工業部門の雇用吸収力 と労働移動
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ア ジア
5
カ国の事例 -
*
金
昌男**
IndustrialSectorLaborAbsorption and Migration in Asian Countries*
Chang-Nan KIM… TheindustrialsectorsofAsiancountrieshave
achievedhigh,sustainedgrowthoverthelasttwo decades.TheirpercentagecontributionstoGDP (ratioofindustrialization)inAsiannewlyindus -trializing countries (ANICs) like Korea and Taiwan and inthe ASEAN countriessuch as the PhilipplneS,Thailand and Indonesia llaVe
reachedhighlevels,buttheleveloflaborabsor p-tionbetweentheANICsandtheASEAN coun_ trieshasbeensigniicfantlydifferent.
Thepurposeofthispaperistoexaminethe leveloflaborabsorptionbytheindustrialsector in each ofthe丘vecountriesmentionedabove, and toanalyzetheimpactsoflaborabsorption on intersectoralmobilityoflabor. Theconcl u-sionsmaybesummarizedasfollows.
TheindustrialsectorsinthetwoANICshad ahighabsorptivecapacitywhichservedtoreduce thesizeofthefarmingpopulationandtheurban
* 小稿は,筆者が1986年 2月 に筑波大学に提出 し た Ph.D.論文 「経済発展 と労働市場構造-韓国の経験 と開発途上国- 」の第4章を加筆 ・修正 した ものである。論文指導に多 くの時間 をさき,多 くの貴重な ど教示を くださった渡辺 利夫教授をは じめとす る筑波大学社会科学系経 済学専攻の諸先生 と同大学社会工学系の久保雄 志先生 に, とくに記 してお礼 申 し上 げたい。さ らに,数回にわたって小稿を克明に検討 され, 貴重な コメ ン トを くださった レフェ リーの諸先 生 と 『東南 アジア研究』編集関係者の方 々に, 厚 くお礼 申 し上 げる。
Iam verygratefultoProfessorT.Watanabe andallotherProfessorsoftheInstituteof
infわrmalsector.IndustrialdevelopmentinKorea andTaiwanwasgearedtomarketliberalization andexportpromotion.Firstly,thispolicystance corrected the price distortions in the factor marketandledtothegrowthoflabor-intensive industriesinaccordancewith thefactorendow_ mentsinthesecountries.Secondly,theexpansion oflabor-intensivemanufacturesboostedthelabor absorptionoftheindustrialsector.
However,the industrialsectorsin the three ASEAN countrieswereoHimitedlaborabsor p-tivecapacityandwereunabletoabsorbsurplus laborintheagrlCulturalsectorortoreducethe size ofthe urban informalsector. Industrial developmentinthesecountriesstressedimport -substitutionandprotectionism.Thispolicybias worked to reinfわrce prlCe distortions in the factormarket.Asaresult.industrializationevolved on the basis ofcapitaLintensive technologleS, which werecontraryto thefactorendowments
SocialSciences,theUniversityofTsukuba,
fortheircriticalcommentsandcarefulread_ ingofmy manuscript. I am also greatly indebted to Dr.Y.Kubo fb∫ help in the preparationofthismanuscript.
Iam alsogratefultoalltherefereesandall theeditorialstafof ftheCenterforSoutheast AsianStudieswhoscrutinizedthemanuscript andmadevaluablecomments.
** 東亜大学校社食科学大挙経済聾科 ;Department ofEconomics,College ofSocialSciences,
Dong-A University,3-1,Tongdaesin-dong,
Seo-ku,Pusan600,Korea
東南 アジア研究 24巻1号 ofthesecountriesandlessenedthelaborabsorp・
tivecapacityoftheirindustrialsectors.
Thisde鮎rencebroughtabouttwocontras・ tivepattemsoHabormobility. IntheANICs
,
labormovedmainlyfrom agriculturetomodem manufacturing and serviceindustries. In the three ASEAN countries,in contrast,massive Ⅰ 序 ア ジア開発途上諸国 は,労働過剰 ・資本不 足 とい う要素戚存状態 の もとにあ り,低生産 性 ・低所得 の伝統部門 (農業)が経済活動 の 中心 を占める。耕地拡大 の フロ ンテ ィアが消 滅す る一方で,人 口増加率 は高 く,か くして 伝統部門 には大量 の偽 装 失 業 者 (余 剰 労 働 力)が滞留 してい る。 これ ら偽装失業者 に, いかに して就業機会 を与え,その所得水準 を 高 めて い くかが,ア ジア開発途上国の共通 し た政策課題 にはかな らない。 この課題 に答 え るべ き開発経済学 の伝統的な枠組 は,古典学 派 の二重経済発展 モデルである [Fei-Ranis 1961;Lewis1958]。このモデルによれ ば, 伝統部門 の余剰労働力 は,工業部門の資本蓄 積に ともな って ここに移転 し,いずれ は消滅 す る もの と考 えて い る。 ア ジア諸 国における工業部 門 は過去20年 間 高 度 の 成 長 を 持 続 し,ANICs(韓 国, 台 湾),ASEAN 諸 国 (フィ リピン, タ イ, イ ン ドネシア) のいずれ において も,その国 内 総生産 に占め る比率 (工業化率) は40%前後 の高水準 に達 した。 しか し,工業雇用 の面で は,ANICsと ASEAN諸 国 との 間 に は大 きな懸隔があ る。 ANICsは,工 業部 門が発 揮 した強い雇用吸収力の もとで伝統部 門余剰 労働力 は消滅 し,二 重経済発 展 モ デ ル に お ける 「転換点」 をすで に経過 した か に み え る [Bai1982;Fei-Ranis1975;金 1983;
migration oflabor加 m ruralareasto cities tookplacedespitetheweakabsorptivecapacity oftheirindustrialsectors,andthebulkofsuch
laborentered theurban informalsector.The continuous inflow to the urban unorgamized seⅣicesectorseⅣedtodepressrealwagesin modernmanufacturingindustries.
