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人文地理学 におけ る地域 スケール と対象

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Academic year: 2021

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(1)

人文地理学 におけ る地域 スケール と対象

TheRe gi onalSc al eandObj e c t si nHumanGe o gr aphy

後 藤 雄 一 *

Yuj iGOTO

論文要 旨

地理学が対象 とす る地域 スケール は,近代地理学 の成立時か ら, よ りミクロなスケールへ と むけられて きた。本稿 で は,人文地理学 とは,「人間の移動,または人間の活動 によって生 じる 事物 の移動 ない しは相互作用」 を研究対象 とす る とし,従来 の地域 スケール よ りも, さらに ミ クロなスケールにまで対象地域 を拡 げるべ きであること,また,その ことによ り,「空間的な認 識 の論理」,「空間的な ものの見方」 としての人文地理学理論の適用範囲が さらに拡大す ること

を指摘 した。

キーワー ド :地域 スケール,対象地域,人文地理学,理論化

1.は じめに

後藤 (1996)は,地理学 の学問的性格 を再検討 し,地理学 とは,「空間的な認識 の論理」であ り,「空間的な ものの見方」であることを述べた。すなわち,地理学 とは対象 による学問の分類 で はな く, システム論 と同様 に 「ものの見方」 による分類であると述べ, この点 をふ まえた上 で,地理学の理論化 をはか る必要性 を指摘 した。 しか し, この議論での問題点 として,地理学 が対象 とす る地域 スケールの範囲 はどこまでか, また,地理学が対象 とす る事象 は何 か とい う

ことについての考察が欠 けていた ことを指摘す ることがで きよう

そ こで,本稿 で は,主 として人文地理学 について,「空間的な認識 の論理」であ り,「空間的 な ものの見方」である地理学 について,地域 スケール と対象 との関係 について考察す ることを 目的 とす る

2.

人文地理学の地域スケール

浮 田 (1970)は,地理学 における地域 スケールについて,「ここでスケール とい うのは,地域 を とらえる場合 の, とらえかたの精粗 を指す・」 と述べている

地理学 における対象地域 は,最大 の地域 スケール として は地球全域 をあげることがで きる

この範囲内で対象 を設定 し,等質地域的,結節地域的, ない しは,機能地域的視点 に基づいて 地域 区分 をお こない, それ らの分布, ない しは地域構造 とその要因を考察 して きた。 これ らの 例 として は気候 区分,地形 区分や,文化地域,経済地域,農業地域 な どの設定 な どがあげ られ よう 近代地理学 の成立時 には, このような地域 スケールでの地域 区分 を重視 す る時期 もあっ

*

弘前大学教育学部社会科学科教室

De pa r t me ntofSo c i alSt udi e s ,Fac ul t yo fEduc at i on,Hi r o s akiUni ve r s i t y

(2)

2

日本 とい う地域 スケールについていえば,人 口密度 を指標 とした経済地域 区分,作物 の種類 による農業地域 区分 な どがお こなわれて きた。 また,大都市圏 について は,都心 を中心 とす る 地域分化 と各機能地域 について地域 区分 をお こない,大都市圏の構造やその形成過程 について 研究がお こなわれて きた。最近で は,統計資料 の充実 により,計量的手法 を利用 した研究や,

GIS

を利用 した分析が盛 んにお こなわれているが, これ らも基本的には,従来 の方法 の深化 として とらえることがで きよう。

それで は地理学が対象 とす る最小 の地域 スケール とは, どの ような ものであろうか。

浮田

( 1 970)

は地図上 の縮尺 をもとにし,地域 スケールを分類 して考察 している。 この論文 で,最小 の ミクロスケール として とりあげているのは,地図上 の縮尺で は

