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都市計画法第 34 条 11 号による開発規制の緩和が周辺地域に与える影響の考察について
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム
MJU18710 田部田 英智1.問題意識
所得の上昇に伴う多様な住宅ニーズと自動車中心のライフスタ イルは、特に地方都市において、広い住宅地を確保しやすい都市 郊外への人々の居住志向を高めてきた。一方、急速な人口の減少 と高齢化が見込まれる中で、コンパクトシティの実現に向けた都 市政策が推進され、今まさに都市郊外におけるまちづくりの在り 方が問われている。
都市計画法第 34 条 11 号の条例(以下「3411 条例」という。) は、地方分権改革の一環として、2000 年の都市計画法改正により 地方実情にあわせて相当程度公共施設の整備が進んでいる場所に 周辺環境への負の影響が少ない建築物であること等一定の要件の もと市街化調整区域の開発規制を緩和し、柔軟なまちづくりに資 するものとして導入された。本来、都市計画法は、都市計画区域 を市街化区域と市街化調整区域に分け(いわゆる線引き)、スプロ ール防止の観点から、市街化調整区域の開発を厳格に規制してき た。その担保となる手段が、開発許可制度であり、原則、全国同 一の基準で運用されてきた。3411 条例は、スプロール等の弊害が 発生しない前提で自治体の判断により条例で開発規制を緩和でき るとするものである。従来の開発許可が個別の開発により分散的 な開発であったのに対し、3411 条例は面的な緩和が可能で、戦略 的な開発誘導が可能となったことに意義がある。
2016 年度末、3411 条例を独自に制定することができる 473 自治 体中 170 自治体において条例が運用されている。3411 条例は、市 街化調整区域の開発において一定の存在感を占めており、2016 年 度の開発許可実績では、市街化調整区域における開発許可面積の 約 20%を占めるに至り、制度創設以来、2016 年度末までに全国で 約 4,600 万㎡が、新規に開発されており、3411 条例は、市街化調 整区域の土地利用に大きな影響を与えている。
そして、3411 条例の導入により市街化調整区域の開発が急増し、
環境悪化やスプロール等の弊害が発生し、現在、6 つの自治体が 廃止に踏み切り、また、規制の厳格化に取り組む自治体もある。
一方で、人口増加策や既存集落の活性化のために積極的に 3411 条例を活用するために規制の再緩和を進める自治体もある。
本稿では、この 3411 条例による開発規制の緩和が周辺地域に与 える影響を検証することによって、政策提言を行うものである。
2.経済学的考察と仮説の提示
(1)経済学的考察
髙塚創(2017)は、線引き廃止について、閉鎖都市と一戸当た りの敷地面積一定の仮定をおいた単一中心モデルを用いてその効 果を理論的に分析している。ここでは同様の枠組みを用いるが、
理論的な分析を行わないので、敷地面積一定の仮定は置かない。
ただし、説明の簡略化のために閉鎖都市の仮定は維持する。
都心部に業務区域(雇用の場)が存在し、人々がその業務地点 を中心として同心円状に住み、さらにその外側に農地が広がる都 市を仮定する(単一中心都市)。通勤費は、都心から遠くなればな るほど高くなるものとする。これを反映して住宅地代は都心から 離れるほど低くなる。なお、農地地代は、0ではないものの無視 できる程度に極めて低いものとする。
通勤費の増大により住宅地代が農地の地代を下回るまで、この 都市の住民が居住することとなり、その地点より遠い部分は、農 地となる(図1)。
図 1 規制がない場合の地代曲線
このとき、地代が0となる地点より前の部分において住宅の建 築が可能な市街化区域と住宅建築用途の宅地開発が原則禁止され る市街化調整区域に分ける線引きがなされた場合、住宅地の供給 が制限されることから、市街化区域の住宅地の地代は線引きが行 われない場合よりも高くなり、市街化調整区域の地代は、農地地 代となる。なお、線引きによって都市計画区域に入らず、住宅地 の開発が容認される都市計画区域外の土地も存在しうるので、併 せて(図2)中に図示する。
図 2 線引き後の地代曲線
