地方都市における教育意識の構造 茨城県下館市の場合(その1)
小 島秀夫
(1982年10月31日受理)
は じ め に
本稿は,1978年10月以降約半年にわたって実施された「下館市政に関する総合的研究」の一環と して生まれたものである。この総合的研究においては,下館市民の意識構造を解明する目的で「下 館市民意識調査」が実施された。それとならんで,特に下館市の親の教育意識を解明する目的で,
「親の教育意識に関する調査」が実施された。1)その分析の一部は,下館市調査の研究成果である
「都市問題と自治体政策一下館市政の総合的研究一」2)において報告されているが,そこでは紙数 の関係で,調査の全体的な分析結果を述べることはできずに,調査のごく一部が報告されているに 過ぎない。本稿は,下館市における親の教育意識を解明することを目的とするものである。この調 査結果は,これまでに一般の人の目に触れるということはなかったという事情もあり3),本稿では できる限り全体的な分析を行なうことを試みた。
この「親の教育意識に関する調査」は下館市にある下館中と南中の二年生の親を対象として,1979 年6月に調査が実施されたものであり,有効回答数456が得られた。ここで,なぜ教育意識に関す る調査であるにもかかわらず,親のみが対象とされており,生徒を対象としなかったのかという疑 問に対して答えておかなければならないであろう。
総合研究において筆者に課せられた役割は,下館市の教育について分析することであった。した がって,そこでは学校教育のみならず社会教育についても分析することが要求された。そこでは,生 徒を対象としたのでは社会教育についての意識を解明することはできないであろうという判断の下 に,生徒を調査対象とはせずに,生徒の親が調査対象とされたのである。生徒の親であれば,教育 意識のみならず,社会教育に関する意識を調べることも可能であると判断した。また一方において は,この調査に対する研究予算の制約もあって,親のみを調査対象とせざるを得なかったという側 面もある。
下館市の概況と教育
下館市は東京から北に約70キロの所に位置し,北関東のほぼ中央部にある地方都市である。下館 市の人口は約6万人である。下館市は,かつては関東の大阪ともいわれ,中心産業は商業である。
それと同時に,下館市は茨城県内有数の米作地帯でもある。さらに最近では,大企業の工場が進出 七てきている。
下館市たは現在小学校が10茂中学校が4校ある。下館市には茨城県内で有数の進学校として
知られている下館一高がある。そのため,下館市の人々は教育熱心であるといわれている。下館市 の中学校を卒業した者が他の市町村の高校に行くことはあまりなく,その意味では,きわめて自己 完結的な教育システムを有する市であるといえる。下館市の教育は,どのようなレベルにあるのか を明らかにしておこう。下館市の教育は,茨城県内の同規模の市と比較した場合,取手市・石岡市・
古河市とならんで上位に位置している。おそらく,全国レベルでみた場合でも,平均的な市である と考えることができるであろう。非行問題も発生しているが,下館市に特有の非行といったものは みられない。
生徒の実態
本節以下においては,調査の分析を行なうこととする。前述したように,この調査の対象者は親 であるために,生徒の実態を調べる項目は多くはない。しかしながら,これらの項目も下館市の教 育を調べる上で重要な情報を提供するものであるため,以下においては,それらの項目の分析結果 をみてみることとする。
学習塾 ここ数年「乱塾時代」といった新語が作られ,塾の方が学校教育にとってかわるような 傾向が全国でみられるようになってきているが,下館市もその例外ではない。中学二年生の46%が 学習塾にかよっていると答え,54%がいないと回答している。この通塾率を中学校別にみた場合に
はやや差がみられる。下館中ではかよっていると回答したものは調査対象者全体の53%であるのに 対し,南中は34%がそう回答しているのみである。なぜこのように通塾率は下館中において高く,
南中において低いのかは明らかではないが,下館中は市の中央にあり通塾条件に恵まれていること や,後述するように下館中の親の方が,自分のまわりをより「教育熱心である」と認知していること によると思われる。
