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地域金融構造へのアプローチ (

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地域金融構造へのアプローチ (

Ⅰ)

斎 藤 一 朗

は じめに

. これまでの研究

金融の地域構造を巡 って 地域開発金融を巡 って 金融の地域的特性を巡 って

地理学か らのアプローチ と最近の研究動向

Ⅱ.地域金融研究の方法論的課題 地域金融研究におけるふ たっの視角

地域的視角」か らの諸研究 問い直 され る 「地域的視角」

分析対象 と しての地域金融 (以上本号)

Ⅲ.銀行資本の運動の機能的側面

Ⅳ.銀行資本 の運動の空間的側面

V.地域金融構造の分析枠組み と主要論点 むすびにかえて

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220 46 2 ・3

はじめに

わが国の地域金融に関す る研究 は,高度成長期 に顕在化 した資金偏在 によっ てその端緒 を拓かれた。1960年代以降,北海道 ・沖縄 における開発金融や金融 の地域構造を主要 なテーマに,実証的に も政策的に も,その成果を着実 に積み 上 げて きた。そ うしたなか,90 7月に公表 された金融制度調査会金融制度第 一委員会 中間報告 『地域金融のあ り方 につ いて』 は,地域金融研究 にとって新 たな展開の契機 とな った。すなわち,地域経済の発展 ‑地域 間格差の是正 に対 す る金融面か らの貢献 と地域住民 に対す る金融サー ビスの均霜を背景に 「地域 金融機関」 とい うカテゴ リーが は じめて取 り上 げ られ,その果すべ き役割が論 じられたのである いまや,地域金融機関の現状 と課題 は,地域金融研究の主要 テーマのひ とつ となっている

このよ うに,分析の中心 はその ときどさの社会的文脈のなかでい くぶん変化 して きた。だが,研究のモチーフとして大方 に意識 されて きたのは地域経済間 の不均等発展であ り,3大都市圏 とそれ以外の地方 との問の経済的格差 の存在 である。地域的不均等発展の金融的表現 としての資金の地域的偏在や金融機能 の地域的差異が,当初か ら研究の中心課題 となった所以である。それゆえ,研究 に際 しては 「地域的視角」よ りも 「国民経済的視角」にウエイ トが置かれ, 域金融問題 はいっ も大都市圏における金融機能の集積の裏側 にある問題 として 捉え られて きた。 このため,地域構造のなかでの個 々の地域の位置づけに対す る関心 は薄 く,個 々の地域が意識 され るのは,国民経済の地域的分業体系を構成 す る部分 としての後進性が問題 となる場合か,その裏返 しとしての 「成長の極」

の分散化 においてである。 この意味において,地域開発 ・開発金融問題 はまさ に国民経済の基本課題 として捉え られて きたのである。

1960年代か ら80年代 にかけて,この 「国民経済的視角」 は地域金融研究 にお ける分析視角 として主流の位置を占めて きた。だが,90 7月 に公表 された『 域金融のあ り方 について』をひ とっの契機 に,地域経済問の不均等発展 に対す る分析視点の転換が生 じる。すなわち,国民経済的視角」か ら 「地域 的視角」

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地域金融構造へのアプローチ (Ⅰ) 221

への転換がそれである。「国民経済的視角」か らの研究においては,地域経済の 不均等発展 と資金の地域的偏在 はいわば コイ ンの表裏であ り,これをマ クロ的 に是正す る政策手段 として地域開発 ・開発金融が位置づ け られて きた。 これに 対 して,昨今の地域金融機関に関す る研究で は,地域経済 間の不均等発展 の是 正を背景 に,地域経済の一員 と して地域金融機関の果 たすべ き役割や地域活性 化 に向けての地域金融機関のあるべ き姿が強調 され,行動空間 としての 「地域」

の存在 とそ こに定在す る経済主体 としての側面を強 く意識 した もの とな ってい る。

そ うした反面,地域金融機関に関す る理論研究においては,分析の力点が専 ら金融機関の主体的側面 に置かれ,行動の展 開の 「場」 としての 「地域」 は末 だ国土の部分空間 として一般的 ・抽象的に認識 され るにす ぎない。実証研究に おいて も,金融環境の変化 に対す る地域金融機関の対応 に焦点が当て られ,行 動の 「場」 としての個 々の地域が顧み られ ることはない。 このため, 「地域的 視角」 といって も,それはまだ方法論的に整備 された ものではな く,いわば着眼 点 とで もい うべ き域 にとどまっているのが現状である

もちろん,地域金融機関に関す る研究以前 において も,個 々の地域の金融的特 性を取 り上 げた研究 は行われて きた。だが,その ほとん どは 「地域」 とい う言 葉の もつ空間限定性 にむ しろ拘泥 し,金融構造の現状分析 をテーマ として掲 げ なが らも預貸構成の地域的特性の抽 出に終始 しているのが現状である。尤 も, 預貸構成を金融構造の表象 として捉 え るな らば,それ は地域金融の構造分析の 一環をなす ものである しか し,それで もなお現状 は 「事実を事実 として捉え る」段階にとどまってお り,その形成論理や,金融の地域構造を視野 に入れた地 域金融問題の所在把握 については残 された課題 とな っている。

