シンポジウム 〔東女医大誌 第56巻 第2号頁 160∼170 昭和61年2月〕 Agingと疾病
心臓のAgingと心疾患の経年変化
東京女子医科大学循環器内科教授 セキ グチ モリ エ 関 口 守 衛 (受付昭和61年2月4日)Aging of the Heart and Age・Associated Heart Diseases Morie SEKIGUCHI, M.D.
Department of Cardiology, Tokyo Women’s Medical Callege
In the first part of this presentation, physiological, pathological and clinical problems related to the aging of the heart are reviewed from the literature and from the author’s experience, Then, age− associated clinicopathological aspects of various diseases such as congenital, valvular, ischemic heart diseases and heart muscle disease from the author’s experience were analyzed. The analysis focused particularly on the histopathological and ultrastructural aspects of the myocardium with regard to age− associated changes.
The study material consisted of the cases from our 20 year investigation on endomyocardial biopsy (1500cases), intraoperative biopsy(87 cases)and cardiac autopsy(500 cases), and the following results were obtained.1)Short−term hemodynamic overloading to the ventricle caused reactive hyperfunction and hypertrophy of myocytes, Stable hypertrophy resulted in long−term overloading,2)In car− diomyopathy, compensated or stable hypertrophy occurred, but progression to decompensated or gradual exhaustion and progressive cardiosclerosis(Meerson)took place. Progress of endocardial thickening was often observed during the course of the diseases.3)In the right and left atrial myocardium, extremely advanced pathology was observed and changes were related to the duration of the disease rather than to the severity of the hemodynamics.
It is concluded that the myocardial changes develop progressively, sometimes insidiously, and become c王inically recognizable after 20 to 30 years have elapsed.
はじめに Agingと疾病という命題のもとで,まず問題と なるのは,いわぽ生理的aging(加齢に伴う変化) なのか,疾患の経年変化を意味するのか,という ことであるn2). 本稿ではこの両者を別個にまず整理し,その上 で疾患との関連を論じてみることにするが,文献 の紹介1)∼8)の他に著者らが20年間心疾患の臨床と 病理学的研究に携わって来た経験9)∼16>の中から特 に強調したい項目を展開してみる. 1.Aging heartの生理4)5) 老化と共に心拍数は減少することが知られてい るが,ことに運動によって最:大心拍数が減少傾向 を示すことが重要である.これはアドレナリン受 容体の数の減少あるいはカテコラミンに対する感 受性の低下によると考えられる.安静時あるいは 運動時の心拍出量もやや少なめであるが,これに は心臓自体のコンプライアンス(弾力性)の低下 や大動脈のインヒ.一タンス(血管抵抗の一種)の 増大が関係あると考えられる.