Kuo 1983:Ch.4]。 しか し ASEAN 諸 国 は, この20年 間同 じく急速 な工業成長を続 け たに もかかわ らず,いまなお農村 に大量 の不 完全 利用労働力 を擁 し,その規模 は農業労働 力 の30-40%に達 して いる [ILO 1980;辻 井 1982]。その一方で,ASEAN 諸 国の農村 都 市間の労働移動 は激 しく,高 い都市化率 を持 続 して きた。都市 のイ ンフォーマル ・セ クタ ー の拡 大 は そ の帰 結 で あ る [Sethuraman 1981;鳥居 1976;鳥居 ・溝 田 1981]。 1970年代 における開発経済学 の関心 の一つ は,開発途上国の工業部 門 にお ける雇用 吸収 力 にあ った。そ こで得 られた結論 の一つ は, 工 業部門で採用 された技術が ,国内の要素斌 存 状態か らみて ,過度 に資本集約的で あ った が ために,都市 の失業者 や農村 の余剰労働力 を消滅 させ るほど十分 な雇用 吸収力 を もたな か った と い う こ と で あ った [Bear-HeⅣe 1966;Morawetz1974;White1978;Witte 1973]。 実証的見地か ら, ア ジア諸 国を対 象 に した工業部門 の雇用吸収力 に関す る包括的 な分析 には,Oshima[1976]の研究があ る。 しか し, そ こで の分析 は60年 代 に 限 って い る。 また,アジア諸国の雇用 と所得分配 に関 す る最 近 の 論 文 [Oshima1983;1984]で は,工業部門の雇用 吸収力を直接推計 して お らず ,さ らに工業部門の雇用吸収力 と都市 イ ンフォーマル ・セ クターとの関連性 につ いて の分析 がな されていない。 工業成長 と雇用吸収力 ,さ らに都市 イ ンフ ォーマル ・セ クター との関連性 についての実
証研 究 に お い て,
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とAS
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諸 国 との比較 は,大 きな意味を もつよ うに思 う。 両者 とも同 じく急速 な工業成長を実現 しなが ら,雇用吸収 の面で は両者 に大 きな差異がみ られ るか らで あ り, しか もその差異が両者の 工業化政策の違 いに由来す るところが大 きい と考 え られ るか らで もある。 小稿の 目的 は,東 ・東南 ア ジ ア の5
カ 国 (韓国,台湾 ,フィ リピン,タイ,イ ンドネ シア)を事例 に,過去2
0
年間の工業化過程 に おいて,工業部門がそれぞれ どの程度 の雇用 吸収力を もち,その雇用吸収力が産業間労働 移動過程 にどのようなイ ンパ ク トを与えたか を明 らか にす ることにある。 さ らに, この分 析 は,工業部門の雇用吸収力 と労働移動 とい う観点 か ら国際比較す ることによ って,韓国 の工 業化過程を特徴づけることに も一つの狙 いがある。 Ⅱ章で は,簡単な方法 を用 いて各 国工業部 門の雇用吸収力を推計 し,韓国 と台湾の工業 部門の雇用吸収 力 が ,AS
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カ 国 の そ れに比べて格段 に高か った とい う事実を明 ら かにす る。 韓国な らびに台 湾 とAS
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カ国の工業部門 における雇用吸収力の大 きな 差異 は,主 に60年代初期以来採用 して きた工 業化政策 の相違 に由来す る ものである,とい うことをⅢ章で考察す る. そ して,工業苦即ヨ の雇用吸収力が強い韓国 と台湾 の場合 ,労働 移動 は主 に農業書押ヨか ら工業部門 もしくは近 代 的サービス部門へ と進行 し,工業部門の雇 用吸収力の弱 いAS
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カ国で の労 働 移 動 は農業部門か らサー ビス部門へ, しか も在 来 の未組織 サー ビス部門へ と進行 していた, とい う事実をⅣ章で分析す る。Ⅰ
Ⅰ
工業部門の雇用吸収力J
部門雇用吸収力 に関す る指標 と して,産 出成長率 (AYJ/Y,・)に対す る雇用増加率 (AL,・ /L,I)の比率 ,すなわ ち雇用弾性値 (E,・), E,I-(AL,/L,,)/(AYj/
Y
j)
を用 いる。 これ はさ らに E,・-(Y,/L,・)・(AL,/AY,.) に分割 され,E,・が,所与の生産技術 の もとで の労働生産性 と限界雇用産出比率 (限界雇用 係数)の大 きさによって決定 され ることが示 され る。(Y,・/L,・)Eも 人的 ・物的資本 の使用量 とその稼働率 ,労働投入 の質的変化,産出構 成などの混合効果 を反映 し,これ は生産の要 素集約性を表わす有効 な指標 と考 え られて き た[Lary1968]。さ らに,(AL,・/AY,・)は,労働 集約度 の増分 と して一定期間におけるj部門 の生産技術の変化 の方向を表わす もの とみ る こともで きる。 このように考 え ると,Ej は, 産出と雇用問の技術的関係 か ら得 られ る雇用 吸収 の程度を表わす有効な指標た りうる。 この指標 は,あ くまで もj部門の雇用吸収 の大 きさを表わす ものであ って, これが-経 済全体の雇用 にどれだけ寄与 したかを知 るこ とはで きない。そ こで, この雇用弾性値 に各 部門の就業比率 (エノエ)を加重 した。Eu),・-[(AL,I/Lj)/(AY,./Y,・)]・(L
J
/L)-(AL
,
・/L)・(AY,・/Yj) を用 い, j部門生産量の単位増加が総雇 用 に おいて,どの程度 の吸収力を もったかをみ る ことにす る。 こうして推計 された表1上欄の加重雇用弾 性値(
Eu
)
,
A
)
