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日本人英語学習者の言い換え表現の理解-明示的知識の必要性を探る-

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1.はじめに 英語の文章を読むときに,「一文一文(単文)はわかるのに文章全体になると何を言っているかわ からない」という学習者がいる。本研究の原点はこのような現象の原因を探ることにある。日本にお ける英語教育の現場-特に高等学校-では,生徒に教科書の文章を読ませるとき,一文一文の和訳が できた段階で文章理解が完了したと判断される傾向がある。このことはいわゆる「訳読式授業」でよ く目にすることである。すでにこれまでの研究で,文章理解は単なる単文理解の積み重ねから得られ るものではないとされているが,具体的に単文理解以上のどのような要素が含まれているのかはまだ 十分に明らかになっていない。一文一文が理解できているにも拘わらず,物語の流れを把握できなか ったり,著者の意図を読み取れなかったりするのは何故か。また,そのような学習者に対してどのよ うな指導が有効であるのか。明らかにするべきことは多くあるが,本研究はその一端を担うものであ り,Minowa(2008)(Minowaは研究者の旧姓)で行われた一連の研究の追試である。

学苑 No.828(73)~(82)(200910)

日本人英語学習者の言い換え表現の理解

 明示的知識の必要性を探る

臼 倉 美 里

JapaneseLearners・ComprehensionofLexicalCohesion ExaminingtheEffectofExplicitLinguisticKnowledge

MisatoUSUKURA Abstract

This study investigated to what extent learners・explicit knowledge influences their understandingoflexicalcohesioninEnglishsentences.Lexicalcohesionisakindofreferential expression whereanoun in asentenceisrewordedby anothernoun,usually onewith more generality.Lexicalcohesionsin English and Japanesehavesomedifferentfeaturesin their usage.ItisassumedthatJapaneselearnerswouldhavedifficultyunderstandingwhatgeneral nounsusedforlexicalcohesionreferredtoduetotheinterlingualdifferences.Itisbelievedby quiteafew JapaneseEnglishteachersthatexplicitknowledgeaboutEnglishdiscoursedevices ishelpfulforreading comprehension.Theeffectivenessofsuch knowledge,however,hasnot beeninvestigatedenough.ThepresentstudyexaminedwhetherJapaneselearnersneedexplicit knowledgeto understand English lexicalcohesion.Also,iflearnersareableto comprehend English lexicalcohesion withoutany explicitknowledge,whatcomponentofEnglish ability complements the absence of knowledge? In the present study,the relationship between JapaneseEFL(Englishasaforeignlanguage)learners・explicitknowledgeofEnglishlexical cohesion and theircomprehension wasinvestigated,togetherwith theinfluenceofsentence comprehension speed.The resultindicated thatlearners were able to comprehend English lexicalcohesionswithoutexplicitknowledge,butrelevanceofsentencecomprehension speed wasnotverified.

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2.研究の背景 2.1 単文理解から文章理解へのプロセス 文章理解に至るまでのプロセスは「単文理解」から始まり,照応表現の理解に代表されるような 「文と文のつながりの理解」を経て,最終的に「文章全体の理解」へと至る。本研究では「文と文の つながりの理解」に焦点を当てる。冒頭に述べたような「一文一文はわかるのに文章全体になると何 を言っているかわからない」学習者は,単文理解のステップはクリアしていると考えられるから, 「文と文のつながりの理解」か「文章全体の理解」のどちらかが不十分であることになる。本研究で はさしあたり前者(文と文のつながりの理解)に焦点を当てる。 学習者がどのようなプロセスで文章を理解しているのかを示すモデルはいくつか提唱されているが, 中でも代表的なものとしてボトムアップ処理モデル(Gough,1972), トップダウン処理モデル (Goodman,1996),相互作用補完モデル(Rumelhart,1997;JustandCarpenter,1980;Stanovich,2000)