市街化調整区域の中でも宅地開発がなされていないわけではな い。いわゆる分家住宅の特例で宅地開発がなされており、以下で 用いる公示データにおいても市街化調整区域内の住宅地代がつい ているはずで、農地地代よりも遙かに高い地代になっている。
次に、3411 条例によって、市街化区域からの一定距離にある地 域について、住宅建築用途の宅地開発規制を緩和した場合、住宅 地が拡大し、住宅地の総供給量は、増加する。この規制緩和によ り、市街化区域と市街化調整区域の既存宅地については、地代が 下落し、市街化調整区域の農地については、地代が農地地代から 住宅地代に上昇することとなる(図3)。
図 3 3411 条例施行後の地代曲線
(2)3411 条例の都市に与える影響の考察
3411 条例の効果について述べる。実際には持家居住者も多いが、
以下での説明の単純化のために、すべての住民は地主から土地を 借りていると仮定する。
線引きが行われた状況において、住民は、地代が高い市街化区 域か通勤費が高い遠方の都市計画区域外に住むしかなかったが、
2
被説明変数:log(地価/1,000) サンプル数2,346 within0.9106
係数 標準誤差 t値 P値
市街化区域地価変化 -0.043784 0.004699 -9.32 0.0000 *** -0.053000 -0.034568 3411条例エリア地価変化 0.070131 0.0190825 3.68 0.0000 *** 0.0327076 0.1075545
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す。
95%信頼区間
3411 条例によって都市近郊部に住宅地の供給量が増え、住民の一 部は地代の低い 3411 条例対象区域に移り住む。また、都市全体で の住宅地供給が増えるので、地代曲線は、下にシフトする。市街 化区域の地主は、地代収入の減少の影響を受けるが、3411 条例対 象区域の農地保有者は、住宅地代を受け取ることができるように なり、収入が増加することとなる。そして、このような規制の緩 和は、都市の土地利用の効率性を高める。これは下の表1を用い ると以下のように説明できる。3411 条例対象区域内で農地地主は 住宅地代を得ることができるようになり、プラスの便益を受け取 る。都市住民は住宅地代の低下から恩恵を受けるが、これは地主 の取り分が減ることを意味するので、合計するとほぼ相殺する。
すべてを合わせて考えると、3411 条例対象区域内での地代収入上 昇分だけ純便益が発生する。
ただし、後追い的な公共施設の整備や渋滞等外部不経済の発生 といった市場の失敗がある場合は、このプラスの効果が減殺され、
3411 条例を導入する前の状態と比べ土地利用の効率性を損なう 可能性がある。こういった場合には、過剰な郊外化が発生する。
表 1 都市における経済主体の利害の得失
地域 経済主体 得失
市街化区域 地主 地代収入の減少 +
宅地賃借人 地代負担の減少 - 市街化調整区域
(3411条例対象区域)
地主(農家) 地代収入の増加 +
宅地賃借人 市街化区域より広い宅地を単位あ たり安く借りることができる + 市街化調整区域
(3411条例対象区域外)
地主(農家) 変化なし 農地賃借人 変化なし 表 2 3411 条例の都市に与える影響
符号 項目名 備考
正 市街化区域:地価の下落 市街化調整区域:地価の上昇
土地選択の自由と価格の下落により都市の土地利 用の効率性が上昇
負 追加的な公共施設の整備
3411 条例が、公共施設整備が不完全な区域を対象 とする場合で住民又は開発事業者がその対価を支 払わない場合、過剰な郊外化を招く。
負 通勤・通学に係る渋滞・混雑 の発生
住民がその社会的費用を負担しない場合、過剰な 郊外化を招く。
負 用途混在による負の外部性 農地と住宅地が混在することにより、農薬散布や農 作業の騒音によるトラブルが発生する。
負 空き家の発生
都市内の移動が主とした場合、都心部に空き家が発 生する。その一定率が管理不全空き家となるとする と、都市に外部不経済の発生をもたらす。
負 都心部の集積の経済の喪失 郊外部の人口の増加により、商業施設も郊外部へ移 転し、都心部の商業集積が失われる。
負 交通弱者の発生 郊外部居住は、自動車中心のライフスタイルであり、
住民の高齢化により、交通弱者の発生を招く。
負 行政サービスの経費増 居住区域の分散化により行政サービスの提供経費 が増加する。
本章の経済学的考察と前章の 3411 条例の運用状況を踏まえ、本 稿では、以下の仮説を設定し、実証分析を行うものとする。
