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学習者の内発的動機づけを高める教育実践介入

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Academic year: 2021

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実践報告

学習者の内発的動機づけを高める教育実践介入

森沢知之、玉木彰

兵庫医療大学リハビリテーション学部

Tomoyuki MORISAWA,Akira TAMAKI

School of Rehabilitation, Hyogo University of Health Sciences

The Educational Intervention that Enhances Intrinsic Motivation of Students

要 旨

 内発的動機づけは、学習者自らが学ぼうとする願望と好奇心であり、外発的動機づけ(報酬・賞賛など) によって得られた知識よりは記憶に残りやすいとされている。内発的動機づけには自律性、有能性、関係 性の3つの心理的欲求を充足することが必要であり、内部障害理学療法(循環・代謝)の授業ではこの3 つの心理的欲求を考慮した授業を展開している。また授業の最初に行うイントロダクションには力を入れ ており、その他にも双方向対話式、ビジュアルエイドの活用、授業資料の工夫、地域連携プロジェクトへ の参加など、学習者の学習意欲を促進させる取り組みを行っている。授業の振り返りは学習者からの授業 評価、学部および全学FDによる振り返りの他にも独自の授業アンケートを行っており、その結果をもと に、授業を改善する取り組みを行っている。授業評価の結果、総合点および「この授業に意欲的に取り組 みましたか」の質問に関する結果は比較的評価が高く、内発的動機づけを考慮した取り組みが学習者の学 習意欲を少なからず高めたものと推測される。しかしその一方で、「事前・事後の取り組み」は他の項目 と比較しても低値であり、今後も再考する必要がある。 キーワード:内発的動機づけ、自律性、有能性、関係性、振り返り 受付日:平成 29 年 7 月 20 日   受理日:平成 29 年 11 月 1 日 Ⅰ はじめに  学習者が自律的に学習を行おうとする意思決定に は、学習者の持つ動機づけ(学習意欲)のあり方が大 きく関わる。心理学において、行動遂行の報酬(褒美 や賞賛など)により人が動機づけられることを「外発 的動機づけ」と呼び、報酬がなくても行為遂行そのも のに価値を見いだし行動が動機づけられることを「内 発的動機づけ」と呼ぶ。内発的動機づけは学習者のな かにあって学習行動を推進するものであり、何かを知 りたいという願望あるいは好奇心や、あるものについ ての驚きや疑問などである。教育心理学者によれば、 この内発的動機づけは、外発的動機づけよりも学習者 の学習行動を左右する重要な要因であり、この内発的 動機づけを喚起し高めることによって、学習をより自 発的に行わせることができるとされている1)  内発的動機づけを促進する前提条件として、「自律 性(autonomy):何をどうするべきかについて自己決