などがある。本研究では相互作用補完モデルを支持し,学習者の知識不足が他の要素によって補われ るかを検証する。具体的には,明示的知識(詳細は付録 1参照)がなくても語彙や構文が定着していれ ば,言い換え表現を正しく理解できるのかどうかを調べる。ことに学校英語教育においては,限られ た授業時間を有効に使うためには「教えるべきこと」と「教える必要がないこと」の選別が重要にな ってくる。言い換え表現についての明示的知識を学習者に与える必要があるかどうかを検証すること で,この選別の判断材料を提供したい。 2.2「言い換え表現」の日英語の違い

Halliday & H asan(1976)は,「文と文のつながり」のことを結束性(cohesion)と呼び,下位項 目として(1)照応表現,(2)省略,(3)代用,(4)語彙的結束性,(5)接続表現を挙げている。本 研究ではその中で(4)語彙的結束性に注目する。語彙的結束性とは,文章中にすでに出てきた名詞 を別の名詞通常はより一般的な名詞で言い換えることにより表現される。例えば,John F. Kennedyという語を theyoung leaderというような語で言い換えるような場合を指す。本研究で はこのような言い換え表現に焦点を当てる。 日英語の言い換え表現には異なる特徴がある。一つ目はその頻度である。日本語も英語も言い換え 表現は存在するが,その頻度は日本語よりも英語の方が高い。二つ目に,ある名詞が繰り返し言い換 えられるとき,英語ではそのつど異なる名詞を使用する傾向があるが,日本語の場合英語と比べて同 じ名詞が繰り返し使用される。このような違いから,日本人英語学習者が英語の言い換え表現を理解 する際,ある名詞が異なる名詞で何回も言い換えられるとき,それらが同じ名詞を指していると判断 せず異なる名詞を指していると誤って理解してしまう可能性がある。本研究では,このような日英語 の言い換え表現の特徴の違いについての明示的知識が,文章理解にとって不可欠なものであるのか, つまりは教える必要があるかを検証する。 2.3 文章理解における読解速度の重要性 文章理解のプロセスは(1)ディコーディング(解読)と(2)コンプリヘンション(理解)という 2 つの過程に分けて考えることができる(HooverandGough,1990;Samuels,1994)。文章理解のためには

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この 2つの過程の両方に長けていなくてはならず,Carver(1990,1992a,1992b,1997)は,ある程度の スピードで文章を読み進められなければ正しい文章理解はできないとしている。英文を速く読めると いうことは,その文に含まれている語彙や構文が定着していることの表れであり,それはすなわち学 習者の英語力の違いを反映している。このような考えに基づき,本研究では被験者の単文理解速度を 定着度の指標として用いる。そして定着度が知識不足を補って,学習者の言い換え表現の理解を促す かどうかを検証する。高等学校におけるリーディングの授業では,一つ一つの文の意味を理解できた 時点で文章理解が完結したと判断されることが多いが,実はリーディング力の重要な要素の一つに 「読みのスピード」があり,これはすなわち読んでいる英文の定着度を示す指標にもなり得るのでは ないか。ここでは語彙および文構造の定着度の指標として「理解速度」を用いることで,速く読める ことが定着度の指標となり,さらには学習者の知識不足を補って文章理解を助けるかどうかを検証する。 3.先行研究と本研究のつながり

