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会話場面における発言抑制傾向とその意識内容が社交不安症状に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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渡邊明寿香 *・瀧井 綾子 *・久保 佑貴 **・伊藤 大輔 *

会話場面における発言抑制傾向とその意識内容が社交不安症状に及ぼす影響

 本研究の目的は,会話場面における発言抑制時のその抑制傾向と意識内容が社交不安症状に及ぼす影響 について検討することであった。A県内の大学生196名に対して,発言抑制の程度と頻度,発言抑制時の 意識内容尺度,社会的相互作用不安尺度(SIAS)を実施した。その結果,抑制傾向だけでなく,発言抑制 時の意識内容も社交不安症状に影響を及ぼすことが示された。特に,傷つきへの恐れ,親密性回避が社交 不安症状に悪影響を及ぼすことが示され,これらの意識内容に焦点を当てたアプローチが社交不安症状の 改善に有効である可能性が示唆された。 キーワード:発言抑制,意識内容,社交不安症状 1.問題と目的

 社交不安障害(Social Anxiety Disorder; 以下 SADと略記)は,他者から批判されるといった恥 ずかしい思いをするかもしれない状況に対して強 い不安を感じる精神疾患である。日本においては, 大規模な疫学調査は行われていないが,SADは不 安障害の中でも発症率が高い疾患であり,発症が 児童期から青年期にかけて多いことが知られてい る(三宅ら,2014)。特に,SADは青年期の終期 に位置づけられる大学生においても多くみられ, 学生生活において不登校や引きこもりのリスク要 因となる可能性が高い。さらに,SADの治療を受 けることなく放置されると,うつ病やアルコール 依存症などの他の精神疾患を併発する場合もある。 そのため,SADの病態を理解し,適切なアプロー チを検討することは,SAD症状の改善だけでなく, その背後にある二次的障害や社会適応上の問題を 予防・解決する上で重要であると考えられる。  そして,SADの病態を理解する際にサブタイプ に着目することが有用であると考えられている。 例えば,SADには,恐れる場面の数による分類と して,あらゆる社会的場面を恐れる全般型と,2 ∼ 3つの社会的場面において不安を感じる非全般 型がある(American Psychiatric Association, 2000)。また,恐れる場面の種類による分類とし ては,スピーチなどのパフォーマンス場面で不安 を感じるパフォーマンス型と,会話などの対人交 流場面で不安を感じる対人交流型があると指摘さ れている(Holt et al., 1992)。このようにSADに は,いくつかのサブタイプが存在するが,わが国 では対人交流場面に対する不安が強いサブタイプ が特徴的であると指摘されており(Sakurai et al., 2005),DSM-5のSADの診断基準においても, 社 交的なやりとり(会話すること)での不安や恐怖 が挙げられている。このことから,本邦のSAD傾 向者は特に日常的な対人交流場面の1つである会 話場面での問題を抱えることが多いと推察される。 このことからも,SAD傾向者の会話場面に着目し, その特徴を検討することが重要であると考えられ る。  例えば,SAD傾向者は,社交場面における相手 の表情や他者の視線によって,不安反応や回避行 動 を 生 起 す る(Fox et al., 2007; Wieser et al., 2009)ことから,会話場面において,不安症状 から逃れるため他者との交流を避ける,すなわち 発言抑制の傾向が強いことが推察される。そして,

