長屋門の長屋空間に造られた茶室『成景庵』づくり覚書帖
竹中 勤 京の春を知らせてくれる枝垂れ桜があります有栖川旧邸の長屋門は、白い漆喰塗りの端 正な佇まいに、四季折々道行く人たちの心を和ませてくれております。 下立売通 この空間に茶の湯の稽古、お茶会が出来る茶室をつくってほしいというご依頼がありま した。その条件として床、外壁、天井、窓、出入口、土庇を現状のままでとの要望で、こ の内部空間に組込み造作する茶室作業に着手致しました。 茶室の間取りについて イ.奥行がなく間口が長い、その間口の中央あたりに既存の出入口があるため、茶室の広 さとしては京間寸法(1910×955)を守って間取りをしますが、ここでは茶室の基準 である四畳半席を両脇に配し、余った真ん中の部分は通路としました。又奥行きも、 四畳半席をとった残りの範囲は茶席と同じく両脇に水屋を配し、その中央の玄関は内 玄関の土間としてはどうかと考えました。(別図-1)別図-1 ロ.この平面にすると、四畳半席と四畳半席、水屋と水屋が連携して使用できにくいため、 土間の部分を少し残して式台の役割も果たす畳床の渡りを設け、その脇に下足入れを 設けました。それにより両方の四畳半席、水屋がつながる間取りとなり、人の動線が よくなりました。(別図-2) 別図-2
ハ.東側の四畳半席は東面の床脇に既存の窓があるので四畳半を広間席として、床の間の 柱は北山杉丸太、床框は北山杉太鼓落し天端ロイロカシュー塗、床脇は書院風に赤松 の地板を設け窓の部分に障子を配しました。(別図-3) ニ.西側の四畳半小間席の意匠として床の間の柱は赤松皮付、床框は杉へっぺい、床脇は 壁面風な襖を設けて道具入れとしました。(別図-4) 別図-3 別図-4
ホ.水屋空間の室礼は、西側は座って使う水屋とし、東側は給排水設備が取れないため、 水タンクとバケツが仕組まれた台を設けて、立ち使いの水屋とすることで対処しまし た。(別図-5、6、7) 別図-5 ヘ.東側の四畳半席の通路との境の襖の敷居と畳を西側の四畳半席にずらすと、六畳 の 茶席となります。その場合、東側の水屋を屏風で隠すことにより、寄付待合としても 利用できます。(別図-8) 別図-7 別図-6
ト.茶室六畳席にずらした襖を全て取り外すと、十畳半席となります。その場合は人の動 きに対応できるよう、内玄関出入口の建具を外して残りの土間の部分にスノコをしき、 出入りがしやすいようにと考えました。(別図-9)
チ.西側の四畳半席に躙口を設けてはとの要望がありましたので、式台の渡り畳床組を可 動的な床机にして、それを 2 分して取り外すことで、玄関土間に戻ります。(別図-10) 客出入口 躙口 土間に接する西側の茶室四畳半席の客入口の襖を取り外し、そこに取り外しができる躙 口を設け、躙口の上部には障子をはめ込んだ意匠にしました。また、土間には、茶道口へ の通り道と合わせて、躙口が使用できない方のための客通路としても使えるように渡り台 と目隠しの鉄砲垣を配しました。(別図-11)渡り畳床が床机 2 台になりましたので、それ を出入口右側の土庇に置き、腰掛待合として利用しています。(別図-12)
リ.西側の四畳半席の躙口を使用して、お茶会等をされる場合には、東西の水屋が連携し て便利に使えるように、玄関の建具を外して土間に渡りのスノコ床を設けました。床 机によって腰掛待合ができた後に、蹲踞を設けたいとの最後の要望がありましたので、 内玄関入口廻りの雰囲気づくりとして、既存の土庇に袖壁を設けました。蹲踞を設け る場所は、既存の植込がある出入口の左側の脇に蹲踞を作庭致しました。(別図-13) 別図-13 茶室は茶道具のひとつですが、唯一取り替えができません。茶室の炉と風炉、四畳半席、 六畳席、十畳半席の畳の入替、又、内玄関にある可動の工作物(床机、スノコ、鉄砲垣、 渡り台)の組替等、それらを使ってお茶会等の使用目的によりとりあわせを考えて、茶室 を使用することで、10 年 20 年……50 年の茶室の雰囲気がつくり続けられます。日本の伝 統文化の総合芸術である茶の湯が展開され、豊かな心を持って自然と人、人と人をつなぐ 場として茶室成景庵がその役割を担う空間となるよう願っています。 ( (株)淡交社建築部長 ) 蹲踞