技術一生産力の国際比較観点に立つ第1次大戦前 のイギリス鉄鋼独占形成の研究について
一D・バーン,高橋哲雄の両氏における長所と短所一
徳 江 和 雄
_ンは各方面に著しい影響を及ぼし,高橋氏はこ
はじめに . れをパンから摂取されているからである.第2
本ノートは・バーンと高橋哲雄iの両氏による第 の課題は,この批判的総体的把握が同時に長期的 1次大戦前のイギリス鉄鋼業とそこにおける独占 巨視的性格をもつ事から生ずる問題点を明かにす 形成の研究を検討する。すなわち,D3urn・The る(第2節)。そして第3に,この方法が独占形 Economic History of Steelmaking・1867−1939 成分析に直接適用された場合,独占形成に関して first ed・1940のCh・1〜Ch・13及び高橋哲雄 _面的,否定的評価が生ずる傾向がある事を明か
『イギリス鉄鋼独占の研究』昭和担年の第1部に にする(第3節)。ここでわれわれは高橋氏の所 対象を限定する。 説を正面から検討しなければならない。というの
先に筆者はこの時期のイギリス鉄鋼業における は,まさに氏はバーンの総体把握の方法を直接独 (1)
独占形成に関して実証研究を進めて来たが,両氏 占形成分析に適用されているからである。それ故 の研究業績は次のように無視しえない意義と問題 高橋氏は専ら批判の矢面に立たされるわけである 点をもつ。すなわち,第1にそれは総体的・批判 が,しかしわれわれがバーンにおいて明かにする 的産業論としての特徴をもち,それ故・彼らの批 総体把握の長所はそのまま高橋氏にも引継がれて 判的総体把握がいかなる方法的根拠に基づくかを いる事,それ故この面の検討を高橋氏に即して行 解明する事はわれわれにとって重要な意味をも わないのは重複を避けるためである事をあらかじ っ。しかし第2に,かかる総体的・批判的鉄鋼業 め断わっておかねばならない。
分析が直ちに鉄鋼業における独占形成分析と同一・
視しえない点に注意すべきである。いいかえれば 1長所一総体的・批判的産業論 鉄鋼業の総体把握と独占分析とは共通する面と同 では,なぜにバーンのイギリス鉄鋼業分析は総 時に区別されるべき側面をもつ。何故,両者は区 体的,全体的であるのか。その分析が原料,技術 別されなければならないのか。また,両者を直接 生産・市場・流通・金融・人的要素という・鉄鋼 に混同することにより,いかなる欠陥が現れるの 業の主要側面全てを網羅しているから,それが総 か。本ノ_トの目的は,これを明かにすることで 体把握であるのは,けだし当然のことであろう。
ある。 だが,総体把握を可能ならしめるキーポイントは とはいえわれわれの第1の課題は,可能なかぎ 逆説的であるが,著者が鉄鋼業の技術的側面に精 りバーンの著作に内在して総体的・批判的鉄鋼業 通している事である。なぜなら,今日の鉄鋼業の 論の内容を明かにし,これを学びとる事である 骨酪は,原料集収,製銑,製鋼・圧延(あるいは
(第1節)。というのは,まさにこの面においてバ 鍛造・鋳造)の4大部門から構成されるが,これ
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ら4大部門の分化,発展,結合の基本的枠組みは (basic stee1)に対する悪評判がひろまり,その発 ● ■ o ● ■ ●
化学的物理的原理に基く生産技術の発展によって 展は閉されてしまった。こうしてバーンの分析は 与えられると考えられるからである。高橋哲雄氏 比較的早い時期における企業者の主体的側面にか がこの時期のイギリス鉄鋼業の総体把握を成功さ かわってくる点に留意しておこう。
せた理由も,かかる技術的観点を基軸とする4大 もう1っの理由は,鉄鋼消費地域と含燐鉱産地
部門の区分とその連関という分析装置を設定され とのギャップの問題にある。シェフィ_ルドは相 o ● ● ●
た事に求められよう。 当離れた所にあり,他方,比較的近距離にある そこでわれわれもバーンの原料分析から検討を Black Country スタフォードシァは,管(tubes)