に注 目 してみると,韓国 と台湾 は農林漁業部門でマイナス,鉱工業部門 とサ ービス部門で はほぼ等 しい水準の高 い弾性値 を示 し,製造業部門のそれ もかな り高い。 こ れ とは対照的 にAS
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カ国 で は,農 林 漁業部門 とサー ビス部門の雇用弾性値 はとも に高 く,鉱工業部門,中で も製造業部門のそ れはきわめて小 さい。さ らに,製造業部門に おける就業 シェアのその産出 シェアに対す る 比率 (EY)を時系列に示 した表1下欄 に注 目 してみ ると,韓国 と台湾 は観察期間中0.7 -56東 南 ア ジア研究 24巻1号 表1 加重雇用弾性値 (EwJ)および製造業部門就業 シュアの GDPシェアに対する比率 (EY) 韓 国 台 湾 フ ィ リ ピ ン タ イ イン ドネシア (1963-1980) (1960-1980) (1960-1980) (1960-1980) (197ト1980) (EwJ) 農 林 漁 業 鉱 工 業 (製 造 業) サービス業 ー0.0446 -0.1514 0.1486 0.1890 0.1114 0.1450 0.1731 0.1893 0.3254 0.2817 0.1153 0.0628 0.0430 0.0486 0.0490 0.0333 0.0239 0.2980 0.0841 0.1561 ㈲ 1--。 慧 1--6 1--8 19-0.8449 0.6455 0.7481 0.6659 0.7860 0.7350 0.8566 0.7464 0.7901 0.7210 0.7229 0.7771 0.5142 0.2642 0.4648 0.3251 0.4673 0.4181 0.3347 0.4583 0.3759 0.3138 0.4467 0.3376 0.2588 0.4775 0.3836 0.2918 期 間 平 均 0.7914 0.7152 0.4751 0.3437 0.3329 注)1) 加重雇用弾性値 (EuJJ)-(GLJ/GYJ)・(LJ/L)。 ここで,GLJな らびにGYJは第j産巣の雇用な らびに実質GDPの成長率杏, また (LJ/L) は第 j産業の就業比率をそれぞれ表わす。いずれ も期間平均値。 2) 製造業部門就業 シェアの GDPシェアに対す る比率 (EY)-(LJL)/(GDP../GDP)。 ここで, Lは就業者数を,またmは製造業部門をそれぞれ表わす。 なお,GDPはすべて 固定 価 格 に よるもの。イン ドネシアは,広義の工業部門 (鉱業,製造業,建設業,電気,ガス,水道を含 む)であ り,1972年の数値 は1971年の数値である。
資 料) 韓国 :AnnualReportonihcEconomicallyActivePopulationSurvey(EPS,Seoul).Ycarbooh of LabourStatistics(MOL,Seoul).Reborion Monthly LabourSurvey(MOL,Seoul). NationalIncomeinKorea(BOX,Seoul).KoreaStatisticalYearbook(EPB,Seoul).
台湾 :Yearbook of Labour Statistics(DGBAS,Taipei)・StatisticalYearbook of Taiwan Province(DGBAS,Taipei).Quarterly ReportontheLabourForceSurvey inTaiwan
(CEPD,Taipei).QuarterlyNationalIncomeEstimates(CEPD,Taipei).
フィ リピン:Yearbookof LaborStatistics(NEDA,Manila).Phil如 ineYearbook(NEDA,
Manila).Phil軸 incSiatisiicalYearbook(NEDA,Manila).Phil軸 incNationalIncome Series,・TheNationalIncomeAccounts(NEDA,Manila).
タイ :Population and Housing Census(NSO,Bangkok).Reporton theLabourForce Survey.・Round2(NSO,Bangkok).StatisticalYearbook(NSO,Bangkok).
イン ドネ シア :ZndikatorEkonomi(BPS,Jakarta).StatisticalYearbookofIndonesia(BPS,
Jakarta).A BriefNoteon1980PopulationCensus(BPS,Jakarta).
その他統計 :YearbookofLabo'urStatistics(ILO).InternationalFinancialStatistics(IMF). YcarbookofNationalAccountsStatisticsIVol.I,IndividualCountryData(UnitedNations).
0.8の高 水 準 に あ り, 全 経 済 に対 す る製 造 業 部 門 の雇 用 と産 出 間 の ギ ャ ップ は小 さ い。 フ ィ リピ ンとタ イ は,70年 代 の央 以 降雇 用 吸 収 的 方 向 に あ る よ うに もみ え るが , そ の水 準 は 韓 国 と台 湾 の約1/2にす ぎず , イ ン ドネ シア の場合 に は当 初 の低 い水 準 が さ らに低 下 す る とい う傾 向 さえ み られ る。 この よ うに ,ASEAN 3カ 国 の 製 造 業 部 門 にお け る雇 用 ・産 出間 の ギ ャ ップが大 きい の はなぜ か
.J
部 門 の産 出 成 長 率(
G(
Yj
)
)
は , 労 働生 産 性 の成 長 率(
G
(Y,/Lj))と 雇 用 増 加 率 (C(エノ)) の和 , G(Yj)-G(Y,/L,・)+G(Lj) で あ り, した が って G(L,.)-G(Y,I)-G(Y,・/L,・) で あ る。 こ こで ,ASEAN3
