Title
宮古島における窒素負荷発生量と地下水窒素濃度の長期
的推移
Author(s)
田代, 豊; 高平, 兼司
Citation
水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water
Environment, 24(11): 733-738
Issue Date
2001-11-10
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/9281
733 〔水環境学会誌 第24巻 第11号 733-738 2001〕
(論
文)
宮古 島 における
窒
素負荷発生
量 と地下水窒
素濃度 の長期 的推移
日 代
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Lt-叩 Tel.m Tl・cndorNitt-叩 Lt"EIllissioni川(INilI・O酢 IleOn… llriltion or(;l・Otlll(IwiltCl■inM iyiLkolshlld.Ol山liIWiI
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OkinawaPrefecturePllblicHealthAssocialion,Ozato2013,Ozalo-son,ShimaJiri,Okinawa901-1202,JapanAbstract
Grollndwaterpollutionbynitrogenisacommonenvironmentalproblem illtheislandscoveredwithcoral limestone. Totalanntlalemissionofllitrogellfrom fertilizers,livestockwastes,anddomesticwastesat Miyakolsland,Okinawawasexaminedfrom 1977to1998,andcomparedwiththeconcentratiol10fnitrogen ingrollndwater. Thetrendofnitrogenemissionwasref一ectedonthegrollndwatercollCentrationwiththe delayofsevenyears・ Thissuggeststhatthevelocityofnitrogenpermeatingdowntothegrotllldwateris3m peryear. TheamotlntOfnitrogenleachingintothegrotlndwaterwas39% ofthetotalnitrogenemi ssionon theground・ Theseresultsemphasizetheimportanceofdatacollectiononnitrogenemissioninorderto predictthefutllrenitrogenconcentrationofgrotll1dwaterillCOralislands.
Keywords:nitrogenpollution,groul-dwater,coralisland,waterpermeation 1.は じめ に 農業 な どの人為 活動 に起 因す る地下水 の硝酸 性窒素汚 染 が問題 となって久 しい。と りわけ飲用水 の大部分 を地下 水 に依存す る沖縄 。奄美の島々においては住民の健康 に影 響す る重大な問題 である。熱帯 。亜熱帯のサ ンゴ石灰岩 に 被 われ た島では一般 に土壌への浸透水量が多 く,地表か ら の汚染負荷 が地下水水質に影響 を与 えやすい と考え られ1) 硝酸性窒素 な どによる汚染は共通 の問題である。 沖縄県の宮古島は,地下水窒素汚染 が顕在化 してい る典 型的な島であ り,かつ水文条件が比較的均一で地下水滴養 過程 をモデル化 して捉 えやすい調査地であ る。同島では, 地 元関係 諸機 関が協 力 して宮古島地 下水水 質保全対策協 議会 (MGCC)を組織 し,地下水水 質な らびに地上の環境 要因について,1989年以降継続的に調査 してい る。 本報告は,隆起サ ンゴ礁島唄での人為活動による窒素負 荷 が地 下水 帯水層 へ 浸透 す る過程 を実証的 に解 明す るこ とを 目的 と し,同協議会 の調査報告等 これ までに公表され て きた資料 を解析 し,窒素負荷発生量 と地下水窒素濃度の 長期的な推移 について研究 したものであ る。 2.調査地 の概要 宮古島は ,琉球列 島のほぼ中央の ,北緯240 43'-240 55′,東経1250 15′∼1250 28′に位置す る。年平均気温 は23.1oC (1951年∼80年),年降水量は2033.1mm(同) で ,海洋性亜熱帯気候 に属す る。面積158.88km2,最高標 高114.6mの低平な地形 をな し,大部分の地質構造は,透水 性 の低 い 島尻層群 泥岩 の基盤 の上 を透水性 の高 い琉球石 灰岩層 が被 ってい る。降水 は地表か ら琉球石灰岩層 を浸透 し,基盤岩上に不圧地下水 と して貯留 され る。島内全体 に, 主 に北西一南東方向の断層が多数走 り,帯水層は分離され 多数の地下水流域 を形成 してい る (Fig.且)O河川の発達 は貧弱であ るが,地下水 系が発達 し多数の湧水があ る。 同島の人 口は約5万 人で ,サ トウキ ビ栽培 を中心 とす る 農業が盛んである。1997年度の資料2)によると,隣接す る 小島を合わせた宮古本島部の土地利用は,耕地面積56.8%, 森林面積14.4%であ り,作物作付面積の76%はサ トウキ ビ 栽培で 占め られ ,以下飼料作物 (7%),葉 タバ コ (7%), 野菜 (3%)な どが栽培 されている。
3.
