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高齢歩行者事故の事例研究

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Academic year: 2021

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(1)

鈴 木 由紀生

はじめに

急速に高齢化が進んでいるわが国では,高齢者が安心して生活できる環境の 整備が急がれている。援助を求める高齢者にはその要望がかなえられるシステ ムの確立が必要であろう。しかし,阿相も指摘しているように,多くの高齢者 は他者に迷惑をかけず,援助に頼らず,できるだけ自力で生活しようとしてい る(阿相1994)。用事や旅行などでよそへ出かける場合も,自分で車を運転し たり,自転車に乗ったり,近くの場合はできるだけ歩く。残念なことには,こ うした高齢者が交通事故の犠牲者になっていることである。高齢者が安心して 移動できる交通環境をつくることも大きな課題である。

茨城県では平成5年度に高齢歩行者事故の事例調査を行った。筆者も参加し たこの調査のデータをあらためて整理分析し,高齢歩行者の事故を防止するに はどのような対策を講じるべきかを検討したい。

なお,本稿の作成にあたっては,茨城県生活文化課の交通安全対策室と茨城 県警察本部の交通企画課ならびに事故の所轄警察署の担当係官に多大のご協力

をいただいたことを初めにお断りし,謝意を表したい。

問  題

高齢者の増加と事故の増加

高齢化社会といわれているように,全人口に占める高齢者の割合は年々高く なっている。それに対応して全交通事故に占める高齢者の事故の割合も増えて

(2)

表1 高齢者の人口と事故件数の推移(指数)

1990年 1991年 1992年 1993年

人高 (全国) 100.0 104.6 109.0 113.5

口齢

(茨城) 100.0 106.1 111.0 115.5

(全国) 100.0

115.3 134.1 157.8

(茨城) 100.0 126.7 183.4 220.7

歩行者(茨城) 100.0 101.3 110.7 123.1

(全国) 100.0 103.1 108.1 112.7

(茨城) 100.0 1102 132.7 143.5

いるが,問題は表1のようにその割合が人口のそれを上回っていることである。

事故の様態としては,従来のように,自転車乗車中や歩行中に事故にあうだ けでなく,車を運転していて事故にあうケースが増えていることが目立つ。こ のように現在の高齢者の交通事故の問題としては,高齢ドライバーの問題も大 きいが,歩行者の事故も多いので,歩行者としての事故を検討することも必要 である。

高齢歩行者の事故についてはこれまセも,車社会に慣れていないために起こ るのだということが強調されている。たとえば,筆者も20年ほど前に,地域の 開発が進み道路が整備され交通量が増えるにつれて高齢歩行者が車にはねられ る事故が増えたことについて,高齢者は「車がどのくらいの速度で近づいてく るのかわからず危険の予測ができないこと」,「交通ルールがよくわからない こと」等を指摘した(菊地・鈴木1972)。

交通ルールがわからないことについては,信号無視による事故が一つの指標 になるが,歩行者が第一当事者(註)になった事故の原因は表2のような現状 である。また運転免許をもっていれば,車の速度の認識もあるだろうし,交通 ルールもマスターしていると考えられるが,そのような人が歩行者として事故 にあっているケースも少なくない。最近の実態はどうなのか。今回の事例調査

(3)

表2 法令違反高齢者交通事故件数と構成率(1当 歩行者)

法令違反 茨城県 構成率 全  国 構成率

信号無視 6 42.9 554 29.9

 一 一一一一一『 一一一一一一一一一一_________ 一 一 一 『 一 一 一 一 _ _ _ 一 『 一 一 一 一 一 _ _ _ _ 一 一一一一 一 一 一 一一_ 一 一 一 『 一 一 一 一 一 _ _

通行区分左側通行 0 0.0 9 0.5

一『 一一『一一一『一一一一一一一一一一一________ 一 一 一『一一一 一一一 _ 一 一 一 一 一一 一 一 一 _ _ 『 一 一一一一 一 一 一__ 一 一一 } 一 一 一_ _ _ _

通行区分車道通行 0 0.0 22

12

一一 一一『一一一一一一一一一一一一一一_________ 一 『 一 一  一 一 一 _ _ _ 一 一 一   一 一 一 一 _ _ _ 一 一 一 一一   一 _ _ __ 一 一 一   一 一 一一 一 _ _

通行区分その他 0 0.0 0 0.0

一『 一一『一一一『一一一一一一一一一一_________ 一 一 一一一一一 一一 _ _ 一一@一 一 一 一 一 一 一 _ _ 一 一 『 一 一 一 一 _ _ _ _ } 一 一 一 一 一 一 _ _ _ _