カ 国 の 製 造 業部 門 にお け る雇用 弾性 値 が 低 い と い う こ と は,結 局 の と ころ, この部 門 の労 働生 産性 の 増加率 が韓 国や台湾 の それ に 比 べ て か な り 高 か った とい う ことを 示 唆 す る。 実 際 に, ASEAN 3カ国 の製 造 業部 門 にお け る労働生 産 性 の増加率 は韓 国 と台 湾 の それを上 回 って お り, この ことは,表 1下 欄 に示 された係 数 の逆 数 と して 表 わ され る製 造 業部 門 の全経 済 平 均 に対 す る相対 生 産性 の 差 異 か ら もわ か る。 す なわ ち,韓 国 と台湾 の製造 業部 門 にお け るその値 は,全 経 済 平均 とほぼ等 しい1.2 -1.3倍 で あ るの に対 して ,ASEAN 3カ 国 で は,それが
2
-
3
倍 の高水 準 にあ る。労 働生 産性 の増 加率 を高 め る要 因 に は,例 えば労 働力 の 質 的 向上 ,経 営管理 能 力 の改善 な どが あ るけ れ ど も, よ り直 接 的 に は労 働 を資 本 に代替 す る新 しい機械 や設 備 の導 入 に大 き く影 響 され る。 す なわ ち, 労 働生 産性 の増 加 率 の 上 昇 は,高 い資 本集約度 と結合 され た技 術進 歩 に よ って 実現 され た ものだ とみて よか ろ う。 雇 用 弾性値 が 当該 国 の技 術水準 を間接 的 に 表 わす もの とす れ ば ,韓 国 と台 湾 の工 業部 門 にお け る生 産技術 の選択 は,相対 的 に資本節 約 的 あ るい は労働集 約 的方 向 に進 む ことによ って雇 用 吸収 力 を高 めて き た の に 対 して , ASEAN 3カ国で は, ど うや らそ の逆 の方 向 が と られた ので はな か った か と推 察 され る。Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
工 業化政 策 と技 術 選択 開発途 上 国 の工 業 開発 は,そ の多 くが輸 入 代 替工 業化 か ら出発 した。輸 入代 替工 業化 は これ まで輸 入 に依 存 して きた最終 財 を国内生 産 にお き換 え る ことに よ って進 め られ る工 業 化 の方式 で あ る。 この輸入代 替工 業化 に と も な う保 護 政策 の体系 と,その成果 に関す る諸 研 究 を総合 す る と,そ の問題 点 は以 下 の よ う に整理 す る ことが可能 で あ ろ う。 第 1に,市場保 護政策 と して用 い られた輸 入数量 制 ,な らび に輸入 重要度 基 準 によ る傾 斜 関税 制度 の採用 は,外 国 か らの競争 者 の排 除 によ って ,輸 入商 品が つ くり出 して きた国 内市場 を国 内生 産者 のた め の独 占的な市 場 と して確保 し,結 果 的 には技 術進 歩 を妨 げた こ と。第2に,為 替 レー トにおけ る現地通 貨 の 過大 評価 と低 金 利政策 は,輸入代 替企 業 を し て 中間財 ,資本財 の輸 入 な らび に低 利資 本 へ の ア クセ スを容 易 にす る一 方 ,雇 用 吸収効 果 の大 きい比較優 位 部 門 を して そ の ア クセ ス と 輸 出を妨 げた こと。第3に,事 業所得税 な ど の減免 あ るい は全免 措 置 は,輸 入代 替企 業 家 に高利 潤 を保 証 す る ことに よ って ,所得 分配 の不平 等 を助長 し,国 内市 場 の規 模拡 大 を妨 げ た こと。第4に,最低賃金法 や福祉政策 , 労 働組合 の圧 力 な ど は,労 働 の価格 を市 場 の 均 衡賃金率 以上 に高 め る要 因 と して 作 用 し た こ と, な ど で あ る [ADB 1970;Balassa 1971;Cody1982;Littleetal. 1971;渡 辺1978:Ch.3] 。 要す るに,輸 入代 替工 業 化過程 にお け る さ ま ざまな保 護政策 や諸 制度 は,資 本 の価格 を 安価 に設 定 す る一 方 ,労 働 の価 格 を高 く設定 す る とい う要素価 格体 系 にゆが み を与 え た の で あ る。 こ う して輸入代 替 企業 家 は労 働過剰 ・資本不 足 とい う要素既 存 状態 に逆 行 す る資 本集約 的生 産技 術 を選好 し,1)結 果 と して 工 業部 門 にお け る雇 用 吸収 の停滞 と失業 の増大 を もた ら した。要 素価 格 体 系 のそ う した ゆが み は,特定 産業 の技 術 選択 にゆが み を与 え た だ けで な く, これが資 本集 約 的産 業 の育成 を 奨 励 し,労 働集 約 的産 業 の育成 を 「阻止 」 す る ことによ って ,産業構造 上 の ゆがみ を も発 生 させ る ことにな った ので あ る。ASEAN 3 カ国 は,今 日次 第 にそ の政策 を輸 出志 向型 に 1)ASEAN諸国における資本集約的工業技術の選 択が,実は工業部門の投資規模の大 きい多国籍 企業によって促進されているという事実に注 目 すべきである [ILO1979a;1979b]。 67
