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科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点

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Academic year: 2021

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(1)Title. 科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点. Author(s). 和田, 一郎. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第43号: 61-68. Issue Date. 2011-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2874. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第43号(平成23年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.43(2011):61-68. 科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点 和 田 一 郎 北海道教育大学釧路校理科教育学研究室. Viewpoints on Developing Science Teaching to Foster Scientific Literacy Ichiro WADA Department of Science Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要 旨 本研究では、小学校において平成23年度より本格実施されている新しい学習指導要領(理科編)の内容に関して、経済 協力開発機構(OECD)が措定するキー・コンピテンシーの枠組みとの関連性について精査した。これによって、今後の 日本の理科教育において育成を目指す学力の内実を、国際標準の学力としてのキー・コンピテンシーの観点から整理した。 同時に、こうした分析を通じて、キー・コンピテンシーを文脈的背景として措定される科学的リテラシーに関して、その 形成を志向する理科授業の開発の視点について検討した。 結果として、新しい小学校学習指導要領(理科編)において育成を志向する学力は、キー・コンピテンシーの各要素(自 律的に活動する、道具を相互作用的に用いる、異質な集団との交流)が関連付けられた複合的な要素として対応付けるこ とが可能であった。すなわち、科学的リテラシー形成の観点からの理科授業の開発では、科学的リテラシーの諸要素を独 立に強化するのではなく、キー・コンピテンシーの一要素として相互に関連付けることを志向した教授ストラテジーの開 発が不可欠であることが明らかとなった。 した上で、PISA(Programme for International Student. 1.緒言. Assessment)調査を実施してきた。最新のPISA2009調査 周知のとおり、近年の初等中等教育では、新しい学. においても、日本の子どもは科学的リテラシーの分野にお. 力に関する様々な概念が提案され、教育政策や実践に. いて、これまで繰り返し指摘されてきたように、成績上位. 多大な影響を与えている。例えば、我が国において影. 国の中では、科学的な思考力・判断力・表現力等を問う記. 響を与えている学力観の一つとして、経済協力開発機構. 述式の問題で白紙回答率が高く、知識・技能を活用する問. (OECD:Organization for Economic Co-operation and. 題などに一定の課題を有することが明らかとなっている。. Development)が措定するキー・コンピテンシーが挙げ. 一方、こうした国際的な調査等の動向を受け、日本にお. られる。OECDでは、複雑化する社会構造の中で、これま. いても平成19年6月に公布された学校教育法の一部改正に. での知識・技能に加え、学習への意欲から行動に至るまで. ともない、次に示すような新しい学力に関する規定がなさ. の幅広い学力観、すなわち「コンピテンシー(人の根源. れた。すなわち、 「基礎的な知識及び技能を習得させると. 的な特性)」の重要性を指摘する。特に、以下の3つにカ. ともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思. テゴリー化された学力観を「キー・コンピテンシー(key. 考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に. competencies)」として定義し、社会と個人との相互作用. 学習に取り組む態度を養う」というものである。この規定. を通じて、個人の自律的な学習活動の確立を達成するため. によって、日本における学力要素は以下の3点に集約でき. に不可欠な学力観を提起した(ドミニク・S,2007:105-. ることになる。 ア)基礎的・基本的な知識及び技能の習得. 121) 。. イ)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な. 1)自律的に活動する力. 思考力・判断力・表現力等. 2)道具を相互作用的に用いる力. ウ)学習意欲. 3)異質な集団で交流する力 OECDは、こうした学力の評価を志向し、キー・コンピ. このように、 「知識基盤社会」の時代と言われる社会構. テンシーの一部分に関して具体的な評価の枠組みを作成. 造下において、日本では国際的な学力観を踏まえ、我が国. - 61 -.

