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「接着」 による歯髄保護の新しい基軸

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Academic year: 2021

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(1)77. 総 説 「接着」による歯髄保護の新しい基軸. 林 美加子1) 北 迫 勇 一2,3) 高 橋 礼 奈3) 二階堂 徹4). 大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座歯科保存学教室 外務省大臣官房歯科診療所 3) 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再構築学講座う蝕制御学分野 4) 朝日大学歯学部口腔機能修復学講座歯科保存学分野歯冠修復学 1) 2). A key aspect of pulp protection using modern adhesive technology HAYASHI Mikako1), KITASAKO Yuichi2,3), TAKAHASHI Rena3) and NIKAIDO Toru4) Department of Restorative Dentistry and Endodontology Osaka University Graduate School of Dentistry. 1). Dental Clinic, Ministry of Foreign Affairs. 2). Department of Cariology and Operative Dentistry, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University. 3). Department of Operative Dentistry Division of Oral Functional Science and Rehabilitation School of Dentistry, Asahi University. 4). 抄 録:長寿社会において,歯の長期の保存のためには歯髄保護が一つの重要な要因である.歯髄保護は,学術 的にはう蝕学,保存修復学,歯内療法学の接点ともいうべきトピックスであり,この 3 領域からの複合的な視座 で,基礎研究と臨床研究から歯髄保護の可能性を検討すべきであろう.とりわけ,最新の接着材料や MTA に代 表される機能性材料を活用した歯髄保護を重視し,象牙質・歯髄を守るための正しい知識と確かな手技を身につ けることが重要である. 接着歯学分野において,象牙質接着の性能が著しく向上したことを背景に,接着界面が歯髄保護の最前線と なって,同時に歯質が強化されることも発見された.本稿では,先端的な象牙質接着の進化が歯髄保護法に与え た影響に焦点を当てて,接着による歯髄保護の理論的背景,保険収載もされたレジンコーティング法,さらには 深在性う蝕の歯髄保護の考え方について考察してみたい. (日歯内療誌 42 (2) :77~82,2021). はじめに 患者は,痛みのない歯科治療によって,良好な口腔 状態を保てることを切に希望している.歯の長期の保 存のためには,歯髄保護が一つの重要な要因であるこ とは疑う余地はない. 1990 年代初頭から Dentin/pulp complex(象牙質‒ 歯髄複合体)の考え方が提唱されて以来1),象牙質が 受付:令和 3 年 1 月 28 日/受理:令和 3 年 2 月 24 日. 口腔に露出した時点で,歯髄保護を考える視点が受け 入れられてきた.歯髄保護は学術的にはう蝕学,保存 修復学,歯内療法学の接点ともいうべきトピックスで あることより,われわれは,この 3 領域からの複合的 な視座で,さまざまなステージの歯髄保護を基礎研究 と臨床研究から詳細に検討すべきであろう.とりわ け,最新の接着材料や MTA に代表される機能性材料 を活用した歯髄保護を重視し,象牙質・歯髄を守るた めの正しい知識と確かな手技を身につけることが重要 である. 接着歯学分野において,象牙質接着の性能が著しく.

