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サブサハラアフリカにおける水田稲作の内発的発展と国際共同研究

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Academic year: 2021

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(1)サブサハラアフリカにおける水田稲作の内発的発展と国際共同研究. 51. 学界展望. サブサハラアフリカにおける水田稲作の 内発的発展と国際共同研究 島根大学名誉教授 若 月 利 之. 1. 国際共同研究の課題 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化 B)「農民 の自力水田開発によるナイジェリア,ケッビ州の稲作革 命に関する学術調査」. 2. 海外の共同研究パートナー ◦Dr. Segun Yinka Ademiluyi (Director of Engineering, National Center for Agricultural Mechanization : NCAM), Ilorin, Nigeria. ◦Dr. Mohammed Moro Buri (Director of CSIR-Soil Research Institute, Professor of CSIR-College of Science and Technology), Kwadaso, Kumasi, Ghana.. 3. 研究内容・目的 表 1 によると,Nigeria の 1961-65 年の年平均籾生産は 21 万トンにすぎなかったが,2013-17 年には 766 万トン へと増大している。直近の 2016-17 のみをとりだせば日 本と同水準の 1000 万トンに達している。この急増を牽 引したのは Kebbi 州である。Kebbi 州には政府の大規模 灌漑地は存在しないが,過去 10 年 (2010-19) で Niger 川 と支流の氾濫原に,農民が小型ポンプ灌漑水田を自力で 開発し,乾雨期合計で 30 万 ha の水田稲作により 180 万 t の籾生産を実現 (Shehu and Lolo, 2017) した。Google 衛星画像でもそれは確認できる。本研究の目的は,これ 連絡先:〒 631-0821 奈良市西大寺東町 1-1-23-128 号 島根大学名誉教授 e-mail: [email protected]. を検証することである(図1)。 本プロジェクトには,筆者以外の日本人研究者とし て,村田周祐(鳥取大地域学部準教授),渡邊芳倫(福 島大食農学類准教授),林昌平(島根大生物資源科学部 助教)が加わっている。若月は 2019 年 1-2 月と 7-10 月 に Nigeria の Niger,Kebbi,Kano 州,Ghana の Kumasi 市近郊の Adugyama 村で現地調査を実施した。. 4. 上記の研究者を共同研究者として選ぶに 至った経緯 Ademiluyi 氏は 2010 年に近畿大学で博士号を取得(主 査若月)した。2004-2020 年まで,若月を代表とする科 研(A,S,及び特別推進)や IOM(国際移住機関)の Chad 難民定住化プロジェクトの現地リーダーとして活 動してきた。2015 年以降は Nigeria 政府予算で農業機械 化とアフリカ水田農法 Sawah Technology(若月, 2020) の普及・訓練を Nigeria 全土で実施している。 Buri 氏は 1999 年に島根大で博士号を取得(主査若月) した。1997-2020 年まで若月の JICA プロジェクトや科 研の現地リーダーを務めた。2009-2019 年に AfricaRice の Togo, Benin, Liberia の内陸小低地 (Inland Valley) の水 田 稲 作 振 興 プ ロ ジ ェ ト Sawah, Market Access, And Rice Technology(SMART-IV) に Dr. R. N. Issaka(1997 年島根大 博士)とともに参加した。. 5. 研究の進展状況 2010-15 年の科研で水田仮説 1(水田という農地プラッ トフォームがなければ近代稲作技術は無効である)を実 証するために,世銀支援の Kebbi 州の低地開発プロジェ.

(2) 若 月 利 之. 52. 図 1 Kebbi 州の Google earth 画像 下図の無数の区画は水田の畔を示す。それぞれの水田区画には 5m より浅い地下水を小型携帯ポンプで汲み 上げて直接灌漑している。Google earth の 2010 年 12 月の画像ではこの 70ha 内の水田区画はゼロ,A 区画約 4ha は 2012 年 2 月までに開田され乾季水田稲作が行われ,B 部分約 3ha では 2013 年 12 月までに水田稲作が, C 付近やその他では 2016 年 2 月には乾季稲作が急拡大した。また,D 付近では 2017 年 1 月に乾季作,E で は 2019 年 1 月に乾季作が開始された。しかし,F 区域では水田は開発されなかった。G 付近の水田の 1 筆 2. 2. の面積は 30m くらいで日本の弥生期の小区画水田に似ている。A 付近では 1 筆の面積は 100-200m に拡大し, 畔も強化され小型耕耘機も使用されていた。それぞれの区画の所有農民の携帯やスマホ電話番号と位置情報 を現場で確認して,現場におけるヒヤリングで不足する情報もその後ナイジェリア,あるいは日本で,追加 収集できる。 出所:Googole earth の 2019 年 1 月 25 日の乾季撮影図. クト (FadamaIII)/ 農業開発プロジェクト (ADP) と農民組 合を対象に,NCAM と組んで Kebbi 州の主な稲作地帯 Arugungu,BirininKebbi,Jega,Sangelu,Suru,Bagudo 等で Sawah Technology の普及活動を実施した。しかし Google earth の 2010-19 年の時系列画像を観るまで,そ の後の展開は把握していなかった。また,現地調査によ る確認もできていなかった。ようやく本科研による現地 調査により内発的開発が確認できた(図 1)。 Sawah Technology では,氾濫原の 5m 以浅の地下水を 2 台 500 ドル程度の携帯ポンプで汲み上げ 1ha を灌漑す る。燃料とポンプの維持償却費は 150-200 ドル /ha/ 作 で,1 トンの増産でこのコストが償却できるため,農民 の自助努力による水田開発が急拡大した。とりわけ乾季. 作は 6-7t/ha の高収量となるエジプト型稲作になるので, 急拡大した。図 1 の無数の水田区画の見える位置情報 (11.949N, 4.150E)を中心とする 70ha の範囲内の A-F は 1-5ha の面積を有する個々の農民圃場を示す。これらは 2010-19 年にかけて個々の農民が自力開発した。Google earth にこの位置情報を入力すれば,誰でも確認可能で ある。周辺との比較や過去 10 年の土地利用の変化も確 認できる。Kebbi 州と同様の氾濫原や内陸デルタは西と 中央アフリカのサヘル帯に沿って広く分布している。こ の地域を含むサヘル帯南部はボコハラム,南スーダン, 貧困等アフリカ的問題の中心地域であるが Kebbi Rice Revolution 方式等による農業革命は平和構築のための社 会基盤となる。.

