弘前大学教育学部国語教育講座
Department of Japanese Langnage and Literature, Faculty of Education, Hirosaki University
1.最近の説明的文章指導に関する基本的な問題1 研究の目的
⑴ 読解力のあり方
OECDによる学力調査(PISA)1)などを通じて、真 の読解力とは何かが問題になっている。ただこのよう な国際的な読解力の存在意義は認めるとしても、我が 国独自の読解力に対する的確な省察がなければ、PISA 型読解力の真意を把握し、育成することにつながらな いだろう。本稿では、読解力を支える文章理解の一側 面としての文章構成における読者の認知の仕方を解明 していきたい。
⑵「段落分け」の観点から見た読解方法の実態
長崎は先に第二学年教材「手のしごと」2)を使って、段落分けの調査を行い、小学校5・6年生児童(以下
「高学年」とする)が、文章における「序論・本論・
結論」いわゆる「三段法」の認知的枠組み(スキー マ)を段落認定や読解に応用していることを指摘し
た3) (以下「調査1A」とする)。
ただし、その調査は、小学生だけを対象にしていた ので、その結果が高学年に特異なものか、それとも成 人にまで継続されるものかどうかは判別できなかっ た。そこで、今回、大学生対象の比較調査を行い、高 学年がどのように段落及びその関係を認定したかを統 計的手法を用いて明らかにする。さらに、読解におけ るスキーマに関する認知心理学の知見と国語科教育の 知見を融合する試みを行い、学習者にとっての読みの 方略とその育成方法について考察する。
2 問題の所在
⑴ 説明的文章指導の現状
説明的文章読解指導において、文章の構造に焦点が 当てられてきたことは周知の事実であり、今でも多く の教室でその手法である「段落分け」の授業を見る。
ただし、それらは作業的、形式的な活動に陥りやすい ために批判の矢面に立たされてもきた。
その閉塞的な状況を打破するように、森田4)、小田5)
説明的文章の文章構成における段落の役割に関する 読者の認知の仕方についての研究
Research of Method of Acknowledgment of Reader Concerning Role of Paragraph in Composition of Sentences of Expository Text
長 﨑 秀 昭*
Hideaki NAGASAKI*
要 旨
説明的文章読解指導において、文章の構造に焦点が当てられてきたことは周知の事実であり、今でも多くの教室 でその代表的な手法である「段落分け」の授業を見る。反面「段落分け」は形式的、作業的活動として国語科教育 の指導理論として価値が低いという批判もある。本稿では、まず国語科教育における説明的文章指導言説や文章理 解に関する認知心理学の知見及び実態調査を援用しながら、その有用性を検証する。小学生・大学生に実施した二 つの調査からは、高学年児童は、文章をボトムアップ的に理解しているのではなく、ある種の文章類型スキーマを トップダウン的に援用していることが判明した。これらの調査・考察から「段落分け」は、文章内容の抽象化とカ テゴリー化の能力を高め、トップダウンの読みを可能にするスキーマ形成の一助となるなど文章理解の重要な方略 であり、それ自体国語科教育分野での位置づけを再評価されるべきであることを論じた。
キーワード:段落 文章論 スキーマ理論 トップダウン ボトムアップ 筆者想定法
などが、説明的文章を筆者の修辞的側面から見直し、
相対的に表現の価値を判断することを指導の中心に据 えることで、説明的文章指導に新しい地平を開いてき た。
勢い彼らが批判したのは、旧勢力であり文章構造を 客観的に分析する「文章論的読解」である。「文章論 的読解指導」は、永野が提唱した「文法論的文章論」6)
を基にする指導方法を指すと思われるが、「段落分け」
などと関連の深い「文章論」は本当に指導理論として 役に立たないものなのであろうか。本稿では、国語教 育における説明的文章指導言説や文章理解に関する認 知心理学の知見を応用しながら、その有用性を検証し ていきたい。
⑵ 最近の説明的文章の読みに関する知見
ア 新たな知見との融合近年国語科教育だけでなく、認知心理学の立場から
「読む」ことに関しての研究が進められている。岸)は、
児童・成人を対象として様々な実験を行い、「説明文」