直接調査の分析とは関係はないが,下館市の小学生の通塾率についても言及しておこう。下館市 でも農村部にある中小学校の通塾率調査をみてみると,生徒全体の58%が塾にかよっていることが 明らかにされている。この通塾率を学年別にみてみると,一年生は30%と低いが,二年生45%,三 年生70%と学年が上昇するにっれて通塾率も急上昇し,四年生で77%とピークになり,その後五年 生68%,六年生では56%と下降している。周知のように,塾も学習塾とピアノや習字などのおけい こ塾の二種類があり,小学校の低学年ではおけいこ塾に,そして高学年になればなるほど学習塾に かようといった傾向がみられる。下館市でも農村部にある中小学校でこうした数字を示しているの であるから,下館市の中心部にある小学校ではもっと高い数字を示すであろうことは容易に予想で きる。筆者が下館市のある小学校を訪問し,聴きとり調査を行なった際に,週末には東京まで塾に かよっている生徒がいるという話を聞かされた。なかには,一週間のほぼ毎日を塾にかよっている 生徒もいるという話も聞かされた。塾に関しては,下館市も例外ではない。こうした通塾率の高さ は,親の教育費の負担となって現われてきている。次に親の教育費負担額についてみてみよう。
教育費 これまでみたように,中学二年生の約半数近くが学習塾にかよっている。では,親は子 ども1人当りに1ケ月平均してどのくらい教育費を使っているのであろうか。実際の調査では,教 育費の額はこれよりも詳しくとられているが,ここではそれらを四段階にまとめてみた。その結果,
子ども1人当りの1ケ月の教育費が5千円末満であるものが全体の25%,5千円から9千円末満が 33%,9千円から1万1千円末満が22%,1万1千円以上が19%,不明が全体の2%であることが
明らかにされた。したがって,子ども1人当りの教育費は1ケ月平均1万円前後のところに集中し ているといえる。ここでは,子ども1人当りの教育費を質問しただけであるから,子どもの数が増 えれば,それとともに教育費も増えるということは容易に予想される。また,子どもの年齢段階に よっても教育費は大きく変ってくる。こうした教育費の分布は,中学校別にみた場合でも変化はみ られない。では,こうした教育費は,家計に対してどの程度負担になっているかを次にみてみよう。
教育費負担子どもの教育費が家計に対してかなり負担になっているということは,今では子ど もを持つ親に共通した認識となっている。このことは下館市の場合にもあてはまる。すなわち,調 査対象者の親の8%が教育費は家計に対して「かなり負担になっている」と回答し,さらに30%の 親が「すこし負担になっている」と回答しているのである。「かなり負担になっている」と「すご
・
オ負担になっている」を合計すると,約40%の親が教育費は負担となっていると感じているのであ る。「どうともいえない」が24%,「別に負担にはなっていない」は37%であった。こうした家計 に対する教育費の負担感については,下館中と南中では差はみられない。
学習時間 下館市の中学二年生は,1日平均してどのくらい家で勉強しているのであろうか。表 1は,家での平均学習時間を示したもので ある。全体的にみると,1時間以上〜2時 表1 家での学習時間
間未満が49%と多く,ついで1時間未満27時 間 下館中 南 中 全 体
1時間末満 23.4 341 274 %・2時間以上〜3時間未満21%となって 1時間〜2時間未満 531 41B 4&9 いる。3時間以上勉強している生徒は2%
2時間〜3時間未満 21.0 21B 21.3 と少ない。この学習時間を中学別にみた場 3時間以上 1・7 1・8 1・7 合には顕著な差が認められる。南中におい 無回答 0・7 0・6 α7 ては家での学習時間が1時間未満であると
計 1°α゜%1°α゜%1°α゜% 回答したものが34%であるのに対し,下館
(N=286)(N=170)(工〜1=456)
中でそう回答したのは23%である。これに 対して,家での学習時間が2時間末満と回 答したのは下館中において53%と多く,南中では42%と少ない。家で2時間以上学習する比率につ いては二つの中学で差がみられない。
家庭での学習時間が学校での学業成績に結びつくことを考えれば,次のようなことを予想するこ とは可能であろう。南中においては成績の上位者と下位者に二分されているのに対し,下館中では 南中ほど成績の分化がみられず,比較的平均的な所に集中している。
