ないため、州 法 上 製 造 物 責 任 が 発 生 するこ とはそ の ままとし 、連 邦 法 上 、事 後 に 原 子 力 事 業 者(発 電 の 場 合に は電 気 事 業 者)が 原 子 炉 メーカー等 の 賠 償 金 支 払 額 を補 填 する 仕 組 みが 構 築 され ている 。

資料8

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しかし、製 造 物 責 任 制 度 に は、間 接 的 に は、欠 陥 ある 製 品 を製 造 等 するこ とを抑 制 し 、事 故 の 発 生 頻 度 を低 減さ せる という効 果 もあり、この 点 に おいて原 子 炉 メーカー等 の 製 造 物 責 任 の 否 定 は問 題 が あ り得る 。すなわち、大き な事 故 を惹 起 する おそ れが ある 航 空 機 製 造 業 、製 薬 業 等 の 他 のビ ジネ スと比 較し て、原 子 力 の 民 生 利 用 が 始 まっ て約60年を経 た今 日 なおその ような特 別の 扱 いをするこ とが、合 理 的 か否 かが 問 題 となる 。

上 記 の 製 造 物 責 任 を追 及 する 訴 訟 はこ の 合 理 性 に 疑 問 がある との 考えが 国 民 の 中 にあるこ との 表れ であり、今 後 ともこ の ような特 別 の 扱 いを維 持 すべき か否 かは再 検 討 の 余 地 が ある。もっとも、原 子 力 事 故 に 関 する 製 造 物 責 任 の 否 定 は、こ れ まで長 く国 際 的 に 是 認され てき た制 度 であり、その 再 検 討 は慎 重 に 行 われ る べき である。

法 的 安 定 性 の 観 点 から は、既 に 製 造さ れ た原 子 炉 等 に ついて遡 及 的 に 原 子 炉 メーカー等 に 製 造 物 責 任 を負 わせるこ とはでき ないの は当 然 であり、また、事 故 を起こし た福 島 第1原 発 の 廃 炉 作 業 を含 め、他の 原 発 の 廃 炉 等 が 今 後 行 われ、それ に 伴 う事 故も原 子 力 損 害 賠 償 法 上 の 原 子 力 事 故 である 以 上 、既 存 の 原 発 等 に ついての 今 後 の 改 修 、廃 炉 等 に 伴 う原 子 力 事 故 に ついて製 造 物 責 任 を負 わ せる とすれ ば、原 子 炉 メーカー等 は手 を引 いてし まうおそ れが あり、それ はかえって事 故 のリ スクを高 める 結 果 となるこ とが 容 易 に 予 想 される 。

3. あり方 に 関 する 私 見

a. 新 規 に 建 設さ れる 原 発 に ついても 原 子 炉 メーカー等 に ついての 製 造 物 責 任 の 否 定 は今 後 も維 持 す べき である。

確 かに 、原 子 炉 メーカー等 に 対する 特 別 な扱 いはかつてほど必 要 でないとはいえ 、福 島 第1原 発 事 故 に よる 損 害 賠 償 額(201612月の 推 計 で79000億 円)に 鑑 みる と、保 険 業 界 の 引き 受 け 能 力 を上 回る ものであり、原 子 炉 メーカー等 が 自 己 負 担 でき る 金 額を 通 常 は超 え るもの である 。そ して、そ のこ とは新 規 の 原 発 のための 研 究 開 発 を断 念さ せるこ とに 繋が り、今 後 数 十 年 に 分 かって必 要 とされ る 廃 炉の 安 全 な実 施 に 支 障 が 生じる 虞 が ある 。

また、製 造 物 責 任 の 肯 定 は、少 なくとも2015年に 日 本 が 締 結し 、発 効し たCSCが 前 提 とし ている 制 度 から の 逸 脱 を意 味し 、日 本 はCSCから 離 脱 するこ とに なる(CSC21項・22)。そ の 結 果 、原 子 力 損 害 賠 償 に ついて唯 一 アメリ カを含 む条 約 であるCSCは発 効 要 件 を欠 くこ とに なり、国 際 的 に 重 要 な条 約 枠 組 みのひとつが 消 滅 するこ とに なってし まう。

