日本の民間福祉事業と寄付制度
はじめに 政府が目下推進 している 「社会福祉基礎構造改革」は,わ が国の社会福祉制 度を民間ベースの利用契約型に再編成 しようとするものである。利用契約型 と は,従 来の公的責任による措置制度を廃止 し,民 間事業者 とサービス利用者の あいだの契約関係 を基本 とし,行 政は利用者 もしくは事業者に一定の補助金を 支出するものである。これに合わせて,社 会福祉法人の設立要件を緩和 したり, 生活協同組合やNPO(民 間非営利組織),さ らには営利企業の事業参入を認 めるなど,福 祉サービスの民間供給組織を多様化 してい く,い わゆる 「福祉多 元主義」の方向での改革がめざされている。 しか しなが ら,従 来措置制度のもとで公的資金に経営財源の大半を依存 して きた民間社会福祉法人や新たに福祉サービス事業に取 り組 もうとするNPOな どにとつては,事 業による料金収入 と行政からの補助金以外に,新 たに自前の 財源を確保することが重要な課題 となつて くる。低所得者や貧困者の利用が相 対的に多い福祉サービスでは,料 金収入には自ずから限界がある。やはり行政 からの補助金が重要な財源 とならざるをえないが,民 間としての独立性や自律 性を保持するには一定の自前の財源が必要である。 こうしたことから,民 間社会福祉法人や福祉NPOが 自前の財源を確保でき る環境づ くりが求められる。福祉NPO事 業が盛んなイギリスやアメリカの状 況を見ると,継 続的で安定 した財源 として寄付金の存在が大 きい。英米では寄 付優遇税制の仕組みともあいまって寄付金収入が民間福祉財源のかなり大 きな 割合を占めている。 しか し,わ が国では,そ うした寄付財源の確保が果たしてうまくい くであろ 夫 龍 瀬 成2 滋 賀大学創立5 0 周年記念論文集 ( 第3 2 1 号) うか。その不安材料 は少 な くない。第 1に ,す でにわが国には,共 同募金 を柱 とした社会福祉法人 関係 の寄付税制が半世紀 も前か ら存在 しているが,そ の実 績 は必ず しも大 きく評価で きない。第 2に ,わ が国で も最近NPO法 が制定 さ れたが,NPOへ の寄付税制の適用 は実現 しなかった。第 3に ,寄 付 は寄付税 制 とい うハー ドな面が整備 されただけでは十分 といえない。他方で寄付文化 と い うソフ トな面が発達 していなければならなぃが,わ が国ではそれはまだ潜在 的な可能性の段階にとどまっている。 小論では,他 国の福祉寄付 の状況や寄付税制 を視野 に入れなが ら,わ が国の 共同募金の性格 と役割 を概観 し,今 後の福祉寄付制度のあ り方 を考えてみたい。 I 英 米 日の福祉寄付 と寄付税制の状況 民 間福祉組織 に寄付がなされる社会的なインセ ンテ ィブの最 も有力 な手段 は 寄付優遇税制である。福祉寄付 はまた寄付税制 に最 もな じみやすい。 さまざま な寄付 のなかで も,福 祉寄付 はその公益性が認め られやす く,税 制上の優遇措 置 を適用する社会的な合意が成立 しやすいか らである。一般 に公益法人に関す る税制は,寄 付 を受贈益 と見 な して非課税扱い とする措置を備 えているが,福 祉 や教育 に関連する公益法人は公益性の程度が とくに高い との理由で,多 くの 国が寄付 に対する優遇措置 を厚 くしている。 まず,英 米 と日本の福祉寄付お よび寄付税制の状況 を比較 しておこう (第1 表参照)。イギ リスは,古 くか ら福祉寄付制度の伝統 を有 し,社 会保障制計画 を推 し進めた戦後 も福祉寄付制度の整備 に力 を注いで きた。アメリカもまた, 活発 な民 間福祉活動 とそれを支える福祉寄付制度が発展 して きた。 日本の福祉 寄付制度の特徴 を知 る上で,そ れ らの国々 との対比が有意義であると 1)英 米 国の民 間福祉財源 と寄付制度 については,中 央共同募金会 『日米英民間財源比較調 査研究報告書』1997年3月 ,参 照。なお,現 在世界 には, 日本の共同募金会,イ ギ リスの チ ャリテ イ援助財団,ア メ リカのユナイテ ッ ド ・ウエ イを含め,34カ 国に共同募金運動の 組織がある。 欧米諸国 と日本のNPOに おける民間寄付 の状況 については,ジ ョンズ ・ホプキ ンス大 学非営利 セ ンター国際比較 プロジェク ト研究の成果の一部 をまとめたLester M.SalamOn &Helmut K.Anheier,The Emerging Sector,1994(今 回忠監訳 F台頭す る非営利 /
第 1 表 日 米英三国募金 団体 の比較 \セクター』ダイヤモン ド社,1996年),各 国の寄付税制については,石 村耕治 「欧米主要 国のNPO法 制 と税制」Fジュリス ト』No.1105,1997年2月 1日号,参 照。 国 名 1 日 本 │ ア メ リカ │ イ ギ リス
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=135円 として計算) 11ポ ン ド=225円 として計算) │ │(1996年 度) │(1995年 度) 募金の単位 1各 都道府県 47募 金会 1通 常通勤圏市域,2200募金会 1全国 募金の期間 1通 常10月1日 ∼12月31日 1募 金会によって果なるが 9月 1年間常時 │ つ o l寄 付 者 とチ ャ リテ ィの 間 には, i4年 継 続 の 寄 付 誓 約 (コベ ナ │ン ト)を 結 ぶ 場 合 と 1回 限 り 1250ポ ン ド以 上 の 寄 付 を行 う │(ギ フ トエ イ ド)場 合 が あ る。 (出所)中 央共同募金会 『日米英民間財源比較調査研究報告書』1997年3月 ,247ペ ージ。4 滋 賀大学創立5 0 周年記念論文集 ( 第3 2 1 号) <イ ギ リス >