横断歩道外横断 1 7ユ 210 11.4

一一一一一 一一『一一一一一一一一一___________ 一 一 一 一 一一 一 _ __ _ 『 一 一 一 一 一 一 _ _ _ _   一 一 一 一 一   一 一 一 _ 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ _

斜め横断 2 14.3 57 3.1

一一 『一一『『一一一一一一一一一一一一_________ 一 一 一 一一一 一__ _ 一 一}@一 一一一 一 一_ 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ _ 一 一   一 一 一 _ _ _ _ _

駐停車車両の直前、直後の横断 0 0.0 203 11.0

 一 一一 一一一一一一一一一一一一一__________ 一 一 一一 『 一一 一 一 _ _ 一 一一 一 一   一 一 一 _ _ 一 一 一一一一 一 一 ___ 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ _

走行車両の直前、直後の横断 3 21.4 454 24.5

一一一一一一一一一『 一一一一一一一一__________ 一 一 一   一 一一 _ _ _ _ 一 『     一 一 一 一 _ _ _   一一一}  一 一 一一_ 一 一 一 『 一 一 一 一 一 _ _

横断禁止場所の横断 0 0.0 144

7.8

『 一一一一一一一『一一一一一一一一一__________ 一 一 一 一 一 一一 _ _ _ _ 一 一  一 一 一 一 _ _ _ _ 一 一一一一一 一 一___ 一一一@一 一一一一 一 一_

踏切不注意 0 0.0 12

0.6 一一 心一一一 『  一一一一一一一一一一一_______ 『 一 一 一一一一__ _ 一 一『   一 一 一 一 一 _ _ 一 一 一 一 一  一 一 一 _ _ 一 一 一 一 一 一 一一 _ _ _

酩酊、俳徊 0 0.0 29 1.6

一 『 一『一一一一一一一一一一一一一一一________ 一 一『 一一一 一___ 一 一一一 一 一一一一 _ _   一 一 一 一  一 一 一 __ 一 一   一 一 一 一一 _ _ _

路上遊戯 0 0.0 0 0.0

一『 一『一一一一『 一一一一一一一一一一________ 一 『一一一一一___ _ 一 一 『 一 一 一 一 一 _ _ _ 一 一 一 一 一 一 一 _ _ __ 『 一 一 一 一 一 一 _ _ _ _

路上作業 0 0.0 5 0.3

一一一『一一一一『 一一一一一一一一一__________ 一 一一『  一一一 一_ _ 一 『 一 一 一 一一 一 _ _ _ 一 『 一一一一一 一 _ __ 一 一 一 『 一 一 _ _ _ _ _

飛び出し 2 14.3 117 6.3

一一『一一一一一一一 一一一一一一一一一一________ 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ _ 一   『   一 一 一 _ _ _ _ 一 一 一 一 } 一 一 _ _ _ _ 一 一 一 一 『 一 一一 一 一 _

その他の違反 0 0.0 34 1.8

一 一 一一一『  一一一一一一一一一一一________ 『 一一一一一 一一 __ _ 一一一}@一 一 一一 一 一 _   } 一 一   一 一 一 _ _ _ 一 一 一   一 一 一 _ _ _ _

調査不能 0 0.0 0 0.0

一一一一一一『一} 一一一一一一一一一一_________ 一 『   一 一 一 _ _ _ _ 一 一   一 『 一 一 _ _ _ _   一 『 一 『 一 一 一 一 _ _ 一 一 一 一 一 一 一 一 _ _ _

違反なし 0 0.0 0

0.0

合  計 14 100.0 1,850

100.0

(4)

にはこうした点の解明も含まれている。

調  査茨城県の平成5年度の高齢歩行者の事故事例調査は次のような形で実施さ

れた。

調査期間

平成5年11月17日から平成6年2月18日までの間。

調査対象事故

@ 土浦.つくば中央・つくば北警察署管内を除く茨城県内一円で起こった高 齢者(65歳以上)の歩行者欄係した事故を対象にした・調査件数は29件で

ある。

調査体制@ 調査体制としては茨城県の生活環境音限を会長・警察本部の交通部長を副

?キとし潤係機関,団体の代表者と轍経瀦を加えた「茨城県交騨故 イ査研究会」,その下に実際の事例調査をそテう「茨城県交轟故調査研究会

サ地調査班」がつくられた.事故事例の調査は・現地調査韻漸鰭察署 Cおよび事務局(茨城県の交骸全対策室)糊がチームを組んで行った・

現地調査班には道路交通環欄査班心理調査班激急・医翻査班の3つ

が参加した。

調査項目

次の4項目について調査した。

共通項目

@ 事故発生購陽所道路の種別,天候,事故内容(死傷の程度)瀕型・

車種,ヘッドライトの向き,現場状況図等の14項目からなる。

人的項目@ 当事者1については齢していた輔,性別,年齢識業・居住環境(市 X地郊外),所有免許違反事故歴,運行目的・高校時代の交骸全教

育,事故時の状態等36項目からなる。

鮪鮪メ2については,年齢,性別,事故時の状況日ごろの歩行行動老

人会への所属等46項目からなる。

道路環境的項目

@ 道路種別個道,県欝),購名,沿道の斗犬況路面の状態溌生地点 i交差点踏切等),信号機安全施設道路の線形渉輔の区分・渋滞

(5)

