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学力向上に向けての検定試験導入政策に関する研究 : 草津市学力向上プログラムを事例として

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はじめに

本稿の目的は、地方自治体における新しい学力観に基 づいた教育政策の一端を明らかにすることである。その ような新しい学力観に基づいた教育政策として、本稿 は、滋賀県草津市が実施した検定試験導入政策を事例と してとりあげる。 日本では戦後から学力をめぐる議論が絶えず繰り返 された。とりわけ、1990 年以降は、学力の低下が大き な問題として指摘されるようになった。たとえば、2003 年の OECD の生徒の学習到達度調査(PISA)1 )では、 日本の生徒の学習意欲などが OECD 諸国の平均値より 下回っていることが明らかにされている。子どもの学習 意欲の低下は、中央教育審議会でも指摘されており2 ) この問題がひいては学力の低下へと結実することとな る。 そのような現状の中で、近年、「学力向上」をめぐっ て国だけではなく地方自治体も様々な教育改革を実施 している。本稿で取り上げる草津市も、そのような教育 改革を試みる事例のひとつである。草津市は、草津市す べての児童・生徒に確かな学力を身につけさせるための 「草津市子どもが輝く学力向上プログラム(以下「プロ グラム」)を策定した。このプログラムでは、小学校に おいて日本漢字能力検定と市独自の計算検定を、中学校 においては日本漢字能力試験と実用英語技能検定を、草 津市各学校のすべての児童・生徒に受けさせるようにし ている。この草津市における検定試験の導入という新た な教育改革に本稿は着目する。 本稿では、第 1 に草津市の検定試験導入政策にはどの ような背景と狙いがあるのか、第 2 に教育現場における 教師に新たな教育改革はどのように受け止められたの か、第 3 に新たな教育改革は生徒や保護者などにどのよ うに受け止められたのかを明らかにすることで、草津市 における新たな教育改革の実態を明らかにする。そのた めの方法は、以下のとおりである。第 1 の目的に関して は、草津市における資料等の分析と関係者へのインタ ビューを通じて明らかにする。第 2 の目的に関しては教 頭会や校長会での議論を中心に明らかにする。第 3 の目 的に関しては筆者が中心となって行ったアンケート調 査の分析を通じて明らかにする。 論述は以下の通りである。Ⅰ.では日本の学力観の変 遷や学力低下をめぐる問題を整理しながら、地方自治体 において新たな教育改革が行われていることを述べる。 Ⅱ.では草津市の狙いと教育現場におけるアクターの認 識を分析する。Ⅲ.では草津市松原中学校での英検の導 入事例を簡単に紹介したうえで、これがどのように受け 止められているかについて、アンケート調査の分析を通 じて明らかにする。最後に、おわりにで、結論と課題を 述べる。

Ⅰ.日本の学力観の変容と草津市の学力観

1.日本の学力観の変容 日本で学力観をめぐる問題は、戦後以降常に議論され はじめに Ⅰ.日本の学力観の変容と草津市の学力観  1.日本の学力観の変容  2.草津市の学力観 Ⅱ. 草津市における検定試験導入政策の策定の狙いと背 景  1.草津市における検定試験導入政策の狙い  2.検定試験の市全体で取り組む意義  3.検定試験導入政策に対する学校現場の意見 Ⅲ.草津市松原中学校における英検の全校取組の分析  1.草津市松原中学校における英検の全校取組の概要  2. 教職員、保護者、生徒の英検取り組みに対する評 価―学力の観点から おわりに

学力向上に向けての検定試験導入政策に関する研究

─草津市学力向上プログラムを事例として─

金   紅 梅

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てきた。有薗(2006)は戦後の学力観の変遷について、「戦 後の学力観の変遷をみると、そこに基礎学力論争や測定 可能な学力とは何か、生きて働く学力観、到達度評価に よる学力観、問題解決学習と学力対策、認知と情意の統 合を図る学力観、生きる力の資質・能力としての学力観 など多様な学力観に立つ学力問題が展開されてきた」と 述べている3 )。このように国の学力観は時代とともに変 化し、それに伴う形で教育政策が打ち出されてきた。 従来の学校の目的は知識・理解・技能の習得であった が、「知識偏重」「詰め込み教育」の批判があり、平成元 年には生活課を設けた新学力観が掲げられ、平成 3 年に 発表された『指導要録』では、新しい学力観に立つ学力 の要素は「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表 現」「知識・理解」からなるとした。しかもこれは「関心・ 意欲・態度」を最重要視し、知識・理解は結果として思 考力・判断力、技能・表現力など総合したものであると 捉えたものであった。 第 15 期中央教育審議会の第 1 次答申(平成 8 年 7 月) では、授業時数と教育内容を削減し、「ゆとり教育」が 提言され、「生きる力を育む資質・能力」を学力とみな すという学力観を示した。そこで「生きる力」とは、「基 礎・基本を確実に身につけ、いかに社会が変化しようと、 自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断 し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自ら 律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感 動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための 健康や体力などである」と指摘されている4 ) しかし、2001 年から 2002 年にかけて、社会的な議論 の的となった「学力低下」の問題の浮上を背景に、文部 科学省では 2002 年頃から「確かな学力」の表現を使用し、 2002 年 1 月に「確かな学力の向上のための 2002 アピー ル」として、『学びのすすめ』と呼ばれる文部科学省の 基本方針を国民に示した5 )。しかし、『学びのすすめ』 は「生きる力としての資質・能力」を育む学力観につい て十分な解説を欠いた内容となっていたため、学校現場 に学力づくりをめぐる混乱が見られた6 )。こうした混乱 を是正していくために、平成 15 年の中央教育審議会の 答申の中で「生きる力としての資質・能力の育成」に対 応した基礎・基本とは「生きる力としての知的側面」に あたるとして、確かな学力形成は「生きる力の知的側面」 にあたる基礎的な知識・理解の習得を目指すものとされ た。また、「確かな学力」を「それは『生きる力』の知 の側面であり、知識・技能はもちろんのこと、これに加 えて学ぶ意欲や、自分で課題をみつけ、自ら学び、主体 的に判断し、行動し、より良く問題を解決する資質や能 力までを含めたもの」とも定義している7 )。そのため「確 かな学力」には、①基礎的・基本的な知識・技能、②知 識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・ 判断力・表現力など、③学習意欲など主体的に学習に取 り組む態度が重要な要素になっている8 )。新しい学習指 導要領においても、「基礎的・基本的な知識・技能の習得」、 「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思 図 1 「確かな学力」と「生きる力」 出所:中央教育審議会「初中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善策について(答申)」、平成 15 年 10 月