*  兵庫教育大学大学院学校教育研究科

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制に至る理由を検討することが重要であると考え られる。特に,SADに関する認知行動理論に関す る研究では,対人状況を体験している最中や事後 において認知の偏りが生じることは多く先行研究 で示されているが(Hirsch et al., 2004),対人交 流の場として日常的に体験しやすい会話場面に特 化して,発言抑制に至る理由やその際の意識内容 について焦点を当てた研究は見当たらない。  以上のことから,SAD傾向者の場合,他者から 批判されることへの恐れが強いため,会話場面に おいて発言抑制行動が頻繁にみられ,結果的に会 話場面上で困難を抱えることが推察されるが,発 言抑制の際にどのような意識内容を有し,それが SAD症状にどのような影響を及ぼしているのかに ついては明らかにされていないのが現状である。  そこで本研究では, SAD傾向者の発言抑制時の 意識内容の特徴を明らかにし,その特徴と抑制傾 向がSAD症状に与える影響について検討すること を目的とする。具体的には,これまでの先行研究 やSADの特徴から,以下2つの仮説を立てて検証 を行った。(i)発言抑制傾向だけでなく,意識内 容がそれぞれ社交不安症状に影響する。特に, SADの特徴である自己への否定的な認知を考慮し (相澤,2015),発言抑制時の意識内容のうち, 傷つきへの恐れがSIAS得点に影響する。(ii)SAD の特徴として安全確保行動,体験の回避がある点 から(American Psychiatric Association, 2000), 親密性回避もSIAS得点に影響する。これらの仮説 に基づき,SAD症状に影響を及ぼす発言/抑制時 の意識内容を明らかにすることによって,SAD傾 向者にとって重要な対人交流場面時の状態像が明 らかになるとともに,SAD症状を改善するための 介入ターゲットが示唆されることが期待される。   2.方法   (1) 研究デザイン  本研究は,横断的研究デザインで実施された。   (2) 調査対象者 一般的に,感情を抑制することは精神的健康にネ ガティブな影響を与えることを示した先行研究が 多く,自己開示を抑制する傾向が強いほど,精神 的不健康に陥りやすいという報告(榎本,1997) や,あきらめ,弱み隠 ,相手への配慮によるス トレス開示抑制は精神的健康を悪化させるという 報告がある(兪・松井,2013)。また,発言抑制 行動(utterance inhibition)は,会話場面におい て,自律的か他律的かに関わらず,自分の意見や 気持ちなどについて表出しない行動を指すが(畑 中,2003),この発言抑制の一部は,コミュニケー ションを制限する不適切な行動抑制であり,対人 場面から逃避するために自己隠 を行うことが, 個人の不健康状態につながるとされている(畑中, 2003)。このように,会話場面におけるSAD傾向 者の発言抑制行動は,SAD症状や健康状態に悪影 響を及ぼす可能性がある。  しかし,その一方で,発言抑制行動は,状況に よって異なる動機や原因から生じると予想され, 必ずしも不適切とは言いきれない側面もあること が考えられる。この点に関して,畑中(2003)は, 発言抑制行動のみならず,その動機に着目するこ との重要性を指摘している。そして,社会的なルー ルや状況を優先して自己を抑制し行動する場合に は,精神的健康に影響しないことを示した(畑中, 2003)。さらに,畑中(2006)は,発言抑制行 動に至るまでの意識内容を詳細に検討し,その意 思内容のパターンと発言抑制行動の関係について も研究を行っている。その結果,発言抑制行動は 「適切性考慮」,「否定的結果」,「関係回避」,「スキル 欠如」の4つの意識内容から構成されていること が示された。さらに,「スキル欠如」が発言抑制行 動を高めることや,「適切性考慮」が適切な発言抑 制行動を,「否定的結果」,「スキル欠如」が不適切 な発言抑制行動を引き起こす要因であることを明 らかにしている。以上のように,従来は内心と言 行はほぼ一致していることが適応的と考えられて きたが,発言抑制による内心と言行の不一致が必 ずしも適応や精神的健康にネガティブな影響を及 ぼすわけではないことが示唆されており,発言抑