東南アジア研尭 24巻1号 蓑 2 アジア諸国の産業別就業増加構成比の推移 発 款 口幣 農 (o/o)業 鉱 (あ 業 製 (莞)業 サ-(070')R業 韓 国 1963-1970 1970-1980 1963-1980 台 湾 1961-1971 1971-1980 1961-1980 フ ィ リ ピ ン 1960-1970 1970-1980 1960-1980 タ イ 1960-1970 1970-1980 1960-1980 イン ドネシア 1961-1971 1971-1978 196ト1978 2,083(100) 3.79 3,961(100) -2.78 6,044(100) -0.52 1,385(100) 8.38 2,355(100) -4.16 3,740(100) 0.48 2,331(100) 23.52 6,907(100) 50.51 9,238(100) 43.81 2,903(100) 64.42 5,872(100) 46.68 8,775(100) 52.55 6,523(100) 19.16 12,306(100) 53.48 18,829(100) 41.59 39.32 32.36 57.46 42.62 51.21 39.08 49.39 33.86 62.33 53.63 57.54 46.31 18.52 9.00 19.20 10.92 19.12 10.44 13.50 7.34 22.91 18.84 18.88 15.03 18.84 16.60 7.96 7.37 ll.73 10.57 56.89 45.32 49.31 42.24 41.83 41.98 57.96 30.27 37.07 22.18 30.42 28.57 62.00 38.56 46.68 注) 産業別就業増加構成比は,観察期間中の全産業就業者増加総数に対する各産業の就 業者増加数の比率である。 資料)表1脚注資料の統計と同 じ。 変 化 させ つつ あ るとはいえ,長期 にわ た って 輸 入代 替工 業化政策 を推 進 して き た。 そ し て , これ ら3カ国 の工 業部 門 にお け る雇用 吸 収 力が韓 国や台湾 のそれ よ りも小 さか った と い う事実 は,輸 入代替工 業化過程 で の政策 的 バ イアスが もた ら した要素価格 のゆが みの結 果 で あ る とみ なす ことがで きる。2) 表2は,産業別就業増加構成 比 をみた もの で あ るが ,その結果 は表 1の雇用 弾性値 の大 きさ とよ く対 応 して いる。す なわ ち,ASEAN 2)ASEAN諸国の工業部門における要素価格変化 の雇用に与える効果に関する実証例はあまりな いが,フィリピンの製造業部門における最低賃 金の上昇がその雇用を実際にどれ だ け減少 さ せたかにつ いて は,ArmandoAm as[1978】 を参偶 。 58
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カ国で は,過 去20年 間 において ,製造業部 門 の雇用 吸収率 が経済全 体 の雇 用増加総数 の うちわずか10-15%で あ るのに対 して, 韓 国 と台湾 は40%以上で あ る。 他方 , ASEAN 3 カ国 の農 業部 門 は,就業者増 加総数 の大半 を 吸収 してお り, 韓 国 ・台湾 とは 対 照 的 で あ る。 さて ,韓 国 と台湾 の雇用 吸収 力 の問題 を考 え る場合 ,まず は, この2カ国が60年代 に入 って市場 自由化 と輸 出志 向工 業化- と開発政 策 を転換 した とい う事 実 に注 目せ ざ るを得 な い。 と くに, この2カ国の市場 自 由 化 政 策 は,為替 レー トの過大評価 と低金 利政策 の撤 磨 ,輸入 自由化 ,関税率 の引下 げな どが その 中心 で あ った [Kuo1983:Ch・13 and Ch・14;渡 辺 1982:Ch.3]。こう した政策 転換 に よ って ,要素市場 のゆが み は相対 的 に緩和 さ れ [Krueger1983:Ch.8],労働過剰 ・資本 不足 とい う要素 の戚存状態 を反映 して ,労働 の価格 は資本 のそれ に比べ相対 的 に安価 に推 移 した。 これ は,生産者 を して労働集約 的技 術 選択 を促進 させ ると同時 に,工 業部門 内の 産 出構成 (productmix)を労働集 約財 に 重 きをお いた構造 に変 え,か く して雇用吸収力 を高 め る ことにな った ので あ る。 さ らに,両 国 の場合 ,輸 出拡 大 にと もな う雇用機会 の創 出 は,工 業部 門 の雇用吸収 に 大 き く寄 与 し た。1975年 の産業連 関分析 によ って得 られた 推計結 果 によ ると [金 1984],製造業部 門 の 輸 出 によ って吸収 された直接 ・間接雇用誘発 量 の製 造業部 門就業者 に対 す る比率 は,韓国 42%,台 湾34%で あ った。 これ は,同 じくタ イ11%, フィ リピン10%と は 対 照 的 で あ る (いずれ も1975年 の数値)0 ⅠⅤ 産 業 間労働 移動 2部門 モデルにおける農工 間の労働移動要 因 は,両部 門間 の賃金格差 にある。 この格差 に応 じて労働 力 は農村 か ら都市 へ と空 間的 に 移動 し,移動労働力 はすべ て工 業部門 に吸収 され る とみな されて い る[Fei-Ranis1961; Jorgenson1961;Lewis1958] 。 しか し,覗 実 的 には, 先 はど も検討 した ASEAN 3カ 国 のよ うに,工 業吾押ヨ雇用 はさま ざまな要 因 によ って妨 げ られて お り,そのた め に都市部 には失業 とイ ンフォーマル ・セ クターの規 模 が拡大 して い るので はないか , とい う懸念 が もたれ る。開発途上国 の都市部 には,大量 の 失業者 が存在 して い るに もかかわ らず ,農村 都市 間労働移動 が持続 して い る と い う の が 一般 的 現 象 で あ り, そ の 現 象 は Harri s-Todaro[1970]の 「期待所得仮説」 によ って 理論 的 に説 明 され る。すなわ ち,農村都市 間 労働移動 の主 た る要 因 は,制度 的要 因 によ っ て市場で の均衡賃金率 よ り高 く設定 された都 市近代部 門 の実質賃金率 に,都市近代部 門 の 就 業確率 を ウエ イ トす る ことによ って得 られ る 「期待賃金」 と,農村 の現 行賃金 との差 に あ り,労働力 の移動規模 は この差 の大 きさに よ って決定 され る。 そ して ,都市 の失業 とイ ンフ ォーマル ・セ クターの拡 大 は,農村都市 間労働移動率 が近代部門で の雇用 創 出率 を上 回 る ことによ って発生す る, とい うことで あ る。 ここで ,イ ンフォーマル ・セ クタ ーに関心 を向 けて み よ う。3)この部 門 は,生産活動 に資 本を ほ とん ど使用せ ず ,かつ技術 的熟練 を要 しな いた めに生産性 と所得 は低 く,就業状態 が不 安定 で あ る ことを,その特徴 とす る。 し たが って ,離村労 働者 の この部門 に対す る参 入障壁 はほ とん どな い とみ て よ い [Breman 1980;Sethuraman 1981;Sinclair1978] 。