先にも述べたように本研究は Minowa(2008)の追試研究である。Minowa(2008)では日本人高 校生,大学生を対象に(1)照応表現(前方照応,後方照応)の理解,(2)言い換え表現の理解,(3) 接続表現の理解,(4)パラグラフ構造の把握における明示的知識の必要性と単文理解速度の重要性が 検証された。その結果,明示的知識の影響はほとんどなく,その一方で単文理解速度の影響がほとん どの項目で認められた。ただし,実験に使用したマテリアルに改善の余地が残ったため,本研究では 言い換え表現の実験マテリアルを修正し,追試を行う。 具体的な修正点は,文中の単語を易しいものに書き換えたことと,文構造をよりシンプルなものに したことである。これは,Minowa(2008)のデータ分析の際,一文一文を正しく理解できなかった 被験者は分析対象外としたのだが,予想以上に対象外となった被験者が多かったことを受けての修正 である。さらに,Minowa(2008)では 1種類の文章のみを使用したが,本研究では同一被験者に追 加でもう 1種類の文章を読んでもらい,言い換え表現の理解を測った。問題数を増やすことで,より 高い妥当性信頼性を得られると考えた。 4.リサーチデザイン 4.1 リサーチクエスチョン (1) 一文一文を理解できている状態で英語の言い換え表現が含まれた文章を読んだとき,言い換え 表現の理解に関する明示的知識は必要か。 (2) 明示的知識の不足を単文理解速度(=定着度)が補うか。 (3) 単文理解速度(=定着度)は文章全体の内容理解度を示す指標になり得るか。 4.2 被験者 教員養成系の国立大学に通う大学生 36名。3年生 27名,4年生 9名で,専攻は多岐にわたる。 4.3 マテリアル (1) 明示的知識と教育的バックグラウンドを問うアンケート このアンケートでは学習者が日英語の言い換え表現の特徴についての明示的知識を持っているかど

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うかを調べるものである。詳しくは付録を参照されたい。

(2) 言い換え表現の理解を測る読解テスト A,B(以下,「言い換え表現テスト」と記す)

2種類のニュースを基にした物語文を読み,その中に出てくる登場人物を表にまとめる。その際, 同一人物を表す表現はひとまとめにして記述する。詳しくは付録を参照されたい。なお,使用した 2 種類の文章は共に総語数が 119語で,リーダビリティー(Flesch-Kincaid Reading Ease)は 88.0と 84.5でほぼ同等の難度である。また,このテスト用紙の裏側には再生テストの解答欄が設けてある。 再生テストは文章全体の理解度を測るために用いる。 (3) 単文理解速度を測る和訳テスト A,B(以下,スピード和訳テスト) 言い換え表現テスト Aと Bに含まれている英文の中から比較的長めの英文を 6文ずつ選び,順番 をバラバラにし,代名詞などの照応表現を普通名詞に置き換えて,単文和訳テストを作成した。文と 文のつながりは無く,各文が独立完結している。被験者に口頭で与えた指示は「これはスピード和 訳テストです。プリントに載っている英文をできるだけ速く和訳してください。文字は読める程度の ていねいさであれば良いので,きれいに書かなくてもかまいません。とにかく速く和訳するようにが んばってください」であった。教室の前方に設置したスクリーンにプロジェクタでパワーポイントの スライドを映し,タイムキーパー代わりに使用した。経過時間を 1秒ごとに表示し,被験者には和訳 が終わったら終了時間(○分○秒)を記入し,用紙を裏返してテスト終了の合図を待つように指示した。 4.4 実験手順 実験は通常の授業内に実施し,2回に分けて行われた。1回目には最初にアンケート(5分)を実施 し,続いて言い換え表現テスト A(10分,再生テストを含む。)を行った。2回目の授業では言い換え 表現テスト B(10分,再生テストを含む。)を実施し,引き続いてスピード和訳テスト Aと Bを実施し た。スピード和訳テストの実施時間は個人によって異なるが 3分半程度で全員が終了した。 4.5 分析方法 (1) アンケートの集計と分析対象者の抽出 アンケートの回答をもとに,明示的知識の有無を判断した。すべての質問に正しく解答した被験者 は「明示的知識あり」,それ以外は「明示的知識なし」と判断した。 どれか 1つでも不受験のテストがあった被験者,スピード和訳テストで不正解の問題があった被験 者,1年以上の海外在住経験がある被験者は分析対象外とした。その結果,分析対象者は 24名とな った。 (2) 言い換え表現テスト(再生テストを含む)の採点 文章中に出てくる言い換え表現 1つにつき 1点を配点した。その結果,言い換え表現テスト Aは 10点満点,Bは 18点満点,合計 28点満点となった。 また,付属の再生テストの採点方法は Minowa(2008)に準じた。重要度に応じて 1点~3点の配 点を付された IdeaUnitリストを用いて研究者が採点を行った。言い換え表現テスト Aの再生テス トの満点は 35点,Bは 22点で,総得点は 57点となった。 (3) スピード和訳テストの採点と和訳速度の算出 Minowa(2008)で複数の評価者により設定した和訳採点基準に則り,今回は研究者一人で採点を

