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高齢者施設における虐待の発生と対応 : 先行研究の検討を中心として 利用統計を見る

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高齢者施設における虐待の発生と対応 : 先行研究

の検討を中心として

著者

原田 聖子

雑誌名

東洋大学大学院紀要

51

ページ

75-93

発行年

2014

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007301/

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はじめに

福祉サービスは、その基本理念として「個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サ ービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生 活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」 (社会福祉法第3条)と規定されている。つまり、福祉サービスは、個人の尊厳という抽象的 な理念を具現化する行為といっても過言ではないだろう。しかしながら、他方で福祉現場で は、個人の尊厳という理念を否定する様々な形態での虐待行為が生起しているという現実も ある。たとえば、高齢者虐待防止法にもとづく養介護施設従事者等による虐待と判断された 件数は、平成18年度の54件から平成25年度は155件にまで増加しているが、福祉現場の実情 を知るものであれば、この件数は氷山の一角を示しているに過ぎないのではなかろうかとい う疑念を抱くだろう。 大切なことは「どうしたら虐待や不適切なケアを無くせるか」だが、それを考えるには、 まずはどうして虐待が起きるのかを理解することが重要だと考える。本稿では主に高齢者に かかわる施設内虐待(1)に関する先行研究から、虐待の要因およびその防止・対応について整 理し、そのうえで今後の研究課題を検討していきたい。

1. 虐待の要因

高齢者の施設内虐待の調査のうち、ここでは比較的大規模でおこなわれた4つの調査、す なわち高齢者処遇問題研究会(2000)、認知症介護研究・研修仙台センター・認知症介護研 究・研修東京センター・認知症介護研究・研修大府センター(以下「認知症介護研究・研修 センター」とする)(2008)、神奈川県高齢者福祉施設不祥事事故防止等連絡協議会(以下 「神奈川県施設協議会」)(2010)、厚生労働省(2013)による調査をとりあげる(2)(表1)。ま ず、虐待の要因等の調査項目・結果について概観する。

高齢者施設における虐待の発生と対応

~先行研究の検討を中心として~

福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻博士後期課程1年

原田 聖子

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認知症介護研究・研修センター調査では「高齢者虐待と思われる行為の原因・理由」の31 項目を「虐待と思われる行為を受けた利用者側の要因」「高齢者虐待を行った職員側の要因」 「その他の要因」と大別しているが、「その他の要因」10項目のうち8項目は、研修の不足 (「職員の研修が不足」)、指導力の不足(「上司の指導力不足」)、人員配置と業務のミスマッ チ(「職員の業務が多忙」「職員の不足」「業務の整理がなされていない」)、組織文化の問題 (「職場の人間関係に問題がある」「職場の士気の低下」「職場に高齢者虐待や不適切な行為を 容認する風潮がある」)に相当するため筆者は組織的要素が強いものと捉えた。また神奈川 県施設協議会調査の「施設から報告された主な課題と今後の取り組み」の15調査項目は、い ずれも組織要因と捉えられる項目(「組織運営の健全化」「負担・ストレス・組織風土の改 善」「チームアプローチの充実から考える」「倫理観と法令遵守を高める教育の実施」「ケア の質の向上」)であり、かつ調査報告書の監修者である山田(2012:30)も同調査結果を「背 ■表1 施設内虐待に関する調査 調査機関 高齢者処遇問題研究会 認知症介護研究・ 研修センター (仙台・東京・大府) 神奈川県高齢者福祉 施設不祥事事故 防止等連絡協議会 厚生労働省(分析は 認知症介護研究・ 研修仙台センター) 調査報告 「特別養護老人ホーム における高齢者虐待に 関する実態と意識調 査」(2000) 「施設・事業所におけ る高齢者虐待防止の支 援に関する調査研究事 業 調査報告」(2008) 「ぬくもりある質の高 いケアをめざして~高 齢者施設における人権 に関する一斉点検結果 検討報告書~」(2010) 「高齢者虐待防止法に もとづく調査」(2013) 調査時期 1999年 2007年 2009年 2012年度 図表 2 の出典 調査 内容 虐待の原因・理由 高齢者虐待と思われる 行為の原因・理由 施設から報告された主 な課題と今後の取り組 み 虐待の発生要因 調査対象 施設・事業者 特別養護老人ホーム グループホーム 特別養護老人ホーム養護老人ホーム 軽費老人ホーム ケアハウス 介護老人保健施設 有料老人ホーム 介護療養型医療施設 養介護施設および養介 護事業を行う者(高齢 者虐待防止法)に該当 する施設・事業者 職種等 職員・他の利用者 (但し、図表2には職員 の回答結果のみ掲載) 介護職員 全職員 (スタッフ・管理者) 市町村・都道府県 回答 方法 複数回答 複数回答 単数回答 市町村により虐待が認 められた事例に関する 市町村・都道府県の記 述回答  *上記4調査をもとに筆者