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考力・判断力・表現力の育成」と並んで、「学習意欲の 向上と学習習慣の確立」があげられている。なお、「確 かな学力」と「生きる力」の関係については、文部科学 省では平成 15 年の中央教育審議会の答申の結果で図 1 のように示している。 このように、文部科学省による新しい学力観に立つ教 育では、自ら学ぶ意欲、思考力、判断力、表現力などの 育成を強調し、多様な視点からの対応が必要になる。ま た、学習の評価においても、「関心・意欲・態度」の観 点を重視している。もちろん、学ぶ意欲については、従 来の教育でも強調されているが、新しい教育では、自己 教育力の育成の立場から改めて強調されるに至ってい る。 2.草津市の学力観 ここでは国の学力観に対し、草津市では学力をどのよ うに捉えられているか、「生きる力」を学力として捉え ている文部科学省の学力観とどう異なるのか、「確かな 学力」と「生きる力」の関係をどのように考えているの かについて明かにする。 草津市では文部科学省がキーワードにしている「生き る力」や「確かな学力」という表現を使わず独自に学力 を解釈している。図 2 で示しているように草津市は「① 学ぶ意欲、②知識・技能・理解、③知識・技能の活用力、 ④問い・考え・創造する力、⑤知力・体力・徳性」の側 面が学力を成すと認識している。この学力観には文部科 学省が示している「確かな学力」の要素を中心としつつ、 「体力・徳性」など「生きる力」の要素も含まれている。 草津市では、学力の捉え方について、使用する表現が異 なるにしても中身は文部科学省の「生きる力」の概念に 近いことがうかがえる。草津市教育委員会の関係者は「学 力」と「生きる力」の捉え方について、「「生きる力」を 学びの基盤(力)となる「知力・体力・徳性」の学力を 価値として生かしたものを「生きる力」と捉えている」 と説明している9 ) 草津市が目指す概念図からは教育の方針について定め ようとしていることが分かるが、文部科学省の「生きる 力」の考え方についてどれほど理解されているかについ て疑問に感じる。草津市の学力観について、教育委員の 意見の中でも、「生きて働く力(生きる力)」としての学 力をどうように捉え、どう位置づけられるかについての 視点が見えてこないとの指摘があった10)。その意味で、 草津市が考える学力は、個人的な側面が強調されており、 社会的側面からの捉え方が不十分であると指摘されてい る11) このように草津市における学力観は曖昧な部分があ り、「知力」に関する説明が不足しているなどの問題も ある。しかし、その一方で、従来の知識偏重の学力では ない、「自ら学び、自ら考える力」などの「能力」や「態 度」までを含めた新たな学力観が提示されているのであ る。では、草津市はどういった目的で、どのような教育 改革を具体的に行っているのだろうか。

Ⅱ.草津市における検定試験導入政策の

  策定の狙いと背景

1.草津市における検定試験導入政策の狙い 草津市では以上述べたような学力観のもとで、冒頭で も触れたように平成 22 年度に「子どもが輝く教育のま ち」を教育の基本目標として掲げ、10 年間を視野に入 れた「草津市子どもが輝く学力向上プログラム」を策定 した。 プログラムでは、「基礎基本の確かな力を」、「生きる 力の基盤を」、「社会が求める力を」、「学習への意欲と関 心を」、「学びの態度と習慣を」を草津市公立学校の共通 課題とし、それぞれ具体的な取り組みを設定している12) そのなかで、「基礎基本の確かな力を」の取り組みとして、 平成 22 年度から小学校において日本漢字能力検定と市 独自の計算検定を、そして中学校においては日本漢字能 力試験と実用英語技能検定を草津市各学校のすべての児 童・生徒に進めるという施策を打ち出している。 そこで以下では、草津教育委員会でのインタビュー調 査13)を中心に、草津市教育委員会がどのような考えの 基で「学力向上プログラム」を策定し、その中で草津市 問題解決に知識・技能 を活用する力 学ぶ意欲 知力・徳性・体力 知識・理解 技能 自ら問いを持ち、 考えを創造する力 図 2 草津市がめざす学力の概念図 出所: 草津市教育委員会 「草津市子どもが輝く学力向上プロ グラム 全体構造図」平成 21 年 8 月 31 日案より。

