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液相還元法による金属ナノ粒子分散ポリイミド樹脂フィルムの合成に関する研究

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博士論文

液相還元法による金属ナノ粒子分散

ポリイミド樹脂フィルムの合成に関する研究

(Study on the synthesis of metal nanoparticle

dispersed polyimide resin films by liquid-phase

reduction method)

2020 年 9 月

立命館大学大学院生命科学研究科

生命科学専攻博士課程後期課程

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立命館大学審査博士論文

液相還元法による金属ナノ粒子分散

ポリイミド樹脂フィルムの合成に関する研究

(Study on the synthesis of metal nanoparticle

dispersed polyimide resin films by liquid-phase

reduction method)

2020 年 9 月

September 2020

立命館大学大学院生命科学研究科

生命科学専攻博士課程後期課程

Doctoral Program in Advanced Life Sciences

Graduate School of Life Sciences

Ritsumeikan University

藤岡 大毅

FUJIOKA Daiki

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<目次>

第1章 緒論 ... 1 1.1 金属ナノ粒子 ... 1 1.2 マトリックス材料としてのポリイミド樹脂 ... 1 1.3 金属ナノ粒子分散複合材料の合成法 ... 2 1.4 金属ナノ粒子分散複合材料の構造制御の重要性 ... 3 1.5 本研究の目的 ... 4 第2章 液相還元法による Ni ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成 ... 6 2.1 緒言 ... 6 2.2 実験 ... 7 2.2.1 試薬 ... 7 2.2.2 試料の合成 ... 7 2.2.3 還元剤濃度が析出形態に及ぼす影響 ... 7 2.2.4 還元温度が析出形態に及ぼす影響 ... 9 2.2.5 Ni2+イオン吸着/還元処理の繰り返しが析出形態に及ぼす影響 ... 9 2.2.6 試料の評価 ... 10 2.3 結果 ... 12 2.3.1 KOH 処理前後でのポリイミド樹脂フィルムの化学構造の変化 ... 12 2.3.2 還元剤濃度が析出形態に及ぼす影響 ... 14 2.3.2.1 試料外観 ... 14 2.3.2.2 試料の表面抵抗 ... 15 2.3.2.3 析出物の結晶構造と化学組成 ... 16 2.3.2.4 Ni2+イオンの還元処理を行った試料の断面TEM 像 ... 21 2.3.2.5 TEM-EDS による元素分析 ... 24 2.3.2.6 まとめ ... 28 2.3.3 還元温度が析出形態に及ぼす影響 ... 30

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2.3.4.2 原子吸光分析による析出物の定量 ... 38 2.3.4.3 試料の断面 TEM 像 ... 39 2.3.4.4 TEM-EDX による元素分析 ... 46 2.3.4.5 まとめ... 50 2.4 結言 ...51 第3章 液相還元法によるNi-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成 ...53 3.1 緒言 ...53 3.2 実験 ...55 3.2.1 試薬 ... 55 3.2.2 試料の合成 ... 55 3.2.3 試料の評価 ... 57 3.3 結果 ...58 3.3.1 処理プロセスにおける試料の構造変化の FT-IR による解析... 58 3.3.2 TEM による試料断面観察... 61 3.3.3 XAFS スペクトルによる試料の化学状態の解析 ... 64

3.3.4 STEM-HAADF 像と STEM-EDX による Ni-Co NPs / PI の元素マッピング ... 67 3.3.5 EDX による Ni-Co ナノ粒子の元素比の決定 ... 72 3.4 結言 ...72 第4章 総括 ...74 参考文献 ...78 公開論文 ...81 謝辞 ...82

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第1章 緒論

1.1 金属ナノ粒子 近年,原子・分子から構築すること(ボトムアップ)や物質を細分化するこ と(トップダウン)によって得られた金属ナノ粒子が,さまざまな産業分野に おいて先端材料として注目されている.これは,金属ナノ粒子がバルク材料に はない特異的な性質を示すため,光学,電磁気学,熱力学などの分野において, 求めに応じて様々な機能を付加できる可能性があるためである1 ナノ粒子のもつ特異的な性質は,物理的な性質と化学的な性質に分けて考え ることができる.物理的性質は,ナノ粒子内の電子状態が量子化されることに よって引き起こされる(量子サイズ効果2)ものであり,これらの物性から磁性 材料 3や光学材料 4への応用など様々な材料分野において新しい展開が期待さ れている.化学的性質には,表面が高活性であることと比表面積が大きいこと に起因する反応性の高さが挙げられ,電池材料 5–7,触媒材料8,およびガス吸 蔵材料分野9–11などにおいても幅広く研究がなされている. 金属ナノ粒子を工業的に応用する場合は,金属ナノ粒子を離散的な状態でそ の機能を発揮させようとするものは少なく,特定のマトリックスに固定化させ たものが多い.これは,金属ナノ粒子とマトリックスを組み合わせることによ り,高い凝集性・反応性をもつ金属ナノ粒子にハンドリングしやすい形態を与 えることができるためである.また同時に,マトリックスの特性とドープされ たナノ粒子の量子サイズ効果や粒子間相互作用による新たな機能の発現が期 待できるためである.このため,金属ナノ粒子を機能性素子として何らかの形 でマトリックスに組み込み,マクロな構造をもつ複合体を構築しようとする研 究が数多くなされている12–18

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ド樹脂は優れた熱安定性や耐薬品性,電気的絶縁性,そして機械的特性などを 備えていることから,エレクトロニクス実装,宇宙産業,表面処理などの様々 な分野に応用されている19.またポリイミド樹脂とナノ粒子をコンポジットさ せた材料に関しては,電子デバイス20,光学デバイス21–24,および磁気デバイ ス25–27やガス分離膜28,29への応用が研究されている. 1.3 金属ナノ粒子分散複合材料の合成法 金属ナノ粒子複合材料の合成法として,あらかじめ合成した金属ナノ粒子お よび高分子を溶媒に分散,溶解させ,鋳型に導入,あるいは基板上にコートし, 乾燥,成形する手法30–32やプラズマ重合法にて合成した高分子薄膜に,スパッ タリング,または真空蒸着によりナノ粒子を導入する手法がある22.前者は, 粒子の空間分布の制御が困難であり,またナノ粒子および高分子の溶媒に対す る分散性・溶解性などに注意する必要がある.後者は,大規模で高価な装置が 必要であり,製造に多量のエネルギーを要するため,製造コスト面の問題が生 じる. 一方で,ナノ粒子の原料となる金属イオンを高分子マトリックス中に導入し, 次いで化学的還元や加熱処理などを利用して,金属ナノ粒子を高分子マトリッ クス内部に析出させる in situ 合成法がある 16,33,34.この手法は一般に材料のロ スが少なく,省エネルギー性に優れ,またナノ粒子の原料である金属イオンが 高分子マトリックス中に均一に分散することによって,複合材料中の金属ナノ 粒子の空間分布をより均一に制御することが可能である.この手法の具体例と して,カチオン交換基を持つ樹脂中に金属イオンを吸着させ,吸着金属イオン を何らかの手法により樹脂内部で還元する手法がある14,35,36 1.2 で述べたポリイミド樹脂においても,金属ナノ粒子を分散させる様々 な研究 36,37がなされている.この合成プロセスの概要図を図135,37に示す.縄

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35,38 この手法の特徴は,アルカリ溶液の濃度,処理温度,浸漬時間などのパラメ ーターでナノ粒子が形成する表面層の厚さ,および導入する金属イオン量を制 御できることである.このため粒子サイズや粒子間距離を制御でき,材料の構 造制御が可能である.また加熱しながら水素還元するため,イミド環が加水分 解した状態であるポリアミック酸から脱水反応を経てポリイミドに戻ること でポリイミド樹脂の物性を損なうことなく利用できる.その反面,カチオン交 換基が失われてしまうため,金属イオンを再導入して新たな粒子を生成させる ことが難しい. 図 1.アルカリ表面改質を利用したポリイミド樹脂への金属ナノ粒子生成プロ セス35,37(1) KOH 処理後のポリイミド樹脂,(2) 金属イオンの導入後の前駆体 フィルム,(3) 金属ナノ粒子を生成させたポリイミド樹脂. 1.4 金属ナノ粒子分散複合材料の構造制御の重要性