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虐待に関する認知や知識の不足(「虐待や不適切なケアへの共通認識が不十分、意識のずれ、 捉え方の違い」「虐待の基本的知識の欠如」「悪気なく気がつかないで人権・虐待を行ってい る」「虐待の通報先を知らない」)、ケアに関する専門的な倫理・知識・技術の不足(「認知症 のケア・支援技術の不足」「介護者本位の支援」「ケアの質の向上」)というように、直接的 には職員の要因として捉えられるものと判断した(なお、利用者要因に該当する項目はない ものと判断した)。高齢者処遇問題研究会調査の「虐待の原因・理由」14項目と厚生労働省 「虐待の発生要因」6項目に関しては、特に分類はなされていものの、前者には「利用者要因」 「職員要因」「組織要因」「その他」に分類可能な項目が、後者には「職員要因」「組織要因」 に分類可能な項目が含まれていると判断した。 以上を踏まえ、4調査の各調査項目について、その特徴をつかむため、「利用者要因」「職 員要因」「組織要因」「その他」に分類した(図表2)。これは、Buzgaváら(2009:110)の虐 待原因の分類(「施設の特性」「職員の特性」「利用者の特性」)とも符合するものである。 次に、要因ごとに内容の確認と同要因に位置づけることの妥当性について検討をおこなっ ていく。 (1) 「利用者要因」について 4調査のうち、高齢者処遇問題研究会調査と認知症介護研究・研修センター調査は、認知 症の特性や被虐待者の性格等に関係する「利用者要因」を調査項目として設定している。他 方、神奈川県施設協議会調査、厚生労働省調査は「利用者要因」を直接的には設定していな い。しかし、厚生労働省調査においても、養介護施設従事者等から虐待を受けた者のうち認 知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者が87.1%(「認知症の有無が不明」を除く)、要介護3 以上の者が78.0%となっている。また神奈川県施設協議会調査も介護保険施設や老人福祉施 設等を調査対象としており、それらの施設には、認知症等の要介護等高齢者が一定数いる施 設であることは十分に想定できる。つまり、各調査の対象である各施設の利用者の属性に大 きな相違はないと考えられるのだが、それにもかかわらず、「利用者要因」を設定した調査 とそうでない調査があり、これは各調査実施者の志向が反映されているのではないかと考え る。つまり、認知症等の特性が職員に対して虐待を惹起し得ると捉える(波多野:2010)た め虐待要因として「利用者要因」を認めるか、あるいは、認知症その他の疾患・障害あるい は利用者の性格等によりかかわりの難しさがあったとしても、高齢者介護、対人支援サービ スをおこなう専門機関にとっては、それは所与のものであり、そのような利用者特性に触発 されて虐待を起こすことは許容されるものではないという2つの捉え方があると考える。 筆者は、現実を描写しようとするならば、虐待要因の一部に「利用者要因」は入り得るだ ろうが、虐待要因を明らかにする目的が組織的・社会的観点から虐待防止・対応策を検討す るためならば、利用者要因を敢えて設定する意義は乏しいと考える。以上を踏まえると、「利

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■表2 虐待要因に関する調査結果 高齢者処遇問題研究会 (2000) N=678(複数回答) 認知症介護研究・ 研修センター(2008) N=296(複数回答) 神奈川県高齢者福祉施設 不祥事事故防止等連絡協 議会(2009) N=821(複数回答) 厚生労働省(2013) N=141(複数回答) 利用者要因 被害者に痴呆等による行 動上の問題がある (29.9%) 認知症に伴う行動・心理 症状がある(47.6%) 被害者が精神的に不安定 である(17.5%) 認知症の中核症状が重い (47.0%) 被害者の要求が多い (17.5%) 意思の疎通に障害がある (38.2%) ほか3項目設定 ほか8項目設定 職員要因 介護者としての適性に欠 ける(50.5%) 性格的な問題がある (54.7%) 虐待や不適切なケアへの 共通認識が不十分、意識 のずれ、捉え方の違い (21.8%) 教育・知識・介護技術等 に関する問題(55.3%) 加害者の性格(45.4%) 認知症介護に関する知 識・技術の不足(53.7%) 虐待の基本的知識の欠如 (種別など)(18.3%) 職員のストレスや感情コ ントロールの問題 (29.8%) ケアについての認識不足 (38.1%) 高齢者虐待に関する知識 や意識の不足(51.4%) 悪気なく気がつかないで 人権侵害・虐待を行って いる(13.3%) 虐待を行った職員の性格 や資質の問題(28.4%) 要介護者の障害や痴呆症 状等について知識不足 (14.4%) 高齢者介護に対する意 識・意欲が低い(40.5%) 認知症のケア・支援技術 の不足(6.6%) 倫理観や理念の欠如 (11.3%) 加害者が個人的問題で精 神的に不安定(12.4%) 虐待を受けた利用者の心 身状態を把握していない (37.2%) 虐待の通報先を知らない (6.3%) 加害者自身の健康状態が 悪い(2.1%) 職務上の心理的負担・疲 労が大きい(30.4%) 介護者本位の支援 (2.2%) ほか4項目あり ケアの質の向上(2.1%) 組織要因 職員が業務多忙(35.1%)職員の研修が不足 (41.2%) 組織として虐待、拘束に 対する取り組みが不十分 (12.4%) 人手不足や人員配置の問 題及び関連する多忙さ (9.9%) 上司の指導力不足 (30.9%) 上司の指導力不足 (35.5%) 研修の機会が少ない (9.5%) 虐待を助長する組織風土 や職員間の関係性の悪さ (9.9%) 職員の研修が不足 (26.8%) 職員の業務が多忙 (28.7%) 業務多忙により効率優先 になってしまう(8.8%) 職員数の不足(14.1%) 職員の不足(28.4%) 不適切な対応だとわかっ ていてもせざるを得ない 状況(8.5%) 職場の人間関係に問題が ある(20.3%) 意見交換の少なさ (6.6%) 職場の士気の低下 (18.6%) 職員のメンタルケアが不 足している(6.0%)

