* 2019.8.19 受付
** 京都大学生存圏研究所 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
TEL: (0774)38-3816 FAX: (0774)38-3816 E-mail: [email protected]
特 集
科学衛星による宇宙空間プラズマ波動観測
*Plasma Wave Observation in Space Via Scientific Satellites
小 嶋 浩 嗣
**KOJIMA Hirotsugu
Abstract Space plasmas are essentially collisionless. Kinetic energies of plasmas are transferred through wave-particle interactions. Since plasmas are dispersive media, plasma waves show various features depending on how and which plasma wave modes interact with particles. Plasma wave observations via scientific satellites have a key role in knowing physical processes in space. Plasma wave investigation systems on board satellites are dedicated to the observations of electric field and magnetic field components of plasma waves. They consist of sensors, receivers and an onboard digital processing unit. While dipole antennas are used for electric field sensors, search coil magnetometers or loop antennas are used for magnetic field sensors. Plasma wave receivers are a kind of sophisticated radio receivers. The recent plasma wave receiver is designed as a waveform receiver that can save its mass and size. In addition to waveforms, the waveform receiver provides frequency spectra which are calculated in the digital processing unit from the observed waveforms. The present paper introduces plasma wave observation by scientific satellites on the basis of the latest design of plasma wave investigation systems.
Keywords: Plasma wave, Space plasma, Collisioinless plasma, Scientific satellite
1. 緒 言 太陽系宇宙空間を満たしている「宇宙プラズ マ」は、その成因により主に2 種類に分けられる。 一つは、太陽からの紫外線等で惑星の大気上層部 が電離してできる「惑星大気プラズマ」、もう一 つは、太陽大気(コロナ)が宇宙空間に流出して 惑星間空間を満たしている「太陽風プラズマ」で ある。古くから短波帯での通信に利用されてきた 地球の「電離層」は大気が電離してできた惑星大 気プラズマである。人類が初めて宇宙を利用した のが電離層を用いた遠距離通信であるといって よいであろう。一方で太陽風プラズマは、惑星と 相互作用してそこに大きな環境の変化をもたら す。惑星が固有磁場をもっていれば、その固有磁 場構造を変形させ磁気圏と呼ばれる領域を形成 する。磁場がない惑星では、太陽風とその惑星大 気や表面との直接相互作用が考えられる。このよ うな宇宙プラズマを特徴付ける性質としてその 無衝突性がある。例えば、地球軌道の太陽風プラ ズマの場合、その平均自由行程が、1AU にも匹敵 するほどとなる。そのため、宇宙プラズマは無衝 突プラズマ(collisionless plasma)といわれる。こ の無衝突プラズマにあって、粒子がもつ運動論的 エネルギー(kinetic energy)は、衝突ではなくプ ラズマ波動を介して粒子どうしで授受される。粒 子がプラズマ波動を励起することによってエネ ルギーをプラズマ波動にわたし、その励起された プラズマ波動が別の粒子を加熱・加速したりして エネルギーをわたす、というプロセスである。こ れを「波動-粒子相互作用」と呼ぶ。宇宙プラズ マ中では、主にこの波動-粒子相互作用によって プラズマ粒子どうしのエネルギーが交換される ことになる。 1 宇宙プラズマという媒質における波動-粒子相 互作用の理解は、その場所で生起している物理現 象を理解する上で非常に重要である。そして、そ の物理現象を理解する上で重要な媒質としての プラズマの特徴があり、それが、「分散性」であ る。プラズマは分散性媒質である。真空中の電磁 波は光速で伝搬するモードのみが存在するが、プ ラズマ中のプラズマ波動では、光速で伝搬するモ ード以外の波動モードが存在する。特に宇宙プラ ズマの場合多くが磁場をともなっている。太陽風 は、太陽に起源をもつ磁場(IMF: Interplanetary Magnetic Field)をもち、磁化惑星の惑星大気プラ ズマであれば、その惑星固有磁場をともなってい る。このような磁化プラズマ中におけるプラズマ 波動モードは更に多様性を示し、加えて、磁場に 対する伝搬方向の違いでその様相が大きく変化 する。そして、どのモードのプラズマ波動が励起 されるか(エネルギーを粒子から受け取るか)、 どのモードのプラズマ波動が粒子にエネルギー を与えるか、という素過程をプラズマ波動の観測 によって知ることができる。そのため、宇宙空間 におけるプラズマ現象を明らかにしようとする 科学衛星ミッションでは、必ず、プラズマ波動を 観測する測定器「プラズマ波動観測器」が搭載さ れる[1]。本稿では科学衛星によるプラズマ波動観 測について、これまでの我が国で科学衛星ミッシ ョンを例に議論する。 2. 宇宙空間で観測されるプラズマ波動 2.1 典型的なプラズマ波動強度と周波数 宇宙プラズマである磁化プラズマ中では、多種 多様なプラズマ波動モードが現れる。その様相は、 密度はもとより、外部磁場強度、外部磁場に対す るプラズマ波動の伝搬方向の角度によって大き く変わる。また、周波数が低くなるにしたがって、 電子のダイナミクスが支配的であったモードか ら、イオンのダイナミクスが支配的となるモード が現れてくる。そしてその多様性は更に、イオン 種にも依存する。つまり観測対象とする宇宙空間 の領域によってそのプラズマ波動が示す様相は Fig. 1 Intensities and frequency rages of electric
field components of plasma wave phenomena observed in the terrestrial inner magnetosphere. The dotted line denotes the sensitivity of the plasma wave sensor of the Arase satellite [2].
Fig. 2 Intensities and frequency rages of magnetic field components of plasma wave phenomena observed in the terrestrial inner magnetosphere. The dotted lines denote the sensitivity of the plasma wave sensor of the Arase satellite [2].
Fig. 3 Frequency-time spectrum diagram showing representative plasma waves observed in the geomagnetic tail region.