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散性の良いナノ粒子の合成は比較的困難であることから,ナノ粒子が示す物性 の粒子サイズ依存性などについて系統的な評価を行うことは難しい 6.このた め複合材料の応用研究をする以前に,金属ナノ粒子複合材料の構造制御に取り 組み,粒子サイズ・分散性と物性の相関について十分に検討することが重要で ある. 1.5 本研究の目的 金属ナノ粒子分散複合材料の性質を担う構造は,粒子サイズや粒子間距離に 依存するため,機能素子としての金属ナノ粒子の構造設計,これを埋め込んだ マトリックスの構造設計,さらにこれらを組み合わせるための複合化技術が求 められ,複合材料の最終形態と要求される諸特性に応じて様々な合成アプロー チの提案が必要である.特に複合材料の性質を評価する上で,また省エネルギ ーの観点からも,穏やかな条件かつ単純な系でナノ構造を合成・制御すること が望ましい. 著者らは,優れた化学的性,物理的性質を有するポリイミド樹脂を用い,ア ルカリ改質処理後に金属イオンを樹脂へ導入した前駆体フィルムを合成し,そ れを還元することによってコンポジット材料を合成する手法に着目した.この 方法の利点の一つは,ナノ粒子によって形成される表面層の厚さ,金属イオン の量,粒子サイズ,粒子間距離などの構造が,アルカリ溶液の濃度,処理温度, 浸漬時間などのパラメーターを介して制御できる点にある. 図1 に示す水素雰囲気下での熱還元では,イミド環の加水分解によるポリア ミック酸が脱水反応によりポリイミドに戻ってしまう(再イミド化).その結果, ポリイミド樹脂は物理的特性を保持するが,カチオン交換基が熱還元中に失わ れるため,追加の粒子を得る目的で金属イオンを再導入することは困難である. イオン交換能を失わず,還元反応を終了できれば,イオンの再導入・再還元

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属めっきとしての報告例 19,36,39–41があるが,金属を粒子状に析出させる報告は ない. 著者らは,高濃度の水素化ホウ素カリウム(KBH4)を還元剤に用いて液相還 元により金属ナノ粒子含有ポリイミド樹脂の合成を検討した結果,ポリイミド 樹脂内部に金属ナノ粒子が生成することを見出した.室温程度の温度域で金属 イオンを還元することが可能であり,マトリックス材料のイオン交換能を失わ ない.このKBH4を用いた液相還元法を用いて,金属ナノ粒子含有ポリイミド 樹脂フィルムを合成し,構造制御について検討することを目的とした. 第2章では,液相還元法による Ni ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの 合成について,KBH4 水溶液の濃度や還元処理温度を変化させること,および 金属イオンの吸着処理と還元処理を繰り返すことによって金属ナノ粒子複合 材料の構造に対しどのような影響を及ぼすか,について検討した. 第3章では,Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成につい て,表面改質によりポリイミド樹脂フィルム中に導入された金属イオンの物質 量比が,合金ナノ粒子の元素比や構造にどのように影響を与えるか,また繰り 返し吸着/還元処理が複合材料にどのように影響を及ぼすか,について検討し た. 第4章では,本研究の総括を述べる.

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第2章 液相還元法による

Ni ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルム

の合成

2.1 緒言 本章では,ポリイミド樹脂フィルムのアルカリ改質処理により樹脂に金属イ オンを導入する手法を応用し,高濃度の水素化ホウ素カリウム(KBH4)を還元 剤に用いた,Ni ナノ粒子分散複合材料の合成について検討した.この合成プロ セスは,(1) アルカリ(KOH)表面改質処理によってポリイミド樹脂内にカチ オン交換基(カルボキシ基)を形成させ,(2) 樹脂内に金属イオンを置換・導入 した前駆体を合成して,(3) KBH4水溶液により液相還元することで金属を析出 させ,金属ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムを合成する.また金属ナノ粒 子-ポリイミド複合材料の構造に及ぼす還元剤濃度と還元温度の影響,および金 属イオンの繰り返し吸着/還元の影響について検討する.

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2.2 実験 2.2.1 試薬 実験には,下記に示す薬品とフィルムを使用した. 試薬特級 水酸化カリウム (KOH) 和光純薬工業 試薬特級 硫酸ニッケル六水和物 (NiSO4・6H2O) 和光純薬工業 純度98 % 水素化ホウ素カリウム (KBH4) シグマアルドリッチ 試薬特級 酢酸 (CH3COOH) 和光純薬工業 精密分析用 硝酸 (HNO3) 和光純薬工業 ポリイミド樹脂フィルム (厚さ:125 µm) 日東電工 2.2.2 試料の合成 合成工程を図3 に示す.ポリイミド樹脂は 2×2 cm2のフィルム(日東電工製: 厚さ 125 μm)を用いた.このポリイミド樹脂フィルムを 50 ℃の 5.0 mol dm-3 KOH 水溶液に 5 分間浸漬させることによって表面改質処理し,水洗後,30 ℃ の0.050 mol dm-3 NiSO4水溶液に浸漬し,Ni2+イオンを吸着させた.得られたポ リイミド樹脂フィルムを,30 ℃の KBH4水溶液に20 分間浸漬し,Ni2+イオンを 還元した.引き続き,ポリイミド樹脂フィルムに吸着している残留イオンを除 去するために,フィルムを0.25 mol dm-3 CH3COOH 水溶液に室温で 1 分間浸漬 した.合成試料は水分を取り除くため,温風にて乾燥した. 2.2.3 還元剤濃度が析出形態に及ぼす影響 ポリイミド樹脂フィルムの KOH 改質処理と Ni2+イオン吸着処理,残留イオ ンを除去する条件は2.2.2と同一条件で行い,還元剤濃度を 0.0050~0.80 mol

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このアモルファス皮膜を300~400 ℃ で加熱するとホウ化 Ni に相当する X 線 回折パターン結果が得られている42–46.そこで,析出物内にB がどの程度存在 しているかについて検討するため,熱処理によるニッケルホウ化物の形成を試 みた.比較する試料については,N2雰囲気下で300 ℃,2 時間の熱処理(図 3 の⑤工程)を行った.

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2.2.4 還元温度が析出形態に及ぼす影響 ポリイミド樹脂フィルムの改質処理とNi2+イオン吸着処理,残留イオンを除 去する条件は2.2.2と同一条件で行い,還元温度を 40,50 ℃に変化させた 0.20 mol dm-3濃度のKBH4水溶液に20 分間浸漬し試料を合成した. 2.2.5 Ni2+イオン吸着/還元処理の繰り返しが析出形態に及ぼす影響 合成工程を図 4 に示す.2.2.2と同一条件で試料合成を行った.合成工程 図の,② Ni2+イオンの吸着と③ Ni2+イオンの還元の工程をそれぞれ繰り返した. 繰り返し回数は,3,5,7 回で,繰り返し吸着/還元処理終了後において,ポリ イミド樹脂フィルムに吸着している残留イオンを除去するために,試料フィル ムを0.25 mol dm-3 CH3COOH 水溶液に室温で 1 分間浸漬した.合成試料は水分 を取り除くため,温風にて乾燥した.

