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登校拒否と生体リズム

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総 説

登校拒否と生体リズム

〔東女医大誌 第57巻 第10号頁1108∼1114昭和62年10月〕 東京女子医科大学第二病院 小児科 クサ カワ サン ジ

草 川 三 治

(受付 昭和62年6月18日) School・refusal and Circadian Rhythm

Sa皿ji KUSAKAWA

Department of Pediatrics, Tokyo WomeR’s Medical College Daini Hospital In recent years, the number of children who refuse to go to school has markedly increased, This refusal is considered to be generally a psychogenic reaction caused by immature social development in the patient and environmental factors, but it is sometimes associated with neurosis and depression. We evaluated the circardlan rhythm in these children and found disturbance and delay with respect to urinary saline excretion rhythm, urinary catecholamine excretion rhythm, electoencephalograms during night, electrical potential of the skin, core temperature, plasmaβ一endorphin and cortisol level, and heart rate. The abnormalities in the circadian rhythm were similar to those in depression. These丘ndings in additlon to other clinical symptoms suggest that refusal to go to school is primarily caused by depress{on.

はじめに 最近,登校拒否を示す児童,生徒が増加傾向に あり,しかも次第に深刻化しつつあるといわれて いるが,一口に登校拒否といってもいろいろな形 がある.小さい時からいろいろ不定愁訴があって, 幼稚園でも,また低学年でも時々学校に行くのを 嫌がっていたのが,小学校高学年生,中学生になっ て,決定的な登校拒否になったという例がある. また一方では,それまで元気に登校し,学業の面 でもまた運動も普通にやっていると思われた児童 生徒が,ある日突然のように朝起きられなくなり, 元気がなくな:って欠席し,そのまま登校しなくな る例もある.この場合,病気や,家庭の経済状態 や,家事の都合とか,親の学校教育に対する考え も,別に特別の事はないし,また児童生徒本人は, 行きたくても行けない状態にありながら,何故そ うなるのか自分でもわからないことが多いようで ある.ただ最初はわからないと言っていても,親 や教師などがいろいろ聞きだすと,やがて自分を 正当づけるために,身体症状を訴えたり,友だち にいじめられたとか,先生が嫌いだとか,いろい ろの理由をあげる子供もいる.さらに又一方では, 登校拒否の状態がある程度続いたあと,身体の調 子はすっかりよいのに,勉強そのものが嫌いにな り,遊びを覚え,家を出ても学校に行かず,非行 に走ってしまうタイプの登校拒否もある.後に症 状として述べるが,実に種々様々である. このような登校拒否に対して,文部省は昭和58 年,生徒指導資料第18集,生徒指導研究資料第12 集に,「生徒の健全育成をめぐる諸問題一登校拒否 問題を中心に一」を出版した.教育現場の方々, 教育行政に携わる方,心理学者がその編集,執筆 に協力されているが,その中でこの登校拒否が起 きる背景として次のように述べている.「親子関係 の歪みや母子間の分離不安など家庭における要 因,教師と児童生徒,あるいはいじめなどの児童 生徒相互の人間関係,また学業や部活動の問題な ど学校生活における諸要因,さらには,本人の自 一1108一

