英藏敦煌文獻から發見された禪籍について
─ S6980 以降を中心に─(2)
程 正
小論(1)の目次(『駒澤大学仏教学部論集』第 48 号に掲載濟) 一、S6980 以降の敦煌遺書について 二、S6980 以降の敦煌遺書から發見された禪宗文獻 1、壇法儀則(S8758、S9407、S11968 の 3 種) 2、傳法寶紀(S10484 の 1 種) 3、菩提達摩南宗定是非論(S7907 の 1 種) 4、歴代法寶記(S11014 の 1 種) 5、絶觀論(S12208、S12370 の 2 種) 6、大乘開心顯性頓悟眞宗論(S7850、S9211 の 2 種) 7、大乘無生方便門(S7961 の 1 種) 8、達摩禪師論(S7884 の 1 種) 小論(1)に續く 9、頓悟大乘正理決1(S8609 の 1 種) 『頓悟大乘正理決』は王錫という人物によって編集された「サムイェの宗論」 と呼ばれる法論の内容を詳細に記録した漢文文獻である。 「サムイェの宗論」とは、吐蕃(チベット)のティソン・デツェン王(742-797、在位 754-796)時代の終わり頃において、中國の禪僧である摩訶衍とイン ドの学僧である蓮華戒(カマラシーラ)との間で行われたとされる仏教教義を 1 『分類目録』では『頓悟大乘正理決』の寫本として漢文 3 種、チベット語 3 種、計 6 種 を紹介している(122-134 頁)。すなわち敦煌漢文文獻の① S2672、② P4623、③ P4646 の 3 種に、敦煌チベット語文獻の④ P.tib.823、⑤ P.tib.827、⑥ P.tib.829 の 3 種、計 6 種 である。めぐる御前論爭のことである。「サムイェの宗論」によって、中國とインドとに 挾まれたチベットの地においては、中國禪が排除され、龍樹(ナーガールジュ ナ)によって大成されたインド大乘仏教の中觀系統のものが採用されるにいたっ たとされる。後のチベット仏教の傳承を決定づけた「サムイェの宗論」につい ては、從來その詳細を記す漢文文獻が全く世に傳わらないのに對し、『プトン仏 教史』をはじめとするチベットの傳世史書によって、一様にインド側の蓮華戒 が勝利をおさめたことのみが傳えられていたのである。ところが、敦煌から發 見された『頓悟大乘正理決』は、本來チベット語文獻ではなく漢文文獻であり、 さらに「サムイェの宗論」の勝者を、蓮華戒ではなく中國の禪僧である摩訶衍 としていることはもちろんのこと、盛唐から中唐にかけて中國國内で隆盛を極 めつつあった禪宗が、チベットにもその勢力を伸張していた實態をうかがい知 る貴重な文獻として、その資料價値が高く評價されているものである。 『分類目録』では、『頓悟大乘正理決』の漢文寫本として、スタイン本の S2672、ペリオ本の P4623 と P4646、合わせて 3 種を紹介している。『頓悟大乘 正理決』の研究において大きな成果を擧げられた上山大峻氏によれば、これら の 3 種のうち、P4646 が一頁を缺落したものの、唯一の完本であるという。す なわち、上山氏が 「チベットの宗論の始終」 と題する章節において P4646 の形 態を以下のように紹介されている1。『頓悟大乘正理決』が連寫されている漢文 文獻の P4646 の全體は、8.3 × 27cm の糸穴のある貝葉型の用紙 182 枚2からな る寫本の束で、順に『維摩詰所説經』(1 ∼ 87 表)、『文殊師利所説般若波羅蜜 經』(87 裏∼ 126 表)、本書(126 裏∼ 158 表)、『觀心論』(新 1 ∼新 17 表)、 『禪門經』(新 17 表∼新 24 裏)の 5 種の文獻が連寫されており、各面は木筆に よる楷書體で 6 行ずつ、各行は 30 字前後で書寫されていて、寫本の上部にそれ ぞれ頁數が記されている。『頓悟大乘正理決』はその 3 番目にあたり、用紙 32 枚からなるものであるが、そのうち、「一百三十一」が重複しているほか、「一 百五十二」とあるべき頁が缺落しており、この缺落した頁を除けば、P4646 は 『頓悟大乘正理決』のテキストの中で唯一の完本であるというのである。 1 上山大峻『敦煌仏教の研究』(法藏館、1990、254 頁)→同氏『増補敦煌仏教の研究』 (法藏館、2012、254 頁)。 2 上山前掲書では、152 枚としているが、筆者が寫眞で確認したところ、152 枚ではなく、 182 枚があった。