宮古 島における地下水窒素濃度 の推移 MGCCは,1989年4月以降現在に至 る毎月,島内の各地 下水流域 を代表す ると考 え られ る地 点の地 下水硝酸性 窒 素濃度 を測定 してい る。その報告 書乙3)で は,この全期 間 を通 じて測定 され た15地 点 か ら特 異的な濃度の急変 を し ば しば示す地点 を除いた13地点 (Fig.i) について,各地*
財団法人沖縄県公衆衛生協会 〒901-1202沖縄県島尻郡大里村大里2013734
F短.呈 Grou11dwaterbasinsandmoniloringsites(㊨)byMGCC inMiyakols2)・ 点の年度平均濃度 を平均 し,Fig.2の ような推移を示 して いる。これ らの地点の濃度には極端なばらつきはな く,義 おむね安定 した値 を示 している。例えば,1999年度 におけ る13地点の年度平均濃度は5.24- 7.68 mg・rlの範囲内にあ り,また,同年度内各月の測定値の各地点における標準偏 差は1点を除いて1mg・lー1未満であ り,そのうち8地点は0.5 nW rl以下であった。したがって,F短.2に示された値は, 同島の地下水全体の平均的な硝酸性窒素濃度の水準 を示 していると考えられ る。なお,これらすべての地下水検体 について, 亜硝酸お よびアンモニア性窒素濃度 は硝酸性 窒素濃度に比べて著 しく低かったので,以下本報告では硝 酸性窒素濃度 を窒素濃度 と同義のもの として扱 う。 また,同報告書 には宮古島上水道企業団が測定 した, 1977年度以降の島内3ヶ所の上水道水源地下水の窒素濃度 も示されている。Fig.2に見 られるように,1989年度以降 のMGCCによる13地点平均濃度 と上水道水源の平均濃度 とはおおむね同様 に推移 し,両測定値の比は1.04-1.22の 範囲内で平均1.11であったOよって以下では,1989年度以 降は上記13地点平均値を,また,1977- 88年度 については 上水道3水源の平均値に1.11を乗 じた値 を,同島における 地下水全体の窒素濃度代表値 とした。その推移は1980年代 に増大 し,1987年度 に最大 となった後減少 している。
4
.自然起源および人為起源による地下水窒素濃度 地下水中の窒素には,人為起因によるもの以外に,降雨 中の窒素分や土壌の分解等の 自然起源窒素 も含 まれてい るo琉球政府企業局4)は,1966年に同島内21地点で地下水 水質を分析 した。このうち,地表からの雨水や汚濁物の直 接の混入が水質に強 く影響 した可能性 が高いものを除き, 硝酸性窒素濃度最低値は0.50mgり-1であったOこの当時は まだ人為起源窒素濃度が低かったと予想されるので,本報 告では,自然起源窒素濃度が長期にわた り一定で,かつ島 内全域 において一様であると仮定 し,これを0.50mg・l-1と お くことに した。そ して,前項の窒素濃度代表値か らこれ を差 し引いたものを人為起源窒素濃度 とした。 一般 に,人為的な影響を受けていない地下水の窒素濃度 .il ( J ・ B uj ) N I E o n琳 AverageofNOB-Ningroundwater monitoredbyMGCC2)
各 AverageofNO3-Ningroundwaterfor municipalwatersupp一yinMEyako】S2)
港 (AverageofNO,-Ningroundvはterfor municipalwatersuロp-y)×I.i1
'77 ■79 -81 '83 ■85 '87 '89 '91 '93 '95 '97 '99 Year
Fig・2 Concelltratiol10fNOrNi一lgrOulldwaterinMiyakols.