イギ リスでは,民 間の公益組織 は 「チ ヤリテ イ」 と呼 ばれて きた。チ ャリテ イ は,宗 教 の振興 ,教 育 の振 興 ,貧 困者 の救 済,コ ミュニテ イに利益 のあ る活動 とい う4つ の類型 に分類 されている。現在,チ ヤリテ イ税制 として①継続的誓 約寄付 (Covenant)②給料天引 き (Payroll Giving Scheme)③単独寄付 (Gi血 Aid)と い う3種 類が存在 し,寄 付 の優遇措置が とられている。寄付者 は,寄 付す る際 にいったん所得税 を支払 うが,後 になって非課税相当額が還付 される。 継続的誓約寄付制度 は,イ ギリスの伝統的な公益寄付金制度で,寄 付者はチヤ リテ イに対 して数年 にわたる寄付 を継続することが義務づけられている。1960 年のチ ャリテ イ法で,チ ヤリテ イ委員会がチ ヤリテ イの登録,監 督,指 導 を行 う機 関 として認め られ,チ ャリテイ委員会 に登録 された団体 に対する寄付の優 遇措置が 自動的に認め られるようになった。1987年の財政法改正で導入 された 給料天引 き制度 と1990年に導入 された単独寄付制度 は,サ ッチ ャー政権が福祉 補助金 を削減す る代 わ りに寄付優遇税制 を拡大 して民間福祉財源の確保 をはか ろ うとした経過がある。 給料天引 き制度 は,雇 用主が この制度 に加入する と,寄 付 を希望する従業員 が月 5-50ポ ン ドを給料か らの天引 きで支払 う方法である。単独寄付制度は, 個人が行 う 1回 限 りの寄付 について寄付金額 を課税控除 し,法 人が行 う寄付 は 損金参入 を認 め る もので,個 人 ・零細企業 は250ポン ド,一 般企業 は支払い配 当の 3%と い う寄付額の下限が設 け られてる。イギ リスでは,以 上の事務手続 きが複雑であることか ら,チ ャリテイ援助財団が事務手続 きを全面的に代行 し ている。 次 に,チ ヤリテ イの実績であるが,1995年 度で 1億 250万ポ ン ド,イ ギ リス の人口数は 日本の半分ほ どにもかかわ らず,日 本の共同募金 に匹敵する額であ る。先 ほどふれたように,チ ヤリテイには 4つ の類型があるのですべてが福祉 分野 に向け られているわけではないが,配 分の対象の うち障害者福祉,青 少年 ・児童福祉,老 人福祉,地 域福祉育成,生 活困窮者育成の部分 を合計すると募 2 ) 金額の半分近 くが福祉分野 に配分 されている。
< ア メ リカ>
アメリカでは,連 邦税法 (内国歳入法典)に おいて,公 益性の高い団体への
寄付金の所得控除 ・損金参入が認められている。法典501条⑥(3)は
,「公益団体」
を,「専ら宗教,慈 善,学 術,公 共安全の検査,文 芸又は児童若 しくは動物虐
待防止の 目的で設立 されかつ運営 されている法人及びあ らゆる地域共同募金, 地域共同体募金若 しくは地域共同体財団」 と規定 している。法典は,こ れ らの 団体 をさらに 「公益増進団体」 と 「私立財 団」 に区分 し,前 者 により有利 な税 制上の措置 を適用 している。「公益増進団体」 にあっては,個 人の寄付 は,所 得 の50%ま で所得税 の課税対象所得 か ら控 除 され,法 人の寄付 は,所 得の10% まで法人税の課税対象所得か ら控除 される。また,そ れ らの団体では投資収益 が非課税である。 こうした税制上の優遇措置 を受けている福祉関連の公益増進団体 として代表 的な存在 はコミュニテ イ財 団 (Community Foundations)とユナイテ ッ ド ・ ウエ イ (United Way)で ある。 コミュニテ イ財団は個人募金 を中心 とし,ユ ナイテ ッ ド ・ウエ イは全 国に2200の募金会 を擁 し,法 人募金 と職域募金 を展開 している。後述するように,ユ ナイテッド・ウエイは,か つては 「コミュニテイ ・チェス ト」 という名称で呼ばれ,戦 後 日本の共同募金のモデルにされた組織 で もある。 ユナイテ ッ ド・ウエイの募金方法の特徴 は,職 域での給料天引 き方式や企業 と従業員のマ ッチ ング ・ギフ トに重点 を置いている点 にあるが,そ の実績は31 2)ジ ョンズ ・ホプキ ンス大学非営利 セ ンター国際比較 プロジェク ト研究 によれば,イ ギ リ スの社会サー ビス分野の非営利 セクターの収入源 は公的収入26%,会 費 ・事業収入350/o, 民 間寄付40%と ,寄 付 の割合が最 も高 く,民 間福祉活動の基本的な財源 になっていること が うかがわれる。他方 アメ リカも,公 的収入51%,会 費 ・事業収入21%,民 間寄付28%と い う割合 になってお り,民 間寄付 の比重 は高い。 (邦訳,前 掲,194ベ ージ。) NPOに とって,寄 付収入は最低限 どの程度必要であろうか。サ ラモ ンとアンハ イアー は,「非営利 セ ンターに適度 な独立性 と自律性が保障 されるには,民 間による公益活動支 援 の強力 な基礎 を確保す る必要がある」 としなが ら,そ のために必要な民間寄付の レベル を特定す ることはむずか しく,結 局各国の状況か ら見て10°/0を大 きく下回る レベルでは, 「健全 で生 き生 きとした非営利 セ クターにとって必要 と思 われる財政的 『ク ッシ ヨン』 に はおそ らく不充分である」 と指摘 している (邦訳,前 掲,172-173ベージ)。6 滋 賀大学創立5 0 周年記念論文集 ( 第3 2 1 号) 億 1000万 ドル (1994年。