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美味技術学会誌 15(1),2016

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美味技術学会誌 15(1):12-20,2016

地産微生物の応用として四国遍路道から分離した

野生酵母による清酒醸造の試み

堀江祐範

*1†

・中川智行

*2

・杉野紗貴子

*1

・吉村明浩

*3

・奈良一寛

*4

梅野 彩

*1

・吉田康一

*1

・岩橋 均

*2

・田尾博明

*5

要 旨

近年,清酒の醸造を中心に地域から分離した微生物の食品産業への利用が試みられている。これら「地産 微生物」は,すでにいくつかの応用例があるが,既存の微生物と比較検討した報告はなかった。本研究では 地産微生物の応用を目的として,香川県内の遍路道の土壌より 4 株のSaccharomyces cerevisiaeを分離し た。この 4 株の野生酵母を用いて清酒の醸造を行い,きょうかい 7 号酵母と比較し,利用可能性を検討した。 きょうかい 7 号酵母で仕込んだ清酒では,日本酒度が+10 であったのに対し,野生酵母で仕込んだ清酒は- 9.7~-19.2 であった。さらに,きょうかい7号酵母に比べ,酢酸イソアミル濃度が低く,酢酸濃度が高か った。今回分離した野生酵母により醸造された清酒は,いずれも酸組成が特徴的であることから,醸造法の 工夫や育種を加えることで,より嗜好性が高い清酒を造る,地域に特色のある「地産微生物」になりうる可 能性を示した。 [キーワード] 日本酒,醸造,野生酵母,抗酸化活性

Application of Regional Microorganism:

Sake Brewing Using Yeast Strains Isolated from the Shikoku Pilgrimage Road

Masanori Horie

*1†

, Tomoyuki Nakagawa

*2

, Sakiko Sugino

*1

,Akihiro Yoshimura

*3

Kazuhiro Nara

*4

, Aya Umeno

*1

, Yasukazu Yoshida

*1

, Hitoshi Iwahashi

*2

, Hiroaki Tao

*5

Abstract

Although “regional microorganisms” are often used in the food industry, such as in sake brewing, there are no reports comparing the characteristics of products obtained using wild and bred microorganisms. The aim of the present study

*1 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門:〒761-0301 香川県高松市林町 2217-14

Health Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 2217-14, Hayashi-cho, Takamatsu, Kagawa 761-0395, Japan

*2 岐阜大学 応用生物科学部:〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸 1-1

Faculty of Applied Biological Sciences, Gifu University, 1-1, Yanagido, Gifu 501-1193, Japan *3 岐阜県産業技術センター:〒501-6064 岐阜県羽島郡笠松町北及 47

Industrial Technology Center, Gifu Prefectural Government, 47, Kitaoyobi, Kasamatsu-cho, Hashima-gun, Gifu 501-6064, Japan

*4 東京家政学院大学 現代生活学部:〒194-0292 東京都町田市相原町 2600

Faculty of Contemporary Human Life Science, Tokyo Kasei Gakuin University, 2600, Aihara-machi, Machida-shi, Tokyo 194-0292, Japan

*5 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 四国センター:〒761-0301 香川県高松市林町 2217-14 AIST Shikoku, 2217-14, Hayashi-cho, Takamatsu, Kagawa 761-0395, Japan

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cerevisiae were isolated from the soil in Shikoku Island, Japan. Sake was brewed using these 4 wild-type strains and

Sake yeast kyokai No. 7, and the resulting products were analyzed and compared. The Sake meter value (SMV) of the Sake brewed using kyokai No. 7 was +10. In contrast, the SMV of the Sake brewed using the wild strains were from -9.7 to -19.2. Additionally, Sake brewed using the wild yeasts had lower concentration of isoamyl acetate and higher concentration of acetic acid than Sake brewed using kyokai No. 7. The antioxidant activity of Sake was determined as the capacity to reduce copper ion and scavenge free radicals. The antioxidant activity of Sake was weaker than that of red wine and stronger than that of white wine. All wild isolates could be applied to brewing Sake. Sake brewed by wild yeasts had distinguishing organic acid composition. Development of novel brewing methods and breeding of wild yeasts will promote wider application of “regional yeasts.”