状況等の14項目からなる。

救急・医療的項目

救急隊が来るまでの手当て,救急隊員による処置,救急隊出動から現場ま での時間,現場から病院までの時間等11項目からなる。

調査事故の決定と調査員への連絡 調査事故の決定

管轄する警察署からの報告「高齢歩行者が関係した交通事故発生速報」

(以下「事故発生速報」と略)にもとづき,県警察本部交通企画課が,当事 者の状態等を考慮して調査対象事故を選定し,当該事故の「事故発生速報」

を事務局へ提出した。

調査員への連絡

調査員に対する連絡は,調査事故の決定に基づき,交通企画課から交通規 制課および所轄警察署に電話するとともに,事務局から「事故発生速報」を

各調査員にFAX送付することによって行なわれた。なお,各地区消防署員

に対する連絡は,県消防署長会(水戸市消防本部)を通じて行なわれた。

現地調査 事故概要の説明

各調査員は,事務局からの連絡に基づき所管警察署に集まり,その事故を 担当した警察官から事故の概要について説明を受けるとともに,事故担当救 急隊員から救急現場状況の説明を受けた。

事故現場での調査

交通事故現場に出向き,事故現場の細部を確認するとともに,当事者から も説明を受けるなどの調査を実施した。

各項目の調査と調査票の作成

共通項目,人的項目は心理調査班が担当した。

交通企画課から所管警察署を通じて,調査時に警察署または事故現場に来て もらった当事者に,プライバシー保護に配慮して面接調査を行った。在宅の場 合は訪問して行ったこともある。その結果をもとに陪席した交通企画課員が調 査票を作成した。

(6)

表3 1993年度交通事故調査結果一覧表

番号 事故当事者・車・障害程度 発生時刻・道路形状等 歩行者の状態 1 ①22歳m会社員・小型二輪(401〜750)・なし

A68歳m警備員・歩行者・重傷(脚部骨折)

17:00 ・ 国道 差点(信号機なし)

横断歩道

。断中

2 ①52歳m自営業・普通乗用車・なし A75歳f無職・歩行者・死亡(脳損傷)

17:15 ・ 国道 差点(信号機あり)

横断歩道

。断中

3 ①41歳m農業・普通乗用車・なし A75歳f無職・歩行者・重傷(腰部骨折)

17:20 ・ 県道 シ線道(ゆるやかな上り)

その他

。断中

4 ①50歳m自営業・政令大型車・なし A75歳f無職・歩行者・重傷(右上腕部骨折)

9:10 ・ 国道 シ線道

その他

。断中

5 ①19歳m短大生・普通乗用車・なし A74歳m無職・歩行者・重傷

18:40 ・ 国道 シ線道

その他

。断中

6 ①22歳m自営業・普通乗車・なし A71歳f無職・歩行者・死亡(脳挫傷)

20:35 ・ 国道 差点(信号機なし)

その他

。断中

7 ①21歳m公務員・軽貨物車・なし A66歳m無職・歩行者・軽傷(胸部打撲)

17:05 ・ 町道 シ線道

その他

。断中

8 ①29歳m会社員・普通乗用車・なし A77歳fパート・歩行者・死亡(全身打撲)

17:17 ・ 国道 シ線道

その他

。断中

9 ①50歳m会社員・普通貨物車・なし A68歳f無職・歩行者・重傷(右肘頭骨折)

11:20 ・ 国道 差点(信号機あり)

横断歩道

。断中

10 ①20歳m会社員・普通乗用車・なし A81歳f無職・歩行者・重傷

6:50 ・ 市道 艪驍竄ゥな右カーブ

対面通行中

11 ①45歳m普通乗用車・なし

A68歳m歩行者・重傷(右膝関節骨折)

13:25 ・ 市道 差点(信号機なし)

横断歩道

。断中

12 ①55歳m普通乗用車・なし A78歳m歩行者・軽傷

14:20 ・ 国道 差点(信号機なし)

その他

。断中

13 ①22歳m会社員・普通乗用車・なし A82歳f無職・歩行者・軽傷(打撲、擦過創)

