核エネルギーに反対する
著者 豊田 利幸
雑誌名 PRIME = プライム
号 30
ページ 13‑14
発行年 2009‑10
URL http://hdl.handle.net/10723/995
昨 年 [2006 年 ] 10 月 、 原 子 力 科 学 者 会 報 (Bulletin of the Atomic Scientists) の理事会よ り、 シカゴで開催される核エネルギーの未来に 関する会議での講演に招待いただきました。 旅 費のすべてを主催者負担でという申し出に少々 驚きました。 原子力科学者会報が資金豊富であ るとはとても思えなかったからです。 いずれに せよ、 健康上の理由により、 私は参加できませ んでした。 その代わり、 下記の論文を寄稿しま した。
いただいた招待状から、 この会議のテーマが今 後20年間の核エネルギーの未来についてであると 理解しています。 私が申し上げたいのは、 もし私 たちが今後20年の間に世界規模で核エネルギー産 業の復活を許してしまえば、 人類に対して二千年 間に及ぶ大災厄をもたらす可能性があるというこ とです。 もし健康が許せば、 そして私の旧友であ るバーナード・T・フェルド氏と、 デイビッド・
R・イングリス氏が存命であったなら、 私は彼ら
と共に会議に出席し、 核産業の利益のために気候 変動を利用する悪だくみを隠そうとしている者ど もを懲らしめるところなのですが。原子力発電がはじめに導入されたとき、 政府高 官やエリート機関のいわゆる専門家たちは、 安全 性と経済的効果を保障したものでした。 今、 私た ちは彼らが嘘をついたか、 そうでなければ全く無 知であったことを知っています。
私たちは、 スリーマイル島やチェルノブイリ、
その他の場所で核による惨事を目撃しました。 こ れらの核による惨事に共通していることは、 政府 当局や核産業が、 危険の規模を知るために必要な 基本的情報や、 災害の真の理由を隠そうとするこ となのです。
核推進派の専門家たちによる所見は常に核災害 によって起こりうる危険を過小評価するものであ り、 彼らは人びとを欺くことをためらいません。
私はこうした専門家の一人 (名声ある大学の教授 だったと思います) が、 核による事故が起きる確 率はジャンボ・ジェットの事故の確率よりも小さ いのだから、 心配するのは馬鹿げていると述べる のを聞いたことがあります。 私は、 彼が故意に期 待値について論じなかったと信じています。 確率 論を勉強したことのある大学生ならだれでも、 こ こで問題となる数値は期待値であり、 確率ではな いということを知っています。 しかし、 一般の人々 にとっては、 そうではないかもしれません。 私は、
この事例が核推進派の専門家たちの典型的な態度 だと思います。
日本で少し前に、 核推進派の公的機関が子ども 向けのプロモーション・ビデオを何百本も配布し たことがあります。 そのビデオでは、 プルトニウ ムは安全で、 飲んでも大丈夫とされていたのです。
その話を聞いた時、 わたしはプルトニウムの危険 を確実に知っているであろう人間が、 そのような 邪悪なプロパガンダのビデオを制作することがで
― 13 ― 豊田利幸先生追悼特集
核エネルギーに反対する
豊 田 利 幸 (PRIME元所長)
核エネルギーに反対する
きるとは信じられませんでした。 こうした、 人々 を欺くためのプロパガンダが世界中にばらまかれ ているのではないかと懸念しています。
彼らは不誠実であり、 将来の人類の幸福につい て恥知らずにも無関心であるにも関わらず、 国家 機密の保護下で守られています。 核技術は核兵器 と本質的に結びついているからです。 一回の核反 応で放出されるエネルギーは、 典型的な化学反応 で放出されるエネルギーが数電子ボルトなのに対 し、 百万電子ボルトにも達します(1)。 この膨大 な量のエネルギーにより、 核反応は特に破壊目的 に適しており、 平和利用には適さないのです。
この破壊的なエネルギーは、 核廃棄物から数百 年にわたって排出されます。 核廃棄物の危険はグ リーンピースの最近のブリーフィング資料にあり ありと記されています(2)。 今後も原子力発電所 の建設を許せば、 世界中がこの問題に直面するこ とになります。 何千年も先の世代に危険な高レベ ルの放射性核廃棄物をおしつける権利は、 私たち にはありません。 それは、 人類の将来に対する、 そ してこの地球に対しての、 究極の罪となるでしょう。
核エネルギーを排除するなら、 どんな選択肢が あるのかと疑問に思うかもしれません。 その答え
は、 1978年にイングリスが書いた本 (Wind Power
and Other Energy Options)
(3)にあります。 私に は、 政府や産業界が意図的にこうした代替エネル ギー開発を妨げてきたのは明らかなように見えま す。 彼らの罪は許されるべきではありません。註
(1)
David Rittenhouse Inglis, Nuclear Energy:
Its Physics and Its Social Challenge, Addison-Wesley, Reading,
1973.(2)
The Nuclear Waste Crisis in France, Greenpeace Briefing Document, May
30, 2006.(3)
David Rittenhouse Inglis, Wind Power and Other Energy Options, The University of Michigan Press, Ann Arbor,
1978.[訳 木村真希子]
本稿は、
The Bulletin of the Atomic Scientists
( 原子力科学者会報 ) のウェブサイトに掲載さ れたコラム“No to Nuclear Energy”
をご遺族の 許可を得て、 翻訳したものです。 [編集部]― 14 ―