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用者側の要因」は「利用者理解の不足」として解し、職員あるいは組織の要因と位置づける ことが妥当だと考える。 (2) 「職員要因」について 職員側の虐待要因について、4調査における回答項目(表2)を再整理した(表3)。その結 果、「職員の資質」「メンタルヘルスを含む職員の健康管理」「虐待に関する認識・知識」「ケ アに関する倫理(価値)・知識・技術」の不足および「その他」があげられた。これらの要 素は、組織としての問題と職員自身の問題を内包していると考える。すなわち組織は、職員 が上記の要因(課題)を有していたとしても、採用、異動、人材育成、メンタルヘルスケア などの人材マジメントの手段を用いて対応することができるのであるから、職員要因は多分 に組織要因につながると考えられる。なお、「職員の資質」「虐待に関する認識・知識」「ケ アに関する倫理・知識・技術」の習得には、社会福祉実践者の養成機関にも責任、課題があ る。一方、養成教育を経ないで福祉現場で働き始める者もいる。そのような者に対してはも ちろん、養成機関を経た人材に対しても、組織には継続的な人材育成が求められる。 職員自身の問題としては、職員自身が自分の仕事に誇りを持てていない可能性がある。杉 村(2009:52-53)は人間にとって労働は、意味そのものを生む活動であり、人生の重要な部 分をかたちづくり、働くことの意味は生きる意味に重なるという。福祉の仕事は利用者一人 ひとりの尊厳を守る仕事であるが、虐待をすることは自らの仕事の目的とは真逆の行為であ り、それは自分(職員)自身の「誇り」や「尊厳」を踏みにじることにつながる。また自ら が虐待行為等をしていなくても、虐待が横行する環境に身をおいて働くことは間接的に虐待 に手を貸すことにつながり、自分の自尊感情を低めてしまう恐れがある。「介護は楽しく、 奥の深い仕事である。その専門職が楽しく、専門性を磨いていくことのできる組織を、研修 体系や研修目標を明確にし、それぞれの自己実現とのマッチングを図っていく努力が組織責 任で行われなければならない」(柴尾:2009:48)が、職員が仕事に誇りをもって楽しく仕事を するには、組織も責任を負う必要がある。 なお、「虐待に関する認識・知識の不足」に関係するものとして、職員の虐待認識のバラ 組織要因 職場に高齢者虐待や不適 切な行為を容認する風潮 がある(15.5%) お互いに注意できる環境 にない(環境の整備) (2.3%) 業務の整理がなされてい ない(6.1%) 未然防止のために施設と しての取り組みが弱い (1.8%) その他 その他(4.1%) 家族から身体拘束等の要 望がある(3.0%) その他(7.1%)  *表1に掲示した4調査の結果をもとに筆者作成

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■表3 職員側の虐待要因 高齢者処遇問題 研究会 認知症介護研究・研 修センター 神奈川県高齢者福祉 施設不祥事事故 防止等連絡協議会 厚生労働省 職員の資質の不足 ・介護者としての適 性に欠ける  (50.5%) ・ 加 害 者 の 性 格 (45.4%) ・性格的な問題があ る(54.7%) ・高齢者介護に対す る意識・意欲が低 い(40.5%) ・虐待を行った職員 の性格や資質の問 題(28.4%) メンタルヘルスを 含む職員の健康管 理の不足 ・加害者が個人的問 題で精神的に不安 定(12.4%) ・加害者自身の健康 状態が悪い  (2.1%) ・職務上の心理的負 担・疲労が大きい (30.4%) ・職務上の身体的負 担・疲労が大きい  (25.7) ・個人的な理由によ り心身の不調があ る(16.6%) ・職員のストレスや 感情コントロール の問題(29.8%) 虐待に関する認 識・知識の不足 ・高齢者虐待に関す る知識や意識の不 足(51.4%) ・虐待や不適切なケ アへの共通認識が 不十分、意識のず れ、捉え方の違い  (21.8%) ・虐待の基本的知識 の欠如(種別など)  (18.3%) ・悪気なく気がつか ないで人権侵害・ 虐待を行っている  (13.3%) ・虐待の通報先を知 らない(6.3%)④ ケアに関する倫理 (価値)・知識・技 術の不足 ・ケアについての認 識不足(38.1%) ・要介護者の障害や 痴呆症状等につい て知識不足  (14.4%) ・認知症介護に関す る知識・技術の不 足(53.7%) ・身体介護に関する 知識・技術の不足  (18.2%) ・虐待を受けた利用 者の心身状態を把 握していない  (37.2%) ・認知症のケア・支 援技術の不足  (6.6%) ・介護者本位の支援 (2.2%) ・ケアの質の向上  (2.1%) ・教育・知識・介護 技術等に関する問 題(55.3%) ・倫理観や理念の欠 如(11.3%) その他 ・その他(6.4%)  *表2をもとに筆者作成