は,ほとん どがlmgBrl以下である5)Oまた,同島と地質 や 自然環境が似ている奄美群島の沖永良部島でも,上水道 水源井戸の水質資料6)を見ると,肥料多用によって窒素濃 度が増加 し始める前の1970年代の値は0.1- 0.7 mg〇g1程度 であった。上述の0.50mgBl-1はこの範囲内にあ り,南西諸 島の共通 した水準は,お よそこの程度であると考えられ る。 5.人為起源窒素負荷発生量 同島における人為的な窒素負荷発生源としては,肥料, 家畜排植物 ,および生活排水が考えられる。そこで,地表 か ら浸透水 とともに帯水層に加え られ る窒素量 L は,中 西 ら7)を参考に,次のようなモデルで考えることができるo
L
=a。
(
F+M+H)+S
-- (1) なお,F,M,およびH は,各々,肥料,家畜排湛物, お よび生活排水 に起 因 して地表で発生する窒素負荷発生 量であ り,それ らの地下水への平均負荷率 (地下水中に移 行する割合)を a とするOまた,S は地下水中の自然起 源による窒素量である。 本報告では以下に, (1)式を構成する各人為起源か ら の窒素負荷発生量を,既存の統計資料等に基づいて過去に 遡 って算定 し,Lとの関係を解析することを試みたOなお, 行政資料の多 くは隣接する小島である池間島,大神島,来 間島を含めた集計がなされているので,以下ではそれらを 合わせた宮古本島部 について窒素量を計算 した。 5.1 肥料による窒素負荷発生量 宮古本島部での肥料販売は,同島内にある二つの農業協 同組合が主 として行 っている (民間業者による肥料販売も 1990年度 まではあったが2㌦ これは全体の数%以内に過 ぎ ないと推定 され るため,ここでは無視 した)。肥料の使用 総量 (両農協の販売量)とその窒素量は,1989年度以降公 表されている2)。また, 1987および88年度は,高度化成肥 料販売量だけが集計 きれていたので3),それに基づいて窒 素総量を算出 した。当時市販月巴料の大部分は高度化成肥料 であ り,集計されていない窒素含率の低い有機月巴料などを 無視 しても窒素量に大きな誤差は生 じないと考 えられた。 さらにそれ以前は,1976年度以降の両農協の肥料売上金 額2)から推定 したO宮古那農業共同組合の入荷肥料 内訳3) によると,1979- 85年度はいずれの年も高度化成肥料であ 水環境学会誌宮古島 における窒素負荷発生量 と地下水窒素濃度の長期的推移 735 mo ㌣ × ) u 亀 O毒 N '76 '78 '80 rB2 '84 '86 F88'90 F92 ■94 '96 '98 YcLlr
F皇g.3 NitrogenemissionfromeachsotlrCeinMiyako王S.
療 FertHzers 命 Livestockwastes # Domesticwastes # Total る 「尿素入 り複合燐加安804」が96%以上 を占め,86年度 は85%を占めていた。そ こで,1976- 86年度 については, 肥料売上金額 を この 「804」肥料 の小売単価 で険 し,さ ら に 「804」肥料の窒素含有 率 (18% )を乗 じて,各年の肥 料 による窒素総 量 と した (なお ,過去の 「804」肥料小売 単価は直接の資料が見出せなかったので,全国的な高度化 成肥料の小売単価8)を沖縄 における 「804」肥料卸単価9)と 全国的な高度化成肥料の卸単価8)の比で補正 して用いた)o 以上の ように して求め た宮古本 島部 にお け る肥料 に よ る窒素量を Fig.3に示 した。 この推移 は,全 国的な肥料 販売量の推移 とも類似 していた。 5.2 家畜排贈物 による窒素負荷発生量 宮古島で飼養 され る家畜の数
1
0)は F量g.4に示すように 推移 してい る。かつて多かった豚 ,局 ,山羊は減少 し,近 年は肉牛の飼育が増加 して きた。 各家畜の飼養数 に 甘ab呈e且の原単位 を乗 じ,排 継物 か ら発生する窒素量 を計算 した結果 をFig.銅 こ示 したOなお, 各々の家畜数 は成獣 と幼獣 に分 けて集計 し,幼獣 には原単 位の2分の1の値 を用いた。 5.3 生活排水 による窒素負荷発生量 宮古 島では し尿 を含 め た生活排水の 大部分 が地下浸透 処理 されているO人 口に原単位 (人口1
人あた り6.2kgBy-i) 14)を乗 じて求めた窒素負荷発生量 を,F呈g.狛 こ示 したO人 口に大 きな変化 はな く,窒素量