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公立小中学校における検定試験の導入がどの位置づけに あるかについて明らかにする。 市教育委員会が主導で検定試験をすべての公立学校で 推進させていることは、草津市の検定試験導入政策の特 色である。 その狙いとしては、児童・生徒の自律的な学習習慣の 形成と学習意欲の高揚を目指し、最終的には「学校・家 庭の教育力を高め、子どもたちが自ら学ぼうとする力と、 生きる力を育む教育の推進」に結びつけることを目標と して掲げている。児童・生徒の能力に応じて各自の目標 にチャレンジでき、学校教育に自律的に学習に取り組む 風潮をもたらし、「勉強が楽しい」、「学校に行くのが楽 しい」という児童・生徒が増えることを期待している。 そして、草津市では検定試験を導入することにより、 草津市が考える 5 つの学力の側面うち、①様々なことに 興味関心をもち、自ら学ぼうとする意欲と態度と、②物 事に対する正しい知識、理解と技能を向上させることを 狙いとしている。同時に、児童生徒が各自の目標ともち、 お互いに触発しあいながら学びあうことにより「基礎基 本の確かな力」を身につけさせるための取り組みとして 位置づけている。検定試験の取り組みは、総合的な学力 を向上させていくためのリーディングプロジェクトとし て実施し、これをきっかけに学校教育全体に良い影響を 与え、上記の①と②の側面の学力向上のみならず、その 結果としてほかの三つの側面の学力にも波及を及ばす効 果を期待している。 草津市では、検定試験の結果を児童・生徒の学力の定 着度を評価する一つの指標として活用することも考えら れている。検定試験は、各学年の教育内容に対応したも のであり、それを児童・生徒が一年を通して学んできた ものがどの程度定着しているかを判断する材料として用 いようとしている。漢字検定と英検は、全国統一検定試 験ということもあって、生徒個人の成績と学校の成績を 全国平均レベルと比較することができるという特徴があ る。そして、成績表には項目ごとの全国平均レベルにお ける位置づけがわかるため、成績の結果に基づいて、生 徒が自分の力を客観的に分析し、弱い分野を集中して勉 強することも期待されている。同時に教師も試験の結果 に応じて指導ができ、普段の授業でも生徒のレベルに合 わせた授業設計が可能になると考えられている。 なお、各検定における狙いについてはそれぞれ以下の ように説明している。まず、計算検定においては、小学 校算数科における基本的な計算力を習得し、漢字検定と 英語検定においては、英語力と漢字力の向上、自立的な 学習習慣の形成、学習意欲の高揚を狙いとしている。目 標として、小学校 6 年で漢字検定 6 級を、中学 3 年で漢 字検定 4 級以上に合格することを設定している。これは、 英語検定協会と漢字検定協会で出している受験級の目安 1 級 準1 4 級 3 級 準 2 2 級 8 級 7 級 6 級 5 級 9 級 10 級 小学校1 年生~6 年生 中学校1 年生・2 年生 中学校3 年生 高校1 年生・2 年生 高校3 年生 大学生・社会人 図 3 漢字検定の各級の程度 出所:財団法人日本漢字能力検定協会 http://www.kanken.or.jp/frame/f02.html を参照に筆者作成。 表 1 英語検定の各級の程度 5 級 4 級 3 級 準 2 級 2 級 準 1 級 1 級 中学初級 中学中級 中学卒業 高校中級 高校卒業 大学中級 大学上級 出所:日本英語検定協会 http://www.eiken.or.jp/index.html を参照に筆者作成。

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より 1 級低く設定し(図 3 と表 1 参照)、すべての子ど もが目標を持って取り組めることを狙いとしている。 もっとも重要なのは、検定試験に向けて何級を受ける かを児童・生徒自らが目標を設定し、その目標に向かっ て頑張ることが期待されている。つまり、検定試験のた めの学習を通して、自律的な学習態度を身につけさせる。 さらに、目標ができたことで、学習意欲が湧き、楽しく 勉強できるだろうと考えられている。そして、毎年一回 繰り返し検定試験を受けることで、学習リズムが身につ き、良い学習習慣がつくだろうと期待している(受験ス ケジュールについては、表 2 参照)。つまり、草津市で は検定試験の導入を通して児童・生徒に基礎学力を身に つけさせるとともに、学習意欲を向上させ、良い学習習 慣を身につけさせることで、全体の学力を向上させてい こうとする狙いである。 以上述べたように草津市の検定試験導入政策の特徴と しては、基礎基本の知識の獲得や学習習慣の形成と学習 意欲の高揚を狙いとして実施することである。特に生徒 の学習意欲を高めるために学年ごとに受験級を決めるの ではなく、生徒自らが受験級を選択できるという仕組み を作っている。 2.検定試験の市全体で取り組む意義 草津市の検定試験導入政策は、草津市の学校全体で取 り入れるものであり、学力向上政策においての草津市の 特色とも言える。 ここでは、草津市教育委員会の関係者へのインタ ビュー調査を通じて、草津市では個人の取り組みではな く、市全体で取り組む意義をどのように考えられている かについて以下の 6 つの点にまとめる14) ①市の補助金交付による保護者の検定料金負担の軽減 ② 草津市の児童・生徒のレベルに合わせた草津市オリ ジナル計算検定の導入 ③児童・生徒、保護者の意識の向上 ④教育課程に位置付けた取り組み ⑤学力を高める手段(評価に使える) ⑥学習意欲の向上 ①個人あるいは学校だけで実施すると、保護者もしく は学校が検定料金を負担しなければならない。児童・生 徒が小学校 3 年から中学校 3 年まで、毎年 2 つずつ検定 試験を受けることを考えた場合、保護者の負担はかなり 大きい(表 3 参照)。それは、児童・生徒の検定を受け ようとする行動を阻む恐れがある。また、草津市の学校 の中では、検定料金を学校の予算でまかなう余裕のある 学校が少なく、学校独自ですべての児童・生徒の検定料 金を負担するのはかなり困難である。そこで草津市では、 検定料金の一部を補助し、その残りは学校の実情に応じ て、PTA や地域の協力を得て解決する方向で考えている。 ②計算検定に関しては、日本数学検定協会で実施され ている児童数検ではなく、草津市オリジナルの計算検定 を導入する予定である。草津教育委員会では、草津市の 児童・生徒のレベルに合わせた計算ドリルなどの学習問 題集を作り、無料で各学校に配布する。そして計算検定 は、草津市の教育委員会が実施するものなので、児童・ 生徒は検定料金を負担する必要がない。 ③検定試験を全市で取り組むことによって、児童・生 徒と保護者の意識が定着するだろうと考えている。松原 中学校で、希望者のみが英検を受験するようにした 2007 年には漢字検定の受験者数は全体の 5.6% だったが、 英検の全校受験を始めた 2008 年度には 20% に増えたと いう事例もある15)。同時に、検定試験の勉強は、一人 で取り組みやすい学習項目であり、家庭での学習が期待 できる。また、保護者も見てあげやすい課題であり、家 庭の協力が得られやすくなる。 ④市全体で取り組むことによって、学校の教育課程に 位置づけた取り組みになる。そして、検定試験の内容は、 各学年における学習内容に適応しているため、計画的に 学校教育の中に取り入れることができる。 ⑤漢字、計算、英語検定試験の結果は、一年の学習成 果を評価するものとして用いられる。検定試験の結果を 項目ごとに分析し、学校と児童・生徒一人ひとりの強み と弱みを分析することで市の目標を立てやすく、児童・ 表 2 草津市における検定試験の各学年別の検定時期 学級 漢字検定 英語検定 計算検定 診断テスト 検定 小学校 3 年生 ◎ ○ 小学校 4 年生 ○ ◎ ○ 小学校 5 年生 ○ ◎ ○ 小学校 6 年生 ○ ◎ ○ 中学校 1 年生 ○ ○ 中学校 2 年生 ○ ○ 中学校 3 年生 ○ ○ 注 ○:1 年度に 1 回  ◎:1 年度に 2 回