5, 000

分 の

1

である。

すなわち 「水 田を1筆ずつ描 き分 けることが可能であ り,各水 田の所有 ・経営関係,農家の屋 敷か ら各経営田 までの岸巨離,耕地整理 による農道 ・用排水路 の整備状況や交換分合 による経営 地 の分合な どが問題 とな り, また裏作 も1筆 ごとに, この田で はタマネギ, その隣で はカンラ ンとい うように, こまか く区別 して とらえ得 るし,‑‑いわゆる田畑輪換経営な ども, このス ケールで問題 となって くる。」 と述べている。 そ して, この場合,時間スケール との関連で は, 地域 スケールが ミクロになると,時間スケール もミクロ とな り,月 日の指定が必要 となるとし ている。すなわち,「耕地の1筆 ごとに土地利用状況 を調べ る場合 には,それが何年何日何 日の それか とい うこと‑

1

日や

2日のちがいはか まわぬ として も, 7

月上旬 とか

9

月下旬 とかい う旬単位 でのちがい‑ が問題 となる‑‑」 と述べている。 このように多毛作であれば,季節 により作物 の種類が変化す るので,時間スケ」 ル上,その月 日を指定 しなければな らないので ある

それで は各 区画の耕地 の地域 スケール まで を地理学の対象 としているのはなぜであ ろうか。

それ は地域的な相異が存在す る とい う,いわゆる地域性が存在 しているために,地理学 の対象 とな りうるだけで はな く,人文地理学 の対象 としては, そ こに人間が存在 し移動がお こなわれ ていることが重要である とみなせ る。すなわち,人間の移動, または人間の活動 によって生 じ る事物 の移動 ない しは相互作用が存在 していることが理 由 と考 えられ る。

次 に,都市地理学 を例 として, ミクロスケールの現象 について考察 L・てみる。都心 を構成す る中心商店街 の実態 を地理学的 に把握す る方法 としては,現在 の ような住宅地図が存在 しない 時期 には,実地調査が情報収集法 の中心であった。 しか し,住宅地図が存在 す る現在 において ち, それ を基本資料 とし, それ に加 えて実地調査 もお こなわれている。 このような1軒 1軒 を 基本単位 として研究がお こなわれて きたのである。

各店舗 の地理的情報 は,販売す る商品の種類,店舗 の面積,商品販売額,職住分離の有無, 立体的土地利用 な どの資料 として整理す ることがで きる。 そして, これ らの地理的情報 は,任 意 の地 区に区分 し,表形式でそれ らの分布 を表示す ることによっては十分 には把握す ることは で きない。個々の店舗 を対象 とす ることの地理学的意味 について考察 してみる と,商店街 には 消費者 の購買行動 とい う人間の移動, または人間の活動 によって生 じる事物 の移動ない しは相 互作用の存在があ り, この ことが地理学の対 象 となっている主たる理 由である と考 えられ る0

かつて,地理学の主要 な研究方法 として,景観論が さかんにお こなわれていた。景観論 とは, 一面で,地域 区分 の方法で もあ り, その内部 において相互作用が生 じている範囲 を対象地域 と

しているのである。農村景観 を例 として説明す る と, そこに存在す る農家,耕地,用水路,樹

(3)

木が,人間 を主体 とす る相互作用の存在 によって,中間子 のようにそれ らを結 びつ ける作用 を はた している とい うことを,暗黙 の了解事項 としているのである そのため,一時点で撮影 し た写真 には人間が写 し出 されて はいないに も関わ らず, それ らの相互作用の結果 として,ひ と つの有機的 にまとまりのある景観が形成 されているとい うことが,人文地理学 の対象 とされた 理 由であろう

このように考 える と,人文地理学 において対象 とす ることがで きるのは,人間の移動, また は人間の活動 によって生 じる事物 の移動 ない しは相互作用が存在 して,各要素が相互 に作用 し あい, ある統一 した地域 を形成 している地域 である とい うことになろう このように考 えると, 従来,人文地理学が対象 として きた地域 スケール よ りもさらに ミクロなスケール にまで対象 を 広 げることが可能 となるので はなか ろうか。

