• 検索結果がありません。

これからの就学前教育・保育について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "これからの就学前教育・保育について"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

これからの就学前教育・保育について

著者 藤? 眞知代

雑誌名 明治学院大学心理学部付属研究所年報 = Annual

Report of the Meiji Gakuin Institute for Psychological Research

巻 10

ページ 29‑39

発行年 2017‑07

その他のタイトル Exploring future preschool education and childcare

URL http://hdl.handle.net/10723/00003756

(2)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

これからの就学前教育・保育について

教育発達学科教授 藤﨑 眞知代

はじめに

 新しい幼稚園教育要領が 2017 年(平成 29 年)

3 月に告示され,2018 年度(平成 30 年度)か ら施行されることとなった。保育所保育指針,

幼保連携型認定こども園教育・保育要領につい ても時期を同じくして改訂され,施行されて いく。このような動向の背景には,少子化の進 行,家族形態の多様化,社会・経済的な事情な ど,単に子どもの保育や教育をめぐる要因だけ でなく,子どもと親を取り巻く社会環境の変化 といったさまざまな要因が関連している。そこ で本論文では,これまでの乳幼児の保育,及び 教育の変遷を辿った上で,今回の幼稚園教育要 領の改訂を踏まえた今後の就学前教育・保育の あり方,及び幼稚園教諭の養成のあり方につい て考えてみたい。

1 .乳幼児の保育,及び教育のこれまでの変遷 1 ) 保育所と幼稚園の 2 元行政時代と少子化

対策の経緯

 今日までの乳幼児の保育や幼児教育に関する 制度的な変遷の概要を表 1は示している(無 藤ほか,2017)。第二次世界大戦後の混乱から 子どもの保育機関として当時の厚生省管轄の児 童福祉施設として保育所が,当時の文部省管轄 の学校として幼稚園が設置されたことが,幼保 二元行政の始まりであった。これらの機関にお ける保育や教育の在り方として,1952 年にま ず保育所保育指針が,そして 1956 年に幼稚園 教育要領が刊行された。その後,約 60 年間,

二元行政が続き,就学前の保育と教育は保育所 と幼稚園が担い,それぞれに保育所文化,幼稚 園文化を創生してきた。

 一方,1990 年の 1.57 ショックに象徴される 少子化の傾向に対して,図 1に示されている ような少子化対策が行われていった(内閣府,

2017)。すなわち,1994 年にエンゼルプラン,

さらに 1999 年には「少子化対策推進基本方針」

「新エンゼルプラン」が策定され,子育て支援 の充実に向けて国の施策がスタートしていっ た。さらに 2003 年には「少子化社会対策基本法」

が成立し,国の基本的な政策の中に少子化問題 が位置づけられ,2 つのエンゼルプランを引き 継ぐかたちで「子ども・子育て応援プラン」が 策定された。このプランに基づいて 2007 年(平 成 19 年)に「子どもと家族を応援する日本:

重点戦略」が決定され,少子化対策・子育て支 援の方向性が明確にされた。そこでは「働き方 の改革」と「家庭における子育てを包括的に支 援する枠組(社会的基盤)の構築」を主要な対 策とし,「家庭と仕事の両立」ではなく,親子 それぞれの発達段階を踏まえて「ワーク・ライ フ・バランス」という考え方を基本としている。

そして,若者の生き方を支えるために安心して 子どもを預けることができるための地域の保育 や子育て支援拠点の充実が急務となった。この 重点戦略の視点が礎となって,その後,2010 年の「子ども・子育てビジョン」の数値目標や

「子ども・子育て支援新システム」につながり,

2012 年の「子ども・子育て関連3法」が成立し,

2015 年の「子ども・子育て支援新制度」の施 行となっていった。

(3)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

表 1『幼稚園教育要領』『保育所保育指針』『幼保連携型認定こども園教育・保育要領』のあゆみ

(無藤ほか,2017)

(4)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

図 1 少子化対策・子育て支援の歩み(内閣府,2017 より)

資料:内閣府資料 1990(平成 2 年)