* 2019.8.19 受付
** 京都大学生存圏研究所 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
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科学衛星による宇宙空間プラズマ波動観測
*Plasma Wave Observation in Space Via Scientific Satellites
小 嶋 浩 嗣
**KOJIMA Hirotsugu
Abstract Space plasmas are essentially collisionless. Kinetic energies of plasmas are transferred through wave-particle interactions. Since plasmas are dispersive media, plasma waves show various features depending on how and which plasma wave modes interact with particles. Plasma wave observations via scientific satellites have a key role in knowing physical processes in space. Plasma wave investigation systems on board satellites are dedicated to the observations of electric field and magnetic field components of plasma waves. They consist of sensors, receivers and an onboard digital processing unit. While dipole antennas are used for electric field sensors, search coil magnetometers or loop antennas are used for magnetic field sensors. Plasma wave receivers are a kind of sophisticated radio receivers. The recent plasma wave receiver is designed as a waveform receiver that can save its mass and size. In addition to waveforms, the waveform receiver provides frequency spectra which are calculated in the digital processing unit from the observed waveforms. The present paper introduces plasma wave observation by scientific satellites on the basis of the latest design of plasma wave investigation systems.
Keywords: Plasma wave, Space plasma, Collisioinless plasma, Scientific satellite
1. 緒 言 太陽系宇宙空間を満たしている「宇宙プラズ マ」は、その成因により主に2 種類に分けられる。 一つは、太陽からの紫外線等で惑星の大気上層部 が電離してできる「惑星大気プラズマ」、もう一 つは、太陽大気(コロナ)が宇宙空間に流出して 惑星間空間を満たしている「太陽風プラズマ」で ある。古くから短波帯での通信に利用されてきた 地球の「電離層」は大気が電離してできた惑星大 気プラズマである。人類が初めて宇宙を利用した のが電離層を用いた遠距離通信であるといって よいであろう。一方で太陽風プラズマは、惑星と 相互作用してそこに大きな環境の変化をもたら す。惑星が固有磁場をもっていれば、その固有磁 場構造を変形させ磁気圏と呼ばれる領域を形成 する。磁場がない惑星では、太陽風とその惑星大 気や表面との直接相互作用が考えられる。このよ うな宇宙プラズマを特徴付ける性質としてその 無衝突性がある。例えば、地球軌道の太陽風プラ ズマの場合、その平均自由行程が、1AU にも匹敵 するほどとなる。そのため、宇宙プラズマは無衝 突プラズマ(collisionless plasma)といわれる。こ の無衝突プラズマにあって、粒子がもつ運動論的 エネルギー(kinetic energy)は、衝突ではなくプ ラズマ波動を介して粒子どうしで授受される。粒 子がプラズマ波動を励起することによってエネ ルギーをプラズマ波動にわたし、その励起された プラズマ波動が別の粒子を加熱・加速したりして エネルギーをわたす、というプロセスである。こ れを「波動-粒子相互作用」と呼ぶ。宇宙プラズ マ中では、主にこの波動-粒子相互作用によって プラズマ粒子どうしのエネルギーが交換される ことになる。 宇宙プラズマという媒質における波動-粒子相 互作用の理解は、その場所で生起している物理現 象を理解する上で非常に重要である。そして、そ の物理現象を理解する上で重要な媒質としての プラズマの特徴があり、それが、「分散性」であ る。プラズマは分散性媒質である。真空中の電磁 波は光速で伝搬するモードのみが存在するが、プ ラズマ中のプラズマ波動では、光速で伝搬するモ ード以外の波動モードが存在する。特に宇宙プラ ズマの場合多くが磁場をともなっている。太陽風 は、太陽に起源をもつ磁場(IMF: Interplanetary Magnetic Field)をもち、磁化惑星の惑星大気プラ ズマであれば、その惑星固有磁場をともなってい る。このような磁化プラズマ中におけるプラズマ 波動モードは更に多様性を示し、加えて、磁場に 対する伝搬方向の違いでその様相が大きく変化 する。そして、どのモードのプラズマ波動が励起 されるか(エネルギーを粒子から受け取るか)、 どのモードのプラズマ波動が粒子にエネルギー を与えるか、という素過程をプラズマ波動の観測 によって知ることができる。そのため、宇宙空間 におけるプラズマ現象を明らかにしようとする 科学衛星ミッションでは、必ず、プラズマ波動を 観測する測定器「プラズマ波動観測器」が搭載さ れる[1]。本稿では科学衛星によるプラズマ波動観 測について、これまでの我が国で科学衛星ミッシ ョンを例に議論する。 2. 宇宙空間で観測されるプラズマ波動 2.1 典型的なプラズマ波動強度と周波数 宇宙プラズマである磁化プラズマ中では、多種 多様なプラズマ波動モードが現れる。その様相は、 密度はもとより、外部磁場強度、外部磁場に対す るプラズマ波動の伝搬方向の角度によって大き く変わる。また、周波数が低くなるにしたがって、 電子のダイナミクスが支配的であったモードか ら、イオンのダイナミクスが支配的となるモード が現れてくる。そしてその多様性は更に、イオン 種にも依存する。つまり観測対象とする宇宙空間 の領域によってそのプラズマ波動が示す様相は Fig. 1 Intensities and frequency rages of electric
field components of plasma wave phenomena observed in the terrestrial inner magnetosphere. The dotted line denotes the sensitivity of the plasma wave sensor of the Arase satellite [2].
Fig. 2 Intensities and frequency rages of magnetic field components of plasma wave phenomena observed in the terrestrial inner magnetosphere. The dotted lines denote the sensitivity of the plasma wave sensor of the Arase satellite [2].
Fig. 3 Frequency-time spectrum diagram showing representative plasma waves observed in the geomagnetic tail region.
