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熟年期教師が考える特別支援教育の活動を特徴づけるエピソードとイメージ,そしてメタファ

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Academic year: 2021

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(1)Title. 熟年期教師が考える特別支援教育の活動を特徴づけるエピソードとイメ ージ,そしてメタファ. Author(s). 高橋, 道也. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 12: 97-103. Issue Date. 2015-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7940. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 熟年期教師が考える特別支援教育の活動を特徴づける. エピソードとイメージ,そしてメタファ 高 橋 道 也*. ImagesaboutSpecialNeedsEducationonaVeteranTeacherinElementarySchool. メージは簡潔な比喩的陳述の形で定式化されても. 1 問題の所在. のであり,一般に価侶判断を含んだ教師の目的的 本論の目的は,熟年期を迎えた特別支授学級担. 行動を直感的に導く働きをするものとして定義づ. 任である教師が自身の教育活動を特徴づけると考. けられている.そして,秋田は授業イメージの変. えるエピソードを抽出し,そこから導き出される. 容を比喩生成課題により検討している.また,三. イメージを検討することで,その教育実践の様相. 島ら(2013)も,比喩生成によって教職志望学生. を明らかにすることである.. の授業・教師・子どもイメージの変容をフレンド シップ参加経験及び教育実習経験から検討してい. 筆者は,33年間,小学校特殊学級,そして特別 支授学級の担任として勤務してきた,昭和54年の. る.このように,イメージは授業に代表される教. 養護学校義務化の直後からその教師人生は始まっ. 師の熟達化を検討する際の有効な概念として取り. たが,新卒当時は特殊教育の時代であり特殊学級. 上げられてきている.なお,近年では,教師のイ. という名称であった.平成19年度からは特別支授. メージを検討する方法としては,内藤(1993)が. 教育の時代に入った.この時代的変遷の中で,筆. 開発したPersonalAttitudeConstruct(個人別態. 者は′ト学校7校の特殊学級,特別支援学級の担任. 度構造)も用いられるようになってきている(藤. として児童,保護者,そして同僚教師とかかわり. 田,2010;松井,2014).. ながら教職経験を重ね,教育実践を深めてきた.. 本論では,秋田,Elbazらの研究を参照しなが. 筆者が教育実践の中で稗み重ねてきた障害のある. ら,イメージを構成すると考えられるエピソード. 児童を対象にしたその教育活動をどのように特徴 づけることができるのであろうか.. 中からいくつかのエピソードを回想し,そのイ. に着目する.そして,筆者が33年間の教職経験の. 秋田(1996a)は,Elbaz(1981)の教師の知. メージ,メタファを分析することで筆者の取り組 んできた特別支授教育の様相を明らかにする.. 識に関する研究を踏まえて,教師の授業イメージ の変容について検討している.秋田によれば,. 2 研究の方法. Elbazは教師の知識を授業の熟達化に影響を与え るものとして,状況的,理論的,個人的,社会的,. 2−1 エピソードの回想とイメージの付与. 経験的の5つの特徴をもった実践的知識として説 明している.この知識構造を形成するものとして,. 筆者が自身でこれまでの教育実践を特徴づけて. 「実践のルール」「実践の原理」「イメージ」の3. いると考えるエピソード11個を文章に書き起し,. つを主張しているという.3つの中で,イメージ. そのひとつひとつのエピソードから想起される筆. は最も包括的だが非明示的であり,教師の感情や. 者のイメージを付与し,分析の対象とする. なお,エピソードを抽出する際に,筆者の教育. 価値,要求,信念が結合されたものだとされ,イ 攣MichiyaTAKAHASHT:札幌市立前田中央′ト学校 97.