(3) 和 田 一 郎 における新たな学力観に依拠した教育施策の構想や教育実. ・疑問を認識し、新しい知識を獲得し、科学的な事象を説. 践が展開されていくことになる。具体的には、平成23年度. 明し、科学が関連する諸問題について証拠に基づいた結. より実施されている小学校学習指導要領(理科編)では、. 論を導き出すための科学的知識とその活用. 次のような目標が設定さている。すなわち、 「自然に親し. ・科学の特徴的な諸側面を人間の知識と探究の一形態とし て理解すること. み、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能 力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現. ・科学とテクノロジーが我々の物質的、知的、文化的環境 をいかに形作っているかを認識すること. 象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考 え方を養う」といったものである。こうした目標設定から. ・思慮深い一市民として、科学的な考えを持ち、科学が関 連する諸問題に、自ら進んで関わること. も明らかなように、今後の我が国における教育実践におい て、国際標準としての学力観や、見出された我が国固有の 教育課題との関連性を常に考慮した授業開発が必要となろ. このように、キー・コンピテンシーを文脈的背景とし、. う。. その一部を指標化した科学的リテラシーの定義は、その評. しかし、理科教育に関して言えば、こうした国際的な学. 価の枠組みを構想する上で不可欠な要素となる。実際、. 力観と我が国のそれとの関連性、また国際的な視野に立っ. PISA調査では上記の定義を踏まえ、図1に示すような科. た場合における我が国の理科授業の開発において、重視す. 学的リテラシーの評価の枠組みが提起されている。すなわ. べき視点などについて不明瞭な点が多い。そこで本研究で. ち、科学的リテラシーは、科学とテクノロジーが関係する. は、まず現代の国際標準の学力観として、OECDの措定す. 「状況」において、物理学や生物学といったいわゆる「科. るキー・コンピテンシーに着目し、新しい学習指導要領と. 学の知識」や、科学者がいかにデータを得るかといった科. の関連性を精査した。その上で、近年、声高に叫ばれてい. 学的探究、および科学者がいかにデータを使うかといった. る科学的リテラシー形成を志向した理科授業のあり方につ. 科学的説明に特徴的な「科学についての知識」を用いて、. いて、 キー・コンピテンシーとの関連性を明確にしながら、. 科学的な疑問を認識したり、現象を科学的に説明したり、. 教授論的な観点から、包括的な議論を試みた。. 科学的な証拠を用いた推論を行うといった「科学的能力」 を含む。こうした個々人の行動は、科学への興味・関心、 科学的な探究や問題の解決を支持、天然資源や環境に対し. 2.キー・コンピテンシーと科学的リテラシー. て責任ある「態度」として示されることを意味する(国立 前項で述べたように、OECDは21世紀における複雑かつ. 教育政策研究所,2010:170)。. グローバル化された社会において、市民一人一人に涵養す べき学力としてキー・コンピテンシーを指標化した。これ ら、1)自律的に活動する力、2)道具を相互作用的に用 いる力、3)異質な集団で交流する力といった各要素は、 表1に示すような具体的な内容を有する(ドミニク・S, 2007: 105-121) 。 表1 キー・コンピテンシーの概念的枠組み カテゴリー. 内 容. 1)自律的に活動する力. 1A) 大きな展望の中で活動する 1B) 人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行 する 1C) 自ら権利、利害、限界やニーズを表明する. 2)道具を相互作用的に 用いる力. 2A) 言語、シンボル、テクストを相互作用的に用 いる 2B) 知識や情報を相互作用的に用いる 2C) 技術を相互作用的に用いる. 3)異質な集団で交流す る力. 3A) 他人といい関係を作る 3B) 協力する。チームで動く 3C) 争いを処理し、解決する. 図1 PISA調査における科学的リテラシーの評価の枠組み. これら理科に大きく関わる科学的リテラシーの定義と評 価の枠組みは、子どもの科学的リテラシーの実態を顕在化 させるためには極めて重要である。それでも具体的な理科. 表1の中で、2Bの「知識や情報を相互作用的に用いる. 授業の開発を志向する場合には、これらの定義や評価の枠. 力」が、理科に関わる学力として着目される「科学的リテ. 組みに着目するだけでは十分とはいえない。なぜなら、理. ラシー(scientific literacy) 」として具体化されている。. 科授業の開発においては、キー・コンピテンシーの構成要. それは、次のように定義される(国立教育政策研究所,. 素全体を総合的に理科の立場から捉え直していく必要があ. 2010: 167-169) 。. ると考えられるためである。これは、キー・コンピテンシー を構成している各要素は、独立して機能するのではなく、 相互に関連付けられ、構造化されることによって機能する. - 62 -.