Japanese J. Multiphase Flow Vol. 33 No. 3(2019)
大きく異なってくる。一例として、Fig. 1、及び Fig. 2 に地球の放射線帯周辺で観測される典型的 なプラズマ波動の周波数や強度を示す[2]。Fig. 1 は電界、Fig. 2 は磁界成分に対する強度の周波数 分布である。波動現象毎に名前とその典型的な強 度-周波数分布を記している。Fig. 1、Fig. 2 では、 それぞれ我が国の科学衛星Arase の電界、および、 磁界の観測限界についても点線で同時に示して いる。ここでは名前が付されているプラズマ波動 の個別説明は省略するが、これらの図をみてわか るように宇宙空間でのプラズマ波動は一般に微 弱である。また、電界成分の方が、磁場成分に比 較してその信号強度のダイナミックレンジが一 般に広いこともわかるであろう。 2.2 プラズマ波動の観測例 プラズマ波動の観測例として地球の夜側磁気 圏において我が国の科学衛星GEOTAIL に搭載さ れたプラズマ波動観測器により観測されたスペ クトルの例をFig. 3 に示す[3]。これは周波数-時 間スペクトルグラムと呼ばれているプロットで、 横軸が時間(Universal Time)、縦軸が周波数をあ らわし、観測されているスペクトル強度がcontour で表されている。この図では、受信器の特徴を損 なわないよう周波数軸は、band 毎には対数になっ ているが、同じband 内はリニアスケールという 変速的なスケールにしてある。各スペクトルの現 象名をいっしょに表示している。ここに表示され ているプラズマ波動では、Type III solar radio burst、 AKR(Auroral Kilometric Radiation)、Continuum radiation が電磁波で、BEN(Broadband Electrostatic Noise)、NEN(Narrowband Electrostatic Noise)と 示されている波動は磁場成分を伴わない静電波 である。一般に電磁波は発生領域から伝搬して遠 方に伝わるが、静電波は発生した場所で粒子にす ぐにエネルギーわたしてしまって遠方まで伝搬 しない。
Type III solar radio burst は、太陽表面から宇宙 空間へ放出される高速の電子が励起するプラズ マ波動である。時間とともに周波数が下がってい るのは、電子ビームが太陽大気の薄い方へ出てい くに従って、励起される波動の周波数が下がって くるからと考えられている[4]。一方、AKR と continuum radiation は、地球周辺で発生している プラズマ波動であり、AKR は北極、南極の極域
Fig. 4 External view of the Arase satellite (copyright@JAXA).
上空にオーロラを光らせるような粒子の降り込 みがあると発生する[5]。Continuum radiation は、 地球周辺のプラズマ密度が大きく変化する領域 で発生していると考えられている[6]。一方、BEN は観測している衛星の周辺で発生しており、これ は高速の電子ビームよって励起された静電プラ ズマ波動の非線形状態であると知られている(後 述)[7]。また、NEN については、これも衛星周辺 の現象であり、低エネルギーの電子ビームで発生 していると考えられている[8]。 3. プラズマ波動観測器 衛星に搭載されるプラズマ波動観測器は、主に プラズマ波動をピックアップするセンサー、ピッ クアップされた現象を電気信号として帯域制限、 増幅を行う受信器、および、デジタル化された観 測信号を処理するオンボード処理部からなる。こ こではそれぞれについて概説する。 3.1 センサー Fig. 4 は 2016 年 12 月に打ち上げられた我が国 の科学衛星 Arase の外観である。Arase 衛星は地 球の放射線帯の生成・消滅機構を解明すべく計画 されたミッションであり現在も観測を継続して いる。このArase 衛星にもプラズマ波動観測器が 搭載されている[2]。この放射線帯の生成・消滅機 構にもプラズマ波動が重要な役割を果たしてい ると考えられており、Arase 衛星におけるプラズ マ波動観測は必須観測項目である。 科学衛星では、プラズマ波動の電界成分、磁界 成分をそれぞれ独立のセンサーで同時に観測す る。一般に電界観測では、ダイポールアンテナが、 磁界ではサーチコイル、あるいは、ループアンテ ナが用いられることが多い。 3.1.1 電界センサー Fig. 4 において WPT-S と示されているのが、電 界センサーで直交2 成分が Arase 衛星では搭載さ れている。いずれもダイポールアンテナとして機 能し、端から端の長さが30 m(衛星本体の長さ を除く)である(S1 と S2、S3 と S4 の組み合わ せでダイポールアンテナとなっている)。一般に、 宇宙プラズマ中におけるプラズマ波動の波長は、 電磁波では数 km にもおよぶ長い波長となるが、 静電波で数m 程度のものから存在する。従って、 電磁波に対しては、微小ダイポールアンテナとな り、静電波に対しては現象によっては、波長と同 程度の長さをもつアンテナとなる場合がある。電 界センサーは衛星のスピンによる遠心力を利用 して打ち上げ後に伸展される。そのため衛星スピ ン軸方向には伸展することが難しいため 2 軸の みでの観測になることが多いが、国外の衛星では スピン軸方向に特殊な伸展機構をもたせてセン サーを伸展する仕組みをもつものもある。 電界センサーは独特の構造をもつため Fig. 5 にArase 衛星例を示す。これは WPT-S の 1 エレ メント(15 m 分)の構造である。長さ 15 m のう ち、根元から14.3 m の表面は絶縁コーティング されており、プラズマとエレメント導体部の接触 はない。また先端には、直径60 mm の球が装着 されている。このアンテナは空間に存在する静電 ポテンシャルや、衛星の帯電による効果などの直 流的な電位からプラズマ波動の電界成分である 交流成分までを同時に観測する必要のあるセン
Fig. 5 Structure of the electric field sensor on board the Arase satellite.
大きく異なってくる。一例として、Fig. 1、及び Fig. 2 に地球の放射線帯周辺で観測される典型的 なプラズマ波動の周波数や強度を示す[2]。Fig. 1 は電界、Fig. 2 は磁界成分に対する強度の周波数 分布である。波動現象毎に名前とその典型的な強 度-周波数分布を記している。Fig. 1、Fig. 2 では、 それぞれ我が国の科学衛星Arase の電界、および、 磁界の観測限界についても点線で同時に示して いる。ここでは名前が付されているプラズマ波動 の個別説明は省略するが、これらの図をみてわか るように宇宙空間でのプラズマ波動は一般に微 弱である。また、電界成分の方が、磁場成分に比 較してその信号強度のダイナミックレンジが一 般に広いこともわかるであろう。 2.2 プラズマ波動の観測例 プラズマ波動の観測例として地球の夜側磁気 圏において我が国の科学衛星GEOTAIL に搭載さ れたプラズマ波動観測器により観測されたスペ クトルの例をFig. 3 に示す[3]。これは周波数-時 間スペクトルグラムと呼ばれているプロットで、 横軸が時間(Universal Time)、縦軸が周波数をあ らわし、観測されているスペクトル強度がcontour で表されている。この図では、受信器の特徴を損 なわないよう周波数軸は、band 毎には対数になっ ているが、同じband 内はリニアスケールという 変速的なスケールにしてある。各スペクトルの現 象名をいっしょに表示している。ここに表示され ているプラズマ波動では、Type III solar radio burst、 AKR(Auroral Kilometric Radiation)、Continuum radiation が電磁波で、BEN(Broadband Electrostatic Noise)、NEN(Narrowband Electrostatic Noise)と 示されている波動は磁場成分を伴わない静電波 である。一般に電磁波は発生領域から伝搬して遠 方に伝わるが、静電波は発生した場所で粒子にす ぐにエネルギーわたしてしまって遠方まで伝搬 しない。
Type III solar radio burst は、太陽表面から宇宙 空間へ放出される高速の電子が励起するプラズ マ波動である。時間とともに周波数が下がってい るのは、電子ビームが太陽大気の薄い方へ出てい くに従って、励起される波動の周波数が下がって くるからと考えられている[4]。一方、AKR と continuum radiation は、地球周辺で発生している プラズマ波動であり、AKR は北極、南極の極域
Fig. 4 External view of the Arase satellite (copyright@JAXA).