表 3 仮説
仮説①
3411条例の導入により、都市の宅地供給の総量が増加し、市街化区域に おいては、地価が下落し、これまで土地利用が妨げられてきた市街化調 整区域においては、地価が上昇する。
仮説②
3411条例の導入により、都市の公共投資が増加しているのではないか。
仮説③
3411条例の導入により、都市の宅地供給の総量が増加し、都市内におけ る人の移動が発生した結果、都市の空き家率が上昇するのではないか。
仮説④
3411条例に規定される連たん緩和や文言型といった画一型の規制緩和 策は、面積の拡大効果が大きいのではないか。
3
.実証分析
3-1条例制定の地価への影響 3-1-1 水戸・郡山DID分析
仮説①を検証するため、DID的手法によりパネルデータを用 いた固定効果分析を用いた推定を行う。条例制定の効果を測定す るために2つの都市を比較する。分析対象とする都市については、
水戸市と郡山市とする。水戸市と郡山市を選択したのは、人口規
模、高齢化率、東京駅からの時間、市街化調整区域の都市計画区 域に占める割合が類似しているからである。水戸市が 2004 年以来、
3411 条例を運用しているのに対し、郡山市では、3411 条例をこれ まで一度も施行したことがなく、条例制定による地価への影響を 推定するのに相応しいものと考えた。また、地価については、公 示地価・都道府県地価調査(以下「地価データ」とする。)を用い るものとする。そして、条例導入前の両都市の地価トレンドは、
類似していると認められる。なお、2012 年以降の東日本大震災の 地価への影響による可能性を除くため、下記推定式を用いる。
(推定式)
ln(公示地価/1,000)=β0+β1(水戸ダミー×2005 年以降ダミー)+β2(2005 年 以降ダミー×3411 条例エリアダミー)+β3(水戸ダミー×2005 年以降ダミー×3411 条例エリアダミー)+β4 ガスダミー+β5 下水道ダミー+β6 容積率ダミー+β7 建 ぺい率ダミー+β8~β18(年次ダミー(2002~2011 年)+ε(誤差項、以下同じ)
(結果)
(結果の考察)
3411 条例導入により、市街化区域の地価下落と市街化調整区 域(3411 条例により開発規制が緩和されたエリア)の地価上昇 が発生。仮説①通りの結果が得られた。都市の土地利用の効率 性が向上している可能性が示された。
3-1-2 川越・春日部DID分析
仮説①を裏面から検証するため、3411 条例を廃止した川越市と 3411 条例を施行する春日部市2都市間でDID的手法によりパ ネルデータを用いた固定効果分析を用いた推定を行う。両都市は、
東京都心から 50 ㎞メートル県内で、人口規模等も類似する。2006 年以降、両市が 3411 条例を施行、2011 年 10 月に川越市が 3411 条例を廃止しており、2007 年~2017 年の地価データを用いる。
(推定式)
ln(公示地価/1,000)=β0+β1(川越ダミー×2012 年以降ダミー)+β2(2012 年以降ダミー×調整区域ダミー)+β3(川越ダミー×2012 年以降ダミー×調整区域 ダミー)+β4 ガスダミー+β5 下水道ダミー+β6 容積率ダミー+β7 建ぺい率ダミ ー+β8~β19(年次ダミー(2007~2017 年)+ε
(結果)
(結果の考察)
3411 条例の廃止により、市街化区域の地価上昇と市街化調整区 域の地価下落が発生。仮説①通りの結果が「条例の廃止」という 逆の観点から得られた。
3-1-3 北関東主要都市パネルデータ分析
仮説①を検証するため、パネルデータを用いた固定効果分析を 用いた推定を行う。対象として、つくばエクスプレス開業要因が 大きいつくば市を除く北関東の人口 15 万人以上の都市を対象と する。本推定は、市街化区域と市街化調整区域に分けて行う。
(推定式)
ln(公示地価/1,000)=β0+β1(条例施行ダミー)+β2~β19
(年次ダミー(2001~2017 年)+ε (結果)
被説明変数:log(地価/1,000) サンプル数1,536 within0.819500
係数 標準誤差 t値 P値
市街化区域地価変化 0.019187 0.002903 6.61 0.0000 *** -0.053031 -0.034638 市街化調整区域地価変化 -0.022313 0.011259 -1.98 0.0480 ** 0.037286 0.104467