1994(平成 6 年)  12 月

1999(平成 11 年) 12 月 1999(平成 11 年) 12 月 2001(平成 13 年)  7 月 2002(平成 14 年)  9 月 2003(平成 15 年)  7 月

  9 月

2004(平成 16 年)  6 月

2004(平成 16 年) 12 月 2005(平成 17 年)  4 月 2006(平成 18 年)  6 月

2007(平成 19 年) 12 月 2008(平成 20 年)  2 月

2010(平成 22 年)  1 月 2010(平成 22 年) 11 月 2012(平成 24 年)  3 月

2012(平成 24 年)  8 月 2013(平成 25 年)  4 月

2013(平成 25 年)  6 月 2014(平成 26 年)  7 月

2014(平成 26 年) 11 月 2014(平成 26 年) 12 月 2015(平成 27 年)  3 月 2015(平成 27 年)  4 月 2016(平成 28 年)  4 月 2016(平成 28 年)  6 月

2017(平成 29 年)  3 月

2001.7.6 閣議決定

2003.9.1 施行

2004.6.4 閣議決定

2010.1.29 閣議決定

2013.6.7 少子化社会対策会議決定

2014.11.28

(一部規定は同年 12.2)施行 2004.12.24 少子化社会対策会議決定

2006.6.20 少子化社会対策会議決定

2007.12.27 少子化社会対策会議決定

(2000(平成 12)年度〜04 年度)

(2005 年度〜09(平成 21)年度)

2003.7.16 から段階施行

(1995(平成 7)年度〜1999 年度)

3 大臣(大・厚・自)合意 4 大臣(文・厚・労・建)合意

少子化対策推進関係閣僚会議決定

エンゼルプラン 緊急保育対策等 5 か年事業

少子化対策プラスワン 新エンゼルプラン

少子化対策推進基本方針

少子化社会対策基本法 次世代育成支援対策推進法

地方公共団体、企業 等における行動計画 の策定・実施

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章 仕事と生活の調和推進のための行動指針 少子化社会対策大綱

子ども・子育てビジョン 仕事と子育ての両立支援等の方針

(待機児童ゼロ作戦等)

法律 閣議決定 少子化社会対策会議決定 上記以外の決定等

子ども・子育て応援プラン

新しい少子化対策について

「子どもと家族を応援する日本」重点戦略

「新待機児童ゼロ作戦」について

待機児童解消「先取り」プロジェクト

待機児童解消加速化プラン

放課後子供総合プラン

少子化危機突破のための緊急対策

少子化社会対策大綱

まち・ひと・しごと創生法

長期ビジョン・総合戦略

次世代育成支援対策推進法延長 子ども・子育て支援新制度本格施行

子ども・子育て支援法等子ども・子育て関連 3 法

子ども・子育て支援法改正 ニッポン一億総活躍プラン

子ども・子育て新システム検討会議

子ども・子育て新システムの基本制度について

働き方改革実行計画 6 大臣(大・文・厚・労・建・自)合意

厚生労働省まとめ

2010.1.29 少子化社会対策会議決定

2012.3.2 少子化社会対策会議決定

2012.3.30 閣議決定 子ども・子育て新システム関連 3 法案を国会に提出

2012.8.10 法案修正等を経て子ども・子育て関連 3 法が可決・成立(2012.8.22 から段階施行)

2014.12.27 閣議決定

2016.6.2 閣議決定

2017.3.28 働き方改革実現会議決定 2015.4.1

2016.4.1 施行

2015.4.1〜 2025.3.31 2015.3.20 閣議決定

〈1.57 ショック〉

(5)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

2 ) 第 3 の教育・保育施設としての認定こど も園の制度化

 幼保二元行政に対して,子どもの発達を中心 に考える保育現場からは長年にわたって一元化 を希望する議論がされてきた。そのような中で,

少子化により地域によっては就学前の乳幼児の 減少,低年齢児の待機児童の増加,逆に年長保 育所児の幼稚園への転園による定員割れなどに より,保育所と幼稚園が別々に経営を維持する ことが難しい状況が生じてきた。そうした状況 を受けて 1998 年には保育所と幼稚園の施設の 共用が,2003 年には両者の合築施設での合同 保育が容認されるようになった。さらに 2006 年には「就学前の教育・保育等の総合的な提供 の推進に関する法律」が制定され,2008 年に は「幼保一元化」ではなく「幼保一体化」のか たちで就学前教育・保育の第 3 の施設として母 親の就労に拘わらず 0 歳から就学前の子どもの 教育・保育を担う「認定こども園」が発足する に至った。それは内閣府・文部科学省・厚生労 働省の管轄であり,地域の子育て支援の拠点と しても機能することが義務づけられた(柴崎,

