Title
「棚田式魚道」の開発と対象魚の遡上特性( 内容の要旨
(Summary) )
Author(s)
馬渕, 和三
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第529号
Issue Date
2010-03-15
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/33670
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本(国)籍) 主 指 導 教 員 名 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 馬 渕 和 三 (岐阜県) 岐阜大学 教授 平 松 研 博士(農学) 農博甲第529号 平成22年3月15日 学位規則第3条第1項該当 連合農学研究科 生物環境科学専攻 岐阜大学 「棚田式魚道」の開発と対象魚の遡上特性 主査 岐阜大学 教 授 清 水 副査 岐阜大学 准教授 平 松 副査 信州大学 教 授 星 川 副査 静岡大学 教 授 土 屋 副査 岐阜大学 准教授 西 村 良 研 俊 智一 英 和 眞 論 文 の 内 容 の 要 旨 河川には様々な河川横断構造物が設置されている.これらの構造物による落差は生き物 にとって大きな移動障害となっており,その生息圏を狭める要因となっている.魚道とは, このような段差を連続するプールあるいは流速を抑制した水路で繋ぐものであり,水生生 物にとって棲みやすい川本来の姿を再生するためには欠かせない付帯施設といってよい. 現在では多くの河川構造物に魚道が付設されているが,それらが必ずしもうまく機能して いるとはいえない.棚田式魚道は,旧来の魚道が有するいくつかの裸腐を解決するために 学位申締着が開発したものであり,下流方向全面に広がる上り口を持ち,自然石の連続に よりプール隔壁を形成するとともに,自然石の聞から通水を可能とするなどの特長を有す る,プール型とストリーム型のハイブリッド魚道である. 本研究は,この棚田式魚道が設計段階で想定したとおりの機能を有するかを定盤的に評 価することを目的としており,三つの段階により桝成されている.まず,第一段階は,柳 田式魚道の有する水理特性を,魚類の遊泳特性や土砂堆積を含めて,実際に設圧した箇所 で評価することであり,第二段階は当眩魚道のプール水深が適切なものであるかを主な対 鋲魚であるアユの眺即行動から評価すること,第三段階では,棚田式魚道での魚類遡上状 況を碓諾するとともに,広角とした魚道上り口の効果を評価するものである. 魚道には,十分に流速を抑制することと同時に,多様な流速分布を持っていることが求 められる.棚田式魚道で,横断方向の流速は大きな値をとることがあるが,比椴的流量の 大きい時であっても主流方向の流速は抑制されており,底面付近では十分に減勢効果が現 れていることが水理調査により明らかとなった. -35一
これまでエネルギー消散と魚類の休息場の提供という意味からプールの必要水深が決め られてきたが,エネルギー消散はプール間の格差に応じて決定されるべきものであり,必 要以上のプール水深は,土砂の堆積,回転流の発生などの問題を引き起こす.そのため, 棚田式魚道では,プール水深を小さくする設計とした.この水深が過小でないことを示す ためには,遡上手段としての跳躍に関して,水深がどのような影響を及ぼすかを解明して おかなければならない.この裸艦に対して,実験室内外の実験等を通じて,アユの眺柵行 動の画像解析を行った.結果として,眺臓は水面近くにおける急激な加速によるものであ り,跳躍に必要な魚道のプール水深は20cm程度で十分であるとの結論を得た. 最後に,棚田式魚道の広開口上り口の効果を明らかにするために,魚道を中央部と左右 の側部に分割し,それぞれの経路を遡上するアユの観測と計数を行った.結果として,2/3 の個体が側部から侵入していることが分かり,上り口形状の効果が明袖となった.また, 同時に,今回対象とした比較的上流部に設置した魚道においては,正午から夕方までの相 対的に水温が高くなったときに集中してアユが遡上することが確認された.これらの研究 により,棚田式魚道が比較的低落差の河川横断構造物におけるアユなどを対象にした 魚道として適切なものであり,日本の河川における魚道の選択肢の一つとなりうるこ とを確認した. 審 査 結 果 の 要 旨 阿川には頭骨工,床聞工,格差工といった水面や河床に段差を生じる様々な河川横断 構造物が股間されている.これらの構造物は,川を上下流に移動する生き物にとって大 きな陣沓となっており,その生息圏を狭める要因となっている.魚道とは,このような 段差を迎統するプールあるいは流速を抑制した水路で繋ぐものであり,瓜を含むあらゆ る水生生物にとって棲みやすい川本来の姿を再生するためには欠かせない付僻地股とい