上空にオーロラを光らせるような粒子の降り込 みがあると発生する[5]。Continuum radiation は、 地球周辺のプラズマ密度が大きく変化する領域 で発生していると考えられている[6]。一方、BEN は観測している衛星の周辺で発生しており、これ は高速の電子ビームよって励起された静電プラ ズマ波動の非線形状態であると知られている(後 述)[7]。また、NEN については、これも衛星周辺 の現象であり、低エネルギーの電子ビームで発生 していると考えられている[8]。 3. プラズマ波動観測器 衛星に搭載されるプラズマ波動観測器は、主に プラズマ波動をピックアップするセンサー、ピッ クアップされた現象を電気信号として帯域制限、 増幅を行う受信器、および、デジタル化された観 測信号を処理するオンボード処理部からなる。こ こではそれぞれについて概説する。 3.1 センサー Fig. 4 は 2016 年 12 月に打ち上げられた我が国 の科学衛星 Arase の外観である。Arase 衛星は地 球の放射線帯の生成・消滅機構を解明すべく計画 されたミッションであり現在も観測を継続して いる。このArase 衛星にもプラズマ波動観測器が 搭載されている[2]。この放射線帯の生成・消滅機 構にもプラズマ波動が重要な役割を果たしてい ると考えられており、Arase 衛星におけるプラズ マ波動観測は必須観測項目である。 科学衛星では、プラズマ波動の電界成分、磁界 成分をそれぞれ独立のセンサーで同時に観測す る。一般に電界観測では、ダイポールアンテナが、 磁界ではサーチコイル、あるいは、ループアンテ ナが用いられることが多い。 3.1.1 電界センサー Fig. 4 において WPT-S と示されているのが、電 界センサーで直交2 成分が Arase 衛星では搭載さ れている。いずれもダイポールアンテナとして機 能し、端から端の長さが30 m(衛星本体の長さ を除く)である(S1 と S2、S3 と S4 の組み合わ せでダイポールアンテナとなっている)。一般に、 宇宙プラズマ中におけるプラズマ波動の波長は、 電磁波では数 km にもおよぶ長い波長となるが、 静電波で数m 程度のものから存在する。従って、 電磁波に対しては、微小ダイポールアンテナとな り、静電波に対しては現象によっては、波長と同 程度の長さをもつアンテナとなる場合がある。電 界センサーは衛星のスピンによる遠心力を利用 して打ち上げ後に伸展される。そのため衛星スピ ン軸方向には伸展することが難しいため 2 軸の みでの観測になることが多いが、国外の衛星では スピン軸方向に特殊な伸展機構をもたせてセン サーを伸展する仕組みをもつものもある。 電界センサーは独特の構造をもつため Fig. 5 にArase 衛星例を示す。これは WPT-S の 1 エレ メント(15 m 分)の構造である。長さ 15 m のう ち、根元から14.3 m の表面は絶縁コーティング されており、プラズマとエレメント導体部の接触 はない。また先端には、直径60 mm の球が装着 されている。このアンテナは空間に存在する静電 ポテンシャルや、衛星の帯電による効果などの直 流的な電位からプラズマ波動の電界成分である 交流成分までを同時に観測する必要のあるセン
Fig. 5 Structure of the electric field sensor on board the Arase satellite.
Japanese J. Multiphase Flow Vol. 33 No. 3(2019)
サーであり、この要件がセンサーの構造を複雑に している。 直流電場観測では、プラズマと直接コンタクト し、かつ「点」での観測が精度を高めるため、プ ラズマとのコンタクトポイントをトップハット に限定し(先端球と0.7 m の導電性表面部)それ 以外の部分の表面は絶縁コーティングを施して ある。一方、プラズマ波動のように交流振動成分 は、アンテナとして機能するセンサー全体で観測 する。交流であるため表面が絶縁であっても感度 に変化はない。 先に述べたようにプラズマは分散性媒質であ るため、観測対象のプラズマ波動に対して、通信 アンテナで用いるようにインピーダンスマッチ ングをとった形でセンサーを使用することは不 可能である。アンテナとしてのセンサーのインピ ーダンスがプラズマパラメータや周波数に大き く依存するからである。そこで、電界アンテナに 対しては、十分高い入力インピーダンス ZI(数 100MΩ 以上)をもつプリアンプを接続して、信 号をピックアップしている(Fig. 6)。一般に波長 に対して十分短いアンテナのインピーダンスは、 容量性を示す。プラズマ中の場合は、熱的にセン サー導電性表面部にプラズマが流れ込む電流の 効果も考慮して、Fig. 6 のようにセンサーのイン ピーダンス(ZS)を、容量(C)と抵抗(R)の並 列回路として置き換えて考えることが多い。これ らのインピーダンスは、周囲のプラズマパラメー タの関数であり、一般に、密度が高くなると、キ ャパシタは大きくなり抵抗値は下がる。このアン テナインピーダンスは、周囲のプラズマパラメー タに大きく依存するため、プラズマ波動観測器で は、このアンテナインピーダンスをオンボードで 計測する仕組みをもっている。 3.1.2 磁界センサー Fig. 4 において磁界センサーは、MST-S と呼ば れる5 m マストの先端に装着されている。直交 3 軸のコイルからなるサーチコイルである。マスト の先端にサーチコイルが配置される理由は、衛星 内部で発生するノイズの影響を軽減するためで
Fig. 7 (a) Frequency-time spectrogram of the Broadband Electrostatic Noise (BEN) observed by the Geotail spacecraft, (b) Waveforms of the BEN. Solitary waves form the broadband spectra.