(4) 科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点 ことからも自明である(ドミニク・S,2007:103-105)。. 枠組みを捉えることは、OECDが提唱する「コンスタレー. この点に関して和田は、キー・コンピテンシーの概念. ション(constellation) 」の概念を支持するものである。. 的枠組みを理科の立場から捉え直し、解釈を加え、理科. すなわち、キー・コンピテンシーの概念的枠組みは、教科. におけるキー・コンピテンシーの概念の全体像を明らか. や領域などに応じて、文脈特異性を有することから(ドミ. にしている(和田,2009) 。すなわち、自律的に活動する. ニク・S,2007:121- 125)、理科がもつ特性と考え合わせ. 力は、端的に表現すれば自己調整学習を推進する力であ. ながら捉えていく必要があるのである。. る。そこでは、子どもが自分の学習方法、方略の効果を 的確にモニタリングし、ある学習方略から他の学習方略を. 3.学習指導要領と理科教育の立場から捉えたキー・コン. 取り込んで移行させるなど、自己認知の内面的変化から. ピテンシーの枠組みとの関連. 行動の外面的変化のループを形成させる力が要請される (Zimmerman,B.J.,2000) 。道具を相互作用的に用いる. これまでに論じてきた理科教育の立場から捉えたキー・. 力には、自然事象や観察、実験から、情報を取り出し、推. コンピテンシーの枠組みを基調として、平成23年度より実. 論して何らかの解釈をするとともに、これを自分のもって. 施されている小学校学習指導要領(理科編)の内容を精査. いる知識や経験に位置づけるといった力が含まれる。ま. してみたい。分析に際しては、図2に示した理科の立場か. た、問題を認識し、適切な情報や知識を自律的に見出し、. ら捉え直したキー・コンピテンシーの枠組みを用いて具体. その意味を理解するまでに至る一連の行動や傾向、すなわ. 的な分析を施す。これによって、今後の我が国における理. ち科学的リテラシーが含まれる。加えて、インターネッ. 科教育の方向性について、国際的な学力観と関連付けなが. ト技術やコンピュータのシミュレーション機能などを利用. ら明らかにしていく。. し、自己の考えを深め、表現するための効果的な活用方法. 3.1 小学校3年生の事例(学習内容:光の性質). を模索する力が不可欠となる。異質な集団で交流する力と. 光の性質では、 「鏡などを使い、光の進み方や物に光が. は、端的に表現すれば協同学習を活性化する力である。そ. 当たったときの明るさや暖かさを調べ、光の性質について. こでは、 「相互性」 、 「目標の共有」 、 「リソースの共有」、 「見. の考えをもつことができるようにする」ことが学習目標と. 通しを持つこと」 、 「対話の発展」などの要素が不可欠とな. して設定されている(文部科学省,2011:24)。具体的には、. る(ヘイズ,2001) 。. 「日光は集めたり反射させたりできること」や「物に日光. これら理科の立場から捉えたキー・コンピテンシーの概. を当てると、物の明るさや暖かさが変わること」を学習す. 念的枠組みを模式化すれば、図2のように示すことができ. ることである。これは、図2との関連で捉えれば、子ども. る。. が習得する自然界の知識に関わり、科学的リテラシーの枠 組みの「科学の知識」に対応付けることができる。この際、 日光を重ねたときの物の明るさや暖かさの違いを比べて、 日光の当て方と物の明るさや暖かさの関わりを捉えるよう に指導する。すなわち、ここでは科学的リテラシーにおけ る「科学についての知識」として「比較する」という知識 を用いて、光の性質に関する学習内容の習得を図るのであ る。そして、事象から抽出された情報を表などに整理して、 解釈を深め、子ども自身のことばで考えを表現させていく のである。こうして、「情報の取り出し、推論」、「科学的 能力」などの一端が育成されてこよう。 当然ながら、ここでは実生活との関連として、太陽熱温 水器などの活用を採り上げ、学習内容に対する興味・関心 を高めていくことが不可欠である。そうして科学的リテラ シーにおける「態度」の育成が期待できよう。また、学習 指導においては、校庭で日光を浴びて暖かさを実感するな どして、取り扱う対象としての日光に、改めて焦点をあて る方策を構想し、具体的な学習の「状況・文脈」を形成す る必要があろう。こうして、 「状況・文脈」、 「科学的知識」 、 「科学的能力」、「態度」といった科学的リテラシーの各要 素が連動することになるのである。 一方、学習活動を推進するにあたり、子ども同士の協同. 図2 理科の立場から捉えたキー・コンピテンシーの概念的枠組み. 的な学習が展開されてこよう。例えば、光を重ねたときと こうした観点から理科におけるキー・コンピテンシーの. 重ねないときとの暖かさの違いについて手で実感した後、. - 63 -.