以 上 のこ とから 、現 在 でもなお他の 産 業 とは異 なる 扱 いをするこ との 合 理 性 は失 われ ていないと考え られる 。

b. 原 子 炉 メーカー等 に は、原 子 炉 の 建 設 終 了 後 も、安 全 性 の 向 上 等 の ために とる べき 技 術 情 報 を原 子 力 事 業 者 及 び規 制 当 局 に 提 供 する 義 務 を課すべき である 。

原 子 炉 メーカー等 は、一 つの 原 発の 建 設 が 終 了 し た後 も 次の ビジネ スの ために 新 たな原 発の ための 研 究 開 発 を継 続 しており、そ の 過 程 で原 子 力 事 業 者 が 得 るこ との できない知 見 を獲 得 している はず である 。現 に、航 空 機 メーカー等 は、自 社 の 航 空 機 を運 用し ている 航 空 会 社 等 に 対 しては継 続 的 に 技 術 情 報(technical service bulletin)を提 供し ており、そ れ に 基づく改 善 措 置 が 事 故 を 防 止 する 上 で 効 果 を発 揮し ている と考 えら れる 。

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なお、こ の 技 術 情 報 の 提 供 は、航 空 機 事 故 発 生 時 に は 責 任 を負 わさ れる 可 能 性 が ある 航 空 機 メーカ ー等の 自 己 防 衛 策 でもある とこ ろ、事 故 発 生 時 に 製 造 物 責 任 を負 わなくてよい原 子 炉 メーカー等 に と っては自 己 防 衛 策 とは 言 え ないこ とから 、そ の 義 務 内 容 をし かるべく明 確 化 し 、そ の 違 反 に 対し て罰 則 を科 す必 要 が ある と考え ら れる 。

また、航 空 機 の 場 合 と同じ く 、原 子 炉 メーカー等 から 発 せられ た技 術 情 報 は同 時 に 規 制 当 局 に も通 報さ れる 仕 組 みとし、新 規 規 制 の 採 用に 役 立 てる ように すべき である。

c. 原 子 力 事 故 発 生 時 に は、法 律 上 の 義 務 とし て、最 新の 知 見 に 基 づく最 善 の 事 故 対 応 をする 義 務 を 課 すべき である 。

福 島 第1原 発 事 故 後 の 東 京 電 力 の 対 応 は、事 故 調 査 の 報 告 書 等 から 判 断 する 限 り、危 機 時 の 原 子 炉 の 制 御に ついて十 分 な知 見 が あったとは言 えないように 思 われる 。bで述 べたように、原 子 炉 メーカ ー等の 有 する 最 新 の 知 見に 基 づいて事 故 対 応 をするこ とが 被 害の 最 小 化 に 役 立 つと考え られ るこ と から 、こ れ を義 務 づけ るべき である 。

また、bと同じ 理 由 に より、こ の 違 反に 対 しては行 政 罰 を 科 す必 要 が ある と考 えられ る 。

なお、こ の 事 故 対 応 は無 償 で行 われ る 必 要 はなく、現 在 と同じ く、原 子 力 事 業 者 から 報 酬 を得 るこ と は差し 支 え ない。むしろ 、そ うするこ とが 、現 在 の 責 任 集 中 制 度 と整 合 的 であり、かつ、積 極 的 な事 故 対 応 を促 すこ とになる と考え られる 。

d. 日 本 とし ては、上 記のb及 びcの 法 的 措 置 を国 内 法 と して講じ つつ、IAEAその 他 の 適 切な場 に おい て、同 様 の 義 務 を世 界 各 国 の 原 子 炉 メーカー等 に も負 わせるこ とに より、原 子 力 事 故 の 発 生 を防 止 し 、 また、原 子 力 事 故 発 生 時 の 損 害 を最 小 化 するこ とを主 張 し 、そ の 実 現 に 努 める べき である 。

福 島 第1原 発 事 故 を経 験 し た日 本 は、そ の 経 験 を生 かして様 々に 情 報 発 信 をし、国 際 社 会 に 貢 献 す べき である ところ 、法 律 分 野 における 貢 献 の 一 つをし て、原 子 炉 メーカー等 に 一 定 の 義 務 を課 す制 度 を世 界 的 に 広 めていくべき である 。

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