このよ うに,地域の金融構造 とは如何な るもので,そ こにはどのよ うな問題 が内在 しているのか,地域金融問題 の解決 に向けて地域の金融構造 はどうある べ きか といった 「地域的視角」か らの研究 は,これまで,理論的に も実証的に も ほとん ど等閑視 されて きた。本稿 は,こうした従来の地域金融研究の在 り方 に 対す る問題提起であ り, これまでの研究が軽視 して きた 「地域的視角」か らの

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222 第46巻 第 2 ・3

分析 フレームワークを構築す るひとつの試みである。過密 と過疎,都市 と農村, 地域間格差 といった言葉で一般的に捉え られてきた地域問題を金融面か ら是正

し,地域経済の内発的発展を展望す るためには,地域金融に課せ られた課題をよ り具体的な位相 において把握す ることが必要 となろ う。それゆえ,「地域的視 角」か らの地域金融研究 は,地域的金融圏の重層的構造 としての金融の地域構 造を射程に入れなが らも,個 々の具体的な地域の金融構造分析か ら出発すべ き であると考える。

ここでの分析の大枠 は,銀行資本の蓄積運動‑地域の金融構造‑地域金融問 題 とい う連関によって与え られる。すなわち,地域」を自らの展開圏域の一部 分 として編成 ・再編す る銀行資本の蓄積運動 に着 目して,こうした運動 によっ て創 り出される地域の金融構造を縦 (金融仲介機能のワーキ ング‑機能軸) と 横 (金融仲介機能の空間的展開‑空間軸)の両軸か ら解明 し,それ との関連にお いて,地域金融問題の所在を具体的な 「地域」の次元で明 らかに しようとする

ものである

こうした問題意識の もと,まず Ⅰではこれまでの研究を概観す る。続 くⅡで は,これまでの研究における分析視角を問い直 し,地域的視角」か らの地域金 融研究の再構築を提起す る。 ⅢおよびⅣでは,地域の金融構造の動態的側面を なす銀行資本の蓄積運動 について,これを機能的な側面 と空間的な側面か ら考 察す る。Ⅴでは,ⅢおよびⅣにおける考察を踏まえて,銀行資本の蓄積運動を基 軸 に据えた分析 フ レームワークの素描を試み る。最後 に,残 された課題を述べ て,むすびにかえる。

Ⅰ.これまでの研究

わが国の地域金融 に関す る研究の系譜を辿 ると,そ こには相対的に独 自なふ たっの流れ 一金融論研究者 によるアプローチと地理学研究者 によるアプローチ ーをみいだす ことがで きる。まず は,金融論研究者 によるアプローチを概観す ることか らは じめよう

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地域金融構造へ のアプ ローチ (Ⅰ) 223

金融の地域構造を巡 って

地域金融に関す る金融論の立場か らの研究 は,高度成長期‑1960年代 一に深 刻化す る経済活動の大都市集中と,地方 における第一次産業および地場産業の 停滞,それに伴 う大都市 と地方の間の著 しい所得格差を背景 に,主 として金融の 地域構造を巡 って展開 して きた。いうまで もなく,一国の金融構造 は国民経済 の実物的側面の反映であるとともに,実体経済の変化や発展 を促進す るメカニ ズムの一翼を担 っている それゆえ,所得の地域間格差の縮小,産業の地域的な 再編を図 るに際 して は,まず,国民経済の地域構造が金融面 にどのよ うに反映 し,また金融の如何 なるメカニズムが経済の地域間格差を実現 して きたかを究 明す る必要がある。

このような問題意識の もと,わが国の金融の地域構造を実証的に取 り上 げた 先駆的研究 として川 口 1961〕が挙 げ られ る。川 口 1961は国民経済的資 金循環の観点か ら,産業の二重構造を反映 して,大都市 に所在す る都市銀行 と地 方に基盤をお く地方銀行 ・相互銀行 ・信用金庫 ・農協等 との間にいわゆる 「 融の二重構造」が形成 されてきたこと,そ して,このような金融の地域構造が, コール市場 に歪み‑コール ・レー トの高騰 と取 り手 ・出 し手の硬直化 ‑を もた らした一因であることを明 らかに した。 この 「金融の二重構造」論を契機 に, 以後,資金の地域的偏在を巡 る研究が展開す る。

資金の地域的偏在をは じめて取 り上げたのは,三菱銀行調査部 1962であ 1)。 1962では,これを財政収支 と銀行券発行の地域別動向‑ 5大都市 における財政揚超 ・銀行券増発 と地方 における財政散超 ・銀行券増発 一に起因 す る資金繰 りの恒常的逼迫か ら説 明 した。荒川 〔1965は,都市銀行 のオ ー バーロー ンが地域別資金需給を原因の一半に もつに して も,その根底 には大企

1)資金偏在 については,問題の捉え方如何によって,地域削,金融機関別,企業規模別 等の側面があ る。 ちなみに,機関的偏在の理論的 ・実証的考察 については,渡辺

1965,山田1965〕,三和銀行調査部1965〕,鈴木淑夫 1966〕第 1章および補論, 鈴木金三 1968〕第3章および第 5章を参腰。 この うち,鈴木淑夫 1966は,餐 金の機関的偏在 と地域別資金需給構造の問には,一義的な因果関係が存在 しない こ

