超高齢社会と災害時のすまい コミュニティケア型
仮設住宅
著者
冨安 亮輔
著者別名
TOMIYASU Ryosuke
雑誌名
工業技術
巻
39
ページ
29-32
発行年
2017
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00009558/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja***講演会から本**
超高齢社会と災害時のすまい
コミュニティケア型仮設住宅
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CommunityCare TemporaryHousing
-冨 安 亮 輔 *
1.はじめに
2011年3月 11日、マグニチュード 9.0の東日本大 震災は発生しました。死者行方不明数は18,451人(警 察庁広報資料, 2016年9月9日)で、千年に一度の災 害と言われています。その被害規模から注目を集めまし たが、我が国では1990年以降、マグニチュード7.0以 上の地震が40回以上起きています。我が国は世界有数 の地震大固なのです。 天災は忘れた填にやってくる (寺田寅彦) 1923年の関東大震災の時に綴られた諺です。東日本 大震災か5年が経ち、今春、熊本地震が発生しました。 東北の被災地の様子を伝える報道が少なくなってきた 時に熊本地震が起きたと私は認識しています。東日本大 震災を風化させないために、本稿では過去の震災と比べ て東日本大震災の社会環境が変化したこと、先進的仮設 住宅とその生活実態、多様化した災害後のすまいを紹介 します。2.
東日本大震災と超高齢社会 東日本大震災の被害の特徴として二点挙げることが できます。一点目は、阪神・淡路大震災のように揺れに よって建物が倒壊したわけではなく、津波によってすま いが失われました。また、あまり報道されませんが、流 出した自動車やプロパンガスが原因で火災も発生しま した。津波に浸かった地域には対策なしに仮設住宅や災 害公営住宅を建設できません。これらの用地確保が困難 で、復興に時間がかかっている原因でもあります。 もう一点は、高齢者が多い地域を襲った災害というこ とです。2010年の我が国の高齢化率は 23.1%でした。 岩手県、宮城県、福島県の高齢化率はそれぞれ 26.8%、 事理工学部建築学科 -29-22.2%、24.5%で岩手県は平均値を 3.7ポイント上回っ ていることが分かります。しかし、津波被害を受けた沿 岸地域の市町村別にみると、ほぽ全てで 30%を超して います(図 1)。 人口の高齢化を地球規模で捉えると、日本は世界一高 齢化率が高い国です。今後、日本だけでなく中国や韓国 等も早いベースで高齢化していくことが予想さてれて います。災害は世界のどこでも起きても不思議でなく、 災害時の居住環境を知何に確保するか、特にサポートが 必要な高齢者や障害者のすまいについてどのような配 慮をすべきか、これらは世界共通の課題と言えます。 洋野町 30.5% 久慈市 26.4% 野田村 30.1% 普代村 31.5% 田野畑村 33.9% 岩泉町 37.8% 宮古市 30.9% 山田町 31目8% 大槌町 32.4% 釜石市 34.8% 遠 野 市 34.3% 大船渡市 30.9% 陸前高田市 34.9% 図 1 岩手県沿岸地域の市町村の高齢化率 (2010年)3. 発災から仮設住宅入居まで