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行った。一問でも不正解があった被験者は分析対象外として除外し,全問正解した被験者の和訳速度 を秒単位で算出した。そしてそれを文の総数(12文)で割り,「平均単文和訳速度(1文あたりの和訳 速度)」を算出した。 (4) 明示的知識の必要性の検証 アンケートと言い換え表現テストの結果に応じて,被験者を 2×2のクロス集計表にまとめ,明示 的知識の有無と言い換え表現の理解に関係性があるかをフィッシャーの直接法で検証した。統計処理 には SPSS15.0と MicrosoftExcel2007の分析ツールを使用し,有意水準は 0.05に設定した。 (5) 単文理解速度(定着度)が知識不足を補っているかの検証 言い換え表現テスト A,Bの結果により,被験者を「上位群(26点以上)」と「下位群(25点以下)」 の 2グループに分けた。このとき,言い換え表現の「知識あり」の被験者は除いた。そして上下 2群 の平均単文理解速度に違いがあるかを t検定で検証した。統計処理ソフトおよび有意水準の設定につ いては(4)と同様とした。 (6) 単文理解速度(=定着度)が文章全体の理解度を示す指標になり得るかの検証 単文理解速度(=定着度)と文章全体の内容理解度の関係を調べるために,ピアソンの積率相関係 数を算出した。また,再生テストのスコアをもとに被験者を上位群(51点以上)と下位群(50点以下) に分け,2グループ間の平均単文理解速度に差があるかを t検定で調べた。 5.結果と解釈 5.1 記述統計量 表 1は言い換え表現テストとスピード和訳テストの結果をまとめたものである。全体的に言い換え 表現の理解はできていると言える。 表 2および表 3は明示的知識の有無と言い換え表現の理解の関係をまとめたクロス集計表である。 表 2では言い換え表現の解答が満点だった被験者と 1問以上ミスがあった被験者に分けた。言い換え 表現テストで満点を取った被験者が 1名しかいなかったため,もう 1種類の分類として,言い換え表 現テストの得点が 25点以上の被験者と 24点以下の被験者に分けてデータをまとめなおした。その結 果が表 3に示してある。25点以上の被験者は言い換え表現の理解が比較的よくできていると判断し, 24点以下の被験者は言い換え表現の理解が不十分であると判断した。 表 1.記述統計量 N Mean(SD) 言い換え表現テスト 24 24.75(2.17) 平均単文理解速度 24 26.95(2.85) ※言い換え表現テストは 28点満点。和訳速度の単位は秒。 表 2.知識と理解の関係-1 言い換え表現 知識 満点 ミスあり あり 0 3 なし 1 20 表 3.知識と理解の関係-2 言い換え表現 知識 2825 24以下 あり 3 1 なし 13 8