(5) 和 田 一 郎 温度計を用いて暖かさを測定する場合、温度計の使い方や. 視的な世界に関しては、子どもはイメージやメタファー、. 測定値の比較などの場面で子ども同士による学び合いは不. モデルなどを用いての説明を要請されるのである。こうし. 可欠となってくる。こうした学習活動の確立の中で、教師. た心理的道具が媒介となって、子どもの科学概念の構築は. は子ども自身にわかったことを振り返らせたり、新たな疑. 促進されてこよう。ここでの学習活動の活性化のために. 問などを表現させたりすることによって、自律的な学習活. は、子ども同士、あるいは教師と子どもによる共有モデル. 動の生起が期待できるのである。こうして、キー・コンピ. の構築などの協同的な学習が不可欠である。すなわち、子. テンシーの各要素の連関が深化するのである。本事例にお. どものイメージに端を発して、一定のまとまりのある論理. けるキー・コンピテンシーの相互連関の様態は図3のよう. へと発展させるには、他者との相互作用の活性化が重要な. に示すことができる。. 要素となるのである(森本,2002) 。こうした学習活動を 通じて、子どものメタ認知に伴う内省活動は活発化し、自 律的な学習活動の促進が期待できるのである。 空気や水の性質を利用し、自転車のタイヤに空気を入れ ることや、ポットに湯を注ぐことといった身の回りの道具 が機能性を発揮していることを捉えることによって、子ど もの興味・関心の向上、あるいは学習の文脈の形成も促進 されよう。また、学習したことを使い、ペットボトルロケッ トなどを作製するといった科学的な体験を取り入れること や飛行機のタイヤの仕組みを考えることなどによって、子 どもに広く科学とテクノロジーに関して注目していく「態 度」を育成できるのである。 このように、小学校4年の学習においては、小学校3年 よりも微視的な事象を取り扱う内容が増加することから、 現象の科学的な説明の質を推し進める必要がある。これに 伴い、協同的な学習の活性化が極めて重要な要素として位 置付けが図られてくることになるのである。これらの議論 を模式化すれば、図4のように示すことができる。. 図3 小学校3年の事例(光の性質). 3.2 小学校4年の事例(学習内容:空気と水の性質) 空気と水の性質では、 「閉じ込めた空気及び水に力を加 え、その体積や圧し返す力の変化を調べ、空気及び水の性 質についての考えをもつことができるようにする」こと が学習目標として設定されている(文部科学省,2011: 34) 。より具体的には、 「閉じ込めた空気を圧すと、体積 は小さくなるが、圧し返す力は大きくなること」および「 閉じ込めた空気は圧し縮められるが、水は圧し縮められな いこと」を学習する。こうした「科学の知識」に関して、 小学校4年では、 「関連付ける」といった「科学についての 知識」を用いながら事象を追究することが要請される。例 えば、「容器に閉じ込めた空気を圧し縮めたときの手ごた えや体積の変化を調べ、空気は圧されると体積が小さくな るが、元に戻ろうして手ごたえが大きくなる性質があるこ とから、空気の体積変化と圧し返す力とを関係付けてとら えるようにする」のである。 ここでは、科学的な証拠を用いた説明として、力を加え る前後の空気の体積変化について、図や絵を用いて表現 し、説明できることが要求される。すなわち、こうした微. - 64 -. 図4 小学校4年の事例(空気と水の性質).

