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公益団体の財政分析 : 日英比較を中心に(片山貞雄教授退官記念論文集)

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157       1)

公益団体の財政分析

一日英比較を中心に一

北  村  裕  明

1 はじめに  本稿の課題は,近年とみに注目をあび始めた「公益性を担った非営利団体」 について,国際比較をふまえつつ,日本とイギリスについてその財政を中心に 分析し,非営利団体の機能とその財政学上の意義について検討を加えることに ある。日本との比較の対象としてイギリスを選ぶ理由は,イギリスにおいて19 79年の保守党政権以降,急速な民営化の受け皿として,公益団体(チャリティ)       2) の活用がかなり明確に意識されてきたからである。  本稿では,第1に,非営利団体への注目の背景にはいかなる社会経済的変化 があるのかを明らかにし,第2に,非営利団体の国際比較をとおして,非営利 団体分析にとって必要な視角を設定し,第3に,イギリスの現状を,保守党政 政権以降の変化に焦点を合わせて分析し,第4に,日本の現状について概観し, 最後に,いくつかのまとめを述べることにする。 II戦後福祉国家の再編と非営利団体 公益性を担った非営利団体が,学問的にも政策的にも「新たな」注目をあび 1)本稿は,1995年10月21日に岡山大学で開催された,日本財政学会第52回大会における共 通論題セッション「公益団体の財政学」でおこなった報告に,加筆修正を加えたものであ る。予定討論者として貴重なコメントをいただいた,池上惇教授に感謝の意を表する次第 である。 2)北村裕明(1994)「非営利団体と税制一寄付税制の日英比較を中心に一『財政学研究』第 19号。

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始めたのは,1980年代に入ってからのことである。それは,1970年代より先進 各国で進められてきた集合的財やサービスの供給システムの改革の経験にもと つくといえよう。  戦後の先進各国では,福祉,医療,教育等のいわゆる集合的財やサービスを, 多くの場合,公共部門を通して供給しようとする傾向にあった。すなわち戦後 福祉国家の形成過程では,公益性を担っていた慈善団体や非営利団体は,個別 的にしかサービスを提供できないものとしてむしろ否定的に扱われ,普遍的に        3) サービスを提供できる政府部門に供給主体を移行しようとした。確かにコーリ ン・クラークのように,重税型の福祉国家を批判し,その対案として共済組合 や協同組合等の非営利団体を活用しようという先駆的な構想も存在したが,そ        4) うした考えはむしろ少数派であったといえる。イギリスにおけるベバリッジ構 想に対するクラークの対案,合衆国における1965年の公的医療制度の確立過程        5) における,私立の慈善病院の機能をめぐる位置づけは,興味深い現代的論点を 提供しているがここではこれ以上立ち入らないことにする。  さて,集合的財やサービスの政府による供給という傾向は,必ずしもこれら のサービスを,消費者のニーズにもとづいて多様に,そしてまた効率的に供給 することに成功したとはいえなかった。さらに,70年代前半から各国で顕在化 した財政危機は,これらのサービスの公的供給そのものについても見直しを迫 ったのである。そこで従来公共部門をとおして供給されてきたサービスを,市 場原理にもとづいて供給するか,政府とも市場とも違う新たなチャンネルを通 して供給するかが問われたることになったのである。この点では,1987年の OECD報告は大変興味深く,そこでは従来公的部門が担ってきたが充分うま く供給されなかった集合的財やサービスを,どのようにすれば効率的に供給で       6) きるかについての各国の経験が総括されている。そして,市場原理にもとつく 3) Glennerster, H. (1985), Payingfor Welfare, Basil Blackwell.  4)Clark, K.(1955),VVelfare and Taxati’on(加藤清掻(1956)『社会主義と租税』日本評論社),  および池上惇(1984)『減税と地域福祉の論理』三嶺書房,参照。 5) Powell, W. W. ed. (1987) , The Nomprofit Sector, A Reseach Handbook, Yale UP.  6) OECD(1987), Mancrging and Financing Urban Services.