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ツキがある。西元ら(2007:523-536)、松下ら(2010:57-59)、土屋(2014:52-58)は、短文 の事例を提示しそれらが虐待に該当するのかどうかについて質問紙調査をおこなっている (例:「認知症利用者から同意を得てスタッフがお金を借りた」という事例は虐待に該当する か?)。その結果は3調査とも職員によって認識が異なるというものであった。そのうち西元 らはケアワーカー、看護師、ソーシャルワーカーの3職種間でも差異があるという結果を得 ている(3)。また土屋は同一の事例であっても、「虐待」と捉える者と「不適切なケア」と捉 える者がいることから(その他、「どちらでもない」と捉える者もいる)、「何らかの『エク スキューズ』として『不適切なケア』という用語があいまいなまま使用され続け」られてお り、それは「望ましい状態ではない」と指摘している。任(2014:57-69)は、「準虐待」と いう概念を提唱し、その構造や特徴を明らかにすることを試みている。 施設内虐待は日常的な権利侵害状態ないしは不適切ケアと連続線上にある(大石 :2001:13/柴尾:2008:1325)。労働災害に関する「ハインリッヒの法則」は、1つの重大事故の 前には29の軽度の災害があり、その前には「ひやり」とする予兆が300あるとする法則だが、 施設内虐待においてもこの法則が当てはまることが推測されるため予防対策をとることが指 摘されている(村井:2010:43)。虐待の温床ともなる不適切ケア等にももっと注目する必要が あるだろう。 (3) 「組織要因」について 虐待に関わる組織の要因についても4調査の回答項目(表2)の再整理をおこなった(表 4)。その結果、「人手不足等による業務の多忙」「研修の不足」「上司の指導力不足」「職場の 人間関係」「組織文化(4)の問題」「虐待に対する取組みが不十分」「職員のメンタルヘルスケ アの不足」「その他」に分類された。このうち、「人手不足等による業務の多忙」「研修の不 足」「上司の指導力不足」「職員のメンタルヘルスケアの不足」は、人材マネジメントの直接 的な守備範囲である。 また「組織文化の問題」や「職場の人間関係」に関する調査として、松下ら(2010:54-60) の施設スタッフに対する調査がある。同調査では、「職場が介護の方法や利用者への対応を 互いに注意しやすい環境か」という問いに対して「何ともいえない」「注意しにくい」等の 回答が72%を占め、またスタッフによる虐待(疑い)を把握したにもかかわらず施設側が対 応しなかった場合の対処は「(おそらく)相談・連絡する」が34.9%に減ずるという結果であ った。このことから「スタッフ個人の心構えや姿勢、対処がいかに適切なものであっても、 施設側の対応いかんがそれを損ねる可能性」があり、そのため「望ましい組織文化の醸成を 目指す」必要があるとする。「高齢者虐待は、氷山の一角であり、その水面下の不適切ケア や不適切なかかわり、不十分なケアを放置する組織風土が背景要因としてあ」り、「組織的 取り組みとして、虐待防止に取り組むということは、虐待の発生しない組織風土を作り上げ

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■表4 組織の虐待要因 高齢者処遇問題研究 会 認知症介護研究・研 修センター 神奈川県高齢者福祉 施設不祥事事故防止 等連絡協議会 厚生労働省 人手不足等による 業務の多忙 ・職員が業務多忙 (35.1%) ・職員数の不足 (14.1%) ・職員の業務が多忙 (28.7%) ・職員の不足  (28.4%) ・業務の整理がなさ れていない (6.1%) ・業務多忙により効 率優先になってし まう(8.8%) 人手不足や人員配置 の問題及び関連する 多忙さ(9.9%) 研修の不足 ・職員の研修が不足  (26.8%) ・職員の研修が不足 (41.2%) ・研修の機会が少な い(9.5%) 上司の指導力 不足 ・上司の指導力不足  (30.9%) ・上司の指導力不足 (35.5%) 職場の人間関係 ・職場の人間関係に 問題がある  (20.3%) 意 見 交 換 の 少 な さ (6.6%) お互いに注意できる 環境にない(環境の 整備)(2.3%) 組織文化の問題 ・職場の士気の低下 (18.6%) ・職場に高齢者虐待 や不適切な行為を 容認する風潮があ る(15.5%) 虐待を助長する組織 風土や職員間の関係 性の悪さ(9.9%) 虐待に対する 取組みが不十分 ・組織として虐待、 拘束に対する取り 組みが不十分  (12.4%) ・未然防止のために 施設としての取り 組みが弱い(1.8%) 職員のメンタル ヘルスケアの不足 ・職員のメンタルケ アが不足している (6.0%) その他 ・不適切な対応だと わかっていてもせ ざるを得ない状況 (8.5%)  *表2をもとに筆者作成

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ることに他ならない」(柴尾:2009:48)とされる。 人材マネジメントにしても、組織文化にしても、経営学や組織心理学の領域である。虐待 防止の視点からも、福祉施設はそれらの知見をより積極的に取り入れていく必要があると考 える。 (4) 「その他」の要因について 「その他」には「家族からの身体拘束等の要望がある」という項目が分類された(それ以 外は、元の各調査の項目でも「その他」のみである)。「家族からの身体拘束等の要望」があ る場合でも、施設としては家族に身体拘束等がもたらす影響などを理解してもらえるように 促すのが本来であり、家族の要望を虐待要因とするのは施設(組織)としての責任を果たし ていないのではないかということが推測される。