[keywords] sake, brewing, wild yeast, antioxidative activity

1.緒言 近年,地産微生物の活用が注目されている。 日 本には地域に応じて様々な特産品の農産物が存在 するが,微生物についても地域による特色のある ことが予想される。各々の地方にはその地域独自 の微生物,いわば地産微生物が存在する。そのよ うな地産微生物の中に,プロバイオティクスや醸 造,発酵などに利用できる有用菌が存在すること は疑いのないところであり,すでにいくつかの報 告があるものの1,2),探索や評価,利用は十分では ない。地産微生物を分離し,機能解析をすること で,眠っている地産微生物の潜在力を掘り起こし, 地域でブランド化して活用することは,地域振興 の観点で大きな可能性を秘めている。農林水産物・ 食品について,その産品の品質や社会的評価など の特性が当該産地と結びついている場合,「○○産」 という名称を知的財産として保護する「地理的表 示保護制度(Geographical Indication:GI)」があ る。GI は知的財産権の一つとして EU のカマンベ ール・ド・ノルマンディー(フランス)や,プロ シュート・ディ・パルマ(イタリア)など,GI は 国 際 的 に 認 知 さ れ て お り , 世 界 貿 易 機 関 ( World Trade Organization:WTO)の「知的所有権の貿易 関連の側面に関する協定」を通じて 100 ヵ国以上 で地理的表示に対して保護を与えている。醸造酒 や蒸留酒についても厳しく保護され,例えば「シ ャンパン」という名称はフランスのシャンパーニ ュ地方において定められた製法で醸造されたスパ ークリングワインのみが名乗ることができる。日 本でも,平成 26 年に「特定農林水産物等の名称の 保護に関する法律(地理的表示法)」が成立し,GI マークが定められた。また,「酒類の地理的表示に 関する表示基準」においてワインや焼酎,清酒等 の酒類の地理的表示が保護されている。このよう な背景の中で,地域性は消費者に対する訴求力を 持ち,今後ますます重要となる。すでに地産微生 物 の 活 用 と し て 多 く み ら れ る 事 例 は , 出 芽 酵 母 Saccharomyces cerevisiaeによる清酒の醸造であ る3)。たとえば,和歌山県は平成 16~18 年度にか けて,和歌山をイメージする「梅の花」「黒潮の海 水」「熊野古道の土壌」から独自酵母の分離を試み, 熊野古道由来の酵母を清酒やパンへ利用するに至 っている4)。また,岐阜大学 応用生物科学部では, 学生の教育プログラムの一環として「酒と食の文 化の実践的理解-岐阜大酒プロジェクト」として岐 阜地域から分離した酵母による清酒の醸造を行っ

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ている 5)。一方で,野生酵母により醸造した清酒 の詳細な性状が報告された例はあまりない。酵母 に限らず,野生微生物は食品産業用に育種された 微生物に比べ,醸造特性や嗜好性の最適化もされ ておらず,利用しづらいとの認識がある。例えば 野生酵母を清酒の醸造に利用する場合,同一の原 料と手法により,既存の酵母と野生酵母によって 醸造された酒を比較検討することは,地産微生物 の潜在力を知る上で重要である。 そこで,本研究では,地産有用微生物として 酵 母の分離は四国地域の特色ある分離源として遍路 道(四国八十八ヶ所霊場の巡拝のために巡礼者が 通る道)に着目し,香川県内の遍路道土壌から野 生酵母S. cerevisiaeを分離して清酒の醸造を行 った。比較対象として,同時にきょうかい 7 号酵 母でも醸造を行い,詳細な成分の比較を行った。 2.実験材料および方法 1)野生酵母の採取 香川県内の遍路道 2 カ所から土壌を採取し,酵 母の分離を試みた。第 82 番札所根香寺(高松市) 周辺の遍路道および第 87 番札所長尾寺から第 88 番札所大窪寺に至る遍路道(さぬき市)から,数 グラム程度の土壌を採取した(図 1)。土壌の採取 は,2014 年 10 月の晴天の日に数回行った。野傍 の花の下や朽ちた草の周辺の湿った土壌から採取 した土壌サンプルから,高確率でガス産生菌を分 離することができた。土壌中のS. cerevisiaeは 花の蜜や植物の分解物など糖源が豊富な場所で分 離できることが多く,そのような場所に注意して 採取することで,分離に成功する確率が上がると 考えられた。 2)新規酵母の分離と同定 土壌数 g を 15 mL チューブに入れた 10 mL の YMP 培地(Yeast extract 0.3%, Malt extract 0.3%, Peptone 0.5%, Glucose 10%, Sodium