とを明 らかに している。

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224 第 46巻 第 2 ・3

業中心の旺盛 な投資活動 に対応 した過大な信用供与があった ことも併せて強調 す る。全国地方銀行協会 1966〕は,こうした地域別資金需給 に依拠す る資金 偏在論 に真 っ向か ら対立 した。すなわち,資金偏在を惹起す る構造的要因すべ てにつ いて反論を加 えたのち,資金偏在の原因を都市銀行の貸出態度 に求 めた のである。石黒 1966〕は,こうした 「犯人探 し」的な一連の論争を批判 して, 資金の地域 的移動を経済の実体 に即 して把握す るなかか ら2)大企業 による企 業信用供与,本支店信用の動向を資金偏在の原因 として重視 した。泉 1974

は補論「金融の地域構造」のなかで,大都市 と地方の問の資金偏在を取 り上 げ, 在がなぜ生 じたかについては,金融機関の資金 ポ ジシ ョンや経済力の大都市集 中だけで説明 しきれるものではな く,企業の資金調達行動,さ らにはその背後に ある都市銀行の融資態度 にも起因す るところが大 きいとみた。

資金偏在論以外 に も,金融機能の地域 的差異 に関す る研究がい くっかなされ ている。御友 1963〕は地域格差の問題 を貯蓄の地域構造 として捉え,貯蓄の 地域格差が県民所得水準の格差を反映す ることを統計的に明 らかに した。沖中

1965‑ 66〕は預貸金の地域構造 を預金 の所得弾力性 と地域別預貸率 の連動 性か ら捉え,県民所得水準が高 いほど預金 の所得弾力性が大 きい こと (逆 は 逆),東京 ・大阪 ・愛知 の3都府県 に所在す る都市銀行 とその他 の道府県 に所 在す る地方銀行の預貸率の動 向が逆行す ることを明 らか に した。篠原 1965〕

は預貯金残高比率や預貯金性向に指標 され る預貯金 ビヘイ ビァの地域差を取 り 上 げ,法人預金の比重の高い大都市 はど預貯金残高比率や預貯金性向が高 く,し か も預貯金性向の変動が大 きい ことを指摘 している。 また浜田 1971は, 券市場における中央市場 と地方市場の分化 と中央市場への取引の集 中化傾向の なかで,大阪証券市場の位置づ けを明 らかに した。

2)三菱銀行調査部 1962,荒川 1965,全 国地方銀行協会 1966〕が国民経済的資 金循環の立場か ら資金偏在を論 じてきたのに対 して,石黒 1966〕およびと中山

1965〕は,むしろ地域の金融的特性に注目して,地域における「モノ」の流れと 「 ネ」の流れとの絡み合いから,これを論 じている。なお,こうした金融の地域構造に 対するふたっの分析視角を最初に提示 したのは川口 1961〕である。

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地域金融構造へのアプローチ (Ⅰ) 225

地域開発金融を巡 って

経済発展の地域格差 に対 しては,その是正策 としての地域開発 一過密化 した 大都市の再開発 と地方開発 ‑が要請 され る。金融論の立場か らも,地域開発金 融の実態や地域開発を巡 る資金的諸問題について,い くつかの研究が行われた。

しか し,地域開発の概念 ・理念が時代 とともに変化 して定着をみなか ったこと, 地域開発金融における金融 と財政の不即不離の関係を一義的に説明す るには困 難が伴 うこと等か ら,その体系的な展開には至 らなか った3)。 そ うしたなか, 域開発金融に関す る研究 は,主 として開発資金の調達問題 と地域開発投資の経 済効果を巡 って展開 した。

まず は,開発資金の調達を巡 る研究か らみてみよ う 広田 1964は地域開 発の金融的側面の問題点 として,①地域開発計画における見通 しの甘 さ,(診地蟻 開発資金の調達ルールの末確立,⑧地域開発資金の域 内循環か らの漏出 ・中央 への還流を指摘 した。小西 1964もまた民間金融機関の立場か らみた地域 開発の問題点 として,地域開発計画における資金調達見通 しの甘 さを指摘 し, 策的に誘導す るにとどまる民間資金調達の在 り方 に疑問を呈 している。その う えで地域開発資金の円滑な調達 に向けて,(丑地域開発 における官民協調体制の 確立,②地域的な金融市場 一地方債市場 ‑の創没,③地域開発 ビジョンの明確化 を提言 している 奥村 1964は民間金融機関における地方債資金 ・地方公 共団体向け貸出の増加 とい う事実認識を踏まえて,地域開発のために必要な資 金をどのような原則を以て調達すればよいか とい う問題を提起 した。その うえ で,開発資金の調達に際 しては,民間企業‑の産業資金供給に無理な歪みを与え ないような,円滑な展開を図ることが肝要であ り,そのためには通貨当局や地元 金融機関を中心に,市中金融機関,政府系金融機関 も加わ って,地域的な金融協 調の場を設 けることがひとつの理想であるとしている また,高橋 1977 坂本 1984,70年代以降における地方債の大量発行に着 目し,これが地域金 融市場 に与えたイ ンパ ク トを考察 した。