(3) 学校臨床心理学研究 第12号(2014年度). 活動を見つめる筆者以外の他者の視点を考癒する.. だった.筆者は,特に事情を説明する状況でもな. 具体的には,筆者の教育活動に直接かかわる内部. いので,丁寧に断って,通り過ぎた.. の者の視点と,教育に関係しない,外部の一般の. *イメージ:父親と子ども. 人たちの視点である.前者の内部の者としては, 特別支援学級に在籍している子どもたちである.. ○エピソード3:お好み焼き店でのこと. 特別支授学級担任6名が在籍児童24名を6グ. 後者には,学校内にいるけれども,特別支授学級 について知らないという点では,内部のものでは. ループに分け,ショッピングモール内のレストラ. あるけれども,外部的な存在の通常の学級児童が. ンをそれそれのグループで選んで食事をするとい. 含まれる.通常の学級の関係者は内部の看ではあ. う学習をしたことがあった.筆者はお好み焼き店. るが,この教育を「外から見ている」立場にある. を選んだグループの児童3名を引率して店に入っ. と考える.. た.店員がメニューを持ってきて「ご家族ですと, このメニューがお得です.」と言って,メニュー を置いていった.このときの学年構成が高学年1. 2−2 分析対象とするエピソードとイメージ 分析の対象としたエピソード11個とそこから導. 名と低学年2名だった.. き出されるイメージは,次の通りである.なお,. *イメージ:父親と子ども. それぞれのエピソードには,タイトルを付してあ る.. ○エピソード4:パパ. 0エピソード1:お風呂学習でのこと. とがあるが,教師の許可を取ろうと,思わず「ね. 特別支援学級の低学年の児童に時々見られるこ え,パパ」と言う児童がいる.自分ではっと気が. /ト学校特別支授学級の2年生の児童を4名連れ てスーパー銭湯に行ったときのことである.宿泊. 付いて言い直す子もいるし,筆者が「せんせいは,. 学習の事前学習として,お風呂指導に力を入れて. パパです.」と普段通りの雰囲気で投げかけると 気が付いて,言い直す子もいる.. いたので筆者が男子4名を引率していった.児重 たちと湯船につかっていると,初老の方が「こん. *イメージ:家庭での団らん. な時代に子だくさんだね.」とにこにこしながら 話しかけてきた.筆者は「これは,学習の一環で,. ○エピソード5:お父さん. 高学年になって,特別支授学級に通常学級から. 引率してきたのです.」と話すのだが,補聴器を 外しているためなのか,話が聞こえないようで「が. 移籍してきた女の子が,学級にも慣れた頃に何日. んばるんだよ.」と言ってくれた.周囲の人たちは,. か続いて筆者のことをお父さんと言うことがあっ. 子どもたちが「せんせい,せんせい」といってい. た.その子が「いやだあ.どうして先生のことを. るのを聞いているので,誤解だと分かっている様. お父さんって言っちゃうかなあ.」. 子だった.初老の人は終始にこにこしていて,周. *イメージ:家庭での団らん. 囲の人たちは,そのやりとりに笑っていた.が, 筆者は,それ以上は,説明しても仕方ないと諦め. ○エピソード6:ママ. 2年生で特別支援学級に移籍してきた児童が,. た.. 筆者の提起したちょっとした話題に心が動いて,. *イメージ:子だくさんの父親. 発言しようとしていたときのこと.挙手もせずに, 筆者の顔をじっと見ていたが,「ママあ,あのさ. それって…… 」と話し始めた.訴が途切れたとこ. ○エピソード2:校外学習でのこと. 特別支授学級の在韓児童1名,担任教師1名で 特別支援学級を開級した時のことこと.市街へ社. ろで,「私がママです.」と筆者がいつもの雰開気. 会見学に出かけ,商店街を歩いていると,店のお. で答えると,「あー,ママって言っちゃたあ.気. 兄さんに声をかけられた.「お父さん,息子さん. 持ちわる−!」. *イメージ:家庭での会話. と自転車乗らないかい?」レンタル自転車屋さん 98.