propionate 0.25%, Chloramphenicol 0.001%, Lactic acid 20 ml/l)と混合し,フタを締めて 15℃で培養した。目視により濁度の上昇がみられ たサンプルについて,フタを緩めガスの産生を確 認した。酵母は嫌気条件下でアルコール発酵を行 い CO2を産生することから,CO2の生産量を指標に 有用微生物を選抜した。ガス産生がみられた試料 について,液体培地 2%寒天を含む YPD 寒天平板 (Glucose 2 g,Polypeptone 1 g,Yeast extract 1 g,Agar 1 g)に白金耳を用いて画線し,30ºC で 一晩培養,独立したコロニーを単離した。コロニ ーから単離した菌は,さらに YPD 液体培地に植え 継ぎ,30ºC で培養した。菌液をグリセロールに添 加し,20%グリセロール中,-80ºC で保存した。 単離した酵母の同定は 28S rRNA 遺伝子の塩基配 列の解析により行った。YPD 培地中,30ºC で一晩 培 養 後 , 超 音 波 処 理 を 行 い , DNeasy Blood & Tissue kit(キアゲン)を用いて DNA を抽出した。 抽出した DNA を鋳型とした 28S rRNA の増幅は PCR

図 1 酵母の分離を試みた遍路道 (上)82 番 札 所 根 香 寺 付 近 の 遍 路 道 , (下)87 番 札 所 長 尾 寺 か ら 88 番 札 所 大 窪 寺 に 至 る 遍 路 道 美味技術学会誌 第 15 巻 1 号(2016)