3)伊藤 1975,P.3およびp.69‑70

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次に,地域開発投資の経済効果を巡 る研究に目を移そ う 開発投資の乗数効 果を測定す るに際 しては,地域経済に固有の問題が生 じる。・それは,地域経済の 非封鎖性 ・他地域‑の依存性か ら乗数過程の各局面 において漏出が発生 し,そ の波及効果の全体を通常の封鎖的乗数あるいは貿易乗数のかたちで定式化す る ことができないとい うことである。宮津 1960〕は,こうした漏出効果を含め た地域乗数を定式化 した先駆的研究である。坂下 1962は,財政資金の散超 および中央銀行貸 出の増加が地域経済の活動水準に及ぼす効果について,地域 乗数の理論 と金融乗数の理論を統合 したモデルを構築 した4)。 開発投融資効 果の実証研究 としては,九州地域の産業連関表 に基づいて 日本開発銀行 による

開発融資の効果を測定 した九州経済調査会 1965〕,ボーッ ・坂下モデルに基づ いて北海道 ・東北地域 における開発融資の効果を測定 した金融効果測定委員会

1973〕がある5)0

また,地域 開発金融 に関す る理論的な研究 もい くっかな されている 中山

1964は地域開発 に絡む問題の所在を資金の地域的循環 との関連で明 らか に した うえで,これを分析す る際のツールー地域現金需給バランス,地域マネー サプライ表,地域マネーフロー表,域際収支バランスーの提示 と,それに基づ く 実証分析を展開 した。 日下 1967は地域開発金融の特質を踏 まえて,地域開 発 と開発金融が抱える諸問題を包括的に整理 した。 また伊藤 1975は,地域 開発主体の性格か ら地域開発金融を3つの範噂一政府主導型,民間主導型,政府 民間協調型 一に類型化 し,地域開発金融の実態を分析す る際の視点を提示 した。

金融の地域的特性を巡 って

金融の地域構造や地域開発金融に関す る研究 と相侯 って,金融の地域的特性 に関す る研究 も行われている。なかで も,地域開発 との絡みで,北海道の金融

4)中山 1964〕補論 は,坂下 1962〕をベースに,地域金融乗数を平明に解説 してい る。

5)地域開発投資の経済効果 に関す る文献 については,国際基督教大学計量経済学研究 1973‑74〕が詳 しい。

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地域金融構造へ のアプローチ (Ⅰ) 227

に関す る実証分析が比較的数多 くなされて きた6)。 北海道 に関す る一連 の研 究 は,直接的には,北海道開発の資金的基礎 の解 明を意図 した ものであったが, そ こで明 らかにされた北海道の金融的特質 は資金の地域的偏在 一資金の東京一 極集中一と表裏をなす ものである。

三宅 1960〕は,預貯金 および貸 出統計 を精査す るなかか ら,1950年代 の半 ばにおける北海道金融の後進的特質 として,(丑当座預金の相対的不足性,②金融 機関の高金利性,(卦預貯金の相対的不足性,④産業別貸 出の不均衡性,⑤ 中小金 融機関の相対的優越性,⑥産業資金の季節変動性を指摘 した7)。 吉野 1960〕

は北海道 における金融機関別預金 ・貸出金の季節 ・趨勢変動を全国 と対比する なかか ら,①北海道の地場産業 と密接 に関連を もち,全国比停滞傾 向にある中小 金融機関,②全般的には全国的な景気循環 によ り強 く支配 されなが らも全国 ・ 道 内 シェアを低下 させて きた金融機関,③ これ らを補完す る政府 および政府系 金融機関 とい う3つのタイプの金融機関 グル‑プを析 出 し,北海道開発の急速 な進行 に比 して構造的 に立 ち遅れている北海道の金融 においては,政府系金融 機関の役割を重視すべ きことを主張 した。蝦名 1961は北海道経済の後進 性 と産業構造の特殊性 との関連 において,相対的に比重の高 い第一次産業向け

・中小企業 向け貸 出 と産業資金 の季節変動性を明 らかに した。中根 1962〕

は北海道経済の規模 (全国対比5%経済)に比 して相対的に低位 にある預貸金 を取 り上 げ,その原因を道民の高 い消費性 向 と全国平均 を上回 る日銀券の流通 を背景 とす る個人貯蓄形成力の弱 さに求めてい る。その うえで,北海道の開発

6)なお,北海道以外の地域を対象 とした研究 としては,資金の地域的循環の視点か ら九 州 の金融的特性 を明 らかに した九州経済調査協会 1961〕 と探町 1961〕,長野県 の産業構造 との関連で金融の季節変動を取 り上げた穂刈 1964,東北地方の金融構 造 を取 り上 げた吉 田 ・鈴木 1966〕,愛媛県 を対象 に地方銀行の役割を論 じた太 田

1985〕,同 じく愛媛県の農業を金融の側面か ら検討 した梶原 1985〕,全国12地域の データに依拠 して地域経済の実物面 における変動が金融面のそれと如何 に照応 して いるかを検証 した東 1964〕,全国を4つに分 けて地域 における産業構造 の変化 と 金融機関別預金の伸長の関連を考察 した原田 1964〕等がある。

7)三宅 1961)で は,北海道金融の後進性を同 1960〕 と同様 に指摘 した うえで, 海道の金融構造を分析す る際には,地域開発および資本形成 に重要な役割を果 たす 財政および道外か らの投資 との関連づけが必要であることを強調 している。