の読みの実相を解明している。ほとんどは「低・中学 年で段落間構造の理解をあるレベルまで定着させてお くことが不可欠」「授業の中で文章の全体構造に対す る意識を明確化させるような指導方法を積極的に取り 入れていくべきである」など国語科教育の現場ではす でに経験的に定見になっているものが多い。しかし、
流行に陥りやすい国語科教育の思潮に、実証性を伴っ て一定の定見を与えるのが、認知心理学の文章理解に 関する研究だという見方をするならば、国語科教育に とってその意義は大きい。
イ 認知心理学からのアプローチ
その中でも、読み手が発達段階に応じて説明文読解 の「スキーマ」を獲得し活用してゆく過程についての 提言と実証は興味深い。国語科教育の分野でも早くか ら岩永が「説明文スキーマ」の存在を指摘している)。 読み手が、文章を読みながらボトムアップ的に意味を 積み上げていくだけでなく、「説明文」とはこのよう なものだという認知的なある枠組みを、トップダウン 的に援用しながら文章を読んでいくということは、経 験的にも納得できることである。
寺井9)も、説明的文章読解指導の論考における筆者 概念の扱いの経緯を探求する過程で、内容と形式の指 標に加え、「思考に関する指標を認知心理学より援用 した」としてボトムアップとトップダウンによる指標 があるとする。
2.段落構成に関する読み手の認識調査と読解力 育成の方法
1 段落分けから読者の読みを分析する
⑴ 過去の段落分け調査と読解の関係
多人数や異種集団による傾向の比較など段落分け の調査は、永野、佐久間、長崎、安達、大熊、豊澤、
高木など10)により行われてきた。そのうち、高木は、
第2学年の説明的文章「あきあかねの一生」を用い、
小学生、大学生、教師の読みの特徴の相違点を明らか にした。
ただし、いずれも段落認定の原理が、調査文の特性 によるのか、どの文章構造にも普遍的に当てはまるも のなのかは確定されていない。さらに、これらの段落 分けや段落認定の実態が、一般的な読解方略と関連す るかどうかの考察はあまり行われてこなかった。
⑵ 段落分けの中学年・高学年・大学生の比較
ア 改行段落⑪の位置づけ(調査の目的)調査1Aは、第2学年説明的文章「手のしごと」に おける11の改行段落を、文章を大段落に区切るという 形で部分ごとにまとめるものであった。本稿で新たに 紹介する調査(以下「調査2A」とする。後述)も方 法は同様で、対象を大学生とするものである。
調査2Aでは、全体の分け方を見るのではなく、改 行段落⑪前で区分したか、すなわち改行段落⑪独立し て大段落と認定したかについて分析する。
改行段落⑪は、一見文章全体のまとめと見える。し かし、調査者は改行段落⑪は、「気もちをあいてにつ たえるのも」とあるように、全体のまとめではなく後 半の大段落(改行段落⑦~⑪)に対する統括部分と判 断する。ところが調査1Aでは、高学年児童が特異に 段落⑪前で区別する傾向が見られ、理由記述の分析か ら、多くが「改行段落⑪を『全体のまとめ』と誤読し ている」可能性が浮かび上がった。このことから、高 学年は、叙述を読んでボトムアップ的に文章を理解し ているのではなく、「序論・本論・結論」の「三段法」
の文章類型をスキーマとして持ち、それを⑪段落の読 みにトップダウン的に援用した可能性が高いと推論し た。
イ 調査の方法
調査は、「大学生」229人において同じ方法で調査を 行った。小学生については、散らばりの分散のデータ が極端に大きい第2学年はデータから排除し、小学校 3・4年児童(以下「中学年」と呼ぶ)、高学年を学
校種の区分単位とする。
ウ 調査対象
大学生 東京学芸大学教育学部生229名
小学生 全国1291名の小学3~6年生(調査1Aと 同じ 内訳3年生351名、4年生303名、5年生334名、
6年生303名)
エ 調査文について
調査文は次の教材文を用いた。調査文は縦書きで、
B4サイズの上質紙1枚に設問とともに印刷したもの を使用した。また、一文ずつではなく段落として提 示、文番号もない。また、調査文では文節ごとの分か ち書きを採用した。なお課題文は「次の文章をよく読 み、①から⑪の段落を、いくつかの大きな段落に区 切ってください。(何段落にくぎってもかまいません。
また一つの段落を大きな段落とするところがあっても かまいません。)/(改行)そして、後の問いに答え てください。」「問い1 どこで切りましたか。くぎっ た場所がわかるように、次の番号の間に線を引いてく ださい。」「問い2 なぜそのように区切ったのです か。その理由をかんたんに書いてください。」とした。