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す。
95%信頼区間
被説明変数:log(地価/1,000) サンプル数1,839 within0.803100
係数 標準誤差
(市街化区域)条例施行ダミ― -0.013135 0.002578 *** -0.018189 -0.008082
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す。
95%信頼区間
3
被説明変数:普通建設事業費3か年平均
係数 標準誤差 t値 P値
3411条例3か年平均開発許可面積 355021.3 166507.7 2.1 0.0360 ** 23660.48 686382.2 面積27国調 11047.54 1781.129 6.2 0.0000 *** 7502.984 14592.1 人口27国調 38.10837 4.736544 8.1 0.0000 *** 28.68235 47.5344 転入率27国調 -593437.1 500692.5 -1 0.2390 -1589847 402972.6 高齢化率27国調 -395200.1 256029.8 -2 0.1270 -904715.7 114315.6 定数項 9339453 7293044 1.3 0.2040 -5174167 2.39E+07
サンプル数 86
R-squared 0.607500
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す。
95%信頼区間
被説明変数:空き家率 サンプル数86 R-squared0.2469
係数 標準誤差 t値 P値
3411条例5か年平均開発許可面積 0.245232 0.074847 3.28 0.0020 *** -0.053031 -0.034638 95%信頼区間
① ②
(結果の考察)
3411 条例の廃止により、市街化区域の地価上昇と市街化調整区 域の地価下落が発生。仮説①通りの結果が得られた。
3-2条例制定の公共事業費への影響
仮説②を実証するため、3411 条例が追加的な公共投資を必要と しないとすれば、都市の公共投資の額と 3411 条例による開発許可 面積は無関係なはずであることから、中核市・旧特例市(ただし、
非線引き都市である高松市を除く。)の地方財政状況調査における 普通建設事業費を被説明変数とし、開発許可制度施行状況におけ る 3411 条例開発許可面積をトリートメント変数とし、OLS(最 小二乗法)モデルにより分析を行う。
(推定式)
2014 年度~2016 年度中核市・特例市普通建設事業費の平均額(高松市除く) (千円)
=β0+β1(3411 条例 2012 年度~2016 年度開発許可面積)+β2(都市面積)+β3
(都市人口)+β4(転入率)+β5(高齢化率)+ε
(結果)
(結果の考察)
3411 条例による開発許可面積が多い自治体ほど、普通建設事業 費が多い関係にある。推定では、開発許可面積が1ha 増えるほど、
普通建設事業費が 355,021 千円高くなる。ただし、開発許可が増 えるプロセスには、連たんによる市街地の拡大を分析するに、ま ず道路等の整備が行われ、①それを起点に開発が誘発されるパタ ーン、②開発許可によって地域人口が増加する等して公共投資の 必要性が発生するパターン、あるいは、①・②の複合形態も考え られるため、因果関係までは断定できない。
図 4 公共施設整備と開発
3-3条例制定の空き家発生への影響仮説③を実証する。3411 条例による宅地供給の増加は、市街化 調整区域への住宅の立地を促す。そして、人々は、都市内部を移 動するが、多くの地方都市では人口が維持ないし減少する中での 住宅が供給されるので、市街化区域には空き家が増える。そこで、
中核市・旧特例市(ただし、非線引き都市である高松市を除く。) の 2013 年住宅・土地統計調査における空き家率を被説明変数とし 3411 条例開発許可面積をトリートメント変数とし、OLS(最小 二乗法)モデルにより分析を行う。
(推定式)
空き家率(2013 年住宅・土地統計調査) (%)=β0+β1(3411 条例 2012 年度~2016 年度開発許可面積)+β2(都市面積)+β3(都市人口)
+β4(転入率)+β5(高齢化率)+ε
(結果)
(結果の考察)