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に際 しては,こうした実情を勘案 して,その資金的裏打 ちに十分配慮すべ きこと を主張す る また妹川 1963は北海道金融 の特質 を資金循環 の形態 と金融 資産 の蓄積の両面か ら検証 し,そのなかか ら,(D現金通貨 に傾斜 した通貨構成,

②都市部 における信用取 引の発達 とその他 の地域 における現金取 引への依存, (卦全国平均を下回 る民間預貯金の蓄積,④貯蓄性向の低位 とその激 しい変動性,

⑤相対的に高 い中小金融機関の ウエイ ト,⑥民間資金の道外流 出 と公的資金の 道内流入,⑦相対的に低 い製造業向け貸 出のウエイ トを析 出 した。

また,国民経済 レベルの金融分析 において用い られた手法 一現金需給バ ラ ン ス,マネーサプライ表,資金循環表等 ‑を地域金融分析 に応用す る試み もなされ ている。その噂矢 とな ったのは,北海道の金融につ いて は じめて資金需給表 と 資金循環表‑59年表および60年表 ‑を作成 した 日本銀行札 幌支店 1961〕で ある8) 。 大島 1962〕は これに基づ く分析か ら,北海道金融の構造的特質 とし て,①貯蓄超過,②財政依存,③移入超過,④輸 出超過 一些少で はあ るが ‑,⑤著

しく高 い中小 ・系統金融機関のウエイ トを指摘 している。

北海道拓殖銀行調査部 もまた,途 中71‑ 77年度 の中断をはさむ60年度か ら83 年度 まで,北海道 の資金循環 について独 自の分析 を行 って きた。その最初の成 果が同行 1962〕 ‑60年度表 ‑である そ こで は,分析の第一歩 と しての現 金需給バ ラ ンスの分析 には じま り,これを市 中金融機関 レベルまで掘 り下 げた マネーサプライ分析,通貨需要サイ ドを射程 にいれた資金循環分析,そ して道外 との資金交流状況についての域際収支バ ラ ンス分析を以て完結す るとい う体系 的な構成が採 られている9)10)。細野 1973〕,60年度か ら70年度 までの11

8)わが国における最初の地域資金循環表は,山口県が経済企画庁経済研究所の協力を えて作成 した山口県1958〕‑57年度義一である。また,兵庫県については能勢1958

‑56年表‑がある。

9)北海道拓殖銀行方式の資金循環分析の基本的な考え方および諸表の作成方法につい ては,中山 1964〕第 3章がより詳 しい。また,その後における作成方法の変更に ついては,同行 1980〕を参照。

10)三宅 1962〕は,日本銀行札幌支店方式による現金需給表 ・資金循環表の作成方法 について,いくつかの問題点を指摘するとともに,それとの比較で,北海道拓殖銀行 方式の優位性について言及 している。

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地域金融構造へのアプ ローチ (Ⅰ) 229

問に亘 る同行の分析か ら,北海道のマネ‑フローの特色 として,(彰個人部門, 融部門,道外部門における資金余剰,②個人部門で賄いきれない不足資金の道外 一財政資金,企業間信用,本支店信用 一依存 と金融機関を経由す る資金の道外流 出,③中小金融機関の相対的地位の高まり,④法人企業の資金調達 における間接 金融の優位,⑤個人の金融資産選択 における現金通貨 と保険の高 シェアを挙げ ている。鵜飼 〔1986は主 として83年度表に依拠 しなが ら,北海道の域際収支 バ ランスと資金過不足状況を取 り上 げ,①資金余剰の大宗を占める道外部門 と 不足の大宗を占める政府部門,②相対的に低位 にある個人部門の貯蓄超過,③道 外部門における企業信用,本支店信用の伸び悩み,④銀行の資金流入増 と中小金 融 ・信託 ・保険の流出超過幅滅,系統金融の流出超過幅増を指摘 している。

北海道の金融に関す るこの他の研究 としては,戦前 ・戦後おける北海道の銀 行の消長を北海道経済の発展過程 との関連で論 じた沢 口 〔1968〕,北海道 にお ける金融の特色 ‑全国対比相対的に低位 にある預貸金,預貸金の札幌集中傾向, 中小企業向け貸 出における都市銀行 シェアの高 さ,使途別貸出金残高における 地方公共団体向け貸 出シェアの高 さ等 ‑を踏 まえて,北海道の金融機関のある べ き姿 を論 じた森 〔1980〕,北海道 における信用金庫の史的変遷 とその存在意 義を取 り上げた小西 〔1994〕がある。斎藤 〔1994C〕は,北海道金融の空間的側 面に着 目して,80年代後半以降における資金の道内移動の傾向 と道 内における 金融機関活動 の地域的差異を明 らかに した。 また,松本 〔1995ほ北海道 に おける公的融資 一簡易保険資金 一の役割を取 り上 げた。

地理学 か らのア プ ロ‑チ と最近 の研究動 向

地域金融に関す る研究の もうひとつ系譜 は,地理学の立場か ら金融の空間的 側面 一金融機関の配置やそれを基盤 とす る資金の地域的移動 ‑を捉えた もので ある。金融に主眼を置いた地理学的研究のサ‑ベイについては,高橋 〔1983 が詳 しい。 ここで は,それを補完す る意味で,その後の研究 について若干 フォ