これまでみたような子どもの実態を把握した上で,さらに以下においては下館市の親はどのよう な教育意識を有しているのかをみてみよう。
親の教育意識
本節では,下館市に住む親がどのような教育意識を有しているのかを明らかにしてみよう。その 前に,そうした人々は社会全体のなかでどのような領域に関心をもっているのかを明らかにしてお
くことが重要であろう。
関心領域 中学二年生の子どもをもつ親の関心領域はどのようなところにあるであろうか。ここ では8つの関心領域を設定し,それぞれの領域について,「大いに関心がある」「やや関心がある」
「どうともいえない」「あまり関心がない」「まったく関心がない」の五段階で回答してもらった。関 心領域としては,地域社会のこと,国の政治・経洗子どもの成績下館市の政治・経済,子ども の友人関鳳学校の行事茨城県の政治・経添国際政治・経済が設定された。各領域について,
「大いに関心がある」と回答した人の比率をみて,人々がどのような領域に高い関心を示している のかを初めに明らかにしておこう。その結果 「大いに関心がある」の比率が1番高かった領域は
「子どもの友人関係」で全体の45β%の人がそう回答している。ついで「子どもの成績」425%,
「下館市の政治・経済」23.9%,「地域社会のこと」20.4%,「学校の行事」193%,「国の政治・
経済」178%「国際政治・経済」143%,「茨城県の政治・経済」12.1%となっている。
ここで特徴的なことは,「子どもの友人関係」と「子どもの成績」に人々が特に関心をいだいて いる点である。これは,中学生の親であれば当然のことともいえる魁少なくとも下館市の親は,
「子どもの成績さえ良ければ他はかまわない」といった,子どもの成績中心の親ではないというこ とである。さらに注目すべき点は,「茨城県の政治・経済」への関心がきわめて低い点である。こ れは関心領域のなかでも最低となっている。下館市の人々は自分達の身の回りの政治や経済に関心 を示す一方では,国の政治や経済にも関心を示しはする魁中間レベルの茨城県の政治や経済には 関心を示してはいないのである。このことが下館市の人々の社会意識の特徴なのか,茨城県民全体 の社会意識がそうであるのかを示すデータはない帆注目すべき点であると考えられる。
では次に,それぞれの関心領域間の関連についてみてみよう。たとえ1弍 「地域社会のこと」に 関心を示す人々は,「国際政治・経済」に関心を示すかもしれない魁 「学校の行事」には関心を 示さないかもしれない。ここでは領域間の関連をみるために,コンティンジェンシー係数(conti一 ngency coefficient)を求めてみることとする。このコンティンジェンシー係数は変数間に関連がな い場合には0となるが,最大値はクロス表のカテゴリー数によって異なるという欠点をもつ魁こ こではカテゴリー数が同じであるため,比較するのに問題はない。ここでは,コンティンジェンシ 一係数の値が05以上のものに注目してみることとする。「地域社会のこと」と「国の政治・経済」
「茨城県の政治・経済」「国際政治・経済」は強い関連を示している。「国の政治・経済」と「下館
表2 関心領域の関連(コンティンジェンシー係数) 表3 関心領域の因子分析
(バリマックス回転後の因子負荷量)
(11 {2} (3) (4} {5} (6〕 (7) (8)
(1}地域社会のこと .558.323.336.298.476β12.541 第1因子 第2因子 地域社会のこと 鎚 .263
{2}国の政治。経済 306.537.139325.592.720 国の政治・経済
麺 刀03
{3}子どもの成績 .352.596.486.349.301 子どもの成績 .166 遡
下館市の政治・経済{4}下館市の政治・経済 .313.390.755.550 鎚 .249
子どもの友人関係 。025 翅
㈲ 子どもの友人関係 .554.377235 学校の行事
」86 魍
(6}学校の行事 .482.400 茨城県の政治・経済 鎚 .265
国際政治。経済(71茨城県の政治・経済 .704
.854 .015
固 有 値 3612 1365 18}国際政治・経済 寄与率(%) 452 17.1