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我の未熟さの問題など,様々な要因が複雑に絡み 合っている」と.また,最近の登校拒否の傾向と して次のことをあげている. (1)本人には登校の意志がありながらも登校で きないという,理解困難で,神経症的な症状を示 す登校拒否が中心となっている. (2)登校拒否の中には学業への不適応にかかわ る怠学傾向のものや,神経症をはじめ,うつ病や 精神分裂病など,精神病理学的なものに起因する と思われるものも含まれている. (3)登校拒否の様相として,家庭内暴力や非行 化傾向など,様々な他の問題行動と関連して生じ ている場合も少なくない. 以上,文部省の指導資料を見てもわかるように, 本人と周囲の関係,すなわち,家庭要因や学校に おける教師あるいは友人との人間関係など環境因 子を考え,それによる心因反応という考え方,ま た本人の関題として心理社会的成熟の障害とか, 親が子供離れしていないとかという見方がこの登 校拒否の原因として一般的なものである.これに 対して著者の考え方は少し異なっており,一般に いわれる因子は確かにあるが,これはいずれも誘 因というか引き金であり,本来は内因性の要因が あり,これが引き出されて登校拒否という現象が 出てくると考えている.そしてその内因というの は身体的なものであり,24時間リズム,即ち概日 リズムの乱れあるいはずれであると考えている. このリズムの乱れは,まずリズムが乱れやすいと いう遺伝的な素因と,環境因子としては心理的な ものだけでなく,物理的な季節や気温,また普通 の疾患,さらに乳児期からの生活習慣に影響され る. 以上の観点から,まず登校拒否児について,そ の家庭環境や示す症状,さらにはリズムがどの様 に乱れているかを知るために,幾つかの研究を 行ったのでその概要を述べたい.またこのことか ら治療の方針も立てられるのではないかと思って いる. 登校拒否児の示す症状,性格, および児をとりまく環境 登校拒否を示す児童生徒の大半は,最初の頃は 不眠,腹痛,頭痛,気持ちが悪い,だるい,肩こ り,立ちくらみなどの不定愁訴を訴え,さらに朝 目が覚めない,覚めても起きると上記の症状が あって起きられないなどと云うことが多い.とこ ろがさらに話を進めると,これらの症状は10時, 11時を過ぎる頃になると次第によくなり,登校拒 否に対して理解がないと,往々にしてずる休み, 怠け者のように見える.また学校のある日は以上 の様な症状があるのに,学校のない日曜日とか, 夏休み中,あるいは平日でも学校に行かなくてよ いと決まると,いずれの場合も症状は消え失せ一 見別人のようになる.ただ外見上は全く普通のよ うに見えても,よくみると分離不安があったり, 逆に友人とのつき合い,先生に出会うことの不安, 勉強そのものに対する不安,あるいは嫌悪感があ り,また何をするにも決断が中々つかず,そのく せわがままで自分の主張を通そうとし,社会的, 情緒的な未熟を示す.後に述べるが,以上の症状 はうつ病の症状と極めて類似しており,リズムの 点と併せて著者は登校拒否というのは小児のうつ 病の一症状と考えている.これと同じ症状や日内 変動があり,朝具合が悪くて,午後から夜にかけ てよくなるものに起立性調節障害というものがあ る.筆者はこれも,うつ病も,登校拒否も身体的 な問題としては全て同じものであり,起立性調節 障害(OD)は身体症状のみの訴えで心理的,精神 的な問題が余りない場合であり,この両者が同時 にあると普通の登校拒否児が示すような状態とな り,さらに精神症状が進み,身体症状が殆ど隠れ てしまうような状態になると,誰でもこれは少し おかしい,精神病ではないかというような状態に なる.筆者はこの全ての場合がうつ病であり,段 階の相違があるに過ぎず,而もこのうつ病には平 日リズムの異常があり,これが根源であると思う のである. 最後に家庭環境の問題についてふれたい.田代 が調査し,小児心身研究会に報告したところによ ると,家庭の状況は特別のものはなく,父親の職 業,家族構成なども特に何かあるというわけでは ない.しかし文部省の資料によると両親の性格と しては,父親が社会性に乏しく,無口で内向的で