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ーIROR:5’-ACCCGCTGAACTTAAGC-3’および LR:5’ -TACTACCACCAAGATCT-3’を用いた。PCR 産物につ いて,シーケンスプライマーとして上記と同様の プライマーを用い,塩基配列を決定した。得られ た塩基配列は,BLAST Search を用いて相同性の高 い他菌株由来 28S rRNA の塩基配列を検索した。 3)清酒の醸造と分析 分離したS. cerevisiaeおよび対照としてきょ うかい 7 号酵母(K-7)を用いて,醸造試験を岐阜 大学にて行った。醸造試験は総米 1.5 kg で,表1 に示す仕込み配合で行った。掛米は,兵庫県産「五 百万石」を精米歩合 60%で精米し,醸造に用いた。 製麹は千代菊株式会社(岐阜県羽島市)に依頼し た。汲水は岐阜大学の地下水を利用した。活性酵 母は 28ºC,YPD 培地 (5 ml) で一晩前培養後,得 られた培養液を YPD 培地 (200 ml) に添加して, 28ºC,2 日間培養して調製した。留添後は 15ºC で 一定とし,14 日目に遠心分離によって上槽した。 初添 中添 留添 合計 掛米 (g) 218 346 600 1164 掛麹 (g) 112 90 136 338 汲水 (ml) 316 526 1006 1848 酵母 (ml) 10.6 - - 10.6 乳酸 (ml) 3.2 - - 3.2 製成酒の日本酒度,アルコール度,酸度およ び アミノ酸度の分析は国税庁所定分析法 6)に従った。 香気成分は,ガスクロマトグラフ (島津製作所製 GC-17A) を用いてヘッドスペース法で定量した7) カラムは DB-WAX(φ 0.32 mm x 30 m, 0.25 μm, J&W Scientific)を用いて,50ºC,30 分間加温し た後のヘッドスペースガス 2 ml を注入し,カラ ム温度は 85ºC,注入口温度は 200ºC,FID 温度は は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(日本分光 製)を用いてポストカラム法で定量した。カラム は RSpak KC-811(昭和電工)を使用し,カラム温 度は 40ºC で,溶離液は 2 mM HClO4 ap.,反応試 薬は ST3-R(昭和電工)を用いて,成分の検出は 430 nm で行った。 4)清酒の抗酸化性の評価 抗酸化の評価では,対照として市販の抗酸化 剤 無添加の赤ワインおよび白ワイン(メルシャン) を用い,2 種類の方法で抗酸化活性を測定した。 二価銅イオンに対する還元能による総抗酸化能は, レドックスアッセイ(メタロジェニクス)によっ て測定した。蛍光プローブのラジカルによる酸化 に対する抑制効果は,Takashima らの方法 8)に従 って評価した。温度制御装置付き紫外可視分光光 度計 UV1800(島津製作所)を用い,494 nm, 37ºC に て 約 2 時 間 測 定 を 行 っ た 。 蛍 光 プ ロ ー ブ に は Fluoroscein(東京化成)を,ラジカル発生剤には 2 , 2 ' - A z o b i s ( 2 - m e t h y l p r o p i o n a m i d i n e ) Dihydrochloride(和光純薬)を用いた。抗酸化物 質 1 分子が捕捉するラジカルの個数 n は,以下の 式により算出した。 n=tRi[IH] (1) ただし,t:誘導期時間(Lag phase)(s),[IH]: 抗 酸 化 物 濃 度 (mol/l) , Ri : ラ ジ カ ル 発 生 速 度 (mol/l/s) 本試験では試料が混合物の溶液であるため, ト ロロックス(Cayman Chemical, Ann Arbor, MI, USA)による測定によって Ri を算出した。 フェルラ酸の測定は,HPLC により行った。それ ぞ れ の 試 料 を 0.45μ m の メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー (アドバンテック東洋)で処理した溶液を HPLC 分 析の試料とした。HPLC 装置は島津製作所製 LC-10A システム(ポンプ:LC-10AD;フォトダイオードア 表 1 本研究での仕込み配合

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レイ(PDA)検出器: SPD-M10AVP; UV-VIS 検出器: SPD-10AV)を使用した。カラムは nertsil ODS-3 (4.6×150 mm GL Scieence)を用い,カラム温度 30℃で分析を行った。移動層は 0.1% TFA(A)およ びアセトニトリル(B)を用い,(B)10%→50%(25 分) →10%(27 分)→10%(35 分)で直線濃度勾配制御 を行った。流速は 1.0 ml/min とし,成分の検出は 325 nm で行った。 3.結果 1)新規酵母の分離と同定 香川県内の遍路道土壌について,分離培地中 で ガス産生がみられたサンプルから,8 株の菌を分 離した。これらの株について同定を行ったところ, 4 株のSaccharomyces cerevisiaeを得た(表 2)。 S. cerevisiae 以 外 の 微 生 物 を み る と ,

Kluyveromyces yarrowii お よ び Starmerella

bombicola, Tetrapisispora phaffiiと相同性 が高かった。これらの菌株は,今回醸造には用い なかったが,いずれもSaccharomycetaceaeに属す る酵母であった。 2)清酒の醸造試験と分析結果 分離したS. cerevisiae 4 株(SN-103, SN-104, SN-105 および SN-106)および K-7 の醸造試験を 行ったところ,4 株はいずれも泡立性は認められ なかった。製成酒の一般成分,有機酸および香気 成分を表 3 に示す。K-7 で醸造した清酒は,日本 酒度およびアルコール濃度がそれぞれ+10 および 17.2%であったのに対し,SN-103 他 3 株で醸造し た清酒は,日本酒度は-19.2 から-9.7,アルコー ル濃度は 14%前後であり,日本酒度のきれ具合と アルコール生成能に違いが認められた。酸度は K-7 の 3.1 に比べて 4 株はいずれも 4.6-5.0 と高い 表 2 本研究で分離した酵母の同定結果 菌株番号1) 採取場所2) ガス産生 菌種名 DDBJ3)アクセス番号 SN103