は横 ばいであった。 6,窒素負荷発生総量 と地下水窒素濃度 との相関 以上の ように して集計 され た各起源 窒素 を合 計 した人 為的窒素負荷発生総量の推移 を見 ると (Fig.3) ,1970年 6 J捲 . 2 0 nU 6 .年 2 (叩 望 ×) 届 。地 p LBQ2 -a S旨 £ .ゼd
L小 言 .,e
U i O L aq ∈コZ
'7678'80'82'84r86'88'90'92'94'96`98 Year Fig.碩 Number()日lVeStOCkinMiyakols・川) (C O P X) u a 竜 三。
P L a q E 3 N 0 0 り ん 0 0 0 0 0 Table1 Anilual王litroge王Ieillissioilfroilleachailimal. Animal Nkg・y1 cattle川 5l.2 pigl1) Sowforreproduction 17.0 0therpig l1.1 Horse12) 54.5 Goat13) 11.1 chickenll) 062 代 に化学肥料使用量の増加 に伴 って増加 し,1980年度 に最 大 となった後減少 してい る.その後,1990年代 以降は減少 幅が小さ くな りほ とん ど横 ばいに近 くなったOこれ をFig. 豊 の代表的な地下水窒素濃度 の推移 と比較す ると,窒素 負 荷発生量の増減が,地下水窒素濃度の増減に対 し,時間的 なずれ を伴いなが ら作用 してい ることが推定 された。 そ こで,1976- 91年度 の16年間にお ける各年度 内人為 的 窒素負荷発生総量 と,その T年後 の各年度 の人為起源地 下水量素濃度 との関係 を線形近似 し,Tを変えて比較 した 結果 を 甘abie芝 に示 した.その結果,T=7の時 に決定係 数 が最大値 (r2=0.582)を とった.これは,宮古 島全体で 平均的に見 ると,地表で発生 した窒素 負荷が,その7年後 ごろを中心 と して地 下水 窒素 濃度 と して反映 されて い る ことを示唆 してい る。 なお,各起源によって窒素の環境-の放出状況 は様 々で あ るので,地下水への負荷率 は起源 ごとに異な るはずであ る。したが って,全体の窒素 負荷発生総量 に占め る各起源 窒素の割合 が変化すれば,(1)式 にお ける平均負荷率 〟 も 変動す るもの と予想 され る。しか し,ここで見 たように, 同島にお け る近 年の地下水 窒素濃度の長期的な増減 に大 き く寄与 したのは,1970年代後半か ら90年前後 にかけての 化学肥料施用量の増減であると考 えられ,少な くともこの 期 間においては,平均 負荷率の変動が窒素負荷発生量 と地 下水窒素濃度 との関係 に与 えた影 響は比重的小 さい と考 え られ る。そ こで,以下では この期 問において平均負荷率 が近似的に一定 であ った と仮定 して議論す るこ とに した0 7.考察 7.1 硝酸性窒素の降下浸透速度 宮古島において,窒素発生源の中心 をな して きたのは, 高度化成肥料 に含 まれ るアンモニア性窒素であ るが,畑地 条件ではこれは速やかに硝化 され硝酸 イオ ンとなる。ここ で ,同島の琉球石灰岩 におけ る飽和透水係数は10-1cm。S-1Tab漫e2 Correlationbetweentotalnitrogenemission(F)andnitrogen concentrationillgrOundwater(Cy.
Yearsofthe Yearsofthedata dataofN ofNconcentration 7. axlO6 b 12 emlSSl0n ingroundwater 1981-96 1982-97 1983′-98 1984・-99 1.86 274 0.290 1.95 2.62 0.487 1.82 2.98 0.582 161 344 0.427 *:CorrelationbetweenX(kg・y【l)ineachyearof1976∼ 91 anda
(mg・rl)ineachryears一aterwasanalyzedwlth the linear m odeL
論 文 (T > ・ E iL l 二 通 u B Pだ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 0 5 0 5 2 2 -1 '77 '79 ■81 '83 '85 '87 '89 '91 '93 '95 '97 '99 Year
Fig.5 AnnuaJraillfallillMiyakols.