(2) 78 日歯内療誌 42(2):77~82,2021 向上したことが,2000 年代初頭から提唱されてきた Minimal Intervention Dentistry2)の浸透に大きな役割 を果たしてきた.いうまでもなく,わが国の接着歯学 研究は,強力な産学連携にも支えられて世界をリード しており,日常臨床で秀逸な接着性修復材を用いるこ とができる恵まれた環境にある.さらに近年の研究を とおして,先端的な接着材を用いることで接着界面が 歯髄保護の最前線になり,同時に歯質が強化されるこ とも発見された3).よって,接着は単なる「くっつけ る接着」から「封鎖し,歯を守る接着」へと進化して おり,歯髄保護の機能が高く評価されるようになった. 歯内療法学分野での歯髄保護は,従来は間接覆髄, 直接覆髄,断髄などが主たるトピックスとして取りあ げられてきた.本稿では,象牙質接着の進化が歯髄保 護法に与えた影響に焦点を当てて,先端的な接着技術 でいかに Dentin/pulp complex を守るかについて考察 してみたい.. の歯髄刺激や細胞毒性などを問題視し,それを理由に コンポジットレジン修復に異議を唱える研究グループ もあった.しかし,象牙質に対する接着性能が著しく 向上すると,このような議論は終息し,現在のコンポ ジットレジン修復では,高性能な接着システムを用い た象牙質の処理が浸透し,術後疼痛もほとんどみられ なくなった. 象牙質の接着メカニズムについては,Nakabayashi ら4)が提唱した樹脂含浸層の形成の発見が大きな転機 となった.質の高い樹脂含浸層が形成できれば象牙質 の保護につながるため,臨床的意義は極めて高い.接 着性修復では接着界面に樹脂含浸層が形成されて修復 物との界面にはギャップは生じず,界面に沿った脱灰 は進まない(図 1‒中および右) .とくにセルフエッチ ングシステムを使用した場合,接着界面に薄い樹脂含 浸層が形成され,さらにその直下にう蝕に抵抗する 層,いわゆる酸‒塩基抵抗層が形成される(図 1‒右). 一方,リン酸エッチングを行った場合,樹脂含浸層は 形成されるが,直下にう蝕抵抗性を示す層の形成は観 接着が歯髄を守る 察されない.図 2 に,セルフエッチング接着システム う蝕を除去した後に露出した象牙質はただちに封鎖 (クリアフィルメガボンド,クラレノリタケデンタル) すべきであり,そのままの状態で放置すれば外来刺激 と象牙質との接着界面の透過電子顕微鏡像を示す.接 を受け続けることで歯髄のダメージも大きくなる.こ 着試料に対して人工う蝕を模した脱灰と次亜塩素酸ナ こでは,切削によって露出した象牙質をいかに接着材 トリウム処置を行っているが,ボンディング材(B)と 料にて封鎖して歯髄保護を実現するかを述べる. 象牙質(D)との接着界面に樹脂含浸層(H)と酸‒塩 最近のコンポジットレジンは,材料自体が進歩して 基抵抗層の形成を認めた.この酸‒塩基抵抗層はアパ いるものの,主成分であるマトリックスレジンが重 タイトを含み象牙質に移行的であり,象牙質が脱灰し 合・硬化時に収縮する特徴がある.そのためコンポ て消失しているのに対して,脱灰に抵抗しているのが ジットレジン修復を行う際には積層充塡法やフロアブ わかる.レジンとエナメル質との接着界面でも確認さ ルレジンによるライニングなどを行って,コンポジッ れているこの層は,接着材に含まれる機能性モノマー トレジンの重合収縮に伴って生じる窩洞との隙間(コ と歯質のハイドロキシアパタイトとの化学的結合によ ントラクションギャップ)の発生を軽減する工夫がな るものと考えられている5).臨床的見地に立って考え た場合,セルフエッチングシステムを用いて接着する されている.現在の接着材料の性能は著しく向上して と,象牙質表層にう蝕抵抗性の高い保護膜が形成され おり,窩洞に加わるコンポジットレジンの重合収縮応 ることにより,修復物の長期臨床成績の向上に貢献す 力にも打ち勝つだけの接着性能を持ち合わせている. ることは間違いない.このように,セルフエッチング しかし,過去には象牙質に対する十分な接着強さが得 システムを塗布することによって歯髄が保護され,同 られず,コンポジットレジン修復後にさまざまな歯髄 時に歯質が強化されるとの知見は臨床的意義の大きい 症状が生じて問題となったこともあった.現在でも口 発見である5,6). 腔の過酷な環境下にあって,接着操作が不十分となれ 接着は修復材料と歯質とを堅固に接着させることを ば術後疼痛の問題が生じる可能性は十分にあるため, 目的に開発が進められたが,実際の接着材料は,単な 確実な接着操作ができる環境を整えることが肝要であ る「くっつける」機能を超えて「歯髄保護」さらには る. までにいたっている.すでに接着材と歯質 象牙質に対する接着がまだ十分ではなかった時代に 「歯質強化」 おいては,コンポジットレジン修復後に生じる術後 との化学的な相互作用が知られ,歯質強化のメカニズ ムについても明らかになりつつある. 疼痛や歯髄炎の惹起が大きな問題となった.術後疼痛 の原因として,上述したコントラクションギャップに 伴う辺縁漏洩と,それに伴う細菌侵入が早くから指摘 されていた.その一方で,歯髄炎の原因としてレジン.