ロー しておこう。

高橋 〔1983は全国銀行 と信用金庫を対象に,それぞれの地域構造を明 らか

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230 第46巻 第 2 ・3号

に した うえで,大都市地域 (東京),地方都 市 (茨城) お よび農 ・漁村地域 (茨城 ,千葉) における金融機 関の店舗網 の拡大過程,資金 の地域 的移動,そ し て金融機関の地域 的な役割 につ いて,実証 的な分析 を行 った。藤 田 ・千葉 ・大 1988は各種金融機関 の配置の歴史 的展 開 と資金 の地域 的移動 につ いて の包括 的な実証分析 か ら,わが国 におけ る中央集権 的 ・階層的金融空 間秩序 の 存在 を指摘 した。 また,資金 の地域的移動のなかで無視す ることので きない財 政資金 につ いては,伊東 1988が行政投資 と地域経済 の関係 に焦点 を当てて 論 じて い る。 山崎 1984は広 島県 にお け る金融機 関の店舗網 の史的展 開 に ついて,吉津 1989は中国 ・四国地方 における金融網の変動 につ いて,それぞ れ取 り上 げた。森 1994は,銀行 の店舗立地パ ター ンの分析 を通 じて都市 間の経済的連結関係 を考察 した。わが国の都市 間の連結関係 においては,東京 を頂点 とす る階層 的関係が支配的であ るが,そ うしたなかに も広域 中心都市 間 の水平的な連結関係が存在す ることを指摘 している。

以上 の諸研究 に加えて,最近で は,90 7月 に公表 された金融制度調査会金融 制度第二委員会 中間報告 『地域金融のあ り方 について』を契機 に,地域金融 に 関す る研究が新 たな展 開をみせてい る11)。同中間報告が注 目を集 めたの は, 域住民等 に対す る金融サー ビスの均房 と地域 間格差の是正 に対す る地域金融面 か らの貢献 とい う視点か ら,地域金融機関」 とい うカテ ゴ リーには じめて焦点 を当て,地域金融をその主体的 ・ミクロ的な側面か ら取 り上 げた ことによる

1990は,金融 自由化の進展 を背景 に金融資源 の東京一極集 中の傾 向が 強まるなか,これを是正 し,以て国土発展 の地域 的不均衡を均衡 ある各地域 の発 展へ軌道修正す ることが地域金融に課せ られた課題であるとの認識 を示 した う えで,地域金融機 関が地域金融を通 じて果 たすべ き役割 を論 じて い る。杉村

1991a〕もまた金融制度改革や金融革新等 によって経営環境が大 き く変化す る

ll)ちなみに,同委員会での審議 は,895月 に公表 された同委員会中間報告 『新 しい 金融制度について』における 「地域住民の利便を図 るなどの観点か ら,地域金融に 関 し,金融機関が補完的にどのような機能を担 ってい くべきかについて,金融制度 調査会の中に検討の場を設けるべ きである」 との考えを受 けたものである。

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地域金融構造‑ のアプ ローチ (Ⅰ) 281

なか,これか らの地域金融機関が構築すべ き地域戦略を取 り上 げ,地域社会 と の関わ りを徹底的に追求す ること一資金の地域内循環の強化,地域育成金融の 実践,高付加価値金融‑の転換,産学官協同態勢の構築 ‑が,地域金融機関生 き 残 りの鍵になると主張 している12)0

こうした理論的な研究 とともに,地域金融機関に関す る実証研究 もい くつか 行われている。大原 1992〕,1960年前後における広島県所在の地方銀行の 特質 について,これを資金偏在,支店網の拡大か ら明 らかに した。 また,村本

1993〕は東京都の地域信用組合 における規模の経済性を,宮越 1993〕 関東地域 と北海道 ・東北 ・甲信越 ・北陸地域 における信用金庫の規模の経済性 をそれぞれ測定 した。堀江 1995は,人 口の集中状況を 「地域性」指標 とし て,「地域性」 グループ毎の信用金庫の利益率に関す る規模の経済性を計測 し

た 。

さらに,金融の地域間格差を取 り上げた もの としては,貸出金利の地域間格差 を検証 した後藤 1990,都市銀行の地方進出に伴 う貸出金利の平準化 と地域金 融市場 における競争 の激化 を指摘 した村本 1991)がある。早瀬 1995〕 第 1章論点 1預金金利 自由化の浸透度」のなかで,預金金利の自由化の地域 的政行性を明 らかに している。金融の地域的特性を取 り上 げた もの としては, 東海地域の金融構造を考察 した千野 1990〕,三重県を対象 にその特色 と県下 の金融機関の動向を明 らかに した細野 1993〕,沖縄県を対象 に本土復帰を契 機 とす る金融構造の変化を分析 した竹味 1990がある13)0

12)同様の議論は,速水 1989〕や高田 1990〕において も展開されている。

13)地域金融 に関す る研究 は,この他にも,地域金融史や地方銀行行史 といった史的研究 が数多 くなされている。地方銀行史研究の最近の成果 として,戦後における役割 ・ 機能の史的展 開を網羅的に取 り扱 った地方金融史研究全編 1994を挙げてお こ