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2.2.6 試料の評価 <FT-IR 測定> ポリイミド樹脂フィルムのアルカリ改質処理前後における分子構造変化を 比較するため,全反射型フーリエ変換赤外分光計 (FT-IR-ATR FT-700,Horiba) により測定し,表面改質層の化学構造を評価した. <試料の表面抵抗測定> 合成した試料に対して,高比抵抗メーター(ハイレスター,三菱樹脂)を使 用し,試料表面の導電性を評価した.測定条件は,ハイレスター付属リング電 極プローブを試料表面に押し当てて表面抵抗を測定した.ただし,ハイレスタ ーを用いた際,表面抵抗が検出限界以下であったときは,デジタルテスター (CD800,Sanwa)を使用し,正方形の試料の対角位置にプローブを接触させて 抵抗を測定した. <X 線回折測定> 試料内部の析出物の結晶構造を,Ⅹ線回折測定装置(XRD RINT 2000,Rigaku) を用いて測定した.測定条件は以下に示す通りであった. Ⅹ線 Cu Kα 管電圧 40 kV 管電流 30 mA 走査範囲 20.00~90.00 ° スキャンスピード 1.000 °/ min スキャンステップ 0.010 °

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散乱スリット 1 ° 受光スリット 1 ° 走査モード 連続 走査軸 2 θ / θ データ解析は,Rigaku の粉末 X 線回折パターン総合解析ソフト JADE を用い て行った. <原子吸光分析による析出物およびイオンの定量> 合成した試料中の Ni を定量するため,原子吸光分析を行った.前処理とし て,試料片を10 wt% HNO3に20 分間浸漬し Ni を十分溶出させた.この溶液を 原子吸光光度計(A-1000,Hitachi High-Tech)にて分析した.またホウ素の分析 には,誘導プラズマ発光分析装置 (ICP ICPE-9000,Shimadzu)を用いて定量 した.前処理は,Ni の定量と同様の手順で,10 wt% HNO3に溶出させて行った. <透過型電子顕微鏡(TEM)による試料断面観察> 断面観察の前処理を行うため,電子顕微鏡用内包エポキシ樹脂(Epok 812, 応研)で試料を内包した.試料断面を,ウルトラミクロトーム(EM UC7rt,Leica Microsystems)を使用し,ダイアモンドナイフで,厚さ約 100 nm に超薄片化し た.試料の構造観察には透過型電子顕微鏡(TEM JEM-2010,JEOL),ナノ粒子 の結晶構造解析には電子回折を用いた.観察像を基に粒子サイズ分布の解析を 行った. <TEM-EDX による元素分析> 析出した粒子の組成を分析するため,透過型電子顕微鏡に付属のエネルギー

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2.3 結果 2.3.1 KOH 処理前後でのポリイミド樹脂フィルムの化学構造の変化 図5 に KOH 処理前後のポリイミド樹脂フィルムの FT-IR-ATR スペクトルを 示す.改質前のポリイミドである (i) において,1780 と 1710 cm-1 の二つの吸 収が確認できた.これらはポリイミドのイミド環特有のカルボニル基のそれぞ れ対称伸縮振動と非対称伸縮振動に起因する吸収である47

KOH 溶液で改質後の (ii) では,(i) で見られた 1780 と 1710 cm-1の吸収は消 失し,イミド環の加水分解によって生じるアミド結合(図6 の右図)に由来す る1550 cm-1N-H 変角振動の吸収と 1500~1700 cm-1のブロードな吸収帯が確 認された.後者のブロードな吸収帯はカリウムイオンが吸着したカルボキシラ ートアニオンの伸縮振動によるものと考えられ,この結果は文献47とよい一致 を示し,カチオン交換基(図6 の右図)が形成されたと考えられる.

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図 5. KOH 処理前後のポリイミド樹脂フィルムの FT-IR-ATR スペクトル.(i) は KOH 処理前ポリイミド樹脂フィルム(7 ページの試薬に記したフィルム),(ii) はKOH 処理後のフィルムを示す.

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2.3.2 還元剤濃度が析出形態に及ぼす影響 2.3.2.1 試料外観 図7 に合成した試料の外観写真を示す.(a)~(d)では鏡のような金属光沢を有 する析出物が得られた.(e) 0.060 mol dm-3を境に,還元剤濃度が濃厚になるに つれ,試料表面が金属光沢から黒色に変化している. 図7. Ni2+イオン還元処理後の試料の外観写真. KBH4濃度:

(a) 0.0050 mol dm-3, (b) 0.010 mol dm-3, (c) 0.020 mol dm-3, (d) 0.040 mol dm-3, (e) 0.060 mol dm-3

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2.3.2.2 試料の表面抵抗 表1 に,KBH4濃度が0.0050~0.040 mol dm-3においてデジタルテスターで測 定した抵抗 [Ω],および 0.080~0.80 mol dm-3において,高比抵抗メーターで測 定した表面抵抗 [Ω/□]を示す.0.0050~0.040 mol dm-3で合成した試料表面は, 抵抗が低く導電性が認められた.これは,析出物が連続した皮膜状に生成した ためと考えられる. 0.060 mol dm-3以上のとき,表面の導電性は著しく低下す ることがわかった.0.060 mol dm-3以上のとき,析出物が連続でない粒子状に生 成したため高抵抗になったと考えられる. 表1 Ni2+イオン還元処理後の合成試料(図7)の抵抗および表面抵抗 ※ 両測定器で測定範囲外であった.

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2.3.2.3 析出物の結晶構造と化学組成 表1 の表面抵抗測定の結果から,0.0050~0.040 mol dm-3の間が,皮膜状に析 出しているものと考えられる.このため皮膜状に析出していると考えうる図 7 試料(c)と,粒子状に析出していると考えうる図 7 試料(e), (h), および(l)を選択 して,以後,それらをそれぞれ試料(A), (B), (C), および(D)として X 線回折測定 を行った.図8 に,その結果を示す.金属 Ni による回折ピークは確認されなか ったことから,析出物はアモルファス状態,もしくは結晶子が著しく小さいた め回折ピークが明瞭に現れなかったと考えられる. 図9 に,熱処理 (300 ℃,2 h,N2雰囲気下) を施した試料の X 線回折パター ンを示す.fcc 構造の金属 Ni に帰属される回折ピークが確認された. Ni ホウ 化物は形成されなかったことから,析出物中に存在するB 量は比較的少ないこ とが推測される.

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図8. Ni2+イオン還元処理後の試料のX 線回折パターン.KBH4濃度:(A) 0.020 mol dm-3, (B) 0.060 mol dm-3, (C) 0.12 mol dm-3, (D) 0.20 mol dm-3PI はポリイミ ド樹脂フィルムであり,図5 の(i)と同じ試料である.

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図9. Ni2+イオン還元処理後に熱処理 ( 300 ℃, 2 h, N2雰囲気下)した試料の X 線 回折パターン.KBH4濃度:(A) 0.020 mol dm-3, (B) 0.060 mol dm-3,(C) 0.12 mol dm-3, (D) 0.20 mol dm-3. PI は図 8 と同一データである.

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図10 に,Ni2+イオン還元処理後の試料中のNi と B の定量結果を示す. Ni2+ イオンの還元処理に用いる KBH4濃度が異なっても析出した Ni 量は変化しな いことが明らかとなった.CH3COOH 水溶液に浸漬することにより樹脂内部の 残留Ni2+イオンを除去した.未還元のNi2+イオンが存在しているとすれば,図 10 に示される析出 Ni 量は,Ni2+イオンを吸着させた未還元のポリイミド樹脂 フィルム中のNi 量よりも低い値を示すはずである.Ni2+イオンを吸着させた未 還元のフィルム中のNi 量は,ポリイミド樹脂フィルム面積当たり 1.4±0.5 µmol cm-2であり,KBH4濃度によらず1.4~1.5 µmol cm-2 Ni 析出量を示している ことから,フィルムに吸着したNi2+イオンの全てが金属Ni として,ポリイミド 樹脂内部に析出したと考えられる. Ni2+イオン還元処理後の試料中のホウ素B の含有量に関して,還元剤濃度の 増大に伴い増大することがわかった.全ての B が Ni 中に含有されていると仮 定すると 6~8 wt%の B が含まれていることになる.Ni 皮膜中の B 含有量が約 3 wt%以上になると常温でアモルファスになり,300~400 ℃ で加熱するとホウ 化 Ni に相当する X 線回折パターンが現れるとの報告がある42–46.また,リン P 48–50またはホウ素B 51–55がナノ粒子に含まれる場合は,Ni ナノ粒子はアモル ファスに状態なる報告がある.しかし,図9 で示した熱処理後の試料の X 線回 折パターンにホウ化 Ni のピークが認められないことから,検出した B の大部 分は Ni 析出物内に存在せずに,定量された B は改質層内部にある還元剤残渣 に由来するものであると考えられる.