で,帯水層内での地下水の流動が速い ことが知 られている
1
5)。また,観測されている帯水層の厚 さな どから,浸透 水畳に比較 して多量の貯留水が帯水層 内にあるとも考え られない。したがって,上述 した負荷発生量に対する地下 水窒素濃度の推移の遅れは,硝酸イオ ンが地表付近か ら帯 水層に達するのに要する時間を示 していると考えられる。 同様の地質構造を持つ奄美群島の与論島においても,資 料16)によると,化学肥料 による窒素負荷量は1970年前後 に増加 した後ほぼ横 ばいであるのに対 し,地下水硝酸性窒 素濃度は1980年代全般にわたって増加 を続 けてお り,地表 での負荷発生量と地下水中の窒素濃度の推移 とは,年単位 のずれが生 じていたと考えられ る。この遅れの程度は,疏 球石灰岩に被われた南西諸島でおおむね共通 したもので ある可能性 もあ り,さらに他の島での調査が望 まれ る。 ここで,Fig.Sに宮古島における年降水量の推移を示 し た。年降水量は毎年大き く変勤 し,これに応 じて地下水量 が変動することが,湧水の湧出量や井戸の水位などの観測 結果乙3)から確認されてい る.一方,例えば F呈g.2のよう に,地下水窒素濃度の推移には,年降水量 と関連 した変動 はほとんど認められない。これはもっと短期的に月ごとの 降水量と窒素濃度の関係 を見ても同様である2)0 仮に,宮古島において地表か らの負荷窒素が数 ヶ月以下 の時間で速やかに帯水層 に到達 しているとすると,1年間 に地下水面に到達す る窒素量は地表の年間窒素負荷発生 量によって規定され,降水量が多 く地下水量の多い年には 希釈により地下水窒責濃度が低下するはずである。これに 対 し,地下水面 より上の地層中に数年問分の窒素分が蓄え られているとすると,それが降水量に比例 した速度で順次 降下 して濃度変動の少ない地下水 を常 に供給す ることに なる.したがって,上述のような窒素濃度の安定 した推移 は,地表に負荷 された窒素分が帯水層 に至るまでの時間が 数年以上かかることを支持 している。 なお,年降水量の変動はランダムであるので,それに伴 う窒素降下速度の変動は,地表に負荷 された窒素分が帯水 層に至るまでの数年の問に平均化 され,地下水面までの到 達時間は常にほぼ一定になる。試みに,F短.S には各年 ま での7年間の平均降水量を示 したが,その変動は10%以内 であった。このように考えると,帯水層に到達する地下水 窒素濃度の長期的な推移 は,地表における負荷量の長期的 な変遷を一定期間の遅れの後 に反映すると考えられ る。 宮古島における地下水位等は沖縄総合事務局17)などに よって調査され,地下水流域区分 とともに地下水位等高線 図として示されている。それを用い,Fig.且のMGCCによ 36一Tah呈e3 DepthofwatcrtablearoundthelnOnitorlllgSitesofMGCC
Sltef Depthofwatertable(m) Mln Max Average A 27.5 32.5 30 B 7.5 20 14 C 15 20 18 D 15 20 18 E 22.5 27.5 25 F 40 45 G 20 25 日 15 30 】 5 15 3 3 3 0 4 2 つム ー J 15 175 16 Average 22
ヰ:correspondtothesitesinFl藍.1.
る水質測定地点について,各地点直近 を通 っている地下水 位等高線に沿って,その測定地点が属する地下水流域内で 地表から地下水面までの深さ (地下水位等高線標高 と地表 面標高との差)の範囲を求めると,Table3のようになっ た。ここでは各流域 内における深 さの最大,最小値 と両者 の平均値を示 した。なお,13地点のうち3地点 (K∼M)は, 周辺の地下水位等高線が資料中に示されていなかったの で除外 した。 地下水面までの深さは場所によって様々であるが,これ ら10地点を平均するとおよそ22mであったOしたがって, 前項の結果から,この深 さに達す るのにお よそ7年かかる とすると,地表からの窒素分の平均的な降下浸透速度は, 3m。y-1程度 と求め られた。 