論理学
鈴木陽
2012 年 4 月 13 日
目次
1 総合的方法 1
2 推論について 2
3 命題、言語 3
4 真理表 4
5 推論の妥当性と反例 6
6 前提命題の空間と矛盾 6
7 二重ターンスタイル 7
8 ならばについて 8
1 総合的方法
デカルトは「我思う故に我あり」といった。この推論は以下のようになる。
前提1-1:疑い得るものは存在しない。(疑い得ないものは、端的に存在する) 前提1-2:私が疑っているということを私が疑うことはできない。
結論1:「私が疑う」ことを可能にするもの→私の精神は存在する。
独我論と呼ばれるものである。
しかし先ほどの議論は危ういものを含んでいる。以下の部分である。1の問題点:存在とは何か?疑うこと と存在はどう関係しているのか?デカルトにおいては、この問題点は本質的なものではない。なぜならこの批 判は懐疑論者に対して行われたものであるからだ。懐疑論者は前提1-1を自明のものとして取り扱っている。 だからこそ、それに対する批判を行うデカルトも、前提1-1を自明として良い。それ以外の哲学者と話さない から、前提1-1に対する批判は生じない。
るのだから、前提に対する懐疑は生じ得ない。このことをもちいて、推論を相手に認めさせる方法を、総合的 方法と呼ぶ。
2 推論について
推論とは何か。例を出して考える。命題を与えよう。 前提2-1「雨が降っている」
前提2-2「雨が降っていれば地面が濡れている」 結論2「地面は濡れている」
もしも前提の命題「雨が降っていて」「雨が降れば地面が濡れる」が真であれば結論の命題「地面は濡れて いる」も真であると言える。これが推論として主張されることだ。推論は前提が真であるかどうかを主張しな い。前提が真であるかどうかは、例えば総合的方法などによって確認されるべきであって、推論のすることで はない。
前提3-1「地面が濡れている」
前提3-2「雨が降っていれば地面が濡れている」 結論3「雨が降っている」
この推論は妥当ではない。なぜなら、地面が濡れるのは雨が降るせいだけではない。例えばバケツで水をまい ても地面は濡れる。バケツで水をまいたという可能性を排除しきれないので、結論は妥当性がない。仮に前提 が真であっても、推論が誤っていれば結論の確かさは保証されない。
上の例のように、結論が真であるとみなされるためには二つの要件が必要であると言える。
1:前提が真である 2:推論が妥当である
この2つが満たされていることをさして、ここでは「正当性がある」と表現しようと思う。それぞれの条件は 別個に判断される。1の条件は、そもそも推論の問題ではない。2の条件は、1の条件に依存しない。ただ要 素のつながりによって判断される。
前提4-1「カニは脊椎動物である」
前提4-2「脊椎動物であるなら背骨がある」 結論4「カニには背骨がある」
これは推論的には妥当である。前提は真であるかどうか怪しい(4-1は実際には誤っている)。しかし仮に前提 が真であるとした場合は、結論は真であるといってよい。しかし、前提は疑わしいので、正当性があるかどう かは疑問である。カニには背骨はない。
3 命題、言語
さて推論に用いられる命題はどのように構成されるべきか。まず推論は前提がどんなものでも構わないの で、命題を指してAとかBとかにしても良いだろう。また命題の連関も限られている。「でない」「かつ」「ま たは」「ならば」ぐらいのものだ。これも記号化して良い。それぞれ¬、∧、∨、⇒と書けばよろしい。試し に推論2,3をそれぞれ記号化してみる。
まず命題を記号化する。
A:「雨が降っている」 B:「地面が濡れている」
推論2は
前提2-1:A 前提2-2:A⇒B 結論2:B
推論3は
前提3-1:B 前提3-2:A⇒B 結論3:A
推論2は、前提2-1、2-2が真であるならば結論2は真ということだから、これも命題として書ける。つまり
推論2:(A∧(A⇒B))⇒B
同様に推論3も命題にできて
推論3:(B∧(A⇒B))⇒A
となる。
ここまでで前提や結論、推論を命題として書けそうだという見通しが得られる。命題とは何だろうか。 命題とは数学的に言えば「真偽の判断の対象になるような文」である。つまり真か偽か判断できる。また判断 の後に真か偽か決定できない文も存在する。しかし、真か偽かを判断できない文は命題とは言えない。 推論2,3に出てきたA,B,(A⇒B)、さらに推論自体を示す(A∧(A⇒B))⇒Bも命題と言える。それらは 真偽の判断の対象になりうるし、またそう扱う。命題の値も、真の場合T、偽の場合Fという風に記号化しよ う。命題の値は真理値と呼ばれる。