市の政治・経済」「茨城県の政治・経済」「国際政治・経済」の間にも強い関連がみられる。 「子ども の成績」と強い関連がみられるのは「子どもの友人関係」のみである。「下館市の政治・経済」と
「茨城県の政治・経済」「国際政治・経済」が強い関連を示している。「子どもの友人関係」と「学 校の行事」との間に強い関連がみられる。「茨城県の政治。経済」と「国際政治・経済」の間にも強 い相関がみられる。
コンティンジェンシー係数を使用した以上の分析結果からも容易に予想されるように,人々の関 心は市・県・国などの政治・経済に関するものと,子どもの成績や友人関係といった子どもに関連 のあるものとに大別される。このことを明らかにするために,因子分析の結果についてみてみよう。
表3は,それぞれの関心領域を因子分析にかけ,第2因子まで求めた結果を示したものである。
第1因子は明らかに,政治・経済的関心領域を示すものであり,第2因子は子ども・学校について の関心を示すものである。
教育熱心さ認知 下館市の親は,自分の周囲にいる人をどの程度教育熱心であると考えているで あろうか。まず全体的にみると,自分の周囲の人々を,非常に教育熱心であると考えている人は全 体の175%,どちらかというと熱心だ575%,どうともいえない1.1%,まったく熱心でない・無 回答04%となっており,大多数の人々が自分の周囲の人々を,教育熱心であると認知しているこ とが明らかにされる。
この教育熱心さ認知を中学校別にみてみると興味のある結果が明らかにされる。すなわち,南中 においては,非常に熱心であると回答したものが124%であるのに対し,下館中では206%の親が そう回答しており,下館中の親の方がより自分の周囲の人々を,より教育熱心であると認知してい るのである。なお,この教育熱心さ認知については,父親と母親では差がみられなかった。つまり,
母親であるからより自分の周囲の人々が教育熱心であると認知しやすいとか,父親であるからそう 認知しない傾向にある,ということはみられない。
では,他の人々に対する認知ではなく,自分自身についての教育熱心さをどのように認知してい るであろうか。このことを明らかにするために,自分自身は教育熱心だと思うかどうかを質問して
みた。
その結果,全体の79%の人が非常に教育熱心だと回答し,45B%の人がどちらかというと熱 心だと回答していることが明らかにされた。どちらともいえない379%,どちらかというと熱心で ない75%,まったく熱心でない・無回答09%となっている。この回答結果からも明らかなよう に,自分の周囲の人々は教育熱心であるが,自分はそれほどであるとは考えていないということが 明らかにされる。そこで,周囲の人々の教育熱心さに対する認知と自分自身の教育熱心さに対する 認知のクロス表をとり,周囲の人々に対する認知と自分自身の教育熱心さを比較して,両者が一致 している場合,周囲の人々と比較して自分はより教育熱心であると認知している場合,周囲の人々 と比較して自分はより教育熱心ではないと認知している場合の比率を求めてみることとした。その 結果,全体の527%が周囲の人々に対する認知と自分自身の教育熱心さに対する認知が一致し,382
%が自分自身の教育熱心さを周囲の人々の教育熱心さよりも低いと評価し,反対に残りの9%が自 分自身は周囲の人々より,より教育熱心であると評価していることが明らかにされた。
周囲の人々は教育熱心であると判断する一方では,自分はそれほど教育熱心ではないと判断する という事実は,現代日本の教育問題を考える上で重要なインプリケーションを提供する。それは,
人々は競争状態にあっては自分はそれほど教育熱心だとは思わなくても,周囲の人々を教育熱心で あると認知することによって,自分も教育熱心にならざるをえない。しかしながら,そこではつね に自分は教育熱心ではないと認知され,周囲の人々は教育熱心であるといった社会心理的状態が続
くこととなる。したがって,教育の過熱状態はとどまる所を知らない状態となる。
この自分自身の教育熱心さを中学校別にみた場合には,両者で大きな差はみられず,どちらかと いうと熱心だ,の比率が南中では412%であるのに対し,下館中では48β%とやや高くなっている 点が目につく程度である。自分の教育熱心さを父親と母親別にみた場合,そこに注目すべき差がみ