3411 条例の開発許可面積の大きい都市ほど空き家率が高いこ とが示された。推定では、3411 条例の開発許可面積が 1ha 増加す るごとに空き家率を 0.25%引き上げることが示された。
3-4条例規制値の 3411 条例開発許可面積拡大に与える影響 仮説④を実証するため、3411 条例施行都市における条例の規制 ダミーを作成し、各種の規制の実施の有無による面積拡大効果を、
政令市・中核市・特例市・県庁所在都市の 3411 条例許可面積を被 説明変数とし、各規制をトリートメント変数とし、OLS(最小 二乗法)モデルにより分析を行う。
表 4 分析対象とする 3411 条例の規制
規制内容 内容 予測される結果
連たん緩和の有無
連たん規定が、平均的な 50 戸50m規制より緩 和されているかどうか。45 戸以下又は 60m以 上を緩和とみなした。
連たん緩和が緩ければ、面積 は、非緩和都市より拡大する。
3411 条例対象区域の 設定方式
①具体的な地域を指定せず、市街化区域から 概ね~㎞というような文言指定方式
②具体的な地域を地図上で明示するエリア指定 方式
③①と②を併用(併用方式)
④具体的エリアごとに規制値を設定又はまちづ くり基本計画等の策定を義務付ける等特殊方式
具体的な場所を明示しない文 言指定方式ほうが、面積拡大 効果が大きく、特殊方式は面 積拡大が抑えられる。
非自己用用途可能の 有無
開発許可の対象を許可申請者自らの住宅用途 に限定しているかどうか。
非自己用用途の開発が認めら れるほうが、面積が拡大する。
宅地分譲可能の有無 宅地分譲目的の開発許可が可能かどうか。 宅地分譲目的の開発が認めら れるほうが面積が拡大する。
共同住宅用途可能の 有無
開発許可の対象に共同住宅を加えているかどう か。
共同住宅用途が認められるほ うが面積が拡大する。
道路幅員による規制の 有無
開発区域に接するべき道路の幅員が 6m以上 かどうか。
接するべき道路幅員が広いと 面積が抑制される。
接道要件の上乗せの 有無
開発区域が道路に接する長さが 4m以上かど うか
接道の長さが長ければ、面積 が抑制される。
市街化区域境界からの 近接要件の設定方式
①3411条例対象区域を市街化区域から1㎞未 満とする距離制限厳格型
②3411条例対象区域を概ね市街化区域から1
㎞とする距離制限平均型
③3411条例対象区域を市街化区域から1㎞よ り大きくとる距離制限緩和型
なお、市街化調整区域全域等距離制限がない 都市は③に分類した。
距離制限が緩いほど面積が拡 大する。
(推定式)
3411 条例 2012 年度~2016 年度開発許可面積の平均値(ha)=β0+β1(連坦緩和 ダミー)+β2(文言型ダミー)+β3(エリア型ダミー)+β4(併用型ダミー)+β5
(非自己用可能ダミー)+β6(宅地分譲可能ダミー)+β7(共同住宅可能ダミー)
+β8(道路幅員 6m以上必要ダミー)+β9(許可対象敷地 4m以上接道必要ダミー)
+β10(指定区域近接要件通常型ダミー)+β11(指定区域近接要件緩和型ダミー)
+β12(市街化調整区域面積)+β13(都市人口)+β14(転入率)+β15(高齢化 率)+ε
(結果)
(結果の考察)
連たん規制の緩和は、緩和していない都市より 3411 条例許可面 積が拡大する。エリア設定については、特殊型と比べて、併用型、
エリア型、文言型の順に 3411 条例許可面積が拡大する。しかしな がら、エリア方式の場合、連たん要件が緩和されていることも多 く、文言型より面積が拡大しているとも思われる。地域ごとに規 制値を設定あるいは、許可にあたってまちづくり計画等の策定を 義務付けている都市では、開発が大きく抑制されている。非自己 用可能、宅地分譲可能については、統計上有意性と出なかったが、
被説明変数:log(地価/1,000) サンプル数1,839 within0.803100
係数 標準誤差
(市街化調整区域)条例施行ダミ― 0.019187 0.002903 *** -0.053031 -0.034638
***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す。
95%信頼区間
被説明変数:3411条例5か年平均許可面積 サンプル数42 R-squared0.5457
係数 標準誤差 t値 P値