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あり,男らしさや積極性に欠け,自信欠如である といった場合には,子供の成長過程で御手本にな る父親像を子供に示してやることができず,逆に 専制的で,仕事中心で子供と接触のない場合にも モデルとなる父親像を子供に与えられないことが 多い.又一方母親が不安傾向を持ち,自信欠如, 情緒未成熟,依存的,内気であるといった場合に は,一般に子供に対する態度が過保護なものとな り易く,以上に述べた両親の性格傾向と過保護的 養育は,登校拒否の重要な背景の一つと考えられ るという.これらの環境は遺伝的素因と相まって, リズムの異常を惹き起こす引き金になると考えて いる. 登校拒否児に見られる概日 リズムの乱れとずれ 既に述べたように,登校拒否児に共通して最も 多く見られるのは,朝起きられないという現象で ある.同時に種々の不定愁訴を訴えることが多い. ところが10時から11時頃になると,割に元気が出 て来て,午後から夜になるとすっかり元気になり, 明日は学校に行くという.ところが翌朝になると 又すっかり駄目で起きられないということを繰り 返す.明らかな日内変動があるわけである. ここで聖日リズムということに少しふれておき たい.地球上の生物は全て概日リズムを持ってい るといってよいし,生命そのものがリズムを持っ ているといっても過言ではないだろう.人間にお いても,睡眠,食事の摂取,消化機能,体温脈 拍,尿量,尿中に排泄される塩類,カテコールア ミンの量,ホルモンの分泌などあらゆる生理現象 に概日リズムがある.この他1ヵ月のリズムもあ るし,1年あるいはそれ以上のリズムももちろん あるがここではふれない.生れてすぐの赤ん坊は, 動物実験では母親のリズムと同調しているところ があるといわれるが,睡眠と覚醒や,哺乳,排尿, 排便など生活の基本的なリズムはまだなく,それ が2∼3ヵ月から1年くらいして完成してくる. 成長発達と共に,生活習慣とからみ,リズムがで きてくるおけである.それ以後の生活習慣,生活 様式は,リズムの中枢に影響を与え,一面では中 枢の支配を受けていく.このようにして個々の人 間はその個体としてのリズムを完成すると共に, その家庭の生活リズムの中に入り込む.ここで家 族は互いに,中でも母と子はリズムの点でも互い に影響を与え合っているといってよい.この生活 習慣とリズムの関係は,後に述べる登校拒否の予 防,治療という問題と大いに関係があり,重要な 問題であると思う. さて登校拒否児の概日リズムはどうなっている であろうか.私共は文部省の科学研究費を得て次 のような点でその愛日リズムを検討した.担当者 の名前も附記しておく. 1.尿量,および尿中塩類排泄量(三原) 2,尿中カテコールアミン排泄量(美甘) 3.終夜脳波(梅津,大谷) 4.皮膚電位水準(河野) 5.深部体温(田村) 6.血中βエソドルフィン,およびコルチゾー ル濃度(塚田) 7.心拍数(伊藤) まず尿量および尿中塩類排泄のリズムである が,これは三原が別に本誌に投稿しているので, それを参照されたいが,正常では昼の12時を中心 として,前後4時間以内に排泄量のピークがある のに対し,登校拒否児ではピークが夕方午後4時 以後に来るものが多く,又ひどい者では24時間リ ズムがずっと延び,36∼48時間になり,あるいは リズムがなくなっている者も見られた.カテコー ルアミンについてもアドレナリン,ノルアドレナ リソ,ドーパミンのいずれにもリズムの乱れがみ られた. 次に睡眠障害であるが,一見よく,また長く眠っ ているように見えても,睡眠中の脳波を見ると, これも正常児と異なり,睡眠のパターンにかなり の異常が見られた.本誌に梅津がこの脳波につい て述べているので,それを見て頂きたい. 次は皮膚の電位水準であるが,河野が自律神経 学会雑誌に報告した.これによると,銀一塩化銀 電極を用いて,角化層剥離によって不活化し前腕 部を基準電極とし,手背部に探査電極をおき,皮 膚電位活動をペンレコーダーに記録した.これに よって得られたグラフを,5分ごとの離散的時系 一1110一

