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I. はじめに膝前十字靭帯再建術 (Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: 以下,ACLR) 後のスポーツ復帰時の問題として, 再受傷が挙げられる. その再受傷率は, 近年のメタアナリシスでは 25 歳以下でスポーツ復帰したものを対象と

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(1)

膝前十字靭帯再建術後の片脚着地動作,動的バランス,

下肢筋力の非対称性に対する予防介入の効果

Effect of Preventive Intervention on Asymmetry of Single-leg Landing, Dynamic

Balance and Lower Muscle Strength after Anterior Cruciate Ligament Reconstruction

大見 頼一

1,2)

  加藤 宗規

3)

  栗原 智久

1)

  関 大輔

1)

  

井上 拓海

1)

  井上 瑞穂

1)

  広瀬 統一

4)

Yorikatsu OMI, RPT, MS1,2), Munenori KATOH, RPT, PhD3), Tomohisa KURIHARA, RPT1), Daisuke SEKI, RPT1),

Takumi INOUE, RPT1), Mizuho INOUE, RPT1), Norikazu HIROSE, PhD4)

1) Department of Rehabilitation, Nippon Koukan Hospital: 1-2-1 Koukantouri, Kawasaki-ku, Kawasaki city, Kanagawa 210-0852,

Japan TEL +81 44-333-5591 E-mail: yoriohmi1118@yahoo.co.jp

2) Graduate School of Sport Sciences, Waseda University

3) Department of Physical Therapy, Faculty of Health Science, Ryotokuji University 4) Faculty of Sport Sciences, Waseda University

Rigakuryoho Kagaku 33(1): 109–115, 2018. Submitted Aug. 10, 2017. Accepted Sep. 20, 2017.

ABSTRACT: [Purpose] The purpose of this study was to examine whether preventive rehabilitation improves the

asymmetry between the involved side and the uninvolved side of single-leg landing, dynamic balance, and lower limb muscular strength of young female athletes after anterior cruciate ligament reconstruction (ACLR). [Subjects and Methods] The subjects were twelve young females who returned to sports after preventive rehabilitation after ACLR. Two-dimensional analyses of single-leg landing and lower limb muscular strength (knee extension/flexion, hip abduction/external rotation), and the modified star excursion balance test (M-SEBT) were performed at the time of the return. The difference between the involved side and the uninvolved side of each measure was compared, and the limb symmetry index (LSI) was calculated. [Results] There were no differences in knee valgus and flexion angle in single-leg landing, and in the M-SEBT. LSI of lower limb muscular strength was over 90%. [Conclusion] The asymmetry between the involved side and the uninvolved side was improved by preventive rehabilitation.

Key words: anterior cruciate ligament reconstruction, asymmetry, limb symmetry index

要旨:〔目的〕膝前十字靭帯再建術後(ACLR)の若年女性選手の片脚着地動作,動的バランス,下肢筋力の患側と 健側の非対称性が,予防介入によって改善するか検証した.〔対象と方法〕ACLR後に予防リハビリテーションを行っ てスポーツ復帰した女性12名とした.復帰時に片脚着地動作での膝外反・屈曲角,Modified star excursion balance

test(以下,M-SEBT),下肢筋力(膝伸展・屈曲,股外転・外旋)の測定を行った.各項目の患側と健側の差を比較

し,Limb symmetry index(LSI)を算出した.〔結果〕膝外反・屈曲角とM-SEBTに患健差はなかった.下肢筋力の LSIはすべて90%以上だった.〔結語〕この予防介入によって,患側と健側の非対称性は改善すると考えられた. キーワード:膝前十字靭帯再建術,非対称性,Limb symmetry index

1) 日本鋼管病院 リハビリテーション科:神奈川県川崎市川崎区鋼管通 1-2-1(〒 210-0852) TEL 044-333-5591 2) 早稲田大学 スポーツ科学研究科