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明示的知識の有無と言い換え表現の理解に何らかの関係性があるかどうかを調べるためにフィッシ ャーの直接法を使用した。その結果,有意な関係性は見られなかった(p>.05)。表 2,表 3が示すよ うに,本研究の被験者のほとんどが言い換え表現に関する明示的知識を持ち合わせていなかったが, 約半数(13人)が 25点以上を獲得している。言い換え表現を理解するために,明示的知識は必ずし も必要ではないと言える。 続いて,明示的知識不足を単文理解速度(=定着度)が補うかを検証するために,「明示的知識なし」 の被験者 21名を言い換えテストの結果をもとに上位群下位群に分けた[上位群:平均 26.4(SD 0.7), 下位群:平均 23.18(SD 2.18),t検定の結果,平均点に有意差あり(t(12)=4.636,p=0.00)]。25点以上を上位 群,24点以下を下位群とした。2群の平均単文理解速度[上位群:平均 27.52(SD 2.71),下位群:平均 26.18(SD 3.17)]に差があるかを確かめるために,等分散性の検定を行った後,t検定を実施した。そ の結果,2群の平均単文理解速度には有意な差は見られなかった(t(19)=1.033,p=0.32)。 次に,単文理解速度が文章全体の内容理解度の指標になるり得るかを調べるために,平均単文理解 速度と再生テストスコアの相関係数を算出した。ピアソンの積率相関係数は r=-0.1で,極めて低 かった。このことは図 1(散布図)を見ても明らかである。 さらに,被験者全体を再生テストの結果に応じて上位群下位群に分け[上位群:平均 53.62(SD 1.39),下位群:平均 41.91(SD 8.25),t検定の結果,平均点に有意差あり(t(10.00)=-4.65,p=0.00)],両群の 平均単文理解速度に差があるかを調べた。等分散性の検定の後,t検定を実施した。その結果,両群 の平均単文理解速度[上位群:平均 26.59(SD 3.32),下位群:平均 27.37(SD 2.24)]には有意な差が見られ なかった(t(22)=0.662,p=0.51)。 5.2 リサーチクエスチョンの答え (1) 一文一文を理解できている状態で英語の言い換え表現が含まれた文章を読んだとき,言い換え 表現の理解に関する明示的知識は必要か。 必要性は極めて低いと言える。前のセクションでも述べたように,本研究で分析対象とした被験者 のほとんどが言い換え表現に関する明示的知識がなかったにも拘わらず,約半数が言い換え表現をほ とんど理解できていた。このことから,明示的知識の必要性は低いと言える。 (2) 明示的知識の不足を単文理解速度(=定着度)が補うか。 知識不足を定着度が補っているかどうかは本研究では明らかにならなかった。言い換え表現に関す る明示的知識がない被験者を,言い換え表現テストの結果に応じて上位群下位群に分け,両群の平 図 1.平均単文理解速度と再生テスト

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均単文理解速度に差があるかを検証した結果,有意な差は見られなかった。つまり,言い換え表現の 理解度の差を単文理解速度で説明することはできなかった。しかしこの結果については被験者数を増 やして追実験を行えば,異なる結果が得られるかもしれない。 (3)単文理解速度(=定着度)は文章全体の内容理解度を示す指標になり得るか。 再生テストと単文理解速度の結果に有意な関係が見られるかどうかを検証した結果,本研究で分析 したデータ内では 2つの変数間に有意な関係は確認されなかった。また,再生テストのスコアの違い を単文理解速度(=定着度)の違いで説明することはできなかった。これは先行研究で結論づけてい る,文章理解における読みの速度の重要性と相反する結果であるが,本研究の被験者の単文理解速度 に十分なばらつきが見られなかったことが原因のひとつであると考えられる。今後,異なるレベルの 被験者を加えて追実験を行いたい。 6.教育的示唆 本研究では日英語の言い換え表現についての明示的知識が,その理解に必要不可欠なものであるか を検証した。その結果,一文一文が理解できていれば,知識がなくても言い換え表現の理解ができる ということがわかった。このことから,学校教育現場において言い換え表現について明示的に知識を 与える必要性は低いと言える。限られた授業時間を有効に使うためには,明示的知識を与えることよ りもより多くの英文に触れさせて語彙や構文の定着を図ることを優先させるべきであろう。高等学校 の英語教師の間では,文章構造やディスコースマーカーについて明示的に説明をしたり,学習者の注 意をそれらに向けさせるためのストラテジー指導をすることが,リーディング力の育成に有効である と信じられている。これらの指導が全く有効ではないとは言わないが,限られた時間をわざわざ割い て行う必要はないだろう。 7.今後の課題 より信頼性の高い結果を得るために,改善点がいくつかある。第一に,異なる被験者のデータを加 えて再分析する。第二に,明示的知識の測り方を再検討する必要がある。Minowa(2008)および本 研究では,日英語の言い換え表現の特徴を記した説明文としてふさわしいものを,選択肢の中から選 ぶ形式を用いた。例えばこれを記述形式にしたり,言い換え表現に使用できる名詞を選ばせたりする 形式で問うたら,より深いレベルでの明示的知識を測ることができ,異なる結果が得られるかもしれ ない。最後に,本研究では十分に証明することができなかった単文理解速度の重要性を再検証したい。 文章理解に対する単文理解速度の重要性は先行研究でも指摘されているが,速度が定着度の指標とな り得るかどうかの検証は,まだ十分に行われていない。今後の研究でこの点をさらに明らかにし,文 章理解との関わりを追究したい。 8.まとめ 本研究では日本人学習者の言い換え表現の理解に,明示的知識が必要であるかを調べた。また,知 識が不足しているときに,それを単文理解速度,つまり単文に含まれる語彙や構文の定着度が補うか どうかを検証した。データ分析の結果,一文一文が理解できている場合は,明示的知識の必要性は低 いということがわかった。知識の必要性が低いということは,知識が不足していても何らかの要素が

