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(1)

租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特 別控除》における「居住の用に供している家屋」の 意義について

著者 小島 俊朗

雑誌名 明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji

Gakuin University Graduate Law School law review

号 16

ページ 79‑83

発行年 2012‑03‑31

その他のタイトル Meaning of the Phrase  a House Having Been Used for Living  under Article 35(Special Deduction in Calculation of Capital Gain on Property for Living) of the Act on Special Taxation Measures

URL http://hdl.handle.net/10723/1090

(2)

はじめに

租税特別措置法(以下「措置法」という。)第 35条第1項(以下「本件特例」という。)は,「個 人が,その居住の用に供している家屋で政令の定 めるものの譲渡(略)若しくは当該家屋とともに するその敷地の用に供されている土地若しくは当 該土地の上に存する権利の譲渡(略)をした場合」

には,それらの土地・建物等の譲渡による所得に つき,長期譲渡所得については,その金額から3 千万円までの控除を認めている。

本件特例の適用を争う事件は少なくないが,そ れらの多くは譲渡した家屋が本件特例の適用の対 象となるように居住の外形を整えた(したがって,

生活の本拠ではない)ものであるか,当該家屋へ の居住が一時的なものであるかなど,居住性を争 うものである。しかし,本稿で考察する事件(平 成22年6月24日国税不服審判所裁決,裁決事例集 No.79掲載)では,審査請求人(納税者:以下

「請求人」という。)が請求人の母から土地・建物 の贈与を受ける前にその建物に10年以上居住して おり,他に生活の本拠となる場所を有していなか ったため,当該建物に請求人の生活の本拠があり,

また,当該建物への入居目的は一時的でないこと は明らかである。そこで,改めて措置法第35条第 1項に規定する「居住の用に供している家屋」の 意義が問われることとなったものである。そして,

一見するところ,居住用財産の所有期間の長短が 問題となっている点に本件の特徴がある。

1 事件の概要

本件は,請求人が譲渡した土地建物(以下「本 件A土地建物」という。)の譲渡所得について,

原処分庁が,当該建物(以下「本件A建物」とい う。)は租税特別措置法(以下「措置法」という。) 第35条第1項に規定する個人がその居住の用に供 している家屋に該当せず,居住用財産の譲渡所得 の特別控除の適用はないとして,所得税の更正処 分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったの に対し,請求人が,これらの処分は違法であると してその全部の取消しを求めた事件である。

(経緯)

①請求人は,平成18年7月1日,本件A土地建 物を母Dから贈与により取得し(以下,この 贈与を「本件贈与」という。),同月18日,贈 与を原因として所有権移転登記を経由した。

②請求人及びDは,Fとの間で,平成18年7月 1 9 日 , 本 件 A 土 地 建 物 及 び B 土 地 建 物 を 65,000,000円で売買する旨の契約(以下「本 件売買契約」という。)を締結し,同日付で 不動産売買契約書を作成した。

なお,請求人及びDは,同日,Fから手付金 10,000,000円を受領し,各5,000,000円を取得 した。

③請求人は,平成19年3月12日,本件贈与に係 る贈与税について,相続税法第21条の9第1 項の規定に基づき,相続時精算課税制度(1)

を適用して平成18年分の贈与税の申告書を原

『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第16号 2012年 79−83頁

租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》

における「居住の用に供している家屋」の意義について

小 島 俊 朗

(名古屋国税不服審判所長)

(3)

処分庁に提出した。

④請求人は,本件A土地建物について,本件贈 与に伴う各変更登記等を経由した後,平成19 年4月19日,Fとの間で,本件A土地建物を 30,000,000円で売買する旨の不動産売買契約 書を作成するとともに,同人から,残額を受 け取り,本件A土地建物の引渡しを行った。

また,Dは,同日,Fとの間で,B土地建物 を35,000,000円で売買する旨の不動産売買契 約書を作成するとともに,同人から残額を受 け取り,B土地建物の引渡しを行った。

なお,再度,不動産売買契約書を作成した理 由は,上記②の平成18年7月19日付の不動産 売買契約書には,本件A土地建物及びB土地 建物の各売買価額が記載されていなかったこ と,不動産表示が分筆後の表示となっていな かったことなどから,これらを明確にするた めであったとしている。

⑤請求人は,平成20年3月10日,本件A土地建 物の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算におい て,措置法第35条第1項の規定を適用する旨 記載した平成19年分の所得税の確定申告書を 原処分庁に提出した。