2011)。

 しかし,当初の「一体化」は保育所と幼稚園 の管轄省への手続きを別々に行うものであり,

2 重の手続きとなる煩雑さゆえに,認定こども 園の設置や移行は期待されたほどには進まな かった。ところが 2011 年ころからの「子ども・

子育て支援新システム」の検討により,幼保連 携型認定こども園を中心とすることが国策とし ても急速に推進されるようになり,さらに,少 子化社会対策大綱が 2013 年(平成 27 年)に閣 議決定され,重点課題の第 1 は子育て支援施策 を一層充実させることが掲げられた。そこでは,

①子ども支援施策の一層の充実,②待機児童の 解消,③「小 1 の壁」の打破が謳われている。

したがって,公立幼稚園の認定こども園化は,

行政主導で広がりを見せている一方,私立幼稚

園では地域による違いはあるものの,あくまで 幼稚園として存続し,幼児教育としての充実を 図ろうとする動きもみられ,就学前教育・保育 の在り方は多様性を増している(表 1 参照)。

  こ の よ う な 施 策 の 動 向 を 背 景 に,2017 年 度 の 施 設 別・ 設 置 者 別 入 所 児 数 は, 幼 稚 園 53.8 %, 認 定 こ ど も 園 1.2 %, 認 可 保 育 所 43.0%,認証保育所 1.6%,その他 0.5%,全体 の入所率は 96.2%,となっている(文部科学省

(2017)と東京都福祉保健局(2017)の資料に よる)。また,2017 年度 4 月時点での小学校 1 年生の出身施設をみると幼稚園児 46.5%,認定 こども園 9.5% であることから(文部科学省,

2017),保育所児は 40% 程度であるとみられ,

幼稚園出身児の方が保育所出身児よりも多い。

しかし,幼稚園数は統廃合や自治体によっては 公立幼稚園を全面的に廃止するなど全体では減 りつつある一方,2015 年以降認可保育所数は 若干減少しているものの,認定こども園を含め ると増えつつある(厚生労働省,2017a)。子ど もを社会で育むという国策とともに,乳幼児期 の子どもとその親が置かれている今日的状況か ら,親子それぞれの発達を支えるという視点か らも,今回の幼稚園教育要領,保育所保育指針,

幼保連携型認定こども園教育・保育要領の同時 期での改訂となった意味は大きい(内閣府・文 部科学省・厚生労働省,2017)。

2.保育の担い手の広がり

1 )保育士の国家資格化による広がり

 1998 年(平成 10)の児童福祉法の改正により,

保育所は措置施設から利用(選択)施設となり,

保育サービス内容の情報を提供し,それに基づ いて利用者が選択する施設となった。その翌年 の 1999 年(平成 11 年)4 月の児童福祉法のさ らなる改正,及び男女平等参画社会基本法に基 づく男女雇用均等法の大幅な改正に伴い,「保 母」を改め「保育士」と呼ばれるようになった。

(6)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

「保育士」とは,「登録を受け,保育士の名称を 用いて,専門的知識及び技術をもって,児童の 保育及び児童の保護者に対して保育に関する指 導を行うことを業とする者」(児童福祉法第 18 条 4)と定義される。そして 2001 年(平成 13 年)

には保育士資格は民間資格から法制化され国家 資格となった。

 また,保育士の資格取得は厚生労働省の指定 保育士養成施設,すなわち養成校と都道府県の 委託により全国保育士養成協議会が行う年 1 回 の保育士試験(児童福祉法第 18 条 6)によっ ても資格が取得できるようになった。さらに,

