Title
サトウキビ生産におけるNIRとGISを利用した生産支援情
報システム
Author(s)
川満, 芳信; 上野, 正実; 孫, 麗亜
Citation
沖縄農業, 36(1): 49-52
Issue Date
2002-06
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1474
Rights
沖縄農業研究会
サトウキビ生産におけるNIRとGISを利用した生産支援情報システム
川満芳信・上野正実・孫麗亜 (琉球大学農学部) }ま「デージファーム」プロジェクトについて述 べる. 1.はじめに 沖縄県には面積が0.O1kni以上の島が160もあ り,そのうち50が有人島である(仲地,1995). 島の産業は第一次産業への依存度が極めて高く, 島喚経済から農業,とりわけサトウキビ産業を 切り離すことはできない.サトウキビの地域経 済に対する波及効果は4.29倍と言われ(家坂, 2001),サトウキビを増産に導けば地域が活性 化することは明白である.しかし,その生産量 は毎年減少し,平成12/13年期は82万トンまで 落ち込み,沖縄県が掲げる目標100万トン達成 は,急を要する課題である. 南西諸島の離島へはあらゆる生活物資が船舶 や飛行機を利用して搬入される.しかし,一旦 持ち込まれた物資は島外へ出ることは極めて少 なく,ゴミや産業廃棄物化して毎年島に蓄積さ れている.また,島喚に限らず地球全体の化石 燃料の大量消費に伴い大気中の二酸化炭素 (CO2)濃度が急激に上昇し地球温暖化現象が 加速されつつあるが,先のCOP7(モロッコ) において,遅れていた京都議定書の具体化が大 筋で合意に至り,CO2削減やその対策が急速 に事業化される状況が形成されつつある. これら島喚が抱える諸問題とサトウキビの増 産を同時に解決する方法の一つとして,サトウ キビを利用した地球温暖化抑制「バイオ・エコ 2.サトウキビ品取り制度の概要 沖縄県および鹿児島県のサトウキビ原料茎の 買い取り方法は,平成6年度に従来の重量取引 制度を改め近赤外線分析装置(NIR)を利用し た品質取引制度へ移行した.当初,国,県,各 市町村および製糖工場の関係者は,新制度導入 に伴い農家の生産意欲が高まり,品質の高いサ トウキビ生産へ向かうであろうと期待した.し かし,それから7年を経過したものの,大きな 変化は見られない.むしろ,“基準糖度帯であ る12.9~14.3度以上を確保することは至難の業 である'’との印象が農家には広がりつつある. 高価なNIRシステムが全製糖工場に設置され, 3ケ月程度の短い製糖期間稼働して糖度だけを 測定し,それ以外の期間は利用されずに眠って いる状況は,良好とは言い難い.また,沖縄県 には過去に蓄積されたNIRデータが130万件も あるが,これら糖度データが農家の生産管理シ ステムへフィードバック活用は実現されていない. 沖縄県および鹿児島県のサトウキビの取引制 度における価格体系をみると,農家の努力によっ て糖度の高いサトウキビを生産すれば,甘蕨糖 度が14.5度以上でその分だけ価格が上がり,収 入に跳ね返る仕組みになっている.しかし,糖 度すなわち価格だけは厳しく査定されるように なったが,糖度の高いサトウキビを栽培するに はどの様な肥培管理をすればよいのか,研究機 システム」と,近赤外データを活用したサトウ キビ生産管理システム「デージファーム」プロ ジェクトを沖縄農業研究会内に立ち上げ,現在 その構想から実用化段階に至っている.