2. 虐待防止・対応策

(1) 虐待防止のために「必要と思われる対策」と「実施していると思われる対策」 施設内虐待への防止・対応策に関する調査は、「必要と思う」か「実施している」かを問 う調査が多い。必要性については、例えば職員にその意識を問うた西元ら(2007)の調査が ある。実施については神奈川県施設協議会調査(2010)などがある。 認知症介護研究・研修センター(2010)はその両者について調査をしている。すなわちグ ループホームの管理者、介護職員それぞれに、対応策30項目を示し(表5)、それらが「必要 と思われる対策」か、また「実施していると思われる対策」かということを問うている。以 下、同センターの調査結果を中心に見ていく。 ① 対策に対する高い「必要性」の認識 管理者群・介護職員群を問わず、いずれの対策についても「必要と思われる対策」とする 者が5割以上おり、どの対策に対しても必要認識が高いことがうかがえる(「その他」を除く。 以下同じ。なお「29.法的な問題について事業所が相談できる存在(顧問弁護士等)を確保 する」以外の対策はいずれも6割の者が必要ととらえている)。 ② 「必要」と認識される対策と「実施」していると認識される対策の乖離 ただし、「必要」と思う(必要認識)対策と「実施」していると捉えている(実施認識) 対策には乖離がある。「事業所として必要と思われる対策」の回答率から「現在実施してい ると思う対策」の回答率を減じた値について、管理者・介護職員の両群もしくはいずれかの 群が40ポイント以上の乖離があるのは6項目である(表6)。そのうち4項目は虐待防止に関す る「職種・職責による役割・責任の明確化」「マニュアル等の作成」「通報等を妨げない」

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「委員会等組織体制の整備」といった「虐待対応を直接の目的とする対策」であり、また虐 待対応に限定しない対策は「規則等の再検討」「顧問弁護士等の確保」である。 ③ 管理者群と介護職員群の「実施」認識の相違 「実施」していると捉えている対策についても、管理者群と介護職員群の回答率に差があ るものがある(表7)。実施認識が「管理者の方が高い」対策は、「高齢者虐待に関する事業 ■表5 認知症介護研究・研修センター(2010)調査の虐待防止・対策 虐待対応を直接的な目的とした対策 虐待対応に限定しない対策 研修等 1.高齢者虐待の研修の実施・外部研修の参加 2.権利擁護の研修の実施・外部研修の参加 3.接遇研修の実施・外部研修の参加 4.認知症に関する研修の実施・外部研修の参加 5.他事業所と情報交換等の交流 人員 配置 6.適性のある職員の増加 7.職員数の増加 8.夜勤体制の強化 9.7・8以外の人員配置上の工夫 10.ボランティア等の人材の活用 連携 11.事業所内の多職種間の連携 12.医師やケアマネジャー等の事業所外の他職 種との連携 方針・ 職責 13.虐待防止に関する事業所全体の方針の明確 化 14.虐待防止に関する管理者の責任の明確化 15.虐待防止に関する事業所内の職種、職責に よる役割や責任の明確化 規則等 17.虐待防止のマニュアル等の作成 16.事業所内の規則等の再検討 支援・ 運営 18.虐待報告・通報を妨げない 19.業務内容(一斉介助や流れ作業等)の見直 し 20.法令順守(コンプライアンス)の徹底 21.アセスメントやケアプランの内容・方法等 の見直し 組織体制 22.高齢者虐待に関する委員会等の組織体制の 整備 23.苦情対応等の権利擁護の窓口・担当者を設 定 外部 の活用 28.市町村・都道府県等への確認、相談等の積 極化 24.オンブズマン制度等の、第三者から定期的 な点検を受ける 25.家族等にサービスの内容の報告・連絡等 26.介護サービス情報公表制度等の利用 27.外部機関によるサービス評価を受ける 29.顧問弁護士等の確保 その他 30.その他  *認知症介護研究・研修センター(2010)調査報告書p.143,p.155をもとに筆者作成

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明確にする」「苦情対応等の権利擁護に関する窓口を設定する、担当者を決める」(7ポイン ト以上の差)である。逆に「介護職員の方が高い」対策は、「ボランティア等の人材を活用 する」「オンブズマン制度等の、第三者から定期的な点検を受ける仕組みを導入する」(同) である。 「必要性」とは異なり、「実施」については、本来ならば、同じ施設についてであれば、回 答者が誰であれ、同じ回答になるはずである。しかしながら、実施認識について管理者群と 介護職員群に乖離が生じているのは、対応策の存否という客観的な情報についても管理職と 介護職員とで共有がなされていない(例「17.虐待防止にする関るマニュアルやチェックリ スト等を作成する」について、マニュアル等が作成されているか否かの問題であり、回答者 によって答えが変わるのは、本来はおかしいはずである)ほか、対応策実施に対する主観的 な評価の相違(例「6.適性のある職員を採用する」について、採用された職員に適性がある か否かは回答者の主観に依存し得る)があることがうかがえる。いずれにしても、コミュニ ケーションの問題がかかわっている可能性があると考える。 (2) 虐待防止策に対する「必要性の認識」と実施「ニーズ」 松本ら(2013:44-53)は、グループホーム職員に対する意識調査により、虐待予防対策因 子として「負担のない労働環境」「入居者への対応能力・虐待への理解」「職員への理解・支 援」「職場の専門性」を見出したが、予防策を必要とする認識と「年齢」「介護福祉士資格」 「虐待の研修受講経験」などとは有意な関連が見られるとした。特に、一般的には介護福祉 士資格保有者や虐待研修受講経験者と比較すると、同資格や研修の受講経験がない者の方が 予防策の必要性が高いと考えられるだろうが、これらの者の方が「負担のない労働環境」「入 居者への対応能力・虐待への理解」「職員への理解・支援」を予防策として必要とは認識し ていない傾向が見られた。この結果を踏まえた「予防策を必要だと認識していることと、実 ■表6 「必要」認識と「実施」認識との乖離が大きい対策 虐待対応を 直接の目的とする対策 虐待対応に 限定しない対策 管理者群 (ポイント差) 介護者群 (ポイント差) 方針・ 職責 15.虐待防止に関する事業所内の職 種、職責による役割や責任の明 確化 45.2 43.0 規則等 16.規則等の再検討 40.8 40.8 17.虐待防止マニュアル等の作成 42.4 49.1 運営 18.虐待報告・通報を妨げない 39.9 45.5 組織体制 22.高齢者虐待に関する委員会等の 組織体制の整備 44.1 44.5 外部活用 29.顧問弁護士等の確保 39.2 41.5  *認知症介護研究・研修センター(2010)調査報告書pp.48-49をもとに筆者作成