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生徒のレベルに応じた教育が取り組める。その結果、学 校全体の学力向上につながるのではないかと考えられて いる。 ⑥漢字検定と英語検定は、社会的に公認される資格試 験なので、実用性があって、児童・生徒の意欲を高めや すいと考えられている。児童・生徒の能力に応じて各自 の目標にチャレンジでき、学校教育に自律的に学習に取 り組む風潮をもたらし、「勉強が楽しい」、「学校に行く のが楽しい」と思う児童・生徒が増えることを期待して いる。 以上の理由から草津市教育委員会は、検定試験の導入 が草津市の「学力向上プログラム」のリーディングプロ ジェクトとしての取り組みに適していると考えられてい る。学力の向上のためにこのような具体的な取り組みを 推進することによって、「学力向上プログラム」を牽引 していくことを狙いとしている。 3.検定試験導入政策に対する学校現場の意見 草津市教育委員会では、「草津市子どもが輝く学力向 上プログラム」の作成にあたって、数回に渡って校長会 と教頭会を開き、検定試験導入について学校現場の意見 を聴取した。 その中での意見をまとめると主に以下のような 7 点が あげられる。①検定試験の導入について各学校は、前向 きな立場を表明したことである。②検定試験と学力との 関係の考え方について、検定試験を実施することによっ て学力のどの部分を伸ばせるかの問題について議論が交 わされた。プログラムの案では、学力における検定試験 の位置づけが不明確であったことが問題点として取り上 げられた。③検定試験の導入を考えた場合、検定料金を どのように解決するかについて議論された。市が補助金 として具体的にいくら出せるか、その残りの金額はどの ように解決するかについて、各学校による提案が示され た。④検定試験を導入する上で、各学校で懸念されるこ とは、教職員の意識の問題である。検定試験の導入の意 義についての意識の共有とこの取り組みに対しての教職 員の協力が得られるかどうかの問題が問われた。⑤検定 試験の実施において、小中学校の連携した取り組みにし てほしいという提案もなされた。中学校区の小学校の意 識を共有させ、達成目標を同じく設定することである。 また、中学生が小学生を教えたり、検定試験に合格した 児童・生徒が合格していない児童・生徒に教えたりする など児童・生徒同士で教え合うことを大事にしようとす る提案もあった。⑥目標の数値化については、一番議論 の的になった。数値目標の必要性の問題と目標を数値化 することによって、学校と子ども同士の競争を煽るもの になるのではないかと懸念する声が多かった。⑦そして、 検定の目標を設定して、その目標に達成した子どもに対 しては、得られる効果が大きいことは共感しているが、 目標に達成できない子どもをどのようにサポートするか に関する問題が提起された。つまり、目標に達成できて いないことが、児童・生徒の自尊感情の低下につながる のではないかという心配の声があった。 以上、市の共通プログラムとして検定試験の導入に関 して、学校教育現場では慎重な意見が多く出された。以 下では、その理由について整理してみたいと思う。 表 3 漢字検定及び英語検定の検定料金 漢字検定 英語検定 検定料金16) 受験級の目安 検定料金 受験級の目安 1 級 4,500 円 大学 7,500 円 大学上級 準 1 級 4,000 円 大学 6,000 円 大学中級 2 級 3,500 円 高校 3 年 4,100(3,900)円 高校 3 年 準 2 級 1,800 円 高校 1、2 年 3,600(3,400)円 高校 2 年 3 級 1,800 円 中学 3 年 2,500(2,300)円 中学 3 年 4 級 1,800 円 中学 1、2 年 1,500(1,300)円 中学 2 年 5 級 1,800 円 小学 6 年 1,400(1,200)円 中学 1 年 6 級 1,800 円 小学 5 年 7 級 1,800 円 小学 4 年 8 級∼ 10 級 1,400 円 小学 1 年∼ 3 年 出所:日本英語検定協会ホームページ http://www.eiken.or.jp/index.html 財団法人日本漢字能力検定協会ホームページ http://www. kanken.or.jp/frame/f02.html を基に作成。アクセス日:2009 年 8 月 6 日。