邦貨換算3804億円)に 達 し,日 本 の共 同募金 の14倍以 上 にの ぼ ってい る。 その うちの約60%が 家族福祉 ,青 少年育成 ,食 糧 ・衣料 ・ 住居給付 ,デ イ ・ケ ア,地 域福祉 育成 な どの分野 に配分 されてお り,地 域社会 の民 間福祉財 源 の調達 に大 きな役 割 を果 た している。 <日 本 > 日本 の福祉 寄付税制 は,寄 付 者 が法 人か個 人かの区別 に加 え,寄 付 の受入 れ 機 関が共 同募 金 会 か社 会福 祉 法 人 か に よる区別 が あ る (第 2表 )。 第 2表 社 会福祉事業 に関する寄付金 と税制の総括図 の 関 金 機 付 入 寄 受 共 同 募 金 会 社 会 福 祉 法 人 根 拠 大蔵省 告示 第1 5 4 号第4 号 大蔵省告示 第1 5 4 号第4 号 の 2 法会税法 第3 7 条 所得税法 第7 8 条 寄 付 の 時 期 10月1日 か ら12月31日まで 左の期間以外及び左 の 期間中で も計画以外の もの 随 時 寄 付 者 法 人 個 人 法 人 個 人 法 人 個 人 承 認 の 手 続 その年の各都道府県共 同募金会の配分計画に 基づ き中央共同募金会 が申請 し,大 蔵大臣が 使途内容の確認の上一 括承認す る。 当該配分計画 に基づ き 配分 される寄付金の総 額 が1 0 0 万円未満 であ る場合は,当 該都道府 県共同募金会が,ま た その総額 が100万円以 上である場合は中央共 同募金会 に設置する審 査委員会が審査 し,承 認す る。 必 要 な 税 制 上 の 優 遇 措 置 寄 付 金 の 使 途 と 福 祉 事 業 第 一 種 社 会 経 常 費 額 D 全 健 定 額 (注2) 全 額 定 額 額 め 倍 住 定 額 臨 時 費 全 額 定 額 全 額 走 額 福 祉 事 業 第 二 種 社 会 経 常 費 全 額 定 額 全 額 定 額 臨 時 費 / E X 額 定 額 全 額 定 額 ( 注1 ) 「全額」 とは, 法 人税法第3 7 条に基づ き全額損金算入を認められる寄付金の額 をいう。 ( 注2 ) 「定額」 とは, 所 得税法第7 8 条に基づ き, 次 の算式により算定 した寄付金控除の対象 となる寄付 金の額 をいう。 寄付金控除= 寄 付金額 と年間所得の2 5 % の どちらか低い方の金額- 1 万 円 ( 注3 ) 「倍額J と は, 法 人税法第3 7 条に基づ く寄付金の損金算入限度額 と同額 まで別枠で損金算入で き る額をいう。 ( 出所) 中 央共同募金会調べ。
日本の民間福祉事業と寄付制度 7 法人税法では,会 社等の普通法人への寄付金 には損金算入 に制限があるが, 例外 として国 ・地方公共団体や公益法人への寄付で国が 「指定寄付金」 として 認 めた ものは損金算入 を無制限 としている (法人税法第37条第 3項 第 1号 )。 指定寄付金 とは,「広 く一般か ら募集 され,公 益の増進が著 しい として大蔵大 臣が指定 した寄付金」 の ことで,大 蔵大臣が,募 金の目的や募金団体の事業内 容,日 標額,募 集区域 と対象,募 金の機関などを指定 して,官 報 に告示する。 中央お よび各都道府県の共同募金会への寄付 はこの指定寄付金の対象の 1つ と なっている。 また法人税法では,指 定寄付金 とは別 に 「特定公益増進法人」ヘ の寄付の規定 (第37条第 3項 第 3号 )が あ り,一 般の損金算入額 と同額 までを 別枠 で損金算入で きることに している。特定公益増進法人 とは,「教育又 は科 学の振興,文 化の向上,社 会福祉への貢献その公益 の増進 に著 しく寄与するも の」で,社 会福祉法人 もこれに該当するもの とされている。 したが って,法 人の場合,共 同募金への寄付 は指定寄付金 として全額損金算 入,社 会福祉法人への寄付 は特定公益増進法人への寄付 として一般の損金算入 額の 2倍 の損金算入 となる。 この ように,法 人の場合は,社 会福祉法人に直接 寄付す るよ りも共同募金会 に寄付 した方が,損 金算入の点で有利 となっている のが特徴 である。 個人の場合 は,大 蔵大臣が指定 した寄付金や特定公益増進法人に対する寄付 金 は,所 得税法で 「特定寄付金」 (所得税法第78条第 2項 )と して優遇措置が あるが,社 会福祉法人に直接寄付 して も各都道府県の共同募金会に寄付 して も, 優遇措置は同 じである。定額控除方式 となってお り,「寄付金額 (年間所得の25 %を 上限)-1万 円」の所得が課税対象所得か ら控除される。住民税 は,寄 付 者が,在 住す る都道府県の共同募金会又 は 日本赤十字社 に寄付 した場合,「寄 付金額 (年間所得の25%を 上限)-10万 円」の額がイ団人住民税の課税対象所得 か ら控除 される (地方税法第34条 5の 4)。 社会福祉法人への寄付 は,個 人住 民税 の控除はな く,こ こで も共同募金への寄付が優遇 されている。 他方,社 会福祉法制では,社 会福祉事業法が民間社会福祉事業組織 として社 会福祉法人,共 同募金,社 会福祉協議会の 3つ を規定 し,こ の うち共同募金 に