3) 了徳寺大学 健康科学部 理学療法学科 4) 早稲田大学 スポーツ科学学術院

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I.はじめに

膝 前 十 字 靭 帯 再 建 術(Anterior Cruciate Ligament

Reconstruction:以下,ACLR)後のスポーツ復帰時の 問題として,再受傷が挙げられる.その再受傷率は,近 年のメタアナリシスでは25歳以下でスポーツ復帰した ものを対象とすると,23%と報告されている1).その再 受傷の要因として,スポーツ動作における患側と健側の 非対称性が挙げられている.ACLR後のジャンプ動作解 析にて患側は,健側と比較して膝関節外反角度が大きい こと2),膝関節屈曲角度が小さいこと3),垂直方向最大 床反力が大きいこと4)が報告されている.ジャンプ動 作以外でも,片脚立位安定性低下2)や動的姿勢制御能

力 を 評 価 す るStar Excursion Balance Test( 以 下,

SEBT)においてリーチ距離の低下が報告されている5) Hewettら6)は再受傷予防のために膝関節外反,膝関節 屈曲,姿勢コントロール等の非対称性を改善することが 重要としている. また再受傷予防という点だけでなく,この非対称性は 膝関節機能にも影響を与えている.ACLR後のスポーツ 復帰には大腿四頭筋筋力が重要とされており,大腿四頭 筋筋力の患健比が85%未満の症例は90%以上の症例と 比較して,主観的膝機能の評価であるInternational

Knee Documentation Committee(以下,IKDC)が低い

ことや片脚ホップテストが低値であることが報告されて いる7) 初発のACL損傷予防にはジャンプ,筋力,バランス, 動作指導等の複数要素で構成される予防プログラムに効 果があるとされている8).傷害予防を実践するには,第 一に対象となる傷害の発生率等の現状把握,第二に損傷 メカニズムの分析,第三に予防戦略を立案・介入,第四 に効果検証というモデルが推奨されている9).第二段階 の損傷メカニズムの分析として,model-based image-matching法によるビデオ解析によると,損傷時の膝関 節キネマティクスは接地後40 msecまでに急激な膝関節 外反と内旋が起きており,一方,股関節キネマティクス は,接地後40 msecまでほぼ一定で,27~28° 内旋位で あったとされている.よって,受傷時は股関節が大きな 内旋位でロックした状態であり,床反力を吸収できず, 膝関節に大きな負荷がかかり,ACL損傷を引き起こす としている10).上記の報告は,膝関節外反に股関節が 関連していることを示唆している.よって,我々はこれ までに一次予防として,股関節機能改善を目的とした予 防プログラムを作成し,その予防介入により,大学女子 バスケットボール選手のACL損傷発生率が有意に減少 したことを報告した11).また,この股関節に着目した 予防プログラムを健常選手に対して,介入前後で片脚着 地動作解析と下肢筋力評価を行った結果,膝関節外反角 度の減少や股関節屈曲角度の増加,垂直方向最大床反力 の減少,股関節外転筋・外旋筋,膝関節屈曲筋力の向上 等 の ト レ ー ニ ン グ 効 果 が 認 め ら れ た こ と を 報 告 し た12,13).このように健常選手を対象にして効果的だっ た股関節に着目した予防プログラムを,ACLR後の通常 のリハビリテーションプロトコルに追加し,この作成し たプログラムを再受傷予防リハビリテーション(以下, 予防リハ)と定義した. 本研究の目的は,ACLR後にこの予防リハを実施した 若年競技選手の片脚着地動作,動的バランス評価,下肢 筋力評価により,患側と健側の非対称が改善するか否か を検証することとした.

