株 主 の誠 実 義 務(二)
出 口 正 義
序 論
第一章 日本法の現状 と問題点 第一節 社員権論争の発展
第二節 多数決濫用理論の発展(以 上33巻1号) 第三節 最近の動向
第一 款 総説 第二 款 信 認義務 理論
第三 款 支配的株主 の誠実 義務理論 第二章 ドィッ法
第一節 誠実 義務論生成 の史 的背景 第一款 法 の理念 と実際
第二款 風俗違反概念 の生成 とその問題点(以 上本号) 第二節 誠実義務の概念 とその法的基礎
第三節 誠実義務違反の法的効果 第三章 総括 と結論
第三節 最近の動向
第 一 款 総 説
日本 に おい て も株 主 が社 員 と して 行 為 し うべ き限 界 づ け を株 主 の 「義 務 」 と い う視 点 か ら理 論 構 成 す る試 み が み られ る。 ア メ リカ法 に お け る信 認 義 務 理 論Pお よ び ドイ ツ法 に お け る支 配 的 株 主 の 誠 実 義 務 理 論2,を 日本 法 に導 入 す べ
原 稿 受 領 日1983年3月30日
1)三 枝 一 雄 「支 配株主 と信 認義 務 一 支 配権濫 用抑 制の た め の 一 つ の 理 論 」 『法 律 論叢 』 第44巻2・3合 併 号137頁 以 下(1970),同 「ドイ ツ株 式 法 に お け る大 株 主 の 支 配権 抑 制 に つ い て 」 『法 律 論 叢』 第46巻5・6合 併 号3頁 以 下(1974)。
2)こ こで は別 府 教 授 の 一 連 の 論 稿 が 挙 げ られ る。 別 府 三 郎 「少 数 株 主 の 保 護 に つ い て 一 西 ドイ ツ新 株 式 法 を 中 心 と して 」 『法 学 論 集』(鹿 児 島 大)第5巻2号27頁 以 下 (1970),同 「西 ドイ ツの 株 主 の 機 能 につ い て 一 弱 小 株 主 の 地 位 を め ぐって 」 『法
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商 学 討 究 第34巻 第1号きで あ る と の主 張 が それ で あ る。 いず れ も支配 株 主 の支 配 権 限 濫 用 の 抑 制 を 目 的 とす る点 で共 通 して い る。
第二款 信認義務理論
一 信 認 義務 理 論 は,大 株 主 と小 株 主 との関 係 に信 認 的法 律 関 係(信 託 と信 頼 とが あ る人 か ら他 の 人 に対 して 置 か れ,そ の結 果 と して他 の 人 が あ る人 に対 して 圧 力 と優 越 とを 取 得 す る関 係)を 認 め,大 株 主 は信 認 義 務 者 で あ り小 株 主 の 利 益 に反 して 自 己の 利 益 を はか って は な らな い と説 く。 その根 拠 は,大 株 主 は 自 己 に集 中 させ た 強 大 な支 配 権 を行 使 で き るが その 支 配権 の う ち少 な くと も 小 株 主 か ら委 託 を う けて これ を 代 位 行 使 して い る もの で あ り,強 大 な 支配 権 の 集 中 の ゆ え に大 株主 は 自己 の 利 害 を 会 社 の 利 害 と して 主 張 す る こ と もで き小 株 主 に対 し高 度 な 圧 力 と優 越 を 有 して い る とい う点 に 求 め られ て い るn。 そ して 論 者 は,ど の よ うな 場 合 に信 認 義 務 が 認 め られ るか の基 準 は一 義 的 に 明 白 に で き な い と し な が ら も2},そ れ に つ い て は 具 体 的 ケ ー ス の 積 み 上 げ に よ って 明 確 に す れ ば よ く,大 株 主 の支 配 権 の濫 用 に対 し小 株 主 が保 護 され るべ きで あ る な らば理 論 に若 干 弱 い点 が あ って もそ の 抑制 の た め 日本 で も採 用 され るべ きで あ 学 論 集 』 第10巻2号81頁 以 下(1975),同 「弱 小 株 主 の 積 極 参 加 とそ の 意 義 一 経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の研 究(そ の 一)」 『法 学 論 集 』 第11巻1号47頁 以 下,第12巻
1号37頁 以 下(1975,1976),同 「大 株 主 の 積 極 的 義 務 につ い て の 一 試 論 一 経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の 研 究(そ の 二)」 『法 学 論 集 』 第13巻1号27頁 以 下(1978),同
「株 主 簡 の 直 接 的 法 律 関 係 の可 能 性 一 大 株 主(ま た は支 配 株 主)の 積 極 的 義 務 に つ い て の 一 試 論 」 『私 法 』 第41号70頁 以 下(1979),同 「大 株 主(ま た は 支 配 株 主) の 抑 制 法 理(積 極 的 義 務)の 展 開(英 米 法 に 関連 して)一 経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の 研 究(そ の 三)」 『法 学 論 集 』 第14巻2号3頁 以 下(工979),同 「大 株主(ま た は 支 配 株 主)の 行 動 規 範(積 極 的 義 務)を め ぐる一 考 察(ス イ ス会 社 法 上 の 誠 実 義 務 に 関 連 して)二 経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の 研 究(そ の 四)」 『法 学 論 集 』 第15巻2号31 頁 以 下(1980),同 「多 数 者(多 数 所 有 者)支 配(=法 律 上 の 支 配)に 問 わ れ る
「一 定 の 具 体 的 理 由 」 とは 一 西 独 判 例 研 究 を 契 機 と して 一 ・経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の 研 究(そ の五)」 『法 学 論 集 』 第16巻2号1頁 以 下(1981)。 な お 有 限 会 社 社 員 の 誠 実 義 務 と関連 して ドイ ツ法 を紹 介 す る もの と して,早 川 勝 「コ ン ツ ェル ンに お け る有 限会 社 の 過 半数 社 員 の 誠 実 義 務 につ いて 一ITT事 件 判 決 を 手 が か り と し て 」 『下 関 商 経 論 集』 第20巻2号61頁 以 下(1977)が あ る。