17:00 ・ 町道 シ線道

その他

。断中

14 ①48歳m自営業・普通乗用車・なし A67歳m農業・歩行者・重傷(左足骨折)

11:55 ・ 県道 差点(信号機なし)

その他

。断中

15 ①17歳m会社員・原付一種(50cc以下)・なし A76歳m無職・歩行者・軽傷(右下肢・腎部打撲等

16:20 ・ 市道 差点付近

背面通行中

(7)

番号 事故当事者・車・障害程度 発生時刻・道路形状等 歩行者の状態 16 ①40歳fパート工員・普通乗用車・なし

A77歳f無職・歩行者・死亡(脳挫傷) 16:55 ・ 市道差点(信号機なし) 横断歩道。断中

17 ①48歳m普通貨物車・なし

A78歳f歩行者・死亡(脳損傷) 10:10 ・ 国道差点(信号機あり)

横断歩道

。断中

18 ①38歳m普通乗用車・なし

A78歳f無職・歩行者・死亡(脳損傷) 13:50 ・ 県道s字路(信号機あり) 横断歩道。断中

19 ①65歳m作業員等・原付一種(50cc以下)・軽傷

A85歳f無職・歩行者・重傷[死亡](脳挫傷) 16:50 ・ 国道差点付近

その他

。断中

20 ①58歳f無職・原付一種(50cc以下)・なし

A82歳f入百屋・歩行者・軽傷(頭部等打撲) シ線道11:55 ・ 市道

その他

。断中

21 ①47歳m会社員・普通乗用車・なし

A69歳fその他・自転車押す・重傷(脳挫傷) 17:10 ・ 国道差点(信号機なし) 横断歩道付近。断中

21 ①53歳m運転手・普通貨物車・なし 15:45 ・ 国道 横断歩道

②71歳f無職・歩行者・重傷(脳挫傷・右鎖骨骨折 交差点(信号機あり) 横断中

23 ①29歳m会社員・普通乗用車・なし

A79歳f行商・歩行者・死亡(脳損傷) シ線道17:10 ・ 国道

その他

。断中

24 ①57歳m会社員・普通乗用車・なし

A71歳m歩行者・重傷(顔面右膝挫傷) 14:10  国道 シ線道

背面通行中

25 ①28歳f無職・普通乗用車・なし

A87歳f無職・歩行者・死亡(頭蓋骨骨折・脳挫傷 20:10 ・ 国道差点(信号機なし) その他横断中i交差点内)

26 ①52歳m会社員・普通乗用車・なし

A79歳f無職・歩行者・重傷(頭部打撲・挫創) 9:30 ・ 国道差点(信号機なし) 。断中その他

27 ①45歳m会社員・普通乗用車・なし

A73歳f無職・歩行者・重傷(右大腿骨折) 16:45 ・ 県道差点(信号機なし) 。断中その他

28 ①20歳f会社員・普通貨物車・なし

A66歳f無職・歩行者・重傷(右手裂傷) シ線道8:35 ・ 国道

背面通行中

29 ①58歳m運転手・政令大型貨物車・なし

A86歳m歩行者・重傷(脳挫傷) 13:30 ・ 国道差点(信号機あり)

横断歩道付近

。断中

① 第1当事者② 第2当事者

(8)

道路環境的項目は道路交通環境調査班が担当した。

事故現場における道路状況等の写真やビデオを撮るなど現地調査し,交通規 制課が調査票を作成した。

救急・医療的項目は救急・医療調査班が担当した。

負傷者等の救急関係については,当該救急業務を担当した各地区消防署員が 調査票を作成した。また,医療関係については,担当した医療機関に調査票の 作成を依頼し,必要に応じて補足調査を行なった。

調査結果(調査票)の全体的整理

事務局が,各調査員の作成した調査票を関係機関と連絡をとりながら,とり まとめるとともに,随時「茨城県交通事故調査概要」を作成して各調査班員に 送付し,調査概要の確認を図った。

調査報告書の作成

交通事故調査終了後,現地調査班会議により調査結果を分析・検討し,交通 事故調査報告書(案)を作成した。これを「茨城県交通事故調査研究会」で審 議し,承認を受けて知事及び総務庁に報告した。

調査の結果と考察

調査の流れは以上の通りであり,調査報告書も提出されている。これから述 べる調査の結果と考察は,心理調査班員として筆者が担当した共通項目と人的 項目について道路環境的項目とを合わせて改めて検討したものである。

調査した事故事例の概要

表3は,調査した29件の事故事例の概要を, [事故当事者,車,障害程度],

[道路の形態],[歩行者の事故時の状況]で整理したものである。高齢歩行 者の事故時の状況としては,道路横断中が多いが,対面通行中もあれば,背面 通行中もある。また道路の横断箇所についても,横断歩道もあればその他の所 もある。高齢歩行者事故のすべてのパターンを網羅しているわけではないが,