災害からの復興のプロセスは表 1の 5段階を経ると されています。「発災直後Jは自らの退避・安全確保が、 「一時避難期」は緊急退避場所に逃げた上で他者の救 命・救援がもとめられます。「避難生活期Jは公民間わ ず生活サービスの充実・安定化がもとめられ、避難所が 被災者の居場所です。学校や公民館などの公共施設が避超高齢 社会と災害時のすまい コミュニティケア型仮設住宅 Super aging society and dwelling indisaster --Community-Care Temporary-Housing- -富安亮輔 難所となりますが、東日本大震災では収容しきれず内陸 市町村の宿泊施設も避難所となりました。「仮設生活期j とは主に仮設住宅が生活の場となり、生活を再建し復興 に向けた準備をする期間です。そして、自立再建住宅や 災害公営住宅という落ち着いた場で新たな生活へ適合 していくのが 「復興生活期」 となります。 現在の岩手県 や宮城県の被災地は「仮設生活期」 から 「復興生活期J への移行期にあります。 一般的に想像されるプロセスでは、災害が発生してか ら仮設住宅に入居するまで居住環境の変化は、 「自宅」 持続的に生活するのは難しいと考えました。また、阪神・ 淡路大震災で顕在化した孤立死や閉じこもりという状 況になるのではないかと想像しました。 → 「避難所」→「仮設住宅」と 2回あります。しかし、 図 2 並行配置の一般的な仮設住宅(岩手県大槌町) 岩手県釜石市と遠野市の仮設住宅居住者を対象とした 調査を実施したところ、居住変化の平均回数はそれぞれ そこで、 私が参加した研究グループ (東京大学・岩手 3.53回と4.22回であることわかりました。つまり、複 県立大学)では高齢者がなるべくバリアが少ない環境で、 数の避難所を経由しているといえます。 社会的に孤立することなくコミュニティ内での役割を 表 1災害からの復興のプロセス もち安心して暮らし続けることを目指した「コミュニテ プロセス 時期 必要な行動 主な場所 1 .発災直後 3時間 退避、安全確保、 以内 安否確認 11.一時避難期 3時間 救命、救助、 緊急 退避場所 -3日 救援、復旧 E 避難生活期 3日 生活サービスの 避難所 -3週間 充実、安定化 W 仮設生活期 3週間 生活再建、復興準備 仮設住宅 -2-6年 V 復興生活期 2-6年 新な環境への適合 復興住宅
4.
これまでの一般的な仮設住宅の課題とコミュニ ティケア型仮設住宅の提案 阪神・淡路大震災や中越沖地震など東日本大震災まで の一般的な仮設住宅は、南面平行配置で住戸の玄関が北 側にあるシングルアクセスが原則でした (図 2)0 50戸 以上の住宅団地には集会室を設けるなどの方針はあり ますが、基本的には住宅だけからなる団地で、昼間は人 気の少ないひっそりとした住宅地になるのは明らかで す。外構はほとんどが砕石敷であるため、車椅子やシル ノ《ーカー、ベビーカーは使いづらく、屋外と住戸内の約 40cmのレベル差は高齢者 や障害者にとって外出のハー ド、ルを高くしています。このような環境では、高齢者に 限らず障害者や子供といったケアを必要とする人々が-
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ィケア型仮設住宅jを提案しました。具体的には入居者 選定方法と建築計画の視点、から提案を行ないました。 ①コミュニティごとの入居者選定:入居者の選定は前 住地単位の入居を考慮し、可能な限り住戸も同じ棟や 路地を割り当てる ②面積が異なる住戸で住棟を構成 :仮設住宅の大きさ は 6坪、 9坪、 12坪の 3パターンがある。これらを混 在して住棟を構成することで、多様な家族形態から構 成されるコミュニティを創出する ③共用施設の設置・ 敷地条件に応じて仮設団地内に集 会所やサポートセンタ一、 仮設庖舗等を設置する。コ ミュニティ形成の場や居住者の生活をサポートする場 とし、団地外からの往来も促す ④屋根付きデッキ :路地に室内の床レベルと同じ高さ で屋根付きデッキを挿入し、住戸内外のバリアを解消 する ⑤コモンアクセス ・玄関が向い合うように住棟を配置 し、 居住者同士が出会う機会を増やす ⑥リビングアクセス型の間取り :住戸内外の視覚的・ 心理的敷居を低くし、路地や屋内から人の気配を感じ ることができる超高齢社会と災害時のすまい コミュニティケア型仮設住宅 Superagingsocietyanddwelling indisaster --Community-Care Temporary-Housing- -冨安亮輔
5.