(3) サブサハラアフリカにおける水田稲作の内発的発展と国際共同研究. 53. 表 1 FAOSTAT(2019)直近 5 年(2013-2017)の平均籾生産量(単位万トン)に基づくサブサハラアフリカ諸国トップ 24 位の 国別年間平均籾生産量と籾収量(t/ha) 順位. 国名. 1961-5 年 2013-17 年 過去 52 年 最近 5 年 平均籾生 平均籾生 増加倍率 の籾収量 産量 産量. 1. Nigeria. 21. 766. 2. Madagascar. 158. 365. 3. URTanzania. 12. 274. 4. Mali. 17. 240. 5. Guinea. 23. 209. 6. Coted'Ivoire. 22. 7. SierraLeone. 34. 36. 順位. 国名. 1961-5 年 2013-17 年 過去 52 年 最近 5 年 平均籾生 平均籾生 増加倍率 の籾収量 産量 産量. 1.9. 13. Liberia. 13. 28. 4.2. 14. Cameroun. 1. 27. 27. 1.3. 23. 2.5. 15. Benin. 0.1. 28. 280. 3.3. 14. 3.2. 16. Uganda. 0.3. 24. 80. 2.5. 9.1. 1.2. 17. Mauritania. 0.1. 24. 240. 5.2. 206. 9.4. 2.5. 18. GuineaBisau. 5. 18. 3.7. 1.7. 126. 3.7. 2.02. 19. Togo. 2. 17. 8.5. 1.9. 2.3. 2.2. 1.3. 8. DR Congo. 6. 96. 16. 0.8. 20. Ethiopia. 0. 13. 9. Senegal. 10. 70. 7. 4.02. 21. Mozambique. 9. 12. 10. Ghana. 3. 65. 19. 2.2. 22. Malawi. 0.6. 12. 11. BurkinaFaso. 3. 34. 11. 2.2. 23. Kenya. 1.4. 11. 7.9. 3.6. 12. Chad. 3. 29. 10. 1.5. 24. Niger. 1.1. 10. 9.1. 4.3. >100 1.3 20. 2.9 0.5 1.8. 出所:FAOSTAT(2019). 6. 国際共同研究を推進していく上での工夫 や直面した課題およびその解決策 (1) 現地調査を困難にする短期の要因としての治 安リスクと熱中症および風土病や感染症等の 衛生面のリスク対策,乾雨期の通年調査の実 施,数年から数十年の長期継続調査の実施. サブサハラアフリカにおける現地調査やアクション リサーチを中心とする実践的農業研究では,乾雨期の 通年調査,気候変動をカバーする継続調査が不可欠で ある。さらに治安面と熱中症や風土病等の生活環境を考 えると,日本人チームのみの実施は困難である。これら 短期,中期,長期のリスクや問題を解決する方法は,日 本の大学等で博士レベルまで訓練したアフリカ人が研究 チームの中核となるのがベストである。このため,当初 からアフリカ人の博士プログラムと連動して現地研究を 実施してきた。基本的には日本人院生や研究者と現地機 関のスタッフは平等の立場で参加するように配慮した。 とりわけ博士プログラムの院生やカウンターパート機関 のスタッフを研究費等の配分の際には最優先した。過去 30 年で博士やポストドクプログラムに 20 数名が参加し, 博士まで完了したのは 15 名で 5 名は博士論文完成に至 らなかった。一方,アフリカをテーマとする日本人で博 士号を取得したのは5人のみであった。. (2)アフリカの若手人材の発掘方法. 現地調査を日本人だけで実施するのではなく,現地の カウンターパート機関(今回は NCAM と SRI)の推薦 するスタッフと共同現地調査を実施するよう工夫をして いる。1-2 週間程度寝食を共にしながら同じ調査車両で 現地調査を実施することにより,日本への招聘や博士プ ログラムの準備,論文の分担執筆もスムーズに行く。 カウンターパート機関のスタッフとの現地調査の実施 は,今後の協同研究の推進のみならず,ナイジェリアの ような治安面に不安のある国では,日本人だけでは分か りにくいエスニックグループ間の軋轢や誘拐や反政府暴 動等の危険情報等が入りにくいので, 特に重要だと思う。 また,Nigeria の Ibadan に本部を置く国際熱帯農業研究 所 (IITA) や象牙海岸国の Bouaké のアフリカ稲センタ― (Africa Rice Center) 等の国際機関の研究者との共同研究 も有効である。これらの国際機関は国境の通過ビザの取 得,植物防疫や他の輸入禁止品の通関を容易にし,調査 時の管理のシステム(治安情報,適切なガイドや経験の ある運転手,ポリスの手配,軍隊のガード)を有するので, こういったところに日本の若手研究者を定期的に派遣す ることは大変有益だと思う。ただしこれらの国際機関は トップダウンのタワー型研究組織であるので,研究テー マと実績と費用分担の面で折り合いがつかないと,共同 研究は難しい。.