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施すべきニーズがあることが、合致しない可能性が考えられる」という指摘は重要だと考え る。 (3) 虐待防止策と虐待確認との関連 上記のとおり、認知症介護研究・研修センター調査(2010)によると、いずれの虐待防止 策に関しても、管理職群・介護職員群問わず、「必要」性が高いと認識されている。ただし 「必要」と認識されている対策が、虐待防止や対応のために真に有効か否かについてはわか らない。同様に、現に実施されている対策が有効性を吟味されたうえで導入されたかどうか も不明である。つまり、施設や職員が必要と認識していたり、現に実施されている対策につ いても、真に必要性がある、すなわち虐待防止に有効である、とは必ずしも言えないものと 考える。だが、本来は資源は有限なため、考えられるすべての対応策を実施できるとは限ら ず、実施にあたっては効果等を見極めて優先順位をつけていくのが合理的である。 岡村(2002:1-13)は、高齢者処遇問題研究会調査(2000)のデータを用い、特別養護老 人ホームにおける虐待防止対策と虐待発生の関連について分析をおこなっている。有意差が 認められたのは、「高齢者虐待に関連する研修を行う」と「外部の研修等に参加させる」の2 ■表7 管理者群と介護職員群の「実施」認識の乖離が大きい対応策 防止・対応策 差 管理職群 介護職群 「実施している」という 認識が管理者の方が高 い 対 策(5ポイント以 上) 1.高齢者虐待に関する事業所内の研修を行うもし くは外部研修に参加させる  7.5 60.3% 52.8% 6.適性のある職員を採用する  5.7 52.4% 46.7% 7.職員数を増やす  5.1 36.0% 30.9% 13.虐待防止に関する事業所全体の方針を明確に する  7.4 50.1% 42.7% 17.虐待防止に関するマニュアルやチェックリス ト等を作成する。  6.6 34.7% 28.1% 18.虐待が起こった場合に職員による報告や通報 を妨げないようにする  6.4 39.5% 33.0% 20.事業所内での法令遵守(コンプライアンス) を徹底させる  6.3 37.7% 31.4% 23.苦情対応等の権利擁護に関する窓口を設定す る、担当者を決める  8.2 71.3% 63.1% 28.市町村・都道府県等への確認、相談等を積極 的に行う  5.6 47.5% 41.8% 「実施している」という 認識が介護職員の方が 管理者よりも高い対策 (5ポイント以上) 10.ボランティア等の人材を活用する −7.4 32.7% 40.1% 24.オンブズマン制度等の、第三者から定期的な 点検を受ける仕組みを導入する −7.2 30.7% 37.9%  *認知症介護研究・研修センター(2010)調査報告書pp.48-49をもとに筆者作成

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う結果を得てるいる。岡村はこの結果について、先行研究の知見をもとに、研修によって職 員が虐待の疑いがある事例を認識し、報告する度合が高まっているものと解釈し、「研修」 は「施設内虐待の発生防止に必要不可欠な活動」と結論づけている。なお研修以外の虐待防 止策と虐待事例確認との関連については有意差は認められていない。だが、研修以外の防止 策が虐待防止・対応について有効でないということは現段階では言い切れる根拠は見いだせ ていないと考える。 (4) 研修と組織の価値 さまざまな対応策があるなかで、「研修」は必要性、実施率とも高い。また前述のとおり、 研修に対しては一定の有効性を示唆する調査結果もある。しかしながら、研修の内容はさま ざまである。 加賀谷・大和田(2010:29-40)は、青森県内の特別養護老人ホームにおける虐待防止のた めの研修実態等について調査をおこなっている。5割以上の施設がおこなっているプログラ ムは、「認知症高齢者のことについて」(59%)、「利用者支援の理念と職員の職業倫理につい て」(52%)、「接遇やコミュニケーションについて」(50%)である。社会福祉の「価値・倫 理」にかかわる可能性があるのは2つめのプログラムだが、半数近くの施設はおこなってい ないことになる。湯川(2009:50-51)は「専門知識を土台として業務に携わる者として、価 値観や専門的知識を踏まえない専門的技術のみ活用するのでは、入居者や利用者の人権を擁 護できないと考えられる。どのような法人においても倫理は決して無視することのできない 重要なテーマであり、組織の方向性を統一し、価値規範や行動規範の確立が必要となってく る」ため、これらを「職場研修等を通じて従事者の育成、支援に取り組まなくてはならない」 とし、倫理を組織的に統一することとその手段としての研修の重要性を訴えている。なお、 加賀谷・大和田の上記調査で、今後活用したいプログラムとして最も多かったのは「人権を 配慮したケア」と「職員のメンタルヘルス」(いずれも56%)である一方で、今後活用した いプログラムでもっとも低率なものは「施設の虐待をめぐるスーパービジョン」(18%)で あった。わが国においてスーパービジョンが根づきにくい理由は多々あるが(塩田:2013:31-40)、虐待防止、価値・倫理の内在化を図る観点からは、Off-JTを中心とした研修のみでよ いのか、あるいはスーパービジョンの浸透を図る必要があるのかも検討が必要と考える。