著者 の身近 な例 として,研究室 と講義室 とをあげることがで きる 両者 の相違点 としては, 前者が人間 と物 との関係が中心であるのに対 して,後者 は人間 と人間 との関係が中心 となるこ

とであろう。

研究室 の中を例 にすれば,在室 中の大部分 の時間 を送 る位置 にある机 とイスを中心 とし,書 棚 な どとの間 を移動 しなが ら仕事 をしているわけである。 また,講義室で は講義 をお こな う者 と聞 く者 とがお り, その間 に音声な どによ り相互作用が生 じていることか ら,ひ とつの まとま った地域 と認識す ることがで きよう 演習形式の授業であれば,相互作用の形態 も異なって く るし,教師 と学生 の特性や授業 の内容 によ り,同 じ講義室であって も,時間スケール をよ りミ クロに考 えなければな らないな ど, それぞれの地域で地域性 は異 なった もの となるであろう

これ は,耕地 の1区画の毎年 の変化,季節 による変化, また,店舗 にお ける販売商品の変化 に 類似 しているといえる。

近代地理学 の成立時 には,比較的広範囲の地域が対象 とされ る最小 スケールであった。 しか し, その後,都市内部 の地域分化や個々の店舗 にまで対象が広が っていったのである。 したが って,地域 スケール をさらに ミクロな もの とす ることは,歴史的な経過 に即 しているといえよ この ように考 えると,対象 はよ りミクロなスケール にまで拡 げることが可能で はないか と い うことになるのである

それで は,上述 した研究室や講義室 とい う地域 スケール まで を対象 とす る場合 に,従来 の地 理学理論 を適用 して説明が可能か とい うことになる。次章で はこの点 について考察す ることに す る。

3.

よ りミク ロなスケールへの地理学理論の適用可能性

浮田

( 1 9 7 0 )

が ミクロスケールの例 としてあげている耕地 について,人文地理学 として, ど の ような説明理論 を適用で きるのであ ろうか。

山本

( 1 9 7 7 )

は,「農家 ・村落 を核 とす る農業景観」の中で,農業景観 を構成す る農家 と耕地 との関係 をとりあげ,「土地利用 は距離 に応 じて変化するパ ター ンになっている。とい うのは農 民 は畑へ往 き来す る時間 を節約 しなければな らないか らである。」として,通耕距離 に応 じて耕 地 の集約度が異 なる とい う内容 を説明 している。 これ はチュ‑ネンの理論 と同 じ く,都市 にお ける同心円構造理論 の適用 とみなせ る。すなわち この地域 スケールで ち,地域構造が存在 して お り,人文地理学 の理論が適用で きるのである。 ここで は相互作用の存在 を暗黙の了解事項 と してお り,農家か らの時間距離が長 くなることに対応 して通耕頻度が低下す る作物が選択 され

(4)

4

ている と説明 しているのである。

商業活動 について も,人間の移動, また は人間の活動 によって生 じる事物 の移動 ない しは相 互作用が商店街 の地域構造 を形成す ることになる と説明で きる。

地域 スケール と地域 区分 との関係 について述べ る と,地域 スケールがマ クロになれ ばなるほ ど,一般的には区分 された地域 内部 の多様性が増加 し, ミクロになれ ばなるほ ど地域 内部 の等 質性が増加 す る。 したが って, これ を拡張すれば,等質性 の強 い,ひ とつの物体 に対 して も, 人文地理学の理論 を適用で きるので はないか とい うことになろう。地域が地理学の対象である とい う制約 を除 けば,現在,人文地理学 の対象 として一般的に考 えられている範囲 よ りもさら に ミクロなスケールにまで拡 げることが可能 となるであろう。

また, スケールが ミクロになれ ばなるほ ど,「地域」とい う事物 に満 たされた対象か ら,空間 的相互作用 を欠 く事物 を捨象 した,いわゆる 「空間」 とい う概念 の導入が よ り重要 となるであ ろう。