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それを補って文章理解を促しているということになるが,本研究ではそれが何であるかまでは明らか にすることができなかった。これまでの先行研究の結果から,単文理解速度であらわすことができる 語彙や構文の定着度が,知識不足を補う補助輪の役割を果たしているのではないかと予測したが,本 研究のデータ分析結果からは確証は得られなかった。これは,分析対象となった被験者の数が少なか ったことや,被験者の英語力に偏りがあったことが原因であると考えられるので,引き続き追試を重 ね,単文理解速度(定着度)が明示的知識の不足を補い文章理解を助ける可能性を検証していきたい。 引用文献

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Minowa,M.(2008).JapaneseEFL learners・comprehensionofEnglishdiscourse:Factorsaffectingtheir comprehension.Unpublished doctoraldissertation,Tokyo GakugeiUniversity United Graduate SchoolofEducation,Tokyo.

Rumelhart,D.E.(1997).Towardandinteractivemodelofreading.In S.Dornic(ed.),Attention and performanceⅥ,573603.Hillsdale,NJ:LawrenceErlbaum.

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Stanovich,K.(2000).Progressinunderstandingreading:Scientificfoundationsandnew frontiers.New York:GuilfordPress.

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付録 1:明示的知識を測るアンケート このアンケートは,みなさんの知識を調べるためのものです。点数をつけることが目的ではないので,自分 の答えに自信がないときは,「今までに習ったことがないからわからない」や「今までに習った気がするが, 忘れてしまった」に○をつけてください。 (1) 日本語の言い換え表現の特徴について述べたものとして,もっとも適切なものを(A)~(C)から 1 つ選び記号を○で囲んでください。 (A) 言い換えるとき,同じ名詞を繰り返し使うことが多い。 (B) 言い換えるとき,そのつど違う名詞を使うことが多い。 (C) 特に(A)や(B)のような特徴はない。同じ名詞を繰り返し使うこともあるし,違う名詞を使 うこともある。 (D) 今までに習ったことがないからわからない。 (E) 今までに習った気がするが,忘れてしまった。 (2) 英語の言い換え表現の特徴について述べたものとして,もっとも適切なものを(A)~(C)から 1つ選 び記号を○で囲んでください。(選択肢は(1)と同じ) (3) 日本語と英語の言い換え表現の特徴について述べたものとして,もっとも適切なものを(A)~(D) から 1つ選び記号を○で囲んでください。 (A) 日本語の方が英語よりも,省略する(あえて書かない)ことが多い。 (B) 英語の方が日本語よりも,省略する(あえて書かない)ことが多い。 (C) 日本語も英語も,同じくらい省略する(あえて書かない)。 (D) 日本語も英語も,同じくらい省略せずに言い換え表現をする(書く)。 (E) 今までに習ったことがないからわからない。 (F) 今までに習った気がするが,忘れてしまった。 1年以上の海外在住経験がある人は,国名と滞在時期を記入してください。 ■国名: ■滞在時期:( )歳 ~ ( )歳まで ■英語関係の資格を取得している人は,その内容を記入してください。 (例:英検の級,TOEIC,TOEFLなどのスコア) 付録 2:言い換え表現テスト(指示文は A,B共通) [A] 下の文章中に登場している人物は,何人何種類いますか? 例を参考にして表にまとめる形で答えてください。同じ人物を表している単語が複数ある場合は,同じ列に 書き込んでください。(※紙面の都合上,ここでは例省略)