(4) 熟年期教師が考える特別支授教育の活動を特徴づけるエピソードとイメージ,そしてメタファ ○エピソード11:先生も働けば?. ○エピソード7:遊んでばかり. 転校生で,高学年の男子.転出先の学校でも特. 休み時間に低学年の交流学級の女の子が筆者の 特別支授学級にやってきた.筆者が「どうした. 別支援学級に在結していた関係で,4月に筆者の. の?」と尋ねると「どうして,ここは,遊んだり,. 学級に転入してきた.登校が安定せず,朝,筆者. 美味しいもの食べたり,出かけたり,ビデオを見. が家庭訪問して登校させていた.母子家庭であっ. たり,レストランごっこしたりしてるの?」. たが,父親は月に何度か帰宅していたようである. 母の日のこと,朝の会で「お母さんを喜ばせよ. *イメージ:近所の子ども. う.」という話をした.すると「昨日,父さんが 来てr働くことになった.』つて母さんに言ったら,. ○エピソード8:チャイムなんて関係ない 中学年で特別支援学級に移結してきた児童が休. 母さん弄んだ.」という話を聞かせてくれた.そ. み時が終わっても,教室に入ろうとしない.グラ. の後で「せんせいも働いた方がいいよ.母さん,. ウンドから戻ってきた通常の学級のかつての同級. 喜ぶよ.」. 生が「チャイムなったぞ!」と声を掛けていた.. *イメージ:働いていない父親. するとそれに反抗する言葉を重ねた後で「おれは, これらの11個のエピソードは筆者にとって印象. チャイムなんて関係ない」と言い放った.通常の 学級の児童は,そのことを担任である筆者に伝え. 的なエピソードであるが,自分たちの行動や活動. にきた.. が一般的にどのように見えているのかを考える上. *イメージ:家庭の流儀で行動する子. で,参考になる.. ○エピソード9:この子,言うこと聞かない!. 3 結果と考察. 特別支授学級では,高学年から低学年までが1 つの集団を作っていることが多いので,高学年が. 3−1 結 果 エピソード1∼11を場所やかかわった人の立場,. 低学年のお世話をする概会が多くある.大抵の場 面では高学年が主導権を揮って,全体を草推する. 活動内容で分類すると表1になる.□で示してい. のだが,ある時,高学年の女子が二人がかりで,. る項目は,学校外の活動場面でのエピソードであ. 連れてこようとしても頑として動かない低学年の. る.主に外部の人が関わっている.校外学習で一. 子がいた.. 般の人とかかわった場面や飲食店などの店員さん. 「せんせい,どうにかしてよ.私には無理.」. とのエピソードである.■で示している項目は学. それを聞いた筆者は「ど−れ,しょうがないなあ.」. 校内で在籍児童が関係しているエピソードである.. *イメージ:母親代わりの長女の助けに応じる. 主に学級内でのエピソードである,担任である筆. 父親. 者と在梧児童とのやりとりの中での一コマである. なお,エピソード7は学校内のエピソードではあ. ○エピソード10:やっぱり,家に帰りたい. るが,通常の学級の児童とのやりとりであるので. 校内宿泊学習の第一日目のことである.興奮気. 外部の視点を持っているので,エピソード1∼3. 味に校外学習や調理やレク活動を終え,いざ,就. と類似している.. 寝というときに,「やっぱり,帰りたい,」そう言. エピソード1−3の共j直伝は,一般の人にとっ. って,廊下で泣きながら筆者に訴えた.30分ほど. ては「一般的には学校の行事で利用することのな. なだめたが,余計に泣くので「みんな,寝ている. い場所」「どう見ても,学校の授業をしていると. のだから,我慢して寝なさい!」と声を強めて言. は思われない状況」として理解されているようで. うと,領いて布団に戻り,そのまま朝まで熟睡し. あl),どれも,家族であると勘違いしていること. た.. である.場面を見た一般の人が「教師と児童」と いう風には見えていなかった,ということである. エピソード1は,スーパー銭湯でのことである.. *イメージ:初めて親から離れて寝る子ども. 99.