加える・バーンにとって原料問題の焦点は,原料 薄板(sheets),線材(wires)など塩基性鋼に最も コストの悪化が何故生じたか,という1点にあ 適した市場を形成したにも拘らず,そこにおける る。すなわち,競争国(ドイツ,アメリカ,ベル 消費者の小規模性,伝統的なブランド商品への選 ギー)に比べてイギリスは,70年代には銑鉄原料 好,更に輸出めあての西海岸への企業移転の傾向 コスト=炉前コストが最も低廉であったが,80一 等がこりような立地上の利点を生かしえなかっ 90年代を通してその地位を競争国に奪われてし た。そして当の東ミッドランドでは鉄鋼消費産業 まった。その原因は何処にあるのか,これが問題 は殆んと発達していなかった。他方,最大の国内 点である。 市場を形成した鉄道と造船業については,前者は
その答えは第1に,ヘマタイト鉱石資源の枯渇 すでに衰退しつつあり,後者は塩基性鋼への反駁 からくる採掘コストの上昇と運送体系の著しい立 から何ら助け船になりえなかった。
遅れからくる運送コストの割高に求められる・し こうしてバーンの分析の力点は,原料コスト高 かし第2に,より決定的な原因は,東ミッドラン の第2の原因,含燐鉱石開発の立遅れという問題 ドにおける含燐鉱石資源の開発が著しく立遅れた に置かれている事に注意すべきである。なぜなら 事に求められる。 原料コスト(mineral cost)は銑鉄や粗鋼にとって 第1点をいいかえれば,現に進行しているヘマ 最大の生産コストを意味するからであるが,この タイト鉱石採収についての,いわば現状批判であ ような生産コストの国際比較こそ鉄鋼生産力の国 る。しかしバーンにとってかかる現状の内部分析 際比較の決め手であるからゼ1)
は殆と問題にならない。むしろ競争国との対比の このような原料問題は同時に技術選択の問題で 下では,第2点こそ「イギリス鉄鋼業の運命」を もあった。すなわち,ト_マス塩基性製鋼法は,
決するものとして重視されねばならない。すなわ イギリスで発明されながらイギリスではひろまら ち・含隣鉄鉱石(baslc ore)の開発は何故立遅れ ず,むしろ大陸においてイギリスを凌駕する競争 たのか・ 力の要になった。だが,これに代ってイギリスが
その理由は1つには・含燐鉄鉱石産地と製鋼地 採用した生産技術はいかなるものか。ここでもバ
帯との地理的ギャップである。しかもスコットラ ーンは,アメリカ,ドイツの著しい発展を示しつ
ンド,西海岸・南ウゴールズの3大製鋼地域は, っ,イギリスにおいては生産技術の発展が企業経
合燐鉱石の開発=塩基性製鋼法の発展によって自 営規模の小規模.分散性と深く関連して著しく立
からの地位を喪失する危険があった・他方・クリ 遅れた事を明かにする。
一ヴランドは唯一の塩基性鋼の産地であったが, 先ず第1に製銑過程の立遅れが問題となる。ア そこにおける低い燐分合有率,その反対に硅素や メリカ合衆国は,高炉の巨大化とそれに関連して
硫黄の高い含有率という原鉱石の問題点と,これ 高炉操業の機械化を著しく進めたが,イギリスに を処理すべき技術者の欠如,企業管理者の側にお おいては,第1表に示す通り製銑企業は圧倒的に けるおおざっぱな誤った処理等によって塩基性鋼 小規模であり,このため装填作業における手労働
から機械への転換が著しく立遅れたのである。 世紀にかけての,①大企業の成長,②新設プラン
トの規模,③原料産地における新設,④垂直的統第1表 英・独の製銑企業の分布
合,⑤水平的結合,⑥独占形成,⑦資材の標準化
1凱騙芳ほ1%芳i5鵡13渠藩
の7点である。これらの諸項目における国際比較 全イギリス
i1900年)
1 8125「39 1
50 によって確認される点は,①アメリカやドイツに 東北岸 1 3 6 8 1 比べてイギリスでは大企業の成長や企業結合が著
ド イ ツ 1 1 しく立遅れている事,②いいかえれば小規模,単
(製鋼連合1903年) 10 10 1 3
@] 1「1純蝶の成長が支酉己的である事・③齢蝶も古
1
(出所)Burn, ibid., P.191 Table XXI くからの中規模企業による鉄鋼消費産業との垂直 I統合が一般的である事,の3点である。そして 第2に製鋼技術についても同じ事が指摘され この点こそ構造分析が掘り下げるぺき問題点に他 る。すなわち第2表にみる通り,小規模な製鋼企 ならない。
業が支配的であり・このため圧延過程の機械化, すなわち,丁度原料問題の分析が国際比較に ・ ● ● ● (3)
高速化,連続化は著しく立遅れた・ よって提示された問題をめぐって深められたよう
に,国際比較によって構造分析が果すべき課第2表 イギリス製鋼企業の分布(1900)