ところで、今回の調査で筆者は S6980 以降のスタイン ・ コレクションに『頓 悟大乘正理決』のテキスト 1 種を新たに見いだした。すなわち、S8609 のこと である。IDP が掲載したカラー寫眞をみると、S8609 は糸穴のある貝葉型の用 紙の一枚に裏表を利用し、『頓悟大乘正理決』の本文の一部を書寫しているもの である。特に筆者の目にとまったのが、表の天頭部分に漢字で記された「一百 五十二」という數字である。これがきっかけとなり、筆者が P4646 の内容と付 き合わせたところ、「一百五十二」の頁番号といい、前後の内容といい、いずれ も見事に銜接できたことを確認した。つまり、この S8609 こそがかつて P4646 から缺落した頁で、その出現により『頓悟大乘正理決』の漢文文獻としての完 本が眞の意味に於いてはじめて得られたということである。元來、1 つのテキ ストだった『頓悟大乘正理決』(P4646 + S8609)は、敦煌莫高窟の藏經洞にお いて千年もの間眠り續けたが、1 世紀前に一旦日の目に見たものの、一息もつ かぬうちに、またもや故郷の中國から離れイギリスとフランスとにその一部が それぞれ保存されることになり、そしてさらに百年の歳月が流れてから、その 分斷された事實がようやく判明するにいたったのである。この敦煌寫本の數奇 なる運命にため息を禁じ得ない。 それでは、『頓悟大乘正理決』の研究における S8609 が出現した意味を考慮 し、これに書寫された本文を上山大峻校訂本1と對校したものを紹介しておこ う。 S8609R 想後、如上説。但是聖智若是無想、非是無二。有人問、如何以2答。/ 又問、或3有人言、凡下不遠離心想者、或有經中云、令思量在前、或言慧先4、/ 或言亦置如是想中、亦有處分生令5心想、或有6處分、遠離心想、不 / 可執一、所以用諸方便演説。或有人言、何以對 如前三段問。謹答、皆 / 是自心妄想分別。若能離自心妄想分別、如是三段問、皆不可得。准『楞伽』『思 / 益經』、離一切諸見、名爲正見。又問、或1有人言、發心覺、不依想念、則各得 1 上山前掲書、556 頁。 2 上山本は「以」を缺く。 3 上山本は「或」を「萬一或」に作る。 4 上山本は「先」を「先行」に作る。 5 上山本は「生令」を「令生」に作る。 6 上山本は「有」を缺く。
念 / S08609V 念解脱者、出何經文。覺者、覺何物2。願答。答、所言發心覺、不依想念、則各 / 得念念解脱者、出何經文3。其義先已4准『涅槃經』具答了。今更重問者、一切 衆 / 生無量劫來、爲三毒自心妄想分別、不覺不知、流浪生死。今時5覺悟、念念 / 妄想起、不順妄想作業、念念解脱。覺者、覺如此事。是故『楞伽經』云、菩薩 / 念念入定6、念念離妄想、念念即解脱。『仏頂經7』第二8云、阿難、汝猶未明一 切浮塵 / 諸幻化想9、當處出生、隨處滅盡、幻妄稱相、其性眞爲妙覺10明體、如是乃至 / 10、二入四行論11(S7159、S11446、S11939 の 3 種) 『二入四行論』は、禪宗初祖菩提達摩の唯一の眞説とされる「二入四行説」を はじめ、達摩を中心とした初期禪宗の人たちの言葉を直接に傳える貴重な文獻 として重視されるものである。 『分類目録』では、『二入四行論』の敦煌漢文寫本として 12 種を紹介したが、 そのうち、S6980 以降のスタイン ・ コレクションに屬するものに、S7159 と 1 上山本は「或」を「萬一或」に作る。 2 上山本は「物」を缺く。 3 上山本は「文」を「文者」に作る。 4 上山本は「已」を「以」に作る。 5 上山本は「時」を「一時」に作る。 6 上山本は「定」を「正受」に作る。 7 上山本は「經」を缺く。 8 上山本は「二」を「三」に作る。 9 上山本は「想」を缺く。 10 上山本は「覺」を「覺妙」に作る。 11 『分類目録』では『二入四行論』のテキストとして敦煌遺書からの漢文寫本 12 種、チ ベット語寫本 1 種、さらに傳世の版本 3 種、計 16 種を紹介している(174-185 頁)。す なわち、敦煌漢文文獻の① S1880V、② S2715、③ S3375V、④ S7159、⑤ S11446、⑥ P2923、⑦ P3018、⑧ P4634V、⑨ P4795、⑩ BD1199-1(宿 99、北 8374)、⑪ BD9829 (朝 50)、⑫杏雨書屋本 25-1 の 12 種、敦煌チベット語文獻の⑬ P.tib116 の 1 種、敦煌文 獻以外のものとして⑭ 朝鮮『禪門撮要』本、⑮『少室六門集』本、⑯ 天順本の 3 種を 紹介している。
S11446 の 2 種がある。 まず S7159 については、田中良昭氏が滞英中、實物を調査し『二入四行論』 のテキストに比定し、これを「菩提達摩に關する敦煌寫本三種について」(『駒 澤大学仏教学部研究紀要』31、1973)と題する論文の追記部分ではじめて紹介 されたのである。また『方・英藏目録』にもそれが著録されている。田中氏の 紹介と『方・英藏目録』の記録によれば、S7159 は 3 紙からなる卷子本の殘卷 で、トータルして 91.5cm × 29.1cm のもので、1 行 30 字前後でおよそ 55 行の 内容を有しており、その内容は、柳田校訂本の「(二)夫入道多途」から「(十 三)問三世 [ 諸仏 ]」までに相當するという。また、第 1 紙首部の下半分、第 3 紙の上部をはじめ、中央部分にほぼ等間隔で 10 箇所の破損があり、紙も赤茶色 に變色していて、保存状態はあまりよくなかったという。 