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2.3.2.4 Ni2+イオンの還元処理を行った試料の断面TEM 像

図11 に,KBH4濃度:(A) 0.020 mol dm-3, (B) 0.060 mol dm-3,(C) 0.12 mol dm-3, (D) 0.20 mol dm-3の条件で Ni2+イオンの還元処理を行ったポリイミドフィルム の断面TEM 像と電子回折像を示す.図 11 の 0.02 mol dm-3で還元処理を行った 試料(A)の TEM 像からは樹脂表面に粒子サイズが 50~100 nm の大きな粒子が 確認でき,2.3.2.2の 試料の表面抵抗測定の結果を踏まえると,この試料で はポリイミド樹脂表面に Ni が皮膜状に連続して析出することが明らかとなっ た. 図11 に示した,0.060, 0.12,0.20 mol dm-3条件で合成した試料の断面TEM 像から,平均粒子サイズ10~20 nm のナノ粒子の形成が認められた.また電子 回折像に,ハローパターンが観察されたことから,析出した粒子はアモルファ ス状態であることがわかり,図8 に示した X 線回折測定結果と同様の傾向を示 した.またKBH4濃度が増加すると共に,析出した粒子が樹脂の改質層内部ま で深く広がって行く傾向が認められた.

次に,図12 に,還元剤濃度:(B) 0.060 mol dm-3,(C) 0.12 mol dm-3, (D) 0.20 mol dm-3の条件で Ni2+イオンを還元処理した試料の断面 TEM 像と粒子サイズ分布 を示す.粒子サイズ分布は,TEM 像の全領域 600 × 450 nm2 の範囲で全数カウ ントして求めた.(B) 0.060 mol dm-3,(C) 0.12 mol dm-3, (D) 0.20 mol dm-3の濃度の 還元処理によって形成したナノ粒子の平均粒子サイズは,それぞれ19,14,お よび13 nm であることが確認された.また KBH4濃度が増加すると共に,平均 粒子サイズが小さくなる傾向が確認された.これは,KBH4濃度が増加すると, 核生成速度が速くなり核生成が核成長よりも優先されることによる考えられ る.

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2.3.2.5 TEM-EDS による元素分析 図 13~15 に,高分解 TEM 像,ナノ粒子および粒子周辺の樹脂領域の EDX による元素分析結果を示す.ナノ粒子上(a~c 点)および粒子周辺の樹脂領域 (d, e 点)から得られた EDX スペクトルによって,ナノ粒子上では,周囲の樹脂部 よりもNi の存在量が高いことがわかった.またそれぞれの条件の高分解 TEM 像に格子像が認められないことに加え,2.3.2.4と電子回折,EDX の結果か ら,形成されたNi ナノ粒子はアモルファス状態の Ni であると考えられる.ま た,粒子周囲の樹脂部にもNi が検出されており,TEM 観察では確認できない サイズのNi クラスターが存在すると考えられる.

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2.3.2.6 まとめ KBH4濃度を変化させることにより,Ni が樹脂表面に皮膜状また樹脂内部に 粒子状に析出することが確認された.還元剤濃度0.060, 0.12, 0.20 mol dm-3 の条件において樹脂内部に平均粒径10~20 nm のナノ粒子が形成していること が明らかになった.粒子析出に関して,KBH4濃度が増加するとともに,析出し た粒子が樹脂改質層内部に広がって行く傾向が認められ,平均粒子サイズが小 さくなる傾向が確認された. 高分解TEM 像に格子像が認められないことと,電子回折・EDX の結果から, 形成されたNi ナノ粒子はアモルファス状態の Ni であると考えられる.また粒 子周囲の樹脂にも Ni が検出されており,TEM 観察では確認できない Ni クラ スターが存在すると考えられる. 一般的な粒子の析出機構は,初期段階に粒子の中心となる核が生成し,成長 していくことで粒子サイズが増大する.しかし,図16 に示すように,KBH4濃 度が希薄な場合,KBH4 分子が樹脂内に深く拡散できず,侵入できた樹脂表面 近傍で優先的に粒子の核生成が起こり,この核が中心となり Ni2+イオンが拡散 移動し粒子が成長すると考えられる.これに対し,KBH4濃度が増加すると,改 質層中に KBH4がより深く浸透することができるため改質層内部に Ni 核が析 出し,さらに核生成速度も速いことから核生成が核成長よりも優先されること で,導入した Ni2+イオンを奪い合う形になり,結果的に粒子サイズが減少した と考えられる.

(35)
(36)

2.3.3 還元温度が析出形態に及ぼす影響 2.3.3.1 試料の断面 TEM 像 還元温度 (D’) 40 ℃,(D’’) 50 ℃で合成した試料の断面 TEM 像と電子回折像 を図 17 に示す.両試料に高分散の平均粒径 10~15 nm のナノ粒子の形成が確 認された.また電子回折像には,fcc 構造の Ni を示す回折リングが確認された. 析出したナノ粒子は,結晶性の高いfcc 構造の金属 Ni ナノ粒子であると考えら れる.

(37)

次に図18 に,還元温度 (D) 30 ℃,(D’) 40 ℃,(D’’) 50 ℃の条件で Ni2+イオ ンの還元処理を行った試料の断面TEM 像と粒子サイズ分布を示す. 30 ℃で還元処理した試料におけるナノ粒子の平均粒子サイズは,12 nm であ った.しかし30 ℃で還元処理した試料に現れていなかった,4 nm 前後の粒子 が40,50 ℃で還元した試料に存在し,二つのピークを持つ分布となった.それ ぞれの平均粒子サイズは,40 ℃の試料で 3.5 nm と 13 nm,また,50 ℃の試料 で3.9 nm と 8 nm であった.図 18 の TEM 像の領域に存在している粒子の総数 は,還元温度30,40,および 50 ℃の条件で,それぞれ 22,118,および 185 個 であり,還元温度が上昇するとともに粒子数が増加した.粒子サイズ分布図よ り4 nm 前後の粒子数は温度上昇とともに顕著に増加しており,8~13 nm の粒 子数の増加はわずかであるため,平均サイズが減少する傾向がみられた. これは,還元温度が上昇したため,核生成速度が速くなり核生成が核成長よ りも促進されたことに起因すると考えられる.還元温度が低いと初期の核生成 が進まず核成長が優先され粒子サイズの増大につながる.逆に温度が高い場合 は,還元剤の反応速度が速くなり核が多量に析出し,これを中心として核成長 が起こり,粒子数の増大と粒子サイズの減少を招いたものと考えられる.

(38)
(39)

2.3.3.2 TEM-EDS による元素分析 高分解TEM 像,ナノ粒子および粒子周囲の樹脂の EDX による元素分析結果 を図19 と図 20 に示す.ナノ粒子上 (a~c 点)および粒子周囲 (d, e 点)の樹脂か ら得られた EDX スペクトルによって,ナノ粒子上では,周囲の樹脂部よりも Ni の存在量が高いことがわかった. また粒子周囲 (d, e 点)の樹脂から得られた EDX スペクトルにおいて,Cu 強 度を基準に Ni 強度を比較すると,還元温度が上昇すると粒子が無い領域の Ni の存在量が減少する傾向が得られた. 還元温度が上昇するとともに,生成した粒子数が増加している.還元温度の 上昇に伴い,核が多く生成し,それを中心として核成長が進んだため粒子が増 加したとみられる.また,試料フィルムは,イオン交換基を有している状態で ガラス状態ではない.生成したナノ粒子は移動が困難であるが,未還元のNi2+ イオンや,より小さな Ni クラスターは,拡散できる十分な運動性を有してい る可能性がある.ナノ粒子の成長段階において,未還元のNi2+イオンや周囲の 生成した Ni クラスターが移動し,大きなナノ粒子に取り込まれると予想され る.つまり,極微小な粒子の溶解に伴って大きな粒子が成長する機構(オスト ワルド成長)によって粒子成長が進んだため,ナノ粒子周囲の樹脂部の Ni 存 在量が減少したものと考えられる.