ってよい.現在では多くの河川構準物に,欧米を中心に研究開発が進んできた魚道が付
股されているが,対報河川の規模や舐況,さらには対鋲魚の種類によって適した構造が 異なることから,それらが必ずしもうまく機能しているとはいえない.棚田式魚道は, 魚が上り口に到達しにくい,流丑の変化に対応できないなどといった旧来の魚道が持っ いくつかの課題を解決するために学位申約者が開発したものであり,扇形で下流方向全 面に広がる遡上経路を持つ形状とし,自然石の迎鰍こよりプール隔壁を形成するととも に,自然石の閃から通水を可能とするなどの特長を有する,プール型とストリーム型の ハイプリット魚道であるが,開発はこれまでの経験に基づくものであり,その科学的な襲付けは不十分であった・このことから,以下の目的で調査ならびに解析を行った・
(1)棚田式魚道の有する水理特性を,魚類の遊泳特性や土砂堆硝を含めて∴実際に設問し た箇所で評価する. (2)棚田式魚道の20cmと極めて小さくしたプール水深が適切なものであるかを主な対集 魚であるアユの遊泳行軌あるいは眺併行動から評価する. (3)棚田式魚道での魚類遡上状況を確認するとともに,広開口上り口の効果を評価する. 上記(1)は,実調査は2000年5月から2002年8月に実施した.調査は現地における遡 上状況調査と水理調査であり,設計当初に期待した機能の有効性を確かめた. (1)の研究成果:棚田式魚道および対象魚が次のような特性あるいは能力を持つことを確 落した.a)縦断と横断方向の勾配を変えることにより小流量時にも流路を確保している-36-こと,b)遡上状況により広開口部の有効性が静められること,C)プール水深を小さくとる ことにより土砂が堆積しないこと,d)流速が適正な範囲にあること,e)対象魚であるアユ の突進速度が既往の報告よりも大きい可能性があること. 上記(2)は,棚田式魚道のプール水深の是非を問うために,対象魚であるアユの能力あ るいは行軌を確認したものであり,主要な実験は2003年5月から6月に,補助となる実 験は2001年4月,2004年6月から8月に行った. 也)の研究成果:実験装匿内および現地における実験観測により,アユが次のような跳躍 をしていることを確認した.a)アユは跳躍時に水面に向かって一定の遊泳加速を行うが, 跳躍に寄与している助走は極めて短時間であり,水深も20cmから40cmと短距離である こと,b)プール水深が小さくなった場合,跳躍方向の角度が小さくなり,眺用高度も小さ くなること,C)水深が大きい場合,アユは遡上のための跳蹄を行わなくなる傾向が見られ ること,d)棚田式魚道のプール水深がアユの跳躍という観点から適切な穐囲にあること・ 上記(3)は棚田式魚道の広開口魚道上り口の有効性を柵かめるために対象魚の遡上経路 を調査したものであり,2002年5月から7月にかけて調査した. (3)の研究成果:根尾川第3床固工および牧田川第13床固工に設倍されている棚田式魚道 を右岸側,中央,左岸側の3区分に分け,それぞれの経路を進入する対象魚数をビデオ 線形により計測することにより,次のように対象魚の遡上経路が検証されるとともに, 広開口魚道上り口の有効性が確かめられた.わ遡上個体総数の66%が右岸側と左岸側か ら魚道に進入していることから,広嗣口魚道上り口が対象魚である稚アユの魚道誘導に 有効であること,・b)比較的上流部に位置する魚道において稚アユの遡上は正午から日没前 の午後5時前後までに集中すること,C)遡上が見られる時間帯における遡上数分布につい ては明確な傾向が見られないこと,d)すべての調査日で1,000個体以上の稚アユの遡上が 確認されたことから,棚田式魚道が稚アユ遡上を補助する施設として有効であること. 以上,本研究は,棚田式魚道が有効であることを明らかにするだけでなく,今後の魚 道開発のために必要な情報を提供しており,魚道に関わる有益な研究成果として評価さ れる.故に,審査委負全点一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位論文と して十分価値あるもの-と認めた. 《基礎となる学術論文》 1)馬渕和三・平松研・板垣博(2003):「棚田式魚道」の水理特性と有効性に関する検証, JoumalofRainwaterCatchmentSystems,9(1),37-42・ 2)馬渕和三・平松研・板垣博(2009):アユの跳躍行動とプール水深について,農業農村 工学会論文集,260,145-152. 3)馬渕和三・板垣博・平松研・清水英良(2010):「棚田式魚道」における稚アユの遡上 経路,JotmalofRainwaterCatchmentSystems,15(2),61-65.