待機児童問題への対応として 2016 年から同試 験は年 2 回実施されるようになった。加えて,

自治体により保育士資格取得後 3 年間はその自 治体での勤務を条件とする地域限定保育士の資 格試験も実施されるようにもなった。このよう な経過から保育士の資格取得者は増えてきてい るが,現場実習のない資格試験による取得は,

実践的な保育力を保障するものではないことは 大きな問題であろう。

 保育士資格試験の科目についても,「発達心 理学」は 2013 年から「保育の心理学」となり,

保育士養成において子どもの発達に関する基本 的知識をきちんと理解した上で,保育実践と関 連づけるという姿勢が弱まっている。認知発達 や社会情動発達に関する基本的理解が曖昧なま まに,エピソードにおける子どもの行動とそれ に対する保育士の対応といったかたちで保育の マニュアル化が懸念される。さらに,今回の保 育所保育指針の改訂に伴い,保育士養成のカリ キュラムの変更も現在検討されており,次年度 に向けて急速に進展していくと思われる。前回,

保育所保育指針が通達から最低基準を示す告示 とされた改訂の際にも(厚生労働省,2008),

新しい保育士養成カリキュラムの準備期間が短 じかく対応に追われたが,今回も同様のことが 懸念される。

2 )待機児童対策による広がり

 2008 年に制度化された認定こども園におけ る保育者は,厚生労働省管轄の国資格である保 育士の資格と,文部科学省管轄の幼稚園教諭の 免許状を有していることが一般的には求められ る。また,2015 年(平成 27 年)には,待機児 童の定義が「保育に欠ける」から「保育の必要 な児童」に拡大された。そして待機児童問題の 解決を目的として幼稚園教諭が保育士資格を取 得しやすくする特例措置だけでなく,その逆の 保育士が幼稚園教諭の免許状を取得したりする ほか,小学校教諭の免許状所有者や福祉系国家 資格所有者も就学前教育・保育を担える措置が 講じられるようになった。また,潜在的な保育 士資格所有者や離職者に就職を促すために就業 準備や再就職のためのマッチング支援などが強 化されてもきている(厚生労働省,2017b)。

 保育を担う人々の保育士資格取得方法の違 い・経歴の違いといった背景や,保育者の雇用 形態はますます多様化している。保育を担う 人々のこのような背景や勤務形態の多様化は,

一つの教育・保育施設内において研修したり,

教材準備のための時間を確保したり,職員相互 の理解を図ったりすることの難しさが増してい ることを意味する。

 一方,認定こども園は設置趣旨から,有職の 母親も,無職の母親もいることから,保育時間 として両者の子どもに共通するコアタイムを設 定しているところが多い。実際は有職の母親と 無職の母親とでは園との関わり,担える役割,

園行事への参加の状況は異なり,保護者間のコ ミュニケーションの難しさもある。子どもの側 からみれば,在園時間の違いは園生活における 保育者や仲間との関係に少なからず影響を及ぼ し,担任保育者との関係,クラスの仲間関係は 複雑にならざるを得ない。このように入園する 親子の背景が多様となっていると同時に,親子 を受け止めて保育を担う人々の背景も多様さを

(7)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

増している。こうした状況が,子どもの生活に ネガティブな影響を及ぼすのではなく,諸々の 多様性がメリットとして機能していく協働体勢 を生み出していくために,園長・所長である管 理者は無論のこと,保育を担う者はそれぞれの 立場におけるコーディネート力が求められよう。

3.2017 年(平成 29 年)の幼稚園教育要 領の改訂を読む

1 )社会情動的スキルへの注目

 今回の就学前教育・保育に関する改訂の内容 には,欧米での大規模縦断研究の結果も少なか らず影響している。乳幼児期から児童期にかけ ての教育効果として,特に読み,書き,計算の ような知的教育が中心であった欧米において,

知的教育の効果は一時的で持続しないこと,逆 に社会情動的スキルがその後の学業成績や高校 卒業率,社会保護を受けている比率,収入など を指標とする Well-being(生活の質)を予測す ることが示された。それを受けて,認知能力の 土台となる社会情動的スキルを育むことの重要 性が強調されるようになった(無藤,2016)。