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まず、検定試験の導入自体(例えば導入の意義、効果 など)は、学校教育現場に良く理解されているが、学力 の中の位置づけが不明確だという意見があった。また、 検定試験のリーディングプロジェクトとしての役割を前 面に打ち出すことに対しての不安の声もあった。とりわ け、検定試験で測れるのは、学力の一部しかすぎないの に、プログラムのなかでもっとも具体的で、前面的に打 ち出していることに関して、学校現場では違和感を抱い ていた。そして、検定試験導入の効果として、教育委員 会が掲げている「自律的な学習習慣の形成」と「学習意 欲の高揚」につながっているかについても疑問の声があ る。この様な意見の背景には教育委員会の狙いが教育現 場に十分理解されていないことと、新しい取り組みに対 する戸惑いがある。 次に、「学力向上」の目標を数値で示したことである。 この案では、その意図が明確に伝わっていないことと、 学校側においての目標数値化の必要性の問題が問われ た。数値目標の問題が議論の俎上に載せられたのは、目 標の数値化がもたらす負の側面がすべて学校教育の中で も慎重に扱うべき問題であるからと考えられる。負の側 面の「競争を煽る」、「自尊感情の低下」、目標に達成で きなかった児童・生徒と学校の取り扱いに関する問題は、 厄介で複雑な問題であると同時に学校教育で非常に重要 で、慎重に扱うべき問題であるからである。この問題に 関して教育委員会では、「目標」を「成果指標」に改め て説明しているが、その数値の根拠や、目的、扱い方に ついて未だに説明不足であり、生徒間や学校間の競争を 煽るものに他ならないという学校現場の懸念も避けられ ないだろう。 最後に検定料金についても学校教育現場で、関心の高 い問題の一つになったのは、保護者の負担の過重問題と 学校独自で一部の料金を解決する事に関して学校ごとの 工夫の力量が問われるからであると考えられる。学校全 体で推進するにあたって、検定料金の問題が足枷になる のではないかという懸念も一方である。 このように、草津市の学校現場では検定試験の効果に 対する不安や目標数値化に対する批判など慎重な意見も あったが、検定試験の期待される効果と問題点を十分に 認識した上で、実施を試みようとする考えがみられた。 以上、この部分では資料の分析やインタビューなどを 通じて草津市教育委員会の検定試験導入政策の狙いや意 義などについて示し、それに対する教育現場の意見を明 らかにした。 そこで、草津市の教育改革も「学習意欲」の向上を狙 いとした学力向上政策であることがうかがえた。それと 同時に「基礎基本の確かな力」を「学習意欲の向上」と 「知識・技能の獲得」として考え、伝統的な学校教育の 上に、検定試験の取り組みを通して「基礎基本の確かな 力」を身につけることを最終目標としている。「知識・ 技能」においては従来のように学校で単に教え込むこと で身につけるのではなく、検定試験を通して勉強のきっ かけを作り、学力で差をつけないで誰もが自ら目標を 持って勉強に取り組めることで身につけていくことを狙 いとしている。これは、近年、日本の教育政策の方針と して「生きる力」の一環としての「学習意欲」の向上を 重要視し、同時に生涯学習の基礎的な知識の資質や能力 を育成する「生きる力」の理念に近いとみることができ る。

Ⅲ.草津市松原中学校における

  英検の全校取組の分析

1.草津市松原中学校における英検の全校取組の概要 では、実際の取り組みを、教職員、保護者、生徒はど のように受け止めているのだろうか。もちろん、以下で 取り上げる松原中学校の事例は、市の政策として推進し ているものではないが、草津市では松原中学校での英検 の全校取り組みを先行事例として考え、政策展開の参考 にしている。その意味で、松原中学校の事例分析は大変 重要である。 草津市では、市の小中学校において漢字検定、英語検 定、計算検定を実施しはじめているが、漢字検定と計算 検定に関しては全校受験の先行事例がまったくなく、 2008 年度から英語検定のみ草津市松原中学校で自主的 に実施されている。 ここでは、松原中学校英語科研究グループの共同研究 による報告書『全校生徒の英検受験で松中に学力向上を めざす校風を』と、元教師のインタビュー調査17)より、 松原中学校の英語検定取り組みについて簡単に説明す る。 松原中学校の英検の取り組みは以下の 4 点にまとめら れる。 一つ目は、教師は生徒がどの級を受験するかについて は一切関与しなかったことである。生徒が希望する級を

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受験できることは、松原中学校の取り組みの特色でもあ り、他の学校のように中学 3 年になると全員受験すると か、学年ごとに同じ級を受験させるケースが多いなかで のこの取り組みは革新的だと言える。松原中学校では、 受験級について学校側で一律に決めるのではなく、すべ て生徒の意思に任せ、教師は材料の提供にとどめている。 二つ目は、英検試験のためのサポートが行われている ことである。松原中学校の取り組みは、英検の受験自体 が目的ではなく、受験を通して学力を向上させることを 狙いとしている。受験に向けての少人数クラス体制や授 業内容の改善と勉強会の開催によって、生徒に「勉強し なさい」とただ押しつけるのではなく、学校体制として 勉強の環境を提供している。そして、級別の勉強会では 英検の問題集を用いて授業を行い、普段の英語科の授業 では受験の結果に応じて、生徒が不足している力を伸ば すために問題集を直接使用しなくてもテキストの内容に 加え、受験項目を意識した教育内容を取り入れている。 三つ目は、検定料の負担について、学校経費の削減と 英検協会からの補助金で解決し、保護者から新たな料金 を徴収していない。松原中学校では、全校生徒を対象に している以上、検定料問題が取り組みの壁にならないよ うに色々工夫されている。 四つ目は、学校あるいは学年、クラスの目標を設定せ ず、生徒一人ひとりの目標を大事にしている。一般的に は取り組みの成果として、目標を設定して生徒のための ものではなく、学校のためのものになりがちが、松原中 学校は、高い級をどれくらい受けたか、どれくらい合格 したかを評価するのではなく、生徒一人ひとりが自ら設 定した目標に向かっていかに頑張ったかを評価してい る。つまり、学校本位から出発したのではなく、生徒の 立場から考え、一人ひとりの目標に注目している。 このような取り組みのもとで生徒の学習態度にも変化 が表れ、英語力が低い生徒や勉強を諦めていた生徒も英 語の勉強に取り組み、英検受験後は漢検にチャレンジす る生徒も明らかに増えたと元英語教育は述べる。 この学校では、受験級の選択を生徒に任せているため、 英語力の低い生徒も取り組みやすく、学力で生徒を区別 しないで、全生徒を巻き込んだ取り組みになっているこ とが特徴である。 2. 教職員、保護者、生徒の英検取り組みに対する評価 ―学力の観点から ここでは、草津市松原中学校での英検取り組みについ て、取り組みに直接かかわった英語教師だけでなく、そ れを含むすべての教職員や保護者、そして英検受験の経 験者である生徒はどのように考えているかについてアン ケートの分析を通して明らかにする。 今回の調査では、草津市松原中学校 3 年生生徒 162 人、 その保護者 160 人、教職員 41 人を対象に調査を行った18) 調査方法に関しては、調査票を配布して回収による調 査法を採った。生徒に関しては、各クラスの担当教師に 依頼し、回答時間を設け、教室で回答してもらった。教 職員に関しては、教職員会議で教頭先生にアンケートの 趣旨を説明してもらった上で、調査票を配布して期日ま で回収した。保護者に関しては、草津市教育委員会の学 校教育課が添付したアンケートの依頼文とともに調査票 を封筒に入れ、生徒に渡してもらい、また後日回収した。 なお、調査票の回収状況については以下の表で示してい るとおりである。 この調査は、①松原中学校で 2008 年から行われた英 検の全校受験について、生徒、保護者、教職員はどのよ うに評価しているか。②市の政策としての漢字検定、計 算検定、英語検定の三つの検定試験の導入についてそれ ぞれどのように評価しているか。③生徒、保護者、教職 員は中学校においての学力観をどのように考えるいるか の 3 点を明らかにすることを目的としている。調査票の 量が膨大であり19)、本稿では調査内容の一部しか取り 扱わないため、本稿で扱う質問項目のみ表 5 に記す。 まず、「英検を通して身につく力」について、教職員 は「自分のレベルに合う目標を決める力」、「自主的に勉 強に取り組む力」、「目標に向かって計画的に勉強する力」 に関しては、75% から 93.8% の人が「大変そう思う」 あるいは「ややそう思う」と答えており、「確かな英語力」 に 56.3%、「自分の弱みや強みを見抜く力」は比較的に 低く、28.1% の人がそう答えている。 それに対し、保護者は、「自分のレベルに合う目標を 表 4 調査票の回収状況 在籍者数(人) 配布数(人) 回収数(人) 回収率(%) 生徒 162 152 152 100 保護者 160 152 94 58.75 教職員 41 41 32 78.05