1)三 枝 一 雄 「支 記株 主 と信 認 義務 一 支 配 権濫 用 抑制 の た め の一 つ の理 論 」 『法 律 論 叢』 第44巻2・3合 併 号176頁,177頁(1970)。
2)三 枝 ・注1)178頁 。,
る とす る3⊃。 この 点 で は 信 認 義 務 理 論 も 日本 の伝 統 的 社 団 理 論 の 内包 す る 問題 と共 通 す る もの が あ る。 な ぜ な ら,す で に み た よ うに後 者 もま た 「会 社 の 利益 」 概 念が あ い ま い な た め に どの よ うな場 合 に 「会 社 の利 益 」 の侵 害 が あ っ た と い
え るの か 不 明確 で あ り,結 局 そ こで もま た具 体 的 な判 例 の積 み重 ね に期 待 せ ざ る を え な い のが 実 情 だ か らで あ る。
二 と こ ろで 信 認 義 務 理 論 の導 入 を 強 調 す る理 由 は つ ぎの 二 点 にあ る。 第 一 に,大 株 主 の 支 配 権 濫 用 に よ る第 一 の 被 害 者 は 少 数 株 主 で あ り,そ こで 激 し く 対 立す るの は大 株 主 の 利 害 と小 株 主 の それ とで あ るの に そ こに株 主 の個 別 的利 益 を こえ た会 社 の 利 益 と か企 業 自体 の 理 論 を もち 出す こ とは 真 の 利 害対 立 の 諸 相,誰 と誰 の利 害 が どの よ うに対 立 しそ れ が どち らに有 利 に解 決 され る結 果 と な って い るか を 隠 蔽 す る こと に な る。 第 二 に,問 題 を株 主権 一般 の 問題 と して と らえ る こ とは,そ れ ほ ど大 きな弊 害 を生 じて い る と も思 え な い少 数 も し くは 単 独 株 主 権 の濫 用 を ク ロ ー ズ ア ッ プ させ る こ とに な り真 の 問題 で あ る大 株 主 の 支 配権 濫 用 へ の 注 視 を 弱 め る結果 に な る41。
この 批 判 は一 般 論 と して は た しか に正 当 な指 摘 を 含 む もの とい え る。 従 来 の 伝 統 的 社 団 理 論 は,法 規 制 が そ うで あ るの と同 様 に5,株 式会 社 を 典型 的社 団 お よ び独 立 した会 社 と い う もの を基 本 的 枠 組 み と して 発 展 して きた もの で あ り, したが って 今 日そ れ が 経 営 者 支 配,資 本参 加 を挺 子 とす る企 業集 中 の進 展,さ ら に社 団 の 実態 を伴 わ な い小 規 模 個 人 企 業 的 な会 社 の氾 濫 とい う経 済 的社 会 的 実 態か ら生 ず る 関係 人 の 利 害 調 整 を有 効 か つ適 切 に解 決 す る た め の基 礎 理 論 と して必 ず し も十 分 に 即 応 で き な くな りつ つ あ る こと は否 定 で き な い。 と りわ け, 今 日,小 規 模 会 社 の債 権 者,従 属 会 社 お よ び その 局 外 株 主 も し くは債権 者 さ ら
に は公 開 会 社 に お け る一 般 株 主等 の利 益 保 護 の ため の 新 た な法 理 論 お よび 立 法 が 望 まれ る ゆえ ん で あ る6}。
3)三 枝 ・注1)178頁 。 4)三 枝 ・注1)174頁 。
5)山 口賢 「会 社 の 支 配 ・従 属 関 係 と 取 締 役 の責 任 」 『法 学 論 叢 』 第83巻3号43頁 (1968)。 な お,第 二 章 第 一 節 第 一 款 参 照 。
6)こ の点 に つ い て は,と くに前 田 重 行 「ドイ ッ株 式法 に お け る コ ン ツェ ル ン規 制 」『法
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商 学 討 究 第34巻 第1号三 しか し,信 認 義務 理 論 に対 して は,そ の 導 入 す べ き理 由 お よ び そ の 理 論 自体 に つ いて 疑 問で あ る。 前 者 につ いて い え ば,伝 統 的 社 団 理 論 の意 義(成 果) と 限界(問 題 点)を 明確 に しない まま に一 般 的 抽 象 的 に そ の今 日的妥 当性 を 問 う こと によ って それ を 排 斥 す る態度 に 問題 が あ るη。 ま た支 配 権 濫 用 の 抑 制 の 目的 を 実 現 す る うえ で 両 者 に お いて ど の程 度 の差 異 が あ る のか も明 らか で な い 。 た しか に信 認 義務 に よ り大株 主 の小 株 主 に対 す る損 害 賠 償 責 任 を 根 拠 づ け,そ れ によ って 支 配権 の濫 用 を抑 制 せ ん とす る の は理 解 で き な くはな い が,し か し 前 述 した よ うに ど の よ うな場 合 に信 認 義 務 が 生 じ,ま た は どの よ うな 損 害 に対
し賠償 義務 が 生 ず る の かが 明 確 に され な いか ぎ り説 得 力 を 欠 くで あ ろ う。
ま た信 認 義 務 の 概 念 も漠 然 と して お り,そ の よ うな もの を大 株 主 と小 株 主 の 間 に認 め る こ と に は問 題 が あ る。 と く に大 株 主 の 支 配権 能 の一 部 は小 株 主 の 委 託 に よ る もの で あ る とす るが,そ れ は 著 しい 擬 制 で あ る。 それ を認 め る こと は, いわ ば株 主 相 互 の 誠 実 義 務 を根 拠づ け るた め に株 主相 互 に 直接 の法 律 関 係 を 認 め る こ と と同 程度 に また は そ れ以 上 に 困難 で あ る。 信 託 に お け る受 託 者 と受 益 者 の 法 的 関 係 を 大 株主 と小 株 主 との 間 に認 め る こ とに は理 論 的 な飛 躍 が あ る。