られる。すなわち,父親の11.3%が非常に熱心であると回答しているのに対し,母親では65%の みがそのように回答しているにすぎない。この結果をみる限りでは,よく一般に言われている「教 育ママ」の存在は認められず,むしろ教育熱心な父親の姿が認められる。
次に,父親の学歴別にみた場合の教育熱心さについてみてみよう。父親の学歴を中学校卒,高校 卒,大学卒に分類し,自分は非常に教育熱心であると回答した者の比率を調べてみた。その結果,
父親の学歴が中学校卒である場合に,非常に熱心であると回答したのは5.1%であるものが,父親 の学歴が高校卒では8ρ%,大学卒では188%と,父親の学歴が上昇するにつれて,自分自身も教 育熱心であるとする人の割合はコンスタントに上昇していることが明らかにされる。よく言われて いるように,父親自身が高い教育を受けていないため出世ができず,そのため子どもに対して教育 熱心になるという傾向は下館市では認められないようである。父親の学歴と母親の学歴は,通常高 い相関を示すから,より高い学歴を有する家庭ほど教育熱心といえる。
次に,教育熱心さとも関連のある質問であるが,人々は下館市の教育環境をどのように認知して いるのかについてみてみることとする。下館市の教育環境を,「非常によいと思う」から「非常に 悪いと思う」までの五段階から1つを選択してもらった。その結果,全体の55%が下館市の教育 環境を非常によいと判断し,31B%の人がややよい,487%の人がどちらともいえない,11.4%が やや悪いと思う,24%が非常に悪いと思う,02%が無回答であることが明らかにされた。ここ で約半数の人がどちらともいえないと回答しているのは,「教育環境」という用語がやや曖昧であ
ることによるものと思われるが,全体的には下館市の教育環境を肯定的に評価している点は注目さ れてよい。この教育環境認知を中学校別にみても,親の性別によってみても差はみられなかった。
しかしながら,下館市の教育環境を父親の学歴別にみた場合には,学歴によってやや差がみられる。
下館市の教育環境をネガティブに認知する傾向は,父親の学歴が高くなればなるほど増加するとい う傾向が認められる。下館市の教育環境を「やや悪いと思う」と「非常に悪いと思う」を加えた比 率を,父親の学歴別にみると,父親の学歴が中学卒では7β%がそのように評価しているにすぎな いものが,高校卒では168%,大学卒では297%が下館市の教育環境をネガティブに評価している のは注目に値する点である。なぜ高学歴者層にネガティブな評価をする人が増加するのかは明らか ではないが,おそらく高学歴者ほど地域間移動をしており,より異なる教育環境に置かれた体験が 多いことによるものと考えられる。政策的には,こうした高学歴層が下館市の教育環境のどのよう な側面に対してネガティブな評価をしているのかを知ることは重要なことであるが,それに関連の ある項目は含まれておらず,その点については明らかにできない。
次により限定的に,下館市に住んでいることは,より高い教育を受けるために有利か不利かを質 問してみた。その結果,「非常に有利」と回答したのは全体の29%,「やや有利である」138%,
「どちらともいえない」489%,「やや不利である」25ρ%,「非常に不利である」88%,無回 答07%であることが明らかにされた。これを中学校別にみた場合,「やや不利である」とする者 が南中で194%であるものが,下館中では28.3%と多い点を除いては,それほど大きな差はみられ ない。これを父親・母親別にみても差はみられなかった。
下館市に住むことがより高い教育を受けるのに有利か不利かを父親の学歴別についてみると,こ こでも興味のある結果が明らかとなる。すなわち,父親の学歴が中学卒である人の242%が不利で あると評価しているのに対し,高校卒では377%,大学卒では54ρ%と父の学歴が上昇すればする ほど,下館市に住んでいることは,より高い教育を受けるために不利であると評価しているのであ る。なぜ,学歴が高くなればなるほど不利であると判断するのであろうか。その理由は明らかでは ない魁おそらく,学歴が高くなればなるほど高い教育を受けるための条件認知が拡大するためで はないかと考えられる。
子どもへの期待 ここでは,親が子どもに対してどのようなことを期待しているのかについてみ てみよう。ここでは「学校での成績がよいこと」や「有名になること」など12項目を設定し,それ それの項目について,「大いに期待している」から「まったく期待していない」の五段階を設定し そのなかから1つを選択してもらった。