Fig. 6 Antenna impedance and its equivalent circuit of the electric field sensor in plasmas.
ある。サーチコイルの特性は、電界センサーと異 なり、周囲のプラズマからの影響を受けることは なく地上試験において取得した性能がほぼその まま宇宙空間でも期待できるため、精確なキャリ ブレーションが期待できる。 3.2 受信器 センサーでピックアップされたプラズマ波動 はプリアンプで電気信号に変換されて、受信器へ と入力される。プラズマ波動観測器の中心となる 受信部には、伝統的にプラズマ波動の周波数スペ クトルのみを観測する「スペクトル受信器」と波 形を観測する「波形受信器」とに分けられる。特 に、スペクトル受信器は、古くから用いられてい た。これは、衛星という観測手段がいつも直面す る問題として、地上へ観測データを伝送するテレ メトリの容量が十分ではなく、「波形」の情報量 を送ることが困難であったことに由来する。しか し、我が国の科学衛星GEOTAIL が、波形をサン プリングしてデジタル化したものを地上に伝送 する世界初のデジタル型波形捕捉受信器(WFC: Wave-Form Capture)を搭載して、「静電孤立波 (ESW: Electrostatic Solitary Waves)」を発見して からは、各国の科学衛星でも波形を観測するタイ プの観測器が搭載されるようになった。波形デー タはスペクトルでは消失している「位相」の情報 をもっている。波形からスペクトルは予測できる が、スペクトルから一意に波形を決めることはで きないのは、このためである。非線形波動に対し ては特にこの特徴が重要になる。Fig. 7 は、 GEOTAIL が発見した静電孤立波(b)とそのスペク トル(a)を表している。従来は、上側のパネルで示 してあるスペクトル情報のみの観測であり、その スペクトルが広い周波数範囲にわたるため、「広 帯 域 静 電 ノ イ ズ (BEN: Broadband Electrostatic Noise)」を呼ばれていた[7]。つまり、広い周波数 帯域にスペクトルが広がるので、インコヒーレン トなノイズであろう、という認識であった。しか し、このスペクトルが、プラズマを特徴づけるい くつかの特性周波数をまたいで存在しているた め、その発生機構の解釈に行き詰まっていた状況 であった。しかしGeotail の波形観測によって Fig. 7 のように、広帯域スペクトルは、孤立したスパ イク波形の連続によって形成されていることが 示され、その理解が一気に進んだ経緯がある。現 在では、この孤立した波形が、電子ビームによっ て形成された孤立ポテンシャルに相当している ことがわかっている[9]。 かつて、スペクトル受信器はアナログ回路の粋 を集めた非常に高度な回路でできた受信器であ った。しかし、上記の波形観測器の重要性の認識 と、デジタル処理ハードウェアの進歩によりスペ クトル受信器の構成は現在大きく変わっている。
Fig. 8 Block diagram of a typical plasma wave receiver.
サーであり、この要件がセンサーの構造を複雑に している。 直流電場観測では、プラズマと直接コンタクト し、かつ「点」での観測が精度を高めるため、プ ラズマとのコンタクトポイントをトップハット に限定し(先端球と0.7 m の導電性表面部)それ 以外の部分の表面は絶縁コーティングを施して ある。一方、プラズマ波動のように交流振動成分 は、アンテナとして機能するセンサー全体で観測 する。交流であるため表面が絶縁であっても感度 に変化はない。 先に述べたようにプラズマは分散性媒質であ るため、観測対象のプラズマ波動に対して、通信 アンテナで用いるようにインピーダンスマッチ ングをとった形でセンサーを使用することは不 可能である。アンテナとしてのセンサーのインピ ーダンスがプラズマパラメータや周波数に大き く依存するからである。そこで、電界アンテナに 対しては、十分高い入力インピーダンス ZI(数 100MΩ 以上)をもつプリアンプを接続して、信 号をピックアップしている(Fig. 6)。一般に波長 に対して十分短いアンテナのインピーダンスは、 容量性を示す。プラズマ中の場合は、熱的にセン サー導電性表面部にプラズマが流れ込む電流の 効果も考慮して、Fig. 6 のようにセンサーのイン ピーダンス(ZS)を、容量(C)と抵抗(R)の並 列回路として置き換えて考えることが多い。これ らのインピーダンスは、周囲のプラズマパラメー タの関数であり、一般に、密度が高くなると、キ ャパシタは大きくなり抵抗値は下がる。このアン テナインピーダンスは、周囲のプラズマパラメー タに大きく依存するため、プラズマ波動観測器で は、このアンテナインピーダンスをオンボードで 計測する仕組みをもっている。 3.1.2 磁界センサー Fig. 4 において磁界センサーは、MST-S と呼ば れる5 m マストの先端に装着されている。直交 3 軸のコイルからなるサーチコイルである。マスト の先端にサーチコイルが配置される理由は、衛星 内部で発生するノイズの影響を軽減するためで
Fig. 7 (a) Frequency-time spectrogram of the Broadband Electrostatic Noise (BEN) observed by the Geotail spacecraft, (b) Waveforms of the BEN. Solitary waves form the broadband spectra.
Fig. 6 Antenna impedance and its equivalent circuit of the electric field sensor in plasmas.