A youngmanbrokeintoMr.andMrs.Brown・shouse. Mr.Brownwas50yearsoldandworked foracitybank. Mrs.Brownwas48yearsoldandworkedatasupermarket. Therobbertied* them up w ith ropes,and demanded*somemoney. When Mrs.Brow n gavetheman $100,he demandedmore. Mrs.Brownaskedtherobbertountie*theropessothatshecouldgooutand borrow $200from aneighbor.

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andleft. In thereceipt,hewrotehisnameandaddress. Thatsamenightthepolicearrested* him. The18-year-oldboyconfessed*tothecrime.

*tie=縛る *demand=要求する *untie=ほどく *receipt=領収書 *arrest=逮捕する *confess=自白する

[B]

InAustralia,onesummernight,parentsofafive-year-oldboywokeupandfoundabigpython* approachingtheirson.Thebigsnakewastryingtokilltheboy.

Theboy・smother,Mrs.Robinson,said:・Itwaslikeahorrormovie.Itwasahotsummer nightandKevin wassleeping in hisbed.Hesuddenly startedcrying.Wewokeupandquickly wentto hisroom.When weopened thedoor,wesaw a huge*snakenextto our boy. The creature*washugeandscaryandtryingtokillhim.・

Mrs.Robinsonandherhusband,Peter,triedtokillthecreaturewithaknifebutthepython escaped.Thelittleboystoppedcryingandhugged*hisparents.

*python=大蛇 *huge=巨大な *creature=生物 *hug=抱きしめる,抱きつく 付録 3:スピード和訳テスト(指示文は A,B共通。回答欄は省略。)

[A]

次の英文をできるだけ速く和訳してください。文字は読める程度のていねいさでかまいません。すべて答え 終わったら終了した時間を書き込んでください。

(1) A youngmangaveareceipt*tothewomanandleft. *receipt=領収書 (2) The18-year-oldboyconfessed*tothecrime. *confess=自白する

(3) Mrs.Brownaskedtherobbertountie*theropessothatshecouldgooutandborrow $200 from aneighbor. *untie=ほどく

(4) Therobbertiedthemanupwithropes,anddemandedsomemoney. (5) AfterMrs.Brownreturnedhomewithmoney,shegaveittotheman. (6) WhenMrs.Browngavetheman$100,hedemandedmore.

[B]

(1) Thecreature*washugeandscaryandtryingtokillhim. *creature=生物 (2) ItwasahotsummernightandKevinwassleepinginhisbed.

(3) Thelittleboystoppedcryingandhugged*hisparents. *hug=抱きしめる

(4) Parentsofafive-year-oldboywokeupandfoundabigpython*approachingtheirson. *python=大蛇 (5) Whenweopenedthedoor,wesaw ahuge*snakenexttotheboy. *huge=巨大な

(6) Mrs.Robinsonandherhusband,Peter,triedtokillthesnakewithaknifebutitescaped.

参照

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