(6) 科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点 らの議論は、図5のように総括できる。. 3.3 小学校5年の事例(学習内容:電流の働き) 電流の働きの内容では、 「電磁石の導線に電流を流し、 電磁石の強さの変化を調べ、電流の働きについての考えを もつことができるようにする」ことを目標とする(文部科 学省, 2011:47) 。 具体的には、 「電流の流れているコイルは、 鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると、電磁 石の極が変わること」および「電磁石の強さは、電流の強 さや導線の巻数によって変わること」を学習する。こうし た「科学の知識」に関して、小学校5年では、 「条件制御」 といった「科学についての知識」を用いながら事象を追究 することが要請される。例えば、 「電磁石の強さについて、 導線の巻数を一定にして電流の強さを変えるなど、変える 条件と変えない条件を制御して実験を行うことによって、 実験の結果を的確に処理し、考察することができるように する」のである。 ここでは、例えば導線の巻き数と電磁石の強さについて 実験して調べた結果を表にまとめて表現し、そこから的確 に情報を取り出す力が求められる。こうした表という、事 象の変化を体系的に示してくれる道具を相互作用的に用い ることによって、事象に潜む規則性が導き出されることを 子どもに実感させていくのである。このように、小学校5 年における科学的な証拠を用いた説明では、実験結果を踏 まえたイメージ、表やグラフなどの道具を用いての情報の. 図5 小学校5年の事例(電流の働き). 抽出、その解釈などを通じて、子どもなりの豊かな表現が 要請されることになる。この際、学習過程において「導. 3.4 小学校6年の場合(学習内容:月と太陽). 線の巻き数を増やすと、電磁石の強さがもっと増すよう. 月と太陽では、 「月と太陽を観察し、月の位置や形と太. だ」といった子どもなりのイメージを相互作用させること. 陽の位置を調べ、月の形の見え方や表面の様子についての. によって、具体的に100回巻や200回巻について調べてみよ. 考えをもつことができるようにする」ことを学習目標とし. う、といった実験計画の立案とその遂行による科学的な探. ている(文部科学省,2011:66)。具体的には、「月の輝い. 究が推進されてこよう。このような意味において、協同学. ている側に太陽があること。また、月の形の見え方は、太. 習の確立が積極的な学習を生起させ、自律的な学習を拡張. 陽と月の位置関係によって変わること」および「月の表面. させる起点としての機能を発揮することになるのである。. の様子は、太陽と違いがあること」を学習する。こうした. 電磁石は、例えばモーターの一部として利用されている. 「科学の知識」に関して、小学校6年では、 「推論」といっ. ことから、ミキサーや電動車いすなどの身近な物を取り上. た「科学についての知識」を用いながら事象を追究するこ. げることで、事象に対する興味・関心は増強されよう。こ. とが要請される。すなわち、月の位置や形と太陽の位置の. の際、学習の初期では、鉄の廃材を持ち上げるために電磁. 関係を観察した事実に基づいて推論していくのでる。. 石が利用されていることを示し、電流が生み出す力につい. ここでは例えば、月は日によって形が変化して見え、月. て考えさせるきっかけ作りを行うことによって、学習の文. の輝いている側に太陽が存在することを月と太陽の位置関. 脈も生み出されてこよう。また学習の後期では、モーター. 係から捉え、観察した事実から推論し、子どもなりに考え. で走る電気自動車などに着目させることによって、焦眉の. を持たせることが重要となってくる。その際、 「地球から. 急を要する環境問題などに積極的に関わろうとする「態. 見た太陽と月の位置関係で扱う」ことが求められることか. 度」を養うこともできよう。こうして、科学的な体験とし. ら、モデルや図といった道具を用いて、地球から見た位置. てのクリップモーターや電池チェッカーなどの物づくり. 関係で観察事実に基づいて月の満ち欠けを推論させていく. も、有意味な活動となってくるのである。. 必要がある。こうした空間認識に関わる情報の取り出しに. 以上の分析から、小学校5年では学習内容の高度化に伴. 関しては、視覚的イメージの果たす役割が極めて大きい。. い、学習内容の抽象化が一層進むことから、 自律的な活動、. すなわち、ボールを月に見立て、光を当てるなどした縮尺. 道具を相互作用的に用いる、異質な集団での活動といった. モデルを用いての空間把握を行い、そしてそれを心的な視. キー・コンピテンシーの各要素の相互連関に関わるリンク. 覚的イメージに置き換え、操作することによって、例えば. が、より緻密なものとなることによって、子どもの科学概. 半月の場合の月と太陽の位置関係などを推論し、考えを表. 念形成は一層促進されることが明らかとなってくる。これ. 現できるようにするのである。このような意味において、. - 65 -.