ある。サーチコイルの特性は、電界センサーと異 なり、周囲のプラズマからの影響を受けることは なく地上試験において取得した性能がほぼその まま宇宙空間でも期待できるため、精確なキャリ ブレーションが期待できる。 3.2 受信器 センサーでピックアップされたプラズマ波動 はプリアンプで電気信号に変換されて、受信器へ と入力される。プラズマ波動観測器の中心となる 受信部には、伝統的にプラズマ波動の周波数スペ クトルのみを観測する「スペクトル受信器」と波 形を観測する「波形受信器」とに分けられる。特 に、スペクトル受信器は、古くから用いられてい た。これは、衛星という観測手段がいつも直面す る問題として、地上へ観測データを伝送するテレ メトリの容量が十分ではなく、「波形」の情報量 を送ることが困難であったことに由来する。しか し、我が国の科学衛星GEOTAIL が、波形をサン プリングしてデジタル化したものを地上に伝送 する世界初のデジタル型波形捕捉受信器(WFC: Wave-Form Capture)を搭載して、「静電孤立波 (ESW: Electrostatic Solitary Waves)」を発見して からは、各国の科学衛星でも波形を観測するタイ プの観測器が搭載されるようになった。波形デー タはスペクトルでは消失している「位相」の情報 をもっている。波形からスペクトルは予測できる が、スペクトルから一意に波形を決めることはで きないのは、このためである。非線形波動に対し ては特にこの特徴が重要になる。Fig. 7 は、 GEOTAIL が発見した静電孤立波(b)とそのスペク トル(a)を表している。従来は、上側のパネルで示 してあるスペクトル情報のみの観測であり、その スペクトルが広い周波数範囲にわたるため、「広 帯 域 静 電 ノ イ ズ (BEN: Broadband Electrostatic Noise)」を呼ばれていた[7]。つまり、広い周波数 帯域にスペクトルが広がるので、インコヒーレン トなノイズであろう、という認識であった。しか し、このスペクトルが、プラズマを特徴づけるい くつかの特性周波数をまたいで存在しているた め、その発生機構の解釈に行き詰まっていた状況 であった。しかしGeotail の波形観測によって Fig. 7 のように、広帯域スペクトルは、孤立したスパ イク波形の連続によって形成されていることが 示され、その理解が一気に進んだ経緯がある。現 在では、この孤立した波形が、電子ビームによっ て形成された孤立ポテンシャルに相当している ことがわかっている[9]。 かつて、スペクトル受信器はアナログ回路の粋 を集めた非常に高度な回路でできた受信器であ った。しかし、上記の波形観測器の重要性の認識 と、デジタル処理ハードウェアの進歩によりスペ クトル受信器の構成は現在大きく変わっている。
Fig. 8 Block diagram of a typical plasma wave receiver.
Japanese J. Multiphase Flow Vol. 33 No. 3(2019)
Fig. 8 は、典型的な最新のプラズマ波動観測器の ブロック図を表している。WFC と書かれている 部分が、本稿で扱っている波形捕捉受信器部分に 相当する。電界センサーや磁界センサーでピック アップされた信号は、上限帯域の制限をかけるだ けでそのままアンプされ、A/D コンバーターでデ ジタル化される。これが波形観測器(WFC)であ る。A/D コンバーター前段のフィルタは、A/D コ
ンバーターによるaliasing を防ぐ anti-aliasing filter の役割を果たしている。このようにアナログ回路 は波形捕捉受信器のみで構成される。ではスペク トル受信器はどうしているかというと、WFC で得 られた波形をオンボードのデジタルプロセッサ (CPU)あるいは、デジタル処理をハードウェア 化した FPGA により FFT を行ってスペクトルを 得ている。CPU や FPGA の高速化により、リア ルタイムで FFT 計算を行って周波数スペクトル を得ることが可能となった。これにより、専用の スペクトル受信器を構成する必要がなく、波形捕 捉受信器とオンボードデジタル処理の組み合わ せでスペクトル受信器が実現できるようになっ た。ただし、テレメトリの容量制限から、波形観 測データをすべて地上に送信することができな いのは、現在も同じで、波形観測は例えば「数分 間の観測データをオンボードメモリに保存し、観 測を中止して、その保存されたデータを、数 10 分かけて地上に伝送する」というプロセスとなる。 従って、波形の連続観測は不可能であり24 時連 続した観測データを得るためにもスペクトル受 信器の実現は重要である。 3.3 オンボード処理 先に述べたように、波形捕捉受信器をベースと したプラズマ波動受信器が主流になってくると、 衛星機上で行うデータ処理が重要になってきた。 プラズマ波動受信器におけるオンボードデジタ ル処理の代表的なものは、下記の3 つである。 a. FFT(高速フーリエ変換)などによる周波数 スペクトル計算(スペクトル受信器として) b. 波形データの圧縮 c. 地上からのテレメトリコマンドによる受信 器やデータフローの制御 a の FFT などによる処理では、波形データから FFT によって周波数スペクトルを得る処理であ る。前述のようにアナログ回路によって構成され るスペクトル受信器は重量、サイズなど多くのリ ソースを消費するため、近年の国内外におけるプ ラズマ波動受信器では、このように波形からFFT によって求めたスペクトルを使ってスペクトル 受信器としている。b の波形データ圧縮では、大 量のデータとなる波形捕捉受信器のデータを圧 縮してから地上へおろす処理である。このデータ 圧縮はサイエンスとしてどれほどの情報量を獲 得することができるか、という意味で重要な役割 となる。例えば、波形捕捉受信器のデータ生成量 を次のように考える。サンプリング周波数65kHz、 データ長2 バイト、電磁界 5 成分とすると、65,000 x 16bits x 5 成分 = 5,200,000bits/s (約 5Mbps)の データが毎秒生成されるため、データ圧縮がない 場合は、このデータ生成レート以上の地上へのデ ータ送信レートが必要となり、当然他の機器のデ ータもあるので、科学衛星における地上とのデー タ送信回線容量としては、このデータ生成レート はかなり重いものになる。そのため観測した波形 データを地上に降ろす前に圧縮する処理が入る ことが多い。その圧縮も50%程度は期待したいと ころで、そのために我々は、非可逆圧縮アルゴリ ズムを使用することが多い。しかし、一方で、サ イエンスデータである波形データは、非可逆圧縮 を使用することによって、地上で圧縮を解凍した 際に元波形と大きく異なってしまうことは避け なければならない。我が国の波形圧縮には、サブ バンド符号化が使用されている[10, 11]。観測波形 をいくつかの帯域に分割して、その帯域毎に符号 化を行うことで圧縮を実現する。この手法では、 様々な波形に対して、圧縮と解凍を行い波形解析 に支障がでるほど歪まないことを確認している。 このようなオンボードデジタル処理が可能に なった背景には、CPU の低消費電力化、高速化の 進歩による貢献が大きい。またCPU よりも更に 高速な処理を実現するために FPGA の利用も近 年の衛星観測では積極的に行われるところであ る。 4. まとめ 我が国におけるプラズマ波動観測は、歴史が古 く、1972 年に打ち上げられた、第二号科学衛星 DENPA にすでに搭載されている。当時よりプラ ズマとプラズマ波動との相互作用やその非線形 発展に着目した研究が展開されてきた。低ノイズ であることを要求されるプラズマ波動観測器は、 アナログ技術の結集のような装置であったが、本 稿でも述べたようにデジタル技術の進歩により、 その構成も格段の進歩がみられるようになった。 しかし、それでも科学衛星搭載装置が常に直面す る課題、すなわち、重量、サイズ、電力というリ ソースをいかに節約するかは、依然として変わら ぬままである。むしろ、近年の超小型衛星の登場 によりそのリソース問題はより深刻に捉えられ ている。しかし、超小型衛星は、宇宙空間を観測 する科学者にとって、長年の夢である「多点同時 観測」を実現するポテンシャルをもっており、「現 象の時空間分離」にもとづくサイエンスが宇宙プ ラズマの観測におけるブレイクスルーとして次 に待っていると考えている。 謝 辞 本稿は、我が国の科学衛星 GEOTAIL および Arase におけるプラズマ波動観測をもとにしてい る。特にArase 衛星をとりまとめ、また、資料を ご提示いただいたARASE プロジェクトマネージ ャの篠原育JAXA 准教授、ARASE プロジェクト サイエンティスト三好由純 名古屋大学教授、 ARASE 衛星プラズマ波動観測器に関する情報を いただきましたプラズマ波動責任者の笠原禎也 金沢大学教授に感謝いたします。 参考文献
[1] Gurnett, D. A., Principles of Space Plasma Wave Instrument Design, Measurement Techniques in Space Plasmas: Fields, Geophysical Monograph, 103, 121-136 (1998).