ドイ ツ法 にあ って もた とえ ば ドルパ ー レ ン も株 主 間 に信 託 関 係 を 認 め る こ とに よ り株主 相互 の誠 実 義 務 を根 拠 づ けん と試 み たが 支 持 さ れ る こ と は な か っ た (第 二 章 第 二 節 第 二 款 参 照)。 も しそ れ を認 め ん とす る な らば,よ り詳 細 な説 得 的理 由づ け が必 要 で あ る8}。
学 協 会 雑 誌 』 第84巻12号64頁(1967)参 照 。
7)日 本 で は従 来 戦 後 の ア メ リカ法 の 導 入 ま た は 西 ドイ ッの コ ン ツ ェル ン立 法 等 に 強 く 影 響 され た こ と も あ って か,全 く とい って よ い ほ ど 日本 の 伝 統 的 社 団理 論 の厳 密 な 検 討 と い う作 業 が な いが しろに され て き た傾 向 が あ る とい え る。 結 論 を急 ぐあ ま り 安 易 な 外 国 法 の 法 技 術 お よ び原 理 ・原 則 の導 入 は慎 む べ き で あ ろ う。
8)ア メ リカ 法 に お け る支 配 株 主 の信 認 義 務(忠 実 義務)を 日本 法 の解 釈 上 採 り入 れ る こと に対 して は,学 説上 一 般 に困 難 と さ れ て い る。 そ の理 由 と して と くに,わ が 国 の多 数 説 が 社 団的 構 成 に徹 して い る こ とが 指 摘 され る。福 岡 博 之 『金 融 ・商 事 判 例 』 283号7頁(1971),蓮 井 良 憲 「親 子 会 社 」 『新 商 法 演 習2』239頁(1974)。 な お ア
メ リカ法 に お いて 支 配 株 主 の 忠 実 義 務 と い う法 原 則 は,少 数 株 主 の 保 護 の み な らず 法 入 格 否 認 の 法 理 が 適 用 され る場 面,と りわ け法 人 格 形 骸 化 の 有 限 責 任 排 除 の 分 野 で 会 社 債 権 者 保 護 機 能 を 果 して きた もの で あ るが,こ の 概 念 はき わ め て 漠 然 と した 広 い概 念 で あ るこ とが 指摘 さ れて い る 。江 頭 憲 治 郎 ・『会 社 法人 格 否 認 の 法理 』43頁,
第三 款 支 配 的 株 主 の 誠 実 義務 理 論
一 い わ ゆ る 「充 進 され た会 社 法(社 団 法)上 の誠 実 義 務 」(以 下 積 極 的 義 務 と呼 ぶ)の 理 論 は,大 株 主 が 「一般 株 主 」以 上 に強 度 の 誠 実 義 務 一 自分 達 の もっ権 限 を他 人 が傷 つ け られ な い よ うな方 法 で 用 いな けれ ば な らな い義 務 一 を負 う こ とは一 般 論 と して構 成 で きな い と しなが らも,特 別 の 領 域 内で は あ る が 社 内体 制 支 配 的 大 株 主 の 弱小 株 主 に対 す る関 係 につ い て は会 社 法 上 元 進 され た信 義 則(誠 実,思 い や り,正 義公 正 と い っ た もの を 含 む原 則)が 肯 定 され る と説 くもの で あ る1}。 そ の理 由 と して,第 一 に大 株 主 に は 株主 平 等 取 扱 い の原 則 が あ りま た その 他 の 弱 小 株 主 に対 し社 員 た る利益 の最 大 限 の確 保 義 務 が課 さ れ て い る こ と,第 二 に こ う した命 題 が 西 独 株 式 法 第117条 で具 体化 され て い る こ と,す な わ ち 当 該 会 社 お よ び会 社 機 関 を利 用 して弱 小 株 主 を犠 牲 に した大 株 主 の 利 己 的利 益 追 求 禁 止 の 原 則 が あ る こ と,第 三 に積 極 的 義 務 は大 株 主 の株 式 市場 で の行 動 に もま た それ へ の 影響 領域 で も適用 され る こ とな どが 挙 げ られ て い る2㌔
二 しか し,こ れ も また その 概念 が 明 確 で な くその 理 由づ け に お いて も疑 問 で あ る。 と くに論 者 は 大 株 主 が 弱小 株 主 との関 係 で 「積 極 的 義 務 」 を負 う特 別 領 域 が 存 す るの で は な い か と説 かれ るが,大 株 主 とか 社 内 体 制 支 配 的 大 株 主 と は いか な る株 主 を い うの か31,さ らに特 別 領 域 と は何 か4}等 に つ い て は 明 らか で な い。 この 点 で や は り信 認 義 務 理 論 と 同様 の 問 題 を 含 ん で い る。
44頁,124頁,154頁,292頁,と くに302頁 ・303頁 参 照(1980)。 ア メ リカ法 で の 支配 株 主 の 忠 実 義 務 理 論 の 詳 細 に つ い て は,と くに神 田秀 樹 「資 本 多数 決 と株 主 間 の利 害 調 整(5・ 完)」 『法 学 協 会 雑 誌』 第99巻2号80頁 以 下 参 照(1981)。
1)別 府 三 郎 「大 株 主 の積 極 的 義 務 に つ い て の一 試 論 一 経 営 管 理 の 抑 制 措 置 の研 究 (そ のこ)」 『法 学 論 集』(鹿 児 島 大)第13巻1号50頁(1978)。
'2)別 府 ・注1)51頁 。
3)大 株 主 と か支 配 株 主 とか 弱小 株 主 とか い ってみ で も それ ら を概 念 規 定 す る こ とは 容 易 で な い。 株 式 所 有 の 分散 の程 度 に よ っ て は,株 主 の 支 配 力 は その 持 株 数 の 大 き さ に よ って 必 ず しも一 様 で は な いか らで あ る。 株 主 の 誠 実 義 務 に関 して は所 有 株 式数 の 大 小 ま た は 支 配 的 か否 か は ど うで も よ く,む しろ一 株 株 主 で あ って も誠 実 義 務 が 認 め られ る場 合 も考 え られ るの で あ る(第 二 章 第 二 節 第 四 款 参 照)。