そ こで,先述 した研究室 と講義室 を例 として,従来の地理学理論の適用可能性 について考察 す る。

研究室 とい う地域 スケールについて考 えてみる と,各種 の物体 の配列 は,人間の存在 を前提 としている。 それぞれの物体 はそれぞれの機能 をはたすためにそこに配置 されてお り,各物体 は機能的 に等質性 を有 している とみなせ る。「農家 ・村落 を核 とす る農業景観」 を基礎 にして考 察す ると,要素 としてのイス ・机 ・パ ソコン ・書棚 な どが,使用頻度 に応 じて機能的に配置 さ れているといえる。

次 に,講義室 の例 について考察す る。学生 の分布 の要因 として,教師 との距離,方向, ミク ロな気象 としての 日射,通風,冬季 の暖房 の配置 とい うものをあげることがで きよう。教師が 主 として話 し続 ける形式である講義 と演習形式 とで は,空間構造 に差異が生 じることになろう。

演習形式で は,主 としてひ とつの核が存在す る講義形式 とは異な り,多核型 を呈す ることにな るであろう。 ここで取 り上 げたの は, ミクロスケールに属す る大学 の中の閉 じた空間 について の例であるが,他への適用 も十分 に考 えられ るので はなか ろうか。

上述 したの は,都市 の内部構造 に関す る同心円地帯理論,扇形理論,多核心理論 の適用であ る。

3

つの都市構造理論 は地域 スケールで は, メソスケール といえるが, それ をやや修正す る ことによ り, これ らの理論 を適用することが可能であるように思われ る。 また,近接効果,防 層効果や,阿部

( 1 9 7 6 )

が都市内部 の土地利用間 について述べている結合,分離 とい う混合構 造 の理論 な どを適用することによ り,人間が関わ る最小 のスケールに対 して も地理学的な説明

をお こな うことは十分 に可能であると考 えられ る。

4.

おわ りに

近代地理学 の発展史 を概観す ると,全地球上での地域性 の比較 とい う段階か ら,国家内部 の 地域間比較への段階に進 み, さらに都市内部構造へ と対象地域が よ りミクロな地域 スケールへ

と進 んで きた。

以上 のように,人文地理学 の理論 は, よ りミクロな地域 スケールへの適用が試 み られて きた が, その適用範囲 を人間が関わ るとい う条件下で,現在 よ りももう1段階 ミクロなレベルにま で適用が可能で はないか, とい うのが本稿での結論である。

この ように,適用可能 な地域 スケール を拡大す る過程で,多 くの問題点が生 じるであろうが,

(5)

対 象 を従来 の地 理学 の範 囲外 に拡大 す る こ とに よ り,学 際的 な研 究 の可能性 をさ らに拡 げ る こ とにつ なが る と筆 者 は考 え るので あ る。

参考文献

阿部

( 1 9 7 6)

:土地利用の混合構造 :計測 と分析.東北地理

2 8 ,1 9 5‑2 0 6

浮田典良

( 1 9 7 0)

:地理学 における地域のスケール‑ とくに農業地理学 における‑ .人文地理

2 2

,

4 0 5‑41 9

菊地利夫

( 1 9 9 8)

:日本の歴史地理学の方法論 はいかに進展 しているか.歴史地理学

1 8 7 ,2 8‑4 0

後藤雄二

( 1 9 9 5)

:"実験地域〟としての青森県における分布の類型化の試み.弘前大学教育学部紀要

7 4 , 1‑ 8

後藤雄二

( 1 9 9 6)

:地理学 における理論の再検討.弘前大学教育学部紀要

7 6

,

1‑ 5

後藤雄二

( 1 9 97 )

:地理学 における地域 区分.弘前大学教育学部紀要

7 8 ,2 9‑3 4

山本正三

( 1 9 7 7 )

:農業の空間構造.伊藤 ・浮田 ・山本編:新訂経済地理学,大明堂

,41‑5 6

( 1 9 9 8.7. 3 1

受理)

参照

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