調査文 手のしごと まえだ かつや
①わたしたちの手は、朝あさおきてから夜よるねるまで、さ まざまなしごとをしています。ゆっくり休んでいる ときがないくらいです。手は、いったいどんなしご とをしているのでしょう。
②顔かおをあらうときは、手で水をすくいます。ごはん を食たべるときは、茶ちゃわんやはしをもちます。このす くう、もつというのは、手てのしごとです。
③自じてん車にのるときは、ハンドルをにぎります。
てつぼうであそぶときにも、てつぼうをしっかりに ぎります。手は、にぎるというしごともしていま す。
④えんぴつをもって字を書かくとき、はんたいの手は どうしているでしょう。ノートや紙かみがうごかないよ うに、おさえていますね。手は、おさえるというし ごともしています。
⑤けしゴムをつかった後あとに出るくずは、手ではらっ てきれいにします。ズボンについたどろも、手では らいおとします。手は、はらうというしごともして います。
⑥また、手は、何なにもしていないようで、しごとをし ていることがあります。歩あるいたり走はしったりするの は、足のしごとですが、そのとき、手はどうしてい ますか。足のうごきに合あわせて、しぜんに手もうご
かしているでしょう。手は、体からだのつり合あいをとると いうしごともしています。
⑦このほかにも、手にはとてもたいせつなしごとが あります。
⑧友だちをよぶとき、「早くおいで。」と、いいなが ら手をふるでしょう。「早くおいで。」ということば だけでも分かりますが、手をふると、「早く来きてほ しい。」という気もちが、あいてによくつたわりま す。
⑨けんかの後あとで、なかなおりのあくしゅをするの も、手のしごとです。そうすると、「もうけんかは よそう。」とか、「またなかよくしよう」という気も ちが、よくつたわります。
⑩また、友ともだちとわかれるときは、「さようなら。」
といいながら手をふるでしょう。
⑪このように、手をいろいろにうごかして、気もち をあいてにつたえるのも、手のたいせつなしごとな のです。
実施時期
小学生 199年1月13日~2月3日(各学級ごと)
大学生 1999年36名、2000年141名、
2001年26名、2002年15名、2004年11名
2 高学年は⑪段落前を区切る
⑴ 高学年の特徴
改行段落⑩と⑪の間で区切った児童・大学生の数は 表1にある通りである。「改行段落⑪の前の区分」と
「学年・校種」では、1%水準で有意差が見られた(x2
(2,N=1520)=33.303, p< .01)。残差分析によれ ば、やはり1%の有意水準で、高学年が予想より多 く、大学生が予想より少ないことがその結果に影響を もたらしていることが分かる。このことから改行段落
⑪の前で段落を区切ることは、この調査では小学校高 学年に特異な現象であると判断できる。大学生は、む
学年・校種 中学年 高学年 大学生 合計
切 る
度数 395 434 10 936 期待度数 402. 392.3 141.0 936.0 調整済み残差 -. 4.5 -5.0
切らない 度数 259 203 122 54
期待度数 251.3 244. .0 54.0 調整済み残差 . -4.5 5.0
合計 度数 654 63 229 1520 期待度数 654.0 63.0 229.0 1520.0 表1 改行段落⑪前の区分と学年・校種のクロス表
しろ⑪段落前で「区切らない」傾向が顕著だからであ る。
⑵ 「三段法」スキーマの保持
このことから高学年児童は「三段法」に関するス キーマを持っている可能性がきわめて高いと判断でき る。しかし、ではなぜ大学生はなぜ改行段落⑪の前で 区切らないのか。高学年が獲得したスキーマならば、
大学生も保持していると考えることができる。それを 用いなかったのは、「三段法」のスキーマを持ってい ながら、あえて文章の文脈に即して用いなかったから ではないだろうか。つまり、スキーマを文脈に合わせ て柔軟に活用できる高次の運用力が身についているか らであろう。では、そういったスキーマ活用の柔軟性 は何によるのか。そして、この柔軟さは、文章を正確 に読むことや豊かに読むこと、すなわち読み深めの段 階へ読者を導く鍵になっているのではないだろうか。
3 大学生の読みの実相