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 3.結果 (1) 分析対象者の基本情報  回答のあった者のうち,不備のあった者6名を 除き,最終的に196名(男性107名,女性88名, 不明1名,平均年齢19.78±1.59歳)を分析対象 とした。   (2) 各尺度の記述統計量  まず,回答者から得られた各尺度の記述統計量 を算出した(Table 1)。  次に,畑中(2003)の研究においては,発言 抑制時の意識内容に男女差が確認されていたため, 本研究においても男女差を考慮した分析が必要か 否かを確認するため,群(男性,女性)を独立変 数,各尺度得点を従属変数としたt検定を行った。 その結果,抑制程度,抑制頻度,発言抑制時の意 識内容尺度,SIAS得点のすべてにおいて有意差は みられなかった。そのため,以降の分析では性差 の検討を行わず,分析対象者全体で検討を行った。 (3) 抑制傾向とその意識内容およびSAD症状の 関連  発言抑制時の意識内容の3因子とその他の変数 がどのような関係を持っているか明らかにするた めに,各尺度との相関係数をそれぞれ算出した (Table 2)。その結果,まず,抑制程度と抑制頻度, 他者配慮,親密性回避の間には正の相関がみられ た(r=.38, p<.01; r=.14, p<.05; r=.24, p<.01)。ま  A大学に通う大学生202名を対象とした。   (3) 調査手続きと倫理的配慮  A県内の大学生を対象に,講義終了後に集団式 調査を行った。まず,調査主旨を説明し,調査協 力は任意であることやいつでも調査協力をやめる ことができること,回答結果が学業成績に影響す ることはないこと,データは統計的に処理される ため,個人が特定されることはないことを伝える ことにより,倫理的配慮を行った。そして,質問 紙の提出を調査の同意に代える旨を伝え,調査協 力に同意が得られた者に対して,質問紙への回答 と提出を求めた。   (4) 調査材料 ① デモグラフィックデータ  年齢と性別について回答を求めた。 ② 発言/抑制時の意識内容尺度(伊藤・宮城, 2016)  発言/抑制行動決定時の意識内容について4件 法で測定する質問紙である。傷つきへの恐れ4項 目,他者配慮8項目,親密性回避5項目の3因子, 全17項目から構成されており,信頼性と妥当性 については確認されている。 ③  発 言 抑 制 の 程 度 と 頻 度; Visual Analogue Scale  発言抑制の程度(強さ)と頻度について, 0.全 くなかった,10.いつもあったとして,記入を求 めた。

④ Social Interaction Anxiety Scale(社会相互作 用不安)日本語版(金井ら,2004)  人との会話やつきあいのような他者と交流する 状況に対する恐怖について,5件法で測定する質 問紙である。全20項目で構成されており,信頼 性と妥当性については確認されている。カットオ フポイントは34点である。   (5) 分析方法   解 析 に は 統 計 解 析 ソ フ トSPSS(Statistical Package for Social Science)を使用した。

(4) 調査材料 ① デモグラフィックデータ 年齢と性別について回答を求めた。 ② 発言/抑制時の意識内容尺度 (伊藤・宮城, 2016) 発言/抑制行動決定時の意識内容について 4 件 法で測定する質問紙である。傷つきへの恐れ4 項目, 他者配慮8 項目,親密性回避 5 項目の 3 因子,全 17 項目から構成されており,信頼性と妥当性について は確認されている。