典型的な例は入っているといえよう。

(9)

事故のパターンと要因

これらの事故には,高齢歩行者側,ドライバー側,道路・交通状況の三者の 要因が関わっている。高齢者の側の責任の度合によって,事例をいくつかのパ ターンに分類し,それぞれのパターンについて三者の要因の問題点を明らかに

する。

パターン1 高齢者に問題がなかったにもかかわらず事故にあったケース このパターンは高齢者が交通規則にしたがって,不安全な行動を全くとらな

いのに事故にあってしまったものである。[ ]の中の数字は表3に示され

た事故事例の番号である。

ア.青信号で横断歩道を横断中,右折車にはねられる。[11,17,18,22]

4例がこれに含まれる。被害者は各件1名で4名であるが2人が死亡し,残

りの2人も脳挫傷など重傷である。

ドライバーは「対向車よりも早く右折しようとして」とか,「対向車の通過 だけを気にしていた」など注視箇所の偏りがほとんどである。スピードはいず れの場合も時速20キロ以下なのに歩行者が死亡しているのは,キャブオーバー 型の車に衝突されたためにまともに後方に倒れ,頭部を打撲したためである。

道路の形状としては,直交交差の交差点が2つ,T字路が1つ,クランク交 差が1つであり,T字路の場合は図1のように周囲の建物等の関係で横断歩道

が交差点にあまりにも近く切られていたことにも問題があった。

口口 口口

国口口口口口口口z

図1 横断歩道が交差点にあまりに近く切られている交差点

(10)

イ.左側を自転車を押して歩行中,後からきた車に自転車のハンドルを引っか けられる。[28]

高齢者は道路の左端に避けていたわけで,問題はない。

ドライバーは配達のため普通貨物車を運転していたが,初めての土地であり 道路の標識に気をとられ,自転車を押している高齢者に気づくのが遅れた。注 視箇所の偏りである。 道路は国道で車の通行量も多いが,幅員は狭く,大型 車が通ると一車線の片側がいっぱいになる。特に事故現場はまったく余裕がな

く歩行者が危険を感じても,よけ切れない状況であった。

ウ.歩道を通行中,歩道に乗り上げてきた車に引っかけられる。[24]

高齢者は娘さん二人と食事に行くため歩道を歩いていたところ,ハンドル操 作を誤って歩道に乗り上げて来た車にはねられたので,責任はまったくない。

ドライバーは道路の左側に知っている人がいるように思って気をとられてハ ンドル操作を誤っている。

道路は直線に近い非常にゆるいカーブである。

この事故で留意すべき点は,家族3人で歩行中のことであるが,事故にあっ たのは回避が困難な高齢者だけであったことである。

パターン2 夜間目立たない服装で歩行していて事故にあったケース

このパターンも高齢者の歩行に問題があるというわけではないが,事故を回 避する「防衛歩行」のあり方の点で考慮すべき問題を含んでいる。

ア.高齢者は道路の左端にいたが,道路の端をライトを下向きにして走ってき た車にはねられる。[25]

信号のない横断道路を渡り切る寸前で事故にあっている。

ドライバーは食事をとろうとして店をさがしながら道路の端をライトを下向 きにして時速50キロ(?)で走っていたが,目立たない服装をしていた高齢者 に気づくのが遅れ,はねてしまった。

横断道路は旧来からある道路で直交する道路は新設で中央分離帯のある広い 道路であるが,事故現場には照明がなく,夜間歩行者が目立たない服装をして いればドライバーには発見しにくい事情にある。

イ.夜間信号機のない交差点を横断中,はねられる。[16]

高齢者は信号機のない交差点の横断歩道を横断中にはねられており,歩行行 動に特に問題はない。

(11)

ドライバーは交差する道路の車の動向に気をとられ,時速40キロで交差点に 進入したところ右から左に横断中の高齢者に気づくのが遅れ,はねてしまった。

現場の交差点の道路の幅員は15mと10mであり,車の通行が多い場合は,信 号機がないと高齢者が横断するのは難しい状況にある。

パターン3 停車中の車の間をあまり注意しないで通り抜けて事故にあう。

このパターンは高齢歩行者の交通状況のとらえ方にやや問題がある。

ア.信号はないが一時停止のある交差点で渋滞のため停車中の車の直前を横断 したところ,車の脇を走ってきたバイクにはねられる。[1]