題が提示される。何故イギリスでは大企業の 週産出高15◎0〜11001〜11501〜12001〜i3001〜14001〜5001〜1
iトン)1…115・・2…3…,4…5…6… 成長は著しく立遅れたのか,と。
企業数 21 12
1・81・121・l l I I 1 第1の理由は,転炉鋼生産の停滞化にあ 驕B南ウェールズ,西海岸,シェフィールド
一 (出所)Burn, ibid., P.195 Table XXII の3大転炉鋼生産地帯は,鉄道建設の後退や 原料コストの上昇によって立地条件を次第に
第3に両過程の一貫化,統合化は,競争国にお 悪化させたからである。
ける著しい発展とは正反対に,むしろ後退した。 しかし第2に,これに代って登場した平炉鋼生
すなわち・82年,転炉鋼部門では一貫企業12社が 産は,小規模生産,長時間操業,機械化の遅滞と 単純企業16社に対して総生産の%を支配したが, いう技術的特性を有していたから,大規模平炉企 1900年には製鋤貫蝶の総生産1こ占める比重は 業の新規出現は殆とみられなかった.先にバーン 45%以下に低下した。その理由は・小規模単純平 は,技術的立遅れの原因として企業の小規模陸を 炉企業の籏生にあり・1902年には平炉鋼部門で総 指摘した(第1,2表)が,今やその逆に,企業 数72社中わずか21社が際鞭を所有し・生産の の小規灘の原因として平炉生産技術の欠陥を指 25%を占めるにすぎなかった。かかる一貫化の立 摘する。これは,技術がバ_ンにとって重要な構
遅れによって,蒸汽機関から電力やガス内燃機関 造要因であること示すものといえる。
への転換が著しく阻害され・熱効率璽真上は遅々 だが第3に,市場構造や流通組織に関連する固 として進行しなかったのである・等々・ 有の構造的特質こそ生産の小規模・分散性に深く
こうして・原料問題は技術問題と深く関係し, 関係していた。その構造的特徴とは,①耐用年限 後者はまたイギリス鉄鋼業の構造問題に深く関係 を遙かに超過した老朽設備の維持,②生産品目の する事が示される・そこで次にバーンの構造分析 著しい分化と多様化,③特殊部面における高級化
(Ch・II)に眼を移そう。 とそれによる高利潤,④ブランドや「のれん」と バーンの構造分析は・次の7つの構造要因の各 の堅い結びつきをもつ商習慣,⑤消費者との統合 々について競争諸国との国際比較を行うことから による競争の制限,⑥中小生産者を偏好する商人 スタートする。その構造要因とは,90年代から今 の態度,⑦資本輸出による特恵的輸出市場の創設
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などの諸点である。これこそ,生産組織の小規模 税の導入,鉄鋼連盟の成立,更に戦時統制組織へ 分散性,競争の不完全性,発展の漸進性もしくは の移行,そして第2次大戦直後にかけて国有化へ 停滞性にかかわる構造的特質に他ならない。 という具合にイギリス鉄鋼業が未曾有の激動を体
最後に,金融市場やその組織,及びプロモータ 験した時期である。そこでは間違いなくイギリス 一,大商人,主要大企業など大規模化を推進しう 鉄鋼業の立遅れを根本的に反省し,抜本的に再建 る立場の主体の側の問題点が検討され,そしてこ を迫る問題状況があった。それ故バーンが厳格に れらの問題点の背後にある企業精神の欠如や技術 国際比較の方法をつらぬき,イギリス鉄鋼業の総 教育上の欠陥というより広範囲の問題点がつけ加 体的,根本的検討を行ったのは決して偶然ではな えられる。 い。われかれは本書おいて,両大戦間期のイギリ
こうしてわれわれは,原料→技術→構造へと進 ス産業資本の危機意識の結晶を見るのである。
み,今やイギリス鉄鋼業の全体像を手にしたので
ある。それと同時に明かな点は,かかる総体把握 皿 意義と問題点
が著しく批判的なそれである事だ。というのは,
総体把握の各局面におけるライトモチーフは国際 前節ではバーンの研究が技術二生産力面の国際 比較であり,そこでの内容は合衆国やドイツで到 比較方法に基く総体的批判的産業論であり・そし 達した最高水準の成果をもってイギリスの立遅れ てそれは両大戦間期の深刻な危機意識に基くこと を暴露する事であったからである。 をみた。本節ではバーンの国際比較方法がわれわ
そればかりでなく,その批判は著しく主体的, れにもたらす意義と問題点を考察する。