う。なかで も第 Ⅱ巻第6章では,地方銀行が地域で果 た して きた役割が取 り上げ ら れている。

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232 商 学 討 究 第46巻 第2・3

Ⅱ.地域金融研究の方法論的課題

このよ うに,わが国の地域金融に関す る研究 は,金融論 と地理学 の双方の研究 者 によ って,その成果を着実 に積み重ねて きた。 しか し,地域金融研究 とい うひ とつのカテ ゴ リーか らこれ らを傭轍 してみた とき,そ こにはい くつかの方法論 的課題が残 されている。

地域金融研究 におけるふたっの視角

これ までの研究 を 「分析視角」 とい う切 り口か らみてみ ると,そ こにふ たっ の分析視角の存在 を指摘す ることがで きる。 ひ とつ は,国民経済 レベルにおけ る金融の空間的展 開のなかで,配置」 と 「差異 ない しは格差」をキー概念 に地 域金融を捉 え よ うとす る 「国民経済 的視角」であ る。 もうひ とつ は,個 々の地 域 の実態や地域金融 ・地域金融機関のあ るべ き姿 の模索を通 じて地域金融を捉 えよ うとす る 「地域的視角」である14)15)0

1960年代以 降今 日に至 るまで ,わが国の地域金融研究のモチー フと して常 に 意識 されて きたのは,人 口と経済諸機能の大都市圏 とりわけ東京‑の集 中が も た らしたいわゆ る 「東京 プロブ レム」 とその対極で進行す る 「過疎化」の存在 である。 こうした問題意識 の下,地域金融研究 における当初 の関心 は,金融機能 の地域的差異が どのよ うな もので,それ は国民経済 の地域構造 ‑東京一極集 中

14)こうした分析視角の分類については,川口 1961〕および矢田 1982〕第2章第2 節か ら多 くの示唆を得ている。

15)しか しながら,これらふたっの分析視角はその着眼点においては異なるものの,必ず しも排他的な関係にあるというわけではない。というのも,国民経済的視角」に おいては金融の地域構造の展開論理のなかで個々の地域を位置づけるという研究方 向を,地域的視角」においては地域の金融構造の重層的な編成 として金融の地蟻 構造を捉えるという研究方向を採るならば,ふたっの分析視角が互い接近すること

は可能であると考えるからである。だが,川口 1961〕以降,こうした分析視角の方 法論的展開が意識されたことはほとんどない。そうしたなかにあって,方法論を踏 まえた地域金融研究としては,地域構造論」グループによる諸研究が挙げられる。

これは,矢田俊文氏の提唱 した 「地域構造論」アプローチに基づ くもので,その成果 は千葉他編 1988〕によって世に問われている。なお,地域構造論」の概要につ いてはさしあたり矢田編 1990〕第2章 (矢田俊文氏執筆)を参照されたい。

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地域金 融構造へ のア プ ローチ (Ⅰ) 233

の地域構造を どの くらい反映 した ものなのか とい うマクロ的な実態把握 に向け られた。 このため,川 口 1961〕を噂矢 とす る資金の地域的偏在や金融機能の 地域的差異を巡 る一連の研究では,地域的視角」 よ りも 「国民経済的視角」に 力点が置かれて きたのである16)。言 い換えれば,国民経済的視角」か らの分析 であれば こそ,資金の地域的偏在や金融機能の地域的差異を明 らかに し,わが国 における金融の地域構造の骨格を示 しえたのである

ところで,資金の地域的偏在や金融機能の地域 的差異 を取 り上 げた研究 にお いて は,主 として地域別現金需給バ ラ ンスと預貸率の動 向か らこれを捉えて き た17)。 しか しなが ら,地域別現金需給バ ランスや預貸率 に基づ く分析 は,金融の 地域構造 に対す るいわば一次的な接近 にす ぎない。 この全容を解明す るために は,地域別現金需給バ ラ ンスや預貸率 によ って集約的 に表現 され るところの 個 々の地域の金融構造 に注 目す る必要がある だが,一連の研究 においては, 融の地域構造なかでの個 々の地域の位置づけに対す る関心 は薄 く,それゆえに, 総 じて図式的な理解 にとどまらざるをえなか ったのである。

したが って,金融の地域的相互連関 とその全体的構造の解明を中心課題 とす る 「国民経済的視角」においては,問題 の所在把握 もよ り一般的なかたちで明 らかにされ るに とどまった。すなわち,東京 VS地方 とい う二項対立的構図の なかでの資金 の地域 的偏在や金融機能の地域 的差異 を指摘す るのがそれであ る。 しか も,「都市 の金融支配」 資金 の東京一極集 中」 とい う表現 に象徴 さ れ るよ うに,地域 はいっ も大都市圏ない しは東京 の裏側 にあ る存在 と して認識 されて きた。個 々の地域が意識 され るのは,「地域間の均衡 ある発展」 「国土 全域の総合的利用」 とい う基本命題 に照 らして,その後進性が無視 しえない場

16)尤 も,石黒 1966〕 と中山 1965において は,資金 の地域 的偏在 に対す る 「地域 的視角」が強調 されていることを注意 してお こう。

17)銀行券発行還収要因に基づ く地域的現金需給 の分析 については,鈴木 1963〕を参 照。北海道拓殖銀行調査部 1962〕および中山 1964〕第3章で は,銀行券発行還 収要因か ら洩れている市 中金融機関を通 じる財政資金 と,日本銀行 を経 由 しない市 中金融機関の資金繰 りを勘案 した現金需給バ ラ ンスを作成 している。 しか し,それ で もなお,日本銀行を経 由 しない銀行券の流出入 については,これを正確 に捕捉す る