II.対象と方法

1.対象 初回ACLRを受けた高校または大学で部活動を行っ ている女性選手12名(年齢18.3 ± 1.4歳,身長160.1 ± 8.4 cm,体重55.8 ± 6.0 kg:平均値±標準偏差)で, 受傷機転はすべて非接触型損傷であった.術式は半腱様 筋腱を使用した解剖学的二重束再建術を行った.複合靭 帯損傷や重篤な軟骨損傷を合併した例,これまでに対側 ACL損傷の既往のある例は除外した. 本研究は日本鋼管病院倫理委員会の承認(承認番号 No.2015-9号)を得て,ヘルシンキ宣言に基づき本研究 内容を十分に説明した後,書面にて同意を得たうえで実 施した. 2.方法 当院のプロトコルでは,スポーツ復帰までのおおまか な流れとして術後2週で全荷重歩行,術後3ヵ月でジョ ギング,5ヵ月でダッシュやジャンプ,6ヵ月で練習部 分復帰,8~9ヵ月でスポーツ復帰としている.予防リ ハは,ROMエクササイズや大腿四頭筋セッティング等 の通常行うリハビリテーションに加え,先行研究11,12) で実施した股関節に着目した予防プログラム(ジャンプ エクササイズ,体幹・股関節を中心とした筋力エクササ イズ,バランスエクササイズ)を術後時期に併せて適宜 追加した. 予防リハの目的は,第一に正しいアライメントでのス クワット・ジャンプ着地動作の習得,第二にハムストリ ング,股関節外転筋・外旋筋の筋力向上,第三にバラン ス能力向上である.この予防リハがこれまでのリハビリ テーションと異なる点は,股関節機能の改善を目的とし ていることである.具体的には,第一に術後早期から股 関節外転筋,外旋筋の強化をOpen kinetic chain exercise

からClosed kinetic chain exerciseへと段階的に負荷を上

げて実施していることである.第二にジャンプエクササ イズでは,弾性バンドを使用し大腿遠位部にそのバンド を巻き,接地前から弾性バンドを張ることを意識させ

(3)

た.それによって,ジャンプ動作時の股関節内転・内旋 を防ぎ,膝関節外反を抑制するジャンプ動作を学習させ る点である.主なエクササイズを以下で述べると,筋力 強化エクササイズとして術後1週より股関節外旋,外転, 健側支持でのサイドブリッジを行い,術後4~8週で片 脚立位での遊脚側の股関節外転,弾性バンドで抵抗をか けたサイドステップ,患側支持でのサイドブリッジを実 施した.バランスエクササイズではバランスディスク上 での両脚支持,片脚支持,スクワット,ランジへと段階 的に運動負荷を上げた.ジャンプエクササイズでは術後 5ヵ月で弾性バンドを使用した4種(上方,前後,左右, 回転)の両脚ジャンプ,術後6ヵ月で同様の方法で4種 の片脚ジャンプを行った.ジャンプエクササイズでは, 空中で弾性バンドを十分に張って股関節内転・内旋また 膝関節外反を防ぎ,また膝関節・股関節を十分に屈曲さ せる着地動作を指導した.ハムストリング強化種目であ るロシアンハムストリングもこの時期から実施した. 測定実施時期はスポーツ復帰時期とし(術後平均 313.3 ± 36.6日),スポーツ復帰時期とは術後8~9ヵ 月経過し対人練習に参加している時期と定義した. 片脚着地動作の測定では,動作課題は高さ30 cmの 台からの片脚着地動作とし,台上に片脚で立ち,台から 30 cm前方に設置したフォースプレートの上に同側脚で 着地をするよう指示した.着地姿勢は任意とし,両上肢 によるバランス保持の影響を少なくするために胸の前で 手を組むよう指示した.3回の練習を行った後,3回の 成功動作を測定した.着地後に反対脚がついた動作や体 幹が大きく回旋した動作は失敗試技とした. 測 定 機 器 と し て, ハ イ ス ピ ー ド デ ジ タ ル カ メ ラ (EXILIM EZ-ZR200,カシオ社製)を正面,側面に着地 点より2.5 m離れた位置に設置し,撮影した.サンプリ ング周波数は120 Hzとし,デジタルカメラのレンズを 地面から57 cmに設定し,ズームは常に最小で固定し た.またフォースプレート(Kistler社製)を用いて垂