(7) 和 田 一 郎 小学校6年における科学的な証拠に基づく説明や、科学的. 力要素と相互に関連付けられながら強化されることによっ. な疑問の認識といった「科学的能力」の質は極めて高度化. て具現化されてこよう。したがって、科学的リテラシー形. していると捉えることができる。. 成を志向した理科授業の開発に関わる視点の導出のために. 月の観察は、夕方から夜間に行うことが多いため、学校. は、これらのキー・コンピテンシーの諸要素の関連性を踏. 外での学習状況の形成に関する方策には、十分な検討を要. まえた教授論的展開が不可欠であると考えられる。. する。例えば、三日月に着目させて観察させ、 「三日月は. そもそも、子どもの認知発達は、ヴィゴツキーの主張を. 決まって夕方、西の空に輝いて見えるようだ」といった事. 援用すれば次のように説明できる。すなわち、子どもは、. 象を見出させておくことによって、教室での学習活動にお. はじめ文化の体現者である大人との社会的相互交渉を通じ. いて観察結果の共有と、それに基づく考察が可能となる。. て環境の獲得を行う(これを精神間機能という)が、次第. そうした連続性のある学習を構築することによって、子ど. にそうした大人との関係で機能していた精神活動が内面化. もの天体に対する興味・関心を高めさせたり、科学的な疑. していき、子ども自身の中で行われるようになる(これを. 問を生起させたりすることができるのである。その結果、. 精神内機能という)のである(ヴィゴツキー,2004)。こ. 子ども自らが夜半過ぎにも月の観察をしてみたいといっ. のように、人の高次精神機能の精神間機能から精神内機能. た動機付けのもと、コンピュータとデジタルカメラなどを. への内化は、他者との協同によって確立されるのである。. 用いて連続的に撮影、記録し、その結果を分析するといっ. この際、他者との相互作用の過程で、個人が自己のものと. た学習活動の確立も期待できよう。こうして、子どもの目. して内化していく過程では、言葉という社会文化的道具が. 的意識に即して技術を相互作用的に用いながら、自律的な. 媒介の機能を果たすことになる。もちろん、理科学習では. 学習を確立していくのである。ここでは、プラネタリウム. 媒介となる道具として、言葉以外に記号や数式、イメージ、. や科学館などを利用して疑似体験を充実させることによっ. モデルなどの心理的道具や実験、コンピュータといった物. て、天体や宇宙開発などのテクノロジーなどへの興味・関. 理的道具など、多種多様な道具が含まれることになる。こ. 心も一層、 促進されてこよう。 これらの議論を整理すれば、. のように、ヴィゴツキーの理論からも、キー・コンピテン. 図6のように模式化できる。. シーの各要素の相互連関の重要性が明らかになると同時 に、キー・コンピテンシーにおける学力要素の具現化は、 協同的な学習の活性化と、多種多様な道具を媒介とした内 化過程の促進を通じて図られると捉えることができる。 ところで、ヴィゴツキーが提起した内化の概念は、精神 間から精神内への移行を、主に言葉が内言化され、思考の 道具となっていく過程と捉えたが、それは単なる言語の機 械的な取り込みを意味するのではない。この点に関して、 ヴィゴツキーは次のように説明する。 「自分へのことばは、 最初は他人への社会的な言語機能が分化することで発生す る。子どもに外からもち込まれる漸次的社会化ではなく、 子どもの内面的社会性を基礎に発生する漸次的個性化が、 子どもの発達の大道なのである。ここから、自己中心的こ とばの構造・機能・運命に関する問題についての見解も変 わってくる。その構造は、その機能の独立化に平行して、 その機能に対応して発達するとわれわれには思われる。言 いかえるなら、新しい使命をおびることによって、ことば は、おのずとその新しい機能にそくして自分の構造を改造 するのである」(ヴィゴツキー,2005)。 このように、言葉や記号といった社会文化的道具が媒介 となって、子どもの概念の構築は促進されるが、そうして 構築された概念は、文脈に依存して質的な変化を遂げる。 