高齢者は車が止まっているので横断したわけであるが,停車中の車の脇を一 時停止せずに通過しようとしたバイクにはねられてしまった。

バイクのドライバーは前を行くバイクに追随しようとして,横断する歩行者 に気づかなかった。

道路には歩道橋もあったが,利用されなかった。

イ.駐車中の車の間から道路を横断しようとしてバイクと衝突する。[20]

高齢者は駐車中の車の間から交通状況をあまり気にせずに前こごみになって道 路を横断して左から来たバイクにはねられた。

バイクの運転者は時速30キロぐらいで走っていたが,車の陰から急に飛び出 してきた高齢者に気づきブレーキをかけたが,うまく停止できず,はねてしまっ

た。

道路は商店街の一方通行路で,駐車禁止であるが,駐車している車が多い。

パターン4 左右をあまり確認しないで道路を横断して事故にあう。

このパターンも3と同じように交通状況のとらえ方に問題があるが,道路横 断の際に配慮すべき問題を含んでいる。

ア.車は来ないと思って渡りはじめたら,はねられてしまった。 [5]

高齢者が盲人でセンターラインのところに止まっていたが,車は来ないと思っ て渡りはじめてはねられる。

ドライバーは渋滞した道路を時速20キロで走行中で,歩行者の白い杖に気づ かず,「よもや自分の車に気づいていないとは思わなかった」ため,直前を横 断することは予想しなかった。

道路の幅員は7.6mで直線である。

(12)

イ.車が来ているのに気づかずに横断をはじめて,事故にあう。[4,13]

事例4では耳の悪い高齢者が車の直前を左側から右に横断しようとしてはね られている。事例13では,右側から左側へ渡ろうとして,中央分離帯に達する 直前ではねられている。

事例4の場合は歩行者が車が来るのをまったく無視して横断してきたのでブ レーキを踏んでも間に合わなかった。

事例13の場合は時速70キロで走行中,薄暮のため気づくのが遅れてはねてし

まった。

歩行者が横断した道路は細く,ドライバーにはそのような道路が交差してい ることが気づきにくい。

ウ.右から来る車が通過したので,道路を横断しはじめたら,反対側から来た 車にはねられた。[3]

高齢者は向い側にある自分の家に帰るため,右側から来た車が通過したので 道路を渡りはじめたところ,左側から来た車にはねられた。

ドライバーは時速40キロで走行中,右から左に横断中の歩行者を認めてプレー キを踏んだが間に合わなかった。

直線道路で,事故時は薄暮であった。

パターン5 自分では十分渡れると思って車の直前を横断して事故にあう。

このパターンは自分が「大丈夫と思う」クレベルスベルグ(Klebelsberg 19 82)のいう主観的安全基準に問題がある

ア.車はまだ遠いと思って渡ったら,はねられてしまった。 [7,14,21]

事例7と21の場合は 車の前方を右側から左へ十分渡れると思って横断し始 めたが,渡り切る前にはねられている。

事例7のドライバーは道路の左側からの飛び出しにのみ気を取られ,左側か ら横断してくる歩行者に気づくのが遅れている。事例21の場合は時速80キロで 走っており,気づいた時には間に合わなかった。事例21の場合は道路は新設で 幅員は10.1mある。

事例14では高齢者は右側からくる車の前を大丈夫と思って渡ったところセン ターラインに達したところではねられた。ドライバーは歩行者が横断を始める とは思っていなかった。

イ.車が2台続いているのにもかかわらず,前の車が通過した直後に横断をは

(13)

じめ,はねられる。[12]

高齢者は免許保有者で車も運転しているが,十分渡れると思って渡ったがは ねられてしまった。

ドライバーは道路の左側にいる高齢者を認めたが,横断し始めるとは思わな かったので,気づくのが遅れた。

パターン6 信号を無視して道路を横断して事故にあう。

このパターンは高齢者の信号無視に最大の原因がある。

ア.赤信号なのに横断して,はねられる。[2,29]

事例2は病院に通う患者で横断歩道の反対側に病院職員がいるのに気をとら れ,赤信号なのに車が止まっていたので渡ってしまい,大型車の陰を走ってき たバイクにはねられてしまった。

バイクの運転者は,70m先の前車のテールランプに気をとられ,信号を無視 して高齢者が来ることにはまったく気づかなかった。

道路は9mの国道に5mの市道が斜めに交差した変則的な交差点である。

事例29は信号を無視して横断を開始した痴呆症が現れている高齢者が時速70 キロで走って来た車にはねられる。

ドライバーは前方の信号は青であり,横断する歩行者がいるとは思っていな かったので,気づくのが遅れた。

道路の幅員は17.8mでスピードを出す車が多い。

高齢歩行者事故の背景

今回調査した事故事例から高齢歩行者事故の目立つ特徴として次の点が抽出

される。

道路横断中の事故,特に車の前を右から左へ横断中に事故にあっているこ とが多い。

薄暮または夜間の事故が多い。

交差点で右折車にはねらる事故が多い。

信号無視や車の直前横断など無理な横断による事故が多い。

以下こうした事故が起こる背景について考察する。

道路横断中,特に車の前を右から左へ横断中に起こる事故が多いことについ

(14)