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森 沢   知 之 他 定することで、責任感を持ちたいという欲求」、「有能 性(competence):行動をやり遂げる自信(自己効力感) や自己の能力を示す機会をもちたいという欲求」、「関 係性(relatedness):周りの人や社会とつながりを持ち、 有効な連帯感を持ちたいという欲求」の3つの心理的 欲求の充足が必要とされている2)  「内部障害理学療法学Ⅱ」及び「内部障害理学療法 学実習(循環・代謝)」の授業では、学習者の内発的 動機づけを促進するために、自己決定理論における3 つの心理的欲求を考慮し、さらには学習者の学習意欲 を促進するための取り組みとして双方対話式、ビジュ アルエイドの活用、地域連携プロジェクトへの参加な どの授業を展開している。本稿において、授業の実践 方法と振り返りを紹介する。 Ⅱ 授業概要と目的  「内部障害理学療法学Ⅱ」「内部障害理学療法学実習 (循環・代謝)」は、基礎分野で学んだ基礎知識(解剖 学・生理学・内科学など)をもとに、内部障害理学療 法の評価法や治療に必要である知識や技術を、講義や 実習を通して学ぶ科目である。「内部障害理学療法学 Ⅱ」では、循環・代謝疾患(心不全、心筋梗塞、腎不 全など)に対する理学療法評価を理解・修得するため に、フィジカルアセスメント(問診・聴診・視診・触 診)、心電図や心肺運動負荷試験の測定とその解析を 行い、さらには胸部X線や心臓超音波検査、その他の 各種生理検査データの結果を解釈する力を身に付け、 自ら循環・代謝疾患患者の問題点の抽出と重症度の層 別化を行えるようになることが目的である。また「理 学療法学実習(循環・代謝)」では、その治療手段を 理解・修得することを目的としている。 Ⅲ 授業実践① ─内発的動機づけを促進するための活動─ 1.イントロダクション  授業の初回にはイントロダクションの時間を十分に 設け、授業の目的、概要、教育目標、到達目標、スケ ジュール、受講のルールなどを学習者と再確認してい る。第1回目の授業で最も大事なことは、学習者に「こ の授業を学びたい」と動機づけさせることであり、そ の点で言えば、初回の授業が最も肝要であると考える。 授業を開始する前に「なぜこの授業が大事か」、「この 授業で何を学び、何を修得するのか」を学習者に意識 づけさせている。また、あらかじめゴールイン(合否 の基準)を具体的に明示し、どこに向かって努力する のかを意識させるようにしている。 2.事前・事後学習への取り組み  事前学習の課題は1・2年次に修得した基礎科目(解 剖学・生理学・基礎理学療法学)の知識を見直し、レ ポートとしてまとめる課題を課している。授業の当日 は、その既有知識を足場にし、新たな知識を積み重ね るように授業を展開している。事前学習のレポート内 容はあえて詳細な課題を与えず、次の授業を受けるま でに、事前学習として必要な部分を自ら判断し、事前 学習するように指導した。そのため、次の授業資料は 1週間以上前にmoodle上にアップし、事前学習の機 会を設けるようにした。また、学習者が基礎科目をど の程度(内容・範囲)学習しているかの確認が教員に は必要と考え、基礎科目の授業にも定期的に参加させ てもらい、情報収集を行っている。  事後学習の取り組みとして、授業の最初には前回授 業の確認テストを実施している。単なる復習に留まら ないように、確認テストの問題はやや難易度を高くし たレベルに設定している。 3.グループワークの推進  授業ではグループワークの時間を設けている。各グ ループにテーマや症例を提示し、代表者のリーダーシ ップのもと、調査や資料作成などの各役割を決めて、 グループで活動する。後日、発表と総合討論を行い、 さらに知識を深める取り組みを行っている。 4.地域交流プロジェクトの活用  筆者は平成27および28年度兵庫医療大学地域交流 プロジェクト代表として、地域高齢者に参加していた だき身体測定・身体機能計測を実施した(図1)。こ の測定会には学部の学生にも参加を促し、地域交流を 通じて、授業で学んだ方法を実践できる場を提供して いる。 図1.地域連携プロジェクト

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Ⅳ 授業実践② ─その他の取り組み─ 1.双方対話式授業  授業中は学生に対する質問の機会を多くとり、学生 の理解度を確認しながら進めるようにしている。双方 対話式にすることで、学生から質問しやすい環境づく りに努めている。正しい回答の際には賞賛し、誤った 回答の際には、なぜそのような回答に至ったかのプロ セスを重要視するようにしている。 2.連続性のある授業(基礎から応用への展開)  モデルケースとして、ある授業の2回分を図2に示 す。基礎部分と応用部分の二段階で構成しており、基 礎部分では、その基礎となる部分をなるべく丁寧に反 復して説明し、実際に行わせる。学生には成功体験、 自信、満足感を与え、肯定と称賛をおくる。応用部分 では難題を課し、奥深さと探求心を促し、否定と注意 喚起を行う。 3.授業資料の工夫  文字と図の組み合わせによる資料は理解の促進が図 れる(文字と図表のバランス)。資料は目を引く、記 憶に残りやすいインパクトのある資料作成を心掛けて いる。以前の資料は、重要な文章、キーワードを存分 に書き込んだ資料を配布していたが、学生はマーキン グすることに集中していた。そのため、重要な項目を わざと空白にし、学生自らの言葉で書きこめる資料に 変更した。これにより、学習者はキーワードを聞き漏 らさないよう、以前よりも集中力が増したように感じ ている。 4.ビジュアルエイドの活用  映像を授業に取り入れることで、学生の関心は高ま りやすくなる3)。スライドや教科書以外にも、ビデオ・ DVDを適宜使用し、学生の関心を集めるように工夫 している。特に、実際の臨床場面の動画などは学生の 注目度が増す。なるべく学習者が臨床場面をイメージ しやすいように、動画、ゲーム形式で行う心電図クイ ズなどのビジュアルエイドを活用している。 Ⅴ 授業の振り返り 1.授業評価、学部、全学FDでの振り返り  平成27・28年度の「内部障害理学療法学Ⅱ」なら びにリハビリテーション学部と大学全体の授業評価ア ンケート結果を表1に示す。全体的な評価結果はリハ ビリテーション学部、大学全体と比較しても良好であ 図2.連続性のある授業