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       公益団体の財政分析   159 営利企業と並んで,協同組合やチャリティやボランティア団体等の公益性を担 った非営利団体が集合的財やサービスの供給主体として,高く評価されたので あった。すなわち,公益性を担った非営利団体は,市場システムでは供給が過 小になり,政府によっては画一的供給になりがちなサービスに対して,社会的 に必要な量のサービスを多様性と多元性のあるチャンネルで供給しうる可能性 を持っているものとして,注目されることになったのである。換言すれば,「市 場の失敗」と「政府の失敗」の両者を克服する可能性を持つものとして,公益       7) 性を担う非営利団体に対して,期待が寄せられたのである。  こうした戦後福祉国家再編過程における非営利団体への注目を基盤としなが ら,以下の3つの要因も,現代社会における非営利団体の新たな役割について       8) の注目を集めることになった原因である。  第1は,途上国開発における政府間援助の限界なかで, 「参加型開発」とい う新しい開発概念が登場し,その重要なアクターとして,非政府で非営利の団 体が脚光をあびていることである。世界銀行の1994年の報告書や,国連開発計 画の1993年版の『人間発達報告』は,開発計画における非政府で非営利の団体       9) の重要性を端的に指摘している。  第2は,環境破壊の深刻化のなかで,政府による対応に不満を感ずる人々が, 自らのイニシアティブを組織化するものとして非政府で非営利の団体を広範に 活用していることである。ナショナルトラストは,その中で最も成功したもの の一つといえよつ。 7) Bennett, R. J. (ed.) (1990), Decentralization, Local Government. and Market, Oxford UP,川口清史(1994)『非営利セクターと協同組合s(日本経済評論社),川野辺弘幸(1994)「フ ィランソロピーをめぐる問題と政府の役割」『行動科学研究』第45号,山内直人(1994)「フ ィランソロピーの経済分析」ESP,1994年9月号,北村裕明(1995)「社会的経済理論と 非営利団体」『国際公共経済研究』No. 6,参照。 8) Salamon, L. M. (1995), Paitners in lleeblic Service 一Govemament一 IVonProfit Relations in the Moderva Welfare State; Johns Hopkins UP. 9) The World Bank(1994), World DeveloPmemt RePort 1994, lnfrastracture for DeveloPmnet, Oxford UP, The United Nations Development Program(UNDP) (1993), Human DeveloPment RePort 1993, Oxford UP.

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 第3は,ソ連・東欧型社会主義の崩壊にともない,それらの国における社会 的必要性を満たす受け皿として非営利団体の活用が行われていることである。 東欧では,現在多くの財団や協会が急速に組織され,社会サービスの供給チャ       10) ネルの一つを形成しつつある。 III非営利団体の国際比較  さて,非営利団体の定義は,各国ごとで,また各論者で様々であり,非営利 団体に関する公的な統計も整備されているわけではない。表1は,ジョンズ・ ポプキンス大学を中心とした最新の共同研究の成果による,先進6ケ国の非営 利団体の国際比較を示したものである。そこでは,①非政府で,②非営利で, ③制度的形式性を整え,④自発性と,⑤自己決定機能を持っているという多く の非営利団体に共通の5つの特徴に加えて,⑥非宗教的であり,⑦非政治的で あるという制約条件を設けて非営利団体を定義し,各国ごとのデーターを整理    11) している。このデータには,いくつかの制約があるが,それをふまえつつも, これから読みとるべきは,以下の3点であろう。  第1は,事業支出構成にあらわれる,非営利団体の機能である。  それは各国で共通i生と多様性を持っていることとがわかる。事業支出構成の うち,文化・娯楽,教育・研究,医療・保健,社会福祉の上位4項目は,いず れも典型的な人的サービスであるが,各国とも70%∼90%と高い比率を占めて いる。他方,たとえば医療の公営化が進んでいたイギリスにおいて,非営利団 体の医療・保健に占める割合が低いことにあらわれているように,人的サービ 10) Yancey, J. & Siegel, D. (1994), ’The Re−birth of Civil Society 一 the Development of  the Non−profit Sector in the East and Central Europe and the Role of of Western  Assistance’, in Charities Aid Foundation ed., Researching the Volunta7 y Sector 2 nd  Edition. 11) Salamon, L, & Anheier, H. (1994), The Emerging Sector : the NonProfit Sector in  ComParative Pempectt’ve 一 An Overview 一, The Jhons Hopkins University  Comparative Nonprofit Sector Project,この国際比較研究の評価については,大住荘四  郎(1995)「民間非営利セクターの範囲に関する比較研究」『季刊・国民経済計算』No.16,参  照。

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公益団体の財政分析   161 表1 非営利団体の国際比較(単位:%) 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス イタリア 総:雇用者に占める比率 2.5 6.8 4.0 3.7 4.2 1.8 事業支出のGDP比率 3.2 6.3 4.8 3.6 3.3 2.0 事業支出構成 文化・娯楽 1.2 3.2 20.6 7.4 17.8 8.6 教育・研究 39.5 23.1 42.7 12.0 24.8 21.9 医療・健康 27.2 53.4 3.5 34.8 14.5 16.6 社会福祉 13.7 10.1 11.6 23.4 28.9 24.6 環境保全 0.2 0.7 2.2 0.3 0.7 0.2 住宅・地域開発 0.3 3.1 7.9 14.1 6.4 1.7 市民活動 0.9 0.3 0.7 1.1 2.9 2.2   } tィフンソロピー 0.3 0.4 0.7 0.2 0.0 1.0 国際活動 0.5 0.1 3.7 1.5 1.1 1.3 業界団体・労働組合 11.5 5.2 7.1 5.3 2.9 22.9 収入構成 政府補助金 38.1 29.2 39.8 68.2 59.5 43.1 事業収入 60.4 52.3 48.2 27.9 33.5 52.7 民間寄付金 1.3 18.5 12.1 3.9 7.1 4.2 〈出所>Salamon, L.&Anheier, H.(1994), The Emerging Sector: The IVonProfit    Sector in ComParative」PerSPective 一、A n Overview一,より作成。 ス供給にしめる政府の役割の程度によって,各国ごとに多様性が存在するとい えよう。したがって,非営利団体がどのような機能を果たしているかを中心と した機能論的アブP一チが重要であり,非営利団体の特性と,人的サービス供 給の特性の関係が問われねばならないことになる。  第2は,収入構成にあらわれる,非営利団体と他部門との関連である。  非営利団体の収入は,寄付金だけによるのでもなく,事業収入だけによるも のでもなく,各国ともかなりの比率の政府からの補助金によって賄われている。 これは,非営利団体が,孤立して存在するのではなく,公益性を担いつつ,個 人や企業や政府の社会的ネットワークの中でのみ,有効に機能しうることを示 しているといえよう。したがって現代社会における非営利団体の役割を分析す