4)別 府教 授 も 「特 別領 域 」 につ い て は 問 題 の 要素 が 多 い と して 立 ち 入 った考 察 を さ れ て い な い。注1)50頁 参 照 。
78 商 学 討 究 第34巻 第1号
積 極 的 義 務 の 理 由 づ け も説 得 的 で な い 。 そ の た め に株 主平 等 の原 則 が 挙 げ ら れ るが,そ の 原 則 に拘 束 され る主 体 は,株 主 の 法 的 ま た は実 際 的地 位 に影 響 を 及 ぼ す 地 位 に あ る総 体 と して の株 式会 社,そ の機 関 で あ る株 主総 会 お よ び取 締 役 会 も し くは 代 表取 締 役 で あ り株 主(ま た は大 株 主)は そ こに は含 まれ な い5}。
株 主 は株 主 平 等 の原 則 の保 護 の客 体 で あ る。 た しか に大 株 主 が 総 会 決 議 に よ り ま た は取 締 役 お よ び代 表 取 締 役 に対 し自 己 の影 響 力 を行 使 して 不 当 に 自己 の利 益 を追 本 しそ の 結果 他 の株 主 に不 利 益 が 与 え られ る場 合 に は,平 等 原 則 違 反 が 問 題 とな る。 しか しそ こで は大 株 主 が それ に違 反 したか ど うか で な く,法 的 に は会 社,株 主 総 会 ・取 締 役 会 ・代 表 取 締 が そ の原 則 に反 したか ど うか が問 わ れ る ので あ る。 これ に対 し,大 株 主 が 会 社 ま た は その 機 関 を通 じる こ とな く全 く 独 自 に行 動 しそ の結 果 他 の 株 主 に不 利 益 を 与 え る場 合 に は,株 主 平等 の原 則 は 機 能 しな い ので あ る。 した が って,大 株 主 に株 主 平 等 の原 則 の適 用 を認 め る こ と は主 客 転 倒 で あ り,ま た 弱 小 株 主 の 社 員 的 利 益 の 最 大 限 の確 保 義務 を認 め る に はよ り詳 細 な理 由 づ けが必 要 で あ ろ う。
つ ぎ に西 独 株 式 法 第117条 が 挙 げ られ るが,こ の 規定 は株 主 の他 の株 主 に対 す る義 務 を定 め た もの で な くむ しろ株 主 の 会 社 に対 す る責任 を定 め た もの で あ り,そ こか ら直 ちに 大株 主 の 弱小 株 主 に対 す る積 極 的義 務 を導 び くこ と は問 題 が あ る。 ドイ ツ法 の 通説 は,こ の規 定 の成 立 史 お よ び そ れが 株 主 だ けで な く第 三 者 の会 社 に 対 す る責 任 を も定 め る こ とか ら,そ れ は株 主 の誠 実 義 務 の 発 現 で
は な くむ しろ特 別 な 不 法 行為 規 範 で あ る と解 して い る6⊃。
5)拙 稿 「株 主 平 等 の 原 則 の 基 礎 理 論(1〕」 『旭 川 大 学 紀 要』 第7号63頁 以 下 参 照 (1978)。 な お 三 枝 一 雄 「支 配 株 主 と信 認 義 務 」 『法 律 論 叢』 第44巻2・3合 併 号176 頁(1970)。
6)A.Hueck,DerTreugedankeimmodernenPrivatrecht,S.15Anm.46
(1947)。 な お フ ッ クの この文 献 の 詳細 に つ い て は第 二 章第 二 節第 四款 参 照 。 ま た イ ンメ ンガ は1937年 株 式 法第101条(現 行117条)は 第三 者 の責 任 を含 め た こ と に よ り誠 実 義 務 の基 礎 か ら遊 離 した と評 す る。Immenga,Diepersonalistische
Kapitalgesellschaft,S.277.(1970)。 な お服 部 育 生 「事 実 上 の コ ンッ ェル ン に お け る従 属 会 社 の保 護(2}」.r法政 論 集 』(名 古 屋 大)第86巻192頁 以 下 参 照(1980)b
さ らに い え ば,誠 実 義 務 違 反 は本 来 的 に そ の行 為 の無 効 お よび 特 別 利 益 の 返 還 を 生 ぜ しめ る に と ど ま らず 当該 株 主 の 損 害 賠 償 義 務 を 生 ぜ しめ る もの で あ る。 しか も
三 支 配 的株 主 の 誠実 義務 理 論 の試 み も必 ず し も十 分 と はい え な い 。 論 者 が 指摘 す る よ うに た しか に株 主間 に は一 切 の法 律 関 係 はな く誠 実 義 務 一 積 極 的 義務 も存 しな い とい うい わ ゆ る絞 切 型 の解 答 を も って 終 り とせ ず,大 株 主 の 義 務 づ け論 と して 株 主 間 の法 的義 務 問 題 を検 討 す る必 要 が あ る との 問題 提起 は η, 伝 統 的 社 団 理 論 の 再 検 討 と りわ け株 主 の 義 務 的視 点 か らの 検 討 を 促 す 契機 とな り う る意 味 で は意 義 が あ ろ う。 しか し,そ の こ と と株 主 間 に 法 的 義務 関 係 を認 め う るか ど うか 実 際 に も その 必 要 が あ るか ど うか は 全 く別 問題 で あ る。 この積 極 的 義 務 づ け論 は それ に よ って 弱 小 株 主 に対 す る支 配株 主 の損 害 賠 償 責 任 を理 由 づ け る こ とを 目的 と して い るが,そ の 法 的 効 果 を 認 め る こと に急 な あ ま り積 極 的 義 務 の概 念 が 漠 然 と して お りま た そ の 理 由 づ け も説 得 的 で な い もの とな っ て い る。 す で に み た信 認 義務 理 論 と全 く同 様 の 問題 を 内包 して い る。 そ の原 因 は,株 主 の 誠実 義 務 の 論 点 で あ る株 主 の 権 利 の 本質 は何 か,株 主 が 社 員 と して 行 為 し うべ き 限 界 は ど の よ うに 画 定 され るべ き か とい う問題 の考 察 が 欠 けて い るか ま た は十 分 で な い こ とに あ る と思 わ れ る。 日本 法 で も ドイ ツ法 で も株 主 の 誠 実 義 務 論 は一 貫 して株 主 の権 利 の本 質 は何 か とい う視 点 か ら問 い返 え され,