8 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) ついて区域や目的,配 分先,配 分 を受けた団体の寄付活動の規制,な どを定め ている。このようにわが国では,福 祉寄付 について,税 制上の扱いだけでな く, その受入れ組織 と活動 を社会福祉法制で制度化 している点 に特徴があると 共 同募金 の平成 9年 度 の全 国実績 は260億7424万円,そ の内訳 は一般募金が 176億6290万円 (67.8%),歳 末募金が84億1133万円 (32.2%)で ある。 1人 当 た り平均寄付額208円, 1世 帯当た り平均寄付額573円となっている。 さらに一 般募金の内訳 は,戸 別募金 (68.5%),街 頭募金 (2.8%),法 人募金 (16.6%), 学校募金 (2.3%),職 域募金 (4.7%),興 行募金 (0.4%),そ の他 (4.8%) となってお り, 7割 近 くが戸別募金で占め られている。 平成 9年 度 の募金の配分 は,地 域配分81,2%,福 祉団体配分4.0%,福 祉施 設配分13.0%,そ の他1.8%と なっている。地域配分 とは,社 会福祉協議会の 事業費や同協議会 を通 じての地域福祉活動 を行 う諸団体への配分である。共同 募金の配分の 8割 を社協関係が占めてお り,共 同募金 と社会福祉協議会の緊密 な関係 を示 している。 以上の ような英米 国の状況 を比べてみると,次 のような諸特徴が指摘 される。 まず第 1に ,イ ギ リスは寄付者への税の還付方式であるが,日 米は寄付者 に 対する非課税方式である。第 2に ,英 米では 「使途選択募金 (ドナーチ ョイス)」, す なわち寄付者 による寄付先の選択が可能な仕組み となつているが,日 本では そ うした仕組みはほとんど工夫 されていない。第 3に ,ア メリカでは給料天引 きによる職域募金が普及 してお り,イ ギ リスで も給料天引 き制度が導入 された が, 日本ではそ うした制度がない。 日本 は募金方式 において戸別募金が圧倒的 な比重 を占めている。第 4に ,英 米 は寄付税制が よ く活用 されてお り,公 表 さ れている実績のほとん どが寄付税制の適用 を受けた もの と推測 される。 日本の 場合 は,戸 別募金 など税制の適用 を受けない ものが大 きな割合 を占めているも の と推測 される。 3)日 本の福祉寄付税制については,社 会福祉行政研究会編 『社会福祉法制論 ・財政論』新 日本法規,1981年,お よび中央共同募金会 F日米英民間財源比較調査研究報告書』,前 掲, 71-73ページ参照。
工 共 同募金 の性格 と特徴 ( 1 ) 法 制化 された寄付 わが国の共同募金の最大の特徴 は,民 間の運動の形態 をとってはいるが,運 動の組織 と方法が法制化 されていることであろう。 したがって, 共 同募金の性 格 を知 るためには, 若 干で もその発足 と法制化の経緯 を振 り返 つてお く必要が 4 ) ある。 戦前には全国に6700余りあつた民間社会福祉施設は,終 戦直後には3050へと 激減 していた。それらの施設は財源を公的補助に頼っていたが,新 憲法第89条 が慈善への公金支出を禁止 したために深刻な財政難に陥つた。こうした財政難 を救 うために,ア メリカのコミュニテイ ・チェス トを導入 してはどうかという GHQの 示唆の もと,厚 生省が 「国民たすけあい運動」の一環 として募金運動 を展開することを決定 した。それが,「官民一体」「各界網羅」の国民的運動と して1947年にスター トした共同募金であった。 GHQは ,1949年 9月 「共同募金 9原 則」 を発表 した。それは,共 同募金運 動における公務員の干与を排除することや寄付金を民間施設のみに配分するこ とを求めたもので,共 同募金における公私分離 とボランタリーな性格を明瞭に しようとする意図があつた。GHQは また同年11月厚生省 に対 して 6項 目の福 祉 目標 (①福祉行政の地区制度②市の福祉行政の再編成③厚生省の助言・相談 及び分野別サービス④民間福祉団体に関する法令 (旧社会事業法)の 再検討 と 公私分離⑤社会福祉協議会の設置⑥福祉職員の現任訓練)の 達成を求めた。こ こで注 目されるのは,GHQが 地域での社会福祉協議会の設置 を求めたことで ある。これは,GHQが ,社 会福祉協議会 と共同募金 を,民 間地域福祉活動の 車の両輪 となることを強 く期待 していたことの現れであつた。 1951年に社会事業法に代わって社会福祉事業法が制定された。同法の最大の 使命は,戦 後 日本の社会福祉行財政の支柱 ともいうべ き措置制度の法制化にあつ 4 ) 共 同募金の発足か ら現在 までの運動の経緯 については, 中 央共同募金会 「みんな一緒 に 生 きてい く 共 同募金運動5 0 年史』, 1 9 9 7 年, 参 照。
1 0 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) たが,民 間社 会福祉事 業組織 につ いては社 会福祉 法人,共 同募金,社 会福祉協 議 会 の 3つ を規定 した。 同法 の共 同募 金 に関す る規定 で は,「共 同募金」 とは,「都 道府県 の区域 を単 位 と して,毎 年一 回,厚 生大 臣の定 め る期 間内 に限 つてあ まね く行 う寄付金 の 募 集 で あ って,そ の寄付 金 をその区域 内 において社 会福祉事業,更 正保護事業 その他 の社会福祉 を目的 とする事業 を経営する者 (国及 び地方公共団体 を除 く。) に配分することを目的 とする もの をい う」 (第71条)と されている。同法は, 共同募金会はその地域 に社会福祉協議会が存在 しなければ設立で きないこと, 募金の計画 についてはあ らか じめ社会福祉協議会の意見 を聞 くこと,寄 付金の 配分先 は民間のみであること,配 分 に関する国 ・地方公共団体の干渉を禁止す ること,な どを定めている。 法制化が なされて以来,幾 度か大規模 な募金増強運動 (1959年か ら5カ 年計 画で展 開 された 「倍加」運動,1976年 か らの 「1000億円募金への挑戦」運動) が取 り組 まれた り,寄 付金の配分方法 にかかわる改革が試み られてきた。