タヌキ( )は日本に広く 生息し、北海道に生息するエゾタヌキ( ) と本州、四国および九州に生息するホンドタヌキ ( )の2亜種がある(佐伯 2008)。近 年、山林の宅地開発や開墾による生物相の変遷によ り野生動物が人間と接触する機会が増加し、タヌキ はその代表的な動物の1種である(内田ほか 1999)。 交通事故死する野生動物のうち、最も被害件数が多 い動物はタヌキである(谷口 2003)。 タヌキなどの野生動物に寄生する寄生虫は、様々 な人獣共通感染症の媒介や病気に関係している(藤 本 2001、今井ほか 2007)。これらの感染症や病気の 中には、トキソカラ症やエキノコックス症などの人 獣共通感染症や重症熱性血小板減少症候群(SFTS) やライム病などのダニ媒介性感染症などがある(大 西 2008、岸本ほか 2011)。SFTSは死亡率が高く根 本的な治療法やワクチンが未開発であるため問題に なっており、高知県は特にその発生が多い地域であ る(下田・前田 2015)。また、ライム病は北海道で発 生件数が多い(栗田ほか 1994、橋本ほか 2002)。こ れら感染症や病気の予防と対策には媒介者であるマ ダニ亜目の生息地や宿主の情報が重要であるが、こ れまでのところマダニ類の生息地に関しては、フラ ンネル布を用いて下草など植生上のダニを採集する 旗ずり法による調査が主になされてきた。マダニ類 は動物が発する臭気や体温などを基にヒトを含めた 動物に寄生することから(Leonovich 1986、佐伯 1998)、旗ずり法のみではマダニ類の正確な分布域 が明らかにされていない可能性がある。高知県と北 海道に生息するタヌキに寄生する寄生虫については 限られた情報しかない(熊沢・谷地森 2005、佐渡ほ か 2016)。本研究では、交通事故などにより死亡し た高知県のホンドタヌキと北海道のエゾタヌキを用 いて、外部寄生虫と内部寄生虫の保有状況の調査を
研究ノート
高知県および北海道産タヌキにおける外部寄生虫と
内部寄生虫
池永芽衣
1)・熊沢秀雄
2)・谷地森秀二
3)・加藤元海
1),4)* 要 旨 タヌキはイヌ科に属する哺乳類であり、近年人と接触する機会の増した動物の一種である。タ ヌキに寄生する寄生虫には、ヒトに感染症などのリスクを引き起こすものがある。しかし、高知 県と北海道のタヌキに寄生する寄生虫についての情報はほとんどない。本研究では、交通事故な どで死亡した高知県および北海道のタヌキの外部寄生虫と内部寄生虫について調査した。外部寄 生虫としてはダニ目のマダニ亜目、ノミ目およびハジラミ目が採取された。その中でもマダニ類 が大部分を占め、ノミ目とハジラミ目は少数であった。採取されたマダニ類の中には、高知県に おいて発症数が多い重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を媒介するフタトゲチマダニ、タネガタ マダニやタカサゴキララマダニ、北海道において発症数が多いライム病を媒介するシュルツェマ ダニやヤマトマダニが含まれていた。白い布を振り回してマダニ類を採集する旗ずり法によるタ カサゴチマダニの生息密度の推定は、ヒトを含めた動物への寄生確率という観点では過大評価、 キチマダニに関しては過小評価している可能性が示唆された。内部寄生虫としては、 属 の一種であるタヌキ回虫が腸管内部から採取された。 属の回虫は、トキソカラ症の病原 体であることが知られている。人間社会においてマダニ類などの寄生虫に関連した病気の予防と 対策には、野生動物に寄生する寄生虫を調べることの重要性が示唆された。 キーワード:タヌキ、マダニ、SFTS、ライム病、高知県、北海道 2019年2月7日受領;2019年3月6日受理 1)高知大学理学部生物科学コース理論生物学研究室 〒780-8520 高知県高知市曙町2-5-1 2)高知大学医学部寄生虫学講座 〒783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮 3)四国自然史科学研究センター 〒785-0023 高知県須崎市下分乙470-1 4)高知大学大学院黒潮圏科学部門 〒780-8520 高知県高知市曙町2-5-1 *連絡責任者 e-mail: [email protected]行なった。本研究においてタヌキから採取された寄 生虫に関して、ヒトの感染症や病気との関連につい て考察した。