一方、永徽年間(650-656)の職員令を研究された池田温、岡野誠の兩氏は 「敦煌・吐魯番發見唐代法制文獻」(『法制史研究』27、1978)と題する論文を發 表し、職員令の紙背を利用して書寫された『二入四行論』のテキストは、すで に知られていたスタイン本の S3375V とペリオ本の P4634V 以外に、S1880V に も存在していることを報告されている。こうした池田、岡野の兩氏の研究成果 を踏まえつつ、その表裏にあるそれぞれの文獻と連結するさらに新たな寫本を 發見し、その研究成果を公にされたのが、土肥義和氏の「永徽二年東宮諸府職 員令の復元─大英圖書館藏同職員令斷片(S 一一四四六)の發見に際して ─」(『國学院雜誌』83-2、1982)と題する論文である。土肥氏が新たに發見 されたのは、S11446 である。土肥氏によれば、S11446 の出現によって紙背に書 寫されている本書は、次のように復元することができるという。すなわち、 「(首缺約四行)、S 一一四四六号の第二紙の V 六行、S 三三七五号の V 三三行、 (切斷により約二六行缺)、S 一八八〇号 B の V 三四行、S 一一四四六号の第一 紙の V 五行、S 一八八〇号 A の V 二三行、(切斷により約二八行缺)、P 四六三 四号 A ⑵の V 七七行、(切斷により約二七行缺)、P 四六三四号 A(1)の V 四 七行、そして前述の P 四六三四号 C2 の V 二〇行」という順序である。このよ うに永徽 2 年(651)の『職員令』の紙背が二次利用されて、初期禪宗の代表的 語録である『二入四行論』が書寫されたわけであるが、一般に紙背が利用され るのは、紙表の書寫後 50 年以内とされるからして、その書寫年代は、おそらく 7 世紀の終わり頃と考えられ、禪宗語録としては最も早い時期の成立とみられ る。
ところで、今回の調査によって S6980 以降のスタイン ・ コレクションに上記 の S7159、S11446 の 2 種のほか、さらに S11939 の 1 種が含まれていることが 確認されたのである。IDP によれば、S11939 は横 7.7cm ×縱 6.9cm の殘片であ るという。そのカラー寫眞をみると、地脚を有する寫本の下半部の殘片で、辛 うじて 4 行にわたって 20 數字ほどの文字が殘っているような状態である。内容 的には、曇林序の最後から「二入四行説」の「行入」に關する説明の冒頭まで の内容に相當する。これらの文字を手がかりに比定してみると、なんと『楞伽 師資記』の「達摩章」と『二入四行論』の 2 種の禪籍と完全一致しているので ある。それでは、S11939 がなぜ『楞伽師資記』の斷簡ではなく、『二入四行論』 なのか。實は、筆者がさらに精査したところ、筆蹟がよく似ていること、 S11939 行末の内容が S7159 の次行に見事に接續可能なことなどから、S11939 が 前述の S7159 と同一寫本の異なる部分であることを突き止めたのである。とは いえ、兩者の間にはなお缺漏の部分があるため、このままでは銜接し復元する ことはできない。 S71591 前缺 夫入道多途要而言之不出二種一是理入二是行□…□ 性但爲客塵妄覆不能顯了若也捨妄□…□ 堅住不移更不隨於文教此即與理冥扶□…□ 爲四行其餘諸行悉入此行中何等□…□ 四者稱法行云何報怨行修道□…□ 中棄本從未流浪諸有多起怨増□…□ 非天非人所能見與甘心忍受都無怨訴經云□□□□□故識達本故此心生時與 / 理相應體怨進道是故説言報怨行 第二隨縁行者衆生無我並縁葉所轉 / 苦樂齊受皆從縁生若得勝報榮譽等事是我過去宿因所感今方得之縁盡 / 還無何喜之得失從心心無増滅喜風不動□□□□□□言隨縁行 第三無所求 / 行者世人長迷處處貪著名之爲求智□□□□□□□□□□□刑隨運轉萬有 / S11939 □…□護譏嫌□…□ / 深信含生凡聖同一眞 / 自無他凡聖等一 / 入 行入者所 / 1 S7159 に含まれる缺字の字數については、柳田聖山『達摩の語録〔二入四行論〕』〈禪の 語録〉1(筑摩書房、1969 → 2016)に收録されている校訂本(柳田本)との比定に基 づいたものである。
斯空無所願樂功德黒闇常相隨逐三界□□□□□□□□□□□得而安了達 / 此處故於諸有息想無求經云有求皆苦□□□□□□無求眞爲道行 / 第四稱法行者性淨之理目之爲法此理衆相斯空無染無著無此無彼經云法無衆生 / 離衆生垢故法無有我離我垢故智者若能信解此理應當稱法而行法體無慳 / 於身命財行檀捨施心無悋惜達解三空不□□□□□□□□化衆生而不取相此爲自 / 立復能利他亦能莊嚴菩提之道檀□□□□□□□□□□□□行六度而無所 / 行是爲稱法行 五恆仰慕前哲廣修諸行□□淨土渴仰遺風得逢釋迦證 / 大道者巨億獲四果者無數實謂天堂別國地獄他方得道獲果刑殊體異 / 披經求福潔淨行因芬々繞々隨心作業向者涉多載未皇有息始復端居幽寂 / 定境心王 但妄相久修隨情見相其中變□□□□窮末乃洞監法性粗練眞 / 如始知方寸之內無所不有明珠朗徹玄□□□□□□□□□□動莫非忘想別名 / 隨心指訂故寫幽懷聊顯入道方便偈等用簡□□□□之徒有暇披覽坐禪終須見 / 本性會也融心令使淨瞥起即便是生滅於中憶想造邪命覓法計業不遷 / 展轉增垢心難究竟知者蹔聞八字即便悟理始知六年徒勞苦行世間遶遶盡是 / 魔人徒自喧喧空爲鬪諍虛妄作解教化衆生口談藥方不除一病寂寂從來本無 / 見相何有善惡及有耶正生亦不生滅□□□□□□□□即非定影由刑起響 / 逐聲來弄影勞刑不知刑之是影根□□□□□□□□是響根除煩惱而求涅槃 / 者喩去刑而覓影離衆生而求仏者喩哩聲而尋響故知迷悟一途愚智非別無名處 / 強爲立名其名即非生矣無理處強爲作理因其理即諍論興焉幻化非眞誰 / 是誰非虛妄無實何有何無當知得無所得失無所失未及造談聊申此句詎 / 論玄旨諸仏説空法爲破諸見故而復□□空諸仏所不化生時唯空生滅 / 時唯空滅實無一法生實無一法滅一□□□□□□□□□□內亦無外亦不在中間 / 分別是空法凡夫爲所燒耶政無內外亦不在諸方分別是空法凡夫爲所燒一切法 / 亦如是法身無刑故不見以見之法無音聲故不聞以聞之彼若無知故不知以知之 / 若以見爲見有所不見若以無見爲見即無所不見若以知爲知有所不知若 / 以無知爲知無所不知不能自知非有知對物而知非無知若以得爲得有所不得 / 若以無得爲得無所不得若以是爲是有所□□□□□□□□無所不是一切智惠門入 白 / 千智惠門見柱作柱解是柱相作柱解覩□□□□□□□□□□柱即得柱法見一切刑 / 色亦如是有人言一切不有 難汝見有不於有々於不有亦是汝有 有人言 / 一切法不生 難汝見生不々生於生々於不生亦是汝生 復言我見一切無心 難曰 汝見心不 /
不心々於無心亦是汝心 三藏法師言不解時人逐法解時法逐人解則識攝色迷則色 / 攝識不因色生識是名不見色不求於求□□□□□□□求不取於取々於無取亦 / 是汝取心有所須名爲欲界心不自心由色□□□□□□□不自色由心故色心色 / 無色名無色界 問何名仏心 答心無異相名作眞如心不可改名爲法性心無所屬 / 名爲□□□□□□□爲菩提心性寂滅名爲涅槃 問何名如來 答解如應物故名如 / □□□□□□□□□□無所覺故名爲仏 問何名爲法 答心如法不生心如法 / 不滅故名爲法 問何名爲僧 答如法和合□□□僧 問何名爲空定 答看法住 / 空名爲空定 問何名爲住法 答不住住不住於□□□□□□□□□ 問云何即男 非男即女 / 非女 答依法推求男女相不可得何以得知即色非男若色是男相一切草木應男 / 其女人亦如是惑人不解妄想見男即是幻化女畢竟無實諸法無行經云知諸法 / 如幻速成人中上 問證有餘涅槃得羅漢果者此是覺不 答此是夢證 問行六波羅 / 蜜十地萬行滿足覺一切法不生不滅非覺非知無心無知解爲覺不 答亦是夢 / 問十力四無所畏十八不共法菩提樹下道成□□□□□□乃至入於涅槃豈非是覺 / 答亦是夢 問三世□…□ / 後缺 11、般若心經疏(資州詵禪師)1(S7821、S8351、S8685、S9787、S10238、 S10587V の 6 種) 『般若心經疏(資州詵禪師)』(以下『智詵疏』)は、兩京(長安、洛陽)と嶺 南(現、廣東省)をそれぞれ根據地とした北宗と南宗が中原地方を舞台にその 傳承の正統性をめぐって熾烈な爭いを繰り廣げていた傍ら、初期禪宗の第三極 として四川の地を中心に急速にその勢力を擴張しつつあった淨衆・保唐宗の祖 と仰がれた資州智詵によるものとされた『心經』の注釋書である。智詵は、北 宗の神秀、南宗の慧能と同様に五祖弘忍の十大弟子の一人に數えられる。同じ く敦煌文獻の中から發見された淨衆・保唐宗の燈史である『歴代法寶記』の敍 述によれば、智詵には『虚融觀』3 卷、『縁起』1 卷、『般若心疏』1 卷があった 1 『分類目録』では『智詵疏』の寫本として 16 種を紹介している(207-212 頁)。すなわ ち、① S839、② S7821、③ S8351V、④ P2178V、⑤ P3229V、⑥ P4940、⑦ BD3652 (爲 52、北 4489)、⑧ BD4909(闕 9、北 4491)、⑨ BD9110(陶 31)、⑩ BD9222(唐 43)、⑪ Дх 290、⑫ Дх 385、⑬ Дх 1183、⑭ Дх 5583V、⑮ Дх 6148、⑯ Дх 6149 の 16 種である。
というが、『虚融觀』と『縁起』はいずれも現存せず、『般若心疏』1 卷こそが まさしく敦煌遺書より發見された『智詵疏』とみられている。つまり、『智詵 疏』は現存する智詵の唯一の著述であり、彼の思想を語るにあたっては缺かす ことのできない重要な文獻である。また『智詵疏』の正確な成立年代について は特定できていないものの、智詵(609-702)の生卒年からすれば、たとえ『智 詵疏』が彼の最晩年の著述であったとしても、禪僧の手になる現存の玄奘譯 『心經』の注釋書の中では、『智詵疏』は最古のものなのである。 S6980 以降のスタイン ・ コレクションに存する『智詵疏』については、『分類 S7159 首部(左)+S11939(右下)による復元