87-88

Saccharomyces cerevisiae LC094384 SN104

87-88

Saccharomyces cerevisiae LC094385 SN105

87-88

Saccharomyces cerevisiae LC094386 SN108

87-88

Kluyveromyces yarrowii LC094387 SN109

87-88

Kluyveromyces yarrowii LC094388 SN112

87-88

Starmerella bombicola LC094389 SN115

87-88

Tetrapisispora phaffii LC094390 SN116

82

Saccharomyces cerevisiae LC094391 1) 菌株番号は本研究により付与した。 2) 野生酵母は2カ所の異なる地点から採取した。87-88:長尾寺(87 番)~大窪寺(88 番)間の遍路道。82:根 香寺(82 番)近辺の遍路道。

3) DNA Data Bank of Japan(国立遺伝学研究所)

酢酸エチル 酢酸 イソアミル イソアミル アルコール カプロン酸 エチル クエン酸 リンゴ酸 コハク酸 乳酸 酢酸 K-7 +10.0 3.1 1.8 17.2 99.7 5.1 229 0.0 206 463 811 491 31 SN-103 -19.2 5.0 2.4 13.8 82.5 1.3 255 0.4 315 379 1257 649 493 SN-104 -12.0 4.6 2.1 14.5 88.5 1.8 301 0.5 287 362 1017 744 297 SN-105 -14.9 5.0 2.4 13.9 67.7 1.5 268 0.5 313 289 1062 598 609 SN-116 -9.7 4.7 2.3 14.3 87.7 2.0 296 0.5 274 422 1130 587 289 K-7はきょうかい7号酵母を示す。 濃度 (ppm) 表 菌株名 日本酒度 酸度 アミノ酸度 アルコール度 (%) 表 3 本研究で分離した酵母により醸造した日本酒の性状 美味技術学会誌 第 15 巻 1 号(2016)

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を示した。有機酸の分析から,特に酢酸の濃度が K-7 の 31.2 ppm に対し,4 株は 289~609 ppm と 高いことがわかった。またその他の有機酸量にも 違いがあり,例えば SN-103 ではクエン酸,コハク 酸,乳酸が 1.3-1.5 倍高値を示したが,リンゴ酸 は 0.8 倍低値を示し,その組成に特徴が認められ た。香気成分では 4 株は K-7 に対して酢酸イソア ミル量が 0.4 倍程度に止まった。 3)清酒の抗酸化活性の評価 醸造した清酒の抗酸化活性を測定した。銅還 元 能を指標とした総抗酸化能を評価したところ,対 照とした赤ワインよりは弱かったが,白ワインよ た酵母株による総抗酸化能に大きな差はなかった。 さらに蛍光プローブの酸化による蛍光の減衰を指 標にした,ラジカル捕捉能の評価を行った。清酒 またはワイン溶液中に蛍光プローブとラジカル開 始剤を添加し,継時的に蛍光の減衰を測定した。 ラジカルにより蛍光プローブが酸化されると,蛍 光が消失することから,蛍光の減衰が始まるまで の時間の長さ(誘導期)により抗酸化活性を評価 した。図 2 に濃度の異なる水溶液における保持時 間を示した。近似線の傾きが大きいほどラジカル 捕捉能が大きい。清酒のラジカル捕捉能は,銅還 元能と同様に対照とした赤ワインよりは弱く,白 菌株 抗酸化活性 1) 銅還元能 (mM) 希釈なし 2 倍希釈 希釈なし 2 倍希釈 K-7 0.68 0.49 1.36 0.98 SN-103 0.66 0.49 1.32 0.98 SN-104 0.62 0.46 1.24 0.92 SN-105 0.64 0.48 1.28 0.96 SN-116 0.63 0.48 1.26 0.96 赤ワイン2) ND 2.04 ND 4.08 白ワイン2) 0.20 0.4 1) アスコルビン酸等量(mM)として算出 2) おいしい酸化防止剤無添加赤(白)ワイン(メルシャン) 表 4 清酒の抗酸化能の評価 図 2 清酒及びワインのラジカル捕捉能の評価 濃 度 0.50, 0.83, 1.00, 1.17, 1.33(v/v %)の 誘 導 期 時 間 。 近 似 線 の 式 と R2値 を 示 す 。 横 軸 は 原 酒 を 100%と し た と き の 希 釈 水 溶 液 中 の 清 酒 濃 度 を 示 す 。 y = 3.42×103x R² = 0.9971 y = 0.39×103x R² = 0.9541 y = 2.22×103x R² = 0.9894 y = 2.36×103x R² = 0.9966 y = 2.22×103x R² = 0.9918 y = 2.36×103x R² = 0.9971 y = 2.33×103x R² = 0.9931 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 0 0.5 1 1.5 赤ワイン 白ワイン K-7 SN103 SN104 SN105 SN116 清酒濃度 (v/v %) 誘導期時間(秒)