本稿で沖縄農業第36巻第1号(2002) 50 関,普及センターからの具体的な指導はなく, 依然として従来の方法で栽培されている.大口 農家においては以前に比べて年間200万円以上 の損失を出しているところもあり,このままで は,NIRを利用した品質取引は農家いじめの から外へ持ち出されるケースが多かったが,カ リに関しては過去から現在まで,施肥されたカ リが圃場に残り徐々に蓄積されてきたと考えて いる.特に,南大東島では10年前までは収穫前 にサトウキビ畑に火をいれ,枯れ葉や葉,鞘頭 部を焼き払い,ハーベスターが収穫しやすいよ うにしていた.そのときにカリはカリ塩類と して土壌に蓄積していったと考えられる.また, 沖縄県のサトウキビ栽培指針でも,カリ肥料を 多く施用するように指導され,農家は無意識の うちにサトウキビ畑土壌にカリを積み上げていっ たと考えられる. サトウキビは稲作に匹敵するほど連作障害の 無い作物として有名である.農家が営農努力を 怠り,かつ,化学肥料に頼りすぎた結果,また, 県農試,農業改良普及センターおよび農協によ るせっかくのサトウキビ畑の実態調査結果も栽 培改善に反映されないまま,カリが過剰施肥さ れたと考えられる. ツールと見られかねない状況である. 3.サトウキビ糖度支配要因の検討 1996年l~3月,南大東島,石垣島の製糖工 場で糖度測定のためにNIRにかけたサトウキ ビの搾汁液の一部をサンプルとして実験室に持 ち込み,それに含まれる各種元素類(ICPプ ラズマ発光分析装置),イオン類(イオンクロ マト),pH,パカスの窒素・炭素(N/Cアナラ イザー)を分析し,甘蕨糖度との相関関係を綿 密に調査した.以来,毎年のように同様な調査 を実施し,また,検収したサトウキビ畑の土壌 と植物葉をサンプリングし,大学の実験室に持 ち帰って各種成分含量を測定し,甘蕨糖度を支 配している要因を調査した(川満ら,1996). 過去6年間の結果をまとめると,甘蕨糖度と カリとの間には極めて高い負の相関関係が認め られた.また,窒素と甘蕨糖度とは負の相関関 係に,リンと甘蕨糖度は正の相関関係にあるこ とも明らかになった.窒素は植物体の全てのタ ンパク質や酵素活性および光合成等の代謝系に 必要と考えられ,減肥の効果は少ないと考えた. リンと甘簾糖度の関係は正であり,更に施肥量 を増やしても甘蕨糖度へは悪影響は無いと予想 された.そこで,我々が注目した元素はカリ成 分であった.すなわち,土壌中にカリは過剰に 存在し,それがサトウキビに賛沢吸収され,葉 の光合成速度を抑制し,茎の蕨糖合成能力が著 しく低下していることが,並行して実施した圃 場試験,実験室の研究成果から明らかになった. この原因として,窒素やリンはサトウキビ圃場 4.近赤外データを活用したサトウキビ生産管 理システム この様な情報を農家にいかに効率的にかつ持 続的に伝え,栽培法と営農を改善するかを考え たとき,救世主NIRに着目した.まず,NIR (InfraA1yzer-500)を用いて,従来ICPや原 子吸光で定量していた搾汁液や土壌の中に含ま れる元素類をNIRで迅速にしかも簡便に分析 できないか調べてみた.もし,これが可能なら, サトウキビ工場の品質取評価室に居ながらにし て,糖度と同時に全サトウキビ圃場の元素成分 の推定も可能である.結果は,予想以上に良く, 蕨糖はもとより,果糖,ブドウ糖,カリ,マグ ネシウム,イオウ,リン,ナトリウム,アンモ ニア,珪素が有意に定量できることが明らかに なった.同時に実施した土壌の分析結果では.