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るには,非営利団体を個別に分析するだけでは不十分であり,政府や個人や企 業等との関係を中心としたネットワーク論的アプローチが重要となってくる。       12)  第3に,非営利団体財政分析における,寄付金の持つ質的重要性である。  表に示された寄付金の一定の額は,何らかの寄付控除を受けている寄付金で ある。寄付という行為をとおして公益性を持つ非営利団体に参加・貢献し,寄 付控除によって,税という迂回手段を経るのではなく,個人の選択によって直 接公益性を持った非営利団体のサービス供給に貢献するわけである。表が示す ように,アメリカ,イギリス以外は,寄付収入の割合はそれほど高いわけでは ないが,税を支払い政府を通して社会サービスを提供させるのではなく,直接 に寄付や労働を提供しそれを寄付控除として認めさせ,社会サービスを供給す るという方式は,公的欲求の実現の仕方と個人の支払いシステムとの関係に新       13) たな展望を与えるものである。  以上の点をふまえて,イギリスとB本の現実の分析する事にしよう。       14)        IV イギリスの公益団体と財政  前述したように,イギリスでは1979年の保守党政権以降,急速な民営化の受 け皿として,公益性を担った非営利団体の活用が,政府によってかなり明確に 12)寄付税制の理論と効果についての分析については,柴田弘文(1994)「フィランソロピー  活動課税についての一考察」『財政学研究』第19号,井堀利宏(1995)「寄付税制の経済分析」  『経済学論集』第61巻第1号,Kato, R.(1995)‘Economic Effects of Taxation on  Charitable Activities’,『彦根論叢』第292号,参照。 13)池上惇(1990)『財政学』(岩波書店)は,財政学体系のなかに,非営利団体の財政問題を  取り入れようとした,おそらく我が国では最初の試みである。そこでは,経費論において,  インフラストラクチャー整備の供給主体としての非営利団体の重要性を指摘し,とりわけ  「福祉の財政問題は国と地方自治体の財政だけででなく,社会福祉法人・財団法人・協同  組合・無認可施設など,福祉団体の財政と一体のものである」(同上書,154ページ)との  べ,租税論では,非営利団体への税制上の支援の必要性を, 「ソーシャル・ミニマムの設  定と自己実現のための機会を提供する非営利団体と加入者への税制上の支援は,税制から  みた公平の実質的基礎であるJ(184ページ)とのべている。 14)詳しくは,北村裕明(1993)「イギリスにおける公益寄付金税制の動向」『公益法人』第22  巻第7号,参照。

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      公益団体の財政分析   163 意識されてきた。  イギリスの場合は,チャリティ(charity)というかたちで,非営利団体が公 益団体として登録される。そしてチャリティとして登録されると,寄付税制を はじめとするさまざまな税制上の特典を得られることになる。そのためには, チャリティ委員会への届け出と認定が必要とされる。チャリティ委員会の委員 は,内務大臣の任命によるが,内務大臣からは直接の指示を仰ぐことはなく, その意味において政府から独立した機関である。政府から独立したチャリティ 委員会が,チャリティの登録と監督を行うという点は,他の国と異なるイギリ スの特質であるといえよう。  現在活動しているチャリティを機能別に分類すれば,医療,福祉,海外援助, 動物愛護,環境・歴史遺産の保全,宗教,教育,芸術が主たるものである。  チャリティの団体数は,1975年に12万団体であったが,1990年目は17万団体 に,15年間で約1.5倍増大している。年平均の増加率は,約3%程度で,着実 な増加といえる。イギリス経済にしめるチャりティの位置を1990年でみると, 収入は161.8億ポンドで,GDPの3.4%をしめ,雇用者数は43∼48万人で,総 雇用者数の2%程度となっている。表1の国際比較をした際の数値と異なるの は,国際比較の資料には,チャリテ4以外の非営利団体が含まれているからで ある。  表2は,チャリティの収入の推移を示したものである。1990年では,寄付金 が20%,料金収入が54%,政府補助金が6%,利子投資収入が15%である。料 金収入の中には,政府からの委託料が含まれているので,政府からチャリティ へ流れている資金は補助金の額よりかなり多くなる。どの程度,政府委託料と してチャリティに支払われているかについては,上位400団体の統計数値しか 利用できないが,1990年では政府補助金の全収入にしめる比率が19%にたいし て,政府委託料のしめる比率は21%であり,補助金の額をやや上回っている。  収入状況の推移をみると,1975年の料金収入の比率は34%であるので,この 15年間では料金収入の比率が急速に増大している。料金収入を金額ベースでみ ると,この15年間,年率12.4%の増加となる。また政府補助金のしめる比率は