(40)
(41)
(42)

2.3.3.3 まとめ 還元温度30,40,50 ℃で合成した試料に,平均粒子サイズ 3~12 nm のナノ 粒子の形成が確認された.電子回折・EDX の結果から,40,50 ℃で還元した試 料に形成されたNi ナノ粒子は fcc 構造の金属 Ni であるとみられる. また,それぞれ平均8,13 nm 前後の粒子群と平均 4 nm 前後の粒子群に分か れ析出しており,二つのピークをもつ粒子数分布となることが明らかとなった. これら粒子数は温度上昇とともに増加しており,特に 4 nm の粒子数の増加が 著しいため,全体のサイズが減少する傾向がみられた.還元温度が低いと核成 長が優先的に促され粒子サイズが増大し,逆に温度が高い場合は,還元剤の反 応速度が速くなり核が多量に析出するものと考えられる.このため温度が高い 場合,核生成速度が速くなり核成長よりも核生成が進み,粒子数増大と粒子サ イズ減少を招いたものとみられる.

(43)

2.3.4 Ni2+イオン吸着/還元処理の繰り返しが析出形態に及ぼす影響 2.3.4.1 X 線回折結果 Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返し行った試料の X 線回折パターンを図 21 に示す.なお,これらの試料は図4に示した通り,熱処理を行っていない. 金属 Ni に起因する回折ピークは確認されなかった.析出物の結晶構造は,ア モルファス状態,もしくは結晶子が著しく小さいため回折ピークが明瞭に現れ なかったと考えられる.

(44)

2.3.4.2 原子吸光分析による析出物の定量

図22 に Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返し行った試料中のNi 量を示す. 繰り返し回数の増加に伴い,Ni 量が増加する傾向が確認された.繰り返し吸着 /還元処理によりポリイミド樹脂中のNi 量を増加させることが可能であること がわかった.

(45)

2.3.4.3 試料の断面 TEM 像 図 23 に,Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返した試料の断面 TEM 像を示 す.各試料中に平均粒子サイズ 10~30 nm のナノ粒子の形成が確認された.繰 り返し回数 3,5,7 回の樹脂の表面は,膜状に析出しているものはなく,析出 した多量のナノ粒子で占められていることがわかった.また粒子が改質層全体 にわたって分散し,改質層最深部まで析出する傾向が認められた.また 22 ペ ージの図11(D)の繰り返し回数 1 回と 3,5,7 回の試料と比較すると,1 回に比 べ改質層全体にわたり大きな粒子が分散していることが分かった. 次に,図 24 に,Ni2+イオンの吸着・還元処理を繰り返した試料の断面 TEM 像 と 粒 子 サ イ ズ 分 布 を 示 す . 粒 子 サ イ ズ 分 布 は ,TEM 像 に 示す全 領 域 1600×1200 nm2 の範囲で全数カウントした.各繰り返し回数 3,5,7 回の試料 の平均粒子サイズは,約28 nm であった.23 ページの図 12 (D) の繰り返し回 数1 回と 3,5,7 回の平均粒子サイズと比較すると,1 回に比べ 3,5,7 回の 試料では2 倍以上の粒子サイズなっていることがわかった.また,繰り返し回 数が増加しても,粒子サイズが 35 nm 以上の粒子の増加がほとんどみられず, 全体の粒子数の変化も少なかった.この結果は,繰り返し回数が増加とともに Ni 量も増加する傾向を示した 38 ページの図 22 の結果と矛盾しているように 思われる.繰り返し回数が増えると,析出Ni 量も増大したため,粒子数あるい は粒子サイズが増加すると考えれることから,図 24 で観察された粒子よりも よりもサイズが小さい粒子の存在について調べた.

(46)
(47)
(48)

図25 に,Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返した試料の高分解断面TEM 像 と粒子サイズ分布を示す. 図25 (D3),(D5),(D7) に矢印で示すような,約 2 nm 以下の粒子の存在が多 数確認された.しかし粒子サイズが小さいことと樹脂内部に内包された状態で あるため,粒子像のコントラストが明瞭ではない.粒子像と樹脂部との境界を コントラストから区別することが難しく,粒子サイズを決定することができな かった.このため,拡大図に示す全領域 250×150 nm2 の範囲で,確認できる粒 子数をカウントし,面積250×150 nm2 当たりの粒子数を見積もった.図25 (右 下図)に,一定面積当たり粒子数を示す. 繰り返し回数が増加するにつれ,粒子数が増大することが確認された.この 結果は,図22 の繰り返し回数が増加するとともに Ni 量が増加する傾向と一致 する.剛直なポリマー分子が粒子成長を阻害したために,粒子サイズが30 nm 以上の粒子成長が困難になり大きな粒子数が増大せず,観察が困難な小さな粒 子が増加したものと推測される.

(49)

図 25. Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返した試料の高分解断面TEM 像と一 定面積当たり(250×150 nm2)の粒子数(右下図).繰り返し回数:(D3) 3 回, (D5) 5 回,(D7) 7 回.繰り返し回数 1 回の粒子数は,250×150 nm2の範囲で全 数カウントした.右下図中の1 回繰り返しの粒子数は,図 12 (D)の TEM 像(250 ×150 nm2)から計測した.

(50)

次に図26 に Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返した試料の電子回折像を示 す.比較のために,図17 (D’’)に示した fcc 構造の金属 Ni の電子回折像を図 26 (D’’)に示している. Ni2+イオンの吸着/還元処理を 3 回繰り返した試料の回折像はハローパター ンを示し,繰り返し回数 5,7 回の場合,多結晶相の場合に観測されるスポッ ト状の回折像が確認された.しかし,多数のスポットが存在しているため回折 像の同定が困難であった.37 ページの図 21 の XRD の結果で回折ピークを示 さなかったことについて,ナノ粒子の結晶子が著しく小さいため回折ピークが 明瞭に現れなかったと考えられる.

このためICDD のデータベースを基に,NiB (PDF 006-0567),Ni2B(PDF 00-048-1222)および Ni3B (PDF 00-048-1223)と fcc 構造の金属 Ni (PDF 00-004-0850) の既知のX 線回折パターンと強度,および回折像から,試料の結晶構造を比較 検討した(図27). Ni と B の共析によって,fcc 構造の Ni (111),(200),(200) を示す回折角の近傍に,各種ホウ化 Ni のピークが現れることが確認される. 特に既知のX線回折パターンの比較をすると,Ni (111) を示す 2θ = 44.5 °より 低角度側にホウ化Ni の X 線回折ピークが観測されることがわかった.したが って,ホウ化Ni の電子回折像は,面間隔が広いため,Ni (111)の回折リングよ りも中心部(ダイレクトスポット)に近い位置に回折リングが現れるはずであ る.上記の考察を踏まえ,図26 (D5),(D7) の回折像に着目すると,fcc 構造の Ni (111) 面を示す位置よりもダイレクトスポットに近い位置に回折スポットが 現れており,既知のホウ化 Ni の回折パターンと類似していた.これにより析 出物の一部にホウ化Ni ナノ粒子が含まれている可能性が高いことがわかった. 結晶性の高いホウ化 Ni になることの理由は,高濃度の KBH4に長時間曝され て,析出物にB がより取り込まれ易かったためと考えられる.

(51)

図26. Ni2+イオンの吸着/還元処理を3 回繰り返した試料の電子回折像. 繰り返 し回数 (D3) 3 回,(D5) 5 回,(D7) 7 回.(D’’)は,図 18 の 0.20 mol dm-3 , 50 ℃ で合成した試料の電子回折像を拡大したものである.

(52)

2.3.4.4 TEM-EDX による元素分析 Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返し行った試料の高分解 TEM 像,ナノ粒 子および粒子周囲の樹脂のEDX による元素分析結果を図 28~30 に示す. 粒子上のEDX スペクトルにおいて,周囲の樹脂部よりも高い強度で Ni が検 出された.また高分解TEM 像に格子像が確認された.電子回折,EDX の結果 から,形成されたナノ粒子はホウ化Ni または金属 Ni ナノ粒子である考えられ る.粒子周囲の樹脂にもNi が検出されおり,TEM 観察では確認できない Ni 原 子やクラスターが存在すると考えられる.