これがとりもなおさず、既有概念の再構成、活用であり、. 図6 小学校6年の事例(月と太陽). 思考の実態そのものである。科学的リテラシーとして、科 学的な証拠を用いた説明や科学的な疑問の認識を促進する. 4.科学的リテラシー形成を志向した理科授業の開発. ことは、子どもが道具を媒介として構築した概念を事象の これまで論考してきたように、理科で強力に要請されて. 解釈に向け、時宜に適して自分なりに活用できることを意. いる科学的リテラシー形成は、その要素を単独で強化する. 味しているのである。. のではなく、キー・コンピテンシーの一部として、他の学. この点についての考察を、内化の概念を分化させ、内. - 66 -.

(8) 科学的リテラシー形成を目指した理科授業の開発に関する視点 化を二側面の概念から説明するワーチの主張(ワーチ, 2004)を援用して深化させてみたい。すなわち、内化の一 つ目の側面は、子どもが媒介となる道具を自在に使用する ための方法を知っていることである。ワーチは、 これを「習 得」と呼んだ。もう一つの側面として、はじめ他者に属し ていたものをわがものとする過程として「アプロプリエー ション」と呼ばれる概念を設定した。これらは、理科学習 に即して説明すればこうである。子どもが方位磁針の使い 方を知り、これを使って東西南北を設定したとしよう。こ れは、方位磁針という道具を媒介として、自分の位置にお ける東西南北を適切に設定できているという点で、 「習得」 といえる。これに対して、三日月の輝く方位に一定の規則 性があることを推論し、方位磁針を使用して、それを特定 しようとするような場合は、道具を目的に即して自分のも. 図7 科学的リテラシー形成を志向した教授論的視点. のとして使用し、その結果に基づき概念を構成しようとし ている点で、「アプロプリエーション」と捉えることがで. て分析を行い、包括的な議論を試みた。その上で、協同学. きる。このように、科学的リテラシーの醸成は、自己の概. 習および自己調整学習などの諸理論を援用して、キー・コ. 念の再構造化を通じた自覚的・随意的な思考活動によって. ンピテンシーとの対応関係を精査することで、科学的リテ. 具現化するのである。. ラシー形成を志向した理科授業のための具体的な教授論的. これらの議論は、Rogoff,B.の主張する「参加型アプロ. 視点の導出を図った。結果として、以下の諸点が明らかと. プリエーション」の概念(Rogoff,B.,1993)に着目するこ. なった。. とによって、教授論的視点の明確化へと昇華する。すなわ. ・新しい学習指導要領(理科編)において育成を志向する. ち、ロゴフはアプロプリエーションを、協同行為の文脈に. 学力は、キー・コンピテンシーの各要素(自律的に活動. おいて、経験豊かな大人の関わりが子どもを協同行為へ. する、道具を相互作用的に用いる、異質な集団との交流). の参加へと導いていく過程であると捉えたのである。そ. が関連付けられた複合的な要素として対応付けることが. うして、子どもが参加した協同体の中において、子ども. 可能であった。. 自身が変容すると同時に、協同体自体も変容していくよ. ・科学的リテラシー形成の観点からの理科授業の開発で. うな相互作用的な過程としてアプロプリエーションを概念. は、科学的リテラシーの諸要素を独立に強化するのでは. 化したのである。こうした過程で、教師による子どもの学. なく、キー・コンピテンシーの一要素として相互に関連. 習の進捗状況の評価がなされ、それに基づき足場づくり. 付けることを志向した教授ストラテジーの開発が不可欠. (scaffolding)が講じられると同時に、子どもは自己の学. であることが、協同学習や自己調整学習に関する諸理論. 習に即して他者の支援を要求し、それらの支援を調整する. を援用した分析から明らかとなった。. ことによって、自律的な学習活動を確立し、活性化させて いくのである。. 【付記】. Zimmerman,B.J.によれば、自律的な学習すなわち自己. . 