[2] Kasahara, Y., Kasaba, Y., Kojima, H., Yagitani, S., Ishisaka, K., Kumamoto, A., Tsuchiya, F., Ozaki, M., Matsuda, S., Imachi, T., Miyoshi, Y., Hikishima, M., Katoh, Y., Ota, M., Shoji, M., Matsuoka, A. and Shinohara, I., The Plasma Wave Experiment (PWE) on Board the Arase (ERG) Satellite, Earth, Planets and Space (2018), (doi: 10.1186/s40623-018-0842-4).
[3] Matsumoto, H., Nagano, I., Anderson, R. R., Kojima, H., Hashimoto, K., Tsutsui, M., Okada, T., Kimura, I., Omura, Y. and Okada, M., Plasma Wave Observations with GEOTAIL Spacecraft, J. Geomag. Geoelectr., 46, 59-95 (1994).
[4] Gumerrt, D. A. and Frank, L. A., Electron Plasma Oscillations Associated with Type III Radio Emissions and Solar Electrons, Sol. Phys., d5, 477-493 (1975).
[5] Gurnett D. A., The Earth as a Radio Source: Terrestrial Kilometric radiation, J. Geophys. Res., 79, 4227-4238 (1974).
[6] Gurnett, D. A. and Shaw, R. R., Electromagnetic Radiation Trapped in the Magnetosphere above the Plasma Frequency, J. Geophys. Res., 78, 8136 (1973).
[7] Scarf, F., Frank, L. A., Ackerson, K. and Lepping, R., Plasma Wave Turbulence at Distant Crossings of the Plasma Sheet Boundaries and Neutral Sheet, Geophys., Res. Lett., 1, 189 (1974).
[8] Scarf, F. L., Coroniti, F. V., Kennel, C. F., Smith, E. J., Slavin, J. A., Tsurutani, B. T., Bame, S. J. and Feldman, W. C., Plasma Wave Spectra near Slow Mode Shocks in the Distant Magnetotail, Geophys. Res. Left., 11, 1050 (1984).
[9] Matsumoto, H., Kojima, H., Miyatake, T., Omura, Y., Okada, M., Nagano, I. and Tsutsui, M., Electrostatic Solitary Waves (ESW) in the Magnetotail : BEN Wave forms observed by GEOTAIL, Geophys. Res. Lett., 21, 2915-2918 (1994).
[10] Hashimoto K., Iwai, H., Ueda, Y., Kojima, H. and Matsumoto, H., Software Wavereceiver for the SS-520-2 Rocket Experiment. IEEE Trans Geosci Remote Sens 41, 2638–2647 (2003). [11] Matsuda, S., Kasahara, Y., Kojima, H., Kasaba,
Y., Yagitani, S., Ozaki, M., Imachi, T., Ishisaka, K., Kumamoto, A., Tsuchiya, F., Ota, M., Kurita, S., Miyoshi, Y., Hikishima, M., Matsuoka A. and Shinohara, I., Onboard Software of Plasma Wave Experiment aboard Arase: Instrument Management and Signal Processing of Waveform Capture/Onboard Frequency Analyzer, Earth, Planets and Space (2018) (doi: 10.1186/s40623-018-0838-0).