(53)
(54)
(55)
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2.3.4.5 まとめ Ni2+イオンの吸着/還元処理の繰り返し回数の増大に伴い,Ni 量が増加する 傾向が確認された.ICDD データベースと電子回折との比較によって,析出物 の一部にホウ化 Ni ナノ粒子が含まれていることが明らかになった.しかし電 子回折像から析出物の結晶構造を同定することができなかった.結晶性の高い ホウ化 Ni になるのは,高濃度の KBH4に曝されため析出物に B が取り込まれ やすいためと考えられる.繰り返し回数3,5,7 回に,平均粒子サイズが 28 nm とTEM で観察困難な約 2 nm 以下の粒子の存在が確認できた.平均粒子サイズ が28 nm の粒子に関して,繰り返し回数が増加しても,粒子の増加がほとんど みられず,また粒子数の変化が認められなかった. 繰り返し回数が増加すると,約 2 nm 以下の粒子数は増加して,一定面積当 たりの粒子数も増加することが確認された.この結果は,繰り返し回数の増加 とともに Ni 量も増加する傾向と一致する傾向となった.剛直なポリマー分子 が粒子成長を阻害したために,粒子サイズ・粒子数ともに増加が停滞し,TEM では観察が困難なサイズの粒子の増加を招いたものと考えられる.

(57)

2.4 結言 ポリイミド樹脂フィルムに KOH 改質処理を施し,樹脂内に Ni2+イオンを導 入した前駆体を合成し,KBH4水溶液にて液相還元することでNi ナノ粒子含有 ポリイミド樹脂フィルムを合成した.試料の構造ついて,還元剤濃度,還元温 度および Ni2+イオン吸着/還元の繰り返し処理の条件を変化させて,系統的に 検討を行った. KBH4 濃度を変化させ還元処理したポリイミド樹脂フィルムの断面において, 各試料の平均粒径 10~20 nm のナノ粒子の形成が確認された.KBH4濃度が増 加するとともに,析出した粒子が樹脂の改質層内部まで深く分散していく傾向 が認められた.形成されたナノ粒子は,電子回折・EDX の結果からアモルファ ス状態の金属Ni であることが明らかになった.また粒子周囲の樹脂にも Ni が 検出されおり,TEM 観察では確認できない Ni 原子やクラスターが存在すると 考えられる.以上のことより,KBH4を還元剤に用いた液相還元法によって Ni ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成に成功したといえる.KBH4 濃度 が増加すると粒子サイズが減少する傾向が認められ,これは改質層内に KBH4 が深く浸透することができるため内部に核が析出し,核生成が核成長よりも優 先されることで,導入した Ni2+イオンを奪い合う形になり粒子サイズが減少し たものと考えられる.改質層内においてナノ粒子の分散状態を制御するのに, 還元剤濃度が有効であることが明らかになった. 還元温度を30~50 ℃と変化させた場合,各試料に平均粒子サイズ 3~12 nm のナノ粒子の形成が確認された.電子回折・EDX の結果から,形成された Ni ナノ粒子はfcc 構造の金属 Ni であることがわかった.温度上昇とともに,粒子 数が増加し二つのピークをもつ粒子数分布を示すことが明らかとなった.これ は,還元温度が上昇したため,核生成速度が速くなり核生成が核成長よりも促 進されたことに起因すると考えられる.温度が高い場合は,還元剤の反応速度

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が増加することが確認できた.30 nm 以上の粒子サイズの増大と粒子数の増加 が停滞し,TEM では観察が困難な約 2 nm 以下の粒子が増加する傾向が確認さ れた.また繰り返し回数が増加するにつれ,約 2 nm 以下の粒子の数も比例し て増加することが認められた.この結果は,繰り返し回数の増加とともにNi 量 が増加する傾向と一致することが明らかとなった.また電子回折から,析出物 の一部にホウ化 Ni ナノ粒子が含まれていることが確認された.しかし析出物 の結晶構造を詳細に同定することできなかった.結晶性の高いホウ化 Ni にな る原因は,高濃度のKBH4に長時間曝されることで析出物にB が取り込まれや すくなるためと考えられる.このように Ni2+イオンの吸着/還元処理を繰り返 すことにより,樹脂中の析出 Ni 量を増加させることができ,新たに粒子数を 増大させることが可能であった. KBH4 濃度,還元剤温度,Ni2+イオン吸着/還元の繰り返し処理によって,Ni ナノ粒子分散ポリイミド樹脂フィルムの構造が大きく変化することが認めら れた.粒子サイズ・粒子数などを決定する要因として還元条件が重要な役割を 果たしていることがわかった.

(59)

第3章 液相還元法による

Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂

フィルムの合成

3.1 緒言 ポリイミド樹脂内に金属ナノ粒子を形成する方法は,縄舟-赤松らによって提 案されており,ポリイミド樹脂をアルカリ溶液に浸漬してカチオン交換基(カ ルボキシラートアニオン)を生成させ,金属イオンで置換された前駆体樹脂と した後,この樹脂を水素雰囲気下で加熱して,金属イオンを還元するものであ る 35,38.この方法の利点は,ナノ粒子によって形成される表面層の厚さ,金属 イオン量,粒径,粒子間距離などの構造を,アルカリ溶液の濃度,表面改質処 理温度,浸漬時間などのパラメーターによって自在に制御できる点である.こ の方法を応用して,Ni-Cu 合金ナノ粒子をポリイミド内部に分散させた材料が 合成されているが56,我々の知る限りでは,これ以外の報告例はない.また, 縄舟-赤松らによる加熱して水素還元する方法では,熱処理によって結晶性の合 金になる可能性が高く,アモルファス構造のナノ粒子合金を合成することは難 しいと考えられる. 第2章で,液相還元法を用いて,ポリイミド樹脂フィルム内部に,アモルフ ァス構造の Ni ナノ粒子を合成した 57.本章では,この液相還元法を応用し, Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成について報告する.ま た,これらナノ粒子の含有量や構造に対する,液相還元における繰り返し吸着 /還元の影響についても報告する. Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムを合成するプロセスの概要 (図31)は,次のとおりである.(1) 水酸化カリウムを使用した表面改質によ る,ポリイミド樹脂フィルム表面へのカチオン交換基(カルボキシラートアニオ ン)の導入,(2) Ni2+Co2+イオンを吸着した前駆体樹脂フィルムの合成,(3) 水

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図31. Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成プロセス. (1)KOH 処理後のポリイミド樹脂,(2)Ni2+および Co2+イオンの導入後の前 駆体フィルム,(3)Ni-Co 合金ナノ粒子を生成させたポリイミド樹脂フィルム,

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3.2 実験 3.2.1 試薬 実験には,下記に示す薬品とフィルムを使用した. 試薬特級 水酸化カリウム (KOH) 和光純薬工業 試薬特級 硫酸ニッケル六水和物 (NiSO4・6H2O) 和光純薬工業 試薬特級 硫酸コバルト七水和物 (CoSO4・7H2O) 和光純薬工業 純度98 % 水素化ホウ素カリウム (KBH4) 和光純薬工業 試薬特級 酢酸 (CH3COOH) 和光純薬工業 ポリイミド樹脂フィルム*(Kapon,厚さ:125 µm) 東レデュポン *第2章で用いたフィルムと異なる 3.2.2 試料の合成 図32 に, Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムの合成工程を示 す.ポリマーとして,ピロメリット酸二無水物 -オキシジアニリン(PMDA-ODA) タイプのポリイミド樹脂フィルムを使用した.すべての水溶液と洗浄 処理で,イオン交換水を使用した.まず,このポリイミド樹脂フィルム (2×2 cm2) を,5.0 mol dm-3 KOH 水溶液に 30 ºC で 5 分間浸漬し,表面改質処理を行 った(図32①).その後,大量のイオン交換水で 5 分間洗浄した.表面改質処 理後のフィルムを,NiSO4 + CoSO4混合水溶液に30 ºC で 5 分間浸漬し,金属 イオンNi2+Co2+を吸着させた(図32②).吸着処理後,イオン交換水で 5 分 間洗浄した.各混合液におけるNi:Co の物質量比が 25:75,50:50,75:25 になるように,以下の仕込み濃度を用いた.