目録』において、すでに S7821 と S8351 の 2 種が紹介されている。いずれも 『方 ・ 英藏目録』に著録されているもので、それによれば、S7821 は天頭、地脚 をともに缺いている 46.1cm × 26.3cm の罫入りの 1 紙に 1 行約 19 字で 28 行の 内容が書寫されている斷簡であり、S8351V は紙の折れ目を罫線代わりにし、天 頭、地脚、首尾ともに缺いている 41.4cm × 12.7cm の 1 紙に 34 行の内容が殘っ ている斷簡で、しかもペリオ本 P3229V とは元來同一寫本の異なった部分であ るが、兩者の間に缺漏があり、このままではつなぎ合わせることはできないと いう。 ところで、今回の調査では、從來その存在が知られていた S7821 と S8351V の 2 種のほか、新たに S8685、S9787、S10238、S10587V の 4 種を見いだした。 まず S8685 については、IDP で公表されているカラー寫眞を基に紹介すれば、 横 6.5cm ×縱 31.4cm の縱長の罫入りの 1 紙に約 5 行、1 行で 35 字前後で書寫 されているものであるという。具體的説明に入る前に、まずその本文を掲げて おこう。 S8685 前缺? 般若心經至蜜多時惣明初入觀門縁起分 照見五蘊皆空度一切苦厄是第二惣名了 蘊 / 虚通度厄分 舍利子色不異空空不異色是第三惣明空色一如無二分 舍利子是諸 法空相至 / 無受想行識是惣明第四垢淨唯眞無妄分 無眼耳鼻舌身意乃至無意識界是第五惣 明根 / 塵同體名異分 無無明乃至以无所得故是第六惣明三乘境觀倶空分 菩提薩埵至 究竟 / 涅槃是第七惣舉勝明空離障分 三世諸仏乃至三菩提是第八惣明大智乘因至果分 / 後缺 すでに方廣錩氏が指摘されたように1、實は敦煌文獻から出現した慧淨撰『般 若波羅蜜多心經疏』(以下『慧淨疏』)、『智詵疏』、龍谷大学が所蔵する佚名の 『般若波羅蜜多心經疏』(以下『佚名疏』)の三者は極めて密接な關係にあるもの である。具體的にいえば、三者の内容は酷似しているものの、十章からなる
『慧淨疏』に對して、『智詵疏』はそこから一章を減らして九章となり、『佚名 疏』は『智詵疏』を基にさらに一章を減らして八章の構成となっているのであ る。こうして『慧淨疏』→『智詵疏』→『佚名疏』の順序で 3 者が成立したと 考えられる。方氏の研究成果を基に表記すれば、以下の通りである。 文獻名 『慧淨疏』 『智詵疏』 『佚名疏』 本 文 見 出 し 第一、初入觀門縁起分 第一、初入觀門縁起分 第一、初入觀門縁起分 第二、了蘊虚通度厄分 第二、了蘊虚通度厄分 第二、了蘊虚通度厄分 第三、空色一如無二分 第三、空色一如無二分 第三、空色一如無二分 第四、垢淨唯眞無妄分 第四、垢淨唯眞無妄分 第四、垢淨唯眞無妄分 第五、十二入中如幻分 第六、三處體同名異分 第五、根塵體同名異分 第五、根塵體同名異分 第七、三乘境觀倶空分 第六、三乘境觀倶空分 第六、三乘境觀倶空分 第八、舉勝明空離障分 第七、舉勝明空離障分 第九、大智乘因至果分 第八、大智乘因至果分 第七、大智乘因至果分 第十、護難流通神咒分 第九、護難流通神咒分 第八、護難流通神咒分 この 3 者の章立てを上記の S8685 の本文と對照してみると、本文の下線部分 の内容が決め手となり、S8685 は紛れもなく『智詵疏』の章立てを示した寫本 なのである。すなわち、内容的には、『智詵疏』の本文はなく、それを構成する 9 章のうち、第 1 章から第 8 章の見出しが提示され、さらにこれにそれぞれ該 當する『心經』本文を「∼乃至∼」の形で示している。このことからすれば、 S8685 は『智詵疏』の目次に相當するものというよりも、おそらく、長篇であ る『智詵疏』の骨格を示す略出本の一部であるという想定がより合理的であろ う。 次に、S9787 については、IDP で公表されているカラー寫眞を基に紹介すれ ば、横 11.4cm ×縱 13.4cm の薄い罫線入りの 1 紙の殘片で、首尾と天頭がすべ て缺損し、約 7 行の文字が殘っており、行間には朱筆による點がみえる。 また、S10238 については、IDP で公表されているカラー寫眞を基に紹介すれ ば、横 16.1cm ×縱 11.4cm の罫入りの 1 紙の殘片で、首尾と天頭が缺損してお 1 方 廣 錩 編 纂『般 若 心 經 譯 注 集 成』〈仏 教 名 著 選 刊〉(上 海・ 上 海 古 籍 出 版 社、 1990 → 2011、18-20 頁)。