直方向最大床反力(Vertical Ground Reaction Force:以

下,VGRF)を1,000 Hzで測定した.直径20 mmのマー カーを足関節外果,膝関節外側(膝関節裂隙の高さで膝 蓋骨を除く前後径の中点),大転子中央,足関節内外果 中央,膝蓋骨中心,上前腸骨棘に貼付し,得られた画像 から膝関節外反角度,膝関節屈曲角度についてImageJ を用いて二次元解析を行った.膝関節外反角度は測定肢 の上前腸骨棘と膝蓋骨中心を結んだ線と膝蓋骨中心と足 関節内果・外果の中央を結んだ線のなす角度を180° か ら引いた値とし,外反を正と定義した.膝関節屈曲角度 は,測定肢の大転子中央と膝関節外側を結んだ線と膝関 節外側と外果を結んだ線のなす角度を180° から引いた 値とした.

Kogaら14)は,ACL損傷メカニズムは接地後40 msec

で急激な膝関節外反が生じ,同じタイミングで垂直方向 床反力も最大となると報告している.よってVGRFを 記録した時(以下,VGRF時)の関節角度を算出した. また接地からVGRFを記録するまでの時間を算出した. 床反力計が10N以上を記録した時間を接地と定義し, 同期センサー(全周囲光呈示器,LEDシンクロナイザ, DKH社製)を用いた.ただし,同期センサーをすべて の被験者において使用できなかったため,接地は画像上, 目視で一人の検者が決定した.よって,画像上の目視で の接地の決定の妥当性を調査する必要があり,フォース プレートで10N以上を記録した接地を基準にして,画 像上の目視での接地の決定に妥当性があるかを調査し た.対象は4名8試技の正面画像と床反力データ,3名 6試技の側面画像と床反力データとした.床反力データ での接地判断と目視での接地判断における絶対信頼性に ついて,Bland-Altman分析を用いて検証した.その結果, 系統誤差(固定誤差,比例誤差)は認められなかった. 偶然誤差について,MDC95は0.0010~0.0047秒であっ た.よって,本研究で実施した目視での接地の決定は フォースプレートを基準とした妥当性を有していると考 えられた. SEBTは片脚立位で遊離脚のリーチ距離を測定するテ ストで,通常8 方向で実施するテストである.本研究で は,M-SEBTとして先行研究15)にてACL損傷との関 連の認められた2方向を採用した.2方向とは支持脚に 対して内側方向へのリーチ(以下,内側リーチ)と外側 方向へのリーチ(以下,外側リーチ)とした.片脚立位 の母趾先端を0 cmとし,支持脚の足底面が床から離れ ないようにしてできるだけ遠くにリーチさせ,リーチ時 にはリーチ脚の足尖に体重がかからないよう指示し,各 リーチ後に開始位置で片脚立位に戻ることを条件に最大 リーチ距離を測定した.4回の練習後,測定を実施し3 回の平均値を棘果長で除し,リーチ率(%)とした. 膝関節伸展・屈曲筋力測定は,等速性筋力測定機

(ARIEL-CES 5000,ARIEL DYNAMICS社製)を用

いた.角速度は60°/secとし,測定値は3回のピークト ルク値を平均して,体重で正規化した. 股関節外転筋力・外旋筋力測定は徒手筋力測定器 (mTas MF-01,アニマ社製)を用いて,股関節外転,外 旋の等尺性筋力測定を実施した.2回の練習後,約5秒 間の最大努力による運動を2回行い,その平均値を採用 した.得られた平均値と測定肢の大腿長を掛けた値を算 出し,体重で正規化した.Aramakiら16)は,上記の固 定用ベルトを用いた測定法を等速性筋力測定法と比較し, 高い妥当性と信頼性があったことを報告している.股関 節外転の実施方法は,被験者はベッド上側臥位,股関節 内外転中間位とし,センサーパッドを測定側の大腿遠位 部外側に当て,固定用ベルトを両下肢に巻きつけ,股関 節が内外転中間位になるようにした.運動は等尺性股関 節外転を最大努力で行った.股関節外旋の実施方法は,

(4)