実践的性格をもっていた。というのは,上記の各 先ず指摘されねばならない点は,この方法の有 側面の批判の背後には,イギリス鉄鋼業がこの時 効性に関してである。すなわち,バーンの技術的 期に実現すぺくして実現しえなかった1大プラン 側面に力点をおく国際比較分析は,原料,銑鉄・
が抱かれていたからである。すなわち,含燐鉱石 粗鋼という基礎品目において威力を発揮している 産地である東ミッドランドにおける大規模・一貫 といわねばならない。というのは,国際競争は国 驫B化スチール.センターの設端想であ£ 際比較の現実的礫であるが,これらの基礎品目 確かにこれは,もしも80,90年代においてイギリ は質的にほぼ均一で生産の分化,差別化が十分行 スがこの道を歩んだならば,競争諸国に十分匹敵 われず,しかもイギリスは自由貿易制度をとって しうる競争力を樹立しえたはずである,という過 いるため,この基礎品目においては国際競争を最 去における仮定ではある。しかし,激しい国際競 も敏感に反響する市場構造が形成されたからであ 争の下でイギリス鉄鋼業が生きぬく1つの実践プ る。そればかりではない。これら基礎品目とその ランであったことは間違いない。そして実際に国 生産設備は,鉄鋼生産力の中核部分であるから・
際競争の激化とともに,10年代から両大戦間期に これら基礎品目コストが低廉であるか否かは,レ かけてイギリス鉄鋼業は東ミッドランドを注目し 一ルや鋼板等の圧延品目や各種高加品にとっても 始め,ここに再建の条件を見出そうとするので 極めて重要な意味をもつ・いいかえれば・この部
あ署。 分における発展のいかんが,鉄鋼業全体の実力,
こうしてバーンのイギリス鉄鋼業論は,総体把 国際競争力を決定し・かくしてそれの長期的運命 握であると同時こ主体的,実践的産業論である事 を決定する意味をもつといってよい・それ故,基 が示される。そしてそれは,バーンの生きた時代 礎部門を中心とする国際比較方法は・空間的のみ とその時代に対してバーンが抱いた特殊な問題 ならず時間的にも著しく広範囲に及ぶ射程距雑を 意識に基いていた。その時代というのは,20年代 もつ寧禅的方法であるといいてよいであろう。
の著しい低迷,29年恐慌,30年代に入ると保護関 前節でわれわれは,著者の関心が両大間戦期の
イギリス鉄鋼業の衰退状況に向けられている事を ②少数品種であるが相対的に大量需要を形成す みた。そして,第1次大戦前の時期の分析の目的 る市場。ここにはレール,舶用鋼厚中板・山形鋼
もこの衰退の原因を探る事にあるから,このよう などが入る。
な長期間に有効な方法として基礎部門を中心とす われわれが重視したいのは第2の類型をとる市 る国際比較方法を採用したことはまさに事態適合 場である・なぜなら・ここにおける少数品目の大 的であるといえ鴇) 量需要が基礎部門の大規模化を促進する条件と
次に問題点を検討しよう。それは,バーンの方 なっているからである・もしもそうであるならば 法がこのように長期的巨視的性格をもっという, これらの鋼材市場の発展は圧延過程だけに止まら
まさにその事によってイギリス鉄鋼業のより短期 ず,基礎部門の生産力の拡大を促進することにな ● ●
的,より微視的側面が看過されるという点であ ろう。先に筆者は,鉄道建設の発展とそれによる
● ● o ●
驕B レ_ル需要の増大が「大不況」期,とくに80年代 われわれが注目したいのは,各種圧延品目及び における転炉鋼部門の発展を導き,また世紀転換 雛鋼,鋳造塒の高加工品,つま略種完成鋼 期における造船ブームが平融司部囎、「生産の集 材である。むろん長期的には,銑鉄・粗鋼の生産 積」を著しく促進した事を明かにした。ここでは
コストが低廉iか否かはこれら完成鋼材にとって競 平炉鋼部門に関して微視的に,すなわち市場別及 争上重要な意味をもつ事はすでにのべた。しかし びこれに門連して地域的に再検討を加えよう。第 短期的にみると,国際比較分析の有効性を同様に 3表を参照されたい。
論じることはできない。というのは,これら完成 ここでは次の2点が示される・①全国的にみる 品目の発展を規定するものは,それらの消費市場 と,03年のイギリスで最も支配的,標準的な平炉 の発展いかんであり,そして後者は,競争国鉄鋼 は20−30トン級の巾小平炉であった・②他方,