称賛

表1.授業評価アンケート結果 設問内容 平成27年度 平成28年度 全学 リハ学部 設問1 この授業のための予習・復習等をしっかり行いましたか 4.00 4.29 3.63 3.84 設問2 この授業に意欲的に取り組みましたか 4.53 4.57 3.94 4.15 設問3 授業の構成と方法は良かったですか 4.70 4.60 3.92 4.15 設問4 教員の話し方は明瞭で聞き取りやすかったですか 4.83 4.74 4.00 4.22 設問5 学生の理解の程度を把握して授業を進めていたと思いますか 4.63 4.66 3.85 4.08 設問6 教員の授業に対する熱意・意欲を感じましたか 4.63 4.63 4.08 4.29 設問7 授業の到達目標や評価方法が授業の最初にわかりやすく示されましたか 4.55 4.60 3.98 4.15 設問8 シラバスに沿った授業内容でしたか 4.63 4.63 4.06 4.25 設問9 予習・復習等についてわかりやすく示されましたか 4.30 4.51 3.86 4.05 設問10 この授業を理解できて到達目標を達成できたと思いますか 4.45 4.60 3.80 3.99 設問11 この授業で知識が得られ自分の考えを深めることができましたか 4.55 4.60 3.95 4.19 設問12 総合的に判断してこの授業に満足できましたか 4.78 4.66 3.97 4.21