ただ し,宮古島内でも詳細に見れば地域によって地質や 地形に様 々な違いがあ り,この降下浸透速度のばらつ きは 大 きいと予想される。また,帯水層での地下水の流動は速 く,各地点で観測された地下水中の窒素は必ず しも直近の 地表から下降 した窒素分だけによるものではない。その上, 窒素分が地層内を下降浸透する過程での分散もあるので, 地表で放出された窒素分が地下水面へ到達するに要する 時間は,年単位の幅を持 っている可能性もある。ちなみに, 甘abie3に示 した個 々の測定地点直近 における地下水面 までの深さと,その測定地点における地下水窒素濃度変動 の遅れの程度 との間には明かな関係は見出されなかった。 これまでに報告された,琉球石灰岩層における物質の降 下浸透速度 を示す実例 として,1994年に沖縄本島浦添市で 起 こった地下送油管か らの重油流出事故の調査結果
1
8)が ある。流出は同年2月にあったと推定され,約3ケ月後にポ ー リング調査を実施 したところ,地下1.5m付近か ら流出 が認められ,汚染の中心は地下4.5-5.5mに達 していた。 ここで,この浸透深度を単純に12ケ月分にすると,浸透 速度は14mY l前後 となる。難治性の重油の浸透機構は水 溶性物質の場合 と異なる点 も多 く1
9),この浸透速度 には 重油の粘性や比重,さらに吸着による遅延などの要因が含 まれていることが予想され る。また,沖縄気象台で観測さ れたこの3ケ月間の降水量は312mmであ り,平年の年降水 量約2,
000mmの4分の1と比べて少なかったので,多雨の季 節には浸透速度がこれよ り若干速いことも考えられる。し か しなが ら,琉球石灰岩層における物質の降下浸透速度が お よそ10m。yl内外であることは,この調査事例からも支 水環境学会誌宮古島 における窒素負荷発生量 と地下水窒素濃度の長期的推移 持 され る。 7.2 水の降下浸透速度 との関係 水 に溶解 して浸透する硝酸 イオ ンの降下浸透速度は水 の降下浸透速度 と関連 しているが,両者は必ず しも同一で はない。佐久間ら20)は,各種の土壌 カラムを用い ,土壌 への吸着のない塩化物イオ ンの降下浸透速度が,条件によ っては水に比べて2分の 1にまで遅れ ることを観察 した。 硝酸イオ ンも土壌への吸着がほとんどな く,塩化物イオ ンと似た挙動を示すと考えられる。さらに,ゼロフラック ス面以浅では晴天時な どに地表面での蒸発 にともなう毛 管流によってイオンが上昇することも考えられるので,節 項の ように見積 もられた窒素濃度分布の降下速度 は水の 降下浸透速度よ りも幾分遅いはずである。したがって,宮 古島の地表から地下水面 に向かう水の平均降下浸透速度 は1年間に101m程度のオ-ダ-であると推定され る。 田中21)は,世界各地で同位体 を トレーサー として推定 された,地下水面に至るまでの土壌水の降下浸透速度をま とめたが,それ らはいずれ も100m。y-1のオーダ…であ り, 関東 ロームでは1.28-1.38m。y」であった。琉球石灰岩層は 孔隙の多い構造のため浸透量が大 きいとされ,水の降下浸 透速度 も大 きいとされて きたが,本研究の結果はそれ と合 致す るものである。 地下水滴蓑における水の降下浸透は,鉛直方向への不飽 和透水過程 と捉えられる。宮古島における琉球石灰岩層の 不飽和透水係数 ku (=水の降下浸透速度)の実測例はな いが,飽和状態での透水係数 ksについては,上述 したよ うに10-1cm。S-1と求められているo ところが,不飽和透水 係数は土層の水分飽和度
(
S
)
が低 くなると著 しく小さ く な り,透水係数比 (ku/kS)はS3-S4に等 しいとされてい る22)。よって,宮古島の地層 において,この透水係数比が 10-3程度であると仮定すれば,上述のように推定 した水や 窒素負荷の降下浸透速度は,これ までの知見とも整合性が あるといえる。 なお,宮古島の主要な湧水における湧出量の日ごとの変 動 を追跡すると,降雨に対す る湧出量増加は日単位で応答 が現れているが2),このような現象は,降雨によって地表 に与 え られた水そのものが即座 に帯水層 に達 して起 こる とは限 らないことが知 られている23)0 また,窒素汚染 と同様 に南西諸島の農業地域における水 環境問題の一つ として,農薬 による地下水汚染がある24)0 本報告で示 された窒素濃度分布の下降に要する年単位の 時間は,大部分の農薬の分解に充分であると予想 される。 