③ 発言抑制の程度と頻度; Visual Analogue Scale

発言抑制の程度(強さ)と頻度について, 0.全くな

かった,10.いつもあったとして,記入を求めた。 ④ Social Interaction Anxiety Scale(社会相互作用不 安)日本語版(金井ら,2004) 人との会話やつきあいのような他者と交流する状 況に対する恐怖について,5 件法で測定する質問紙 である。全 20 項目で構成されており,信頼性と妥当 性については確認されている。カットオフポイントは 34 点である。 (5) 分析方法 解析には統計解析ソフト SPSS(Statistical Package for Social Science)を使用した。

3.結果 (1) 分析対象者の基本情報 回答のあった者のうち,不備のあった者 6 名を除 き,最終的に196 名(男性 107 名,女性 88 名,不明 1 名,平均年齢19.78±1.59 歳)を分析対象とした。 (2) 各尺度の記述統計量 まず,回答者から得られた各尺度の記述統計量を 算出した(Table 1)。 次に,畑中(2003)の研究においては,発言抑制時 の意識内容に男女差が確認されていたため,本研究 においても男女差を考慮した分析が必要か否かを 確認するため,群(男性,女性)を独立変数,各尺度 得点を従属変数としたt 検定を行った。その結果,抑 制程度,抑制頻度,発言抑制時の意識内容尺度, SIAS 得点のすべてにおいて有意差はみられなかっ た。そのため,以降の分析では性差の検討を行わず, 分析対象者全体で検討を行った。 (3) 抑制傾向とその意識内容および SAD 症状 の関連 発言抑制時の意識内容の 3 因子とその他の変数 がどのような関係を持っているか明らかにするため に,各尺度との相関係数をそれぞれ算出した(Table 2)。その結果,まず,抑制程度と抑制頻度,他者配慮, 親密性回避の間には正の相関がみられた(r=.38, p<.01; r=.14, p<.05; r=.24, p<.01)。また,抑制頻度と 傷つきへの恐れ,親密性回避,SIAS 合計得点とその 下位因子である対人交流に対する不安と対人交流 場面における効力感の低さに正の相関がみられた (r=.18, p<.05; r=.33, p<.01; r=.33, p<.01; r=.33, p<.01; r=.18, p<.01)。さらに,傷つきへの恐れは SIAS 合計得点とその下位因子である対人交流に対する 不安に正の相関 (r=.37, p<.01; r=.40, p<.01),他者 配慮はSIAS 合計得点とその下位因子である対人交 流に対する不安に正の相関 (r=.23, p<.01; r=.27, p<.01),親密性回避は SIAS 合計得点とその下位因 子である対人交流に対する不安,対人交流場面にお ける効力感の低さに正の相関がそれぞれみられた (r=.30, p<.01; r=.31, p<.01; r=.15, p<.05)。 M SD 抑制程度(VAS) 4.97 5.00 抑制頻度(VAS) 3.96 2.32 発言抑制時の意識内容尺度 25.19 6.80   傷つきへの恐れ 5.64 3.17   他者配慮 13.47 3.92   親密性回避 6.08 2.51 SIAS合計 33.32 14.66   対人交流に対する不安 26.72 13.33   対人交流場面における 効力感の低さ 6.60 2.48 Table 1 各尺度の記述統計量