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森 沢   知 之 他 るといえるが、設問1と設問9の「予習・復習」の項 目は他の設問と比較しても低い値であった。そのため、 平成28年度からは事前学習と事後学習の課題を設け、 授業以外にも学習時間を確保するように取り組みを行 った。またリハビリテーション学部では毎年、学部長 の指示のもと、学科長と教育委員が主体となり、授業 アンケートの振り返りが行われる。この振り返りによ り、個人の教育観念にとらわれず、学部全体を通して の振り返りができる。さらに全学FDは、他学部の教 員と教育に関する討論ができ、大学全体的な視点から 授業方法について振り返る貴重な機会である。 2.学生からのフィードバック  授業の最終日には、大学全体での授業評価とは別 に、個別に授業アンケートを行っている。この授業で 「良かった点」、「悪かった点(改善してもらいたい点)」 に分けて記入してもらい、改善点の項目は慎重に吟味 し、翌年からの講義に反映させるか、検討している。 3.国家試験問題の出題傾向と得点率  近年、循環器理学療法に関する国家試験の出題問題 は多様化している。毎年、国家試験の出題傾向をチェ ックし、過去の国家試験で出題された内容については、 必ず講義の中で触れるようにしている。また国家試験 終了後は、学生が国家試験の問題を充分に理解できて いるか、その得点率を確認している。 4.臨床現場との意見交換  臨床実習に関する実習訪問や実習指導者会議におい て、実習指導者と意見交換を行う機会がある。理学療 法学科の教育全体のことは勿論のこと、担当した教科 における知識量、思考力、臨床推論、技術力に問題は ないか確認している。 Ⅵ 考察  内発的動機づけを促す場面は3つの生得的欲求(自 律性、有能性、関係性)であり、これら3つの特徴を 促すような授業であれば、学習者は授業に対して内発 的に動機づけられやすい1) 1.自律性について  各課題における目標設定にあたっては、その設定に 学習者が参加し、自己決定することが重要であるとさ れている。目標が学習者によって設定される場合、そ の後の取り組みや興味・関心が大きく異なることが報 告されている。事前・事後学習の課題、グループワー クの課題などはあえて詳細な課題を与えず、学習者の 学習内容や学習頻度に自由度をもたし、個人やグルー プの自律性を尊重することで自律性の欲求を満たせる と考えた。しかし、事前・事後学習の内容・頻度には 個人・グループ差も大きく、ある程度、教員側からの ファシリテートやフィードバックが重要であると感じ ている。 2.有能性について  事前学習、グループワーク、双方対話式講義などの 取り組みの中で、学生には積極的に発表・発言する機 会を作り、自己の能力を示す機会を示すことで、有能 性の欲求を促進できると考えた。学習者には発言する 機会を均等に与え、学習者が満遍なく発言できるよう に配慮した結果、授業中の集中力も増したように感じ ている。 3.関係性について  グループワークや発表会に向けての準備による学習 者間同士のつながりや、地域連携プロジェクトによる 地域高齢者との交流などを通じて、社会や学習者間同 士の有効な連帯感により関係性を促進できていると考 えた。  授業評価の結果では「総合的に判断してこの授業に 満足できましたか」、「この授業に意欲的に取り組みま したか」の項目は、平均で4.5点(5点満点)であり、 少なからず、学習者に関心を抱かせる授業であったも のと思われる。またその他にもイントロダクション、 双方対話式授業、ビジュアルエイドの活用などの取り 組みにより、学習者の学習意欲を促進する授業が少な からず展開できたものと推測する。内発的動機づけは 外発的動機づけで得た知識より記憶に残りやすいとさ れており、国家試験は勿論のこと、資格取得後の臨床 や研究においても役立つものと期待する。  しかし、授業そのものの評価が得られている一方で、 事前学習と事後学習の実施率や認識が低いことが明ら かになった。2012年8月の中央教育審議会答申「新たな 未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(文部 科学省, 2012)では、能動的学修(アクティブ・ラーニ ング)の推奨や学修時間の確保が求められている4)。平 成28年度より、事前学習として基礎科目の再復習と、 次回の授業資料の事前閲覧を実施するようにした。そ の結果、授業評価アンケート設問1と設問9の「予習・ 復習」の項目で改善が得られたが、まだ4点台前半に 留まっており、今年度は事後の取り組みとして前回授 業分の確認テストを実施し、学習者が事後にも学習す る機会を作ったが、今後もより効果的な事前・事後学 習の促進を図る必要があると考えている。

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Ⅶ 今後の課題と展望  内発的動機づけには、学習者の価値観や期待も大き く関係する。特に学習者がいだく期待には4つのパタ ーン(成功志向型、努力過剰型、失敗回避型、失敗受 容型)が存在し、様々な思考をもった学習者が存在す る。そのため、学習者の学習意欲を促進するつもりが、 かえって、学習者の意欲を減衰させることにもなりか ねない。今後は個人やグループの特性を考慮し、少し でも多くの学習者に「この授業を受けてよかった」と 思ってもらえるように、今後も研鑽を積む必要がある。 文献   1) 宇野忍. 学習援助について. 授業に学び授業を創る教育心理 学-第2版. 宇野忍編中央法規出版, 2002, 144.   2) エリザベス・F・バークレー. “学生の関与の重要性”. ディープ・ アクティブラーニング. 松下佳代編.勁草書房, 2015, 58-87.   3) 佐藤浩章.講義を「もっと」よくする工夫.大学教員のた めの授業方法とデザイン.佐藤浩章編.玉川大学出版部,  2013、28-35.   4) 文部科学省:中央教育審議会答申「新たな未来を築くため の大学教育の質的変換に向けて」2012.8.24 http://www. mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/ afieldfile/2012/10/04/1325048_1.pdf(2016.6.24閲覧)

参照

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