II. Aging heartの病理3)19)∼24)
心重量が減少するというはつきりしたデータは 示されていない.著者の共同研究者西川10)は生直 後から15歳までの心筋細胞の門経を計測し,生直
後一週までは右室心筋細胞が左室のそれを凌賀し ているが,その後左室が優位となり,15歳まで心 筋細胞が生長していくと述べている.広江12)はな お20∼60歳の間に心節細胞の大きさ不変とのデー タを出している. 心筋細胞内にはリポフスチン穎粒の沈着が多く なるが,それが著しい沈着を示せば(心筋細胞数 の10%以上)心機能障害をおこしうる.なお心筋 細胞のbasophilic degeneration(写真1)も老人 心によくみられる.これは好塩基性に染まる物質 で,PAS染色陽性であるがジアスターゼで消化さ れない.本物質はglycogenesis・glycogenolysis系 の異常に由来する変性物質であるが,Lafora 病25》,粘液水腫心18》,心筋症例の心筋にみられるこ とが多い.本変性によって心機能はおかされない であろうとする見解もあるが,著者は本病変が agingとして生じていず,病的心筋のあらわれと して多数存在することを認め,重要視している12). 心筋間質においては,小児期に10%まで%fi・ brosisが生じると述べているが,心室筋では間質 が占める割合は20∼35%であり,加齢と共に変化 しないか僅かに増加するといわれる.Clausen17) はhexosamineのhydroxyprolineに対する比率 が加齢と共に低下した事を示しているが,これは 後者が増加したことを意味する.しかしこれに反 対のデータもある.心筋内脂肪組織の増加は老年 心に多くみられるが,心房中隔に多く分布し刺激 伝唱障害を生じることが知られている24》. 心筋内アミロイド沈着も老年心に多くみられ, 心筋細胞をとり囲む形あるいは小動脈の中膜に沈 着する形をとる.Wright26)は老年心の37%例に, Ikeeら27)は37%例に認められたと報告している. 一般に老年心では心房に多く分布し,さほど大き な臨床的問題をおこさないと考えられている(写 真2). 刺激伝導系細胞の減少や間質の線維化が生じて 伝導障害を生じることはあるが,単なる加齢とい うよりも,より高度に病的な変化が老年心に生じ ることが知られている1月 置特発性の伝導系の線維化の原因は不明である が,Lev29)は中心線罪体や大動脈弁論の線維化を 写真1 心房中隔欠損症例(50歳)の右心室田螺心筋 細胞内に認められたbasophilic degeneration(矢 印).Fは心筋間質の線維化が大分進行しているとこ ろを示す. 写真2 心房中隔欠損症例(58歳)の右心房心筋内に 認められた高度な心筋間質の線維化と心筋細胞の変 欝欝(矢印).核の空胞変性が認められる.
重要視し“slerosis of the left side of cardiac skelton”と呼び, Lenδgre30)は両脚の“scler・ odegenerative replacementと表現している.後 にRosenbaum31〕はこれらをLev病, Len6greと 分けて呼んでいるが,両者は刺激伝導系が選択的 におかされる同一疾患群であろうと考えられる. 杉浦らはこのような症例の中心線三体や伝導系の 一部に酸性ムコ多糖体の集積を認め,それが老化 と関係するものと考え,房室ブロック,脚ブロッ ク,左軸偏位などが加齢と共に増加することを示 している. ラット心筋の加齢に関係した電顕像として心筋 細胞のリポフスチン増加,筋原線維の不規則化,
心筋間質細胞の増加があげられているが,マウス でミトコンドリアのクリスタの減少が加齢の表現 と考えられたとする報告もある7). 心内膜の厚さは左右の心房,心室でそれぞれ異 なるが,出生後から成人までの正常心について 我々がしらべたところでは13歳まで徐々に肥厚し ていくことが分ったll).加齢の影響について明確 に示した報告はみられない20). 弁については弁構成細胞核の数と大きさの減 少,線維化の増加,コラーゲンの断裂,脂肪織の 増加と石灰化が生じる22). 心表面の冠状動脈が老化と共に蛇行することは 認められているが,これは以前に多かった冠血流 が減少したためと考えられている. III.老年者心疾患の臨床的問題点5)8) 上述した病理学的変化が基盤となって老年者特 有の臨床像があらわれる. 1.弁の病変 弁の硬化は老人特有の心雑音の原因となり得る が,大動脈弁障害の他に大動脈壁の硬化も心基部 雑音の形成に関係する. 中年以後にみられる大動脈弁狭窄は単なる老化 の要素のみで生じることがあるが,元来存在した 先天性大動脈弁障害(2尖弁など)やリウマチ性 病変を基盤としていると考える必要がある.僧帽 弁の硬化は女性に多く,ことに僧帽弁下に石灰下 として生じたり(写真3),それがHis束にまで延 び,房室ブロックの原因ともなり得る.またこれ らの弁障害の存在がしばしぼ感染性心内膜炎併発 の原因となるので,老年者に不可解な微熱,心雑 音の変化,全身塞栓症などをみたら血液培養を試 みる必要がある.非細菌性心内膜炎も老年心で問 題となる, 2.心筋病変 高血圧心を伴う老年心では心筋の拡張や収縮障 害が生じるので問題となる.アミロイド沈着が心