Note. VAS=Visual Analogue Scale, SIAS=Social Interaction Anxiety Scale

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が有意であり(F=10.39, p<.01),重回帰決定係 数の変化量が有意に上昇した(ΔR2=.13, p<.01)。 さらに,step2では,抑制頻度(β=.25, p<.01), 傷つきへの恐れ(β=.27, p<.01),親密性回避(β =.15, p<.05)がSIAS得点に対して有意な正の影響 が示された。 4.考察    本研究では,発言/抑制時の意識内容尺度を用 いて,SAD症状を持つ人々の発言時の意識内容と その特徴がSAD症状に与える影響について検討す ることを目的とした。はじめに,記述統計量を算 出したところ,SIAS得点は33.32(SD=14.66) であり,平均値がカットオフポイントと同等の値 を示していることからも,本研究の対象者におい ては,一定程度のSAD症状を有していたことが示 唆された。これは青年期においてSADが多いとい た,抑制頻度と傷つきへの恐れ,親密性回避, SIAS合計得点とその下位因子である対人交流に対 する不安と対人交流場面における効力感の低さに 正の相関がみられた(r=.18, p<.05; r=.33, p<.01; r=.33, p<.01; r=.33, p<.01; r=.18, p<.01)。さらに, 傷つきへの恐れはSIAS合計得点とその下位因子で ある対人交流に対する不安に正の相関 (r=.37, p<.01; r=.40, p<.01),他者配慮はSIAS合計得点と その下位因子である対人交流に対する不安に正の 相関 (r=.23, p<.01; r=.27, p<.01),親密性回避は SIAS合計得点とその下位因子である対人交流に対 する不安,対人交流場面における効力感の低さに 正 の 相 関 が そ れ ぞ れ み ら れ た(r=.30, p<.01; r=.31, p<.01; r=.15, p<.05)。 (4) 抑制傾向と意識内容がSAD症状に及ぼす影 響  次に,抑制傾向のみならず,発言/抑制時の意 識内容がSAD症状に及ぼす影響を検討するため, step1に抑制程度と抑制頻度を,step2に発言抑制 時の意識内容尺度の各因子をそれぞれ説明変数と して投入し,SIAS得点を目的変数とした階層的重 回帰分析を実施した(Table 3)。その結果,まず step1において,抑制程度と抑制頻度を投入後の 重回帰決定係数(R2)が有意であり(F=12.14, p<.01),抑制頻度において,SIAS得点に対して 有意な正の影響が示された(β=.34, p<.01)。次に, step2における発言抑制時の意識内容の下位因子 得点を投入したところ,重回帰決定係数(R2 (4) 抑制傾向と意識内容が SAD 症状に及ぼす 影響 次に,抑制傾向のみならず,発言/抑制時の意識 内容が SAD 症状に及ぼす影響を検討するため, step1 に抑制程度と抑制頻度を,step2 に発言抑制時 の意識内容尺度の各因子をそれぞれ説明変数とし て投入し,SIAS-J を目的変数とした階層的重回帰分 析を実施した(Table 3)。その結果,まず step1 におい て,抑制程度と抑制頻度を投入後の重回帰決定係 数(R2)が有意であり(F=12.14, p<.01),抑制頻度に おいて,SIAS 得点に対して有意な正の影響が示され た(β=.34, p<.01)。次に,step2 における発言抑制時の 意識内容の下位因子得点を投入したところ,重回帰 決定係数(R2)が有意であり(F=10.39, p<.01),重回 帰決定係数の変化量が有意に上昇した(ΔR2=.13, p<.01)。さらに,step2 では,抑制頻度(β=.25, p<.01), 傷つきへの恐れ(β=.27, p<.01),親密性回避(β=.15, p<.05)が SIAS 得点に対して有意な正の影響が示さ れた。 4.考察 本研究では,発言/抑制時の意識内容尺度を用 いて,SAD 症状を持つ人々の発言時の意識内容と その特徴が SAD 症状に与える影響について検討す ることを目的とした。はじめに,記述統計量を算出し たところ,SIAS 得点は 33.32(SD=14.66)であり,平 均値がカットオフポイントと同等の値を示しているこ とからも,本研究の対象者においては,一定程度の SAD 症状を有していたことが示唆された。これは青 年期において SAD が多いという先行研究(三宅ら, 2014)を支持する結果となった。 次に,各尺度の得点について性差検討を行った結 果,抑制傾向,発言/抑制時の意識内容尺度の各 因子いずれにおいても有意差はみられなかった。畑 中(2003)の研究では,男性より,女性の方が相手の ことや規範,およびその場の状況を考慮して発言を 抑制する頻度が高いことを示しており,本研究では 先行研究と一致しない結果となった。この点について は,現代大学生の対人恐怖症性が増大している可 能性が示唆されていること,特に男性において自分 や他人が気になる悩みが1993 年と比較して,2008 年 では有意に増加している(堀井,2011)ことが報告さ れていることから,現代において,男性も女性と同じ く他者配慮を行っている可能性が考えられる。 次に各変数の関連について検討した結果,抑制程 度とSIAS 得点との関連はみられなかったが,抑制頻 度は SIAS 得点と弱い正の相関がみられた。抑制頻 度は,他者との交流という体験の回避を反映してい 1 抑制程度(VAS) 2 抑制頻度(VAS) .38** 3 意識尺度合計 .22** .26** 4  傷つきへの恐れ .13 .18* .78** 5  他者配慮 .14* .10 .82** .47** 6  親密性回避 .24** .33** .60** .26** .20** 7 SIAS合計 .12 .33** .40** .37** .23** .30** 8  対人交流に対する不安 .11 .33** .43** .40** .27** .31** .99** 9  対人交流場面における効力感の低さ .11 .18** .00 .03 -.13 .15* .59** .47**