コ ミ ュ 二 テ ィ ケ ア 型 仮 設 住 宅 の 実 現 「コミュニティケア型仮設住宅」は岩手県内の市町村 に提案され、釜石市と遠野市で実現しました。5. 1
釜 石 市 平 田 第6
仮 設 団 地 市中心部から南に車で 15分ほどの平田総合公園に仮設 住宅240戸とサポートセンター、仮設庖舗2棟を建設する 計画です(図 3)。仮設居舗はこの仮設団地のためだけで なく、周辺地域の住民も利用し、仮設団地が周辺に対し ても開いた存在であることが重要と考えました。 敷地の西側半分を「一般ゾーン」、東側を「ケアゾー ンJ、北東部を「子育てゾーン」と設定しました。["一 般ゾーン」は従来通りの南面平行配置で 170戸、 「ケアゾ ーンJは南北軸に玄関が向かい合う配置で60戸、 「子育 てゾーンjは既存公園に面して 10戸計画しています。 「ケアゾーン」は各住棟がデッキでつながれ、さらにサ ポートセンターや仮設庖舗をつないでいます。 住宅部分は2011年6月に着工し、 8月上旬に入居が始ま りました。 屋根が架かる「ケアゾーン」の路地には、入 国3
釜石市平田第 6仮設団地配置固と外観写真 居開始とともに玄関前を彩る花壇を置いたり、テープεル と椅子を置いたりと住民の自発的な路地空間の住みこな されています。サポートセンターでは、周辺に既存の介 護サービス事業所がないこと、総戸数が多いことから、 デイサービスや配食サービスが提供されています。5. 2
遠 野 市 仮 設 住 宅 希 望 の 郷 『 幹 』 遠野市は津波被害を受けていない内陸にありま す。総戸数が 40戸と規模が小さいですが、基本的な考 え方は釜石市と同じです。敷地は遠野駅から徒歩 10分 で、敷地北側を「ケアゾーンJ["子育てゾーン」、南側 を「一般ゾーン」と設定しました(図 4)。敷地の形状 に応じて、中庭を介して玄関が向かい合う住棟を試み ています。「ケアゾーン」のデッキには雨露を防ぐため 屋根を架けました。釜石市では配置計画までの提案で したが、遠野市では県から委任事務を受けたため、リ ビングアクセス型の間取りやカラマツの集成材パネル による構造形式など、遠野市独自の仮設住宅が実現し ています。 周辺に既存の介護サービス事業所があるため、サポ ートセンターでは介護保険サービスは行われていませ ん。むしろ仮設住宅だけでなく、市内の知人友人宅や 雇用促進住宅に避難している世帯をサポートする拠点 となっています。 図4
遠野市仮設住宅団地配置固と外観写真6.
仮 設 住 宅 で の 暮 ら し 入 居 当 初 、 両 仮 設 住 宅 と も 団 地 全 体 の 高 齢 化 率 は 30%以下で市全体の高齢化率を下回っていました。しか し、高齢者や障害者の入居が多いケアゾーンの高齢化率 ー ム q d超高齢社会と災害時のすまい コミュエティケア型仮設住宅 Super aging societyand dwelling indisaster --Community-Care Temporary-Housing- -冨安亮輔 は約 50%で、サポートが必要な被災者の住まいとなっ ています。図 5は釜石市平田第 6仮設団地のケアゾーン の写真です。路地と住戸内に段差がないため、車椅子利 用者もひと りで外出することができます。また、屋根が かかっているため路地が第二のリビングルームのよう に居住者の憩いの場となっています。 2011年と 2012年に釜石市平田第6仮設団地で実施し た調査から、「一般ゾーンjよりも「ケアゾーンJの方 が顔見知りの人数が多い傾向にありました。つまり、 コ ミュニティ形成が促されていると推測できます。また、 医学系研究者の調査では、釜石市内の仮設住宅団地より 平田第 6仮設団地のほうが居住者のカウンセリングや 医療介入件数が少ないという結果も出ています。「コミ ュニティケア型仮設住宅Jを提案する時に想定していた 効果が一定程度みられるといえるでしょう。 2016年 8月現在、両仮設住宅とも空き住戸が全体の 30%-50%を占めるようになっています。仕事があった り経済力があったりする世帯から自宅を再建していき ます。そのため、高齢者は再建に時間がかかり、最後ま で仮設住宅に残る傾向があります。すると精神的に不安 定な方が増えたり、居住者コミュニティが弱体化したり するかもしれません。今後さらに居住者の生活支援を行 っているサポートセンターの役割は重要になると考え られます。 図