推論によってこのような命題は爆発的に増大するが、そこから真偽の判断の対象にできない文が出てくると困 る。これは結合規則の問題がわかりやすい。例えば、
命題5:¬A∨B
は非常に困る。なぜなら
命題5-1:¬(A∨B) 命題5-2:(¬A)∨B
では命題の意味が変わるからだ。もっと複雑な推論、どれが前提なのか判断できない推論などで真偽を決定で きないことはままありうるが、このように単純な命題で真偽が判断できないのは困る。そのためどのような表 現が命題であるかを決めておく。
命題規則6
6-0:命題は()で囲む。
6-1:(A),(B),(C)など大文字のアルファベット一文字の記号を命題とする。このような命題を原子命題と呼ぶ。 6-2:演算子を定義する。
6-21:¬は一項演算子とし、(A)が命題であるならば(¬(A))も命題とする。
6-22:∧,∨,⇒を二項演算子※ とし、(A),(B)が命題であるならば((A)※ (B))も命題とする。 6-3:()は命題の真偽が一意であるかぎりには省いても良い。
このように定義された命題と命題の集合は、帰納的に「真理値の判定できる」全ての命題を記述していると考 えられる。このように決められた命題の語彙や文法をさして、言語Lと呼ぶ。
4 真理表
命題が真であるとはどういうことか?
命題には、前提となる命題、結論となる命題、前提でも結論でもない命題などがあるから、それぞれを判断し ていく必要がある。論理学においては「前提となる命題」についての真偽の判断は、とりあえず中止される。 命題には真と偽の二つの値があるとして、考えていく。
推論2を考えよう。
A:「雨が降っている」 B:「地面が濡れている」
として
前提2-1:A 前提2-2:A⇒B 結論2:B
推論2:(A∧(A⇒B))⇒B
ここに4つの命題がある。特に二つの原子命題A,Bがそれぞれ真か偽のどちらかであるからこれを場合分け して
(A,B)=(T,T),(T,F),(F,T),(F,F)
のそれぞれの場合を考えれば良い。
A B T T T F F T F F
などと書けばすべての場合を考えることができるだろう。このような表記を真理表と呼ぶ。¬A、A⇒B、 A∧B、A∨Bの真理値を以下のように定める。
A B ¬A A∧B A∨B A⇒B
T T F T T T
T F F F T F
F T T F T T
F F T F F T
A=Fの場合の⇒の怪しさについては以降で書くがそういうものとして思ってて欲しい。
推論2(A∧(A⇒B))⇒Bの命題は、いくつかの命題へ分解できる。B,(A∧(A⇒B)),A,(A⇒B)。これを 全部真理表に書いてしまう。
A B A⇒B A∧(A⇒B) (A∧(A⇒B))⇒B
T T T T T
T F F F T
F T T F T
F F T F T
すると、推論2はA,Bの真理値に関係せず、常に真である事がわかった。常に真であるような命題をトー トロジーと呼ぶ。また常に偽であるような命題を矛盾式と呼ぶ。
あとで使うので推論3の真理表も書いておく。
A B A⇒B B∧(A⇒B) (B∧(A⇒B))⇒A
T T T T T
T F F F T
F T T T F
F F T F T
先ほどとは異なり、推論3(B∧(A⇒B))⇒Aの真理値は(A,B)=(F,T)の場合にFになる。
5 推論の妥当性と反例
推論2は妥当な推論と考えられるのでその妥当さを確認したい。また推論3は妥当でない推論と考えられる ため、どうして妥当でないかを確認したい。
推論が妥当かどうかを判定するためには反例があるかどうかを考えれば良い。もし反例があるならば推論は 誤っていると言える。言い換えると「ある前提が真であるとき、結論が偽である場合がある」とき、推論は妥 当ではない。
推論2の真理表を見ると、A,A⇒Bが共に真である行は1行目のみであり、このときBは真である。また推 論3の真理表では、B,A⇒Bが共に真である行は1行目と3行目である。1行目はAも真であるが、3行目 はAは偽である。つまり、推論2では反例は存在しないが、推論3は反例が存在する。よって推論3は妥当 な推論でない。
推論を示す命題はすべての前提命題を∧で結んだ命題と結論の命題を⇒で繋げた式になる。推論を示す命題の 真理値を最終的に決定するのは⇒の要素である。