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表2 チャリティ収入の推移:1975−1990(単位:百万ポンド,1975年基準の実額ベース,カッコ内%) 年平均成長率(%) 1975        1980        1985        1990 85−90 75−90 寄付金 683 (28)    455 (12)    695 (15)    873 (20) 5.1  1.9 料金 821 (34)   2455 (66)   2772 (61)   2344 (54) 一3.1 12.4 利子投資 523 (21)    453 (12)    505 (11)    673 (15) 6.7  1.9 政府補助金 175  (7)    295  (8)    497 (11)    270  (6) 一9.エ  3.5 その他 205  (9)     69  (2)    100  (2)     221  (5)      D 24.1  0.5 総額 2409(100)   3727(100)   4569(100)   4383(100) 一〇.8  5.5 〈出所>Carities Aid Foundation(1994), Researclaing the Volunta7Zy Sector,2nd   Edition,より作成。 1985年以降減少しており,それにかわって政府委託料が増加傾向にある。寄付 金収入のしめる位置は,1980年12%,1985年15%,1990年20%と着実に増加し ている。  こうした寄付金の増加を制度的に支えるかのように,1979年のサッチャー政 権の成立以降,イギリスの寄付税制は,急速に整備されて来た。次に,イギリ スにおける寄付税制の動向をみることにしよう。  まず,イギリス独特の寄付税制であるコベナント(covenant:継続的誓約 寄付)についてである。コベナントとは,3年以上(通常は4年以上)継続的 に寄付をするという誓約を取り交わした場合に,寄付者が寄付額を所得控除で きるのではなく,寄付されたチャリティが基本税率相当額分の税額の還付を受 けることができる制度である。したがって寄付を行っても,寄付した本人は税 制上のメリットを受けるわけではないのであり,寄付を受けたチャリティが, 寄付額に加えてそれに相当する税額を使用することができるのである。寄付に 関わる税額が寄付者に戻るのではなく,寄付された側が使用できるという制度 であり,通常の日本やアメリカの所得控除型の寄付税制とは異なるイギリス独 特の制度である。当然のことながら所得税は単一税率ではなく,イギリスの場 合は現在25%と40%の累進税率構造である。寄付者が基本税率を越える限界税 率を支払っている場合には,1979年までは基本税率と限界税率との差額は,政

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      公益団体の財政分析   165 府にとめおかれていたのである。  ところがサッチャー政権は,1980年財政法において,高税率帯救済(higher rate relief)制度を導入し,上限(3千ポンド)を設けながらも,40%の限界 税率が適用される寄付者の場合は,25%の基本税率分は従来どおり寄付された チャリティが税額の還付を受けるが,基本税率と限界税率の差額(40−25=15 %)は,寄付したものが還付を受けられるようにしたのである。さらに,高税 率帯救済制度の適用を受ける上限を83年,85年と引き上げ,86年には上限を撤 廃した。このように,寄付者の側にも税制上のインセンティブを与えるように,        15) コベナントを大きく変えたのである。  さらに,継続的寄付でなく単独寄付(gift aid)についても,コベナントと同 様に税額の還付をうけうる制度を,寄付額の上限と下限を設けて,法人につい ては1986年から,個人については1990年から導入し,91年に上限設定を廃止し た。また,給料天引き寄付(payroll giving)制度を,1987年から実施し,こ の制度を従業員のために利用しようとする雇用者は,内国歳入庁の認める代行 機関と契約を結び,従業員が自らの望むチャリティに給料天引きで寄付を行う 場合,一定の上限を設けつつ(発足時の87年には年120ポンド,90年には年600 ポンド),所得税の源泉徴収の際に,寄付控除を受けられるようにした。  寄付制度の変更にともなう寄付額の変化と制度改革の推移を見たのが,表3 ・4・5である。コベナントの総:額は,1979年に1億8千万ポンドだったもの が,91年には8億5千万ポンドと着実に増大している。単独寄付については, 91年1億6330万ポンド,92年2億4330万ポンドと急速に増大しており,潜在的 成長力は大きいものと予想されている。しかし,給料天引き寄付は,88年300 万ポンド,91年1100万ポンドと増加はしているが,額そのものはそれほど大き くはない。  ところで,このように寄付税制が整備され,また政府とチャリティとの業務 15)コベナト及び高税率帯救済制度については,Schuster,MD,(1983)’Tax Incentives for  Charitable Donations : Deeds of Covenant and Charitable Contribution Deductions’, POI>PO Working PaPer, No.71,が示唆に富む。