材料と方法
外部寄生虫と内部寄生虫の調査では、2016年から 2018年にかけて交通事故や狩猟により死亡したエゾ タヌキとホンドタヌキの2亜種の個体を対象とした (表1)。ホンドタヌキの採集地は、高知県の室戸市 から土佐清水市にかけての地域、エゾタヌキの採集 地は、北海道の斜里町および美瑛町であった(図1)。 採集されたタヌキについては、感染症および寄生虫 伝播防止対策のため(黒瀬・宮野 2009)、−20°Cで72 時間以上冷凍保存した。冷凍庫から取り出し自然解 凍した後、上皿はかり(SD-30、大和製衡、明石市) を用いてタヌキの体重を測定し、市販の定規(直尺 シルバー1 m、シンワ、三条市)を用いて体長を測 定した。門歯の摩耗状況、精巣の下垂状況、乳頭の 授乳経験の有無などの外部形態の特徴から成長段階 (幼獣、成獣)を区別した。その後、外部寄生虫と内 部寄生虫を採取した。 図1. 調査したタヌキの採集地点。(a)高知県における ホンドタヌキの採集地、(b)北海道におけるエゾタヌキ の採集地。 表1. タヌキ個体の採集日、採集地、採集方法、個体的特徴および寄生虫の調査の有無。外部寄生虫は、タヌキの体表から目視で確認され た個体を全て採取した。採取した外部寄生虫を70% エタノールで固定し、実体顕微鏡(GmbH、Carl Zeiss MicroImaging)を用いて寄生虫の外部形態を 基に同定した。実体顕微鏡での同定が困難な場合 は、寄生虫を99%エタノールに1日浸した後、無水 エタノールに1時間浸して脱水し、寄生虫をキシレ ンに30分間浸した。その後、寄生虫をオイキット (Eukitt、O. Kindler)で封入してプレパラートを作 製し、光学顕微鏡(CH-2、Olympus)で観察し同定 した。マダニ亜目に関しては発育期(成虫、若虫、 幼虫)を区別し、成虫の場合は性別(オス、メス) を区別した。外部寄生虫の同定は、マダニ亜目に関 しては藤田・高田(2007)、Yamaguti et al.(1971)、 ノミ目に関してはSakaguti(1962)、ハジラミ目に関 しては今井(2007)に従った。 外部寄生虫を採取した後、タヌキから腸管を取り 出した。腸管を小腸と大腸に切り分けたが、初期に 調査したホンドタヌキ4個体(個体ID:2、5、6、14) については腸管を無作為に切り分けたため小腸と大 腸の区別ができなかった。腸管の片端にホースを差 し込み、水を流し込むことで内容物をバットに押し 出した。内容物を目視で観察し内部寄生虫を採取し た。内容物を押し出した後の腸管を外科剪刀で切り 開き腸壁に寄生している内部寄生虫の有無を目視で 確認した。他の臓器にも内部寄生虫がいないか切開 して目視で観察した。対象としたタヌキ個体は一度 冷凍されていることから、条虫類および吸虫類は解 凍の際に虫体が崩れて識別できないため、クチクラ で覆われており状態が良好な線虫類のみ採取した。 採取した線虫類は、70%エタノールで固定し、体長 を市販の定規で計測した。乳酸、フェノール、グリ セリンおよび蒸留水を混ぜて作成したラクトフェ ノール液またはガムクロラール液(ネオシガラール、 志賀昆虫普及社、品川区)で線虫類を透徹し、子宮 内虫卵や交接刺などの内部形態を基に雌雄を判別し た。メスの場合は虫卵の大きさや陰門の位置、オス の場合は交接刺の長さに基づいてタヌキ回虫かイヌ 回虫かを判別をした(Yamaguti 1941)。 ホンドタヌキ1個体あたりの寄生虫数について、 タヌキの性別間での比較にはt検定を用いた。ホン ドタヌキの栄養状態と寄生虫の有無とを検討するた め、標準体重に対して太っているか痩せているかに ついての身体状態が寄生虫の有無によって異なるか どうかをカイ二乗検定を用いて解析した。統計解析 には、フリーの統計解析ソフトウェアRを用いた (Version 3. 2. 3、R Development Core Team 2016)。