さて ,労働移動過程 にお いて , この部門 はど のよ うに変化す るのか。 分析 の第
1
の仮定 は,特定 の部 門 にお ける 労働力移動規模 は,一定期 間 内の就 業者増加 分 とその 自然増加分 との差 に等 しい とす る。 第2の仮定 は,特定部 門 の一定期 間 内 におけ る自然増加率 は,引退 労働力 と新規 の補充労 働力 との差 と して表 わ され るが , これを産業 別 に求 め る ことがで きな いた めに,全 産業平 均値 (エ(∫)/エ (ー1
)
) に等 しい と仮定 す る。 第3
の仮定 は,農林漁業部門 か らの流 出労 働力 は,鉱工 業部 門 とサ ー ビス部 門のそれぞれ に 配分 され るとす る。 この場合,j部門のt
期 と t-1期 の労 働力 を L,I(,)と L ,・(卜 1)で衷わ し, この2時点 間で労働 力移動 がなか った と 3)インフォーマル ・セクターは,都市伝統部門と もよばれ,ILOによって一事業体当た り就業 者数10人以下の零細規模の経済単位として定義 されている。業種としては,廃品加工業,行商 業,輪タク業,靴磨きなどが含まれる。詳 しく は鳥居泰彦 ・横田和 [1981]を参府0 69東 南 ア ジア研 尭 24巻1号 表
3
農林漁業部門か らの流入労働力の産業別配分比率の推計 韓 国 台 湾 フ ィ リ ピ ン タ イ イン ドネシア (1963-1980) (1960-1980) (1960-1980) (1960-1980) (1971-1980) 〔流入労働者数 :人〕 鉱 工 業(〟;) 製 造 業(帆 ) サービス業(M.) 商 業(M.1) 運 ・通 ・倉 ・金(M.2) そ の 他(M.3) 160,500 56,400 128,400 47,300 83,700 18,900 44,194 14,819 21,938 3,706 17,568 375 -15,900 -12,400 67,500 7,546 1,823 58,131 52,800 140,600 42,000 50,300 50,100 401,800 18,006 5,962 「 123・3121
26,132 278,488 合 計(M,) 244,200 75,300 51,600 102,900 542,400 〔産業別構成比 :%〕
鉱 工 業(MJM,) 製 造 業(MJM,) サービス業(M./M,) 全 産 業 合 計 65.72 74.90 52.58 62.82 34.28 25.10 100.00 100.00 -30.81 -24.03 130.81 100.00 51.31 25.92 40.82 9.27 48.69 74.08 100.00 100.00 商 業(
M
,
1
/
M.
)
52.80 78.41 運 ・通 ・倉 ・金(M.2/M.) 26.21 19.61 そ の 他(M.3/M.) 20.99 1.98 サ ー ビス部 門 合計 100.00 100.0
0
ll.18 2.70 86.12 100.00 35.94 ll.90 52.16 69.31 100.00 100.00 注) 推計方法は,本文参府。鉱工業部門(〟;)には鉱業,製造業,建設業な らびに公共部門 (電 気,ガス,水道)を含む。合計 (M,)は鉱工業部門 (M.・) とサービス業 (M.)の合計値で あ り,運 ・通 ・倉 ・金 (M.2) は運輸 ・通信 ・倉庫 ・金融業を, またその他 (M.3) は個人 サービス業を含むその他のサービス業をそれぞれ表わす。 なお,イン ドネシアは1971-1980 年平均,韓国は1963-1980年平均,その他はいずれ も1960-1980年平均値。 資料)表1脚注資料の統計 と同 じ。 仮 定 す る と, この部 門 の t期 に お け る労 働 力 の期 待 値 (E,・(,)) は , E,I(.,- (L(,
,
/L(,_1,)・L,.くト1, と して 表 わ され る。 しか し,現 実 的 に は何 ら か の形 で 労 働 力 は移 動 して い るか ら, j部 門 のt
期 にお け る移 動 労 働 力 (Mj(.)) は ,t
期 の実 際 の労 働 力 とそ の期 待 値 との差 ,す な わ ち, M,I(,)-L,・(,)- E ,.(I) と して 表 わ す こ とが で き る。 こ こで ,農 林 漁 業 部 門 (a)は労 働 力 の 純 流 出 部 門 〔Md
(
∫
)
<
0
〕, 鉱工 業 部 門 (i) とサ ー ビス部 門 (S)は 純 流 入 部 門 〔M.・(,)>0,叱(
。
>0
〕
で あ る とす れ ば , -M.(,)-M,・(。十M.(,) の恒 等 関係 が成 立 す る。4) 以 上 の よ うな考 え方 の もとで ,農 林 漁 業 部 門 か ら流 出 した労 働 力 の鉱工 業 部 門 とサ ー ビ ス部 門- の配 分 の推 移 を計 算 した ものが ,義3
で あ る。 この推 計結 果 は ,労 働 力 の 自然 増 加 率 が産 業 間 で 等 しい とい う仮定 に依 存 して い る。 ア ジア諸 国 の農 村 にお け る人 口の 自然 増 加率 は ,都 市 の それ よ り高 い とい う一般 的 4)ここでの分析 方 法 の ア イ デ ィア は, 甫 亮 進 [1970:164]な らび に小野 旭 [1974:Ch
.