しか しなが ら,広範囲の地下水流域全体における濃度推移 を問題 とする窒素汚染とは異な り,農薬等の有害物 質汚染 は局所的な少量の混入に問題の本質がある。これには,莱 分解の農薬 を含有 したまま大間隙を通 して速やかに下降 する一部の浸透水に注 目した,本報告 とは異なる観点か ら の研究が必要である。 7.3 窒素負荷率と地下水窒素濃度予測 先に触れたように,宮古島の帯水層内における地下水流 動速度は大 きく,また,浸透水量に比較 して多量の貯留水 が帯水層内にあるとも考えられない。よって,地下水水質 分析 によって得 られる窒素濃度はその同 じ年に地下水面 に到達 した水中における濃度 を反映 してい ると仮定で き る。ここではこの仮定に基づ き,地表で発生する窒素負荷 と地下水窒素濃度 との量的な関係について考察する。 737 宮古島における1977-99年の年間降水量は平均で2,061 mmであるOこのうち40%が地下水 になるとされている25) ので,総面積165km2の宮古本島部における年間地下水滴 養量は,平均1.4×108m3となる。ここで,先に集計 した人 為的窒素負荷発生総量 (Fig。3)を,この地下水滴養量で 除す。すると,各年度に地表で発生 した人為起源窒素が100 %地下水に移行 したと仮定 した場合の,その窒素分が浸透 水 とともに7年前後の時間を経て地下水滞水屑に到達する 際の窒素濃度が求め られ る。1976年度から91年度までにつ いて,この濃度を平均すると,16.8mg.rlであったO -方,その7年後の1983年度か ら98年度 までの各年につ いて,実測された地下水窒素濃度代表値か ら自然起源窒素 濃度 を差 し引いた人為起源窒素濃度 を平均す ると,6.62 mg・rlであった。これ らの比から (1)式によ り,地表で発 生 した人為起源窒素の地下水への平均負荷率は,39%とい うことになる。 畑地 において施用 された肥料の溶脱 についてはこれ ま でにも多 くの研究がある。国松26)が 日本国内での これ ま での研究結果を整理 して求めた回帰式では,施肥窒素量に 対する回帰係数は0.31で,負荷率が31%であったことに相 当するO-方,家畜排湛物に関 しては,本調査地では肉牛 飼育が多 く,畜産糞尿に起因する窒素のうち少な くとも糞 によるものは畑地への堆肥施用 という形を経 由 して環境 に負荷 され ると考え られ る。牛尾 らの報告27)によると, 千葉県で畑地 に施用 した乾燥牛糞お よび牛糞堆肥中の窒 素分解率は141日間で各々35% と10%であ り,これは夏季 に行われた実験なので本調査地 とも比較 しうる。 生活排水に起因する窒素の地下水への移行については, 本調査地の参考にで きるデータが乏 しいが,中西ら28)が 宮古島の地区ごとに各発生源による窒素負荷発生量 と地 下水硝酸性窒素濃度 とを集計分析 した結果によると,生活 排水に起因する窒素の負荷率は,化学肥料および家畜排浬 物 に起因するものに比べ大きな値 を得ていた。 以上 によ り,施肥および家畜排継物 申窒素のお よそ30 %程度が地下水に移行 し,生活排水に起因する窒素の負荷 率はそれよ り大 きいとすると,それ らの平均 として得 られ た39% という値は,宮古島の全般的な実態に即 したもので あると考えられる。 次に (1)式から,F短.3の各年の人為的窒素負荷発生 総量を年間地下水滴養量で除 した ものにこの平均負荷率 を乗 じ,自然起源窒素濃度を加えたものを,その7年後の 地下水窒素濃度の予測値 とし,これを Fig。2で示 した実 (tj ・切 E )uG
哲 畠 慧 77'79'81'83■85'87'89'91'93195'97'99'01'03'05 YearFig・6 Compariso110fmOnitoredalldestilnatedrlitrogen coneentrationillgrOtlndwateratMiyakols.