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表3 コベナント総額と免税額の推移(単位100万ポンド) コベナント額 免税額 関連税制改革 1979 180 55 所得税基本税率(BR)30%に 1980 200 60 継続寄付期間3年以上に 高税率帯救済(HRR)導入 1981 250 80 1982 300 95 1983 350 110 HRR上限緩和(年5000ポンド) 1984 400 130 1985 450 150 HRR上限緩和(年10000ポンド) 1986 500 170 BR29% HRR上限撤廃 1987 650 205 BR27% 1988 700 190 BR25% 1989 725 200 1990 825 220 コベナント制度の手続緩和 1991 850 240 〈出所>Inland Revenue(1993),Inland Revenue Statistics 1993, HMSO,より作成。 表4 単独寄付とチャリティへの税額還付の推移(単位:人,100万ポンド) 寄付者 寄付額 チャリティへの税額還付 個人  法人 総:額 個人 法人 総額 個人分法人分 関連税制改革 1990 P991 P992 2,560  190 S9,140 6,020 V3,100 8,050  7.5 5.3 2.2 P63.3 89.3 74 Q43.3147.1 96.2 2.5  1.8  0.7 T4.4  29.7  24.7 V2.7 40.6 32.1 制度導入 繻タ撤廃 コ限緩和 〈出所〉表3に同じ。 表5 給料天引き寄付と免税額の推移(単位:千人, 100万ポンド) 寄付者 寄付総額 免税額 関連税制改革 1987 55 1 0.3 制度導入,上限年120 1988 120 3 1 上限年240ポンド 1989 190 7 2 上限年600ポンド 1990 280 9 2 1991 300 11 3 〈出所〉表3に同じ。

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       公益団体の財政分析   167 委託契約が拡大すると,チャリティの財政責任や効率性の確保という問題が話 題にのぼってくる。1992年チャりティ法は,チャリティの財政責任や効率性の 確保という観点で,チャリティ委員会のチャリティへの監督権限を強めること を目的としている。  以上がイギリスの最近の状況であるが,こうしたチャリティへの注目は,サ ッチャー政権の民営化政策のもとでの政府機能の再編成と密接な関係を持ち, チャリティの性格を大きく変えようとしている。  確かに寄付税制の整備によって,チャリティの財源調達のチャネルは一方で は拡大したが,他方での民営化路線は,補助金の削減という形でチャリティ財 政を危機に追いやった。実際,地域において福祉サービスの供給の担い手であ った中小のチャリティは,サッチャー政権下において,地方政府からの相次ぐ        16) 補助金削減によって,かえって運営の困難に直面したのである。また,比較的 使途を特定しない政府補助金から,業務委託契約にもとつく政府委託料への政 府資金のシフトの影響を最もうけた住宅協会(Housing Association)の事例 を分析してみると,住宅協会管理下の家賃が急上昇していることが明らかとな る。このことは,従来社会的弱者へのニーズに応えてきた住宅協会が,中産階 級のための住宅供給機関となり,従来の機能を果たすことが困難になってきて       17) いることを端的に示している。  こうしたチャリティの役割の変化は,第3期サッチャー政権が提起した,新 しい地方自治像「条件整備型団体」(enabling authority)という政策提起の帰 結として理解することができる。「条件整備型団体」とは,地方政府が,直接 にサービスを提供するのではなく,何者かがそのサービスが供給できる条件を 整備する役割を担うべきだという意味である。サッチャー政権にとっての条件 整備とは,市場メカニズムが充分に機能するようにということを意味する。し たがって,市場メカニズムを機能させるために,まず公共部門が縮小が試みら 16)詳細は,右田紀久恵・吉原雅昭(1993)「社会福祉政策」君村昌・北村裕明編『現代イギ  リス地方自治の展開』法律文化社,参照 17) Gibb, K & M. Munro(1991), Housing Finance in the UK, Macmillan.