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Fig. 8 は、典型的な最新のプラズマ波動観測器の ブロック図を表している。WFC と書かれている 部分が、本稿で扱っている波形捕捉受信器部分に 相当する。電界センサーや磁界センサーでピック アップされた信号は、上限帯域の制限をかけるだ けでそのままアンプされ、A/D コンバーターでデ ジタル化される。これが波形観測器(WFC)であ る。A/D コンバーター前段のフィルタは、A/D コ
ンバーターによるaliasing を防ぐ anti-aliasing filter の役割を果たしている。このようにアナログ回路 は波形捕捉受信器のみで構成される。ではスペク トル受信器はどうしているかというと、WFC で得 られた波形をオンボードのデジタルプロセッサ (CPU)あるいは、デジタル処理をハードウェア 化した FPGA により FFT を行ってスペクトルを 得ている。CPU や FPGA の高速化により、リア ルタイムで FFT 計算を行って周波数スペクトル を得ることが可能となった。これにより、専用の スペクトル受信器を構成する必要がなく、波形捕 捉受信器とオンボードデジタル処理の組み合わ せでスペクトル受信器が実現できるようになっ た。ただし、テレメトリの容量制限から、波形観 測データをすべて地上に送信することができな いのは、現在も同じで、波形観測は例えば「数分 間の観測データをオンボードメモリに保存し、観 測を中止して、その保存されたデータを、数 10 分かけて地上に伝送する」というプロセスとなる。 従って、波形の連続観測は不可能であり24 時連 続した観測データを得るためにもスペクトル受 信器の実現は重要である。 3.3 オンボード処理 先に述べたように、波形捕捉受信器をベースと したプラズマ波動受信器が主流になってくると、 衛星機上で行うデータ処理が重要になってきた。 プラズマ波動受信器におけるオンボードデジタ ル処理の代表的なものは、下記の3 つである。 a. FFT(高速フーリエ変換)などによる周波数 スペクトル計算(スペクトル受信器として) b. 波形データの圧縮 c. 地上からのテレメトリコマンドによる受信 器やデータフローの制御 a の FFT などによる処理では、波形データから FFT によって周波数スペクトルを得る処理であ る。前述のようにアナログ回路によって構成され るスペクトル受信器は重量、サイズなど多くのリ ソースを消費するため、近年の国内外におけるプ ラズマ波動受信器では、このように波形からFFT によって求めたスペクトルを使ってスペクトル 受信器としている。b の波形データ圧縮では、大 量のデータとなる波形捕捉受信器のデータを圧 縮してから地上へおろす処理である。このデータ 圧縮はサイエンスとしてどれほどの情報量を獲 得することができるか、という意味で重要な役割 となる。例えば、波形捕捉受信器のデータ生成量 を次のように考える。サンプリング周波数65kHz、 データ長2 バイト、電磁界 5 成分とすると、65,000 x 16bits x 5 成分 = 5,200,000bits/s (約 5Mbps)の データが毎秒生成されるため、データ圧縮がない 場合は、このデータ生成レート以上の地上へのデ ータ送信レートが必要となり、当然他の機器のデ ータもあるので、科学衛星における地上とのデー タ送信回線容量としては、このデータ生成レート はかなり重いものになる。そのため観測した波形 データを地上に降ろす前に圧縮する処理が入る ことが多い。その圧縮も50%程度は期待したいと ころで、そのために我々は、非可逆圧縮アルゴリ ズムを使用することが多い。しかし、一方で、サ イエンスデータである波形データは、非可逆圧縮 を使用することによって、地上で圧縮を解凍した 際に元波形と大きく異なってしまうことは避け なければならない。我が国の波形圧縮には、サブ バンド符号化が使用されている[10, 11]。観測波形 をいくつかの帯域に分割して、その帯域毎に符号 化を行うことで圧縮を実現する。この手法では、 様々な波形に対して、圧縮と解凍を行い波形解析 に支障がでるほど歪まないことを確認している。 このようなオンボードデジタル処理が可能に なった背景には、CPU の低消費電力化、高速化の 進歩による貢献が大きい。またCPU よりも更に 高速な処理を実現するために FPGA の利用も近 年の衛星観測では積極的に行われるところであ る。 4. まとめ 我が国におけるプラズマ波動観測は、歴史が古 く、1972 年に打ち上げられた、第二号科学衛星 DENPA にすでに搭載されている。当時よりプラ ズマとプラズマ波動との相互作用やその非線形 発展に着目した研究が展開されてきた。低ノイズ であることを要求されるプラズマ波動観測器は、 アナログ技術の結集のような装置であったが、本 稿でも述べたようにデジタル技術の進歩により、 その構成も格段の進歩がみられるようになった。 しかし、それでも科学衛星搭載装置が常に直面す る課題、すなわち、重量、サイズ、電力というリ ソースをいかに節約するかは、依然として変わら ぬままである。むしろ、近年の超小型衛星の登場 によりそのリソース問題はより深刻に捉えられ ている。しかし、超小型衛星は、宇宙空間を観測 する科学者にとって、長年の夢である「多点同時 観測」を実現するポテンシャルをもっており、「現 象の時空間分離」にもとづくサイエンスが宇宙プ ラズマの観測におけるブレイクスルーとして次 に待っていると考えている。 謝 辞 本稿は、我が国の科学衛星 GEOTAIL および Arase におけるプラズマ波動観測をもとにしてい る。特にArase 衛星をとりまとめ、また、資料を ご提示いただいたARASE プロジェクトマネージ ャの篠原育JAXA 准教授、ARASE プロジェクト サイエンティスト三好由純 名古屋大学教授、 ARASE 衛星プラズマ波動観測器に関する情報を いただきましたプラズマ波動責任者の笠原禎也 金沢大学教授に感謝いたします。 参考文献
[1] Gurnett, D. A., Principles of Space Plasma Wave Instrument Design, Measurement Techniques in Space Plasmas: Fields, Geophysical Monograph, 103, 121-136 (1998).
[2] Kasahara, Y., Kasaba, Y., Kojima, H., Yagitani, S., Ishisaka, K., Kumamoto, A., Tsuchiya, F., Ozaki, M., Matsuda, S., Imachi, T., Miyoshi, Y., Hikishima, M., Katoh, Y., Ota, M., Shoji, M., Matsuoka, A. and Shinohara, I., The Plasma Wave Experiment (PWE) on Board the Arase (ERG) Satellite, Earth, Planets and Space (2018), (doi: 10.1186/s40623-018-0842-4).
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[6] Gurnett, D. A. and Shaw, R. R., Electromagnetic Radiation Trapped in the Magnetosphere above the Plasma Frequency, J. Geophys. Res., 78, 8136 (1973).
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[8] Scarf, F. L., Coroniti, F. V., Kennel, C. F., Smith, E. J., Slavin, J. A., Tsurutani, B. T., Bame, S. J. and Feldman, W. C., Plasma Wave Spectra near Slow Mode Shocks in the Distant Magnetotail, Geophys. Res. Left., 11, 1050 (1984).
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[10] Hashimoto K., Iwai, H., Ueda, Y., Kojima, H. and Matsumoto, H., Software Wavereceiver for the SS-520-2 Rocket Experiment. IEEE Trans Geosci Remote Sens 41, 2638–2647 (2003). [11] Matsuda, S., Kasahara, Y., Kojima, H., Kasaba,
Y., Yagitani, S., Ozaki, M., Imachi, T., Ishisaka, K., Kumamoto, A., Tsuchiya, F., Ota, M., Kurita, S., Miyoshi, Y., Hikishima, M., Matsuoka A. and Shinohara, I., Onboard Software of Plasma Wave Experiment aboard Arase: Instrument Management and Signal Processing of Waveform Capture/Onboard Frequency Analyzer, Earth, Planets and Space (2018) (doi: 10.1186/s40623-018-0838-0).
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