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合金ナノ粒子が埋め込まれたポリイミドナノコンポジットフィルム (Ni-Co NPs / PI) を,0.25 mol dm-3 CH3COOH 水溶液で 30 ºC で 1 分間処理して,残留 イオン(K+Ni2+Co2+BH4- 等)を除去した(図 32④).イオン交換水で 5 分間 洗浄した後,この膜をドライヤーで温風乾燥させた. 得られた Ni-Co NPs / PI を,真空下で200 ºC,1 時間,熱処理した(図 32⑤).また,吸着/還元繰り返 し処理によるNi-Co NPs / PI のナノ粒子含有量や構造への影響を検討するため, 吸着/還元処理を,50 ºC で 3 回繰り返して試料を合成した.

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3.2.3 試料の評価 <FT-IR 測定> 合成後のポリイミド樹脂フィルムの化学構造変化を,全反射型フーリエ変換 赤外分光計 (FT-IR FT-700,Horiba) により測定し,表面改質層の化学構造を評 価した. <走査透過型電子顕微鏡(STEM)による試料断面観察> 断面観察の前処理を行うため,電子顕微鏡用内包エポキシ樹脂(Epok 812, 応研)で試料を内包した.試料断面を,ウルトラミクロトーム(EM UC7rt,Leica Microsystems)を使用し,ダイアモンドナイフで厚み約 100 nm に超薄片化した. Ni-Co 合金ナノ粒子サイズは,走査透過型電子顕微鏡 (STEM JEM-2100 plus, JEOL)を用い,加速電圧 200 kV で分析した.また透過型電子顕微鏡法(TEM モ ード),高角度散乱暗視野像法(STEM-HAADF モード)を用い,粒子形態を観 察した.ナノ粒子の結晶構造解析には電子回折を用いた. <STEM-EDX による元素分析> 走査透過型電子顕微鏡付属のエネルギー分散形 X 線分析装置 (EDX JED-2300T,JEOL)を用い,試料の元素分布を分析した.加速電圧 200 kV で走査透 過型電子顕微鏡法(STEM モード)にて測定した.デッドタイムを 5~30%と し,測定時間は50 サイクルとした.また粒子内部の元素比を,元素マッピング の解析より求めた. <X 線吸収微細構造(XAFS)スペクトルの測定> 立命館大学SR センターのビームライン BL-3 を使用して透過法により,X 線

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3.3 結果 3.3.1 処理プロセスにおける試料の構造変化の FT-IR による解析 図33 に,合成後のポリイミド樹脂フィルムの FT-IR-ATR スペクトルを示す. 図33(iii)に示す未処理フィルム(図 31 左上図)では,1780 および 1710 cm-1 2 つの吸収ピークが観察され,それぞれ,ポリイミドのイミド環のカルボニル 基の対称および非対称伸縮振動に帰属される 35,47.図 33(iii)に示す未処理フィ ルムと図5(i)とは異なるフィルムであるが,その FT-IR-ATR スペクトルはほぼ 一致した.図33(iv)の KOH 処理後の膜(図 31(1))には,これらの吸収ピークは認 められず,1550 cm-1の吸収ピークと1500~1700 cm-1の幅広い吸収帯が観察さ れた.前者はイミド環の加水分解により形成されるアミド結合のN-H 変角振動 に起因し,後者はカリウムイオンが吸着したカルボキシラートアニオンの伸縮 振動に由来すると考えられる.これは,KOH 処理時に膜表面に陽イオン交換基 が形成されるという報告例47とよく一致している.また図5(ii)と図 33(iv)の FT-IR-ATR スペクトルは,その細部は異なるものの,同様の特徴を示した. 図33(E)~(F) では,矢印で示すようにイミド環由来の 1780 および 1710 cm-1 の二つの吸収ピークが観察された. 図34 に 3 回繰り返し吸着/還元処理後のフィルムについての FT-IR スペクト ルを示す.1 回還元処理後のフィルムと比較すると,イミド環由来の吸収ピー クがやや弱く確認された.還元後の試料は,CH3COOH 水溶液で残留イオンを 除去した工程により,金属イオンを含まず,カルボキシ基を有するポリアミッ ク酸になると考えられる(図 31 (3)).真空加熱処理により,KOH 処理の加水分 解により形成されたアミド結合とカルボキシ基は,脱水反応によりイミド環へ 再生され,一部が再ポリイミド化したものと考えられる(図 31 (4)).

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図33.Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルム(Ni-Co NPs / PI)の FT-IR-ATR スペクトル. (E) Ni25Co75, (F) Ni50Co50,(G) Ni75Co25,(iii) KOH 処理前, および (iv) KOH 処理後のフィルム.

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図 34.3 回繰り返し吸着/還元処理後の Ni-Co 合金ナノ粒子含有ポリイミド樹 脂フィルム(Ni-Co NPs / PI)の FT-IR-ATR スペクトル.(E3) Ni25Co75,(F3) Ni50Co50, (G3) Ni75Co25, (iii) KOH 処理前,および (iv) KOH 処理後のフィルム.

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3.3.2 TEM による試料断面観察 図35 に,Ni-Co NP / PI フィルムの断面 TEM 画像と粒子サイズ分布を示す. 粒子サイズ分布は,TEM 写真に示す領域 (255×255 nm2 )の粒子をカウントし て得られた.還元後のフィルムのナノ粒子の平均粒子サイズは,(E) 6.9 ± 6.0, (F) 7.7 ± 3.0,および(G) 8.8 ± 4.0 nm であった.Co の物質量比率が小さい(E)で は,粒子は表面近傍でのみ確認された.電子回折像には,結晶相を示す明瞭な スポットは確認されていない.したがって,析出した粒子はアモルファスであ ると考えられる. 図36 に,3 回繰り返し吸着/還元処理後のフィルムの TEM 像を示す.ナノ粒 子の平均粒子サイズは, (F3) 12.7 ± 6.0,および(G3) 11.8 ± 6.0 nm であった.3 回繰り返し吸着/還元後の (E3) Ni25Co75 では表面付近にのみ粒子が存在し,そ のナノ粒子の平均粒子サイズは7.4 ± 3.0 nm であった.(F3) および(G3) につい て,1 回吸着/還元フィルムに比べて,一定面積あたりの粒子数が増大している ことが確認された.(F3) および(G3)の電子回折像には,結晶相を示す明瞭なス ポットは確認されなかった.(F3) および(G3)に析出した粒子はアモルファスで あると考えられる.なお(E3) Ni25Co75については,粒子の存在が少なく電子回 折像は得られなかった. Ni 含有量が増えると粒子サイズが増大する傾向があり,Co の含有量が多い 場合,生成する粒子数が減少した.これについて,還元反応から検討する.一 般に,還元剤としてホウ素水素化物 (BH4- + 8OH- → BO2- + 6H2O + 8e-) 用いた 無電解めっきの場合,析出した金属が自己触媒となりメッキ反応が進行すると されている.また,NaBH4のアノード酸化について,Ni は Co に比べ触媒活性 が高いという報告がある 58.本研究では,同じホウ素水素化物であるKBH4 還元剤として用いたため,同様の傾向であると推測される.つまり,BH4-によ る還元反応において,Co は Ni に比べ,還元反応が進みにくい.このため,Ni

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Ni25Co75では,Ni の含有量が低いため,ドープされた Ni イオンが還元し尽くさ れて,既に析出したナノ粒子の表面近傍では新たな Ni イオンが供給されず, Co 原子で覆われて,触媒活性面が減少する.活性面が失われたことで,Co へ の還元反応が進まず,核成長速度が遅くなったと考えられる.このため粒子数 とともに粒子サイズも減少したものと考えられる.

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3.3.3 XAFS スペクトルによる試料の化学状態の解析 図37 に還元処理後と未還元の前駆体フィルムについて,Co-K 吸収端,Ni-K 吸収端の XAFS スペクトルを示す.未還元の前駆体フィルムにおいて,Ni と Co のスペクトルは酸化物より硫酸塩に近いスペクトルを示した.一方,還元処 理後のフィルムにおいて,Co では Co 含有量が少ない方が金属 Co に近いスペ クトルを示し,Ni でも同様の傾向であることがわかった.また還元処理後のフ ィルムは,吸収端のショルダー部分の形状が,Ni および Co 金属のそれに近い ことから,両金属イオンは,金属に還元されたものと考えられる.この金属ナ ノ粒子は,図35 に示したようにアモルファス構造である.図 38 に 3 回繰り返 し吸着/還元後のフィルムについての XAFS スペクトルを示す.これらも同様 に,金属に近いXAFS スペクトルを示しており,アモルファス構造の金属と考 えられる.