被験者はベッド上側臥位となり,股関節45° 屈曲位,膝 関節90° 屈曲位とし,センサーパッドを測定側の大腿遠 位部外側に当て,固定用ベルトを両下肢に巻きつけ,股 関節が内外転中間位になるようにした.運動は等尺性股 関節外旋を最大努力で行わせた.検者は2名で,1名は 骨盤を固定し代償動作を防ぎ,1名はセンサーパッドを 保持した. 患側と健側のVGRF時の膝関節外反角度,膝関節屈 曲角度,VGRF,M-SEBTでの内側リーチ,外側リーチ, 下肢筋力評価を対応のあるt検定,Mann-WhitneyのU 検定を用いて比較した.統計にはSPSS ver.24を用い各 検定の有意水準は5%とした.また得られたM-SEBT

と下肢筋力の値から,患健比:Limb symmetry index(以

下,LSI=患側/健側×100)を算出し,%表記した. 本研究での介入効果として,第一に片脚着地動作での 膝関節外反角度,膝関節屈曲角度,VGRFの非対称性が 改善すること,第二にM-SEBTにて非対称性が改善す ること,第三に下肢筋力評価で非対称性が改善すること とした.非対称性の定義として,各測定項目における患 側と健側を比較し有意差があることを非対称性ありとし た.さらに同年代の健常女子選手を対象とした先行研究 の各々の測定値を参考にして,同程度の回復であれば効 果ありとした.

III.結 果

片脚着地動作では,VGRF時の膝関節外反角度,膝関 節屈曲角度,VGRF,いずれも患側と健側に差はなかっ た(表1).接地からVGRFを記録するまでの時間は, 0.050 ± 0.008秒であった.M-SEBTでは,内側リーチ, 外側リーチいずれも患側と健側に差はなかった(表2). 下肢筋力では,膝関節伸展筋力は患側が有意に低かった が,膝関節屈曲筋力,股関節外転筋力,股関節外旋筋力 は患側と健側に差はなかった(表3).LSIは,M-SEBT では内側リーチが99.6 ± 4.2%,外側リーチが101.0 ± 6.7%,下肢筋力では膝関節伸展筋力が92.5 ± 7.5%, 膝関節屈曲筋力が93.6 ± 13.0%,股関節外転筋力が 100.6 ± 19.8%,股関節外旋筋力が106.4 ± 27.9%で あった(表2,3).

IV.考 察

先行研究2-5,7)よりACLR後にスポーツ復帰した選手 のジャンプ動作,動的バランス,下肢筋力は,健側を基 準とすると患側は同程度になっていないことが予測され, スポーツ復帰時にも非対称性が残存していると考えられ る.ACLR後に予防リハを行いスポーツ復帰した女性選 手の片脚着地動作では,膝関節外反角度,膝関節屈曲角 表1 片脚着地動作,床反力の患側と健側の比較 患側 健側 VGRF時の膝関節外反角度( ° ) 5.0 ± 4.0 4.2 ± 5.9 VGRF時の膝関節屈曲角度( ° ) 38.8 ± 4.2 40.7 ± 6.6 垂直方向最大床反力(N/kg) 41.1 ± 6.6 39.8 ± 9.5 平均値±標準偏差. 表2 M-SEBTの患側と健側の比較 患側 健側 LSI(%) 内側リーチ(%) 96.9 ± 6.0 97.4 ± 5.5 99.6 ± 4.2 外側リーチ(%) 80.1 ± 12.5 79.9 ± 14.6 101.0 ± 6.7 平均値±標準偏差.

M-SEBT:Modified Star Excursion Balance Test. 表3 下肢筋力評価の患側と健側の比較 患側 健側 LSI(%) 膝関節伸展筋力(Nm/kg) 2.4 ± 0.4* 2.6 ± 0.3 92.5 ± 7.5 膝関節屈曲筋力(Nm/kg) 1.5 ± 0.1 1.6 ± 0.3 93.6 ± 13.0 股関節外転筋力(Nm/kg) 1.6 ± 0.2 1.6 ± 0.3 100.6 ± 19.8 股関節外旋筋力(Nm/kg) 1.3 ± 0.5 1.2 ± 0.3 106.4 ± 27.9 平均値±標準偏差.*:p<0.05.