連坦緩和ダミー 3.272703 1.381708 2.37 0.0260 ** 0.427022 6.118383 文言型ダミー 4.591406 2.453525 1.87 0.0730 * -0.461724 9.644535 エリア型ダミー 6.866902 2.246357 3.06 0.0050 *** 2.240444 11.493360 併用型ダミー 9.242401 2.625862 3.52 0.0020 *** 3.834337 14.650470 非自己用ダミー -2.082207 2.827498 -0.74 0.4680 -7.905547 3.741134 宅地分譲可能ダミー 0.340243 2.647724 0.13 0.8990 -5.112846 5.793332 共同住宅可能ダミー 3.635966 1.419379 2.56 0.0170 ** 0.712701 6.559231 6m以上道路ダミー 0.583810 1.534423 0.38 0.7070 -2.576393 3.744013 4m以上接道ダミー -0.129679 1.699868 -0.08 0.9400 -3.630623 3.371264 近接要件通常型ダミー 2.548604 2.213582 1.15 0.2600 -2.010354 7.107561 近接要件緩和型ダミー -0.236704 2.573779 -0.09 0.9270 -5.537502 5.064093 95%信頼区間
①
4 これは、自己用限定だとしても事実上事業者が許可申請を代行す る等し、事実上の宅地分譲が行われている現実があるからだと考 えられる。共同住宅用途が可能な場合は、統計上有意に 3411 条例 許可面積が大きくなるが、共同住宅は、農地保有者の資産運用・
保全のツールになっていると思われ、開発のインセンティブが働 いたのでは考えられる。道路幅員、接道要件の強化による面積の 抑制については、統計上有意と出なかったが、そもそも幅員の広 い道路整備が進んだ地域での開発許可が集中している可能性があ ると思われる。近接要件についても、そもそも市街化区域近傍は、
地価のわりに通勤や買い物等の利便性が高いため立地が集中し、
統計上有意とならなかった可能性がある。
4.政策提言
3411 条例は、立地選択の幅を広げ、また、宅地供給量の増加に よる地価下落を通じて、都市の土地利用の効率性を向上させる効 果を有する。しかしながら、実証分析より 3411 開発許可面積が、
過大な公共投資や空き家率上昇に対して、影響を及ぼしている可 能性があり、また、規制値等の設定の在り方が 3411 開発許可面積 に影響していると思わる。本章では以下、3411 条例を活かしつつ、
市場の失敗の発生防止の観点から政策提言を行うものとする。な お、提言項目は、①税制、プライシングによる手法(4-1)、②規 制的手法(4-2、4-3、4-4)、③計画的手法(4-5)に分類し、4-5 のもと 4-1~4-4 の手法を組み合わせるパッケージで実施するこ とを提案する。
表 5 政策提言項目一覧
項目名 目的・内容 メリット・デメリット
4-1都市計画税の徴収
等
受益・損失に見合った課税・負 担金等の徴収
(メリット)市場原理を用いた開発 需要の誘導により過剰な郊外化 を抑制
(デメリット)「受益」の具体的金額 算出の困難性
4-2
条例規制値等の見 直し
エリアの範囲を見直すととも に、地域特性に見合った規制 値を設定する
(メリット)地域ごとに規制を変え て外部性を内部化できる
(デメリット)条例改正等の合意困 難
4-3
性能規定化
個々の開発案件ごとに発生す る外部不経済や必要とすべき 公共施設整備の基準を示して 許可
(メリット)個々の開発案件に応じ た市場の失敗の回避が可能
(デメリット)案件ごとの具体的な 基準の設定と許可後の許可条件 履行の担保
4-4
市街化調整区域地 区計画の導入
エリアごとに地区計画を定め て、
(メリット)上位計画と整合性をも たせた郊外部のまちづくり
(デメリット)住民合意の困難性
4-5上位計画との整合
性の確保と広域的な都 市計画の推進
上位計画との整合性確保 ある一定の都市圏単位で開発 規制について設定する
(メリット)上位計画との整合性確 保、過剰な都市間競争の緩和
(デメリット)自治体間の合意
4-1市街化調整区域における都市計画税の徴収
公共財におけるフリーライド発生の問題、あるいは負の外部性 発生に対する問題については、その費用を地代に含ませることに より過剰な郊外化を防止することができる。その手段としては、
受益に応じた課税と負の外部性の社会的費用を負担させる課税