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図37.Ni-Co-NPs / PI フィルムの Co K 端および Ni K 端の XAFS スペクトル. 下段2 つのスペクトルは,還元されていない前駆体フィルムのものである.標

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図38.3 回イオン吸着/還元処理を繰り返して合成した Ni-Co NPs / PI フィルム のCo K 端および Ni K 端の XAFS スペクトル.標準サンプルとして,Ni metal, NiO,NiSO4,Co metal, CoO,CoSO4を使用した.

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3.3.4 STEM-HAADF 像と STEM-EDX による Ni-Co NPs / PI の元素マッピン グ 図39~41 に,Ni-Co NPs / PI の高角度散乱暗視野像(STEM-HAADF 像)と STEM-EDX による元素マッピングを示す.STEM-HAADF 像について,回折波 による寄与が少なく,一般的な位相差コントラストよりも原子数が画像に強調 され描写される.白く描写される部分については,周囲にくらべ原子量が大き い部分となり,黒く描写される部分については軽い原子が存在していることに なる. 図39 と図 40 の HAADF 像について,白く明瞭に識別できる部分は析出した ナノ粒子であり,黒く見える部分はナノ粒子が存在しない樹脂部であることが 確認された.3 回イオン吸着/還元処理を繰り返して合成した試料の,図 41 と 図 42 の HAADF 像についても,同様の結果であり,樹脂がナノ粒子の凝集を 防ぎ,固定化させていることがわかった. 図39 と図 40 の EDX マッピングの Ni-K,Co-K の画像から,同一粒子上に, Ni と Co が分布していることが観察され,両者は,単一金属ナノ粒子としては 析出していないことが明らかとなった. 3 回イオン吸着/還元処理を繰り返して合成した,図 41 と図 42 の Ni-K,Co-K の EDX マッピング画像についても,同一粒子上に,Ni と Co が分布してい ることが観察された.イオン吸着/還元処理を繰り返して合成した場合におい ても,Ni と Co の単一組成かつ,独立した粒子は観察されなかった.繰り返し 還元処理を行っても,Ni と Co が混合した形で析出しているものと考えられる.

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図39. Ni-Co-NPs / PI フィルム (F) Ni50Co50のEDX 元素分析マップの結果. EDX マップは,STEM-HAADF 画像の領域から取得した.

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図 40. Ni-Co NPs / PI フィルム (G) Ni75Co25の EDX 元素分析マップの結果. EDX マップは,STEM-HAADF 画像の領域から取得した.

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図42. 3 回イオン吸着/還元処理を繰り返して合成した Ni-Co NPs / PI フィルム (G3) Ni75Co25のEDX 元素分析マップの結果.EDX マップは,STEM-HAADF 画

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3.3.5 EDX による Ni-Co ナノ粒子の元素比の決定

粒子が多量に生成した(F) Ni50Co50および(G) Ni75Co25について,EDX から粒 子中に存在するNi,Co の元素比を求めた(表2).この比は,仕込みの物質量比 率と,概ね一致していること確認された.このことから,仕込みイオン量を調 整することで,ナノ粒子中のNi と Co の比率を制御できることがわかった. 表2 EDX の点分析から求めた Ni-Co ナノ粒子の元素比 3.4 結言 KBH4を還元剤に用いて,Ni-Co NP / PI フィルムを合成した.真空加熱処理 により,KOH 処理後の試料における,アミド結合とカルボキシ基は,脱水反応 によりイミド環へ再生され,一部が再ポリイミド化した.3 回繰り返し吸着/還 元処理後のフィルムについても同様の結果であった. TEM 画像から,Ni-Co NP / PI フィルムでは,平均 6~9 nm の粒子が確認さ れた.また,3 回繰り返し吸着/還元処理後の Ni-Co NP / PI フィルムでは,平均

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Ni と Co の触媒活性の違いから,Co は還元反応が抑制されることで起きると推 測される.Co の析出により表面が覆われて,活性が高い Ni の触媒活性面が減 少すると,Co への還元反応が進まず,核成長速度が遅くなったと考えられる. このため粒子数とともに粒子サイズも減少したものと考えられる.

Ni-K,Co-K の EDX マッピング画像から,同一粒子上に,Ni と Co が分布し ていることが観察された. Ni と Co の単一組成かつ,独立した粒子は観察され ず,Ni と Co が混合した形で生成したと考えられる.また,得られた合金ナノ 粒子のXAFS スペクトルは,金属に近い XAFS スペクトルを示しており,アモ ルファス構造の金属と考えられる. EDX から求めた粒子中に存在する Ni,Co の元素比は,仕込みの物質量比と, 概ね一致していること確認された.このことから,仕込みイオン量を調整する ことで,ナノ粒子中のNi と Co の比率を制御できることがわかった.

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第4章 総括

本研究では,KBH4 を用いた液相還元法を用いて,金属ナノ粒子含有ポリイ ミド樹脂フィルムを合成し,その構造制御について検討した. 第1章では,金属ナノ粒子分散複合材料について,また水素還元を用いた金 属ナノ粒子含有ポリイミド樹脂についての,これまでの研究について述べた. 金属ナノ粒子含有ポリイミド樹脂の合成において,水素還元法との比較により, 液相還元法が,自由度の高い構造制御ができる可能性を示した. 第2章では,ポリイミド樹脂フィルムにKOH 改質処理を施し,樹脂内に Ni2+ イオンを導入した前駆体フィルムを合成し,KBH4 水溶液にて液相還元するこ とで Ni ナノ粒子含有ポリイミド樹脂フィルムを合成した.試料の構造につい て,還元剤濃度,還元温度およびNi2+イオン吸着/還元の繰り返し処理の条件を 変化させて,系統的に検討を行った. KBH4 濃度を変化させて還元処理したポリイミド樹脂フィルムの断面におい て,平均粒径10~20 nm のナノ粒子の生成が確認された.生成したナノ粒子は, 電子回折・EDX の結果からアモルファス状態の金属 Ni であった.また粒子周 囲の樹脂にも Ni が検出されており,TEM 観察では確認できない Ni 原子やク ラスターが存在すると考えられる.KBH4 濃度が増加すると粒子サイズが減少 する傾向が認められ,改質層内においてナノ粒子の分散状態を制御するのに, 還元剤濃度が有効であることが明らかになった. 還元温度を30~50 ℃と変化させた場合,各試料に平均粒子サイズ 3~12 nm のナノ粒子の形成が確認された.電子回折・EDX の結果から,形成された Ni ナノ粒子はfcc 構造の金属 Ni であった.温度上昇とともに,粒子数が増加し,

図 5.  KOH 処理前後のポリイミド樹脂フィルムの FT-IR-ATR スペクトル .(i)  は KOH 処理前ポリイミド樹脂フィルム( 7 ページの試薬に記したフィルム), (ii)  は KOH 処理後のフィルムを示す.
図 8.  Ni 2+ イオン還元処理後の試料の X 線回折パターン. KBH 4 濃度: (A)  0.020  mol dm -3 , (B) 0.060 mol dm -3 , (C) 0.12 mol dm -3 , (D) 0.20 mol dm -3 . PI はポリイミ ド樹脂フィルムであり,図 5 の (i) と同じ試料である.
図 9. Ni 2+ イオン還元処理後に熱処理   ( 300 ℃, 2 h, N 2 雰囲気下 ) した試料の X 線 回折パターン.KBH 4 濃度:(A) 0.020 mol dm -3 , (B) 0.060 mol dm -3 , (C) 0.12 mol  dm -3 , (D) 0.20 mol dm -3
図 10. Ni 2+ イオン還元処理後の試料中の Ni 量と B 量 .
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