 社会情動的スキルは,認知的スキルとの関連 とともに図 2に示されるように 3 つにまとめ られている。すなわち,一つは目標を達成する 力(忍耐力,自己抑制,目標への情熱,意欲,

図 2 認知的スキルと社会情動的スキルの関係(池迫・宮本,2015 より)

自己制御,自己効力感など),二つは他者と協 働する力(社会的スキル,協調性,信頼,共感,

経緯,思いやりなど),そして情動を制御する 力(自尊心,楽観性,自信,問題行動のリスク の低さなど)の 3 つの力である。認知的スキル には,基礎的認知能力(パターン認識,処理速 度,記憶),知識,思考,経験を獲得する精神 的能力,そして,知識を外挿する能力(獲得さ れた知識を呼びだし,抽出,推論,概念化する 力。また他者に伝える力など)がある(池迫・

宮本,2015)。このような認知的スキルと社会 情動的スキルは分離しているものではなく,相 互にかかわりながら発達していく。例えば,共 感的かかわりができるためには,他者の情動を 表情から弁別し,そのときどきの状況を認知し た上での判断ができなくてはならない。

 日本の伝統的な保育において情緒的側面は重 視されてきており,従来の幼稚園教育要領や保 育所保育指針でも,「心情・意欲・態度」とし て 5 領域のねらいの中に盛り込まれていること が読み取れる。そして,実践においても,子ど も同士のかかわり,子どもの活動に向かう姿勢,

頑張ることなどが大切にされてきている。この ように保育において社会情動的側面はこれまで も重視されてきてはいるが,子ども同士や子ど もと保育者の「かかわりの質」,すなわち人間

基礎的 認知能力

獲得された 知識

認知的 スキル

社会情動的 スキル

外挿された 知識

目標の 達成

他者との 協働

情動の 制御

(8)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について 関係に焦点化した「保育の質」は,物的環境に

関する「保育の質」に比して,十分な検討がさ れてきたとはいえないと思われる。この点につ いて,縦断研究によるエビデンスに基づいて共 通理解を今後,形成していく必要があると考え る。

2 ) 新しい幼稚園教育要領(2017 年告示)の 趣旨から

 今回の改訂のポイントは無藤(2017)による と 3 つあるという。一つは,幼稚園教育要領,

保育所保育指針,幼保連携型認定こども園教 育・保育要領の 3 歳以上の「ねらい及び内容」

をはじめ,幼児教育に関する記載がおおむね共 通化されたことである。これは,全国どこでも 保育の質を同じ水準で確保することであり,そ の結果,保育を受ける側からはどのような地域,

教育・保育施設でも 3 歳以上は同じ質の教育を 受けられることを意味しているといえよう。

 二つには,「幼児教育において育みたい資質・

能力」は「生きる力」の基礎となるものであり,

それは小学校・中学校・高等学校卒業時に身に つけていくべき力を見据えて,幼児教育の段階 において育てたいもの,として 3 つの柱が示さ れたことである。すなわち,①『豊かな体験 を通して,感じたり気付いたり,分かったり,

できるようになったりする「知識及び技能の基 礎」』,②『気付いたことや,できるようになっ たことを使い,考えたり,試したり,工夫したり,

表現したりする「思考力,判断力,表現力等の 基礎」』,③『心情,意欲,態度が育つ中で,よ りよい生活を営もうとする「学びに向かう力,

人間性等」』,である。それは遊びや生活の中で 気づくこと,分かること,できることだけなく,

喜怒哀楽などを感じるとともに,何かをやりた いと思う気持ちをもってやりたいことに粘り強 く取り組むこと,友だちと協力すること,挑戦 していくこと,などを指している。そして,幼

児教育は,その後に続く初等・中等教育,及び 高等教育のあくまで基礎であり,幼児期で完結 するものではなく,さらに一生涯を通じた人と しての生きる力の基盤であることを,より明確 に示したものといえる。