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れ,政府補助金の削減と,政府委託料への政府資金のシフトいう形でチャリテ ィが再編され,寄付税制が整備されたのである。これに対して, 「条件整備型 団体」とは,地方政府が,地域社会が再建されるように条件整備することが重 要であり,その重要なアクターとしてチャリティや各種のコミュニティ団体に 権限を与えることが大切なのだという反論が加えられる。この場合には,寄付 税制や,政府委託料とならんで,政府補助金が,チャリティ財政の重要な位置 をしめることになる。ここに,市場条件整備型か,地域社会再建型かという条 件整備型団体をめぐる2類型が登場することになり,非営利団体を市場原理に 合わせて再編活用するのか,地域におけるさまざまなコミュニティ団体や非営 利団体を活用して地域社会再建のために再編するのかが,新しい論点として提        18) 起され.ることになったのである。 V 日本の公益団体と財政  さて日本において,公益法人格が認められているのは,民法第34条にもとつ く,財団法人・社団法人か,個別立法による,社会福祉法人,学校法人,医療 法人,宗教法人である。しかし日本では公益性を担った非営利団体が,公益法 人としての法人格をえることは他の先進各国に比して困難…であり,多くの団体 が任意団体として活動しているのが現状である。他方,公益法人の財政状況を マクロ的に総括したような公的統計資料は,一部をのぞいては公表されていな い。また日本における非営利団体の規模と財政状況とを総括したような,公表 されている統計資料も,国民経済計算の際の推計値が,限定的ながら利用可能 な数少ないものである。  こうしたなかで,本間正明教授の研究グループの推計と,笹川平和財団のア ンケートにもとつく推計が,日本の非営利団体及び公益団体の最近の状況をあ らわした利用可能な数値でである。  前者は,表1に示した共同作業の一環として行われたものであるが,そこか 18)条件整備型団体をめぐる論点については,北村裕明(1993)「地方自治改革の国際的展開  とイギリス地方自治」君村・北村編,前掲書,参照。

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      公益団体の財政分析   169 ら浮かび上がってくる日本の非営利団体のマクロ的状況は,①1989年ベースで, 国民経済にしめる割合は,経常支出で16兆3015億円で,全消費支出の5.96%, 雇用者は144万人で,総:雇用者の2.35こ口あり,②機能的には,医療・健康, 教育・研究,社会サービス,経済・労働が主要なものであり,③収入は,料金 ・事業収入49.9%,会費収入15.6%,政府補助金17.2%に対して,民間からの       ユ9) 寄付収入はわずかに1.3%にすぎないということである。表1の国際比較統計 が示すように,寄付収入の著しい低さと,料金・事業収入と会費収入への依存 度の高さが,日本の特徴点として浮かび上がってくる。  なぜこのように寄付金が少ないのかについては,統計上の不備を含め様々な        20) 原因を指摘することができるが,大きなものは次の二つである。  第1は,日本では,法人に比べ個入が寄付を行った場合に,税制上の特典を 受けられる機会が,きわめて限られているということである。個人の場合には, 特定寄付金の場合のみ,所得の25%マイナス1万円の範囲で,所得控除が認め られる。特定寄付金とは,国や地方自治体への寄付金,指定寄付金,特定公益 増進法人への寄付金である。それに対して,法人の場合には,特定寄付金以外 に一般寄付金という名目で,一定限度内で(資本金の0.25%に当期所得金額の 2.5%を加えた額の50%),寄付金の損金算入が認められている。たとえば,政 治資金や各種の協賛金なども,一般寄付金として損金算入が認められている。 さらに,特定寄付金についても,指定寄付金や,国や地方自治体への寄付金は, 全額損金算入されるし,特定公益増進法人への寄付は,一般寄付金の損金算入 限度枠と同額の損金算入を認められている。このように,法人の場合には個人 に比べて,寄付への税制上のインセンチKブが働きやすい構造になっている。 19)本間正明編(1993)『フィランソPピーの社会経済学』東洋経済新報社,雨森空悦・太田  美緒・山田武・古田直澄(1994)『民間非営利セクターの規模推計一その1:推計方法につ  いて・その2:推計方法と推計結果一』Discussion Paper Series, J−042, J−043,帝塚山大  学経済学部,参照。 20)公益法人・公益信託税制研究会編(1990)『フィランソロピー税制の基本的課題』公益法  人協会,雨宮孝子(1993)「フィランソロピー税制の現状と課題」林雄二郎・山岡義典編『フ  ィランソロピーと社会』ダイヤモンド社,参照。