Note . VAS=Visual Analogue Scale, SIAS=Social Interaction Anxiety Scale, ** p < .01, * p < .05 Table 2 発言抑制の程度,頻度および意識内容と各尺度との相関分析 9 ― ― ― 8 ― ― ― ― ― ― 1 2 3 4 5 6 7

抑制程度

-.01

-.06

抑制頻度

.34

**

.25

**

傷つきへの恐れ

.27

**

他者配慮

.05

親密性回避

.15

*

R

2

.11

**

.24

**

R

2

.13

**

Step2

Step1

Table 3 抑制傾向と意識内容が

SIAS得点に及ぼす影響

Note. VAS=Visual Analogue Scale, SIAS=Social

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類似したものがあることから,正の相関が示され たのは妥当であろう。一方,他者配慮とSIAS得点 に正の相関がみられたことについては,他者への 配慮は精神健康や友人関係,適応感にポジティブ な影響を与えるといった先行研究とは異なる結果 であった。しかしながら,これまでの先行研究で は,他者配慮が極端に高いと精神的不健康が高ま ることも指摘されている(渡部,2009)。つまり, 本研究において他者配慮がSAD症状と正の関連を 持つ結果となったのは,本研究の対象者のSIAS得 点がカットオフ得点に近く,調査対象者の他者配 慮意識の背景には,他者から自己への否定的な評 価を回避しようといった意図が強く,そのことが 結果に影響した可能性が考えられる。  そして最後に,抑制傾向と意識内容がSAD症状 に及ぼす影響を検討するために階層的重回帰分析 を行ったところ,抑制傾向にその際の意識内容を 加えることでSIAS得点の説明率が上昇した。この ことから,SAD研究においても抑制傾向だけでな く,意識内容を検討することの重要性が示唆され た。特に,抑制頻度のみならず,傷つきへの恐れ, 親密性回避といった傾向が高ければ高いほどSAD 症状は高まることが明らかになった。以上の結果 から,発言抑制時の意識内容の中でも,傷つきへ の恐れや親密性回避に対する認知的アプローチが SAD症状の改善につながる可能性が示唆された。 また,SADの治療として代表的な技法であるエク スポージャーを適用する前に,傷つきへの恐れや 親密性回避といった意識内容についてアセスメン トを行うことで,対人交流場面における個々の意 識の特徴や恐怖対象の明確化に繋がり,効率的か つ効果的にエクスポージャーを実施できる可能性 があると考えられる。ただし,他者配慮がSAD症 状に及ぼす影響については今後も詳細な検討が必 要である。  最後に,本研究の限界と展望について述べる。 まず,対象者について,本研究ではSADにおける 疾患の連続性が仮定されていることから(Turner, 1990),大学生を対象に検討を行ったが,本研究 から得られた知見が, SAD患者にも応用可能かど う先行研究(三宅ら,2014)を支持する結果となっ た。  次に,各尺度の得点について性差検討を行った 結果,抑制傾向,発言/抑制時の意識内容尺度の 各因子いずれにおいても有意差はみられなかった。 畑中(2003)の研究では,男性より,女性の方 が相手のことや規範,およびその場の状況を考慮 して発言を抑制する頻度が高いことを示しており, 本研究では先行研究と一致しない結果となった。 この点については,現代大学生の対人恐怖症性が 増大している可能性が示唆されていること,特に 男性において自分や他人が気になる悩みが1993 年と比較して,2008年では有意に増加している (堀井,2011)ことが報告されていることから, 現代において,男性も女性と同じく他者配慮を 行っている可能性が考えられる。  次に,各変数の関連について検討した結果,抑 制程度とSIAS得点との関連はみられなかったが, 抑制頻度はSIAS得点と弱い正の相関がみられた。 抑制頻度は,他者との交流という体験の回避を 反映している可能性があり,体験の回避はSAD 症状の維持要因である(American Psychiatric Association, 2000)ことから,以上のような結 果が得られたと考えられる。さらに,発言/抑制 時の意識内容尺度については,すべての下位因子 とSIAS得点との間に,中程度の正の相関がみられ た。具体的には,傷つきへの恐れ,親密性回避と SIAS得点に有意な中程度の正の相関,他者配慮と SIAS得点に有意な弱い正の相関がみられた。すな わち,傷つきへの恐れ,他者配慮,親密性回避の 意識が高まるとSIAS得点が高まる結果となった。 まず,傷つきへの恐れとSIAS得点との正の相関に ついては,SADの症状維持要因に,自己への注目 が挙げられることや,SAD症状の高い人は,対人 場面において否定的な出来事を予測しやすく,か つ,その影響を大きく見積もる傾向にある(Foa et al., 1996)ことから,正の相関が示されたこ とは妥当な結果であると考える。また,親密性回 避とSIAS得点との正の相関についても,SADの症 状維持要因に安全確保行動という,親密性回避と

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9) 畑中美穂, 会話場面における発言の抑制が精神 的健康に及ぼす影響. 心理学研究 74(2), 95-103, 2003. 10) 畑中美穂, 発言抑制行動に至る意思決定過程: 発言抑制行動決定時の意識内容に基づく検討. 社会心理学研究 21(3), 187-200, 2006. 11) Hirsch C. R,Meynen T.&Clark D.M, Negative

self-imagery in social anxiety contaminates social interactions. Memory 12(4), 496-506, 2004. 12) 相澤直樹, 社交不安に対する対人場面の解釈 の偏りと自動思考の効果. 心理学研究 86(3), 200-208, 2015. 13) 伊藤大輔・宮城里緒, 会話場面における発言 抑制時の意識内容に関するアセスメントツー ルの開発. 琉球大学教育学部紀要 89, 171-177, 2016. 14) 金 井 嘉 宏・ 笹 川 智 子・ 陳 峻 他, Social Phobia ScaleとSocial Interaction Anxiety Scale 日 本 語 版 の 開 発. 心 身 医 学 44(11), 841-850, 2004.