2 裁決の要旨

請求人は,10年以上にわたって本件A建物を生

活の拠点としており,平成18年7月19日に本件売 買契約を締結して以降同年12月末までの期間,本 件A建物に居住の意思を持って居住していたもの であるところ,措置法第35条第1項には,所有期 間及び居住期間についての定めはないから,本件 A建物の所有者になってからの居住期間が短いと しても,本件A建物は同項に規定する個人が居住 の用に供している家屋に該当する旨主張する。

しかしながら,措置法第35条第1項に規定する 個人がその居住の用に供している家屋に該当する ためには,当該家屋を所有者として居住する意思 を持って居住の用に供していたことを要するもの と解されるから,本件贈与により請求人が本件A 建物の所有者となる前の居住期間は,同項の適用 を判断するに当たり考慮すべき事実とはならず,

また,請求人が,平成18年6月26日までに買主か ら諸条件の提示を受けて購入申込みを受諾してい ることからすれば,同日以降は,本件A土地建物 は買主に譲渡されることが予定されていたものと いえるから,請求人が本件A建物の所有者となっ た同年7月1日以降において,請求人は,本件建 物を所有者として居住する意思を持って居住の用 に供していたものとは認められない。なお,措置 法第35条第1項に所有期間及び居住期間について の定めはないから,これを考慮する必要はないと の趣旨の請求人の主張については,同項に該当す るか否かを判断するに当たり,当該家屋を所有者

(4)

としてある程度の期間継続して生活の拠点として いたか否かは重要な判断要素というべきであるか ら,これを考慮しないとする請求人の主張は理由 がない。

以上のとおり,請求人が本件A建物に居住して いた全期間について,本件A建物を措置法第35条 第1項に規定する個人が居住の用に供している家 屋であると認めることはできないから,この点に 関する請求には理由はない。

3 検 討

本件は,母親が所有する居住用財産に長年居住 していた請求人が,相続時精算課税制度を適用し て母親から贈与を受けた直後に,当該居住用財産 を譲渡し,本件特例の適用を受けようとしたもの である。

本件特例に係る措置法通達35-5により準用され る同31の3-2《居住用家屋の範囲》によると,

家屋の譲渡者にとってその家屋が「居住の用に供 している家屋」に該当するかどうかは,その者が 生活の拠点として利用している家屋(一時的な利 用を目的とする家屋を除く。)であるかどうかに より判定され,その判定に当たっては,その者及 び配偶者等の日常生活の状況,その家屋への入居 目的,その家屋の構造及び設備の状況その他の事 情を総合勘案することになる。

そして,次に掲げるような家屋はこれには該当 しないとされる(2)

イ 本件特例の適用を受けるためのみの目的で 入居したと認められる家屋,その居住の用に 供するための家屋の新築期間中だけの仮住ま いである家屋その他一時的な目的で入居した と認められる家屋(ただし,居住期間が短期 間であっても,入居目的が一時的でない場合 は除かれる。)

ロ 主として趣味,娯楽又は,保養の用に供す る目的で所有する家屋

また,本件特例の趣旨及び適用要件について,

例えば千葉地裁昭和62年10月16日判決(3)は次の ように判示しているが,本件特例の「居住の用に

供している家屋」に該当するかどうかは,判決に おいても概ね上記の判定を採用している(4)

「措置法35条1項は,居住用財産を譲渡した 場合の譲渡所得の金額の計算にあたり,一定額 の特別控除を認めるものであるが,これは居住 用財産を譲渡した場合には譲渡者は再び居住用 代替資産を取得する蓋然性が高いこと,通常の 家屋であれば特別控除額の範囲内で取得できる であろうとの配慮から,居住用資産の譲渡者が 所得税の負担なくして普通程度の居住用代替資 産を取得することを可能にする趣旨に出たもの である。また,措置法35条1項が特別控除につ いて連年の適用を認めず,三年間に一度の適用 を認めたにとどまることに鑑みると,同条の適 用をうけるためには真に居住の意思をもって客 観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生 活の拠点としていたことを要すると解すべきで あり,居住期間が短く,臨時的仮住いとしての 居住と認められる場合には,同条の適用をうけ ないと解すべきである。そして右判定にあたっ ては,住居移転の経緯,居住の期間及び居住の 態様について総合考慮してこれを決すべきであ る。」(下線は筆者によるもの。以下,下線部分 を「居住要件」という。)

本件と同様に居住期間の長短が問題となった裁 判事例として,横浜地裁平成8年3月25日判決(5)