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写真3 老年女性(63歳)に認められた大動脈弁(矢印1本)および僧帽弁下(矢印 2本)の石灰化を示す心エコー図.室に高度に生じると心室拡張を障害し,res− trictive(拘束性)heart diseaseの丁子の原因とな る13).またジギタリス中毒も生じ易いといわれる が,これは多分に腎障害に基因する. 3.心房細動 心房心筋内伝導異常が加齢によって障害された 結果心房細動が生じると考えられている.そこで
senile atria1丘brillationとカ・lone atrial fibril−
lationなどと呼ばれるが,これは洞結節の線維化 がsick sinus syndromeのあらわれとして生じて いると解釈する研究者もいる.老年者では潜在す る比定型的甲状腺機能二進が心房細動の原因とな ることがあり注意を要する. 心房細動が存在する上に,高度房室ブロックが 生じると徐脈性心房細動となり心不全の原因と なったりするので注意を要する.この場合心臓 ペーシングが適応となる. 4.刺激伝導障害
老年者ではsick sinus syndromeカミ生じて失 神,めまい感を生じたり,上室性頻拍症がみられ ることがある.また上記の如きLenegre病30)ない しLev病29)によって房室伝導障害による高度房 室ブロックが生じるD. 5.高血圧8) 高血圧の持続は高血圧性心疾患を惹起するが, そこに心臓の加齢が加わると問題が生じる.また, 大動脈や末梢動脈の硬化や脳血流への影響も考慮 する必要がある.血圧は収縮期140∼160,拡張期 90mmHg以下が目標といわれる. 6.診療の要点5) 老年者ではpresbycardiaといわれるような状 態があり,45∼64歳の者に比し65∼74歳では4倍, 75歳以上では10倍心不全に罹患し易いといわれ る.また発熱,頻拍,貧血,Na貯溜,虚血,薬物, 環境や食隼活の変化などの影響を受け易く,それ らの因子が発症のひき金となるが,非定型的徴候 を呈するので治療にさいして細心の注意が必要で ある. IV.心疾患の経年変化15)16) どの疾患にも歴史がある.心疾患もその例外で はないが,そこにいわゆるagingを考慮して判断 する必要がある。小児期に罹患したリュウマチ性 関節炎に関連して,それが30年も経ってから弁膜 症や心不全として臨床的に問題となるのはその1 例である. そこで代表的心疾患についてその経年変化を自 然歴の中からとらえて整理してみることにする が,その基礎となる心筋の病変について心室筋と 心房筋に分けてみると,心筋はいかなる原因にせ よいったん破壊されても,そのあと反応性修復機 転が働いて代償期に入る姿勢をとる47).その時期 が長ければ病常安定期があるが,そのあと不安定 ないし破綻が生じるのが認められる15)16). 検索対象は小児剖検心150例,心内膜心筋生検 1500例,心臓外科手術中の生検心筋100例,各種心 疾患剖検例500例,各種心疾患について20年に至る 自然歴,などである16). 各疾患についての長期経過は下記の如くに要約 される. 1.弁膜症 小児期にリュウマチ罹患がある場合とない場合 とがあるが,僧帽弁膜症ことに狭窄症では左房圧 充進から肺実質障害を介して右心系への負荷が 徐々に生じて,遂に三尖弁閉鎖不全を合併して来 る.僧帽弁閉鎖不全症ではやや病態の進展の様相 は異なるが,基本的に同様である.大動脈弁狭窄 症では10∼20年以上におよぶ安定期があるが,左 心不全や狭心症が重要な:合併症として問題とな る.大動脈弁閉鎖不全症では病状安定期において も突然死がありうるが,末期には心不全や狭心症 が生じる. 2.虚血性心疾患32)33) 急性心筋梗塞(AMI)は冠状動脈粥状硬化の粥 腫崩壊が引き金となり,血栓形成が生じて冠閉塞 が生じた結果発症すると考えられるが,同様の病 変が3本の主な冠動脈枝に時期を経て生じ,再梗 塞や狭心症の要因となる.AMIでは発症初期1 ∼2時間内に約半数例がprehospital deathを遂 げると考えられている.そこで再梗塞例では発症 早期の急死の可能性が倍加するといってよい.急 死を免れた症例は安定一代償能力を保つか狭心症 や心不全を有しながら経過していく.