(3) 「接着」による歯髄保護 79 樹脂含浸層なし. 修復材 接着性 なし. 二次う蝕 の形成 象牙質. 非接着性修復. 樹脂含浸層(H)の形成. 修復材 接着性 あり H. 象牙質. リン酸エッチング. 修復材 接着性 あり. 樹脂含浸層の 直下にう蝕抵 抗層の形成 H 象牙質. セルフエッチング. Fig. ₁ Changes in the interfaces between dentin and restoratives with or without adhesion₇) In non‒adhesive restorations(left), a gap between a restoration and a cavity causes secondary caries. In adhesive restorations(center and right), a hybrid layer is effective to prevent secondary caries. In the case of self‒etching bonding system(right), a carious resistant layer is observed adjacent to the hybrid layer. 図 ₁ 修復材料の接着の有無と脱灰による界面の変化₇) 非接着性修復(左)では修復材料と窩洞との間にギャップ が生じて二次う蝕が形成される.接着性修復では樹脂含浸 層の形成により二次う蝕が防止できる(中および右) .とく にセルフエッチングシステムの場合,樹脂含浸層直下にう 蝕抵抗層が形成される(右).. 保険収載されたレジンコーティング法. Fig. ₂ TEM images of the adhesive interfaces Acid‒base resistant layer(pointed arrows)is observed at the interface between resin bonding(B)and dentin ₃) . Adhesive:Clearfil Mega Bond(Kuraray Nori(D) take Dental) 図 ₂ 接着界面の透過電子顕微鏡(TEM)像 ボンディング材(B)と象牙質(D)との接着界面に樹脂含 浸層(H)と酸‒塩基抵抗層(指矢印)の形成が認められ る₃).接着材:クリアフィルメガボンド(クラレノリタケ デンタル). 2019 年 12 月より生活歯歯冠形成を行った支台歯に は刺激にさらされる.これらは患者にとって痛みを伴 対して,象牙質レジンコーティング法が保険収載され う処置であり,象牙質・歯髄保護の観点からは回避が た.2020 年 4 月の歯科診療報酬改定では,新たに「象 望ましい.そのような臨床を背景に,生活歯歯冠形成 牙質レジンコーティング」の算定項目が設けられた. を行った支台歯に対して,象牙質レジンコーティング 2020 年 5 月現在,保険適用されている歯科用シーリン 法が考案され,これまでにレジンコーティング法に関 グ・コーティング材は, 「ハイブリッドコートⅡ」 (サ して in vitro と in vivo 両面の研究報告が多数なされて ンメディカル) ,「トクヤマシールドフォースプラス」 いる7).たとえば,in vitro の接着試験後の破断面を観 察したところ,コーティングを行わなかった場合,そ (トクヤマデンタル) , 「クリアフィルユニバーサルボ の破壊形態は主にレジンセメントと象牙質との間での ンド Quick ER」 (クラレノリタケデンタル)の 3 種類 界面破壊であり,レジンセメントの象牙質へ十分に浸 である.いずれの製品も 1 液性象牙質接着システムを 透していないことを示唆したが,コーティングを行っ ベースに作られており,シーリング・コーティング材 た場合,主にレジンセメントとコーティング層との間 として象牙質知覚過敏抑制作用に効果を表す材料であ での破壊が観察された(図 3).この結果は,臨床的に る. は,たとえ修復物が脱落した場合でもコーティング層 支台歯形成後の露出した象牙質面は,補綴装置が装 が象牙質の表面を被覆していることを示しており,象 着されるまでの間,テンポラリークラウンなどを仮着 牙質と歯髄の保護という観点から重要である8). して保護する.しかし,テンポラリークラウンの物性 加えて,レジンコーティングが接着性レジンセメン の低さや仮着用セメントの性質から,テンポラリーク トの象牙質接着強さに及ぼす影響を検証した結果,レ ラウンが破損・脱離することも日常で経験するところ ジンコーティングによって約 2 倍の接着強さを示して である.それによって象牙質が露出して,外部からの いることも9),臨床における推奨の根拠となっている 物理的・化学的な刺激やプラーク付着に伴う細菌侵入 など,さまざまな刺激に晒される危険性がある.さら (図 4). 今後の課題として,現在では保険収載されていない には,新しい補綴物装着時に,テンポラリークラウン 生活歯インレー修復形成や無髄歯の窩洞形成の際の象 の除去から補綴物装着までの間,再び露出する象牙質.