(1) 大学生の「三段法」スキーマ保持について そこでまず、大学生が本来「序論・本論・結論」の 三段法スキーマを持っているかどうか確認する。
調査対象は、弘前大学教育学部生49名 人文学部生 21名、農業生命学部生9名、医学部生9名 留学生2 名である。調査日は平成1年6月23日である。
また、調査方法は、調査文「手のしごと」に続きが あるかどうかを問う。そして、続きがあるとするなら ばどのような話になるかを想像して記述してもらうこ とにする(「調査2B」と呼ぶ)。時間の制限は設けな かった。
ここに、続きがあるとして、全体のまとめにあたる 内容の段落を書き加えるものが多ければ、大学生は一 般に三段法のスキーマは持っていると考えることがで きる。なお、以前同じ調査を小学生3年生~6年生 65人に行っている(「調査1B」と呼ぶ)ので、高学 年についてのみ結果を比較することとする。
結果については、改行段落⑪後の続きの有無と高学 年・大学生の数は表2にある通りである。「改行段落
⑪後の続き」と「学年・校種」では、1%水準で有意 差が見られた(x2(1,N=43)=.462, p<.01)。残 差分析によれば、やはり1%の有意水準で、大学生は むしろ高学年より「ある」の割合が多いことが分か る。このことから大学生は、三段法スキーマを持って いると判断できよう。だとすれば、大学生は、調査文
「手のしごと」で、持っているスキーマをあえて使っ ていないことになる。
⑵ 柔軟な読みと硬直化した読み
調査2Bで、大学生は、持っていても使わないこと があるという三段法スキーマの柔軟な利用者だという ことがわかった。それに比べれば、高学年は調査1B で硬直的なスキーマの利用をしたことになる。だとす ると、大学生はどのような「読み」の過程を経て、三 段法スキーマを援用しないという判断を行ったのだろ う。仮説としては「序論・本論・結論」という文章形 態に関するトップダウン的な三段法スキーマよりも、
「気もちをあいてにつたえるのも」などの叙述を丁寧 に読んで、より文脈に即したボトムアップ的認識の方 に優先性があるということが考えられる。
⑶ 柔軟なスキーマ活用の要因は何か
ア 大学生段落分けの理由分析再び調査2Aに戻る。この調査では大学生が段落区 分の理由を記述している。理由の欄は⑪段落を特定し て尋ねてはいないので、全体的な記述の中から改行段 落⑪をなぜ区分したかその判断の根拠を類推すること にする。
まず、理由の記述を次のカテゴリーに分類すること にした。
続き 改行段落⑪後の続き
高学年 大学生 合計
ある
度数 221 66 2
期待度数 232.4 54.6 2.0 調整済み残差 -2. 2.
ない
度数 162 24 16
期待度数 150.6 35.4 16.0 調整済み残差 2. -2.
合計 度数 33 90 43
期待度数 33.0 90.0 43.0 表2 改行段落⑪後の続きと学年・学校種のクロス表
図1 「手のしごと」構成図
序論
① 全体統括(問いかけ)
本論
② ③ ④ ⑤ ⑥
⑦
⑧ ⑨ ⑩
⑪
結論 続き
―
全体のまとめ(
なし)
分析の観点は、まず内容を重視したカテゴリーとし て、次のものを設定した。
⑴要点抽出要因(小見出し型、例:「⑦~⑪は手の気
持ちを相手に伝えるしごと」など)⑵内容叙述要因(「気持ちを相手につたえるのも」と
いうことが書いてあるから)次に、叙述重視グループを挙げる。
⑶機能叙述要因(手続き的知識に関する語の指摘例:
「このように」「も」「のです」)
⑷スキーマ要因(例:本来三段法が一般的であるが、
「⑪段落は全体のまとめではない」など)
⑸筆者視点要因(修辞的効果型 例:「筆者」の表現
的立場に言及しているもの)⑹その他(記述なし、終末部分の区分にふれていない
ものなど)カテゴリー分類にあたり次のような配慮をした。こ の調査文を三つより多いまとまりにとらえた、すなわ ち細かく区分した被験者もいるはずである。その際、
三段法より下位レベルの区分は解釈上「序論①、本論 前半②~⑤、⑥、本論後半⑦、⑧~⑩、⑪」という形 になる。これならば、改行段落⑪前で切ることには整 合性があり、誤読とはいえない。ただし、その場合、
論理的には同じ階層の区分として本論前半の改行段落
⑥も独立させる必要が生じてくる(図1)。改行段落
⑤と⑥間の区分については、x2検定及び残差分析に より、1%の有意水準で区切る割合が中学年>高学年
>大学生となっている(x22,N=1520)=24.022, p