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 第2は,寄付金の免税団体が限定されていることである。指定寄付金以外で, 寄付金の免税団体になるためには,現在,特定公益増進法人となるしか道はな い。特定公益増進法人は,所得税法施行令・法人税法施行令の中で限定的に定 められており,日本赤十字社等の22の特殊法人,民法上の公益法人のうち,個 別に列挙された41団体と,主務大臣が認定した800余りの団体,それに学校法 人および社会福祉法人である。公益法人格を持っていない非営利団体は,そも そも免税団体になるチャンスさえない。イギリスの場合には,チャリティ委員 会に登録されれば,免税団体となりうることと比べて,日本の場合は,きわめ て免税団体が限定的といえる。  他方,笹川平和財団の行った推計は,民法34条の公益法人,すなわち社団法 人と財団法人に限定し,アンケートにもとつくものである。社団・財団は,支 出でみるとGDPの2.7%,事務局人数で総雇用者の0.4%をしめると推計され 表6 設立年代別・目的別公益法人(財団・社団)数 1974年以前 1975∼84年 1985∼90年 合計 典型型 4452(49.3%) 1463(40.8%) 860(40.9%) 6675(45.4%) 中間法人 @親睦団体型 @業者団体型 @小  計 924(10.0%) Q049(22.2%) Q973(32.2%) 228(6.4%) V10(19.8%) X38(26.1%) 69(3.3%) S05(19.3%) S74(23.5%) 1221(8,2%) R164(21.2%) S385(29.4%) 行政補完型 1018(11.0%) 764(21.3%) 528(25.1%) 2310(15.5%) 特別法型 75(0.8%) 125(3.4%) 107(5.1%) 307(2.1%) そ の 他 710(7.6%) 292(8.2%) 133(6.3%) 1135(7.6%) 計 9228(100%) 3582(100%) 2102(100%) 14912(100%) 〈出所〉総務庁行政監察局編(1992)『公益法人の現状と課題』大蔵省印刷局,より作成。 ている。しかし,日本の社団や財団が,公益団体として大きな問題を持ってい       21> ることは,総:務庁行政監察局の報告書の中でも明示されている。この報告書で 21)総務庁行政監察局編(1992)『公益法人の現状と課題』大蔵省印刷局

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       公益団体の財政分析   171 は,表6に示すように目的別に社団や財団を分類し,業者団体型が21.2%,行 政補完型団体が15.5%をしめ,典型型の公益法人は,社団や財団のわずか45.4 %にすぎないと指摘している。しかも設立団体の最:近の傾向は,典型型が減少 し,行政補完型や特別法型が増加している。行政補完型財団の増大は都道府県 所管ではさらに多く,1985∼90年前設立されたものの35.2%を占めている。19 80年半以降進行した「行政改革」の一つの結果が,行政補完型財団の急増であ ったといえよう。  こうした日本の公益法人の状況は,社団や財団が,主務官庁等によって認可 され監督されているということに密接に関係をもつ。すなわち,関連の中央省 庁あるいは都道府県の知事部局等が,社団や財団を認可・監督するわけである。 主務官庁方式の主たる問題点は,第1に,認可が限定的になること,第2に, 認可や監督が省庁の権益化し政策遂行の手段となること,第3に,一元的な管 理ができないことなどである。公益的な機能を果たしている多くの非営利団体 が,法人格を取得できず,任意団体として税制上の特典を受けられなかったり, 昨今の公益団体をめぐる不祥事の頻発は,主務官庁方式の認可・管理にひとつ は起因するといえよう。     表7 大津市老人保護措置事業費の推移(単位:千円) 利用者分担金 (%) 国庫負担金 (%) 県負担金 (%) 市負担金 (%) 総事業費 (%) 1984年 26,266 7 267,548 74 893 0 66,162 18 360,869 100 1985年 19,130 5 266,900 67 1,749 0 112,790 28 400,569 100 1986年 27,062 6 227,192 47 4,291 1 223,158 46 481,703 100 1987年 40,900 8 226,202 46 6,186 1 220,342 45 493,630 100 1988年 55,475 11 223,940 44 2,729 1 221,489 44 503,633 10⑪ 1989年 59,890 11 242,799 44 5,931 1 237,367 43 545,987 100 1990年 74,042 11 297,857 44 6,462 1 292,756 44 671,117 100 1991年 81,471 12 311,624 44 6,651 1 306,115 43 705,861 100 1992年 123,198 15 357,400 43 5,422 1 353,271 42 839,291 100 1993年 141,484 15 408,103 43 5,119 1 404,585 42 959,291 100 1994年 229,123 18 515,506 41 6,111 0 510,761 40 1,261,501 100 1995年 303,408 23 516,617 38 8,518 1 513,906 38 1,342,449 100 〈出所〉『大津市予算説明書」各年版,より作成。