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決める力」、「自主的に勉強に取り組む力」、「目標に向かっ て計画的に勉強する力」に関しては 80.4%から 86% の 人が「大変そう思う」あるいは「ややそう思う」と答え ており、「確かな英語力」についても 70.2%、「自分の弱 みや強みを見抜く力」は 58.9% の人がそう答えている。 生徒に関しては、「英検を通して身につく力」として、 保護者と教職員に比べて「大変そう思う」あるいは「や やそう思う」と答えた割合がやや低くなっており、5 つ の「力」は 51.5% から 63.1%前後の人がそう答えている。 このように、教職員は英検を通して、「確かな英語力」 よりも「自分のレベルに合う目標を決める力」、「自主的 に勉強に取り組む力」、「目標に向かって計画的に勉強す る力」が身につくと答えた人が圧倒的に多く、保護者は、 この三つの力に加え、「確かな英語力」も身につくと考 えていることが特徴である。この調査結果は、草津市教 育委員会の検定試験の導入の狙いと非常に近い結果に なっている。それに対し、上記の 5 つの力で「大変そう 思う」と「ややそう思う」と答えた生徒は、全体的に保 護者と教職員の回答より低い割合であったが、そのすべ てが半数以上を占めている。 この調査結果から「英語を通して身につく力」につい て 3 者の回答にはそれぞれ特徴が表れ、特に保護者と教 職員に関しては、「自主的に勉強に取り組む力」、「目標 に向かって計画的に勉強する力」など学習意欲につなが る要素が非常に期待されていることが考察できた。 次に、中学校で英検を受験することについて、保護者 は、6 つの項目のうち 5 つの項目について「大変そう思う」 と答えた割合が半数近くて、「ややそう思う」と答えた 表 5 学力に関する質問項目 対象者 質問項目 生徒 V. 英検の勉強を通してどのような力が身につくと 思いますか。 V. 中学校で受験することについてどうのように考 えますか。 V. 中学校での勉強を通してどのような力を身につ ける必要があると思いますか。 保護者 V. 英検の勉強を通してどのような力が身につくと 思いますか。 V. (英検の全校取組が「良い」「どちらかといえば 良い」と答えた人へ)その理由についてどう思 いますか。 V. 子どもは中学校でどのような力を身につける必 要があると思いますか。 教職員 V. 英検の全校取組において重要だと思うことは何 ですか。(複数選択) V. 英検の全校取組を通して良かったと思うことは 何ですか。(複数選択) V. 英検の勉強を通してどのような力が身につくと 思いますか。 V. 中学校の教育を通して生徒にどのような力を身 につけさせる必要があると思いますか。 保護者 教職員 生徒 確かな英語力 保護者 教職員 生徒 自分のレベルに 合う目標を決める力 保護者 教職員 生徒 自主的に勉強に 取り組む力 保護者 教職員 生徒 目標に向かって 計画的に勉強 する力 保護者 教職員 自分の弱みや強み を見抜く力 生徒 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 大変 そう思う やや そう思う あまり そう思わない まったく そう思わない 図 4 英検を通して身につく力