そ れ に よ って 株 主 が 社 員 と して 行 為 し うべ き限 界 が 画 定 づ け られ か つ その 違 反 の法 的効 果 が 解 明 され て い る点 で 一 致 して い る。 しか も各 論 点 は個 々 バ ラバ ラ に他 と無 関 係 に考 察 され て い る もので な く,相 互 に密 接 に関 連 し合 って 一 体 と して 考 察 され て き た も ので あ り,そ の方 向 は正 しい もの と考 え る。 この よ うな 考 察 態 度 を踏 襲 す る こ と に よ りは じめ て,理 論 的 に も実 際 的 に も有 用 な誠 実 義 務 理 論 を構 築 し うる もの と考 え 弓。
議 決権 行 使 の 場 合 を と くに除 外 す る もので は な い。 した が って この か ぎ りで も西 独 株 式 法 第117条 は 株 主 の 誠 実 義 務 を 具 現 して い る とい え な い。 この 規 定 が と く に議 決 権 行 使 の 場 合 を 除 外 して い る こ と につ いて の 批 判 は 強 い 。 この 点 の 詳 細 は 第 二 章 第 三 節 参 照 。
7)別 府 ・注1)58頁 。
昂o
商 学 討 究 第34巻 第1号第 二 章 ドィ ッ法
第 一 節 誠 実 義 務 論 生 成 の 史 的 背 景 第 一 款 法 の理 念 と実 際
一1884年 株 式 改 正 法 の理 由書 に よれ ば ,「 すべての株主 は株主総会 での投 票 に際 して 会 社 の利 益 に よ り導 びか れ る と い うこ とが 承 認 され そ,は じめ て株 主 総 会 を会 社 の真 の意 思 を表 明す る会 社 の 機 関 と して 認 め る ことが で き る」 と 説 明 され て い るll。 この こ とか ら法 が その 当初 にお いて,株 主 の 議 決権 は会 社 の 利 益 の た め に行 使 され るべ き もの で あ る こ とを 要 求 して い た こ とは 明 白 で あ
る。 他 方 で また 法 は実 際 に もそ うな る こ とが 必 然 で あ る と考 え て い た の で あ る。
つ ま り法 が 多 数 決 支 配 を定 め る前 提 に は,「 株 式 会 社 に 参 加 す る株 主 は原 則 と して 投 票 に際 し会 社 の利 益 を助 成 しよ うとす る。 な ぜ な らそ うす る こ とが株 主 の 固 有 の 利 益 と も合 致 す るか らで あ る。 そ の よ うに して 多 数 派 が 決 定 した こ と は一 般 に会 社 の 利 益 に最 も良 く適 合 す る もの で あ る」 との 理 解 が あ った の で あ る2}。 この前 提 理 解 の 妥 当性 を 論 理 的 に保 障 す るた め に 法 は さ らに,株 式会 社 の標 準 タ イ プを 個 々 に影 響 力 の な い多 数 の 株 主 によ って 構 成 され,そ れ に よ っ て 変 動 的 多 数 派 形 成 が 可 能 と され る よ うな 会 社(社 団)と して 想 定 した の で あ る。 換 言 す れ ば,法 は株 式 会 社 にお け る多 数 決 原 理 の 妥 当 性 の 根 拠 を 多 数決 形 成 の 利 益 調 整 機 能 の 理 念,す なわ ちす べ て の 株 主 は 会 社 に参 加 す る こ とに よ り
1)DieBegrundungzurAktiennovellev.1884,Reichstagsdrucks,1884,Bd.3 Aktenst21S.346;W.Horrwitz,UberdieFreiheitderAbstimmungim Aktie且recht,JuristischeWochenschrift,1930,S.2642;Dorpalen,Die TreupflichtdesAktion互rs,1936,ZeitschriftfUrHandelsrecht,Bd.102, S.9.
2)A.Hueck,DieSittenwidrigkeitvonGeneralversammlungsbeschlUssen
derAktiengesellschaftenunddieRechtsprechungdesReichsgerichts,Die
ReichsgerichtspraxisimdeutschenRechtsleben,Bd.IV4929,S.173.大
隅 健 一 郎 『株 式 会 社 法 変 遷 論 』69頁(1953)。
同 一 の 目 的 を 追 求 す る,そ れ ゆ え 同 種 ・同 質 の 利 益 成 層(homogeneInteres一 Senschichtung)一 会 社 の 利 益 で 会 し て お り か つ 多 数 派 が 変 動 的 に 形 成 さ れ そ の下 で そ の つ ど決 定 が行 わ れ る とい う理 念 に求 め た ので あ る3}。
この 法 の理 念 か らま た そ れ と関 連 して 直 接 ・間 接 に二 つ の重 要 な教 義 が 確 立 さ れ る こ とに な る。 第 一 は個 別 的 ・具 体 的 な法 律 ま た は定 款 の 定 め に 違 反 しな い か ぎ り,多 数 派 の 意 思(利 益)が 会 社 の意 思(利 益)で あ る と い う教 義 で あ る。 第 二 は それ と関 連 して株 主 の唯 一 の義 務 は 出 資義 務 で あ り その 他 の 点 で は 株 主 は個 別 的 ・具 体 的 な法 律 ま た は定 款 の 定 め に拘 束 され るが,そ の 範 囲 内 で は完 全 に 自 由で あ る とい う教 義 で あ る4}。 だが これ らの 教 義 は,ひ に くに も法
3)Immenga,DiepersonalistischeKapitalgesellschaft,1970,S.262;H.