738 測 に基づ く窒素濃度代表値 とともに示 すと,Fig.6の よう にな った。この図に見 られ るように,1983年度 か ら現在 に 至 る予測値 は,実測値の推移 におおむね合致 してい る。 さ らにFig.6 には,最近の窒素負荷発生量から将来の 地 下水窒素濃度 を予測 したものも示 した。これ によると, 窒素濃度は現在 よ りさらに若干低下す る余地 が残 されて い るものの ,ここ数年窒素負荷発生量の減少が停滞 してい るため ,少 な くとも2,000年代前半はおおむね横 ばい とな ることが予測され る。 ただ し,Fig.4に示 したように,近年宮古島では肉牛飼 育 が増加 してお り,これ にともなって これ までのサ トウキ ビ栽培用化 学肥料 を中心 と した窒素負荷の構成割合 は大 き く変化 しつつある。したが って,第6項で述べた ように, 各起 源窒素 の負荷率 の違い に よる平均 負荷 率の変動 が無 視 で きな くなる可能性があ り,さ らに精度の高い地下水窒 素濃度予想 のためには,今後各起源別 の負荷率 に関す る知 見の集積が必要であ ろう。 8.ま と め 本報告では,これ まで公表 されてい るデータに基づいて, 宮 古 島にお ける1976年度 か ら98年度 に至 る20余年間の窒 素 負荷発生量 と地下水窒素濃度の推移 を比較 した。それ に よ り,以下のような結果 を得 た。 1)宮古 島の地表で発生 した窒素負荷量の推移は,その 7年後の地下水窒素濃度の推移 と最 も高 く相関 していた。 2)窒素分の平均的な降下浸透速度 はお よそ3m・y-1と推 定 された。これは水 の浸透速度 に関す るこれ までの知見 と も整合性がある。 3)地表で発生す る人為起源窒素の地下水への平均負荷 率 は39%と算定 され た。 4)最近の窒素負荷発生量の推移か ら,少な くとも2,000 年代 前半は地下水 の窒素濃度 がおおむね横 ばい とな るこ とが予測 された。 宮古島以外の隆起サ ンゴ礁か らな る島々において ,これ らの結果が その まま適用 され るもので あるか どうか は さ らな る検証 が必要で あるが,地表の窒素負荷が帯水層 に至 るの に年単位の時間がかか ることか ら,地下水位 と過去の 窒素負荷発生量 に関するデー タがあれ ば,将来 の地下水窒 素濃度 をあ る程度予測す るこ とが可能 であ るといえる。 宮古島では,窒素負荷発生総量が ,ピー ク期 に比べ てす で に大 き く減少 している。しか しなが ら,同島 と同 じよう な地 質構造 の地域 で過去数 年 間の窒素 負荷発 生量が増加 して きた場合,地下水窒素濃度が今後数年 に渡 って増加 し 続 けることにな り,そのような動向を見込んだ上での現状 評価 と対策検討が必要であると言えよう。 と くに,本調査地 において本研究の ような解析が可能 と な ったのは,様 々な関係者の努力によ り肥料使 用量や地上 環境 に関す る正確な資料が長年にわた って集積 され ,公表 されてい るか らであ る。同様 な地下水汚染のおそれのあ る 他 の地域 において も,少な くとも基礎 的なデ- 夕の収集 を 継続的 に実施す るこ とが望 まれ る。 (原稿 受付 2001年5月31日) (原稿 受理 2001年9月 12日) 参 考 文 献 1)野間泰ニ (1992)琉球石灰岩地帯 にお ける地下水の開発 と保全 , 地 下水学会誌 ,34,163-170. 38一 2)宮古島地 下水水質保全対策協議会 (1992-99)平成3- 10年度rg 古鳥地下水水 質保全調査報告書 . 3)宮古島地下水水質保全対策協議会 (1990)宮古島地下水水質保全 調査報告,224pp. 4)琉球政府企画局 (1966)1966年度水調査報告書 ,110pp. 5)米国環境保護庁 (1987)飲料水 中の各種化学物 質の健康影響評価 -健康 に関す る勧告集 -,388ppリ日本水道協会 ,東京 . 6)円代豊 ,谷 山鉄郎 (1995)沖永良部島のサ ンゴ石灰岩地域 にお け る集約 的畑作 と地下水硝酸帯窒素の動態 ,熱帯農業 ,39,82-88. 7)中西康博 ,山本洋司,朴光来,加藤茂 ,紙背喜 久雄 (1995)615N 値利用 による地下水硝酸起源推定法の考 案 と検証 ,日本土壌肥料学 ##" 66,544-551. 8)農林水産省監修 (1989)1989年ポケ ッ ト肥料 要 覧,pp.60-61,磨 林統計協会 ,東京. 9)沖縄県農林水産部 (1986)沖縄県の肥 料 ・機械 ,146pp. 10)沖縄県宮古支庁 (1978- 1999)宮古の農林水産 業 (昭和53-平成 11年度版 ). ll)築城幹典 ,原 田靖生 (1994)家畜の窒素抹世量 の推定 プログラム, 畜産の研 究 ,48,773-776. 12)和賀井文作 (1985)家畜のふん尿処理 と利用 ,333pp.,養賢堂 , 東 京.
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