1970 年代後半以降は,“福祉見直 しルの風潮が高 まり,「施設中心か ら地域福祉へ」 が強調 されるようになる と,共 同募金の配分は地域福祉関連事業が増え,施 設 の比重が低下するようになった。199o年の福祉関連諸法の改正時には,災 害復 旧へ の配分 などを重視 して配分上の若干の例外が認め られた。以上の ような動 きがあったが,法 制化以降,今 日に至 るまで大 きな制度上の変更はない。 (2)共同募金の性格 と実績 共同募金 を評価す るとき,や は り問題 にせ ざるえをえないのはその運動の性 格 であろ う。 まず第 1に ,共 同募金が法制化 されていることは,民 間のボランティア活動 と異 なる 「公共」的色合いを運動 に付与 して きた。そ もそ も,社 会福祉のため の寄付組織が社会福祉事業法のような社会福祉行政の基本法制において定めら れている状況は英米 にはない といってよい。共同募金 に対する行政の干与は法 的 に禁止 されているとはいえ,こ れまで共同募金 を半官半民の運動 ぐらいに感
じて きた国民 は少 な くない といつてよいであろう。 第 2に ,共 同募金の集金体制は,各 都道府県募金会の もとに市 ・区・郡 ごと に地区募金会 として支部が,町 ・村 に分会が組織 され,そ の もとに民生委員, 福祉委員,保 護司,婦 人団体,赤 十年奉仕団,地 域振興会,自 治会,町 内会, 青少年団体 などが 「奉仕者」 として動員 される仕組みである。戸別募金では, 自治会や町内会 を通 じて,募 金額の目安 を示すや り方が とられている。この よ うな集金体制 と募金方法が,共 同募金の半ば強制 された寄付 のイメージを生み 出 して きた。寄付者が寄付 の趣 旨や使途 をよ く理解 し,あ るいは寄付の相手や 使途 を選択 して応 じるようなかたちは,最 近 まであま り配慮 されてこなかった。 このように法制化 され,半 強制的な寄付のイメージを与えがちな共同募金は, 過去 (1961年)に は制度の廃止論 を呼 び起 こ した。それは,募 金方法の 8,9 割 を戸別募金が占め,そ れ も寄付者の自発的協力 とはほど遠い天下 り的ノルマ の実態 にあること,募 金の配分先が児童福祉施設や生活保護 など本来公的責任 で賄われるべ き分野 に多 く,民 間福祉施設 に少ないこと,な どを批判するもの であったと これに対 して,共 同募金団体 は,民 間社会福祉事業の重要性 を訴え, 法人の大 口募金の強化 を打 ち出すなどして廃止論の回避 に努めて きた。 しか し, 共 同募金は依然 として戸別募金が中心であることには変わ りがな く,現 在 にお いて も廃止論が まった くないわけではない。 募金実績か ら共同募金の特徴 を見 る と,以 下の ような点が指摘 される。 第 1に ,1947年 か ら1997年までの半世紀の間に共同募金が集めた寄付金の総 額 は約5580億円,こ の 5年 ほ どは不況の影響で毎年260億円ほどである。英米 な どに比べ余 りにも少 ない額 といわざるをえないが,こ れは寄付 をした人の数 が少 ないことよりも, 1人 あた りの寄付額が少 ないことが原因である。わが国 の福祉 の寄付 は,「国民 たすけあい」 の精神 で,零 細 な額であって もで きるだ け多数の国民か ら寄付 を募 ることをめ ざして きた。つ ま り 「貧者の一灯」 を地 域や職場,学 校 などか らか き集めることを特徴 として きた。これは,富 者が貧 5 ) 当 時の共 同募金 の廃止論 の状況 と共 同募金 関係者 の対応 については, 中 央共 同募金会 『み んな一緒 に生 きてい く 共 同募金運動5 0 年史』, 前 掲, 第 2 章 が詳 しく紹介 している。
1 2 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) 者 に施 しをす ることは富者の社会的義務であるといった伝統的価値観か ら,地 域社会 に貢献することを自覚 した今 日の 「企業市民」 に至 る欧米の歴史的社会 的風土 との大 きな違いであるといってよい。 第 2 に ,そ れに して も,職 域募金や法人募金, とくに法人の大口募金が少 な い ことが 目につ く。税制上で金額損金算入が認め られている法人募金は,寄 付 税制 としては一応完備 されているといってよい。かつて,共 同募金の廃止論が 世上 をに ぎわ した とき,某 新聞は 「貧者の一灯 ならぬ富者の万灯,中 堅層の十 灯百灯が献ぜ られることを期待 したい」 と書いたが,法 人の大口寄付 は一貫 し て少 ない。平成 9年 度の法人募金は寄付総額17億3647億円,領 収書枚数は45万 4 , 4 7 8 枚に達す るが, 1万 円 までの寄付が寄付総額 に占める割合 は60%,領 収 書総枚数 に占める割合 は92.3%,10万 円を超 えるものは寄付総額 に占める割合 6 ) が13.8%,領 収書総枚数 に占める割合が0。2%で ある。わが国の 「企業市民」 は,大 企業 を含めて 「貧者の一灯」の仲間入 りをしている。 日本の福祉寄付 の実績が英米 に比べて小 さいのは,以 上のような日本の寄付 事情がある とはいえ,基 本的な原因は,民 間社会福祉法人が公的資金 による措 置制度 にほぼ完全 に包摂 されて きたことにあるといってよいであろう。 民 間社会福祉法人は,財 源面では公的資金,公 民の補助金,寄 付金,バ ザー や福祉 イベ ン トによる事業収入など一見すると多様であるが,実 態 としては措 置委託費 を内容 とす る公的資金が圧倒的な比重 を占めて きた。 