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人を合わせると、「高校受験につながる」が 75.5%、「英 語の勉強が進む」が 77.7%、「目標を持って勉強ができる」 が 90.3%、「英検勉強のきっかけになる」と「学校テス トにない達成感が味わえる」がそれぞれ 94.7%、「英検 資格を取得できるのがよい」が 98.9%になっている。 保護者に対し「大変そう思う」、「ややそう思う」と答 えた生徒の割合は低く、「英検の勉強が進む」49.2%、「目 標を持って勉強できる」58.3%、「英検を勉強するきっ かけになる」60.6%、「学校テストにない達成感が味わ える」60%、「英検資格を取得できるのがよい」78.9%、「高 校受験につながる」が 73.3% になっている。 保護者は、中学校で英検の受験を通して上記 6 つの項 目に関してすべて期待が非常に高いことがうかがえる。 それに対し、英検受験を経験した生徒は、6 つの項目に 対して半数前後の人がそう思っており、「英検資格を取 得できるのがよい」と「高校受験につながる」と答えた 割合が上位である。 この調査結果からは、保護者は中学校で英検を受験す ることに関して極めて期待が高く、それに対し生徒は、 「これから学んでいくための力」の態度や意識よりも知 識型の学力20)により英検受験の意味を感じていること が言える。 続いて、学力をどのように捉えているかについて把握 するために、生徒、保護者、教職員にそれぞれ中学校で 身につけるべき学力について尋ねた。 教職員の学力に対する考えとしては、「コミュニケー ション能力」(93.8%)、「良い学習態度」(78.1%)、「良 い生活習慣」(93.8%)、「自ら考える力」(90.6%)、「豊 かな心や感性」(84.4%)などが「かなり必要と思う」 と答えた割合が 78.1% から 93.8% の間で非常に高く、「高 校受験に役に立つ知識」(15.6%)や「コンピューター の知識や技能」(25%)などの知識型学力より、これか ら学んでいくための学力を重視していることがわかる。 また、基礎学力としての「国語力」(81.3%)の重視度 も高く、英語力に関しては「かなり必要と思う」37.5%、 「やや必要と思う」が 62.5% になっている。 保護者に関しては、教職員ほど「かなり必要と思う」 の割合が高くない(61.7% ∼ 76.6%)が、「コミュニケー ション能力」(69.3%)、「良い学習態度」(65.9%)、「良 い学習習慣」(67%)、「自ら考える力」(81.8%)、「豊か な心や感性」(76.1%)になっており、教職員と同様に 知識型学力よりこれから学んでいくための学力を重視し ていると言える。一方で基礎学力として「国語力」も 78.4% で、英語力に関しては「かなり必要と思う」と答 えた人が 54.5% で、「やや必要と思う」と答えた人が 42% になっている。 生徒に関しては、その特徴として教職員と保護者の中 学校で必要な学力についての考えが明らかに異なってい る。「かなり必要と思う」と答えた割合の高い順から並 べると、「国語力」54%、「自ら考える力」48.9%、「豊か 保護者 生徒 英語勉強の きっかけ 保護者 生徒 英語の勉強が 進む 保護者 生徒 目標を持って 勉強 保護者 生徒 テストにない 達成感 保護者 生徒 英検資格の 取得 保護者 生徒 高校受験に つながる 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 大変 そう思う やや そう思う あまり そう思わない まったく そう思わない 図 5 中学校で英検を受験することについて

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かなり 必要と思う やや 必要と思う あまり 必要と思わない まったく 必要と思わない 生徒 保護者 教職員 豊かな心や 感性 生徒 保護者 教職員 自ら考える力 生徒 保護者 教職員 運動能力や 体力 生徒 保護者 教職員 良い生活習慣 生徒 保護者 教職員 良い学習態度 生徒 保護者 教職員 コミュニケー ション能力 生徒 保護者 教職員 コンピューターの 知識や技能 生徒 保護者 教職員 高校受験に 役に立つ知識 生徒 保護者 教職員 社会科の知識や 社会的なものの 見方 生徒 保護者 教職員 音楽・図工・ 美術・技術家庭 などの力 生徒 保護者 教職員 数学・理科の力 生徒 保護者 教職員 英語力 生徒 保護者 教職員 国語力 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図 6 中学校で身につけるべき学力について

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な心や感性」45.6%、「高校受験に役立つ知識」44.2%、「社 会科の知識や社会的なものの見方」が 44.2% になって いる。そして、「音楽・図工・美術・技術家庭などの力」 (18.5%)と「コンピューターの知識や技能」(26.1%) を除いて、そのほかは 30% 台に分布している。「音楽・ 図工・美術・技術家庭などの力」と「コンピューターの 知識や技能」が極端に低い結果となっており、教職員、 保護者のように知識型学力とこれから学んでいくための 学力のはっきりした区別は見られなかった。 図 7 の学力の平均値を見ても、保護者と教職員は同じ 傾向を示しており、知識型学力の「国語力」とこれから 学んでいくための「コミュニケーション能力」、「よい学 習態度」、「よい生活習慣」、「自ら考える力」、「豊かな心 や感性」の 6 つの学力の要素が 2 から 1.5 の間の高い値 に分布している。また、教職員が 3 者のなかでも「高校 受験に役に立つ知識」だけがもっとも低くなっているこ とも特徴である。この結果からも保護者と教職員は、知 識型学力よりも「これから学んでいくための力」を重視 していることがうかがうことができ、「英検を通して身 につく力」の調査結果で明らかになったように英語力の 向上のみを期待するよりも、「学習態度」の向上をより 期待していることにも反映されている。 生徒に関しては、保護者と教職員に比べ平均的に低い 値のほぼ同じラインに分布しており、「国語力」がもっ とも高く、「音楽・図工・美術・技術家庭などの力」と「コ ンピューターの知識や技能」がもっとも低いこともこの 図から見てとれる。 以上の分析から、検定試験は学力のほんの一部にすぎ ないという校長会や教頭会で批判の声もあったが、英検 の取り組みを通して、英語力のほかに「自分のレベルに 合う目標を決める力」、「自主的に勉強に取り組む力」、「目 標に向かって計画的に勉強する力」などの学力の重要な 部分である「学習意欲」につながるような要素がかなり 期待されていることがアンケート調査を通して明らかに なった。 そして、中学校で身につけるべき学力については、教 職員と保護者に関しては「国語力」を除いて、知識型学 力よりもこれから学んでいくために必要な学力をより重 視していることがわかった。生徒に関しては、その二種 類の学力がほぼ平行していることが特徴である。

おわりに

以上、本稿では草津市の検定試験導入政策について分 析を行った。 草津市のこの取り組みは、テスト学力や従来型学力の 0 0.5 1 1.5 2 2.5 教職員  保護者 生徒 図 7 中学校で身につけるべき学力に対する重視度の平均値 注:「かなり必要と思う」+2、「やや必要と思う」+1、「あまり必要と思わない」-1、「まったく必要と思わない」-2