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ワインよりも強い総抗酸化能を示した。清酒の主 要な成分のうち,抗酸化活性に関与するものとし て,フェルラ酸が挙げられる 9,10)ことから,各清 酒サンプル中のフェルラ酸濃度を測定した(表 5)。 清酒中のフェルラ酸濃度は,きょうかい7号酵母 を用いたものが,新規分離株で醸造したものより も高かった。新規分離株間での差は小さかった。 菌株 遊離型フェルラ酸 (ng/ml) K-7 6690 SN-103 5310 SN-104 5240 SN-105 4920 SN-116 5310 4.考察 清酒の醸造に使用する微生物の条件として, 発 酵能を持つこと,発酵香が良いこと,酵母である こと,病原性微生物でないこと,食経験がある種 であること,が挙げられる。非Saccharomyces属 の Kluyveromyces lactis と清酒酵母を混合培養 し,醪後期の清酒酵母の発酵力の保持や酒質の多 様化を図る試みもあるが11),本研究ではこのうち, 食経験があり病原性微生物ではない酵母として S. cerevisiaeによる醸造を試みた。今回,きょうか い7号酵母と共に醸造を行ったが,新たに分離し た 4 株で醸造した製成酒は,いずれも日本酒度, アルコール度が K-7 と比較して低く,アミノ酸度 は高値を示した(表 3)。いずれも酸度が高いこと から酵母の生育が抑制されて発酵が鈍り,かつ発 酵後期に清酒酵母の死滅が進んだためと考えられ た。日本酒度は,清酒の比重の指標であり,測定 する清酒が 15℃のとき,4℃の水と同じ比重のも のを 0 とし,それよりも軽いものは正の値,重い ものは負の値をとる。日本酒度の値は比重であり, 糖含量に影響されることから,負の値をとる日本 酒は甘口となる傾向がある。和歌山県工業技術セ ンターを中心に熊野古道から分離された野生酵母 により醸造した清酒においても,30 日目に上槽し た場合,日本酒度-8,アルコール分 15.6%,酸度 2.7,アミノ酸度 1.6 であった。さらに同じ酵母で 38 日後に上槽した場合,日本酒度±0,アルコー ル分 17.2%,酸度 3.0,アミノ酸度 2.0 となった4) これらの結果から,野生酵母は,清酒醸造用に順 化されたきょうかい酵母などに比べ発酵力が弱い 傾向にあるのかもしれないが,例数が少なく断定 には至らない。気温や降水量といった地域差の影 響もあるかもしれず,今後分離源の検討と共に例 数を重ねる必要があると考えられる。さらに,特 徴的な結果として,酢酸濃度が高く,きょうかい 7号(K-7)酵母で醸造した清酒の 9~20 倍程度の 濃度があった。このため,野生酵母を用いた清酒 は甘酸っぱく感じる特徴的な風味を持っていた。 得られた 4 株ときょうかい7号酵母では有機酸組 成に違いが認められた(表 3)。清酒中の有機酸は 呈味成分として影響が大きく,例えばきょうかい 28 号酵母や 77 号酵母は 7 号酵母とは異なるリン ゴ酸高生産性を特徴としている。SN-103 他 3 株と きょうかい7号酵母との有機酸組成の違いは顕著 であり,従来とは異なる味巾を有する清酒が得ら れる可能性はある。発酵能については,やや発酵 力が弱いものの,いずれも 14% 程度のアルコール 濃度を示した。また,発酵香が良いことについて は清酒の香りで重要な酢酸イソアミル濃度は低く, きょうかい7号酵母に比べ芳香は少なかったが, 刺激臭などの異臭は感じられなかった。構造改革 特 区 (い わ ゆ る ど ぶ ろ く 特 区 )で 製 造 さ れ る 濁 酒 (どぶろく)などは低精白歩合の飯米を使用し,地 域特性の主張も重要で,味の工夫に余地がある。 表 5 日本酒中の遊離型フェルラ酸含量 美味技術学会誌 第 15 巻 1 号(2016)