自主財源 といえ ば,民 間か らの補助金や寄付金,バ ザーや福祉 イベ ン トによる事業収入である が,収 入 に占めるその割合 はご くわずかであ り, とりわけ目を引 くのは,寄 付 金収入の少 なさである。公的福祉 を代行 し,措 置委託費 によって経営財源の大 半が賄 われて きた民間社会福祉法人 にとっては,寄 付収入 に頼 る必要性が小 さ 6 ) 中 央共同募金会調べ。ちなみに, 大 阪府共同募金会 における平成 6 年 度の法人企業の寄 付 の状況 を例 にあげる と, 約 6 7 0 0 社の法人企業が寄付 を行 っているが, 寄 付金額別法人数 は, 寄 付額5 0 0 0 円未満が2 2 9 4 社, 1 万 円未満が7 7 1 社, 2万 円未満が2887社,10万 円未満 が7 3 9 社, 1 0 万 円以上が1 8 社となっている ( この数字 は, 筆 者の大阪府共同募金会での間 き取 りによる) 。この数字 を見 る と, 法 人募金 は1 0 万円を超 えるような大 口募金が相当多 いであろうとの予想 に反 してわずか1 8 社で, 2万 円未満 までの ところが寄付 を した企業の 8 割 以上 に達 している。
7 ) かったともいえる。 皿 国 民の寄付意識 と寄付文化 福祉寄付の実績が欧米諸国に比べて明 らかに遜色があることか ら,国 民のな かで 「日本 は欧米 に比べて寄付文化が貧 しい」 と認識 している人は少 な くない であろう。果た して,そ の認識は妥当であろうか。 中央共同募金は,50周 年 を迎 えた共同募金運動の21世紀 におけるあ り方 を探 るため,1995年 5,6月 に 「共同募金 とボランテ ィア活動 に関す る意識調査」 (調査地域 は全国,満 18歳以上の男女個人 を対象,標 本数3000,回 収数2320) を実施 した。 この調査 では,国 民の寄付意識の現状 を知る上で興味深い結果が 明 らか になっているので,以 下 において少 し詳 しくそれを見てみたい。 まず,阪 神 ・淡路大震災の被災者や被災地 に対 して募金 (義掲金)や 支援物 資 を送 った ことがあるかの質問 に対 して (複数解答),募 金は85%,支 援物資 は11%の 人が送 っている。募金者 1人 当た りの平均募金額 は9183円である。大 震災の被災者 ・被災地 に対 して国民の大多数が多額の寄付 を行 っていることが この調査 か らまず明 らかになっている。 また,こ の調査では,ボ ランティア団 体 の救援活動 に対 して68%の 人が 「大 いに役立 った」 と評価 し,「ある程度役 立 った」とする評価 と合わせ ると,役 立 った とする評価 は 9割 を超 えている。 次 に,寄 付 に関 しては,88%が (調査 の前年の)1年 間に何 らかの寄付 をし 7)サ ラモ ンとア ンハ イアーは,前 掲の 『台頭する非営利セクター』のなかで,日 本の民間 社会福祉法人 について次 の ようにのべ ている。 「多 くの ヨーロ ッパ諸国 と比べ た場合 , 日本では非営利組織の社会サービスヘのかかわ り方 は少 ない。民 間の社会福祉法人は非常 に多 く存在 し,高 齢者の介護,女 性の保護夕母 子 の健康 )児 童保育や障害者への支援 などのサー ビスを行 っている。お よそ 1万 2000もあ る社会福祉法人の役割 は,そ れで も一般的にいって政府の補助的な もので しかない。 これ は,社 会福祉 は国家が中心 となって行 うと定めた 日本国憲法 に基づ くものである。実際, 社会福祉法人 は,中 央政府 と地方 自治体か ら委託 された仕事 を遂行する外郭団体の ような ものである」 (邦訳,前 掲,66ベ ージ。) なお,同 書では, 日本の社会サー ビス分野の非営利セクターの収入源は公的収入65%, 会費 ・事業収入35%,民 間寄付がゼロ となっているが,日 本 には年間250億円以上の共同 募金があ るので民 間寄付が まった くゼ ロであるはず はない。 また,会 費 ・事業収入が35% とい うの も,措 置制度下の民間社会福祉法人には当てはまらない数字 と思 われる (邦訳, 前掲,195ベ ージ。)
滋賀大学創立50周年記念論文集 (第321号 ) 第 3表 昨 年 1年 間 に した寄付 Q.あ なたは,昨 年 1年 間にここにあげているような寄付 をしましたか。(M.A.) 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1 0 月からの赤い羽根募金 1 2 月からの歳末たすけあい募金 国土緑化推進機構 ( 緑の羽根) 5 月 からの日本赤十字社の社資 募集や寄付 社会福祉協議会会費や寄付 日本テレビ系列2 4 時間テ レビ 1 2 月か らのN H K 歳 末たすけあ い募金 交通遺児育英会 ( あしながお じ さん) ユ ニ セ フ 災 害 救 助 国際援助や難民救済 1 2 月か らのN H K 海 外たすけあ い募金 そ の 他 し な か っ た 4 8 . 0 ■ ■ ■ ■ ■ 2 8 . 1 111111111111126.4 ■ ■ 1 1 3 . 4 ■ 8 . 3 ■1 6 . 1
■ 5 . 9
■ 5 . 9
■E 5 . 9
■4 . 8
日1 . 3 ( n = 2 , 3 2 0 )