1] か ら得た。上記の文献では, 日本の戦前 ・戦後 期における農業部門か ら非農業部門または工業 部門な らびにサービス部門への労働力移動の推 計に,同様の方法を用いているが,筆者 は同 じ 方法を用いてサービス部門を,さらに三つの部 門に分割 した ものである。事 実 を考 慮 した場 合 ,表 3で 推 計 され た農 林 漁 業 部 門 か らの流 出労 働 量 は過 小 評 価 の可 能 性 が あ る。 それ は と もか くと して も表3の推 計 結 果 に注 目 して み る と,農 林 漁 業部 門 か ら の流 出労 働 力 (M,) は, 年 平 均 で 韓 国
2
4
万 人 ,台 湾7万 人 , フ ィ リピ ン5万 人 , タ イ10 万 人 , イ ン ドネ シア54万 人 とな る。5)こ の 流 出労 働 力 の産 業 別 配 分 比 率 をみ る と,韓 国 と 台 湾 は その大 部 分 が 鉱 工 業 部 門 (M,・/M,) に , そ して 残 りの約25-35%が サ ー ビス部 門 (M./M,) に配 分 され た こ とを示 して い る. これ とは対 照 的 に, イ ン ドネ シア の場 合 は離 農 労 働 者 の70%以 上 , タ イで さえ約 半 数 が サ ー ビス部 門 に流 入 して お り, フ ィ リピ ンにお いて はむ しろ鉱工 業 部 門 で の 自然 増 加 分 の労 働 力 さえ もサ ー ビス部 門 に流 入 して きた こ と が わ か る。 この よ うに ASEAN 3カ国 にお い て は , サ ー ビス部 門 が 離農 労 働 者 の吸収 に支 配 的 な 役 割 を演 じた とい う ことが示 唆 され る。 と こ ろで サ ー ビス部 門 は,一般 に非常 に異 質 的 な 部 門 か ら構 成 されて い る。 したが って , これ を , 商 業 部 門 , 運 輸 ・通 信 ・倉 庫 ・金 融 部 門 , そ して そ の他 のサ ー ビス部 門 の3部 門 に 分 割 して み よ う。 この3部 門 は,次 の よ うな 特 徴 を もつ と考 え られ る。 す なわ ち,商 業 部 5)フィリピンとタイは,その人 口規模か らみて流 出労働量が相対的に小 さい。ここには,自然増 加率の過小評価 と労働移動の季節性 という問題 があるか もしれない。フィリピンとタイの生産 年齢人 口の下限年齢は10歳 と11歳であるか ら, 観察期間の初期時点か ら逆算 してみると,1950 年代の人口増加率は,両国とも,筆者の想定 し た自然増加率よりも多少高い,年平均3%以上 であった (資料 ;UN
,DemogI
.唾hicYearbookI HisioricalSupplement,New York,1979)。 と くにタイの場合は,農繁期の労働力調査を用い たために,全体的な農村労働力の移動量が相対 的に過小評価された可能性がある。 しか し,移 動労働力の産業間配分の長期的傾向を把捉す る という目的にとっては,その絶対値の大小は, それほど重要な問題ではないと思われる。 門 と運 輸 ・通 信 ・倉 庫 ・金 融 部 門 は ,た とえ それ が零 細 で あ って も, そ の大 部 分 は製造 業 部 門 の生 産 活動 と密 接 な連 関を もち , さ らに これ は経 済 発 展 と と もに近代 化 し,拡 大 して い く部 門 で あ る, とみ な され る。 しか し,個 人 サ ー ビス業 を含 む そ の他 の サ ー ビ ス 部 門 は ,製 造 業部 門 との 関連 性 は弱 く,限界 的 労 働者 の 「プ ール」 と して機能 し, これ は経 済 発 展 と と もに縮小 して い くと考 え られ る。そ の た め に , そ の他 サ ー ビス部 門 は , イ ンフ ォ ーマル ・セ クタ ー に近 い もの とみ る こ とが で きる。6) 農 林 漁 業部 門 か らサ ー ビス部 門 に流 入 して きた労 働 者 の ,三 つ の サ ー ビス部 門 へ の配 分 比率 を推 計 した結 果 が ,表 3の下 欄 に示 され て い る。 これ に よ る と,韓 国 と台 湾 は商 業部 門 (M.1/M.) に それ ぞ れ53%と78%, ま た 運 輸 ・通 信 ・倉 庫 ・金 融 部 門 (M.2/M,) に 26%と20%の割合 で それ ぞ れ配 分 され ,製 造 業 部 門 の生 産 活 動 と最 も密 接 な連 関 関係 を も っ この二 つ の部 門で ,サ ー ビス部 門全 体 - の 参 入労 働者 の ほ とん どを吸 収 した 。 これ とは 対 照 的 に ,ASEAN 3カ国で は ,サ ー ビス部 門 - の参 入 労 働 者 の大 部 分 が そ の他 の サ ー ビ ス部 門 で 吸収 され た ことが示 唆 され る。7) 6)その他サービス部門には,政府部門 も含まれる が,その規模は相対的に小さいものと考え られ る。政府部門の労働者数は,各国の統計資料か ら統一的に分類 ・集計することがで きないとい う難点を もっているが,例えばフィリピンにつ いてみると,1977年の3四半期の公務員 と経営 管理職労働者 は106千人であり, これはサ ー ビ ス部門全体の3.2%にす ぎない (資料 ;NEDA, Phil軸 ineYearbook,Manila,1983)。
7)ただ し,タイは,商業部門の比率が比較的高い 値を示 しているが,これは未組織商業部門の比 重が拡大 したことを反映 してい るか も しれ な い。例えば,タイの労働力統計か ら全国の行商 人 と新聞売子の数を推計 してみると,1971年28 万人,1975年39万人,1980年には55万人にのぼ り,これは商業吾即日総就業者のうちそれぞれ23 %,27%,30%を占める計算 となる (利用資料 ;
NOS,Reportof lhe LabourForceSurvey.・ Round2,Bangkok)
.