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知識・技能を向上させようとする学力の狭い捉え方に対 して、学ぶ意欲や学習習慣などに注目しての学力向上政 策だといえる。同時に、全市全校で推進することによっ て、学力向上の風潮を作り、学習環境を向上させていく ための取り組みでもある。 また、草津市の検定試験導入政策は単なる試験制度の 導入ではない。そのため、学校教育に従来の試験制度の ような競争主義や「選別」を行うためのものではなく、 試験で知識が試されるものでもない。「自ら選び、自分 で設定した目標に達成すること」を評価し、また誰もが 参加できる「平等」な仕組みを作ることである。同時に、 学校のテストのように結果を重視するのではなく、参加 を大事にし、学ぶきっかけを提供している。この意味で、 草津市の検定試験導入政策は十分評価できる。 一方で、立場によって政策の受け止め方がそれぞれ異 なることも考察することができた。そこでは、学力観に 影響されて、新しいことに挑戦するにあたっての戸惑い も見られた。 草津市松原中学校での事例では、保護者と教職員、生 徒の英検の取り組みを通して身につく学力について期待 度がそれぞれ異なるにしても、基礎学力だけでなく、「学 習態度」「学習意欲」などにも期待が高いことが明らか になった。これは、草津市の検定試験導入政策の狙いと 一致している。 草津市では、学力向上を測定する評価に関わる問題が 課題として残っており、検定試験の学力向上への効果を どのように評価するかをこれから解決していかなければ ならないだろう。 本稿では学力向上に向けての草津市のケースを取り上 げたが、これまでの学力をめぐる議論や他の自治体の教 育改革も視野に入れながら再考察することを今後の課題 とする。 謝辞 本調査は滋賀県草津市教育委員会学校教育課と草津市 松原中学校のご協力をいただき、実施することができた。 アンケート調査では草津市松原中学校の教職員、そして 多数の中学 3 年生の生徒とその保護者にご協力をいただ いた。また、インタビュー調査では多忙のなか、滋賀県 草津市教育委員会の関係者と松原中学校の元教師にご協 力をいただいた。ここで、皆様のご協力に御礼申しあげ たい。 1 )PISA は義務教育修了段階にある 15 歳児を対象として、「読 解リテラシー」「数学リテラシー」「科学的リテラシー」の三 つの分野を対象として、2000 年に最初の調査を行い、以後 3 年ごとのサイクルで行われた。2003 年調査では数学的リテ ラシーが中心分野で、読解力、科学的リテラシーを含む主要 3 分野に加え、問題解決能力についても調査された。2003 年 調査では、OECD 加盟国 30 カ国、非加盟国 11 カ国・地域が 参加した。文部科学省「PISA(OECD 生徒の学習到達度調査) 2003 年調査」参照。 2 )中央教育審議会初中等教育分科会教育課程部会「審議経過 報告」平成 18 年 2 月。 3 )有薗格『「人間力」を育む学校づくり』ぎょうせい、2006、 3 頁、参照。 4 )平成 8 年 7 月の中央教育審議会答申「21 世紀を展望した 我が国の教育の在り方について(第 1 次答申)」において、「今 後における教育の在り方として、ゆとりの中で、子供たちに 生きる力をはぐくんでいくことが基本であると考えた。そし て、生きる力は、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、 社会全体ではぐくんでいくものであり、その育成は、大人一 人一人が、社会のあらゆる場で取り組んでいくべき課題であ ると考えた」と述べ、今後の教育の目標と「生きる力」の重 要性について指摘された。 5 )安彦忠彦 「『確固として個性』を支える『確かな学力』を」 教科教育研究所『学校経営 CS 研レポート』Vol.53、参照。 6 )有薗格『「人間力」を育む学校づくり』ぎょうせい、2006、 6 頁、参照。 7 )中央教育審議会「初中等教育における当面の教育課程及び 指導の充実・改善策について(答申)」、平成 15 年 10 月。 8 )文部科学省教育振興基本計画(平成 20 年 7 月 1 日)20 頁、 参照。 9 )2009 年 8 月末の某日に教育委員会学校教育担当者に草津 市の「学力向上プログラム」についてインタビューを実施し た。 10)出所:草津市教育委員会内部資料 草津市教育委員 上松 氏「『草津市子どもが輝く学力向上プログラム』(案)につい ての意見書」2009 年 8 月 25 日。 11)この意見書では個人的な視点で学力を捉える事を批判し、 「お互いに学びあい、励ましあい、高めあいながら獲得し、 自分だけでなく、社会に貢献する広がりをもった人と人との 関わりの中で捉える」という学力の社会的な側面が欠いてい ることが指摘されている。出所、同上。 12)草津市教育委員会「草津市子どもが輝く学力向上プログラ ム」(H21.8.31 案)参照。 13)2009 年の 8 月末から 3 週間にかけて、草津市教育委員会 と「草津市子どもが輝く学力向上プログラム」について共同 研究を行い、その間にインタビュー調査を行ったものである。 14)草津市教育委員会の関係者にインタビュー調査を通じてま

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とめたものである。 15)草津市松原中学校英語科研究グループ『全校生徒の英検受 験で松中に学力向上をめざす校風を』2008 年 12 月。 16)( )内の数字は準会場行う場合の検定料金である。なお、 漢字検定の準会場の料金については、受験者数によってその 金額が決まる。 17)昨年度 2008 年まで英語講師を務め、本年度から教育支援 員として勤めている方に 2009 年 8 月 19 日にインタビュー調 査を行った。 18)アンケート調査の実施時期は 2009 年 12 月 16 日から 12 月 22 日までで、草津市教育委員会と松原中学校の協力を得て 実施された。 19)アンケート調査では、生徒、保護者、教職員それぞれに対 する調査票を作成し、設問数と変数はそれぞれ、生徒に関し ては 20 と 98、保護者に関しては 13 と 79、教職員に関して は 13 と 80 を設けている。 20)本稿では、学力を「知識型学力」と「これから学んでいく ための力」の二つに分類し、分析を行っている。「知識型学力」 すなわち従来型の学力には「国語力」、「英語力」、「数学・理 科の力」、「コンピューター知識や技能」、「高校受験に必要な 知識」、「資格」などが含まれる。それに対し、「これから学 んでいくための力」には「勉強の動機つけ」、「学習意欲」、「良 い学習習慣」、「良い学習態度」、「自主的に勉強に取り組む力」、 「自ら考える力」、「目標に向かって計画的に勉強する力」、「豊 かな感性」などが含まれる。

参照

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