業の発展だけでなく,より直接的にはイギリス国 地域別にみると,東北岸とスコットランドではこ 民経済の独自の発展に規定されるからである。そ れを上回る大規模平炉が集積したが・南ウェール こでは,競争は国際競争だけでなく,多くの場合 ズ,西海岸,ミッドランド(シエフィールド・スタ 国際競争と国内競争の二重存在が見られ,ときに フォードシア)では中小平炉が支配的であった。
は国内競争だけが支配す部面もある。要するに, ここで,①は全国平均的特徴を示し,②は地域 国際競争の影響は,完成鋼材品のより短期的動向 別発展類型を示す。しかも前者は,後者の発展類 においては間接化され,媒介され,あるいは軽減 型のうちの1っ,南ウェールズやミッドランド型 される。 として現われている。この意味で南ウェールズ,
それ放,完成鋼材のより短期的動向に関しては ミッドランドは平炉規模に関してイギリスを代表 国際比較分析ではなく,各種の鋼材別市場分析が する典型地域である・
重視されねばならない。というのは市場の影響は しかし重要な点は,平炉部門のかかる地域別発 より直接的,一次的であるからである。しかしそ 展類型は,一方で造船業の展開・他方で機械産業・
の影響は圧延過程以降だけに止まり,粗鋼や銑鉄 ブリキ,トタン製造業の発展によって規定されて 等の基礎過程に及ばないのであろうか。これを明 いる事,つまり先の市場発展の2類型に対応して かにするため,第1次大戦前におけるイギリス鋼 いる事である。そして,造船業=東北岸及びス 材市場を次のように極く大雑把に分類しよう。 コットランドの平炉鋼部門という関連こそわれわ
①数量的に小規模であるが金額的に高価な高付 れが着眼する点である・この関連は,イギリス鉄 加価値生産物の市場。ここには兵器用,重要機械 鋼業が国際競争に対抗するために・国際競争の激 用資材,ブリキ,トタン,鋼管などが入る。生産 しい粗鋼においてではなく・造船用プレート゜ア の多様化,高級化と関連する。 ングルという特定品目市場の発展に依拠して大規
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第3表 平炉の規模別・地域別分布 (03−11)
\、ミン数 \_ \
1−10 1i10_20 20_30 1
30−40140−50 50以上 合 計
一一一一
数,% 数,% 1数,% 数,% 数,% 数,% 数, %
1
一一一 一一回一
@ (1903) ! i 1
東 北 岸口2{,1:1 8{11:ll37{ll二1 26修1:lI 38{ll:1
121 23.2
スコ・トランド旨提 6{ 4.3 10.3 67{ll:1 36伝1:1 21 137 26.3
ウ ェ ー ル ズ ・・{,1:1 6111:161{ll:1 29o1劉 国1:1 111 21.3
シエフ・…ド…6{1;:l i
26{ll:劃28艦 15膨 ll{}:1 76 14.6
ランカシゼ9鑓:1 し ER{;:劉・6{41:1 [ 1W{2と1 ・{1:1
38 7.3
スタフォードシア13{1:1 2X{ll:剥・・{ 1:1・{11:11 ・{1:1 37 7.1 全 イ ギ リ ス 47 9.0 、 1 5811・122944・Oi11822・6旨 6813・0 520
(注)ウェールズは南北ウェールズを,シェフィールドはリーズを,ランカシャーはカンバーランドを,スタフォ 一ドシアはその他を含む。炉数は建設中のものを全て含む。これを除けば,1903年20−30トン炉の全イギリ スにおける比重は44.2%である。パーセンテージ計算は,上段が地域別平炉数の規模別ウエイトで,例えば 1903年東北岸の1−10トン級平炉12基のウエイトは,12÷東北岸全平炉数121基=9.9%である。下段は,
規模別平炉の地域別ウエイトで,例えば1903年東北岸1−10トン級平炉数12基のウエイトは,12÷全イギリ スのユー10トン級平炉47基=25.5%である。
(出所)五(λT.R, Feb.12,ユ907