ことは困難 である。

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234 46巻 2 ・3

合である。それゆえ,北海道や沖縄の開発 とそれに付随す る開発金融 はまさに 国民経済発展の基本課題 として捉え られてきたのである。

こうして,「国民経済的視角」か ら把握 された地域経済問の不均等発展 ‑資 金の地域的偏在 に対 しては,これを是正す るためのマ クロ政策すなわち地域 開 発が要請 され る。地域金融研究 において も,開発金融 に纏わ る諸問題,とりわけ 開発資金 の調達問題 と開発投融資の経済効果を巡 って,い くっかの研究がなさ れて きた。 ここでの基本的論点 は,次のふたっに集約 され る。すなわち,金融市 場 における民間部門の クラウデ ィング ・アウ トと政策的な投融資に裏付 けられ た開発支 出の乗数効果である。 「国民経済的視角」は開発金融に関す る研究に おいて も貫かれ,開発金融問題 は専 ら国民経済 レベルの政策金融の課題 として 捉え られて きたのである。

地域的視角」か らの諸研究

次に,地域金融研究 における 「地域的視角」についてみてみよ う地域的視 角」か らの研究 もまた,「国民経済的視角」か らの研究 と時期を同 じくして,60 年代 は じめか ら行 われて きた。 しか しなが ら,開発 との絡みで多数行われて き た北海道金融に関す る研究を除けば,その数 は少な く,分析対象地域 に著 しい偏 向がみ られ る。そ うしたなかにあ って,「地域的視角」か らの研究 は主 として 金融の地域的特性 と地域金融機関を主要 テーマに展開 して きた。

金融の地域的特性 に関す る諸研究では,60年代 においては地域産業構造 との 関連で金融の季節変動性 に,80年代 において は預貸構成の地域 的特性 にそれぞ れ焦点が当て られた。 しか しなが ら,これ らの研究においては,方法論 としての

地域的視角」が意識 され ることはほとん どな く,個 々の研究成果が金融の地 域的現象 についてのファク ト・ファイ ンディングの段階で散在 している状況に

ある18)。別 けて も,地域金融が総花的な地域総合研究の一環 と して取 り上 げ ら

18)金融の地域的特性 に関す る研究 に関わ らず,地域金融を扱 った諸研究 において,本文

・注 ・参考文献で先行研究を取 り上 げることが少ないの も, こうした状況のひ とつ の現れであろ う。

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地域金 融構 造へ の アプ ローチ (Ⅰ) 235

れた80年代 に この傾 向が著 しい。 これは,しば しば行政圏 としての地域の境界 性 とそ こでの特性抽 出が強 く意識 されたか らにはかな らない。行政圏 とい う空 間領域 にむ しろ拘泥 した結果,抽 出された地域的特性 の形成論理やそ こに内在 す る地域金融問題の把握については,いまなお残 された課題 とな っている。

ここで,金融の地域的特性の研究で取 り上 げ られ ることが圧倒的に多か った 北海道 について,若干言及 してお こう 北海道金融に関す る諸研究 は,金融の北 海道的特性を分析対象 とす る限 りにおいて,「地域的視角」か らの研究 として 位置づ け られ る だが,他方 においては 「国民経済的視角」の延長線上 に もあ る。それ は,研究の主眼が往 々に して北海道金融の後進性 と政府開発投融資の 国民経済的意義を説 くことに置かれ,その限 りにおいて北海道金融の特性が明 らかにされて きたか らである したが って,これを 「地域的視角」か らの研究 として捉え るな らば,そこに前述 と同様の課題を指摘す ることができる

他方,地域金融機関に関す る研究は,90年 7月に公表 された 『地域金融のあ り 方 について』をひとつの契機 に展開 して きた。 これは,地域間の格差是正 に対 す る金融面か らの貢献 と地域住民 に対す る金融サー ビスの均霜をモチーフとし ているとい う点で,「国民経済的視角か らの研究 と軌を一にす るものである

だが,その分析視角 は 「国民経済的視角」 とは明 らかに異 なる。そこでは,也 域経済 における地域金融機関の果たすべ き役割や地域活性化 に向けてのあるべ き姿 といった地域 に定在す る経済主体 と しての側面が強調 され,地域 の存在が まさに分析 の前提 とな っている。これは,地域経済間の不均等発展 に対す る「 民経済的視角」か ら「地域的視角」への転換 として捉え られ るものであろ う19)

しか しなが ら,そ こにおいて は,議論の力点が専 ら金融機関の側面 に置かれ ていることも,また事実である 地域 は金融機関の行動を空間的に制約す る国 土の部分空間 として,一般的 ・抽象的に認識 され るにす ぎない20)。 この点 につ

19)これを地域間格差 の是正 に対す る政策視角の転換 としてみ るな らば,「マ クロ的視 角」か ら 「ミクロ的視角」‑の転換 とも捉え られ る。

20)例えば,「その こと (市場取引による短期的 ・投機的な利益追求傾 向) 自体 を悪 い とはいえないが,やは り重点 はそれぞれの金融機関が基盤 としてい る各地方 の地域 にお くべ きであ り,まずそれ らの地域の資金需要の発掘 に最大の重点 をお き,地域渚

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