 三つには,5 領域の内容を踏まえながら幼児 期の終わりまで,つまり 5 歳後半ころまでに 育ってほしい「10 の姿」が示されたことであ る(図 3参照)。具体的には,①健康な心と体,

②自立心,③協同性,④道徳性・規範意識の芽 生え,⑤社会生活との関わり,⑥思考力の芽生 え,⑦自然との関わり・生命尊重,⑧数量・図 形,文字等への関心・感覚,⑨言葉による伝え 合い,⑩豊かな感性と表現,である。子どもの 自発的な活動である遊びを中心とした幼児教育 を通じて育ち,さらに小学校入学後も育ち続け ることを目指すものである。幼稚園と小学校の 教師が,この「10 の姿」を共有することで,

幼児教育と小学校教育との接続や,その後の指 導がスムーズに展開することが目指されている。

 これまでの幼稚園教育要領(文部科学省,

2008)で謳われてきたことを考えあわせると,

ここでいう「姿」は「到達目標」ではないし,「で きる・できない」で捉えるものでもない。また,

「10 の姿」を別個に指導するのでもない。5 領 域との重なりでは,健康(①健康な体),人間 関係(②自立心,③協同性,④道徳性・規範意 識の芽生え,⑤社会生活との関わり),環境(⑤,

⑥思考力の芽生え,⑦自然との関わり・生命尊 重,⑧数量や図形,標識や文字などへの関心・

感覚),言葉(⑧,⑨言葉による伝え合い),表 現(⑩豊かな感性と表現),とみることもでき るが,あくまで主体的な遊びという活動全体を 通した育ちであることが強調されている。幼児 教育を通した子どもの育ちを「姿」として示す ことで,小学校では就学してくる児童の姿を捉 えた受け入れ体勢やカリキュラム編成によって

「小 1 の壁」を打破していくことが意図されて

(9)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

9 言葉による

伝え合い

思考力の

芽生え

自然との 関わり・

生命尊重

道徳性・

規範意識の 芽生え

8 数量や図形、

標識や文字などへの 関心・感覚 10

豊かな感性と 表現

3 共同性

社会生活との

関わり

健康な心と体

自立心

小学校教育

幼児教育

図 3 幼児教育における 10 の姿(無藤(2017)を改変)

いると読み取れる。

 新しい幼稚園教育要領を基盤としなら,社会 情動的スキルの幼児期の育ちや,「10 の姿」の 育ちを保障していくためには,今日,幼稚園教 諭はますます高い専門性が求められるように なったといえよう。

4 .これからの幼稚園教諭の養成に向けて  就学前教育・保育の重要性が強調され,幼稚 園教育要領の今回の改訂を踏まえて,教育発達 学科における幼稚園教諭の養成について最後に 考えてみたい。教育課程については再課程認定 など,文部科学省の教員養成の基準を満たすこ とや学科の卒業要件,キャップ制などの制約が 大きいゆえに,ここではそれ以外について述べ ていく。

 2013 年には副免として幼稚園教諭の免許状 を取得した第 1 回生を輩出したが,学科の設置 と同時に教職への就職を支援する教育キャリア

支援課が事務部門として設けられこと,また 2012 年 3 月には現場の管理職経験者に教育実 習関係の指導を担って頂く特命教授という職位 を制度化したことは,附属幼稚園をもたない本 学の弱点を補う上で,今後も大事にしたいシス テムである。 

 また,本学においては幼稚園教諭の免許状は 取得できるが,保育士の資格は取得できない。

進路として幼稚園を希望する場合は,今日の国 策の方向性から卒業時には保育士資格も取得し ていることが望ましい。その点については,教 育キャリア支援課が保育士試験対策講座を開催 し,実際には2年生や他学科の学生も受講して いる。実技科目の試験についても対策講座が拡 大されてきており,学科オリエンテーションで も強調している支援体制である。

 さらに,2014 年度生からは主免として幼稚 園教諭の免許状を取得できるようになり,隣接 免許である小学校教諭の免許状の取得には実習

(10)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について が免除されるようになった。幼児教育の 5 領域