1 3 . 1 ■ ■ 1 1 9 ( 出所) 中 央共同募金会 「共同募金 とボランテ ィア活動 に関す る意識調査」,1995年 9 月 ,29ペ ージ。 てお り,な かでも 「10月からの赤い羽根募金」に寄付をした人は82%に 達 して いる (第3表 )。寄付に対する認識では,寄 付はボランティア活動の一環 と思 う人が74%を 占めている。また,寄 付 と行政の事業の関係については,「行政 だけでは不十分な事業 をお ぎなうのがよい」41%,「行政が行わない事業に役 立てるのがよい」38%と ,意 見が分かれている。 以上のような,大 震災での寄付者が85%に および,ま た特別な災害の救援で はない寄付についても1年 間に8割 以上の人が寄付 をしている状況を見ると, 必ず しもわが国に寄付文化が根付いていないとはいえないであろう。むしろ, 国民の寄付 に対する認識や理解は潜在的にはひろく存在 してお り,災 害被災者日本の民間福祉事業と寄付制度 15 の救援 とい った非常事態 や赤 い羽根募金,歳 末 たす けあい募金 といった シンボ リックな機会 に顕在化 す る とい って よぃであ ろ う。 さて,そ うしたシンボリックな寄付の機会を提供 し,国 民の寄付行為のなか で最も大きな位置を占めている共同募金であるが,そ れに対する意識はどうなっ ているのであろうか。調査結果は,さ まざまな問題のあることを示 している。 まず,共 同募金の周知度合いであるが,共 同募金を 「知っている」人は95% に達 してお り,共 同募金 ということで赤い羽根募金を思い浮かべる人は56%, 共同募金が赤い羽根募金を指すことを知っていた人は80%と なっている。共同 募金に対する一般国民の認知度はきわめて高いが,こ れは,戦 後半世紀にわたっ て年々,全 国津々浦々で戸別募金や学校,街 頭での募金が繰 り広げられてきた ことからいえば当然 といえる。 しか し,共 同募金運動の詳 しい事柄になると,そ れほどは知られていない。 共同募金の実施主体が各都道府県ごとにある社会福祉法人の共同募金会である ことを 「知っていた」人は33%,共 同募金が民間の活動であることを 「知って いた」のは41%,共 同募金が民間の社会福祉事業の資金に使われていることを 「知っていた」のは46%で ,半 数以上が知っていない。共同募金の 7割 が社会 福祉協議会に支出されているのに,そ もそも社会福祉協議会に使われているこ とを 「知っていた」人は55%で ある。また,共 同募金の寄付に税制の優遇措置 があることを知っていた人は22%で ,大 多数の人が知らなかった。寄付優遇税 制の存在については,年 収が高 くなるにつれて知っている人の割合が多 くなり, 900万円以上の層になると47%の 周知度となっている。 (調査の前年に)共 同募金へ寄付 したことのある人のなかでは,「進んでし た」の回容が63%で あるが,「仕方なくした」 という回答 も15%あ る。共同募 金に寄付 した際に強制感 を感 じたかどうかでは,「感 じた」 と答えた人が19% もあ り,そ の理由として,「金額がい くら以上 と決まっていること」「(町内会, 自治会などが)集 めにくること」「避けて通 りがたい状況」などがあげられて いる。とりわけ戸別募金の際に募金額の目安を示されることについては 「強制 的に感 じる」 という人が42%に 達 している。渡される赤い羽根についてはつけ
1 6 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) ない人が半数 を超 え,約 半数が「必要 ない」と答 えている。 共同募金の募金方法の今後の重点 については,「戸別募金」が44%,「 街頭募 金」が30%,「 職域募金」 と 「法人募金」がそれぞれ26%ほ どとなっている。 これについては,年 齢別で回答 に差があ り,50歳 以上の年齢層では戸別募金 を 重視する比重が過半数 と高いが,20歳 以上39歳未満の層では法人募金や職域募 金が上位 となっている。 また,募 金方法の重点 に関 して,中 央共同募金が前回 (1983年)行 った意識調査 と今 回の調査 では著 しく異なった結果 になっている ことが注 目される。前回は,「職域募金」 (37%)と 「法人募金」 (36%)の 2 つが多 く,「戸別募金」 はわずか 9%に す ぎなかった。この違いは,お そらく, 現在の長期 にわたる深刻 な経済不況 を反映 した ものであろう。 共同募金の使い方 については,お 年寄 りの食事,入 浴 などの地域福祉サービ ス,障 害者の社会参加,福 祉 団体への支援 などに力 を入れることをのぞむ回答 が多いが,共 同募金活動 を活発 にす るために必要なこととしては,「集め られ た募金の使 い途 をもっとわか りやす くす る」 (67%),「趣 旨をもっと理解で き るようにす る」 (59%)な ど,募 金の 目的 と使途 を明確 にすべ きであるとの声 が強いことが示 されている。 さて,以 上のような調査結果 を評価すれば,大 多数の国民が実際に寄付 を行 っ ている状況 を踏 まえれば,国 民の寄付意識 は決 して低い もの とはいえず,寄 付 文化が貧 しい ともいえないであろう。阪神 ・淡路大震災による募金やボランティ ア活動 は,そ うした国民の潜在的に高い寄付意識 を顕在化 させた もの といって よい。 しか しなが ら,国 民的な寄付活動の中心 に位置 して きた共同募金 につい ては,依 然 として戸別募金 などでの強制感 を伴 ってお り,民 間の活動であるこ とも十分理解 されていない。また,共 同募金の趣 旨や使途が具体的に理解 され ているとはいえず,そ れ らを明確 にするよう求める声が強いことなど,今 後の 共同募金運動のあ り方 に重要な改善内容 を提起するもの となっている。 寄付優遇税制の存在 を多 くの人々が知 らないことも,重 要な問題である。寄 付税制 は個人や法人の大 田寄付 を刺激するね らいがあるので,零 細 な金額の寄 付者 には関係 ない ようにも思われるが,見 方 を変えれば,次 にのべ るように給