Wiedemann,Gesellschaftsrecht,Bd.1,1980,S.407,414.大 隅 ・注2)『 変 遷 論 』301頁,302頁,同 「い わ ゆ る株 主 の 共 益 権 につ いて 」 『会 社 法 の 諸 問 題 〔増 補 版 〕』115頁(1962)。 大 隅 博 士 に よれ ば 株 式 会 社 に お け る多 数 決 原 理 の 基 本 的 前 提 は,株 主 が 社 員 的 利 益 の 見 地 か らそ の権 利 の 行 使 を な す な らば 「そ の権 利 行 使 は 理 念 的 に は す べ て 共 同 の 目的 に お い て 結 ば れ て お り,現 実 に 株 主 の 間 に生 ず る意 見 の 離 隔 は そ の 目的 を 達 す るた め の 方 策 に 関 す るに 止 ま り,こ れ は 株 主 の 多数 に よ っ て 決 定 す べ きで あ る」 とい う こ と にあ る と解 され て い る。 同 旨,菱 田 政宏 『株 主 の 議 決権 行 使 と会 社 支 配 』33頁,34頁(1960)。
ち な み に この 見 解 は 多数 決 形 成 の 利益 調 整機 能 の 前 提 た る同 種 ・同質 の利 益成 層 を 会 社 の 利 益 で はな く 「社 員 的 利 益 」 ま た は 「株 主 と して の 利 益 」 と解 さ れ る点 に 特 色 が あ る。 た しか に株 主 の 権 利 行 使 は 理 念 的 に は共 同 目的(営 利 目的)で 結 ば れ て い る とい え るが,多 数 決 が 行 わ れ るそ の つ どの 決 議 の 内容 如 何 で は 株 主 が 常 に 社 員 的利 益(こ の概 念 も漠然 と して い るが)な る同 種 ・同 質 の 利 益成 層 で会 す べ き も の で な くま た そ れ は 妥 当 で な い。 多数 決 に 付 さ れ る個 別 的 ・具 体 的 な決 議 の 内容 の 有 す る 利益 の 法 的構 造 に よ って は,株 主 は 会 社 の 利 益 の 見地 か ら議決 権 を行 使 しな け れ ば な らな い 場 合 もあ る。 した が って,と くに 議 決 権 に つ い て は,そ の行 使原 理 を会 社 の利 益 か あ る い は社 員 的利 益 か と い うよ うに一 元 的 に 理解 す る の は 問題 で あ る。 い ず れ に せ よ,ま ず そ こで い わ れ る会 社 の 利 益 お よ び 社 員 的 利 益 な る主 観 的概 念 を法 的概 念 と して い か に 客 観化 す るか が 重要 な 問 題 で あ る こ とは い うま で もな い。
な お最 高裁 昭 和42年3月14日 判 決(民 集21巻2号378頁)は 議決 権 に つ き,株 主 は議 決 事 項 の すべ て に つ き会 社 の利 益 を 考慮 す る こ とは もち ろ ん で あ る が 同時 に
自己 の利 益 を 図 る こ と も当然 許 さ れ る もの と判 示 して い る。 ま た最 高裁 昭 和45年4 月2日 判 決(民 集24巻4号223頁)は 株 主 総 会 決 議取 消 訴権 に つ いて,こ の権 利 は 訴 提 起 権 者 の個 人 的 利 益の た めだ け で な く,会 社 企 業 自体 の利 益 の た め に あ る と判 示 す る。
4)た とえ ば ヅ ウ ー ル は 「構 成 員 は 自 己 の利 益 に導 び か れ る こと が で き金 銭 問 題 の場 合 に は 自 己 の利 己 的利 益 に導 び か れ る ごと が で き る 。決 議 は そ れ が 思 いや りの な い 多
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商 学 討 究 第34巻 第1号の理 念 を実 質 的 に弱 め る方 向 に作 用 す る こ と に な るの で あ る。
いず れ にせ よ,法 の理 念 お よ び そ こか ら直 接 また は 間 接 に導 び か れ た教 義 は っ ぎに み る よ う に実 際 に も夫 きな 影響 を 及 ぼ した だ けで な く,株 主 の権 利 行 使 の 実 質 的 な 限界 づ けへ の 理 論 的発 展 に 対 し阻止 的 に作 用 す る こ とに な るので あ
る 。
二 と こ ろで 前 述 の 法 の 理 念 は,当 初 か ら実 態 と大 き くか け離 れ て い た。 第 一 に株 主 が 投 票 に際 し会 社 の 利益 に導 び か れ る な ど と い う前 提 は,理 念 と して は と もか く実 際 に は 幻 想 にす ぎ な い。 なぜ な ら株 式 を取 得 す る者 は誰 もが 自 己 の 利益 の た め に 取得 す るの で あ り,彼 が 全 く面 識 も利 害 関 係 もな い他 の株 主 と 協 力 して 会 社 の 利 益 を助 成 す る ため で は な いか らで あ る5〕。 しか しま た法 も株 主 の利 己性 を あ る程 度 考 慮 して い た こ と は,旧 ドイ ツ商 法 第252条3項 の 議 決 権 排 除 規 定61か ら明 らか で あ る。 それ は会 社 の 利 益 と株 主 の 利 益 とが衝 突 し株 数 決 権 の行 使 で あ る とか,団 体 の利 益 に反 す る とか の理 由 で無 効 とな る こ とは な い。
多 数 派 の意 思 は た ん に 定 款 お よ び窮 極 的 に は本 来 的 に確 定 さ れ た 社団 目的 に よ って 制 限 さ れ る に す ぎ な い 」 と主 張 して い る。V.Tuhr,DieAllgemeineTeildes
deutschenBUrgerlichenRecht,Bd.1,1910,S.511,こ の見 解 が 法 の理 念 に' 逆 行 す る こ とは 明 白 で あ る。 そ こで は 多数 派 の意 思(利 益)は 会 社 の意 思(利 益) で あ る と い う公 式 が い わ ば法 の理 念 の前 提 が欠 落 した形 で 短 絡 的 か つ 露 骨 な まで に 貫 徹 され て い る。