推論を示す命題がトートロジーであることと推論が妥当であるということは等価である。 推論が妥当であるなら、反例は存在しない。
前提命題が全て真の場合は結論命題は真になる。前提命題が全て真なら、全ての前提命題を∧で結んだ命題は 真であり、かつ、結論を示す命題が真であるから、推論を示す命題は真になる。
前提命題が全て真でない場合、全ての前提命題を∧で結んだ命題は偽となる。⇒の前件命題が偽であるなら⇒ の真理値は真になるので、推論命題は真となる。
以上二つの場合分けによって、ありうる前提命題への真理値の割り当てがすべて記述された。推論が妥当であ るなら、すべての場合で推論命題が真であることが確認された。推論が妥当であるなら、推論命題はトートロ ジーである。
6 前提命題の空間と矛盾
では推論命題がトートロジーならば推論は妥当だろうか?ここで前提命題の要件について考える。
推論7
前提7-1「雨が降っている」 前提7-2「雨が降っていない」 結論7「地面が濡れている」
このような推論は妥当だろうか。
A:「雨が降っている」 B:「地面が濡れている」
として真理表を書く。
前提7-1:A 前提7-2:¬A 結論7:B
推論7:(A∧¬A)⇒B
A ¬A B (A∧¬A)⇒B
T F T T
T F F T
F T T T
F T F T
これを見ると、A,Bがいかなる場合でも推論命題の真理値は真であり、トートロジーになる。Aと¬Aが 共に真である場合は存在せず、したがって推論命題の⇒の前件は必ず偽になっていることによる。前提が矛盾 している。
ではこの推論は妥当だろうか?結論から言えば妥当である。
なぜなら、「前提がすべて真である場合、結論はすべて真である」ということのみをもって妥当性を定義した からだ。この定義は、前提が全て真になりえない場合を含まないので、真となる。推論は妥当である。 ただし、前提がそもそも全て真にならない場合は、議論は正当ではない。正当性から言えば、誤っている。
7 二重ターンスタイル
推論1:(A1∧A2∧…)⇒C
このときA1,A2,… が全て真であり、Cが偽の場合、推論は妥当ではないと言える。CはA1,A2,… の命題の関 連によって決定されるのだから、A1,A2,… が決められた時結論として導出されるCのパターンも決まってい るはずである。例えば推論1が妥当である場合には、¬Cは前提から導出することはできないはずだ。
新しく記号を設ける。
A1,A2,…|= C
|=の記号を二重ターンスタイルと呼ぶ。この記号は「前件の集合に含まれている全ての命題を真にでき、その 場合に後件が偽にならない」ということを意味する。
A1,A2,… を集合として書くことにすると、簡潔に書ける。
Γ =( A1,A2,…) Γ |= C
またこのΓは空集合でも良い。
|= C
これが指し示すのは、前件が何もなく(この場合も「前件は全て真にできている」とする)、後件が偽になら ない状況である。つまり後件は前件が存在せずとも常に真になっている。Cはトートロジーである。
|=の後件が空集合でも良い。
Γ |=
このとき、Γに含まれる全ての命題を同時に真にできない。よってこのΓは矛盾している命題を含む。
8 ならばについて
⇒は前件命題が偽の場合真理値として真を返す。がこれは日常的な「ならば」の意味合いから言えばズレて いると感じられる。この疑問に応える。
疑問としては例えば、例えば前件命題が偽の場合は真理値として偽を返すべきではないだろうか。そのように A⇒Bの真理値を書いてみると以下のようになる。
A B A⇒B
T T T
T F F
F T F
F F F
これは∧と何の違いもない。⇒が∧とは異なるというのは、「ならば」が次の性質をもつべきだと言えるから だ。それは∧とは異なるべきである。
1:「逆は真ではない。A⇒BとB⇒Aは異なる真理値を持たねばならない」
2:「推移律が成り立つ。A⇒BかつB⇒Cなら、A⇒Cが成り立たねばならない」
まず1のことから考える。 A B A⇒B B⇒A
T T T T
T F F a
F T a F
F F b b
もしもa=Fならば全てA⇒BとB⇒Aは同じ真理値を返すことになる。よってa=Tとならなければな らない。
次に2のことを考える。
A B C A⇒B B⇒C A⇒C (A⇒B)∧(B⇒C) ((A⇒B)∧(B⇒C))⇒(A⇒C)
T T T T T T T T
T T F T F F F b
推移律を満たすためには((A⇒B)∧(B⇒C))⇒(A⇒C)がトートロジーでなければならないので、b=T となる。