3. まとめと今後の課題

ここまで高齢者の施設内虐待にかかわる先行の調査研究について、主に要因、対応策に関 するものを概観してきた。それらを踏まえたうえでの筆者の見解、問題点の指摘は次のとお りである。

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①虐待発生要因1:「利用者要因ではなく、利用者理解の不足要因」と捉える 虐待発生要因は、客観的には「利用者要因」「職員要因」「組織要因」に大別され、かつ それらの要因が相互に影響し合ってると考えられる。そのうち「利用者要因」とは、虐待 を誘発する利用者の特性を指す。しかしながら、虐待要因を詳らかにする目的が虐待防 止・対応策を組織的・社会的に構築することに資するためであるならば、利用者要因は 「利用者理解の不足」と位置づけ、それは職員要因や組織要因として捉えられる余地が多 分にあるのではないかと考える。このことは、職員にとって「個人史の理解が人間らしさ の認識を促進するのに対して、施設入居以前の生活との連続性を絶たれることは、人間的 存在を希薄化するリスクを高める」(波多野:2011:590)という指摘ともつながると考える。 ②虐待発生要因2:職員への働きかけを含むマネジメントの問題 虐待の職員要因には、職員の資質、メンタルヘルス等の健康管理、虐待の認識・知識、 ケアの倫理・知識・技術などの不足が挙げられた。しかし、職員にこれらの欠如があった ならば、組織はそれを見極め、採用(外部調達)をしないことができたはずであるし、採 用をしたのならば、職員に働きかけをおこない、ふさわしい人材に育成していく(内部調 達)余地があるはずである。福祉サービスは何を目指すものなのか、何を理解したならば 利用者理解となるのかについて正しい知識のない者やその方向性を見失いかけている者に 対し、組織として働きかけができていないということはないか。あるいは、管理者等が虐 待を黙認することによって、誤ったメッセージを職員に発した結果、職員の虐待認識に問 題を生じされていることはないか。職員に対する働きかけとは、組織内外の集合研修 (Off-JT)に参加させることのみならず、OJTも入る。「虐待および不適切ケアの防止につ いては、職員個人の資質のみに責任を帰すのではなく、組織の問題として捉えることが重 要」(山田:2012:32)である。本来、職場の人たちは、他の人に対して業務支援、精神的支 援、内省支援といったさまざまな支援を果たすものだが(中原:2010)、そのような支援が 十分に発揮されている組織づくりとなっているかどうかを見ていくことは重要な鍵になる のではないかと考える。 ③有効な対応策の未解明 発生要因と同様に、虐待防止・対応策についても、先行調査においては「必要と認識し ている対策」や「実施している(と認識している)対策」について確認をしているが、必 要と感じる方策と実際の必要性には乖離がある疑いがある(松本:2013)という指摘もあ る。なお、研修に取り組んでいる施設ほど虐待事例が報告されていることから「研修」は 「施設内虐待の発生防止に必要不可欠な活動」とする見解(岡村:2002)はある。効果検証

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図られるのかということを明確にしていくことは重要である。その際には、経営学などの 知見を取り入れていく必要があると考える。 以上を踏まえると、今後、実践現場に資するためには、次のような研究課題が考えられる。 ①虐待の発生要因とメカニズムの実態的な解明 虐待発生要因は「利用者要因」「職員要因」「組織要因」「その他」に大別されるとしても、 多岐に渡るものと考えられているが、個々の要因はどのように作用しあって虐待を発生させ ているのかについては、十分解明されているとは言い難い。 松本(2014:74-82)は、組織事故に関するReasonのスイスチーズモデルを援用した施設内 虐待モデルを提唱しているが、同モデルは、発生・予防のメカニズムを明らかにするための 「分析のための枠組み」であり、具体的に発生要因の関連やそのやメカニズムを解明したも のではない。 波多野(2011:583-594)は、職員(人間)が要介護高齢者等を「非人間化」(人間らしさ を欠いた存在と認識すること)をしてしまう心理的過程をモデル化した。しかしながら、わ れわれにはそのような心理的落とし穴があるからこそ、それを防御するために、倫理を身に つけたり、組織や社会は防止・対応のための取り組みをおこなうわけであるが、そのような ソフト・ハードの防御装置の不十分さ・不適切さが虐待をもたらすという側面については十 分には捉えていない(5)。つまり、虐待に至る一人の職員の心理メカニズムだけでなく、組織 等との相互作用において虐待は増幅されたり逆に低減されると推測されるわけだが、この点 まで射程に入れたメカニズムの解明にはなっていない。 実態としてはどの要因の影響が強いのか、また多岐にわたる要因間の相互関連性はどのよ うになっているのかなどについて、実際におきてしまった虐待事例を用いるなどして、要因 やメカニズムの実証的な解明をおこなうことは、虐待防止に資するのではないかと考える。 ②虐待防止のための組織マネジメント手法の有効性と虐待からの再生プロセス 今後は、各対応策の有効性についての検証が必要と考える。直接的な検証は難しいことが 予測されるが、経営学などの知見も援用していくことが考えられる。 また虐待を「発見」し、最終的には虐待を許さない施設に生まれかわるには、困難と痛み をともなうプロセスになることが想定されるが、実際のところはどのような経過をたどって いくのか、そのとき必要なものは何なのか、といった実証的なメカニズムの解明は課題だと 考える。 なお、今回は取り上げなかったが、施設内虐待には、外部機関、特に市町村や都道府県な