冠状動脈病変は火山の活動の如く,ある時は噴 火を,ある時期にはその修復一安定化を経ながら, 年輪の如く病変の積み重ねをしていく.その経過 中に冠動脈のspasmも関与する.これらの過程を 冠状動脈の歴史と呼んでみたい., 異型狭心症は冠状動脈のspasmによって生じ ることは広く知られる様になった.過去15年をふ り返った臨床経験の中で印象的なことがある34). Nifedipineを主とするCa拮抗薬投与継続によっ て狭心発作が全く無く,医師も患者も「もう発作 は生じなくなったのではないか」と思い,服薬を 中止してしまうことがあった.そこで5年以上も 無かった発作が再発した例を複数で経験した.そ こから生れた貴重な体験から冠spasmは10年以 上にわたっていつでも再発する可能性があるので 高齢に至るまで永久に投与を続けるべきであると いう忠告を学んだ. 3.不整脈と伝導障害 慢性不整脈や伝導障害は10年以上の経年変化の 進行を経てかなり進行してから氷山の一角の如く 臨床的問題として出現して来ると考えられる,著 者は今まで病理形態学的変化と心疾患の諸事象を 比較検討する試みを継続しているが36),洞機能不 全から洞停止例の心房病変35>,心サルコイドーシ ス39)による房室伝導障害例を例にとってみても良 くこの様に病変が高度になるまで臨床的にsilent であったのかと驚かされる事が多い.
Sick sinus syndrome 74症例の中で15例(20%) にジフテリアの既往があったことを考えてみる
と,ジフテリア感染当時おそらく心筋炎が生じた と推定されるが,病変が心室にあまり強く生じな かった為に患者は生存し,20∼30年忌経てばじめ てsick sinus syndromeを呈して来たと理解して みたい35).この考えは南米に多いトリパノゾーマ 心筋炎でおこるChagas病41)患者において不整 脈,伝導障害,拡張型心筋症などが罹患後二十年 も経ってはじめて心臓病専問医の目にとまるとす る報告にもとずく(図1).同様のことは免疫機構 が関与するサルコイドーシス,好酸球増多性心疾 患40),膠原二心などでも生じることが分っている. 最近話題になっているarrhythmogenic right Chagas’disease O lO 20 30years Myocarditis… 『?.’ Diphtheria 一・
cCM
Arrhythmia C◎nduction Dis. Myocarditis一・ Viral−Flu・syndrome ・・H・・ ・一rSS
Myocarditis・…..・一.『一・…?・……......・『.…・……一…DCM Arrhythmia Conduction Dis. 図1 心疾患は感染を受けてから約数10年を経てばじ めて臨床的に問題となることがある.Chagas病(ト リパノゾーマ感染),ジフテリア,ウイルス性心疾患 の3者について同様の機序が考えられる(説明本文 対参照). ventricular dysplasia(ARVD)38)は心室頻拍発作 のくり返しが生じ,右室内腔の拡大がありそれが 右二筋の欠落と脂肪組織置換によって生じる特異 な心疾患であることが判明しているが,著者らの研究室でARVDとほとんど同じ心筋病変を右室
も左室も拡大していない特発性心室頻拍症例の心内膜心筋生検標本の中に見出し,一見ARVDと
は別の心疾患と思えるような特発性心室頻拍症例はARVDの初期像を呈しているのかと考え始め
ている37). 4.心筋疾患と心筋炎 特発性肥大型心筋症(HCM)の18年にわたる予 後調査42)では小児期に心不全死や急死例があり, 自然淘汰の如く重症例はなくなり成人期に安定例 が多くなる.然し突然死が目立つ.ときにHCM から拡張型心筋症(DCM)の病態への移行がある ようであるがこれはまれである.DCM症例の予 後は悪く,我々の15年にわたる調査によれぽ43)入 院精査例の5年生存率は50%であったが,本疾患 では心不全死の他に突然死があったが,経過中に 心拡大の増強,心電図のQRS幅の増大,軸偏位, 悪性不整脈の出現な:どが増悪因子と考えられ,こ れらの因子の重症度をスコア化してみるとスコア 高値例の予後が悪いことが判明した. ウイルス性心筋炎症例は急性期にいわゆる劇症 型の臨床像を呈するが,最近は診断,治療の進歩関 口 論 文 付 図 1