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全窒素,全炭素,pH,EC,含水率,カリ,リ
ン等の定量が可能であることも分かった. 次に,実用化システムの開発をめざして平成 13年1月から3月の製糖期間にNIRを南大東 島に持ち込み,品質評価用のNIRの横で実際 に品質評価に使用された全ての搾汁液のスペク トルを約6000点とった.それらデータ基礎に種々 解析したところ,カリウム,マグネシウム,リ ン,カルシウムなどが有意にNIRで分析可能 であることが認められ,実験室でICPなどを 用いて得られた結果と一致した. く計測して糖度の高低を決定している要因を総 合的に解析する必要がある.また,得られた結 果を農家へフィードバックさせることでシステ ムの効果は最終的に検証できる.それらを可能 にする方法として,携帯型ⅢRの利用ととも に,得られた全てのデータをGIS(地理情報 システム)で表現するためのオンラインマッピ ングシステムを早急に構築することも必要であ る. 現在,携帯型のNIRやFT-NIR,さらには アレーダイオードを用いたNIRも開発され, スキャン時間が2秒という極めて画期的な装置 も出現している.それらⅢRセンサーをうま く利用すれば,現場でしかもインタクト状態で 作物の診断が可能であると同時に,品質(糖度) の良いものから順番に収穫可能であり,高付加 価値を付与する最適な装置として農家の生産支 援に利用できるであろう.我々は,その実証試 験として,沖縄産マンゴーの栄養診断と高品質 栽培の条件確率にⅢRとGIS,GPSを活用し, 農家の営農生産支援システムを構築中である. これらの技術が確立されれば全ての果樹,作物 栽培に応用でき,更に,ITも加わって未来型 農業が実現可能である. 5.今後の展開(下図参照) 今後は,各成分の波長を様々な条件で調べ検 量線をより確実なものにする予定である.その 後,各製糖工場に設置されているNIRに可能 な限り各成分の波長を追加し,糖度と同時に肥 料成分を測定し,オンラインデータベースを構 築する.また,サトウキビ畑の肥料成分の状態 と,更に糖度を向上させる肥培管理の方法をマ ニュアルとして作成して農家にアドバイスする 診断システムの構築を進めている.更に,2~ 3年のデータが蓄積すると,次年度の収量予測 も可能になり,また,全ての農家の参考になる 高糖度圃場の特定および最適な収穫日取りの決 定など,糖業のあり方を根本的に変え得るシス テムとなるであろう.これらの推進にはかなり の困難も予想されるが,最近では国や県も注目 するようになりつつあり,実現に向けて研究が 加速するであろうと楽観している. 以上に述べたmRを利用した各成分の診断 は,サトウキビが収穫される時点の状態に依存 している.この診断システムだけでも大きな成 果が期待できるが,さらなる改善のためには, キビの各生育ステージにおける土壌,気象,肥 培管理,品種,病害虫の発生状況などを効率よ 6.まとめ 農業のポテンシャルを最大限に発揮できる要 素は,Ⅲ(InfbrmationTechnology)の活用 にある.特に,NIRを核にした「デージファー ム」プロジェクトが軌道に乗れば,他の農作物 にも応用でき,製品(出荷農産物)の品質管理 はもとより,栽培履歴,品種,農薬の使用量, 等の情報という高付加価値を載せて全国に発信 すれば,少ない設備投資で大きな利益をもたら し,更には地球温暖化ガスCO2の抑制,削減 にも大きく貢献できる.我々は,ITをIdea、沖縄農業第36巻第1号(2002) 52 Technologyと定義し,サトウキビ産業こそが ITを最大限に利活用でき,生産性の向上が図 れると考えている. 我々の目標は甘薦糖度を県全体で1度向上さ せることである.糖度が1度上がればトン当た り1300円プラスされ,毎年100万トン生産して いる沖縄県の農家にとって13億円の増収となる. この数字に波及効果4.29倍を考慮すると55.8億 円となり,如何に大きな数字が達成されるかが 分かる. サトウキビ作はアメニティ効果や癒し効果も 高いと言われる.サトウキビの剥葉や手刈り収 穫作業は沖縄の長寿の秘訣とも言われ,同時に, ユイマールの精神の構築と,夫婦が常に一緒に 仕事が出来る喜びも大きい.これらは,サトウ キビの経済波及効果4.29倍には現れない数字で ある. なお,ここで提唱しているシステムは,他地 域・他作物にも適用可能であり,日本農業ある いは世界の農業を大きく変革するポテンシャル をもっている.現に,カンキツでは選果場に導 入された光センサ(NIR)データとGISを融 合したシステムの構築が検討されつつある.ま さしくNIRは“21世紀の光”である.このよ うな大きなうねりの創造に我々の仕事が少しで も役立てば望外の喜びである. 7.参考文献 家坂正光2001.沖縄の農業労働力問題と サトウキビ生産構造.沖縄甘蕨糖年報 32:21-28. 仲地宗俊1995.島喚環境と農業.-沖縄 農業を事例に-.日本熱帯農業学会第78回 講演会シンポジウム要旨. 川満芳信・上野正実・渡嘉敷義浩・永江哲 也・大見のりこ・孫麗亜・浅沼康情・入 嵩西正治1996.サトウキビ茎中の糖度と 各種元素との関係.-南大東島および石垣 島の場合一.沖縄農業31:1-8.