り、約 12 行の内容が殘っている。 一方、S10587V については、寫本の正確な寸法は不明であるが、首尾、天頭 ともにを缺いており、地脚のほとんどが缺損している約 18 行の内容を有する斷 簡である。その裏には『智詵疏』の一部が、表には敦煌遺書から發見された 『宗四分比丘隨門要略行儀』と題する仏教文獻の一部がそれぞれ書寫されてい る。筆者は S10587 の表裏に書寫されている文獻の同一性に注目し、すでに 『方・英藏目録』によってその關連性1を指摘された S8351、P3229 の 2 種と比 定を行ってみたところ、S10587 が S8351、P3229 の 2 種とは元來同一寫本の異 なった部分であることを突き止めた。しかも S10587V → S8351V → P3229V の 順序で、『智詵疏』の内容の一部を復元可能ではあるものの、3 者の間になお缺 落した内容があるため、このままでは 3 者をつなぎ合わせることはできない。 12、佛説法王經2(S7269、S8438、S9791、S9896、S11321、S12368、S14083、 S14084 の 8 種) 『仏説法王經』(以下『法王經』)は、7 世紀後半に中國で成立し、初期禪宗に 思想的影響を與えていた、いわゆる禪宗系の僞經の 1 種として知られるもので ある。『法王經』では、「此法於諸法中最爲第一、諸乘中最爲大乘王」、また「以 此經付囑法王菩薩」として『法王經』と名付けられる理由を強調している。 『分類目録』では『法王經』の漢文寫本として 16 種を紹介しており、そのう ちの S7269 が S6980 以降のスタイン ・ コレクションに屬するものである。これ を著録している『方 ・ 英藏目録』によれば、S7269 は横 55.5cm ×縱 20cm の罫 入りの紙の殘卷で、約 33 行の内容が書寫されているが、首尾ともに缺き、寫本 の下半部も缺損しているという。 今回の調査で S7269 を除き、S6980 以降のスタイン ・ コレクションより、『法 王經』の異本として S8438、S9791、S9896、S11321、S12368、S14083、S14084 など計 7 種が新たに確認できたのである。 まず、S8438 については、IDP で公表されているカラー寫眞を基に紹介すれ 1 『方・英藏目録』、403 頁。但し、方氏は『智詵疏』が書寫されている面を表、『宗四分 比丘隨門要略行儀』が書寫されている面を裏としている。しかし、これらの 3 種の寫 本は、一様に表には『宗四分比丘隨門要略行儀』が、その裏には『智詵疏』が、それ ぞれ書寫されていることから、筆者は『智詵疏』の寫本を標記する場合、P3229V と S10587V の表記方法を基準に、S8351 を S8351V に改めておいた。
ば、横 50.6cm ×縱 19.7cm で 2 紙からなる卷子本の殘卷で、首尾、地脚を共に 缺いており、罫入り紙に約 29 行の内容が殘っている。それはおよそ T85-1387c10 ∼ 1388a9 に相當するものである。 次に S9791 は、横 16.2cm ×縱 6.5cm の罫入りの 1 紙の殘片で、首尾、天頭 を共に缺き、約 10 行にわたって抄寫されているものである。その内容はおよそ T85-1384c6 ∼ 15 に相當するものである。 また、S9896 は、横 36cm ×縱 17cm の罫入りの 1 紙の殘卷で、首尾、地脚を 共に缺き、天頭も所々缺損しており、約 22 行の文字が殘っているものである。 その内容はおよそ T85-1386a16 ∼ b9 に相當するものである。 そして、S11321 は横 2cm ×縱 10cm の縱長の斷片で、僅かに「法王經」の 3 文字を記すのみで、外見からすれば、恐らく卷物の卷いた状態で、その外側に 貼り付けられる題簽であろう。 最後に、S12368 は横 8.6cm ×縱 8cm の薄い罫入りの 2 紙からなる殘片で、首 尾、天頭を共に缺き、約 5 行の文字が辛うじて殘っているものである。その内 容はおよそ T85-1388a3 ∼ 7 に相當するものである。 13、佛説法句經1(S7614、S8495、S12213 の 3 種) 『仏説法句經』(以下『法句經』)は、三國時代に呉の維祇難等が譯出した 2 卷 本『法句經』と同名であるが、内容が全く異なる僞作のもので、7 世紀から 10 世紀にかけて成立した禪宗文獻をはじめ、多くの仏教文獻に廣く引用されたに もかかわらず、敦煌文獻から再發見されるまでの長い間、その全貌が全く知ら れなかったものである。敦煌から發見された『法句經』は 14 品からなり、「純 一大乘」を理想に掲げて、空思想と如來藏思想の統合によってさとりへの道を 2 『分類目録』では『法王經』のテキストとして敦煌遺書から漢文 16 種、チベット語 7 種、ソグド語 4 種、そしてチベット語大藏經から 2 種、計 29 種を紹介している(228-233 頁)。すなわち、敦煌漢文文獻の① S2692、② S7269、③ BD630(日 30、北 8278)、 ④ BD6326(鹹 26、北 8279)、⑤ BD6536(淡 36、北 8662)、⑥ BD10938(臨 1067)、 ⑦ BD14700(新 900)、⑧ BD15098(新 1298)、⑨ Дх 3968A 或 Дх 3989、⑩ Дх 5080、 ⑪ Дх 5387、⑫ Дх 5513、⑬ Дх 6080、⑭ Дх 6140、⑮ Дх 6546、⑯ Дх 9438 の 16 種、 敦煌チベット語文獻の⑰ S222、⑱ S223、⑲ S264、⑳ S265、㉑ S267、㉒ P624、㉓ P2105V の 7 種、敦煌ソグド語文獻の㉔ P.sogdien23、㉕ O2326、㉖ O2922、㉗ O2437 の 4 種、さらにチベット語文獻(西藏大藏經本)の㉘ 北京版、㉙ デルゲ版の 2 種で、 計 29 種である。