<.01)。このことから、⑪段落の区分は下位レベルに よる細分化ではないことが分かる。従って、分類は、
改行段落⑪の前で区切らなかった被験者のみについて 行った。
イ 「要点抽出要因」が圧倒的に多い
分類は二人で行い、一致率は3.5%であった。一致 しないところは相談して判定した。ただし、2要因が 重なっている回答もあり、その場合は、一応二つの要 因を認定し、さらにより細かく見ているものとして下 位概念の方(例えば1と2があれば1とする)を判定 として優先させた。
その結果、「要点抽出要因」が圧倒的に多かった
(.%)。段落分けを課題にしたからかも知れない が、ほとんどが大段落⑦~⑪の要約である「要点」を 語句もしくは短文で抽出したわけである。とりわけ大 段落⑦~⑪では、改行段落⑪に「気持ちを相手に伝え る」という語句が提示され、小見出しの役割を果たし ていることへの気づきが区分の主な理由と判断でき
る。叙述面を手がかりにするより、内容面を重視する ということは、大学生は、段落を「区切る」という意 識より、「要点」「中心(語句・文)」を核に「まとめ る」という意識の方が強いのではないかと考えられ る。
ウ 文章構造の把握が理解の鍵
このように考えると、大学生が改行段落⑪を独立さ せないのは、単に「気持ちを相手に伝えるのも」とい う叙述があるからだけではない。全体の構造の中で
「気持ちを相手に伝えるのも」は、段落⑦~⑪を統括 する要点だととらえているからということになろう。
改行段落⑪の位置づけを明確に把握する能力があるた めに、文脈に応じて自らの三段法スキーマの誤用を回 避できたのである。しかも、その能力は、部分部分で 区分の可否を判断するのではなく、全体の構造の中で 階層的に均質な重み付けを行った上での段落構成を意 識している。
また、逆に改行段落⑤と⑥間の区分は、先述したと おり中学年に多く、高学年、大学生に少なかった。本 論前半部分②~⑥は、改行段落⑪のように大段落を統 括する語句が顕在していない。つまり、後半部分より 大段落認定が難しい。これも、本論前半を大段落とし て均質にまとめる能力が学年が上がるのに従って高ま ることを示唆する。
4 柔軟なスキーマ活用能力を育成するために
⑴ 従来の読解指導にも意義を認めるべき
このことから、「三段法」スキーマを用いるという ことは、単に文章を三分割しているということではな く、文章のもっとも大枠の階層を何らかの核を中心に 機能的に関係づけしているということができる。文章 は線状性をもち、内部の軽重を視覚化できない。そこ で、段落分けは、意味を基調にしながら段落という単 位概念を用いて、文章部分の重要度に応じた均質な重 み付けを行う作業であると言うことができる。階層化 できるということは、全体像が理解されているという ことなのである。
先に「重み付け」と述べたが、文章の構造を旧来 の「主題・構想・叙述」とする文章観に従えば、説明 的文章読解においても、要旨把握(要約等)・文章構 成把握(文章構成図作成等)、要点把握(中心文指摘、
小見出し付けなど)といった観点(言語活動)で学習 を行うことには整合性があると認めることが出来る。
これは、文章理解にはやはり「文章論的読解」が基本 的には必要であるということを経験的に明らかにする
ものである。
そしてこれは、大西ら11)読み方研が提唱してきた
「事実読み」「論理読み」も単に技能指導という意味合 いだけではなく、文章理解のスキーマ形成に関与して いたという点で、実践現場において「段落分け」が長 く受け入れられてきたことを再評価させる。
段落分けは、国語科授業の悪しき典型として批判の 対象ともなってきたが12)、文章理解の重要な方略の一 つであり、言語能力育成の観点からは、有効な指導の 手だてなのである。ただ、児童生徒の興味・関心との 関連づけについて課題が残っていることは事実であ る。
⑵ 筆者に着目した読みの位置づけ
以上述べたように、文章理解にスキーマ形成が重要 な要素となるとすると、「筆者概念」はどのように評 価すべきだろうか。スキーマを確定するという意味で は、安易に「筆者」を用いて叙述の位置づけを相対化 することは危険だともいえよう。とはいえスキーマの 硬直化は、調査文における高学年の誤読のような例を 生じさせるリスクもはらんでいる。文章の読解におい て両者の接合をどのように考えたらよいか。