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表1 皮膚電位水準のリズムの有無

C+U+ C−U+ C+U一 C−U一 計

コントロール群 21(88%) 3(12%) 0 0 24(100%) 新 生児群 0 6(55%) 4(36%) 1(9%) 11(100%) 不定愁訴群 4(17%) 15(66%) 4(17%) 0 23(100%) 登校拒否群 0 8(100%) o 0 8(100%) C+:サーカディアン・リズムがみられる C一: ” みられない U+:ウルトラディアン・リズムがみられる U : 〃 みられない 列データーとして,スペクトル解析を行い,最大 エントロピー法によってその概日リズムを検討し た.正常児や新生児を含め,さらに登校拒否はな いが不定愁訴のある子供23例,さらに登校拒否児 8例,全部で66例について測定したが,結果は表 1のとおり,登校拒否児は8例全例がウルトラ ディアソリズム(U)はあるが,サーカディアンリ ズムはなく,これに対しコントロール群は88%が この両者が存在した.登校拒否児のリズムの乱れ ばこの皮膚電位水準においても明らかにされた. 次に深部体温について述べる.この研究は既に 山崎が報告し,不定愁訴のある者は睡眠中の深部 体温に異常があると述べたが,これを受けて田村 がOD児,登校拒否児について検討を行った.詳 細はいずれ田村が原著として報告するが,正常児 では腹部深部温と足底部深部温の差が殆ど常に 0.5.以上あり,足底部は腹部より低く,また足底部 の深部温は一晩の中に;少くも3回くらい0.3.以 上の振幅を持った波があるのに対して,登校拒否 児では両者の差が常に0.5.以下であり,また足底 部温が高く,時に腹部温を上まわることがあり, 表2 深部体温スコア スコア コントロール群 不定愁訴群 18(50.0) P4(38.9) R(8.3) P(2.8) 16(15.0)名(%) R4(3L7) R2(29.9) Q5(23.4) 36 107 表3 深部体温スコア スコア 不定愁訴のみ 不登校を伴う 4(10.5) P5(39.5) P0(26.3) X(23.7) 12(17.4)名(%) P9(27.5) Q2(31.9) P6(232) 38 69 また足底部温の波がなく,腹部温に近い1本の棒 のような結果が得られる.以上の3項目をそれぞ れ1項目1点としてスコアをつけると,表2,3の ようになり,コントロール群では0点または1点 が88%を占めるのに対して,不定愁訴では2点, 3点のものが合計50%,登校拒否児では55。1%で, コントロールとの間に明らかな差がみられた.正 常児と登校拒否児の入院時の深部体温を図1,2 に示す. 次に塚田の行った血中βエンドルフィンおよ びコルチゾールの概日リズムについて述べる.塚 田が原著として自律神経学会雑誌に掲載の予定で あるが,結果は図3,4に示すごとく,正常児では βエンドルフィン,コルチゾール共に午前6時頃 がピークであるのに,登校拒否児では,コルチゾー ルではリズムがあっても,βエンドルフィンの方 40 K,M. 10y 38 腹部深部温 1 ↑

341 足底部深部温

32 30 2工:0022:0023:00 0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 図1 睡眠時深部体温(正常児)

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℃ 40 38 36 34 32 T.K.14y♀ 月夏音隣果音1∼温、 ↓

一 ==rll

足底部深部温 ii 21 :00 22 :00 23:00 0:00 1 :00 2:00 3 :00 4:00 図2 睡眠時深部体温(登校拒否児) 5:00 6:00 7:00 20 Pg/L 10 o 一一 ュ)一一曹一一 ’ ,玖、 ’ 、 ’ 、 ’ 、 β一エンドルフィン値 、て)一一暫__ 午後 午前 正 午後 9時 0時 3時 6時 9時 午 3時 6時 9時 15 PG/L 10 5 0 ④咲 β一エンドルフィン値 \..一_/〆≠アこ1)二= ,,’か一一¶ ハ、 ノ 、 」 、Y’ ゆ\ 璽, / ② ① 甑 ℃ 20 μ9膨 10 0 c」魑 ,’ ’ ! ’ 〆 コーチゾル値 ρ\、 ’ 、、 , ℃㌧ ’◎」、、 、闇q>r「、 一一p、 午後 午前 正 午後 9時 0時3時 6時 9時 午 3時 6時 9時 図3 正常者における変動 ●一● 被験者A O一一一〇 〃 B 20 μ9規 15 10 5 0 午後 午前 正 午後 9時 0時 3時 6時 9時 午 3時 6時 9時 ② ③(トー一一《)\/ ④艦\ 覧 ① 八 コーチゾル値 、’ _ 〆 、 ’ 、 はリズムがないものが多く,少数に両者ともリズ ムのないものも認められた.生体にとってコルチ ゾールの方はより生命の根幹に近い働きをもって いるものであり,このリズムは乱れ難いものと思 われた. 最後に心拍数のリズムについて述べる.伊藤が この研究を行っているが,ヴアイソ社の携帯用心 拍数モニターを用い,24時間の間,毎分毎の心拍 数を記録,コンピューター処理によって,河野の 皮膚電位水準の解析に用いたと同様の方法で,ス ペクトル解析を行ない,最大エントロピー法に 午後午前 正 午後 9時0時 3時6時9時 午 3時 6時 9時 図4 登校拒否児における変動 よって概日リズムの有無を検討した.結果は表4, 5,6に示した如く,登校拒否児では16例中12例が 24±4時間のリズムを示さず,平均周期時間は 35.6時間であった.これに対し,コントロール群 は暦数がやや少ないが,7例中4例は28時間以内 のリズムを示し,残り3例も28.9∼29.6時間で僅 かに延びたに過ぎず,平均周期時間も27.1時間と 登校拒否児群より,遙かに短かいものであった. これにより登校拒否児では心拍数のリズムにも異 常のあることが明確とな:つた. 登校拒否児におけるリズム異常の意義 以上のように,登校拒否児はいろいろの点から その概日リズムが乱れ,ピークが後へ数時間以上 1112一