説き明かしたものである。 『分類目録』で紹介した『法句經』の寫本 23 種のうち、S6980 以降のスタイ ン ・ コレクションに屬するものが S7614 の 1 種のみである。これについては、 『方・英藏目録』によれば、21cm × 25.8cm の 1 紙の斷片で、1 行 17 字で 11 行 あり、内容的には T85-1433b5 ∼ b15 に相當するという。 今回の調査で、S7614 を除き、S6980 以降のスタイン ・ コレクションより、兼 ねて状況未詳とされていた『法句經』の異本である S8495、S12213 の 2 種2を 實見できたのである。 まず、S8495 は横 19.1cm ×縱 23.1cm の罫入りの殘片で、首尾、地脚を共に 缺き、およそ 9 行の内容が殘っているものである。その内容は、觀三處空得菩 提品の一部で、およそ T85-1433a11 ∼ 19 に相當するものである。 また、S12213 は横 5.4cm ×縱 6.7cm の薄い罫入りの殘片で、首尾、天頭、地 脚を共に缺いているため、辛うじて 2 行、合わせて僅か 9 字のみが判讀可能で ある。その内容はやはり觀三處空得菩提品の末尾に近いもので、およそ T85-1433b21 ∼ 23 に相當するものである。 14、金剛三昧經1(S8246 の 1 種) 『金剛三昧經』は、古來歴代經録によってその名が知られており、また「一味 眞實無相無生決定實際本覺利行」を説くものとして『大正藏』卷 9「法華部」に 1 『分類目録』では『法句經』の寫本として 23 種を紹介している(238-249 頁)。すなわ ち、① S33、② S837、③ S2021、④ S3968、⑤ S4106、⑥ S4666、⑦ S7614、⑧ P2308、 ⑨ P3922、⑩ P3924、⑪ BD2580(歳 80、北 8665)、⑫ BD3123(騰 23、北 8664)、⑬ BD3417(露 17、 北 8301)、 ⑭ BD3421(露 21、 北 8668)、 ⑮ BD3424(露 24、 北 8669)、⑯ BD3645(爲 45、北 8666)、⑰ BD3646(爲 46、北 8667)、⑱北大 D103、⑲ 津圖 67( 中散 2044)、⑳ 臺灣國立中央圖書館本 119 丙(中散 4119B)、㉑ 書道博物館本 90(中村不折氏舊藏本、日散 1090)、㉒ 杏雨書屋本 285(李氏鑒氏舊藏本 447、日散 285)、㉓出口氏舊藏吐魯番文書 234 の 23 種である。 2 S8495、S12213 の 2 種については、かつて曹凌氏がその編著である『中國仏教疑僞經綜 録』(上海 ・ 上海古籍出版社、2011、289 頁)において言及したものの、状況未詳とさ れている。これを受け、筆者が『分類目録』をまとめる際、兩者を紹介してはいたが、 實見できなかったとして『法句經』の寫本リストに敢えて入れていなかった。その後、 王孟氏がその博士学位請求論文である『敦煌仏教疑僞經綜録』(上海師範大学、2016 年 度、157 頁)において兩者を『法句經』の殘片として紹介されている。
入れられたものである。經録では『金剛三昧經』を「北涼失譯」とする一方、 九識説を説く内容が新しすぎたせいか、新羅の元曉が『金剛三昧經論』を著す まで、ほとんど言及されてこなかった。 ところで、『分類目録』では紹介できなかったチベット語譯『金剛三昧經』の P.tib623 については、下記の 2 種の研究成果がある。 木村隆德「敦煌チベット語禪文獻目録初稿」(『東京大学文学部文化交流研究 施設研究紀要』4、1980、107 頁) 高崎直道「チベット譯『金剛三昧經』覺え書」(山口瑞鳳監修『チベットの仏 教と社會』春秋社、1986、3-30 頁)→同氏『大乘起信論・楞伽經』〈高崎直道 著作集〉8(春秋社、2009、499-530 頁) まず、いち早く P.tib623 が『金剛三昧經』のチベット語譯であることに氣づ いた木村氏は「敦煌チベット語禪文獻目録初稿」(『東京大学文学部文化交流研 究施設研究紀要』4、1980)と題する論文の中で、その書誌学的情報を次のよう に紹介されている。 〔寫本の形状等〕1 葉 10.5 × 39.2cm の貝葉形、14 葉.紙は中質、太いスキ 目、中厚、ベージ色(beige).各葉中央左よりに糸穴 1 個あり.楷書體 (dbu can)、1 面 7 行書、罫なし.J(丁カ)付けなし.gi gu の向きは正 ・
逆混合.文獻數 1.
