【 8 】2025 年の長崎の救急医療
はじめに
長崎市では1997年から救急車搬送時にプレホスタルコードと救急実態調査表からなる救急 事務引継書を運用している。救急隊は搬送時に病院到着時までの記録を記入して渡し医療機 関側は搬送後7日目時点での確定診断、転帰などを記入し救急隊への個別のフィードバック、 全体での集計を行っている。この引継書は救急搬送の全体で行っているものであり、2004年 度からは長崎県下全域(人口145万人)で運用されている。長崎県の救急搬送数は2005年度の 48, 409件から2014年度は57, 506件と年々増加しているが、そのうち90%強で集計が行われて いる。今回これらのデータを基に、主に長崎市(地域)における高齢者の(救急搬送された)救 急医療の状況といわゆる団塊の世代が後期高齢者に達する2025年にどういう状況になるか予 想してみた。これらの予想を基に長崎地区の救急医療のあるべき姿を検討したい。
(1)救急搬送の増加について
救急搬送の増加(1998年から2014年の17年内に総搬送数は約1. 6倍増加している)の理由と してタクシー代わりの利用という事が言われ、軽症者の利用が主な原因の様に捉えられる ことがある。長崎地域では救急搬送後入院に至らなかった例(外来のみ)を軽症と考えると、 もともとこの件数は総搬送数の約1/3と大都市と比べると少ないのであるが、この比率は さほど増加しておらず、むしろ1週内(2週内)以上入院の増加が目立っており(図1)軽症 者が増えたことが搬送数増加の原因とは考えにくい。一方、この間高齢者の比率は著しく 増加し、70歳以上の比率で見ると35%から約54%へと増加(図2)しており、搬送数増加は 重症高齢者の増加を反映しているものと考えられる。
社会医療法人春回会 井上病院/井上 健一郎
〈本論文は2014年9月に長崎救急医学会で発表した内容もとに改変したものである〉
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(2)2014年度救急搬送の検討
従来、高齢者というと65歳以上または75歳以上をひとくくりにして示すことが多かった が、今回さらに細分化して検討した。5歳刻みで見ると搬送数のピークは80歳から84歳で あり90歳以上の搬送数も相当数あることがわかる(図3)。
年齢層別に見た転帰の比率をみたのが図4であるが、搬送者のうち入院に至った比率は 若年者では30%程度であるが、年齢と共に増加し85歳以上では75%を超えて95才以上では 80%に達する。搬送7日以内に死亡した者の比率は年齢と共に増加し、95歳以上では10% に達する。搬送後手術をした者の比率は年齢と共に増加する傾向にあるが、85歳を超える と頭打ちである。
(3)長崎地域2025年の予想
① 搬送数
年齢層別の救急車搬送率が同じであると仮定して搬送数を予測したものが図6である。 2025年までには約10%の増加、その後も漸増するが2035年をピークに減少に転じることが 予想される。
外来を除いた搬送数の予測では65才以上の比率は著しく高く、中でも85才以上は2025年 には25%、2035年には全体の1/3を占めると予測される。
② 齢層別、転帰別予想
③ 疾患群別予測
疾患群別にその比率を予測し2025年から2010年を差し引くと、図8で示しているように ほとんどの疾患群で増加が予想されるが中でも呼吸器、循環器、骨折の増加が目立つ。
④ 疾患別予測
(4)まとめ
長崎地域の救急搬送数は年々増加しており、人口減の予想にかかわらず今後20年間も緩や かな増加が予想される。しかしながら、その増加の大半は高齢者とりわけ85才以上が占める ものと思われ、疾患群別にみれば呼吸器、循環器、骨折などの増加が予想される。2014年現 在で、85才以上の搬送において80%近くが入院に至っており、その状況は将来も大きく変わ ることはないものと思われる。
また、手術に到るものは90才を超えるとやや頭打ちになるものの年齢による差はあまり見 られず、今後の医療技術の進歩を考えると超高齢になるからといって、手術に到るものが減 少することは考えにくい。高齢で多臓器にわたる疾患を有する重症者が増加すると考えられ、 これらの質を高めつつ効率的に受け入れる体制の構築が望まれる。
しかしながら90才を超えるような超高齢者がさらに増加する状況に対して、現状の高齢者 医療の延長で対処してよいものか、医療のあり方そのものも再考する必要があるかもしれな い。