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 財団・社団以外の公益法人財政をみると,社会福祉法人に関していえば収入 の大半が,措置費を中心とした国庫負担金とその他の政府補助金でしめられて おり,そのあり方が問われている。表7は,近年急速に需要が高まってきた特 別養護老人ホーム・養護老人ホーム等の運営の収入の傾向を,老人保護措置事 業費の推移として,大津市に限定してみたものである。この12年間で総事業費 は3.7倍に急増している。こうしたなかで,利用者の負担比率は,度重なる費 用徴収制度の改正によって,7%から23%に3倍に増え,国の負担率は,1985 年の福祉関係国庫負担金負担率の削減により,74%から38%に半減し,大津市     表8 私立大学(昼間部)の科目別収入構成比の推移 一般収入 事業収入 借入金等 合計 学生納付金 手数料 寄付金 補助金 資産運用 資産売却 雑収入 1985年 66 40.8 2.8 2 10 3.8 5.6 1 24 9.9  100 1986年 66.4 41.1 3 2 9.5 3.6 6.2 1 25 8.6  100 1987年 66.4 41.2 3.2 1.7 8.9 3.2 7.1 1.1 25.5 8.1  100 1988年 67.7 41.9 3.6 2 8.7 3.2 7.1 1.エ 25.3 7   100 1989年 67.9 43.8 4.1 2.1 8.6 3.7 4.3 1.2 26.1 6  100 1990年 69.4 44.4 4.3 2.2 8.5 4.8 3.7 1.3 25.6 5.1  100 1991年 69.2 44.8 4.2 2.2 8.ユ 4.9 3.6 1.3 24.9 5.8 100 1992年 68.4 46.7 4 1.9 7.9 3.5 3 1.4 26.2 5.4 100  〈出所〉文部省『私立学校の財務状況に関する調査報告書』各年版,より作成。 の負担は,18%から38%に倍増している。老人保護措置事業にかかわる社会福 祉法人財政の近年のひとつの特徴は,地域間の多様性をふまえつつも,利用者 の分担金の急増,国庫負担金の減少,地方自治体負担の増大であるといえよう。  学校法人財政でもこうした傾向は伺えるのであり,表8は,私立大学の近年 の収入構成の推移を示したものである。学生納付金や手数料等の利用者=学生 の利用料の比率が増大しているのに対して,政府補助金の減少を見て取ること ができる。しかも,表9が示すように,この1980年から1992年の13年間で,私 立大学の経常的経費にしめる経常費国庫補助金の比率は,29.3%から12.3%へ 急減しているが,経常費補助金総額が横ばいの中で,特定補助金が増大し,一 般補助金が減少しているのである。

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      公益団体の財政分析   173 表9 私立大学経常費国庫補助金(実績額)の推移等  (単位:億円,%) 年度 経常費補助 熨濠z a

一般補助 特別補助

経常的経費 @   b a/b 1980 2,580 2,507 73 8,818 29.3 1985 2,428 2,322 106 12,741 19.1 1990 2,506 2,249 257 17,934 14.0 1991 2,578 2,244 334 20,518 12.6 1992 2,628 2,246 382 21,359 12.3 1993(予算) 2,733 2,258 475 〈出所〉総務庁行政監察局編(1995)『大学行政の現状と課題』大蔵省印刷局 VI おわりに  公益団体の財政問題は,集合的財やサービスの供給システムの改革と不可分 の関係を持っている。公益性を担う非営利団体は,一方では市場原理にまきこ まれ,他方では政府の規制を受けて活動せざるを得ず,「市場の失敗」と「政 府の失敗」を克服しえたかどうかは,こうした営利性と官僚性とを規制する制 度的条件を確立し得たかどうかにかかっていることは,イギリスと日本の状況 が示すとおりである。日英比較を通して明らかとなる日本の非営利団体の問題 点は,以下の2点である。第1は,政府から独立したチャリティ委員会による 登録と監督のイギリスに対して,主務官庁による認可と監督という日本の方式 が,日本の公益法人を限定的で政府行政補完的なものにし,いわゆる市民公益 活動団体が任意団体として活動せざるをえなくしていることである。第2は, 寄付税制に関しては,日本では個人寄付の取り扱いがきわめて限定的であるこ とである。  いずれにせよ公益団体の財政問題では,非営利団体が担う公益性をどのよう に制度的に評価するかをベースとしつつ,政府補助金と料金と寄付金の関係が 鍵となるといえよう。とりわけ,補助金から委託料への政府資金のシフト,寄 付税制の整備のあり方,公益団体や非営利団体の財政責任の確保等が重要な論

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点である。  寄付やボランティア労働によって非営利団体が運営され,それを公益性を持 つものとして社会が認め,寄付税制や補助金制度を整備し,そうした組織をと おして社会サービスが供給されるということは,従来の,税を支払い政府によ って社会サービスを提供させることとは明らかに異なっている。これはアマル ティア・センの言葉を借りれば,利己心と共感というレベルから,さらに一歩 進んで,コミットメントのレベルに到達しており,人間の自己実現欲求の高次       22) の段階であるということができるのかもしれない。  しかし,こうした非営利団体をめぐる価値レベルの話と,現実の非営利団体 や公益団体の実態のレベルには大きなギャップがあることはいうまでもない。 そしてそのギャップを克服する鍵は,前述したように営利性と官僚性を規制す る制度と運動にかかっており,その点は,現在活発に活動している多くのボラ        23) ンティア団体,市民公益団体の指摘するところでもある。 22) Sen, A(1977), ’Rational Fools : A Critique of the Behavioural Foundations of  Economic Theory, in Philosophy and Public Affairs(大庭・川本訳(1989)『合理的な愚か  者』勤草書房),吉川英治(1995)「潜在能力アプローチからみた社会保障の概念」『彦根論叢』  第292号,参照。 23)㈹奈良まちつくりセンター編(1994)『市民公益活動基盤整備に関する調査研究書(NIRA  研究報告書)』総合研究開発機構,参照。

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