模化を実現したことを示している。だが,かかる うに設定すると一層明瞭になる。すなわち,イギ 特定市場と生産との関連こそバーンが看過する側 リスは専らヘマタイト鉱石を利用したが,それは 面に他ならない。 何故か。あるいは,イギリスにおける製鋼革命は なぜならバーンにおいては,イギリス対アメリ 転炉鋼から平炉鋼へと主導権を転換したが,それ カ,イギリス対ドイツという比較こそ問題である は何故か。またその平炉鋼部門はいかに発展した から・生産設備について高炉や平炉の一基当り平 のか,と。このようにイギリス鉄鋼業の現にある 均生産高とか,銑鋼一貫企業にしても製鋼企業総 がままの発展に即して問題を提出すれば,およそ 数や総鋼生産高に占める比重が重要視されるから 次の点が重要な分析項目になろう。①伝統的な銑 だ・同様に市場分析のねらいも・輸出市場に関し 鉄,錬鉄部門とその構造,②そこに登場した転炉 ては品目別検討が行われたが(第13章),国内市場 鋼部門の構造とその発展,③これを促進した市場 に関してはすでにみたように完成品の多様化とか 動向(鉄道建設など),④転炉部門による錬鉄部 ブランドとの強い結びつきとか,の一般的な構造 門への影響,⑤続いて登場した平炉鋼部門の構造
● ● ● ● ● o
という巨視的観点にたつ限り極めて当然の帰結で 機械,兵器,ブリキ,トタン等)などの諸点であ あるが・微視的観点にたった場合に示された市場 る。ここでは,短期的(5〜6年)もしくは中期 別地域別発展類型の1つを指摘するに止まり, 的(10〜20年)間隔において市場構造とその発展
ある。 いる。
市場にせよ生産にせよ,イギリス鉄鋼業に内在 しかしバーンの問題意識はこのような問題を超 する微視的分析が重要である事は,問題を次のよ えたところにある事はすでにみた通りである。勿
論,イギリス鉄鋼業に内在した分析はないわけで れるのではなく,ドイツやアメリカのそれと比較 はなかったが,その場合のテーマは,原料問題や されるからである。それによって・生産立地の分 構造問題でみた通り国際比較によって,いわば外 散性,生産技術(製銑・製鋼)の小規漠性と単純 から与えられたわけである。 性,企業結合では鋼材消費産業と製鋼企業もしく は2次加工業者との垂直的統合,更に単圧メーカ 一の支配的存在などの諸点が明かにされ,ついで
M 短所一独占形成分析の一面性 これらの諸点を基礎づけるものとして市場分析が
では,以上のような巨視的総体把握の方法が直 行われる。要するに生産分析から市場分析への一 接独占形成分析に適用された場合,いかなる結果 方交通であり,その反対の市場から生産へ向う分 を生み出すのか。本節はこの点を高橋氏の業績に 析が欠如している。なぜなら,氏において,生産 即して吟味する。というのは氏の目的が独占形成 分析は国際比較分析で完結し,従って市場分析は 分析にあることは,氏がレーニンに依拠しつつ・ 専ら「独占のパターン」に関連して行われる事に 生産一市場一金融という3分法を採用されている なるからである。
事からも明白であるからだ。 (バーンにおいては むろん氏のかかる方法が銑鉄や粗鋼などの基礎 この3要因は構造分析に包摂されていた)。 品目に関して直接有効である事は,先にバーンの
われわれもレーニン・テーゼ,「生産の集積に 巨視的方法の有効性に関してのべた点と同一であ 基く独占の形成」に依拠して独占形成の基本方法 る。すなわち,イギリスにおいてはこれら基礎品
● ● ● ●
を確定しよう。すると・第1に「生産の集積」, 目は特に国際競争が鋭く反映する市場構造をもつ 第2に市場における競争制限関係,第3に両者の から,基礎部門における国際比較分析は,これら 相互関係,という3つの課題をもつことになる。 部面における独占の基盤の判定基準となりうるか
(金融の側面は捨象する)。要するに独占形成分析 らである。かくて氏は正当にも,世紀転換期にお には前節でみた短期的もしくは中期的観点からす ける鋼塊,半成品の輸入の急増によって「粗材部 る微視的分析,つまり市場別の「生産の集積」分 面でのカルテルの形成,維持は……いちじるしく 析がそのまま適用されぬばならない。というのは 困難になった」(前掲書,58頁)事を指摘された 独占は最も基本的には,粗鋼,レール,プレート のである。だがそれ以外の,レールや舶用プレー などの個別品目の価格競争制限を目的に形成され ト・アングルにおいてカルテルが形成された事を るからだ。それ故各々の品目別市場分析は独占の 氏は正当に評価されなかった。まさにこれこそわ
はない。独占形成の具体的実証研究にとってかか その理由はすでにのべたように市場分析が専ら る生産=市場の相互関係を追求する意義は強く力 「独占のパターン」に関して行われ,生産過程へ 説されねばならない。なぜなら,この相互関係は の反作用の側面を見落す事にある。それ故氏は国
別の観点からみれば需給関係であり,短期的及び 内市場で最も成長の高い造船・機械工業や兵器産 ● ● ● ●