この調査文では稿者が実際に授業を行っている13)。 その際、「続きがない」とする児童から「(筆者は後半 の)手のしごとの中で一番大切な、気持ちを相手に伝 えるということをまとめにしたんだと思います」とい う発言があった。この児童は、文章構造を筆者の視点 から捉えたのである。大学生調査2Aの理由の記述に は筆者への言及はなかった。しかし、調査2Bでは、
やはり「続きがない」とした大学生21名のうち、8名
(3%)が、「筆者」に言及している。このように、筆 者の視点に立てば、文章の型に対する自分の読みを相 対化し柔軟な立場から三段法の終末部分がないことの 意味に気付く可能性が高くなるのである。
岸の調査研究によれば、文章理解においては「推 敲」が重要であるという14)。ここで岸がいう「推敲」
とは、作文の過程における文章の修正を指すのではな く、メタ認知に近い概念である。文章生成・理解にメ タ言語能力が重要な役割を果たすことは、内田も以前 から主張している15)。文章内容のより深い理解は、こ のようなメタ認知によるとすれば、文章論的読解と筆 者概念両者の適切な援用を行って文章を多角的に把握 することが望まれることがわかる。
国語科教育の分野では、説明的文章の指導において 意識されてはいないが筆者に着目してメタ認知を促進
してきた事実が認められる。それが「筆者想定法」で ある。小田、森田の前にすでに、筆者を介して修辞的 表現への着目は行われてきたのである。
筆者想定法が、書き手の想定を活動化することは、
国語科教育の分野では、古くから提唱されてきた。倉 沢、野田、東京都青年国語研究会などに秀逸な実践が 報告されている16)。また、河野は筆者との想定対話を 学習活動で行わせ、内容処理のスキーマの存在も指摘 している1)。
筆者想定法は、単独では成立しない指導方法であ る。それは、文章論的な読解とセットになって初めて 効力を発揮する。ただいずれも経験的に行ってきた国 語科教育のこのような遺産は認知心理学の知見を得 て、いっそう再評価されるべきものである。
ここまで考えてくると、小田や森田の筆者への着目 は、筆者の修辞という相対的な立場から学習者の知の 枠組みを再構築する試みだと考えることができる。こ れは、ボトムアップ的なアプローチであり、高次では あるが読みの質を高めるものである。しかし、対置し て批判された文章論的読解指導も、実は三段法のよう な文章における典型的な枠組みを援用するものであっ たと考えられる。こちらは、トップダウン的な手法に 近いものである。「筆者概念」と「文章論」は、両者 は同一直線上のものであって対立概念ではないのであ る。
「筆者概念」は、文章の形態を絶対的なものと考え るのではなく、読者が筆者の意図を想定することで、
自らの読みを相対化しいったん棚上げする機会を与え る。ただ筆者を読むことが目的ではない。筆者という
「装置」が、自らの読みに対する「合わせ鏡」の役割 を果たすのである。読み手がスキーマを柔軟に用いる というのは、こういう視点の転換を経た結果なのでは ないだろうか。従って、これらの実践が、高学年に多 いのも納得できる。筆者想定がメタ認知の高次の能力 を要求するため、自己認識の乏しい低・中学年児童に は運用が難しいからである。
⑶ 文章論的読解と筆者概念の読みの融合
説明文を理解するということは、主に「要点」とい う核を中心に文章部分の抽象度の階層をコンテクスト を補いながらいったんは均衡化すると同時に、重要度 を比較して階層の抽象度を整理していく行為である。
その意味で「段落分け」を行うこと自体は、文章読解 上意味のあることである。
その階層づけには典型的なものと、特徴的なものと
があり、同じ文章の中でも様々な配分がある。ある程 度典型的なものを援用しながら文章を理解していくの が、トップダウンの読みである。ただし、それは、文 字で書かれている表層的な理解にしか寄与しない。
トップダウン的な読みと対峙してボトムアップの視 点から叙述を再評価していく必要もある。それは、文 字面だけではない、文体に関する様々な情報を理解す ることにつながっている。読み深めとは、文章におけ る文字内容による表面的な情報を通り一遍に理解する のではなく、読者が想定した「筆者」という装置を用 いて、その表現世界を仮想することで、文字情報など 顕在的な情報以外のメッセージをつかむという文章を いっそう深く把握する所作に他ならないのである。こ の関係は岸の紹介するキンチュ(Kintsch)の「テキ ストベース」と「状況モデル」の関係に近似している と考えられる1)。