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酵母は清酒からどぶろくを含めた日本酒の醸造が 期待できると考えられた。芳香や酢酸濃度の高さ に難点があるものの,醸造条件の検討によって, より嗜好性の高い日本酒が醸造できる可能性を秘 めている。さらに,付加価値として抗酸化活性を 評価したところ,赤ワインより弱く,白ワインよ りも強い抗酸化能がみられた。抗酸化能について は,醸造に使用した酵母の種類による大きな差異 は見られなかった。清酒の抗酸化活性には,フェ ルラ酸が関与する可能性がある12)。そこで清酒中 のフェルラ酸含量を測定したところ,きょうかい 7号酵母で醸造したものでやや高い値を示したが, 大きな差は認められなかった。酒のフェルラ酸は 米の糠部に由来することから,特に精米歩合が影 響すると考えられる。抗酸化値に差異がないのは 精米歩合が同じであるためかもしれない。今回分 析したフェルラ酸は遊離型であるが,米などの穀 類では多糖類に結合した状態でフェルラ酸が存在 しており,醸造の過程でコウジカビがもつフェル ラ酸エステラーゼの作用により,フェルラ酸が遊 離してくることが知られている13)。また,結合型 フェルラ酸の差が,醸造した清酒の抗酸化活性に 関与する可能性もある。近年,健康志向の高まり や食生活の多様化から,低アルコールや甘口のア ルコール飲料が好まれる場面も多い。野生酵母は きょうかい酵母に比べ発酵力が弱いが,この特徴 を活かし,アルコール度,日本酒度が低く,特長 的な有機酸組成による独自の風味と,さらに機能 性をもつ唯一無比の清酒ができる可能性がある。 清酒は単なる嗜好品にとどまらず,地域に密着し, 地域文化の一翼を担う。米や水といった原料にと どまらず,酒造酵母についてもその酒の地元から 分離したいわば「地産酵母」を用いることで,清 酒に新たな付加価値を付与することができる。こ られる。 我々は四国八十八ヶ所霊場開創 1200 年という 節目の年に,遍路道から野生酵母を分離し,清酒 への利用を検討した。S. cerevisiaeは,出芽に よって増殖するため,見方によっては元の個体が 死滅することはなく,1200 年生き続けているとも 言える。今回分離した酵母は,空海に踏まれたか もしれない,など空海の足跡を感じさせながら, 醸された酒を味わうのも良いかもしれない。今回 分離した野生酵母は,清酒の醸造に必要な最低限 の能力を有していたものの吟醸香で重要な酢酸イ ソアミルが少なく,酢酸産生が多いなどの課題も あった。視点を変えれば,このような特徴も「持 ち味」であるとも言えるが,これらの地産微生物 をベースとした育種や醸造方法の改良などの美味 技術により,より嗜好性の高い,酒造に適した地 域独自酵母の開発と利用が可能であると考えられ る。さらに,フェルラ酸含量の変化や抗酸化活性 の検討を進めることで,より付加価値の高い清酒 の創出も可能かもしれない。 5.おわりに 遍路道の土壌から分離した野生酵母 4 株を用い て醸造した清酒の酒度,含有成分,抗酸化活性を 測定し,既存のきょうかい7号酵母と比較して, その特徴を明らかにした。野生酵母はきょうかい 酵母に比べ発酵力が弱く,芳香は少ないが,醸造 条件の検討によって嗜好性の高い清酒を醸造でき る可能性を秘めていた。本研究は主に清酒の含有 成分についての研究であるが,将来的には,酵母 のゲノムやプロテオームに関する研究と統合する ことにより,酵母の生物学的特徴と醸造酒の味・ 香りといった特徴とを関連付けられるようになる ことが期待される。特色ある酵母の選択と,醸造 条件に関する暗黙知が融合したとき,嗜好性に応