と小学校教育の各教科の取り扱いは大きく異な り,指導案の単位も幼稚園では日案であるのに 対して,小学校は 1 コマ 45 分の単元・材料が 基本である。つまりこうした違いには教師の役 割の違いが反映している。今回の幼稚園教育要 領の改訂では就学前教育・保育から小学校への 接続がスムーズに展開することが盛り込まれて おり,幼児教育・保育の「3 つの柱」や「10 の 姿」が新たに示された。幼稚園教諭や小学校教 諭を目指す学生はそれぞれの校種の専門性を学 び身につけていくと同時に,こうした教師の役 割の違いをしっかり認識することが専門性の基 盤にはあると思われる。そのためには,保幼小 連携から接続の意味を,教科担当の教員がしっ かり認識し,それぞれの校種の教育実習を終え た後で,幼小の接続,小中の接続についても考 える姿勢を大切にしたい。

 一方,在校生の最近の傾向から,免許の取得 に向けての指導として,さらに以下の 3 点につ いて配慮が必要と思われる。第 1 には,進路と して一般就職を希望するが,教員免許状は取得 したいと考える学生への指導である。単位数が 少ないことから女子学生では校種として幼稚園 を選ぶものが多いように見受けられる。しかし,

実際には 4 年次の教育実習を途中で辞退する事 例が生じている。教員免許状の取得が卒業要件 でないだけに,免許状を取得するかどうか,取 得するなら校種をどうするかといったことを決 めていくための指導と時期,及び 4 年次での教 育実習に向けての3年次からの指導,実習中の 支援については,実習園との関係も含めて検討 していく必要があろう。第 2 には,日常生活に おける対面でのコミュニケーション・スキル,

実習生として謙虚に学ぶ態度については,これ まで以上に指導していく必要があると思われ る。スマフォの普及や Line でのやりとりが主 になってきている世代である。対面でのコミュ

ニケーション・スキルとして,正しく・美しい 日本語や,場に応じて適切な敬語を使用すると いったコミュニケーション力は年々危うくなっ てきている。幼稚園生活において出会う大人は,

モデルとなって子どもの発達に影響を及ぼすこ とから,親しさを表現する言葉遣い・態度と,

指導を受ける実習生としての言葉遣い・態度に ついて,大学生活全般を通して心がけるよう注 意していく必要があろう。第 3 には,教育発達 学科の特徴として 2 年次の教育発達学方法論の 体験先を広げていく可能性を探りたい。一定の 間隔で継続的に現場に関わることは,子どもが 発達・変化していく姿を実感できる貴重な体験 である。今後,ますますタイトな時間割となっ ていくと予想されることから,教育委員会との 調整も含めて,小学校での半期の体験と自分自 身の興味・関心のある現場での体験を半期とし ていくことも一つではないかと考える。また,

こうした現場体験に耐える力として,学生自身 の生活を豊にし,視野広げて色々なことに挑戦 するなど,自身のレジリエンスを育むことは,

教師としてのレジリエンスを育むことにもつな がっていくといえよう。これらの 3 点は,学校 現場だけでなく,いずれの進路においても社会 人として必要な力であると考える。

終わりに  

 筆者が行ってきている母子関係の生涯的縦断 研究では,第 1 世代協力者の母親が研究プロ ジェクトの協力者となることを承諾してくだ さった時点からすでに 50 年以上が経過してお り,当時母親のお腹のなかにいた第 2 世代協力 者は 50 歳代となっている。彼らの子ども時代,

青年時代にはノン・プログラムで自己決定を大 切にする子どもキャンプを毎夏行ってきた。成 人してからは継続的な対話を今日まで継続して いる(藤﨑ほか,2013;藤﨑ほか,2017)。そ こでは,各年代で子ども時代を振り返り,自己

(11)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について

決定を大切にされた体験とそれを支えた大人の あり方,すなわち「大人の心的展開なくして,

子どもの成長はない」という命題を共に吟味し 続けてきている。幼稚園に卒業生を送りだして から時間が経過しつつある今日,卒業生の幼稚 園教諭としての発達すなわち「心的展開」を支 えるために,在校生も含めて卒業生との保育カ ンファレンスの機会を学科として継続的にも ち,「保育者としての発達と子どもの発達」に ついて卒業生と語りあう機会を今後に期待した い。 

引用文献

藤﨑眞知代・杉本真理子・石井富美子.(2013).