中期的には循環的変動を展開するが,独占形成の 業に注目されるが,そこではこれらの産業と製鋼 具体的過程は・「生産の集積・集中」をかかる景気 企業との垂直的統合が指摘されるだけである。そ
循環過程の中で実証することによって明かにされ の理由は,「平炉=造船・機械コンビネーション形 (11,
るからである。 態の確立」(70頁)が寡占的協調的市場構造の形成 だが高橋氏においては,生産分析と市場分析と を意味し,かくて「イギリス型鉄鋼独占」を示す の相互関係は一面的であることを指摘しなければ からに他ならない。だがかかる統合はいかにして ならない。というのは,イギリス鉄鋼業の生産過 独占であるのか。
● ●は,工程別及び工程間を通して市場別に検討さ いかにも統合による「市場」の包摂はその限り
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で非競争的関係の成立を意味するが,しかしそれ 最後にバーンの独占形成分析を検討しなければ はあくまでも個別的,部分別であり,当該市場全 ならない。というのは巨視的総体的方法が直接独 体における構造変化や「寡占的協調体制の支配」 占形成分析に適用された場合,そこに生じる結果
(71頁)を意味するとは到底いいえない。むしろ, を例示しているからである。バーンの基本目標は かかる統合関係は,生産物の多様化・ブランド商 あくまでもイギリス鉄鋼業の総体的批判的産業分 品の支配的存在,資本輸出による特恵的市場の創 析にあったが……。
出などと共にイギリス鉄鋼業の構造的特質を形成 例えばバーンは,上記の舶用鋼厚中板カルテル するものであった(第1節ですでにのべた)。いい (Angl(》Scotch Steel Combine)について競争国独 かえれば多かれ少なかれ自由競争時代から引き継 占体と対比され,それが短期,弱体であり,且つ がれてきた側面に他ならない。 個別的で局地的であった点を強調す袈だが事実
以上を直識に言えば,独占の形態を明かにする に即して検討しよう。
前に独占の実体(独占成立の事実とその必然性) 第4表に示される通り,舶用鋼厚中板カルテル を明かにしなければならないが,氏はまさにこの の協定品目である厚中板(ship−Plates)と山形鋼 点において自から道を閉しているのである。とい (angles)は,確かに個別品目ではあるが,その比 うのは・「生産の集積」が独占の基盤として成熟し 重からみて平炉鋼の最も代表的な基軸品目であっ たか否かは,造船資材市場などの特定市場との関 た。それ故,舶用鋼板カルテルは単に部分品目に 連の中においてのみ判断しうるのであるが,氏は かかわる独占であるとはいえ平炉鋼独占を代表し 国際比較分析によってイギリス鉄鋼業の生産過程 うる地位にあったという事ができる。というのは が独占の基盤として未成熟である事を一般的に結 これは平炉鋼生産の発展のイギリス的特徴を表現 論され,それで生産分析を完了されているからで しているからである。
ある。その結果氏は,次のような奇妙な結論に陥 そればかりでなく,第5表にみる通りこの独占 らざるをえない。すなわち,氏の「イギリス型鉄 は両品目についてイギリス総生産の8割以上を占 ナシヨナルモノボリー
│独占」の本体は・生産過程に根をもたない独占 め,実質的に全国的独占であった。バーンが形式 だから・事実上前期的独占と同じことになる。そ 地理学的にこれを島竈笛蟹面こすぎないと断定す れでは,1世紀以上に及ぶ自由競争時代は何の意 るのは,品目別市場分析を看過する点からいって 味ももたないことになろう。 けだし当然のことであろう。最後にこの独占は,
第4表 イギリス平炉鋼品目別生産 (単位=1000トン)
響
1896 1897 1898 1899 1900@ 1 −一一 1901 1902 1903
鋼厚中板・山形鋼 984 1148 1262 i 1265i1183
1210 1 1248
% 44 │5 38 38
棒 鋼 444 1 383 675 622 605 537
ブルーム・ビレット 1 1 404 359 398 490 510 400
レ ー ル 1 31 1 20 84
1
タ商業鰯 P 63 169
(出所)乃鼠,Mar.11,1898;Mar.17,1899;Nov.16,19σり;July 4,1902;Mar.18,1904.