結果
ホンドタヌキ 外部寄生虫の調査をしたホンドタヌキ9個体から 寄生虫が採取された(表2)。8個体からダニ目 (Acari)マダニ亜目(Ixodida)が合計328匹採取さ れた。採取されたのは、マダニ属 、チマダニ 属 、キララマダニ属 で 表2. ホンドタヌキから採取された外部寄生虫。発育期の略号は次のとおり。L:幼虫、N:若虫、F:メス、M:オス。 寄主の略号は次のとおり。nip:タネガタマダニ、lon:フタトゲチマダニ、fla:キチマダニ、sp1:チマダニ属の1種、 tes:タカサゴキララマダニ、mik:ミカドケナガノミ、fel:ネコノミ、can:イヌハジラミ。*印は幼獣個体を示す。タ ヌキの性別については、ID 1−5がメス、ID 7−14がオス、ID 16は性別不明。あり、そのうちチマダニ属が多くのタヌキ個体から 採 取 さ れ た。マ ダ ニ 属 で は タ ネ ガ タ マ ダ ニ( )が5匹、チマダニ属ではフタトゲチマ ダニ( )、キチマダニ( )とチ マダニ属の1種( . sp. 1)が合計322匹、キララマダ ニ属ではタカサゴキララマダニ( ) が1匹採取された。マダニ亜目の中では、フタトゲ チマダニ(188匹)が最も多く、次いでキチマダニ(89 匹)が多く採取された。ノミ目(Siphonaptera)に 関しては、2個体のホンドタヌキからミカドケナガ ノ ミ( )が 2 匹 と ネ コ ノ ミ ( )が1個体採取された。ハジ ラミ目(Mallophaga)に関しては、1個体のホンド タヌキからイヌハジラミ( )が8 匹採取された。 性別で区分すると、メスでは4個体のうち全ての 個体から外部寄生虫が採取され、オスでは7個体の うち5個体から採取された(表2)。 検定の結果、 タヌキ1個体あたりの外部寄生虫の数には性別間で 有意な差はなかった( = 1.44、 = 0.23)。成長段階 で区分すると、幼獣では2個体のうち全ての個体か ら外部寄生虫が採取され、成獣では10個体のうち7 個体から採取された。タヌキの幼獣から採取された マダニ亜目の個体のうち幼虫は121匹、若虫は34匹、 成虫は3匹であった。タヌキの成獣から採取された マダニ類は、幼虫が9匹、若虫が73匹、成虫が88匹 であった。幼獣は幼虫に、成獣は若虫や成虫に多く 寄生されていた。タヌキの標準体重に対して肥満か 痩せかの身体状態と外部寄生虫の寄生の有無との関 係については、図2aに示した。寄生虫が採取され た個体に関しては、回帰曲線(標準体重)より重い 個体は6個体、軽い個体は3個体であった。寄生虫 が採取されなかった個体に関しては、標準体重より 図2. 高知県におけるホンドタヌキの体長に対する体重 と寄生虫の有無との関係。(a)外部寄生虫、(b)内部寄 生虫。●:寄生虫が採取された個体。○:寄生虫が採取 されなかった個体。▲:寄生虫の調査を行なわなかった 個体。 表3. ホンドタヌキから採取された内部寄生虫。性別の 略号は次のとおり。F:メス、M:オス。*印は幼獣個体 を示す。タヌキの性別については、ID 1−5がメス、ID 6 −15がオス、ID 16は性別不明。
5、大腸から2、腸管から14匹)、オスが19匹(小腸 から7、大腸から2、腸管から10匹)、性別を判別で きなかったものが3匹であった。ほとんどの内部寄 生虫は腸管から採取されたが、タヌキ16個体中1個 体の筋肉から回虫(種は不明)が採取された。その 他の臓器からは内部寄生虫は採取されなかった。 性別で区分すると、メスのタヌキでは4個体のう ち3個体から腸管の内部寄生虫が採取され、オスの タヌキでは10個体のうち6個体から採取された(表 3)。 検定の結果、タヌキ1個体あたりの腸管の内 部寄生虫の数には性別間で有意な差はなかった( = −1.47、 = 0.17)。成長段階で区分すると、幼獣で は3個体のうち2個体から、成獣では12個体のうち 7個体から腸管の内部寄生虫が採取された。 タヌキの標準体重に対して肥満か痩せかの身体状 態と内部寄生虫の寄生の有無との関係については、 図2bに示した。