5)W.Horrwitz,a.a.0.(N.1)ガS.2639;A.Hueck,a.a.0.(N.2),S.173, 174;Mestmacker,Verwaltung,KollzerngewaltundRechtederAktionare,
1958,S.343.こ の点 に 関連 して大 隅 博 士 は,そ れ は個 々の 株 主 の主 観 的 な株 式 取 得 の 動 機 論 と して は正 当 で あ るが,客 観 的 に与 え られ た 株 主 の 権 利 の 行 使 が もっぱ ら同 じ動 機 に従 っ て行 使 さ れ うる こ と を是 認 せ しめ る もの で な い と批 判 され,結 論 と して は 株 主 の 権 利 は 社 員的 利 益 の た め に行 使 され るべ きで あ る と主 張 され て い る (大 隅 ・注3)『 諸 問題 』114頁 参 照)。
6)旧 ドイ ッ商 法第252.条3項 は,決 議 に よ り免 責 され ま た は 義 務 を 免 れ る者,会 社 と 株主 との 法 律 行 為 の締 結 に関 す る決 議 の 際 の 当 該 株 主,会 社 と株 主 との 間 の 訴 訟 の 提 起 ま た は 終 了 に関 す る決 議 の 際 の 当 該 株 主 は,自 己ま た は 他 人 の た め に議 決 権 を 行使 で き な い 旨 を 定 め て いた 。 フ ッ クは,こ の 規 定 は 株 主 が 利 己的 な 動 機 か ら会 社 に参 加 した よ うに そ の 投 票 に 際 して も利 己 的 な 動機 か ら決 定 す る こ とを 立 法者 が顧 慮 した規 定 で あ り,し た が って この こ と か ら そ れ 以 外 の す べ て の 場 合 に議 決 権 は 禁 止 さ れ る こ と が な い とい う こ とが演 繹 し う るの で あ る か ら,そ の 場 合 に は 株 主 の 個 人 的 利 益 の 追 求 が 法律 上 許 さ れ て い る との推 論 が成 り立 つ こ とに な る と解 して い る。A.Hueck,a.a.0.(N.2),S.174.そ れ ゆ え こ の議 決 権 禁止 規 定 が実 質 的 に形 骸 化 さ れ そ の機 能 を 発揮 で き な くな った と き は,株 主 の利 己 的利 益 の 追求 に
主 が 会 社 の 利 益 に よ り導 び か れ な い こ とが 予 想 され る場 合 を事 前 に定 め,そ の 場 合 に当 該 株 主 の 議決 権 行 使 を禁 止 す る もの であ った 。 しか し,こ の規 定 は そ の 条 文 の 表 現 が一 般 的 ・抽 象的 で あ っ た こと も 〜ちって 当初 期 待 され た機 能 を 実 際 に 発 揮 す る こ とな く実 質 的 に形 骸 化 され て しま うの で あ るη。 第 二 に法 が 理 対 す る実 定 法 止 の 歯 止 め が欠 け る こと に な る こ と は 明 白で あ る。 こ こ に お いて この 規 定 の 形 骸 化 と並 行 し,と くに風 俗 違 反,誠 実 お よび 信 義 の 原 則,誠 実 義 務 ま た は 株 主 平 等 の 原 則 な ど の一 般 条 項 が 生 成 して き た実 際 的 要 因 をみ る こ とが で き るの で あ る。'Mesもm註cker,a.a.0.(N.5),S.267f.参 照 。
ち な み に 多 数 決 支 配 か ら個 人 を 保 護 す る方 法 と して は,歴 史 的 に は は るか 昔 か ら 存 在 して い た い わ ゆ る固 有 権 理 論 が み られ る。 そ れ は と くに 社 員権 の 中 で も当事 者 の意 思 に反 して 多 数 決 議 によ り剥 奪 しえ な い か ま た は 削 減 しえ な い権 利 を分 離 しよ うとす る理 論 で あ る。 した が って,固 有 権 は ま さ し く多 数決 支 配 の 限 界 を教 義 的 に 確 立 せ ん と した 最 初 の もの とい え る。 そ れ は,社 員 の 「団 体 か ら 自由 な領 域 」,す な わ ち団 体 的 制 約 に 服 しな い もの と解 さ れ た。 固有 権 理 論 は 株 式会 社 法 に あ って も 20世 紀 初 頭 まで 根 強 く存 在 した が,今 日で は そ の存 在 は承 認 され て い る もの の以 前 に較 べ て そ の 意 義 を 著 し く失 って い る。 そ の理 由 は,第 一 に 固有 権 と は具 体 的 に何 か,つ ま り あ る権 利 が 同意 な しに剥 奪 な い し削 減 し うる も のか を確 定 す る こ とが 非 常 に困 難 で あ る と い う点 に あ る。 第 二 に固 有 権(個 人 権)は 個 々 に具 体 的 か つ 静 的 (固定 的)に 確 定 され る もので あ る ため,総 会 決 議,業 務 執 行 お よ び支 配 的 社 員 の 多 様 な 影 響 力 行 使 か ら少 数 派 を保 護 す る に は ほ とん ど実 効 性 を有 しえ な い とい う点 にあ る。 これ と関 連 して第 三 に剥 奪 しえ な い権 利 の 意 義 は,そ の 後 と りわ け株 主 平 等 の原 則 の 承 認 お よ び発 展 に よ って 著 し く弱 め られ て い る点 に あ る。 この よ うな 理 由 か ら今 日で は 固 有 権 は特 殊 な 社 員 権,す な わ ち そ の 所 持 人 が 他 の 社 員 に 較 べ て優 遇 され る地 位 を 保 障 す る よ うな権 利(特 権)で あ る と解 され て い る。 ヴ ィー デ マ ン は,1920年 代 に 至 るま で ドィ ッの学 説 ・判 例 上 多 数決 支 配 に 対 す る少 数 派保 護へ の 要 求 が 盛 り上 が りを 欠 い て い た 原 因 の一 つ と して,と く に学 説 が 理 論 的 に は 不 適 当
な接 点 で あ る 固 有権 理 論 に 固 執 して い た点 を 指 摘 して い る。H。Wiedenfann,a.