(以下「横浜地裁判決」という。)がある。この事 例は,原告ら夫婦が,賃借して居住していた建物 及びその敷地を賃貸人から譲り受け,それらを直 ちに転売して1億1,140万円の差益を得たという ものであり,本件特例の適用があるとして確定申 告したところ,被告税務署長がこれを認めず更正 処分等を行ったことから,その取消しを求めたも のである。原告らは,昭和52年1月1日から昭和 62年2月23日まで賃借建物に居住し生活の本拠と してきたものであるから,たとえ所有がわずか3 日間であるといえども,「居住の用に供している 家屋」の譲渡であるというべきである旨主張した が,横浜地方裁判所は,「措置法35条1項の居住 用財産の譲渡所得に対する特別控除の制度は,居 住用財産を譲渡する場合には,新たな居住用資産

(5)

を購入することが通常であることから,旧資産の 譲渡所得への課税免除により新資産の購入に際 し,旧資産と同程度,同規模のものを購入できる ように保証するという趣旨で設けられたものとい うことができる。したがって,右趣旨及び同条が 連年の適用を制限していることを考え併せれば,

同条1項にいう『個人がその居住の用に供してい る家屋』に該当するためには,当該家屋を,真に 居住の意思をもって,ある程度の期間継続して生 活の本拠とするとともに,相当の期間その家屋の 所有者であったことが必要というべきである。」

とした上で,「原告らが本件建物の所有者として 居住していたのはわずかに3日であるばかりか,

原告○○の当初の計画では所有権を取得すると同 時に転売する予定であり,所有者であった3日間 についても,原告らの引っ越しの都合から居住し たにすぎないものと認められるから,本件土地建 物の譲渡が,措置法35条1項にいう居住用財産の 譲渡に当たるとは到底いえない。」と判示してい る。この判決は,居住要件に加えて,「相当の期 間その家屋の所有者であったことが必要」(以下

「所有要件」という。)であるとし,新たに要件を 付加しているようにも思われる。

一方,本件裁決は,「措置法第35条の規定は,

…また,措置法第35条第1項が特別控除について 連年の適用を認めず,3年間に一度の適用を認め たにとどまることにかんがみると,同項の適用を 受けるためには,自ら所有する家屋について,真 に所有者として居住する意思を持って,客観的に もある程度の期間継続して生活の拠点としていた ことを要すると解すべきであり」とし,また,

「その判定に当たっては,住居移転の経緯,居住 の期間及び居住の態様等について総合考慮してこ れを決すべきである。」として,本件A土地建物 の贈与及びB土地建物を含む売買に至る状況につ いて,詳細な認定事実を積み重ねた上で,「平成 18年6月26日までに,Dが,請求人と協議の上,

Fの購入申込みを受諾する旨回答していることか らすれば,請求人及びDとFとの間では,同日の 時点では,譲渡物件,譲渡価額及び手付金の額も 決定しており,同日以降は,売買契約の締結に向

けた細部の取決めをするだけの状況になったもの と認められるから,本件土地建物はFに譲渡され ることが予定されていたものといえる。そして,

請求人は,そのことを承知した上で本件A土地建 物の贈与を受けたものと認められるから,請求人 がDから本件A土地建物の贈与を受けて所有者と なった平成18年7月1日以降において,請求人は,

本件A建物を,所有者として居住する意思を持っ て居住の用に供していたものとは認められない。

したがって,本件A建物は,措置法第35条第1項 に規定する個人がその居住の用に供している家屋 に該当しない。」と判断している。本件裁決は,

横浜地裁判決の付加した所有要件によることな く,「本件贈与により請求人が本件A建物の所有 者となる前の居住期間は,同項の適用を判断する に当たり考慮すべき事実とはならない。」として,

所有者となる前の居住期間を居住要件の判定期間 から除外し,従来の居住要件に当てはめて,本件 A建物は居住の用に供していたものとは認められ ないと判断したものである。

本件特例は,譲渡所得の特例であるので,その 譲渡者が,たとえ家屋の取得前に当該家屋を賃借 して長期間居住していたとしても,家屋の所有者 でない限り本件特例を適用する余地はないのであ るから,居住要件を満たす家屋かどうかの判定も,