て,これは高齢者が自分の歩行速度と車の速度を勘案して横断すべきタイミン グをとらえることが困難であることを示している。自分では十分渡れるであろ うと判断して横断しながら事故にあうことが多い。

この背景としては次のようなことが考えられる。

a.自分の歩行速度の低下についての自覚がない。

b.車の速度が読めない。

c,左側から来る車の前を横切る場合の車までの距離は,右側から来る車の前 を横切る場合の2倍の距離が必要であるということが念頭にない。

例えば,分速45mの歩行速度の高齢者が,幅員6mの道路を時速40キロで走っ て来る車の前を横断する場合,高齢者がセンターラインに達するまでと渡りき るまでに要する時間は4秒と8秒である。その間,車は44,4mと88.8m走る。

したがって車が速度を落とさないかぎり,右側からの車に対しては44.4m,左 側からの車に対しては88.8m以上離れていないと横断しはじめることは危険で ある。車の速度が時速60キロになれば,その距離は66.6mと1332mになる。

d.広い道路の通行に慣れていない。

前記のcの例で幅員が10mの道路を想定した場合,センターラインに達する のに6.76秒,渡りきるのに13.47秒かかる。したがって,その間,車は時速40 キロなら74.4mと144.4m,時速60キロなら111.6mと223.2mは走る。高齢者の

「車はまだ遠いと思って横断したのにはねられてしまった」ということはこう した事情を認識できていないことを示している。

薄暮または夜間の事故が多いことについて

薄暮または夜間に多い事故の場合も車の右前方から横断する高齢歩行者がは ねられている事故が目立つ。

この背景としては次の点が考えられる。

a.若い頃のように機敏な動作がとれず避けきれない。

b.夜間に目立つ服装をして歩くという習慣ができていない。

c.自動車のヘッドライトの照射範囲についての知識がない。

ライトが下向きの時と上向きの時では照射距離が違うことは多くの人が知っ ているが,さらにライトは対向車のドライバーがまぶしくならないように配光 が工夫されていて,道路の右前方にある対象物は左前方にある対象物よりも近 くにならないと発見できない。このことは一般の人にも比較的知られてれてお

(15)

らず,高齢者の場合は知っている人はいっそう少ない。

交差点で右折車にはねられる事故が多い。

最大の原因はドライバーの注意箇所の偏りであるが,高齢者に特に多い背景 としては次の点が考えられる。

a.身体的機能(体力)が低下しており機敏な行動ができない。

b.感覚機能(視力,聴力)が低下しており,交通状況の把握が十分にできな

い。

c.同時に複数の情報を処理することが困難になり,場面に応じた柔軟な対応 ができない。

これらの背景要因が重なって,高齢者は道路を横断しはじめると,まっしぐ らに横断し,交通状況に応じて歩行速度や進路を変えるなどの急な回避動作を することができず,事故にあってしまう。

無理な横断による事故が多いことについて

これらの背景要因としては次のことが考えられる。

a.感覚機能に障害があったり,精神障害(例えば痴呆症)がある。

b.車の特性(例えば車は急に止まれない)がわかっていない。

c.交通規則がわかっていない。

d.せっかちになり,待つことができない。

これらの背景要因が重なって,高齢者は,まわりの状況を十分に考慮せず,

主観的な安全基準によって行動する。例えば,車が近くまで来ていても横断を 開始したり,信号を無視したり,車の陰にある危険を考慮しないで,歩き出し たりする。

高齢歩行者事故防止に対する提言

以上,高齢歩行者の事故事例を分析し,背景要因を検討してきたが,事故と いっても高齢者には何の責任もないものから,信号を無視しての飛び出しのよ うに完全に高齢者の責任といってよいものまでさまざまである。したがってこ れらの事故を防ぐには,高齢者に働きかけると同時に,ドライバーに対する注

(16)