(4) 80 日歯内療誌 42(2):77~82,2021 レジンコー ティング あ り. レジンコー ティング な し. Fig. ₃ SEM images of fracture surfaces after the tensile bond test₈) Fracture occurs at the interface between resin cement and coating material without dentin exposure. 図 ₃ 引張接着試験後の破断面電子顕微鏡像₈) 破断はレジンセメントとコーティング層との間 で発生しており,象牙質は露出していない.. 牙質レジンコーティングも対象とすべきであろう.生 活歯であるインレー形成はもちろんのこと,無髄歯に おいても象牙質レジンコーティングを行うことで根管 内に侵入した口腔内細菌が根管を介して根尖へ到達す る微小な漏洩(コロナルリーケージ)を防ぐのに有効 である.今後,象牙質レジンコーティング法のさらな る適用拡大が強く望まれる.. 深いう蝕のコンポジットレジン修復に 裏層は必要ない コンポジットレジンの象牙質への接着技術が十分に 確立していなかった時代には,コンポジットレジン修 復の術後疼痛や歯髄壊死が発生した10).そして,その 原因がコンポジットレジンの歯髄為害性であると考え られ11),特に深い窩洞の修復時には水酸化カルシウム 製剤に代表されるセメントによる裏層が必ず行われて いた.その後 2000 年代になって,接着性モノマーの進 化などで象牙質接着技術が確立したことにより,深い 窩洞のコンポジットレジン修復には裏層が必要ないこ とを日常臨床で経験し,臨床研究においても証明され るようになった12~14). CR 修復の歯髄刺激性に関する in vivo 研究におい て,残存象牙質厚さ(RDT:remaining dentin thickness) が主要な指標として検討されてきた.すなわち, RDT が大きいほど歯髄への影響が少ないと考えられ, 1990 年代には Stanley15)により歯髄保護のために必要 な最低限の厚さは 2 mm と提唱された.冨士谷ら16)は, 各種接着性レジンの歯髄刺激性に関して RDT 値なら び に 酸 処 理 条 件 に つ い て 検 討 し た. そ の 結 果, RDT0.8mm 以上ではあまり初期症状が認められない. 0. 2. 4. 6. 8. 10. 12. 14. 16. 18. 20. Fig. ₄ Superior dentin bonding by resin coating₉) Mean±SD, Unit:MPa 図 ₄ レジンコーティングによる象牙質接着強 さの向上₉) 平均±標準偏差,単位:MPa. ものの,RDT0.8mm 以下では窩洞形成や修復操作な どの初期刺激が出現しやすいことを報告した.さら に,象牙質のリン酸による酸処理は,象牙細管の開口 を促すため,歯髄への初期刺激を助長させることを報 告しており,これは後述の臨床研究の結果とも合致し ている12,13).さらに Kitasako らも,in vivo 研究にて, RDT が 1 mm 以下の窩洞に対し,セルフエッチングシ ステムで歯面処理後,裏層なしで CR 修復を施した場 合の,3 日後,30 日後,および 90 日後の歯髄反応を病 理組織学的に検証している17).その結果,3 日後,30 日後,および 90 日後のいずれでも炎症性細胞浸潤は認 めず,30 日後から新たな象牙芽細胞が観察され,90 日 後において刺激象牙質の形成を認めることを発見し た.図 5 に示すとおり病理組織像における RDT はす べて 0.8 mm 以下であり,in vivo 研究において,セル フエッチングシステムで歯面処理後,裏層なしで CR 充塡を施した場合でも重篤な歯髄症状を生じないこと が示されたことから,深在性う蝕に対する CR 修復に おいて裏層は必要ないことの根拠になっている. 2000 年代の臨床研究では,Unemori らが 436 歯のコ ンポジットレジン修復の短期と長期予後について観察 している12,13).その結果,術後 7 日目の短期歯髄症状 の発現には,窩洞の深さおよび象牙質接着システムの 種類が影響を及ぼし,セメント裏層の影響はなしと結 論づけている.すなわち,象牙質をリン酸エッチング するトータルエッチングシステムを用いた場合および 深い窩洞の場合に,短期の歯髄症状がより頻繁に出現 することがわかった.また長期経過後でも,歯髄症状 の発現には窩洞の深さと短期経過時の症状の発現が影 響を及ぼし,セメント裏層の影響はなしとしている. 加 え て, 深 い 窩 洞 に 裏 層 が 必 要 か を 検 証 し た.