〔標題〕rDo rje tiṅ ṅe ḥdzin gyi chos gyi yi geḥi leḥu gcig ste mgo nan gyi leḥu ḥo (金剛三昧法字の第一章、序章) 〔解説〕尾缺、標題は首部による.漢文藏譯『金剛三昧經』の一部(Peking No.803、Vol.32、pp.151-2-5~158-1-6)に譯文ともほぼ一致し、チベット譯 『楞伽師資記』(I.O.710(Ⅱ))にみられる特殊な譯語を含んでいる.『金剛 三昧經』(大正 No.273)は禪系僞經の一つであり、他の敦煌チベット語禪 文獻中に本經からの引用文がいくつかみられる. 次いて高崎直道氏は「チベット譯『金剛三昧經』覺え書」(山口瑞鳳監修『チ ベットの仏教と社會』春秋社、1986 →『大乘起信論・楞伽經』〈高崎直道著作 1 『分類目録』では『金剛三昧經』の寫本として 10 種を紹介している(253-259 頁)。す なわち、① S2368V、② S2445、③ S2610、④ S2794、⑤ S3615、⑦ S8246、⑧ BD593 (荒 93、北 6282)、⑨ BD4281(玉 81、北 6283)、⑩杏雨書屋本 147(李氏鑒氏舊藏本 315、日散 147)の 10 種である。
集〉8、春秋社、2009)と題する論文において、水野氏らによる『金剛三昧經』 に關する從來の研究成果を簡潔に紹介し、前記の木村氏の「目録」にある關連 内容を踏まえつつ、各種の「西藏大藏經」に收録されているチベット語譯『金 剛三昧經』本文にみられる脱落錯簡は、この新出の P.tib623 によってほぼ復元 可能であるとした上、P.tib623、『北京版西藏大藏經』本(チベット語譯)、『大 正藏』所收本(漢文)による三者の勘同表を提示して、P.tib623 に基づきチベッ ト語譯に存する脱落錯簡の復元を試みられたのである。 一方、伊吹敦氏が「元曉と『金剛三昧經』」(『元曉学研究』11、2006)と題す る論文を發表された。この論文において伊吹氏は、『金剛三昧經』のテキストに ついて、「高麗版大藏經」(再雕本)に基づく『大正藏』所收本のほか、 敦煌本(書寫年不明、スタイン二七九四号) 宮内廳書陵部藏本(北宋末期刊本、大正藏經のいわゆる「宮本」) 金刻大藏經所收本(近代刊本、缺張あり) 房山石經本(金代刻經) 磧砂版大藏經所收本(南宋刊本) など數種の異本を取り上げ、テキストの變遷を論究し、その結果を下記の圖で まとめられた。 そして、『金剛三昧經』の成立については、これを新羅成立とする木村宣彰、 金煐泰、韓泰植(普光)、バズウェル(Robert E. Buswell)ら諸氏の見解と、中 國成立とみる柳田聖山、岡部和雄、石井公成ら諸氏の主張をそれぞれ紹介し、 これらの假説に含まれる問題點を指摘し、疑問を投げかけられた。さらに『金 剛三昧經』とその注釋書である元曉作『金剛三昧經論』の關係を留意しつつ、 種々の論考を展開した結果、その作者として、三階教の影響を受けた知識人居 士の存在を新たに想定されたのである。 ところで、S8246 は、すでに『方 ・ 英藏目録』に著録されたもので、それを 基に書誌学的情報を紹介すれば、横 31cm ×縱 27.6cm の 1 紙に 1 行約 28 字前 後で 20 行の内容が書寫されている殘卷で、首尾を共に缺き、最初の 6 行の下半 部も失われているという。その内容は『金剛三昧經』第二の「無相法品」の中 間部分で、およそ T9-366b9 ∼ c19 に相當するものである。 以上、2016 年度の在外研究期間中、S6980 以降のスタイン ・ コレクション (漢文文獻のみ)から存在を確認できた禪籍について、2 回にわたってその概要
を述べてきた。これらの禪籍を一覧にすれば、以下の通りである。なお、今回 の調査で新たに確認できた 19 種の禪籍についてはその文書番号をゴシック體に した。 1、壇法儀則(S8758、S9407、S11968 の 3 種) 2、傳法寶紀(S10484 の 1 種) 3、菩提達摩南宗定是非論(S7907 の 1 種) 4、歴代法寶記(S11014 の 1 種) 5、絶觀論(S12208、S12370 の 2 種) 6、大乘開心顯性頓悟眞宗論(S7850、S9211 の 2 種) 7、大乘無生方便門(S7961 の 1 種) 8、達摩禪師論(S7884 の 1 種) 伊吹敦「元曉と『金剛三昧經』」(『元曉学研究』11、2006、34 頁)より轉載 敕版大藏經本 敕版大藏經本 金刻大藏經本 金刻大藏經本 磧砂版大藏經本 磧砂版大藏經本 宮内廳書陵部藏本 宮内廳書陵部藏本 房山石經本 房山石經本 契丹版大藏經本 契丹版大藏經本 敦 煌 本 敦 煌 本 原 本 原 本 金剛三昧經論本 金剛三昧經論本 X 本 X 本 高麗藏經(初雕)本 高麗藏經(初雕)本 高麗藏經(再雕)本 高麗藏經(再雕)本
9、頓悟大乘正理決(S8609 の 1 種) 10、二入四行論(S7159、S11446、S11939 の 3 種) 11、般 若 心 經 疏(資 州 詵 禪 師)(S7821、S8351、S8685、S9787、S10238、 S10587V の 6 種) 12、仏 説 法 王 經(S7269、S8438、S9791、S9896、S11321、S12368、S14083、 S14084 の 8 種) 13、仏説法句經(S7614、S8495、S12213 の 3 種) 14、金剛三昧經(S8246 の 1 種、P.tib623 の 1 種〈チベット語譯〉) 附記: 本稿は、「学校法人駒澤大学在外研究に關する規程」に基づき、平成 28 年度 在外研究の成果報告の一部であり、また「海外の研究者との連携による中國・ 日本における禪思想の形成と受容に關する研究」(平成 29 年度、國内共同研究 〈代表者:東洋大学 ・ 伊吹敦〉)の研究成果の一部でもある。 最後に、在外研究に際し、受け入れ教員になっていただいた上海師範大学教 授の方廣錩先生に、また同期間中、頗る調査の便利を圖ってくださり、啓發的 示唆を數多く賜った同じく上海師範大学副教授の定源(王招國)先生に、さら には畫像の合成に盡力された王雪氏に、深謝を申し上げたい。 〈キーワード〉英藏敦煌遺書、敦煌禪宗文獻、S6980 以降