(5)

度,VGRFに非対称性は認められなかった.先行研究で は健常女子選手を対象とした30 cm台からの片脚着地 動作の二次元解析では,接地後50 msec時の膝関節外反 角度は9.3 ± 6.6° だったと報告されている17).本研究 では,VGRF時の膝関節外反角度を算出し,VGRF時 は0.050 ± 0.008秒であり,ほぼ同程度のタイミングで の解析だった.本研究の膝関節外反角度は患側5.0 ± 4.0°,健側4.2 ± 5.9° で,先行研究よりも小さい値で あった.また,動的姿勢制御能力を評価するM-SEBT では,内側リーチ,外側リーチのいずれも非対称性はみ られなかった.健常女子選手におけるM-SEBTは,内 側リーチが88.5 ± 6.0%,外側リーチが66.0 ± 14.7% と報告されており18),本研究でのM-SEBTは患側,健 側ともにその値を上回っていた.下肢筋力は,膝関節屈 曲筋力は患健差がなかったが,膝関節伸展筋力は患側が 有意に低値を示した.同測定機器を用いて,健常女子選 手を対象にした報告では,膝関節伸展筋力は2.1 ± 0.2 Nm/kg,膝関節屈曲筋力は1.2 ± 0.1 Nm/kgであったと されている18).本研究での患側,健側の膝関節伸展筋 力と膝関節屈曲筋力はその値を上回っていた.また股関 節外転筋力,股関節外旋筋力の非対称性は認められな かった.栗原ら19)は,健常大学女子選手を対象にした 同じ測定方法での股関節外転筋力は1.44 ± 0.22 Nm/kg, 股関節外旋筋力は1.28 ± 0.35 Nm/kgであったと報告し ている.股関節外転筋力,股関節外旋筋力は患側,健側 ともにこの報告と同程度であった.よって,この予防介 入によりACLR後のスポーツ復帰時の患側と健側の非 対称性は膝関節伸展筋力以外のパラメータはすべて改善 されたと考えられた.また先行研究で行われた健常女子 選手を対象にした片脚着地動作での膝関節外反角度, M-SEBTの内側リーチ,外側リーチ,下肢筋力評価と 比較しても,本研究結果はいずれも同程度であった. 非対称性と膝関節機能について,Ithurburnら20) ACLR後スポーツ復帰した選手の片脚着地動作の膝関節 屈曲変位量を指標にしてLSI 90%以上の群とLSI 85% 未満の群に分け,患者立脚型の膝関節機能評価である

knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(以下,

KOOS)とIKDCの関連を調査した.その結果,LSI

85%未満の群はKOOSにおける疼痛とQuality of Life

(以下,QOL)の値が有意に低かったとしている.また, 膝関節伸展筋力のLSI 85%未満の群は,90%以上の群 と比較して膝関節屈曲変位量と内的膝関節伸展モーメン トが小さかったことも報告している21).このように着 地動作での膝関節屈曲や大腿四頭筋筋力の非対称性は, 膝関節機能やQOLにも大きな影響を与えると考えられ る.本研究では,VGRF時の膝関節屈曲は患健差がなく, また膝関節伸展筋力もLSIが92.2%であった.膝関節 伸展筋力,屈曲筋力はACLR後のスポーツ復帰におい て重要であり,特に膝関節伸展筋力はスポーツ復帰指標 となりそのLSIは85~90%以上が復帰指標とされてい る22).また膝関節屈曲筋力は脛骨前方制動の役割があ る.本研究では膝関節伸展筋力は非対称性が改善せず, 膝関節屈曲筋力,股関節外転筋力,股関節外旋筋力の非 対称性が改善した.その要因として,予防リハプログラ ムの筋力強化はハムストリング・股関節外転筋・外旋筋 強化が主目的であったためと考えられた.膝関節屈曲筋 力については通常のリハビリテーションで行うレッグ カールやブリッジ以外にも術後6ヵ月以降にロシアンハ ムストリングという高強度の膝関節屈曲筋力強化を実施 したことも,筋力向上に貢献したと考えられた.一方で, 膝関節伸展筋力強化については,大腿四頭筋セッティン グや脛骨近位抵抗での膝関節伸展筋力強化等の通常行う リハビリテーションを実施した.膝関節伸展筋力の非対 称性を改善させるには,予防リハプログラムの再検討が 必要と思われた. 一方,予防という観点から考えると,ACL損傷の危 険因子として損傷群は非損傷群と比較してDrop jump 時の膝関節外反角度と膝関節外反モーメントが大きいこ と23),また再損傷の要因として患側の膝関節外反角度 の増大が報告されている2).よって,ジャンプ着地時の 膝関節外反を防ぐことが再受傷予防では重要となる.股 関節外転筋や外旋筋筋力の弱化と膝関節外反角度の増大 には関連がある24,25)ことから,膝関節外反の制御には 股関節外転,外旋筋力も重要と思われる.この予防介入 では,術後早期から股関節外転,外旋筋力強化をOpen