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写真4 肥大心筋細胞の電顕像 A ミトコンドリア(M)の数の増加とゴルジ装置(G)の発達が目立ちhyperfunction が考えられる時期の(若年12歳)ファロー4徴症例の右心室生検像.Mf:筋原線維. B:粗面小胞体(γER)の発達は蛋白合成が充晒していることを示す,ファロー4徴 症若年(15歳)例 C:一見正常像を思われる代償性肥大腰細を示す高年(17歳)のファロー4徴症例. 核(N)の周囲にはグリコーゲン(Gl)がやや多い. T:T管.スケールは1ミクロ ンを示す.関口論文付図II
二
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羅
写真5 不全心筋細胞の電顕像 筋原線維(Mf)は一部に残存するのみで, thin創ament(ThF)のみになっている ところもある.細管系(SR)は断絶され,蜂窩状となってしまっている.なお筋原 線維のZ帯(Z)の増生が一部に認められる.ミトコンドリア(M)も高度の変性に おちいり,この心筋細胞には収縮力の廃絶がうかがわれる.拡張型心筋症例(40歳) の右室生検像. 灘によって意外によく回復する44)=47).我々が心生検 で確認した生存症例の予後をみると48),2例は心 電図や運動負荷を含む核医学検査でほとんど完全 回復を示したが,他の8例は右脚ブ・ック+左軸 偏位や恒久性完全房室ブロックなどを残して潜在 性心不全をうかがおせる検査所見を呈しながら, 一応NYHA I∼II度の軽症で10年以上までの期 間を経過しているのを観察している.うち2例は 最近発症の9年後に心不全を呈したので心生検で 心筋炎の再発かみてみたところ,心筋線維化の二 二性病変しかみられなかったことをみている.こ れをみると免疫機構の要因より心筋病変の経年病 変化がより大きな要因ではないかと考えさせられ る. しかし好酸球性心疾患40),心サルコイドーシ ス391,膠原病心では病変のくり返しの所見をみる ので免疫機構の要因もとり入れて考える必要があ ろう.それに関連のある病変なのか,心筋内の毛 細管基底膜の多層化病変が心筋線維化の要因の一 つとして重要なのではないかと注目し検討を進め ている49》. なお,神経・筋疾患や家族性心筋症においても 心筋病変の経年変化を考える必要があることを経 験している.膠原病における心電図の経年変化例 を図2に示しておく. 5.心筋の肥大と変性の経年変化15) 表1に有名なMeersonの心肥大の分類50)を示 しておく(表1).これは心筋細胞の微細構造の面 から肥大の過程を3期目分けたものであり,第1 期では心筋細胞が障害されることによって反応形 態として増殖性になっている時期である.この時 期では蛋白合成が盛んとなり,ミトコンドリアの 数の増加などが認められる.第II期は安定期ない し代償期であり,心筋細胞の構造としては一見正 常像を示す.第III期は障害期であり,細胞数は疲 幣状態となり徐々に細胞が脱落していく時期であ る.このように細胞レベルにおいて心筋肥大が1 つの過程を歩むことが理解されると思う.した がって,いま心筋の状態がどの時期にあるのかに ついて考えてみる必要があり,それによって病態 の理解が深まる. 8/27/73
i藤養鰻嚢謝
V! V2 V3 V4 V5 V6
難総懸難
ll/6/751曇
ゴ1事 :Fyユギ
==. 図2 著しい心室内伝導障害を呈した皮膚筋炎の62歳.男 性. 3/18/75工 1 .皐1、..・VR ・V・ 、VF三砦、郵整≒藁圭歩旦