(4) 若 月 利 之. 54. (3)テレワーク方式の試み. 本研究の中心的調査地域である Kebbi 州や Kano 州は 2020 年 3 月時点では外務省の海外安全情報でレベル 3(渡 航中止勧告地域)となっている。ただし,Nigeria 農業 農村開発省傘下の NCAM は Kebbi 州や Kano 州で Sawah Technology の普及活動を通常業務として行っている。 また,3 月 12 日には Buhari 大統領が過去 10 年間中断し て い た Kebbi 州 の Arugungu International Fishing Festival の再開を祝い,Kebbi Rice Revolution の成果を視察する ために Kebbi 州を公式訪問した。Rice Revolution による 経済の底上げにより治安が回復されたためとされてい る。NCAM スタッフも特に問題なく現地調査が実施で きた。日本人研究者は,外務省のルールに従って日本人 による現地調査を断念した。 これにより,NCAM の Dr. Ademilyui,Mr. Olanrewaju および Mr.Bashiru 氏の 3 名が若月(ネット環境の良い Ilorin や奈良で)と Google earth 画像を用いながら,現 場情報をメールやスマートフォンでやりとりしつつ,テ レワーク方式で本調査を実施した。このテレワーク方式 の有効性を確認するために,Kebbi と Kano 州の調査の 前に,Niger 州の Bida の村をモデルに Kebbi でのテレワー ク方式を想定して 4 人で模擬訓練をした。2020 年 1 月 -3 月 Niger 州と Kebbi 州で水田仮説 2(水田は持続可能 な集約的稲作生産実現のプラットフォームである)(若 月,2020)の検証のために稲作調査と水田土壌採取を実 施した。このうち,奈良にいる若月と相談しながらテレ ワーク方式で Kebbi 州の調査を実施した Olanwewaju 氏 は,2020 年 4 月,島根大博士課程に入学予定で本研究 はその博士研究も兼ねる。ただし,3 月末の渡日予定は 新型コロナ問題で半年~ 1 年以上の延期となった。. 7. 国際共同研究を行うにあたって感じたこ と,気づいたこと アフリカの持続可能な農業革命は水田稲作が内発的に 進化しながら発展することによってしか実現しないとい う思い込み(仮説)で,筆者は過去 30 年以上,主とし てアクションリサーチ方式(試行錯誤)で研究を行って きた。しかし,Kebbi Rice Revolution を実際この目で確 認するまで確信は持てなかった。このため,学術論文を 書くことがおろそかになったという反省はある。 若手研究者にとって学術論文は最優先である。一方, サブサハラアフリカの農業セクターにとっては内発的発 展性を有する技術開発や普及(イノベーション)が重要 である。しかし,実践的研究は試行錯誤が中心となり, 現在の風潮であるインパクトファクター重視(農民では なくて,研究者コミュニテー重視)の学術活動になりに くく,若手研究者にとって魅力的でないかもしれない。. 参考文献 FAOSTAT (2019) “Food and Agriculture Data,” (http://www.fao.org/ faostat/en/#home) (2019 年 12 月 9 日閲覧). Shehu, B. and Lolo, A. (2017) “Promoting Rice Productivity in Kebbi State : Linking Data and Policy, Innovation Lab for Food Security Policy, Nigeria Agriculture Policy Project, Feed The Future, The US Government’s Global Hunger and Food Security Initiative, USAID, Michigan State University, IFPRI and FMARD,” (https://www.canr.msu.edu/fsp/countries/nigeria/kebbi%20 state%20policy%20note%202.pdf) (2020 年 3 月 16 日閲覧). 若月利之 (2020) “Sawah Technology home page,” (http://www.kinkiecotech.jp/) (2020 年 3 月 19 日閲覧)..

(5)

図 1 Kebbi 州の Google earth 画像

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