寄生虫が採取された個体に関して は、標準体重より重い個体は2個体、軽い個体は5 個体であった。寄生虫が採取されなかった個体に関 しては、標準体重より重い個体は4個体、軽い個体 は1個体であった。ただし、タヌキの身体状態と内 部寄生虫の有無との間に、有意な関連性は認められ なかった( = 0.24)。タヌキ1個体あたりの内部寄 生虫の数は0から11匹の範囲であり、寄生数に関す るデータの第3四分位(4.5匹)を超えていたのは、 いの町のタヌキ3個体(ID 14、11匹;ID 10、8匹; ID 9、7匹)と高知市のタヌキ1個体(ID 6、9 匹)であった。 エゾタヌキ 外部寄生虫の調査をしたエゾタヌキ全4個体中3 個体からマダニ亜目とノミ目の外部寄生虫が採取さ れた(表4)。マダニ属はタヌキ3個体から、チマダ ニ属はタヌキ2個体から採取された。エゾタヌキの みから採取されたのは、マダニ属のシュルツェマダ ニ( )とヤマトマダニ( )、チ マダニ属のヤマトチマダニ( )とチマダ ニ属の1種( . sp. 2)であった。ホンドタヌキとエ ゾタヌキに共通して採取されたのは、マダニ属のタ ネガタマダニとチマダニ属のフタトゲチマダニとキ チマダニであった。マダニ亜目の中ではヤマトチマ ダニが最も多く採取された。ノミ目に関しては、1 個体のエゾタヌキからホンドタヌキからも採取され たミカドケナガノミが1匹採取された。 内部寄生虫の調査をした全3個体中2個体のエゾ タヌキの小腸から42匹のタヌキ回虫が採取された (表5)。タヌキ回虫のメスが18匹、オスが22匹、判 別できなかったものが2匹であった。大腸や筋肉を 表4. エゾタヌキ(全てオス)から採取された外部寄生虫。発育期の略号は次のとおり。L:幼虫、N:若虫、F:メス、 M:オス。寄主の略号は次のとおり。nip:タネガタマダニ、per:シュルツェマダニ、ova:ヤマトマダニ、lon:フタ トゲチマダニ、fla:キチマダニ、jap:ヤマトチマダニ、sp2:チマダニ属の1種、mik:ミカドケナガノミ。*印は幼獣 個体を示す。 表5. エゾタヌキ(全てオス)から採取された内部寄生虫。 性別の略号は次のとおり。F:メス、M:オス。*印は幼 獣個体を示す。
含むその他の臓器からは、内部寄生虫は採取されな かった。
考察
ホンドタヌキの外部寄生虫に関しては、ダニ目の マダニ亜目が最も多く採取され、ノミ目とハジラミ 目は少なかった。ノミ目として採取されたミカドケ ナガノミとネコノミ、ハジラミ目のイヌハジラミは、 いずれもタヌキに寄生することが知られている(山 内・江草 2005、佐渡ほか 2016)。マダニ亜目の中で は、タネガタマダニ、フタトゲチマダニ、キチマダ ニ、チマダニ属の一種およびタカサゴキララマダニ が採取された。これらは高知県内でもフランネル布 を用いて下草など植生上のダニを採集する旗ずり法 による採取記録が複数あり、その中でもフタトゲチ マダニは優占種となっている(千屋ほか 1998、2000、 猿田ほか 2001、戸梶ほか 2015、2016)。高知県の東 部から西部にかけての全域における旗ずり法による 採集では、フタトゲチマダニに次いでタカサゴチマ ダニ( )の生息密度が高いと報告さ れている(戸梶ほか 2015)。本研究で調査したホン ドタヌキからはフタトゲチマダニとキチマダニが多 く採取されたが、タカサゴチマダニは採取されな かった。高知県産のホンドタヌキの幼獣から採取さ れたダニの報告においてもフタトゲチマダニとキチ マダニは採取されているがタカサゴチマダニは採取 されていない(熊沢・谷地森 2005)。これらのこと から、旗ずり法によるタカサゴチマダニの生息密度 の推定は、ヒトを含めた動物への寄生確率という観 点では過大評価、キチマダニに関しては過小評価し ている可能性がある。タネガタマダニは、成虫はタ ヌキを含む中型と大型の哺乳類に寄生することが報 ニ属はホンドタヌキとエゾタヌキから採取された が、マダニ属はホンドタヌキ(5匹)と比べるとエ ゾタヌキ(36匹)から多く採取された。これは、マ ダニ亜目に関して温暖な地域ではチマダニ属が多 く、寒冷な地域ではマダニ属が多く生息しているこ とと一致する(高野 2015)。 