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表4 心拍数の記録時間と周期時間 A. 登校拒否群 B. コントロール群 症例No. 年齢 i歳) 性 記録時間 i時間) 周期時間 i時間) 症例 mo. 年齢 i歳) 性 記録時間 i時間) 周期時間 i時間) 1 12 ♂ 33 *49,3 1 21 ♀ 24 *29,6 2 16 ♂ 33 *47,8 2 14 ♀ 22 皐29,0 3 10 ♀ 18 *40.4 3 21 ♀ 34 *28,9 4 16 ♀ 23 *39,1 4 14 ♀ 23 27.3 5 14 ♂ 23 *39,0 5 21 ♀ 28 25.7 6 14 ♂ 32 *38,2 6 20 ♀ 34 25.3 7 14 ♂ 19 *37.7 7 15 ♀ 16 23.7 8 14 ♀ 25 *37,1 9 17 ♀ 24 *35,7 *サーカディアン・リズムのない例 10 13 ♂ 23 *31.1 11 15 ♂ 34 27.0 12 13 ♀ 34 26.9 13 12 ♀ 18 26.8 14 14 ♀ 15 22.1 15 10 ♂ 19 *一 16 14 ♂ 8 *一 表5 心拍数のサーカディアン・リズムの有無 サーカディアン・リズム 有(%) 無(%)校 拒 否 群 4例(25.0) 12例(75.0) コ ン トロール群 4例(57.1) 3例(42.9) (20時間≦τ≦28時間) 表6 心拍数の平均周期時間 平均周期時間 登校拒否群 @ (14例) 35.6時間 @SD=7.97 コントロール群 @ (7例) 27,1時間 @SD=2.23 (pく0.0163) 遅くなったり,24時間+4時間以上の長い周期に なってしまっていることがわかった.他のホルモ ンの検索や,いろいろな生理的な現象は,どれを やっても恐らく同じ現象が見られると思う.ここ でこのリズムの乱れは何故起こり,またどういう 意味を持っていると考えればよいのであろうかP 生体のリズムに関する研究は最近目覚ましいもの があり,概日リズムの中枢も視交叉上腿にあるこ とは動物で略確認されている.さらに松果体も無 縁ではなく,殊に鳥類ではこの松果体がリズムの 中枢であることもおかった.生理的な問題として 摂食,生殖,睡眠,エンケファリン,エソドルフィ ン分泌,ゴナドトロピン分泌,甲状腺ホルモン, 成長ホルモン,副腎皮質ホルモンなど広範囲にわ たって概日リズムに関する研究が行なわれてい る.しかしこれらは大部分生理学的な観点であり, 病態生理学的なものは少なく,うつ病を中心とし た精神医学,高血圧や不整脈,心筋梗塞などと照 日リズムの関連,小児においては夜尿症や起立性 調節障害との関連が述べられているに過ぎない. うつ病と概日リズムの問題は古くから論ぜられ, うつ病においてはその症状に日内変動があり,い ろいろな点でその聖日リズムの乱れ,ずれがある と云われている。筆者は既に述べた如く,症状か らいっても,このリズムの点からも,登校拒否と いう現象はうつ病の一症状と考えたいのである. うつ病という概念は人によって色々な解釈があ り,心身医学という立場の方,心理学者はどちら かと云えばこの言葉の使用は嫌われているようで ある.しかし筆老はこのうつ病という概念は非常 に広範囲なもので,病気というより,体調と感「青, 意欲などの精神状態,しかもそれを面で捉えるこ となく,ある期間,これは時に何年という長期間 のこともあるが,その間の性格という面からも捉 える全人的な:変化を,躁とうつとその中間という ような分け方として捉えた概念と考えたく,内因 的なものとしてリズムが乱れ易い,あるいは乱れ たりズムがすぐ1日2日で戻らず,ある期間続く 時に表面化する状態と考えたいのである.従って 生活の中でリズムが普通なら固定してくる幼児期 以後発現する問題であり,正常と異常と区別でき るものではなく,連続的なものでその境はないと 考えたい.ただ内因的な見方をすると,遺伝的な 素因によって乱れ易いものとそうでないものがあ り,そこへ環境因子,これは心理的なものだけで なく,感染症その他の普通の病気,さらに季節や 気候など物理的な因子が加わってうつ状態に陥っ ていくというのが筆者の考えである. 登校拒否の治療と予防 今まで述べたとおり,登校拒否というのは身体 の調子,環境因子が重なり合って発現したうつ的 な状態と考えるので,治療は当然抗うつ剤を用い