意の喚起と道路環境の整備が必要である。 以下提言を述べたい。

高齢者に対する交通安全教育一特に道路の横断について

a.自分の歩行速度を点検し,車の速さを勘案して横断の時点を選ぶ訓練を行

う。

これは,グラウンドなどを利用して,高齢者が例えば仮設した6mの道路 を横断し始めて渡り切るまでに車がどのくらいの距離を走るかを示すなどの 方法で訓練するのが有効であろう。

b.幅員の広い中央分離帯のある道路の信号機のない横断歩道を渡る場合は,

中央分離帯のところでもう一度車を確認するように指導する。

      、      _」_−

メD交差点の横断歩道を渡る時は,右折してきた車とすぐ接触しないよっに父 差点から遠い側を渡るように指導する。

d.夜間のドライバーは自動車のヘッドライトの照射範囲の関係で,右側のも のは見えないことを教え,左側から走ってくる車の前を横断する時は,相手 は自分がいることを気づいていないので,止まってくれると思うのは危険で あることをよく教える。

夜間歩く時は反射材がついた服装など目立つ工夫をして歩くよう指導する。

高齢者を扶養する方への呼びかけ

高齢者の交通行動を点検し,危険がみられたら注意するとともに,障害が出 てきている場合は一人で歩かせないように配慮する。

ドライバーに対する注意の喚起について

「老人とこどもは動く赤信号」を肝に銘じさせるために,高齢者にみられる 不安全行動の特徴を教える。

たとえば,高齢者は横断をはじめるとまっしぐらに横断し,途中で止まるこ とはしない,その結果右前方から横断してくる場合は車の直前または車がその ままの速度で走っていればはねてしまうようなところで横断する形になること が多いので,注視箇所を偏らせないこと,高齢者はとっさに体の向きを変える などの危険回避行動がとれないので,「だろう運転」は絶対にしないこと等を 徹底して教えるべきである。

(17)

道路を造る際の配慮について

幅員の広い道路が新設されると必ずといっていいほど,高齢者が事故に遭う ことが多い。高齢者を事故に巻き込んでから施設を充実させるのではなく,こ れまでの経験から事故の発生が予測される道路構造については安全施設を初め から設置するとともに,付近の住民,特に高齢者の安全教育を徹底する。

例えば,標識や夜間照明などによって信号機のない横断道路を目立たせると ともに,新設道路を横切る在来の道路を横断する場合の危険性について高齢者 に十分教える。

自動車の照明について

ヘッドライトを3段切り替えにする。

高速道路ができ,一般道路も整備され,夜間交通量が少ない場合はたいてい の車が速度超過で走る(現行では時速60キロを越えれば違反であるが)ような 道路ができている現状を考えると,自動車のヘッドライトを現在のような2段 階ではなく,もっと遠い距離を照射できるものも加えて3段階にする必要があ ると思う。

この場合,右前方の照射をどのようにすればよいかが課題として残る。

おわりに

高齢歩行者の事故をみると,確かに高齢者の歩行行動に問題がある場合もあ る。信号無視など高齢歩行者の責任の割合が高い第一当事者になっていること も少なくない。しかしながら,歩行者は何といっても交通弱者であり,強者で あるドライバーの側が配慮しないと思いやりのない弱肉強食の価値観が支配す ることになり,ヒューマンな世の中と言うことはできない。

本論では,高齢者にも注意を呼びかけているが,個人差はあるにしても誰で も年をとれば心身の機能は衰え,その結果当人は十分確認し安全と思って道路 を横断したはずなのに,体が思うように進まず事故にあってしまうことが多い。

調査した事例のうち三分の一が30歳未満の若いドライバーとの事故である。高 齢者への配慮があればと思われる事例も多い。

高齢者が安心して歩行できる交通環境をつくるためには,道路や安全施設,

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車などのハード面の改善や安全運転の知識・技能の普及と同時に, 「自分さえ よければ」という利己的な欲望をコントロールし,他者を大事にする精神を酒 養することが一番もとめられているように思う。

註:事故当事者のうち,責任の度合いが高い方を第一当事者(当事者1),低 い方を第二当事者(当事者2)という。責任の度合いが同程度であれば,傷害 が軽い方を第一当事者,重い方を第二当事者という。

参考文献

阿相孫八 1994超高齢者の運転と生活 企業開発センター交通問題研究室 茨城県交通事故調査研究会 1994 平成5年度茨城県交通事故総合調査報告書 茨城県交通事故調査研究会 1995茨城県における青少年・高齢者交通事故分析に関 する報告書

茨城県…警察本部 1995 交通白書 平成6年

菊池哲彦・鈴木由紀生 1972鹿島臨海工業地帯造成開始後の同地域における自動車 交通とその問題点一特に交通事故とその背景に関する一考察一茨城大学地域総合研究所 年報PP.49−103

Klebelsberg,D.1982 Verkehrs−psychologie Berlin Heidelberg.

Springer−Verlarg.

(蓮華一己訳・長山泰久監訳交通心理学企業開発センター交通問題研究室1990)

交通事故総合分析センター交通統計平成6年版1995

参照

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