(5) 「接着」による歯髄保護 81. Fig. ₅ Histological images of dentin‒pulp complex after restoring by resin composites with self‒etching bonding system without cement lining₁₇) Reparative dentin is observed after ₉₀ days(×₆₄, B:bonding layer, bur=₅₀₀μm). ₁:₃ days, RDT ₀.₇₁ mm. ₂:₃₀ days, RDT ₀.₆₈ mm. ₃:₉₀ days, (RDT:remaining dentin thickness) . RDT ₀.₇₈ mm 図 ₅ セルフエッチング接着システムを用い,裏層 なしで CR 充塡した場合の病理組織像₁₇) ₉₀ 日後において刺激象牙質の形成を認める(倍率× ₆₄,B:ボンディング層,bur=₅₀₀μm).₁:₃ 日後, RDT ₀.₇₁ mm.₂:₃₀ 日後,RDT ₀.₆₈ mm.₃:₉₀ 日後,RDT(残存象牙質の厚さ)₀.₇₈ mm.. Cochrane Systematic Review によると,複数のラン ダム化割付試験より約 300 症例の結果を統合したとこ ろ,1 週間の術後疼痛と 1 年の修復の失敗にセメント 裏層の有無は影響を及ぼさないと結論している. これらより,日本歯科保存学会のう蝕治療ガイドラ イン18)では「露髄はしていない深い窩洞を確実な接着 によってコンポジットレジンで修復した場合,裏層の 有無は術後の歯髄症状の発現に影響を及ぼさない. よって,深在性う蝕に対するコンポジットレジンで修 復に裏層は必要ない」としている.いうまでもなく, コンポジットレジン修復の成功は厳密な接着操作によ るところが大きく,歯髄保護の観点から,ガイドライ ンの推奨にも「確実な接着によって」と強調されてい るところが重要である. 14). おわりに-エビデンスを活用した 歯髄保護を実践する 臨床医学・歯学におけるエビデンスの集約が診療ガ イドラインである.特に先進的な治療法,あるいは議 論の分かれる治療法について,客観的かつ総合的な基. 準に則して推奨が示されており,これらが日常の歯科 臨床において治療方針決定の指標になっている.わが 国では,学術団体が作成した診療ガイドラインで一定 の 基 準 を 満 た し た も の は, 日 本 医 療 評 価 機 構 MINDS19)に収載されている.今回取り上げた「歯髄保 護」に関しては,2020 年から日本歯内療法学会と日本 歯科保存学会とが協働して診療ガイドラインを作成す る作業が始まっており,広い視野に立って議論が熟成 されることは,臨床医と患者の両者に益することは疑 いのないところである.そこでは,保存修復・歯内領 域で蓄積された科学的な背景と,エキスパートの臨床 経験,さらには患者の価値観および実行可能性も加え て総合的に歯髄保護に関する推奨をまとめる作業が進 んでいる. 本稿では,歯髄保護を接着の観点から議論してお り,とりわけ歯髄への侵害刺激の予防に焦点を当てた 内容とした.超高齢社会の歯科医療では,頻繁に高齢 者の診療を行うのみならず,人生 100 年を見据えた長 期的視点に立った治療計画が必要である.歯の長期保 存のために重要である歯髄保護について,保存修復と 歯内療法の 2 つの領域が共同して作成する診療ガイド ラインに注目していただきたい. 本稿に関わる利益相反はない.. 文 献 1)Goldberg M, Lasfargues JJ:Dentin pulp complex revised, J Dent, 23:15, 1995. 2)FDI. Minimal Intervention Dentistry for Managing Dental Caries. https://www.fdiworlddental. org/pt/node/4456(2021 年 1 月 20 日アクセス) 3)Waidyasekera K, Nikaido T, Weerasinghe DS et al.:Reinforcement of dentin in self‒etch adhesive technology:A new concept, J Dent, 37: 604‒609, 2009. 4)Nakabayashi N, Kojima K, Masuhara E:The promotion of adhesion by the infiltration of monomers into tooth substrates, J Biomed Mater Res, 16:265‒273, 1982. 5)Nikaido T, Takagaki T, Sato T et al.:The concept of super enamel formation? Relationship between chemical interaction and enamel acid‒ base resistant zone at the self‒etch adhesive/ enamel interface, Dent Mater J, 39:534‒538, 2020. 6)Nikaido T, Weerasinghe DD, Waidyasekera K et al.:Assessment of the nanostructure of acid‒ base resistant zone by the application of all‒in‒.