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ることになる.しかし環境因子として親子の問題 や学校内での問題などあって,それに伴う心因反 応的な要素も無視はできないので,それぞれ各個 人の状態に応じたカウンセリングも必要であろ う.しかし基本的には内因性のものであり,2年 もすれば自然に治療に向うと思う.ただその間の 勉学の遅れ,社会への適応の遅れなどがあるので, 体調が戻るまで,その点に留意した対応が必要と 思う.例え朝からの学校に行けなくても,夕方か ら夜の塾,あるいは夜間の学校に一時行くのも一 つの方法である. 最後に予防という点についてふれておぎたい. リズムの乱れが基本にあるので,その同調因子で ある食事とか家庭内の生活は治療予防に重大な意 味を持つ.殊に日常の生活習慣の確立は極めて重 要で,育児指導の中で母親をよく教育し,又心理 的な面からは幼児期から何か1つの点でもよいか ら長所を見つけてほめてやり,自信を持たせるこ とが非常に大切なことだと思っている.その上で, 何か少しでもうつ的な症状でも出て来たら,早い 目に投薬をすれぽ,投薬期間も短かくてすむし, それ以上は悪くならず,主に身体症状だけで終っ てしまってくれれぽ一番よいと考えている.重ね ていうが,乳児期からの生活習慣というのが予防 に十分役立つと考えている. おわりに 登校拒否について,その概日リズムの異常を中 心に述べた.日頃考えていることを筆の赴くがま まに述べたこともあり,色々な批判が当然あると 思う.御教示頂ければ幸いである.最後にこの研 究に協力して頂いた教室の各位に深甚なる謝意を 捧げる. 参考文献 1)草川三治:登校拒否の生体リズムに関する研究. 昭和61年度科学研究費補助金(一般研究B)研究 成果報告書(59480240),1987 2)文部省:生徒の健全育成をめぐる諸問題一登校拒 否問題を中心に一.生徒指導資料第18集,生徒指 導研究資料第12集,1983 3)草川三治,丸田桂子,大塚貞子:小児における24 時間リズムに関する考察.東女医大誌 36:683− 689, 1966. 4)梅津亮二,大谷智子,草川三治:登校拒否児の終 夜睡眠脳波.臨床脳波 28:476−480,1986 5)山崎とよ:深部体温計による身体各部深部温の連 続監視法とその臨床的評価一臨床編.東女医大誌 51 :262−268, 1981 6)河野照隆:登校拒否症における皮膚電位水準をも ちいたサーカディアン・リズムの研究.自律神経 23:394−400, 1986 7)高坂睦年,川上正澄編:生体リズムの発現機構, 体内時計の医療への応用,理工学社,東京(1984) 8)千谷七郎:躁欝病の病態学.精神濃州 60:!164, 1958 1114一

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