第5表 造船高と鋼厚中板・山形鋼生産
一一 一一
@ 一
・9…@ 9・5 1 19・6 ・9・7
トン1% トン匝巨ン%いン1%
σり造船高
@ 東 北 岸
@ ク ラ イ ド
697,631 S17,870
(50.6)
i30.3)
1 ト
X1臥・82i(50.6)539,85・i(29.8)
Lllこ劃 1
麗 872,622U19,919 i33.9)(47.7)
全 イ ギ リ ス 1,376,130 1,805,968 2,002,57U I 1,828,385
(イ)鋼厚中板と山形鋼 1
東 北 岸
Xコットランド
E ェ ー ル ズ
525,050
V器創
鶴};i;ili
ll撫獣ll:麸 1(4.9)1 94,967 (3.9)
714,842 W18,852 V7,504
(4住3)
i46.2)
i4.3)
全 イ ギ リ ス 1,45・1・司 ,1,・6易1・・
1,734,446 1,769,855
(注)造船高は,商船及び軍艦の総トン数
(出所)(ア)=孟(M」R,Jan・5,1935;Jan・6,1906;S∫α≠ゴs , Jan 26,1907;Jan,18,1908
(イ)=五C処£Mar.17,1905;Feb.16,1906;April 5,1907;April 17,1908
バーンのいう通り比較的短命であった。しかしそ いかにして可能であるか,と。バーン,高橋の両 れは,04−12年といいう景気循環の1周期を通し 氏が教示するものはこれである。
て存続したのであるから・決して1時的,偶然的 認1)舶用鋼厚中板カルテル,国際レ_ルシンジケ_ト,
■
ネものとする事はできない。しかも大戦直前に崩 軍需独占に関する次の3点である。①「世紀転換期 解したといっても,元の自由競争に復帰したわけ のイギリスにおける造船業と平炉鋼生産」e,口,
ではない。スコットランド地域独占が大統合企業 (…⇒『一橋論叢』第67巻第3,6号,第6ご巻第4号。
との対立から分裂したのであり,また分裂後も東 ②「第1次大戦前,イギリス転炉鋼部門の景気循環 北岸地域独占との間に非競争的関係は維持されて 過程における『生産の集積』とr独占の形成』」『土
13)「た。 地制度史学』第59号,昭和48年。③「第1次大戦前 のイギリス軍需産業における独占資本4社の行動」
『茨城大学人文学部紀要(社会科学)』第7号,昭
むすび 和49年2月。
以上の検討を要約すると次のようになる。 (2)バ瞬ンの原料分析(Bum・ibid・Ch・9)が価格
①バーン,高橋の両氏の研究は長期的巨視的観 (Ch・7),労賃(Ch・8)の分析に続くものである事 点からする総体的批判的鉄鋼産業論であり,ここ に注意・
に,その観点の有効性も意義も発揮された。 (3)これに加えて圧延品目の細分化が圧延過程の自動
化連続化を阻害した。Burn, P・197②しかし独占形成の実証研究には,より短期的
(4)BurD, ibid., PP.51,203,222 ナ微視的側面の分析が重要である。つまり鉄鋼分
(5)同様に,市場販売をめざす単純炭坑業の支配的存析には長期的巨視的観点と短期的微視的観点の両 在がコークス製造における副産物回収炉の導入を決
者が認められる。 定的に阻害した。Burn, P・207
③後者が前者に代位しえない事は明白である ㈲①東ミッドランドが大陸水準に並ぶ低原料供給地
が,このような区別の確認は,鉄鋼業の総体把握 たりうるという指摘は,Burn, PP.168.動171.2を の方法に関して新たに問題を投げかける事を意味 ②ここがアメリカ型巨大製銑地域になるぺきという する。すなわち,微視的にして巨視的な・短期的に 指摘は,ibid., PP.190,221,③ここに製鋼センタ して長期的な,内在的にして外在的な総体把握は 一と結びつく連続圧延ミルプラントが導入しうる可
70 茨城大学政経学会雑誌 第33号
能陸と問題点については・ibid・, PP・196−8・240−241 0f British Steel Industry in the Late lglth Cen一
(7)大戦直前においても,①Skinningrove(12年)の tury , Scottist Journal of Political Economy,
設立,②Steel C軌of Scotland及びLysaght sの Vol. VI. No.1
進出(13年),③Stewarts&Lloydsによるノー一ザ (11)学説的にはW.正L Macrosty, The Trust Mo一 ムプトン鉱石の利用(15年)が確認される。ibid, vement in British Industries,1907が統合企業に PR 273・275,336−7−8・ 力点をおく企業別分析を行い, E Levy, Monopoly
(8)高橋氏についても同様の点が指摘される。前掲書 and Competition,1911は品目別市場別分析を行っ 58−9頁。 た。われわれの任務はかかる古典的な研究を統合す
〔9,注1の①・②を参照されたい。 ることにある。
(10)この期に40−50トン級が標準的な平炉であるとい (12)Burn, ibid・, PP。231,278,342−3,
うシンクレアの指摘は確かに過大評価であるが,彼 (13)J.CCarr&W、 Taplin, History of the Bri一 のねらいは巨視的観点からするバーンの平炉分析の tish Steel Industry,1962 P.259.
一面生にあった。W・A・Sinclair, The Growth (9月11日,1974)
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