(ピグー税)である。都市計画税は、都市計画事業等のための費 用に充てられる目的税であり、受益と負担が明確である。理論的 にも社会的費用の負担がない場合、都市規模は過大に拡大してし まう。現実には、個々の土地の明確な受益の額の算出は難しい。
そこで、次善の策としては、道路・下水道等について市街化区域 並みの公共施設が整備された場合には、市街化区域の税率により 課税することを提案する。
4-2条例規制値の見直し
連たん要件の緩和等の画一的な規制の緩和やエリア設定の在り 方が、面積拡大をもらしていることから、規制値やエリア設定に ついて、地域の特性にあった規制の在り方を導入することを提案 する。そもそも、3411 条例は、地域の実情に合わせた開発規制の 緩和図ることを期待されており、都市内の地域ごとの特性を把握
する自治体は、きめ細やかな基準の設定が可能である。
4-3性能規定化の推進
性能規定とは、物的な属性について数値や外形に関する仕様を 定める仕様規定に対して、要求する性能(機能) と性能の照査方 法を明らかにする形式を指す。開発許可への応用としては、開発 行為に伴う個別の外部性の要因ごとに外部性を統制するために用 いる。許可に際しては、周辺環境や交通に負荷をかけない性能に 基づいて審査を行い、許可の条件を付する。ただし、公共施設整 備も開発区域の内部に留まり、全てを内部化できるものではなく、
完全な性能規定化は難しく、4-1 の都市計画税の賦課等の課税等 との組み合わせが必要である。
4-4市街化調整区域地区計画
市街化調整区域地区計画を地域の特性を踏まえ、上位計画と整 合性をとりながら郊外のまちづくりを行うことを提案する。郊外 独自のまちづくりという位置づけができれば、立地適正化計画等 のコンパクトシティ関連施策との整合性も図りやすい。ただし、
地区計画の導入は、住民の納得のもと進めていく必要があり、新 旧の住民が混住している状況では、双方の合意も難しい。そこで、
長期的に、地区計画化するよう誘導を図っていくべきである。
4-5上位計画との整合性の確保と広域的な都市計画の推進 3411 条例の規制の緩和の在り方においては、都市郊外部のまち づくりにおける在り方が問われているが、コンパクトシティの推 進と多様な住環境に対するニーズや既存集落のコミュニティの維 持に応えるということは、政策的に矛盾するものではない。市街 化区域内とは違った地域固有の独自のまちづくりの在り方を示し、
住民のコンセンサスを得ながら位置づけを行っていくことが肝要 であると考える。また、人口の奪い合い等の地域間競争のため、
規制を緩和せざるを得ないという状況の中で、例えば、雇用都市 圏 を構成する市町村で、都市計画規制の在り方をについて協議し、
コンセンサスをとっていくべきである。
5.おわりに
人口減少社会が進む中で「コンパクトシティ」の積極的な推進 が叫ばれている。本稿で検討した郊外化の動きは、規制の緩和を 通じた競争的市場における個々人の選択の結果を基本とする市場 メカニズムによるものであり、基本的に都市の土地利用の効率化 に資する。ただし、公共財や外部性という市場の失敗が、現実に 存在することが政府介入の正当化の根拠となる。その際の政府介 入は、適切かつ最小限のものとすべきであるが、恣意的でない適 切な政策判断を行うために、実証的根拠に基づく費用便益分析を しなければならない。そして、公共財や外部性への適切な対処に
「コンパクトシティ」を価格メカニズムという市場を通じて促進 する可能性があるのではないかと考える。
最後に、本研究の課題としては、地価のより詳細な分析があげ られる。都市中心部や市街化区域境界からの距離等よる分析を行 い、都市内部のどの場所でどれくらい影響があるかを分析するこ とである。また、多数の都市を同時に分析する等データを厚くす ることである。公共投資への影響については、普通建設事業費と いう大きな枠で分析したが、市街化調整区域にかかる投資額を抽 出し分析するべきである。また、本稿では、開発許可の後に追加 的な公共投資が発生しているかという客観的な因果関係までは、
示すことができずこれについても課題である。
主要参考文献
・浅野純一郎「都市計画法 34 条11 号条例導入による効果と課題に関する研究」(2010)
・髙塚創「香川県における線引き廃止とこれからの都市づくり」(2017)
・福井秀夫「都市計画・建築規制における性能規定の意義―景観・用途・容積率・開発行為に関する 規制を検証する―」(2016)ほか