(5) 学校臨床心理学研究 第12号(2014年度) 表1 エピソードとイメージ構成 エピソード番号 タイトル. お風呂学習 2. お風呂学習 3. レストラン学習 4. パパ 5. お父さん 6. エピソードが. イメージ. 生じた場所. 登場人物. 校外□・校内■. 外部者○・内部者. 子だくさんの父親 ロスーパー銭湯 父親と子ども 父親と子ども. 7. 8. チャイムなんて 関係ない 9. この子 言うこと聞かない! 10 やっぱり家に 帰りたい 先生も働けば?. ○入浴客. [コ商店街. ロショッピング モール. 活動内容. 校外学習. ○レンタル自転車屋さん. 校外学習. ○飲食店の店員. 校外学習. 家庭での団らん. ■教室. ●在拝児童. 日常生活の指導. 家庭での団らん. ■教室. ●在籍児費. 筆者とのやりとり. 家庭での会話. ■教室. ●在籍児童. 筆者とのヤりとり. 近所の子ども. ■教室. マ’マ 遊んでばかり. エピソードの. 家庭の流儀で 行動する子 母親代わりの長女の 助けに応じる父親 初めて親から離れて 寝る子ども 働いていない父親. llグラウンド. ○通常の学級児燕. 筆者とのやりとり. ●在柿児童. 休み時間. ■教室. ●在耗児牽. 集合する場面. ■教室. ●在籍児燕. t教室. ●在籍児童. からの帰り. 耳の遠い高齢の方だったので,家族であると受け. 夜の教室で 就渡するとき 「母の日」の 取組のあとで. 然な成り行きである. エピソード3は,お好み焼き店の店員の対応の. 取ったのだと思われる.周囲の入浴客は,子ども たちが盛んに「せんせい,ろてんぶろに いって. 場面である.高学年1名と低学年が2名,教師1. も いい?」などと言っているのを開いているの で「指導者と子どもたち」という関係だと理解で. 名の4名であることから,一般客と見たとしても 不思議ではない.単品を4つ選ぼうとしているの. きていたと思われる.つまり,そのやりとりが聞. を見て,店員さんが思わず「ご家族ですと,こち. こえていない高齢の方には「家族」のように見え. らのセットがお得です.」と言ったのだと思われる. この3つのエピソードから見えてくることは,. たと考えることができる.それが「こんな時代に 子だくさんだね.」という言葉になったと考える.. 特別支援教育についてのメタファを明らかにして. エピソード2は,レンタル自転車屋さんが「お. いく上で論拠となると思われる.自分たちの取組. 父さん,息子さんと自転車に乗らないかい?」と. を一般の人が見ると「学校」や「教師」「指導し. 言った場面である.教師1人,児尭1人で手をつ. ている場面」「教師と児童」というようには見えず, 「家族」「親子」と見えるということが分かる.. ないで歩いていて,それに声をかけるとすれば「お. つぎに■で示したエピソードを見ていくと,在. 父さん」「息子さん」という言葉を使うことは自 100.

(6) 熟年期教師が考える特別支授教育の活動を特徴づけるエピソードとイメージ,そしてメタファ 籍児童の場合は,本人がまるで家庭にいるような. 程を盛り上がって楽しみ,事例となる児童も大満. 気持ちになって,普段通りに会話をしていること. 足で一日を終えた.いよいよ就寝という際になっ. が分かる.学校という「パブリック」な場所とい. てシクシクと泣き出した.「やっぱり,帰りたい.」. うより「よりプライベートな場所」に「家族とい. と泣きながら訴えてきた.この児売のように夜に. る感覚」であったと思われる.エピソード4−6. なって母親を求めて泣き出す子は特段珍しくはな. はどれも似たような場面である.緊張感もなく,. い.しかし,この児童の言った「やっぱり」とい. 平常心での「自分」をそのまま出した瞬間の児童. う一言に大きな意味を感じた.本人の気持ちを代. の姿である.「思わず」「つい」「うっかり」といっ. 弁すると「家庭的な雰囲気だから大丈夫かと思っ. た表現が当てはまる場面である.. たが,いざ,夜になって自分の家庭と比べると大 きく違っている」ということに気がつき,だから. この中には校内ではあるが,在拝児童ではない. 「やっぱり,帰りたい.」ということになったの. エピソードがある.7番目のエピソードである.. だと思われる.結局,筆者の促しによって,なん. 筆者の学級に在拝している児童が交流学習に行く 学級の児童が登場するエピソードである.. とか気持ちを切り替えて泊ることができた.. 通常の. 学級と大きく違う活動をしているので,興味をも. 最後に,児童は筆者をどのようにとらえていた. ったのだと思われる.この児童にとっては,特別. のか,についてはエピソード11の在籍児黄の言葉. 