15) 堀井俊章, 大学生における対人恐怖症性の時 代的推移. 横浜国立大学教育人間科学部紀要 13, 149-156, 2011.

16) Foa, E. B., Franklin, M. E., Perry, K. J., et al., Cognitive biases in genetalized social phobia.

Journal of Abnormal Psychology 105, 433-439,

1996.

17) 渡部麻美 高校生における主張性の 4 要件と 精神的適応との関連 心理学研究. 80(1), 48-53, 2009

18) Turner, S. M., Beidel, D. C., Townsley, R. M., Social phobia: relationship to shyness. Behaviour Research and Therapy 28(6), 497-505, 1990.

謝 辞  本論文は,宮城里緒さんの卒業論文をもとに, 三木葵さん,渡部息吹さんのご協力を得て執筆さ れました。ここに感謝の意を表します。 うか検討する必要がある。また本研究は横断研究 であり,発言抑制時の意識内容とSAD症状に関す る因果関係についてはさらなる検証が必要である。 以上の検討を通して,発言抑制時の意識内容に対 する介入が実際にSAD症状を改善するかといった 臨床応用に関する検討が望まれる。   文 献 1) 三宅典恵・岡本百合・神人欄他, 社交不安障害 に対する大学生の理解について. 総合保健科 学:広島大学保健管理センター研究論文集 30, 1-6, 2014.

2) American Psychiatric Association, Diagnostic and

Statistical Manual of Mental Disorders, 4th ed., Text Revision. Washington D. C.: American

Psychiatric Association, 2000.(高橋三郎 他 訳, DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版.医学書院,2004.)

3) Holt, C. S., Heimberg, R. G., Hope, D. A., et al., Situational domains of social phobia. Journal of

anxiety Disorders 6(1), 63-77, 1992.

4) Sakurai, A., Nagata, T., Harai, H., et al., Is “Relationship fear” unique to Japan? Symptom factors and patient clusters of social anxiety disorder among the Japanese clinical population.

Journal of Affective Disorders 87(1), 131-137,

2005.

5) Fox, E., Mathews, A., Calder, A. J., et al., Anxiety and sensitivity to gaze direction in emotionally expressive faces. Emotion 7(3), 478-486, 2007. 6) Wieser, M. J., Pauli, P., Alpers, G. W., et al., A. Is

eye to eye contact really threatening and avoided in social anxiety? -An eye-tracking and psychophysiological study. Journal of Anxiety

Disorders 23(1), 93-103, 2009. 7) 榎本博昭. 自己開示の心理学的研究. 京都, 北大路書房, 1997. 8) 兪善英, 松井豊.親しい他者に対するストレ ス開示抑制態度が精神的健康へ及ぼす影響. 筑波大学心理学研究,46,57-67,2013.

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Influence of conversational inhibition tendency and consciousness contents

on social anxiety symptoms

Asuka Watanabe*, Ayako Takii*, Yuki Kubo**, Daisuke Ito* *Graduate School of Education, Hyogo University of Teacher Education

**Oasis Clinic

The purpose of this study was to investigate the influence of conversational inhibition tendency and consciousness contents on social anxiety symptoms in conversations. 196 university students completed the questionnaire assessing their inhibition tendency of utterance and consciousness contents at the conversational inhibition. The results indicated not only inhibition tendency, but also consciousness contents led an increase in social anxiety disorder symptoms. Inhibition frequency, fear to get hurt, and avoid to be on close term with someone in particular are strongly related with depressive symptoms. These results suggest that possibility of inprovement in social anxiety symptoms by focusing on inhibition tendency and consciousness contents.

Table 2  発言抑制の程度,頻度および意識内容と各尺度との相関分析 9 ― ― ―8――――― ―1234567 抑制程度 -.01 -.06 抑制頻度 .34 ** .25 ** 傷つきへの恐れ .27 ** 他者配慮 .05 親密性回避 .15 * R 2 .11 ** .24 ** ⊿ R 2 .13 ** Step2Step1Table 3 抑制傾向と意識内容がSIAS得点に及ぼす影響

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