調整学習は、「子どもが周囲の環境との相互作用を通じて. 本研究は,科学研究費補助金・課題番号22830005(研究. 行動を変容させていく」といった社会的認知理論を基調と. 代表者:和田一郎,研究テーマ「理科教育における自己調. してモデル化できることを主張した(Zimmerman,B.J.,. 整学習の成立過程に関する研究」)の成果の一部である。. 。すなわち、自己調整学習は、個人要因、行動、環 2001) 境要因の三要素が相互連関すると考えられている。これま. 【引用・参考文献】. でに論じてきた事項は、こうした自己調整学習の確立に関 Rogoff,B.(1993): Children's guided participation and. わる理論と軌を一にしていることは自明であろう。 以上の論考を踏まえ、科学的リテラシー形成を志向した 教授論的視点は図7のように総括できよう。 5.本研究のまとめ 今後の理科教育において強力に要請される科学的リテラ シーの育成に関して、OECDの措定するキー・コンピテン シーの概念を基調に、我が国の新しい学習指導要領につい. participatory appropriation in sociocultural activity.. In Wozniak,R.H., Fischer,K.H.(ed.), Development in context: Acting and thinking in specific environments , Lawrence Erlbaum Associates, pp.138-150 Zimmerman,B.J.(2000) :Attainment of self-regulation, A social cognitive perspective, In M.Boekaerts, P.Pintrich, &M.Zeidner(Eds.), Self-regulation:Theory, research, and applications , Orlando, FL:Academic. - 67 -.

(9) 和 田 一 郎 Press, pp.13-39. Zimmerman,B.J.,Schunk,D.H.(2001):Self-Regulated. Learning and Academic Achievement , Lawrence Erlbaum Associates, pp.126-127 国立教育政策研究所(2010) : 『生きるための知識と技能4 -OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2009年調査国際 結果報告書』,明石書店 ドミニク・S,ローラ・H(立田慶裕監訳) (2007) : 『キー・ コンピテンシー』,明石書店 ヘイズ(2001) : 「カウンセリングにおけるコラボレーショ ン」, 東京大学大学院教育学研究科心理教育相談室紀 要,24, pp.108-113 森本信也(2002) : 『論理を構築する子どもと理科授業』 , 東洋館出版 文部科学省(2011) : 『小学校学習指導要領解説 理科編』, 大日本図書 和田一郎,森本信也(2007) : 「理科教育におけるキー・ コンピテンシーの意味とその自己制御的学習による形 成」 ,『教育開発』 ,Vol.3, 東海大学教育開発研究所, pp.21-37 ワーチ(田島信元他訳) (2004) : 『心の声-媒介された行 為への社会文化的アプローチ-』,福村出版 ヴィゴツキー(土井捷三,神谷栄司訳) (2004) : 『 「発達の 最近接領域」の理論』 ,三学出版, pp.21-23 ヴィゴツキー(柴田義松訳) (2005) : 『思考と言語』,新読 書社, p.383. - 68 -.

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参照

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