V・ V2 V3 V4 V5 V6
牽難聴鳳至藤
H 丑1 、VR 、VL 、VF謂蕊葦藩総総
V2 V3 V4 V5 V6
藩罪乖謹聖
2年の経過で正常心電図から異常Q波形成と 表1 Meersonの心肥大のstage分類50)Ist stage:the丘rst or damage stage of isQmetric
hyperfunction
II nd stage:the second stage or stage of relatively
stable hyperfunction
IIIrd stage:the third stage of gradual exhaustion and
progressive cardiosclerosis (Meerson, EZ.:.4彫,∫Co7伽よ15:755,1965) 著者は過去20年にわたって今野,榊原が開発し た心内膜心筋生検法を駆使して心筋疾患の臨床病 理学的研究をおこなっているが13),その中で心筋 細胞の肥大から変性への歩みを経年変化として観 察し若干の知見を得ている15).その結果を1985年 の日本循環器学会の「心疾患における心筋の経年 変化」と題するシンポジウムに発表したが15)16),そ の概要を述べる. 心筋細胞の肥大をおこす要因はさまざまである が,何れにしてもその過程が短期間であれぽ,ま ず心筋細胞は機能充進状態となり(Meerson50)の
第1期),細胞内ではミトコンドリアの増加,粗面 小胞体やゴルジ装置の発達などが目立つ(写真4 A,B),この様な所見を感染性内膜炎によって大 動脈弁閉鎖不全が生じたり,僧帽弁の腱鞘が断裂 して僧帽弁閉鎖不全が生じたりして急激に左心室 あるいは左心房に負荷がかかった時に観察した が,ファロー4徴症の右心室心筋の中にも同様の 病変を認めている.しかし,慢性ないし長期の左 室負荷,あるいはより高年齢のファロー4徴症例 の右室心筋では細胞横径の増大があり,いかにも 肥大心筋ということにふさわしいが,電顕像は大 分おちついた所見を呈し,Meersonの代償性肥大 期にあると思われた(写真4C).次いで訪れる退 行変性期(Meersonの第III期)の所見はことに拡 張型心筋症例において,いわゆる不全心筋として かなり高度な変性像を認めている(写真5). ここでなお,示唆に富む事実をみた.それは心 房においては左右共に心室心筋よりはるかに高度 な心筋変性像や線維化を認めたことである,例え ば心房中隔欠損症の右心房心筋をみると光顕,電 顕所見共に左右短縮率など血行動態の発症度より もむしろ罹患年数が多いほど病変が強かった,病 変スコアをとると罹患年数との間にr=0.88とい う高い相関があり,また病変スコアが高値になる 頃に心房細動が認められることも分った9).同様 の傾向は非リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症の左心房 心筋にも認められている51).そこで心筋病変は病 態の経年変化として進行していくことを知ること ができたのである. 心筋の経年変化に関する研究については本学病理 学教室今井三喜(現名誉教授),梶田 昭教授らの御協 力に負うところが多い.また心臓外科手術時の心筋病 変の検索には故今野草二教授をはじめ,小柳 仁,橋 本明政,今井康晴教授らの御援助をいただいた.ここ に感謝の意を表したい,最後に恩師広沢弘七郎教授の 御指導に感謝する. 本研究の一部は厚生省特定疾患調査研究特発性心 筋症研究班の助成によってなされた. 本稿の内容は昭和60年9月28日東京女子医科大学 学会第51回総会において発表された. 文 献 1)杉浦昌也:老年者の変性型心疾患.Modern Medi− cine,119, (1974)
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