本件裁決のように,譲渡者が家屋の所有者であっ た期間について行うのが妥当であると考えられ る。また,本件裁決は,上記横浜地裁判決が付加 した所有要件を採用していないが,これは,第一 に,文理上はもとより趣旨解釈や類推解釈からも 所有要件が課されているとは必ずしも解し得ない こと,第二に,措置法通達31の3-2による上記の 判定には所有要件がないことや国税庁広報課長監 修財団法人大蔵財務協会発行の「やさしい譲渡所 得」(6)には「家屋やその敷地の所有期間の長短 を問わず」適用ができる旨が明記されていたこと,

第三に,相当の期間という不確定概念により適用 の可否を判定することは困難であることなどによ るものと思われる。

以上,本件裁決は,所有要件があることを前提 とせず,譲渡資産の所有者であった期間において

(6)

居住要件が充足されていたかどうかで本件特例の 適用の可否を判断している。すなわち,贈与等に よる取得の時点で居住用財産の譲渡が予定されて いるような場合は,(一時的ではなく)ある程度 の期間継続して居住する意思を持って生活の本拠 としていたとは認められないとするものである。

したがって,本件裁決は,これまでの「居住の用 に供している家屋」の意義を変更するものではな いが,本件特例の適用において,居住要件の判定 は譲渡者が家屋を所有していた期間について行う べきことを明らかにした点で先例性が認められ る。

ところで,上記横浜地裁判決の事例のように,

賃借していた家屋を購入直後に譲渡して多額の譲 渡所得が生じるようなことが頻繁に生じるとは思 われないが,本件のような事例は,平成15年の相 続時精算課税制度の導入後,容易に作出できるよ うになり,また,多額の譲渡所得が生じ得ること から,租税回避のために利用される危険がある。

すなわち,相続時精算課税制度を利用すれば,親 から子への贈与は,一定の条件の下で,2,500万 円までは無税,それを超える額についても一律 20%の課税で済むことから,居住用財産を生活の 本拠とするだけで本件特例の適用が認められると すると,親と同居する子にその居住用財産を持分 贈与し,あるいは親が所有する土地建物を使用貸 借して居住する子に親が土地建物を贈与し,その 直後に譲渡して,本件特例を適用しようとする誘 引が生じる。そして,居住者が贈与により取得し た資産はその者が引き続きこれを所有していたも のとみなされ(所得税法第60条第1項),その資 産の譲渡による譲渡所得の計算上,取得時の価額 に相当する金額により取得したものとみなすこと とされている(同第2項)ので,それらの譲渡に おいては多額の譲渡所得が生じ得ることから,本 件特例の適用により3千万円の所得控除を受ける ことができるとすれば,有力な節税手段となる。

したがって,この裁決は,本件のような租税回避 行為に警鐘を鳴らすものということもできる。た だし,本件のような居住用財産の贈与が本件特例 の適用を否認されないように慎重に計画・実施さ

れる場合には,贈与の当事者が親子関係にあるこ とから,贈与の時点において居住用財産の譲渡の 合意が確実であったか否かの事実認定は容易では ないと思われる。

おわりに

本件裁決は,本件特例の「居住の用に供してい る家屋」の意義に変更を加えるものではない。し かし,これまで高い贈与税率が障害となって行わ れなかった親子間の贈与が,平成15年度の相続時 精算課税制度の導入により,高額の贈与でも税負 担なく行えるようになったことから,本件のよう に,土地等の譲渡が成立した後に本件特例を利用

(場合によっては,贈与者と受贈者のそれぞれが3 千万円の控除を受ける。)する目的で相続時精算 課税制度を利用する事例が今後も生じるものと思 われる。本件裁決は,本件特例の適用において,

居住要件の判定は,譲渡者が家屋を所有していた 期間について行うべきことを明らかにした点で先 例性が認められ,また,本件のような租税負担の 回避行為に警鐘を鳴らしたという点で注目され る。

(1) 相続税法第二章第三節第21条の9〜第21条の18

(2) 裁判事例については,「DHCコンメンタール所 得 税 法 」( 第 一 法 規 , 武 田 昌 輔 監 修 ) 6 4 1 6 , 6417頁参照。

(3) 控訴審 東京高裁昭和63年9月29日判決,上告審 最高裁平成1年3月24日判決・棄却・確定

(4) 同旨の判決として,広島地裁昭和49年8月27日 判決,東京高裁昭和57年6月24日判決などがあ る。

(5) 控訴審 東京高裁平成8年10月30日判決,上告審 最高裁平成12年9月12日判決・棄却・確定

(6)「やさしい譲渡所得」(昭和62年版)73頁以下。

上記横浜地裁判決の上告審における上告理由か ら引用。なお,平成18年度版にも同じ記載があ る。

参照

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