kinetic chainからClosed kinetic chainへと進めていった.

また,ジャンプエクササイズ時には大腿遠位に弾性バン ドを巻いてジャンプを繰り返すことによって,膝関節外 反を防ぐジャンプを学習させた.股関節外転,外旋筋力 は患健差がなく,LSIでは100%を超えており十分な筋 力強化が実施されたと考えられ,ジャンプエクササイズ と併せた介入によって,VGRF時の膝関節外反角度の患 健差がなくなったと考えられた.さらに着地時の膝関節 屈曲角度を増大し,VGRFを減少させることも必要であ る.浅い屈曲で着地するstiff landingは膝関節伸展モー メントを増大させる26)ことやDrop jump時のVGRF は患側が健側より有意に大きかったこと4)が報告され ている.この介入では,ジャンプエクササイズ時に股関 節,膝関節を十分に屈曲させ,soft landingを意識して 繰り返させ,理学療法士が正しい着地姿勢の指導を実施 した.よってVGRF時の膝関節屈曲角度とVGRFの患 健差がなくなったと考えられる.このようにACL損傷 の危険因子と考えられる膝関節外反の増大や浅い膝関節 屈曲,VGRFの増大はなくなり,再受傷リスクが軽減し たジャンプ動作を学習した可能性が考えられた. ACLR後は固有感覚低下が問題とされており,バラン ス訓練が推奨されている27).バランス訓練として,予 防リハではバランスディスク上での両脚保持,スクワッ

(6)

ト,ランジへと段階的に負荷を上げていくプロトコルを 実施した.動的バランス能力を評価する指標として SEBTは 有 用 と 考 え ら れ て お り,Delahuntら5)は, ACLR後スポーツ復帰した症例のSEBTを評価し,そ のリーチ率の低下を報告している.井上ら28)は,本研 究と同様の介入にて術後3ヵ月ではM-SEBTで患側が 有意に低下していたが,術後9ヵ月で患健差がなくなっ たと報告している.したがって本研究のM-SEBTにお ける患健差の消失は患側の動的バランス能力の回復を示 していると考えられた. 研究の限界として,本研究では比較対称となる非介入 群が存在せず,健側を基準とした患側の回復,先行研究 での健常女子選手の測定値を参考にしていることに留 まっている点である.また今後は,患側と健側の非対称 性がこの介入によってどのくらいの期間で改善されるの か,継時的な調査が必要と考えられた.さらに本プログ ラム介入によって再受傷率が減少するか否かという検証 も必要と考えられた.結語として,この予防介入を行っ たACLR後の若年女性選手の片脚着地動作,M-SEBT での非対称性はみられなかった.下肢筋力は,膝関節屈 曲筋力,股関節外転筋力,外旋筋力は患健差がなく,膝 関節伸展筋力は患側が有意に低かった.よって,この予 防介入によりACLR後の片脚着地動作,動的バランス, 膝関節屈曲筋力・股関節外転筋力・股関節外旋筋力の非 対称性は改善したと考えられた. 引用文献

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参照

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