⑷ 文章のジャンルについて
①ジャンル・スタイルも文章階層の一側面
また、スキーマの活用の一つにジャンルの扱いがあ る。トップダウン的な認識も、三段法のように外部形 式のものでだけはなく、ボトムアップの積み重ねによ る産物、すなわち認識の結果ではなく認識の仕方の収 斂されたものである場合が多い。すると、文章のジャ ンルというのは、その認識の仕方の様式(スタイル)
の文章外の階層であると考えられる。
我々は言語である文章を使っていろいろな目的を遂 行する。その目的のバリエーションがジャンルであり スタイルとして具現化される。つまり、ある意味、文 章の機能的な側面であるスタイルによって、文章の題 名より抽象度の高い一種の「見出し」としてジャンル を提示しているのである。詩には詩の、論説文には論 説文の読み方がある。調査文も高学年が説明的文章で あるというジャンルに対する意識を働かせたので、三 段法を用いたと解釈できる。
また、スキーマの形成の仕方にも諸相があると思わ れる。教師などから文章構成に関する知識を外から与 えられれても柔軟さは持ちえないだろう。高学年は、
中学年のボトムアップ的な読みを経て、三段法スキー マを用いた読み方を自分の知の枠組みの中に組み入れ た。さらに大学生になるにつれて、そのスキーマすら も全体の認知方法の一つとなり、状況に応じて用いる べきだというレベルにまで高まる。本調査はその過程 を示したことになる。
②ジャンルとスキーマ活用能力
先に述べたように、読みは文章理解の側面と叙述の 価値付けの側面がある。前者にはトップダウン的な思 考が、後者にはボトムアップ的な思考が関連してい る。小学校国語科の段階であれば、理解のためのボト ムアップ的アプローチを十分行い、その経験が実感的 に学習者のスキーマ形成につながることが望ましい。
さらに、メタ認知的なボトムアップの読みが、スキー マ援用時及び読後に用いられることで深い理解を誘発 する。
また、スキーマが学習によって子どもの内面に埋め 込まれるものだとすると、教科書教材の配列について も配慮が必要である。昭和46年使用国語教科書19)の 目次には「物語」「記録文」「説明文」「伝記」「論説 文」「記録・報道文」「ずい筆」といった文種が教材名 に書き添えられている。この文種は、昭和43年『小学 校学習指導要領』20)の「3 内容の取り扱い」に 「イ 物語,伝記,詩などを読む,説明,報道などを読 む,記録や報告を読むなど。」と例示されているため である。このように「説明的文章」という呼称が生ま れる前は、「説明文」「報告文」「記録文」「評論文」な どと分類されていた。いつしか、それらが「非文学的 文章」とカテゴリー化され、その特性を象徴的に表し ている「説明的文章」が全体を総称する呼び名になっ たのである。
このように、典型としての文章だけではなく、多様 な文章形態にふれさせることで、児童生徒は多様な文 章類型に適合したものとしてスキーマ形成の機会を持 つ。その一つの指標がジャンルなのである。
3.国語科教育における実践的理論を築くために
1 国語科教育と心理学の接点
連綿と続いてきた国語科教育の思潮に、認知心理学 の文章理解に関する研究は、一定の意義を与える。そ の際、学習者の実態に応じて適切に調整する試みをな すのが、国語科教育分野の役目であろう。
その意味で、本稿は、国語科教育の指導の視点で あった文章論的読解と「筆者概念」による読みを認知 心理学における文章研究の知見を媒介として関連づけ ることができたと考える。
例えば、「段落分け」は、ボトムアップ的な読みの 過程において言語内容の抽象化とカテゴリー化の能力 を高め、スキーマ形成の一助となるなど文章理解の重 要な方略であるがゆえにそれ自体国語科教育分野での
位置づけを再評価されるべきである。ただし、その指 導方法については、児童生徒の興味関心を考慮した上 でいっそうの改善が望まれる。
2 国語科教育と認知心理学の融合について 本稿は、まだ国語科教育に心理学分野の知見が全面 的に応用できるという保証を与えるものではない。
国語科教育分野が心理学の手法を使うことは、実際 には困難なことであり、場合によっては効率的ではな い。その言説を直截に用いれば、技能学習のように なってしまう可能性もある。しかし、ある働きかけが 重要なものだと認知されていれば、安定的に推進する ことができる。