表4 子どもへの期待 表5 子どもへの期待の因子分析
(バリマックス回転後の因子負荷量)
項 目 平 均 分 散
11}学校での成績がよいこと 2,02 088 項 目 第1因子 第2因子 第3因子
ω学校での成績がよいこと〔2}有名になること 348 095 翅 267 .085
②有名になること 遡 一.040 .008
㈲ 高い学歴を身につけること 271 1D8 13}高い学歴を身にっけること
ニヱ旦ユ .136 .061
(4}技術を身につけること 170 0β8 {41技術を身につけること 一』28 318 塵
{5}専門的な職業につくこと 1B8 0B5 ⑤ 専門的な職業につくこと つ91 .113 趣…
㈹ 高収入を得ること㈲ 高収入を得ること 247 106 巫i −・009 ・亟…
{7)社会に貢献すること 翅 .268 幽
(7}社会に貢献すること 2.07 0B3 〔8〕健康であること
.007 遡 .081
{8〕健康であること nO α13 {9}礼儀正しいこと .143 遡 」61
19}礼儀正しいこと 130 034 ⑯権力をもつこと 」越ミ ー.084 −.033
ω 平凡な生活をすること⑩ 権力をもっこと 3ユ9 127 一.038 .373 .093
働 友人に好かれること .147 .746 .130
q1}平凡な生活をすること aoO O83 国 有 値
3526 1959 1D67
腰 友人に好かれること 128 029 寄 与 率醐 294 163 89表4は, 「大いに期待している」に1点, 「やや期待 図1
因子分析結果(第1軸×第2軸)
している」に2点,「どうともいえない」に3点,「あ 2軸
10 ワり期待していない」に4鳥 「まったく期待していな
い」に5点を与え,それぞれの項目について平均と分散 ・竃12 を求めてみた結果を示したものである。したがって,表
05 Sの平均値がより小さけれ1弍親によってより重要視さ
れているということを示丸また,分散が大きい場合に 1;
●7 ●1
は,人々がその項目に対して異なる反応をしているとい
●3
うことを示す。 ●5
0 05 6 .2 1P
こうしたことを手がかりにして,表4に示されている ●10 結果からどのような所見を得ることができるであろうカ㌔
まず第1に明らかにされるのは,健康であること,友人に好かれること,礼儀正しいこと,といっ
た個人の身体およびパーソナリティに関することを親は重視していることである。第2には,有名 になることや権力をもつといった,対社会的なことは重要視されていないということである。それ らの中間に位置しているのが,高い学歴を身につけることや高収入を得ることである。これらの項 目の分散は他の項目の分散と比較して大きく,これらの項目に対する個人の反応も多様であるとい うことが明らかにされる。なお,これらの項目についての重要性の認識は,中学校による差はみら れなかった。
これらの項目を因子分析にかけ,どのような類型がみられるかを調べてみよう。表5は因子分析 の結果を示したものであるが,第1因子は学歴および社会的地位を示す因子であると判断できるで あろう。第2因子は,健康およびパーソナリティを示すものであり,第3因子は職業を示す因子で あると判断できる。こうして抽出された第1因子と第2因子によって,それぞれの項目の因子負荷 量をプロットしたのが図1である。この図より,親が子どもに期待するものとしては,大別して三 類型がみられるということが明らかにされる。すなわち,有名になること,高収入,高学歴といっ た期待のクラスターと,身体およびパーソナリティのクラスター,技術を身につけることと平凡な 生活をすること,といったクラスターである。
注
1)本調査に御協力いただいた,下館市の下館中学および南中に感謝したい。
2)全体的な分析については,『都市問題と自治体政策一下館市政の総合的研究一』自治体研究社 1980年を 参照されたい。
3)この調査をベースにして,学会での口頭発表はなされている。「教育アスピレーション形成における階層 差の研究」第52回日本社会学会大会,昭和54年10月および「教育アスピレーションの規定要因の研究」第31 回日本教育社会学会大会 昭和54年9月において発表されている。