東南 アジア研究 24巻1号 工 業 部 門 の 妻 金 指 薮 4 0 0 350 300 250 200 150 100 50 100200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 流出労働力総計指数 注)韓国 :1963-1980年,繊維部門の日当たり75年 ウォン。 台湾 :1960-1980年,繊維部門の日当たり76年TNS0 タイ :1969-1980年,製造業平均時間当たり76年バーツ. フィリピン:1960-1980年,製造業平均 日当たり76年ペソ。 デフレーターは,各国の都市消費者物価指数を使用。 流出労働力は,表1脚注資料の各国統計を用い,表 3の推 計方法で各年推計。 国 農林漁業部門か らの流出労働力と工業賃金 との 関係図 (3年移動平均) こ こで わ れ われ は,前章 まで の分析 結 果 と 合 わせ て , ア ジア5カ国 の そ れ ぞ れ に お い て ,産 業 間労 働 移動 にお け る対 照 的 な二 つ の パ タ ー ンを み る ことが で きる。第 1に,工 業 部 門 の雇 用 吸収 力 の強 い韓 国 と台 湾 の場合 で 8)ここで,労働移動要因として工業賃金率を選択 する場合には,若干の注意が必要である。なぜ な らば,農村都市間労働移動において,農村か らの流出労働者が,果た してどの部門のどの レ ベルの賃金あるいは所得を望んでいるかは不明 であるか らであり, しか も賃金格差を問題にす る場合,農業部門の賃金体系 と多様な所得構成 をどのように概念化するかという問題があるか らである。さらに,労働移動のすべてを賃金な い し所得格差のみで説明することができるかと いう疑問もあ り うる [Guade1972]。 しか し ここでは,農村からの流出労働者の一般的属性 (例えば,年齢や教育水準,熟練度など)を考 02 あ り, この2カ国 の労 働 移動 は主 に農業 か ら 工 業 部 門 も しくは近 代 的 サ - ビス部 門- と進 行 す る パ タ ー ンで あ り,第2は,工 業部 門 の雇 用 吸 収 力 が 弱 い ASEAN 3カ 国 の よ うに,農 業 か らサ ー ビ ス部 門- , しか も在来 の未 組織 サ ー ビス部 門 へ移動 す るパ タ ー ンで あ る。 この よ うな特徴 を も つ ア ジア5カ国 の産 業 間労 働移動 の要 因 は, ど こに求 め られ るか。 これ を工 業 部 門 の賃 金 率 で 説 明 して み た の か, 図 で あ る。8) こ こ で は,工 業 部 門 の ひ と り当た り実質賃金 と農 林 漁業 書即弓か らの流 出 労 働力 の累 計値 との 関 係 が , 統 一 的 に示 され て い る. こ れ に よ る と,韓 国 と台 湾 は,60年 代 後半 まで鼓 や か な 右 上 が りの トレ ン ドを示 した あ と,60年代 末 よ り急速 な右 上 が りの トレ ン ドを 示 して い る。 これ は,両 国 の経 済発 展 過 程 にお いて , えた場合,流出労働者の多 くは未熟練労働者で あり,彼 らは工業部門の未熟練労働者の賃金率 変化に応 じて移動すると仮定 した。韓国と台湾 は,繊維 と衣服部門の賃金率を未熟練労働者の 賃金率 とみな した。 しか しタイ と フ イ l)ピ>. は,製造業部門の平均賃金を用いた。その主な 理由は,統計資料の制約にある。ちなみに,フ ィリピンとタイの実質賃金は,消費者物価指数 でデフレー トしたものであるが,生計費指数あ るいは賃金財としての米の価格のいずれをデフ レーターとして用いても,長期的な賃金率趨勢 は同 じ結果が得 られた。
60年代後半 まで は,農業労働力の流 出,つま り労働供給 の増加率がその供給価格 の上昇率 よ り高か った こと,つま り労働供給が無制限 に近か った,そ して,60年代末か ら,労働供 給 は制限的にな って きた ,とい うことを示 唆 してい る。 これ とは対照的に,タイとフィ リ ピンの実質賃金 は,横ばい, もしくは下 向 き にな ってお り, この2カ国は,実質賃金 の動 きとは関係 な く労働移動がな されていた こと を示 して いる。イ ンドネシアの場合 は,賃金 統計 に関す る連続性がないために図示 して い ないが,1970年代 の数時点 における製造業部 門の実質賃金 は低下 してお り, この国 もタイ とフィ リピンと同様 の傾 向にあるとみて よか ろ う。 韓国 と台湾 は,過去20年間の工業化過 程 の中で,60年代末 よ り農業部門の余剰労働 力が消滅 し,工 業部門 に対す る労働供給が制 限的 にな って いる一方 ,ASEAN 3カ国で は 未 だ無制限的労働供給段階 にあるとい うこと を示 唆 している。 Ⅴ 結 論 小稿 の観察 は, 以下 のよ う に 要 約 で き よ う 。 韓国 と台湾の工業部門 は,農業労働力を減 少 させ ,都市 イ ンフォーマル ・セ クターの規 模を縮小 させ るのに十分高 い 雇 用 吸 収 力 を もって いた。 これ は,両 国の工業開発が市場 自由化 と輸 出志 向工業化 の もとで推進 された ために,一つ には,要素市場 における価格体 系のゆがみが是正 され,両国の要素威存状態 を反映 した労働集約的工業技術が選択 され, それ によって工業部門の雇用吸収力が高め ら れたか らで あ り,二つ には,労働集約財 の輸 出拡大 によ って工業部門の雇用規模が拡大 し た ことで あ った。 しか し,ASEAN 3カ 国 の工業部門 は,農業部門における余剰労働力 を消滅 させ ,都市 イ ンフォーマル ・セ クター を締小 させ るほどの雇用吸収力 は もっていな か った。 これは,ASEAN 3カ国 の工 業 開 発が長い間,保護主義的性格 の強い輸入代替 工業化政策 によって推進 されて きてお り,そ のために生 じた政策的バ イアスが要素市場 に おける価格体系のゆがみを強化す ることによ って ,要素既存状態 に逆行す るような資本集 約 的生産技術 の選択を促進 し, これが工業部 門の雇用吸収力を低 めるよ うに作用 した こと によるとみな されている。 韓国 と台湾 は工業部門の強い雇用吸収力 に よって,農業書即弓の余剰労働力を消滅 させ , この部門の過剰就業状態が解消 した。 しか し ASEAN 3カ国で は, いまなお 余 剰 労 働 力 は消滅 してお らず,なお続 く高 い人 口増加率 にともな って,農業部門の過剰就業 の状態を よ り強化す る方向に進んで いる。 ASEAN 3カ国 における政 策 的 課 題 は, いかな る方法で工業部門の 雇 用 吸 収 力 を 高 め,都市 イ ンフォーマル ・セ クターの規模 を 縮小 し,農業部門の余剰労働力を消滅 させ , 伝統部門を近代化 させてい くか にある。 韓国 ・台湾 における市場 自由化 にともな う労働集 約 的工業技術 の選択 と労働集約財 の輸 出拡大 の経験 が,ASEAN 3カ国の今 後 の 政 策 形 成 に与え る示唆 は少 な くない と思 われ る。 参 考 文 献
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