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どもかかわることになる。市町村は虐待通報を受け、その事実確認・安全確認をおこない、 都道府県とともに、高齢者虐待の防止および当該高齢者の保護を図るため、老人福祉法等に もとづく権限を適切に行使することになっている。しかし、例えば、養介護施設従事者等に よる虐待通報があっても市町村が虐待の事実を認めたケースは19.6%であったり(厚生労働 省調査(2013))、そもそも相談・通報件数が非常に少ないため、市町村や都道府県における 対応に関する実践の蓄積が進まないという指摘もある(日本社会福祉士会:2013:ⅱ)。組織を 虐待(再発)防止の観点からサポートする働きとなるためには、市町村等外部機関の働きに も目を向けていく必要があると考える。

(1) 高齢者虐待防止法では、養介護施設従事者等による虐待として、老人福祉法、介護保険法に 定める事業の従事者による虐待を規定しているので、訪問系サービスも含まれるが、本稿で は、主に入所系サービスあるいは通所系サービスを念頭に置くので、施設内虐待という表現 を用いる。 (2) 4調査のうち、厚生労働省調査は高齢者虐待防止法にもとづき養介護施設従事者等による虐待 と市町村が認めた事例に関し市町村・都道府県による記述内容を分析が加えられた結果であ る。残りの3調査は調査主体が予め設定した調査項目(質問紙)に対し、被調査者(施設職員 等)に回答を求めた意識調査である。また、神奈川県施設協議会による当該の調査は、施設 職員に対し人権に関する「施設の課題」について整理されたものである。 (3) 西元ら(2007)は、虐待認識の職種間の認識の差異について「その原因が現場におけるスタ ッフの役割の違いや教育の程度や内容の差などから生じているものとはいいがたく、今後分 析検討を継続していく必要があるものと考える」としているが、筆者は、更なる調査・分析 であることに異議はないが、現段階においては、教育の程度や内容などが影響を与えている のではないかという疑問をもっている。 (4) 厚生労働調査の分析では「組織風土」という用語を用いているが、筆者は「組織文化」とい う用語とした。福山(2006:1-19)は、組織風土について、組織文化の1つであり、行動レベル によって現れ、組織メンバーによって認知・知覚されるものとしている。他方、シャイン (Schein)は組織文化について「1.人工の産物」「2.信奉された心情と価値観」「3.基本的な深い ところに保たれている前提認識(意識されずに当然のものとして抱かれている心情や価値観)」 から構成されるが、3にこそ組織文化の中核だとしている。虐待問題は、その組織の価値観の 反映という仮説を筆者は持っている。よって、「組織文化の問題」という用語とした。 (5) 波多野(2011:583-594)は、職員に利用者の非人間化をもたらしてしまう要素として、認知症 等の高齢者自身の「無反応」「了解困難な行動の反復」といった特徴のほかに、職員にとって

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領域の露呈とルーチン化」、職員に対する「効率性の圧力」などもあげている。すなわち、純 粋な利用者要因ばかりでなく、職員要因あるいは組織要因との相互作用で非人間化がもとら されることを示唆していると理解できる。

引用文献

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会編『ソーシャルワークと権利擁護− “契約” 時代の利用者支援を考える』中央法規,1-29 Schein,E.H.(2010)OrganizationalCultureandLeadership,4thed.John Wiley&Sons,Inc. (=2012,梅津祐良・横山哲夫訳『組織文化とリーダーシップ』白桃書房) 柴尾慶次(2008)「施設内における高齢者虐待の実態と対応」『老年精神医学雑誌』19(12),1325-1332 柴尾慶次(2009)「養介護施設従事者、養介護事業従事者等による虐待発生の構図」『高齢者虐待 防止研究』5(1),45-48 塩田祥子(2013)「スーパービジョンが福祉現場に根付かない理由についての考察」『花園大学社 会福祉学部研究紀要』21,31-40 杉村芳美(2009)「人間にとって労働とは−『働くことは生きること』−」橘木俊詔編著『働くこ との意味』ミネルヴァ書房,30-56 土屋典子(2014)「養介護施設従事者の虐待への意識に関する調査研究−養介護施設における虐待 予防のための実践アプローチ・研修プログラムの開発に向けて−」立正社会福祉研究15(2), 51-59 山田祐子(2012)「高齢者福祉施設における人権に関する調査からみえる課題」『ふれあいケア』 全国社会福祉協議会,29-33 湯川智美(2009)「養介護施設従事者および養介護事業従事者による虐高齢者待」『高齢者虐待防 止研究』5(1),49-52

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Abstract

This paper compares some preceding studies of aged abuse(causes of abuse, countermeasures,preventivemeasures)inelderlycarefacilities.

The causes of abuse is divided “Elderly-causes” from “Service worker-causes” “Administration-causes”.But,toexamineaboutcountermeasure,“Elderly-causes”suggest thatmeaningof“lackofunderstandingforElderlies”.Therefore,Ithink,“lackofunderstanding forElderlies”isincludedin“Serviceworker-causes”and“Administration-causes”.“Service worker-causes”,ithasthefollowingtwoaspects,first,two‐facedadministrationoffacilities, andsecond,Serviceworkerwithnodignity.

The countermeasures of aged abuse , receiving training is will help to decrease the numberofagedabuse.butitneedstolookintocontentsoftraining.

Somestudiesmaketosuggestthemechanismofactofabusingaged,butitsuggeststhat needtofindamethodofrecoverfromtheshockofabuse.

The Cause and Countermeasures of aged abuse in

elderly care facilities. :

Compares preceding studies

参照

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