支援学級の活動が「学校」「学級」「授業」「勉強」 というイメージには当てはまらなかったと考えら. が参考になると考える.「先生も働いた方がいいよ.. れる.. てはいるが「教師」や「職員」などの「仕事をし. お母さん,弄ぶよ.」この言葉には「先生」と言っ. エピソード8は,「学校生括の決まり」で帰宅. ている人」とは捉えていなくて,「大人で,学校. 時間が午後5時となっているにも関わらず,「5. にいる人だから,先生と呼ぶ.」ということであっ. 時半まで,遊んでいいって,お母さんが言ったん. て,「自分の父親と同じで,働いていない大人」. だ.」と言って公園で遊んでいる事例と似ている.. と理解していたということである.. 筆者の学級では学校のルールを守らなくていい, とは言っていないが,特別支授学級に入ったこと. 3−2 考 察. で「学校のルールから解放された」と思い込んだ. 3−2−1 筆者が回想したエピソードから見える. と筆者には思われる.また,かつての同級生に批 判的なニュアンスで注意されたことへの反発もあ. 特別支援教育の様相 これらのエピソードから特別支授学級の環境や. ったと思われ,弱い立場の自分を「特別支授学級. 活動内容に「学校」というイメージではなく,一. という別の世界の論理」で補強しようとしたと考. 般的に見て「プライベートな感じ」や「学校らし. えることができる.それは,自分の親を後ろ盾に. くない雰囲気」があると考えられる.エピソード. して友達と喧嘩する状態と似ているのではないだ. 7にあるように,同じ校舎内で学習している同学. ろうか.. 年の児童の感じ方が「進んでばかり」であり「勉. エピソード9は筆者と在籍児童との関係だけで. 強をしているようには見えない」「通常の学級の. はなく,在籍児亜同士の関係にも「家族的な雰囲. 活動で考えると rお楽しみ』的な活動ばかりして. 気」があることを示している.高学年の児童が,. いるように見える」ということからも明らかであ. 低学年の児童に母親のように接している場面であ. る.つまり,特別支援学級は学校というより家庭. る.世話されている低学年の児売は,高学年の児. に近い印象があると考えることができるのではな. 童を頼っているが,高学年の児童は頼られること. いか.. で自分の立場を理解し,自信をもって行動するこ. 小出(1980)は『実践生活単元学習』の巻頭. とにつながっている.その姿は,生活而で支え合. 言で「子どもの本来的な生活を大切にすることを. っている兄弟姉妹を筆者には連想させる.. 基本に,どの子も生き生きとする学校生括を子ど. エピソード10は宿泊学習という日常とは大きく. もたちとともにつくりだすことを目ざしてきた.」 と苦いている.これは,主に知的障害の子どもた. 異なった状況でのエピソードである.1日目の日 101.

(7) 学校臨床心理学研究 第12号(2014年度). ちの学習指導についての言葉である.「子どもの. いかけることになる.. 本来的な生活」とはどのようなことを意味してい. エピソードの分析結果は「家庭」というメタフ. るのかについては,明確には記述されてはいない.. ァを後押ししている.エピソード1から3までが. しかし,当時新卒だった自分は,「子どもの本来. 示しているように,外部の人から見ると,家族に. 的な生活」というものを先発教師たちから「理解. 見えるような状況と活動であること,それ以外の. することのできない課題や『将来の社会参加の素. エピソードでも同様である.在荷している児童に. 地つくり」とはかけ離れた知識技能につらい思い. とって「まるで家庭のような」感じを受けるとい. をしながら毎日取り組むのではなく,発達段階に. うことから,学校で行う教育活動ではあるけれど. 応じた興味関心のもてる課題に取り組み,達成感. も,「学校らしくない」側面をもっているという. を感じることのできる活動を積み上げて行く生. ことである.. 活」だということを教えられた.ここでいうとこ ろの「生活」には「社会生活」というよりも「育. ち,巣立ち,自立していく土台を希う場で. 3−2−3 筆者のメタファから描き出される特別 活動す. 支援教育のあり様 発達年齢が生活年齢と比べて遅れていたり,検. ること」という意味があると理解した.そこに筆 者のメタファの原型があるように思われる.. 査項目に大きなばらつきがあったりする子どもた ちが安定して登校するために必要なことを考える ことは,今後の特別支援学級での指導にとって重. 3−2−2 筆者の特別支援教育メタファ. 要である.こういった子どもたちが「安心できる」. 人の生き方や心の有り様を表現する文学的手法 として詩があるが,詩の表現をひときわ味わい深. 環境とはどのようなものだろうか.特別支授学級. いものにしている才支法にメタファがある.