生涯的縦断研究における研究協力者・研究 者関係―両者にとっての意味の質的分析.

明治学院大学心理学部紀要.23 97‑110.

藤﨑眞知代・杉本真理子・石井富美子.(2017).

40‑50 年にわたる親・子ども・研究スタッ フとの関係の創生⑶ ―子ども時代の自己 決定体験はどう語られたか―その 2―. 本発達心理学会第 28 回大会論文集.465.

池迫浩子・宮本晃司・ベネッセ教育総合研究所

(訳).(2015).家庭,学校,地域社会にお ける社会情動的スキルの育成:国際的エビ デンスのまとめと日本の教育実践・研究に 対する示唆(日本語版)ベネッセ教育研究 所,OECD.

厚生労働省.(2008).保育所保育指針〈平成 20 年告示〉.フレーベル館.

厚生労働省.(2015).保育園と幼稚園の年齢別 利用者数及び割合

  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/

kokusentoc̲wg/h28/shouchou/160916̲

shiryous̲5̲3.pdf(2017 年 9 月閲覧)

厚生労働省.(2017a).保育所関連状況とりま とめ(平成 29 年4月1日)

  http://www.mhlw.go.jp/fi le/04-Houdouha

  ppyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyo   ku-Hoikuka/0000176121.pdf(2017 年 11 月

閲覧)

厚生労働省.(2017b).「子育て安心プラン」

について

  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaiho   syou̲kaikaku/dai7/shiryou7.pdf(2017 年

10 月閲覧)

文部科学省.(2008).幼稚園教育要領.フレー ベル館.

文部科学省.(2017).学校教育基本調査 平成 29 年度(速報) 幼稚園、認定こども園.

  http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.

do?bid=000001093019&cycode=0(2017 年 9 月閲覧)

無藤 隆.(2016).幼児教育の効果と社会情動 的スキルの指導.無藤隆・古賀松香(編)

社会情動スキルを育む「保育内容 人間関 係」―乳幼児期から小学校へつなぐ非認知 的能力とは 北大路書房 1‑11.

無藤 隆(監修).(2017).幼稚園教育要領ハ ンドブック  2017 年告示板 学研教育みら い.

無藤 隆・汐見稔幸・砂上史子.(2017).3法 令ガイドブック.フレーベル館.

柴崎正行.(2011).保育現場の現状とその背景.

秦野悦子・山崎 晃(編著).保育のなか の臨床発達支援.2‑15.京都:ミネルヴァ 書房.

東京都福祉保健局.(2017).都内の保育サービ スの状況について

  http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodoha   ppyo/press/2017/07/25/documents/07̲01.

  pdf(2017 年 10 月閲覧)

内閣府・文部科学省・厚生労働省(2008).幼 保連携型認定こども園教育・保育要領〈平 成 26 年告示〉.フレーベル館.

内閣府.(2017)これまでの少子化対策の取組

(12)

特別寄稿これからの就学前教育・保育について http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/

  data/torikumi.html(2017 年9月閲)

内閣府・文部科学省告示第 1 号・厚生労働省.

(2017).幼稚園教育要領・保育所保育指 針・幼保連携型認定こども園教育・保育要 領〈原本〉.チャイルド社.

内田千春.(2017).幼児期における社会情動的 スキル.子ども学.5 8‑29 萌文書林.

参照

関連したドキュメント

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

確かな学力と自立を育む教育の充実 豊かな心と健やかな体を育む教育の充実 学びのセーフティーネットの構築 学校のガバナンスと

かであろう。まさに UMIZ の活動がそれを担ってい るのである(幼児保育教育の “UMIZ for KIDS” による 3

当日は,同学校代表の中村浩二教 授(自然科学研究科)及び大久保英哲

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

保育所保育指針解説第⚒章保育の内容-⚑ 乳児保育に関わるねらい及び内容-⑵ねら

しかし、前回の改定以降においても、

 学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配