日本の民間福祉事業と寄付制度 17 料 天 引 きに よる職域募金 の普及 をはか って,小 口寄付 に対 す る税制上 の優遇 を 多 くの人が活用 で きる状 況 にす る可能性 も考 え られ る。 Ⅳ 福 祉寄付制度の改革の課題 共同募金 については,す でにふれたように制度の廃止論,不 要論が根強 く存 在 している。 しか しなが ら,今 後の民間福祉財源 としての寄付収入の重要性 を 考 えるな らば,共 同募金は廃止するよりも,寄 付本来の姿 をより明瞭に しつつ 地域福祉 の時代 に対応 した改革 をほどこす ことが大切であろう。 共同募金関係者か らは,現 在そ うした方向での改革が模索 されている。中央 共同募金会は,1996年 3月 ,「21世紀 を迎 える共同募金のあ り方委員会答 申」 を公表 した。 この答 申では,共 同募金は,そ の英語名 「コミュニティ ・チェス ト」の通 り,住 民参加の福祉 コミュニティづ くりを積極的に支援 してい く使命 があ り,福 祉 コミュニティづ くりに参加 してい くならば,共 同募金は地域の財 産 にな りうる とし,「共同募金が地域 に受 け入れ られるためには,民 主的な運 営 と徹底 した情報公 開が必要である。また,固 定化 した配分 を見直 し,住 民 に 密着 した先駆的 ・実験的な取 り組みにも支援 の手 を差 しのべ る必要がある」と のべ ている。「答 申」では,こ うした立場か ら,今 後の共同募金の募金方法, 配分方法の改革,機 能強化のための組織改革などが提起 されているが,こ こで はそれ らの うちとくに注 目したい課題 について取 り上げておこう。 1つ は,職 域募金の拡大,寄 付の給料天引 き制度の普及をはかることである。 なぜ職域募金が重要か といえば,戸 別募金では寄付税制 によるインセ ンティブ 効果 を期待することには限界があ り,そ の面で最有力 な方法は給料天引 き方式 の職域募金であるか らである。戸別募金への依存度が高いのは旧式な募金方法 である。職域募金の額が戸別募金のそれを圧倒的に上回つているアメリカも, 給料天引 き方式が導入 される1943年以前 までは戸別募金が主流であった。給料 天引 き方式の職域募金 には,イ ギ リスにもすでに紹介 したPSGが あ り,そ れ 8 ) 中 央共同募金会 「2 1 世紀を迎える共同募金のあ り方委員会答申 新 しい 『寄付の文化』 の創造をめざして」1996年3月 ,10ページ。
1 8 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) らが参考 となる。給料天引 きといえば房Uな意味で強制的なイメージがあるが, そうではなく,企 業の経営者 と労働組合などの了解のもとになされるものであ る。先ほど紹介 した意識調査では,今 後の寄付の方法 も尋ねているが,「給料 天引 きによる方法」を回答 した者はわずか3%し かいなかった。これを見ると, 給料天引 きは非現実的に見えるが, しか し,こ れは今までわが国にこうした方 式がまった く存在 しなかったためであ り,今 後の普及の可能性を否定するもの ではないと思われる。 もう 1 つ は, ドナーチ ヨイスの導入であ る。戸別募金 に も職域募金 に もこう した ドナーチ ヨイスが導入 され るな らば,寄 付 の強制 的 イメージが な くなるば か りで な く,寄 付 者 1人 1人 の選択 を反映す る寄付 システムが実現 され よう。 共 同募金の配分 については,「社会福祉基礎構造改革」 によって措置制度が 利用契約制度 に変更 されるならば,こ れ まで配分割合が少 なかった民間社会福 祉施設への配分 を拡大 して行 く必要がでて くる。また,今 後福祉活動 に取 り組 むNPOへ の資金的援助 を拡充することが期待 される。 さらにまた,そ れ らに 合 わせ て,共 同募金が地域 における民間福祉財源の総合的な相談窓日の機能 を 担 うことが期待 される。 寄付税制 に関 しては,地 域福祉の観点か ら税制のインセ ンテ ィブ機能 をいっ そ う強める方向での改革が検討 されてよいであろう。 現行 の共同募金 と社会福祉法人 に対す る寄付税制 について,個 人の寄付では 社会福祉法人への寄付 に対 して個人住民税の優遇措置が適用 されないが,こ れ を共同募金並みの扱いにすることが考 えられ よう。法人の寄付 については,損 金算入面で共同募金への寄付 を社会福祉法人への直接寄付 よりもある程度有利 にすることは必要であろうが,法 人が同一地域内に存在 している社会福祉法人 に直接寄付 を行 う場合 には損金算入の割合 をもう少 し高 くして,「企業市民」 としての地域社会への貢献 をより直接的に刺激 してい くことが考 えられる。 社会福祉法人以外 の福祉 NPOの 活動 を育成するためには,欧 米諸国で導入 されているようなNPOに 対する寄付税制の導入が必要である。それがなされ た段階では,こ れまで共同募金 と社会福祉法人に特定 されいるわが国の福祉寄
付 税 制 の あ り方 も, よ り抜本 的 に見直す こ とが必 要 な段 階が訪 れ るか もしれ な い。 これ らの諸改革 によつて,た だちに日本の寄付文化 に大 きな変化が生 まれる か どうかは定かではないが,新 たな発展の契機 になることはかな り期待 される といって よいであろう。 (小論 の作成 に際 して,有 益 なご教示,資 料の提供 をいただいた中央共同募 金会の阿部陽一郎,山 内秀一郎の両氏 に感謝 します。)