ホンドタヌキとエゾタヌキの内部寄生虫について は、タヌキ回虫のみが採取された。ホンドタヌキに はタヌキ回虫が腸管のうち小腸に寄生することが報 告されている(内田ほか1999、Sato et al. 2006)。タ ヌキ回虫以外でも、ブタ回虫( )、ウシ 回虫( )、イヌ回虫( )、ネコ回虫( )およびアライグマ 回虫( )についても腸管のう ち小腸のみに寄生するとされているが(斉藤 2007)、 本研究ではホンドタヌキ2個体の大腸からタヌキ回 虫が採取された。タヌキの腸管内にはクシマタヌキ 鉤虫( )やミヤザキタヌ キ鉤虫( )などの線虫類 が寄生することが知られているが(内田ほか 1999、 的場ほか 2002、Sato et al. 2006)、本研究では採取さ れなかった。 外部寄生虫に関しては、採取されたほとんどがマ ダニ亜目であった。マダニ亜目は、山林の下草や地 表に多く生息するが都市部の公園や河川敷にも生息 し(山内 2016)、山野の宅地化やリゾート開発、農耕 地の放棄などの理由でヒトがマダニ亜目に咬まれる 機会は増加傾向にある(米田ほか 1997)。マダニ亜 目は炭酸ガス、宿主の臭気、体温、遮光、物理的な 振動などを第1脚末端のハラー氏器官、触肢などの 感覚器が認知することで宿主を探索し、宿主が1-2 m の距離に達するとハラー氏器官が宿主の位置を 正確に捉えることが可能になり宿主へ接触するドタヌキから多く採取されたフタトゲチマダニや土 佐市のホンドタヌキから採取されたタネガタマダ ニ、土佐清水市のホンドタヌキから採取されたタカ サゴキララマダニはSFTSウイルスの媒介マダニと して知られている(下田・前田 2015)。SFTSでは発 熱や消化器症状が起こり、血小板および白血球の減 少がみられ、重症化すると多臓器不全を起こし死亡 する(岸本ほか2011)。高知県は、SFTSの発生が多 い地域のひとつであり死亡者も報告されている(下 田・前田 2015)。北海道のエゾタヌキのみに採取さ れたシュルツェマダニやヤマトマダニは、ライム病 の病原体であるボレリアの媒介マダニであり、北海 道は日本でのライム病発生の過半数を占めている (栗田ほか 1994、橋本ほか 2002)。内部寄生虫に関 しては、本調査では 属のタヌキ回虫のみが 採 取 さ れ た。本 来 宿 主 で は な い ヒ ト が 誤 っ て 属の幼虫包蔵卵を摂取することでトキソ カラ症を引き起こすことが知られているが(中村 2015)、同属に分類されるタヌキ回虫についてはト キソカラ症を引き起こしたという報告はこれまでの ところない。本研究でタヌキから採取された寄生虫 は、ヒトに伝染病などさまざまな病気をもたらす可 能性をもった種であることが示唆された。人間社会 においてマダニ亜目を媒介とした病気の予防と対策 には、旗ずり法など野外において直接ダニを採集す る方法に加えて、交通事故死したものや罠を用いて 捕獲した野生動物の寄生虫を調べることの重要性が 示唆された。
謝辞
本研究を実施するにあたり寄生虫を採取する際に 協力していただいた標本作製会に参加された皆様に 感謝致します。査読者の方々からは本原稿に対して 有益な助言をいただきました。引用文献
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Ecto- and endoparasites of raccoon dogs in Kochi and Hokkaido
Mei Ikenaga1), Hideo Kumazawa2),
Syuji Yachimori3), and Motomi Genkai-Kato1),4)*
1) Department ofBiology, Faculty ofScience, Kochi University, 2-5-1 Akebono-cho,
Kochi 780-8520, Japan 2) Department ofParasitology,
Kochi Medical School,
Kochi University, Kohasu, Oko-cho, Nankoku, Kochi 783-8505, Japan