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じた清酒醸造の夢にも近づくものと思われる。 引用文献 1) 中川智行, 久保田太樹, 西津貴久, 妙田貴 生, 久保田和花, 田島彩奈, 若山敬嗣, 日 比野歩美, 佐藤優太, 福岳寛隆, 早川享志: 岐 阜 県 郡 上 市 の 地 域 乳 酸 菌 の ス ク リ ー ニ ン グ と ヨ ー グ ル ト 発 酵 菌 と し て の 評 価 , 美 味 技術学会誌, 13(2),5-11,2014. 2) 鎌倉未貴,眞山眞理:スダチ花弁から分離し た野生酵母 Hanseniaspora meyeri の製パン への応用,四国大学紀要,(B)34,37-46,2012. 3) 山本歩:清酒醸造用野生酵母の桜花からの単 離 , 八 戸 工 業 高 等 専 門 学 校 紀 要 45, 45-48, 2010. 4) 池 本 重 明 : わ か や ま ブ ラ ン ド 清 酒 に つ い て , 和歌山県工業技術センター技術情報誌「テク ノリッジ」 No.276, 2, 2007. 5) 中川智行,鈴木徹,杉山誠:酒と食の文化の 実 践 的 理 解 —岐 阜 大 学 応 用 生 物 科 学 部 の 日 本 酒 醸 造 を 基 盤 と し た 新 た な 教 育 プ ロ グ ラ ム—,美味技術学会誌, 14(2),2-6,2015. 6) 注 解 編 集 委 員 会 編 :第 四 回 改 正 国 税 庁 所 定 分 析法注解,(公益財団法人日本醸造協会,東京) 7) 吉沢淑:Head space 法による清酒香気成分の 迅速定量法,醸協, 68,59-61,1973. 8) Takashima M, Horie M, Shichiri M,

Hagihara Y, Yoshida Y, Niki E: Assessment

of antioxidant capacity for scavenging free radicals in vitro: a rational basis and practical application, Free Radic. Biol. Med. 52, 1242-1252, 2012.

9) Ito T, Suzuki N, Nakayama A, Ito M, Hashizume K: Factors affecting phenolic acid liberation from rice grains in the sake brewing process, J. Biosci. Bioeng. 118, 640-645, 2014.

10) Zhao Z, Moghadasian MH: Chemistry, natural sources, dietary intake and pharmacokinetic properties of ferulic acid: A review, Food Chem., 109, 691-702, 2008. 11) 山岡千鶴,栗田修,山崎栄次:清酒酵母とク リ ベ ロ ミ セ ス 属 酵 母 と の 異 種 酵 母 混 合 培 養 法による清酒小仕込試験,醸協, 109 (9), 679-686,2014. 12) 太 田 剛 雄 , 高 下 秀 春 , 轟 木 康 市 , 岩 野 君 夫 , 大場俊輝:清酒中に存在する抗酸化物質,日 本醸造協会誌 87,922-926, 1992.

13) Tenkanen M, Schuseil J, Puls J, Poutanen K: Production, purification and characterization of an esterase liberating phenolic acids from lignocellulosics. J. Biotechnol., 18, 69-84, 1991.

図 1  酵母の分離を試みた遍路道  (上)82 番 札 所 根 香 寺 付 近 の 遍 路 道 , (下)87 番 札 所 長 尾 寺 か ら 88 番 札 所 大 窪 寺 に 至 る 遍 路 道  美味技術学会誌  第 15 巻 1 号(2016)

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