また、心理学の知見は、状況的文脈を伴ったもので はない。とはいえ、心理学の知見を国語科教育の多 くの遺産に結びつけて再評価することは、「筆者想定 法」のみにとどまらず必要なことであろう。認知心理 学、日本語教育など文章を扱う分野はますます増えて いる。国語科教育分野は、自らが培ってきた貴重な遺 産を現代においていっそう輝かせるために、他の分野 との接合を視野に入れる必要が生じてきたのではない だろうか。
国語教育における「不易と流行」の「不易」を確実 なものとしてとどめる、その一つの歯止めが、認知心 理学による読みに関する知見である。しかし、それだ けではなく、各分野の成果が実践的な理論として統合 されることが、児童生徒の国語力向上ために有益であ ることを忘れてはなるまい。
文 献
1)『生きるための知識と技能 OECD生徒の学習到達度 調査(PISA) 2003年国際結果報告書』ぎょうせい 2004年12月 本書及び関係書による学力に関する緒 論を指す。
2)単元名「書いて ある ことを 正しく」教材名「手 のしごと」 国語教科書2年下『国語 たんぽぽ』 光 村図書 pp4-1
3)長崎秀昭『小学生の段落意識に関する研究』(私家版)
1999年3月
4)森田信義『筆者の工夫を評価する説明的文章の指導』
明治図書 199年2月
5)小田迪夫『説明文の授業改革論』 明治図書 196年 4月
6)永野 賢『学校文法 文章論』 朝倉書店 1959年6 月 ほか著書多数。
7)岸 学『説明文理解の心理学』北大路書房 2004年12 月 pp9-99
8)岩永正史 『モンシロチョウのなぞ』における予測の 実態―児童の説明文スキーマの発達―」『読書科学』
日本読書学会1991年10月 p13
9)寺井正憲 「説明的文章教材論―認知的側面からみた 形式主義・内容主義の検討」『日本語と日本文学』8 号 19年1月 pp9-1
10) 永野賢『実践学校文法』明治図書 195年4月、佐 久間まゆみ 「現代アメリカ人のパラグラフ意識―米 国カリフォルニア州における調査から 説明文の場合 を主として―」『人間文化研究年報第二号』 お茶の水 女子大学人間文化研究科 199年 pp9-10、同 「読 み手の段落区分と文章の構造原理」『月刊言語』13 3 pp106-115 大修館書店 194年3月、同「段落 とパラグラフ ―理論化の系譜を辿って―」『日本 語学』2 2 明治書院 193年2月 p21、長崎秀 昭「小学生の段落意識とその指導 ―四年生の説明 文教材を例として―」『文章論と国語教育』朝倉書店 196年1月 pp25-2、大熊 徹「言語単位として の文章」『日本語学』11、4 明治書院 1992年4月 pp20-25、安達雅夫 「起承転結を確認する 命拾い―
高校1年」『文章論で国語の授業を変えよう』 明治図 書 1991年6月 pp21-22、豊澤弘伸 「書き手の段落 と読み手の段落」 『人文科教育研究』 22 筑波大学人 文科教育学会 19 pp6-4、高木まさき「読みにおけ る子どもの脈絡と大人の脈絡」『筑波大学「日本語と 日本文学」』15 筑波大学国語国文学会 1991年12月 pp2-10
11)大西忠治『説明的文章の読み方指導』明治図書191年 3月 pp5-62
12)文部省 教育課程審議会 『教育課程審議会第14回総 会』 文部省ホームページ 文部省 199年5月 発言 者未詳、上谷順三郎「読み手にとってのコミュニケー ション的学習」『教科審 「中間まとめ」国語科改善 案の検討』明治図書199年4月 p126の指摘による。
13)長崎秀昭「説明的文章指導における典型的表現と特 徴的表現」『月刊国語教育研究』日本国語教育学会 2006年4月 pp52-54
14)岸 学 前掲書 pp139-140
15)内田伸子 『子どもの文章』東京大学出版会 1990年 3月 p16
16)野田弘/香国研『筆者想定法による説明的文章の指 導』(新光閣書店 190年10月)、倉澤栄吉/青年国 語研究会『筆者想定法の理論と実践』(共文社 192 年10月)
1)河野順子『対話による説明的文章セット教材の学習 指導』明治図書 1996年11月 p34
1)岸 学 前掲書 pp10-13
19) 教育出版 『新版標準国語 六年上』『( 同 ) 六年下』
191年4月 目次
20) 文部省『小学校学習指導要領』196年7月 p25
(200. 7. 7受理)