(6) 82 日歯内療誌 42(2):77~82,2021 one adhesive systems:Super dentin formation, Biomed Mater Eng, 19:163‒171, 2009. 7)Nikaido T, Tagami J, Yatani H et al.:Concept and clinical application of the resin‒coating technique for indirect restorations, Dent Mater J, 37:192‒196, 2018. 8)Murata T, Maseki T, Nara Y:Effect of immediate dentin sealing applications on bonding of CAD/CAM ceramic onlay restoration, Dent Mater J, 37:928‒939, 2018. 9)柵木寿男,勝山 茂:コンポジットレジンイン レ ー の 合 着について,日歯保存誌,36:1531‒ 1552,1993. 10)Brännström M, Nordenvall KJ:Bacterial penetration, pulpal reaction and inner surface of Concise Enamel Bond. Composite linings in etched and unetched cavities, J Dent Res, 57:3‒10, 1978. 11)Hume WR:A new technique for screening chemical toxicity to the pulp from dental restorative materials and procedures, J Dent Res, 64: 1322‒1325, 1985. 12)Unemori M, Matsuya Y, Akashi A et al.:Self‒ etching adhesives and postoperative sensitivity, Am J Dent, 17:191‒195, 2004. 13)Unemori M, Matsuya Y, Hyakutake H et al.: Long‒term follow‒up of composite resin restorations with self‒etching adhesives, J Dent, 35:. 535‒540, 2007. 14)Schenkel AB, Veitz‒Keenan A:Dental cavity liners for Class l and Ⅱ resin‒based composite restorations, Cochrane Database Syst Rev, 2019. 15)Stanley HR:Dental iatrogenesis, Int Dent J, 44: 3‒18, 1994. 16)冨士谷盛興,本山智得,瓜生 賢ほか:接着性レ ジン修復の歯髄刺激―窩底象牙質の厚みと酸処理 の強さの影響―,広島歯誌,24:10‒16,1996. 17)Kitasako Y, Nakajima M, Pereira PNR et al.: Monkey pulpal response and microtensile bond strength beneath a one application resin bonding system in vivo, J Dent, 28:193‒198, 2000. 18)日本歯科保存学会編.う蝕治療ガイドライン第 2 版(2015) .http://www.hozon.or.jp/member/ publication/guideline/file/guideline_2015.pdf (2021 年 1 月 20 日アクセス) 19)日本医療機能評価機構.MINDSライブラリ.https: //minds.jcqhc.or.jp(2021 年 1 月 20 日アクセス) 著者連絡先:林 美加子 大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染 制御学講座歯科保存学教室 〒 565‒0871 大阪府吹田市山田丘 1‒8 TEL:06‒6879‒2926 FAX:06‒6879‒2929 E‒mail:[email protected].

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図 ₁ 修復材料の接着の有無と脱灰による界面の変化 ₇) 非接着性修復(左)では修復材料と窩洞との間にギャップ が生じて二次う蝕が形成される.接着性修復では樹脂含浸 層の形成により二次う蝕が防止できる(中および右).とく にセルフエッチングシステムの場合,樹脂含浸層直下にう 蝕抵抗層が形成される(右).樹脂含浸層なし修復材接着性なし二次う蝕の形成非接着性修復 リン酸エッチング セルフエッチング 樹脂含浸層の直下にう蝕抵抗層の形成象牙質樹脂含浸層(H)の形成修復材接着性ありHH象牙質象牙質修復材接着性あり
図 ₃ 引張接着試験後の破断面電子顕微鏡像 ₈)
Fig. ₅  Histological images of dentin‒pulp com- com-plex after restoring by resin composites  with self‒etching bonding system without  cement lining ₁₇)

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