3) Shikoku Institute ofNatural History, 470-1 Shimobun Otsu, Susaki,
Kochi 785-0023, Japan
4)* Graduate School ofKuroshio Science, Kochi University, 2-5-1 Akebono-cho,
Kochi 780-8520, Japan
Abstract
Raccoon dogs are one ofthe wild mammals which humans frequently encounter in recent years. Their parasites can cause human diseases such as severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS) and Lyme
disease. A number of people suffer from SFTS in Kochi, western Japan, and Hokkaido, northern Japan. There is little information on parasites of raccoon dogs in Kochi and Hokkaido. In this study, ectoparasites and endoparasites were collected from raccoon dogs killed by traffic accident or by hunting in Kochi and Hokkaido. Ticks (Acari: Ixodida), fleas (Siphonaptera) and biting lice (Mallophaga) were collected as ectoparasites. Ticks were major, and flea and biting lice were minor ectoparasites. Ticks collected from raccoon dogs included the species, Haemaphysalis longicornis, Ixodes nipponensis and Amblyomma testudinarium, that transmit SFTS virus and the species, I. persulcatus and I. ovatus, that transmit Lyme disease. Our results suggest that the densities of H. formonsensis and H. flava estimated by the flagging method on vegetation could be an overestimate and underestimate, respectively, in terms of vulnerability ofanimals including humans to infestation with ticks. The roundworm, Toxocara tanuki, was collected from intestines as an endoparasite. Roundworms belonging to the genus Toxocara can cause toxocariasis in humans. These results showed that parasitological surveys ofwild mammals are important for prevention of parasite-related diseases in human society.
Key words: raccoon dog, ticks, SFTS, Lyme disease, Kochi, Hokkaido.