「人生. が有効に機能するためには,学習の遅れを取り戻. は辛くて長い」というのではなく「人生とは嵐の. す場として強調すること以上に,将来の社会参加. 中をゆく旅のようだ」と語ることで,より自分の. のために,自立の基礎を育む機能を充実させるこ. 実感を伝えることができるようになるのである.. とが必要だと考える. 特別支援教育には「スモールステップ」という. 自分の教職人生の実感を表現するのに,この手 法を用いることにした.秋田(1996b)は「何を 自らの専門性として教師が考えているのか,その. 手法があり,一般化している.少しずつ課題に慣 れさせていくことで最終的にはフルサイズの取り. 科目を数える塀度や経験回数が教科の授業に対し. 組みへとつなげる手法である.子どもたちが,朝,. てもつイメージに影響を与えているわけである.」. 自宅を出ると学校という大集団での学習が待って. と述べているが,それによると筆者の専門領域は,. いるという現状であるが,通常の学級と家庭との. 「特別支援学級での指導は『生活の自立を社会参. 問にもう一つ,ステップを設定することで,より. 加につなげること』であるからつまり自分の専門. 多くの子どもたちが社会参加の素地というものを. 領域は生活と将来の自立に関すること」というこ. マイナスイメージに陥ることなく身に付けること. とになる.そのことは,自分が特別支持教育に対. ができるのではないかと考える.. してもっているメタファにつながり,筆者のメタ. 家族というものを学校で再現することはできな. ファが「生活に関すること」であると考えること. いが,信頼できる者たちの生活の場としての家庭 を模して,環境設定することは可能なのではない. ができる.. かと考える.発達段階にばらつきがあったり,遅. また,秋田(1996a)は「授業とは(教師とは, 教えるということ)は?のようだ.なぜなら?だ. れが見られたりする児童たちには:この「家庭」. から」というメタファを使って授業や教師,教え. という環境設定をした中で,自立への取組を加速. ることのイメージについて自由に考えさせる,と. させることがもっとも効果的なのではないかと考. いうことに取り組んでいる.その間いを自分自身. える. 秋田(1996a)のイメージ化の手法で筆者のメタ. に当てはめるとしたら,「私にとって特別支授学 級は−のようだ.なぜなら∼だから」と自分に間. ファを記述すると以下のようになる. 102.

(8) 熟年期教師が考える特別支授教育の活動を特徴づけるエピソードとイメージ,そしてメタファ 一致師学への誘い 金子舞戻 74−88. 「私にとって,特別支授学級とは,まるで家庭の. Elbaz.F.(1981)TheTeacher’s“practicalKnow−. ようだ.なぜなら,障害のある子どもたちが安定 して育ち,自立の素地を身に付け,巣立っていく. ledge”:Repor・tOfaCaseStudy.CurriculumIn−. 場所だからだ.」. quiry,1143−71. これが本研究で描き出された筆者のメタファで. 内藤哲雄(1993) 個人別態度構造の分析につい. あり,通常の学級との違いについての説明である. て 信州大学人文学部人文科学論集 27. と言えよう. 特別支授学級という環境を自立のための大きな. 43−69. 藤田裕子(2010) 授業イメージの変容に見る熟. 手立てと考えるとき,そこに家庭という要素を意 図的に効果的に自立のために使えることが大切だ. 練教師の成長一自律的な学習を目指した日本. ということであり,筆者が一番伝えたいことであ. 教育工学会論文誌 34(1)67−76. 語授業に取り組んだ大学教師の事例研究 日本 松井千鶴子(2014) 総合的な学習の時間を重視. る.. するA′ト学校における教師の力景形成に関する. 事例的研究一 赴任初年度の教員を対象にし. 引用文献. たPAC分析による探究的な学習のイメージか. 小出進(1981) 実践生活単元学習 学研. ら 上越教育大学教職大学院研究紀要1. 秋田喜代美(1996a) 数える経験に伴う授業イ. 159−169. 三島知剛・石川裕敏・森敏昭(2013) 教職志望. メージの変容一喩生成課題による検討 教育. 学生のフレンドシップ参加裡験と授業・教師・. 心理学年報 44(2)176−186. 子どもイメージ及び教育実習前後の変容との関. 秋田喜代美(1996b) 授業をイメージする 浅. 係 日本教育工学会論文誌 36(4)407−418. 田匡・生田孝至・藤岡完治編著 成長する教師. 103.

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