a.0.(N.『3),S.409.固 有 権 理 論 に つ い て は つ ぎ の文 献 を参 照 さ れ た い。 竹 田省
「株 主 の 固 有 権 を論 ず 」 『商 法 の理 論 と解 釈 』48頁 以 下(1910),田 中耕 太 郎 「固 有 権 の 理 論 に就 て 」 『商法 学 特 殊 問 題 上 』185頁 以 下(1928)。 ドイ ツ の古 い文 献 につ い て は 田 中 博 士 の論 文 中 に挙 げ られ て い る もの を参 照 さ れ た い。 最 近 の も ので は, Mestm互cker,a.a.0.(N.5),S.7鉦;Zdllner,DieSchrankenmitglied‑
schafthcherSti鵬mrechtsmach七beidenprivatrechtlichenPersonenver‑
banden,1963,S。109ff;H。Wiedemann,a.a.0.(N.3),S.358ff.参 照 。 日 本 の もの で は,神 田 秀樹 「資 本 多 数 決 と株 主 間 の 利 害 調 整(一)・(二)」 『法 学 協 会 雑 誌 』 第98巻6号9頁 以 下,第98巻8号55頁 以 下(1981)参 照 。 な お 固有 権 理 論
と株 主 平 等 の 原 則 との 関 連 問 題 については,と くにGδtzHueck,DerGrundsatz dergleichmaβigenBehandlungimPrivatrecht,1958,S.88f.参 照 。 7)ド イ ツ法 に お け る議決 権 排 除規 定 の 形骸 化 の 発展 の詳 細 に つ い て は,と くに大 森 忠
夫 「株 主 総 会 に お け る特 別利 害 関係 者 の議 決 権 排 除 〜 比 較 法 的考 察 」 『民 商 法 雑
84 商 学 討 究 第34巻 第1号
念 と した多 数 決 原 理 の機 能,っ ま り変 動 的 多 数 派形 成 に裏 うち さ れ た 多数 決 の 利 益 調 整 機 能 も また 実 際 には 当 初 か ら期待 で き る状 況 に なか った ので あ る。 な ぜ な ら立 法 当時 に株 式 所 有 の 分 散 が み られ る会 社 は きわ め て わず か で実 際 は む し ろ コ ン ツ ェ ル ン お よ び 閉 鎖 的 ・同 族 的 会 社 が ほ と ん ど で あ っ た か ら で あ る8⊃。
この よ うな 実 際 を 無視 して 法 が そ の 理念 を貫 こ う とす る な らば,結 局 そ こか ら短 絡 的 に演繹 され た前 述 の教 義 と相 ま って,投 票 で 多 数 を 得 る者(多 数 派) が 会 社 の 利 益 お よ び 他 の 株 主 の 利 益 を 無視 して恣 意 的 に会 社 を支 配 な い し管 理 で き る こ とを 許 す こ とに な る。 そ れ が 現 実 の もの と して 象 徴 的 に現 わ れ た のが, 1908年 の 著 名 な ヒ ベ ル ニ ア 事 件 に 関 す る ラ イ ヒ裁 判 所 判 決9}で あ る 。 この 判 例 は 多 数 者権 の行 使 を 有 利 な ら しめ る傾 向 の典 型 例 と して 非 常 に有 名 で あ り,し た が って その事 案 お よ び 批評 の 詳 細 に つ い て は 日本 で も多 くの文 献 で 紹 介 され て い る エo}。こ こで は本 稿 との 関連 で必 要 とな る判 決 の要 旨だ け を示 す に と どめ る。 つ ぎ の よ うに判 示す る。 「会 社 の 問 題 に つ いて 必 要 な多 数 で な され た 決 議 は,そ れ が 少数 派 に と って不 合 理 で あ り経 済 的 に不 利 益 か つ 少 数 派 の 努 力 を 害
誌 』 第35巻6号27頁 以 下(1957),龍 田 節 「株 主 の 議 決 権 の 排 除 」 『 法 学 論 叢 』 第 64巻3号55頁 以 下(1958),拙 稿 「株 主 の 議 決 権 制 限 の 法 理 」 『 上 智 法 学 論 集 』 第 19巻1号94頁 以 下(1975)参 照 。
8)メ ス トメ ッ カ ー は,法 の 前 提 と す る 株 主 の 利 益 の 同 質 性 は 擬 制 で あ り,株 式 会 社 に お け る 議 決 権 自 由 は 利 益 の 平 衡(Ausgleich)を も た らす も の で な く,多 数 派 が 会 社 の 損 害 で 会 社 外 の 特 別 利 益 を 追 求 で き る 道 を 拓 く も の で あ っ た と 指 摘 して い る 。 Mestm翫ker,a.a.0.(N.5),S.343.さ ら に ま た,1884年 の 立 法 者 が 念 頭 に お い た 会 社 形 態 は 実 際 に は 多 数 の 中 の 一 つ に す ぎ ず,決 して よ く あ る タ イ プ で は な い の で,法 的 評 価 の た め の 推 論 を そ こ か ら演 繹 す る こ と は で き な い と 主 張 す る(a.
a.0,S.350)。 ヴ ィ ー デ マ ン も,立 法 者 が 念 頭 に お い た 形 態 は 「積 極 的 に 活 動 す る が しか し多 数 を 意 の ま ま に で き な い 株 主 か ら 成 る 公 開 会 社 」(Publiku皿sgese1‑
lschaftmitaktivt互tigen,aber冠berkeineMehrheitverf疑gendenAktio‑
n翫en)で あ り,し た が っ て 理 論 的 に は 「全 体 の 利 益 」(lnteressendesGanzen) の 存 在 が 主 張 さ れ た の は 当 然 で あ っ た と さ れ な が ら も,実 際 に つ い て は メ ス ト メ ッ カ ー と 同 様 の 指 摘 を して い る 。H.Wiedemann,a.a.0.(N。6),S.408,414,
415.参 照 。 な お 大 隅 ・注2)104頁 以 下,江 頭 憲 治 郎 『会 社 法 人 格 否 認 の 法 理 』45 頁 以 下(1980),神 田 ・注6)98巻8号94頁 参 照 。
9)RG68,241.事 案 の 詳 細 に っ い て は 龍 田 節 「資 本 多 数 決 の 濫 用 と ド イ ツ 法 」 『法 学 論 叢 』 第68巻2号56頁 以 下(〔15〕 事 件)参 照(1960)。
10)と く に 龍 田 ・注9)58頁,59頁 参 照 。
す る もの と考 え られ る場 合 で も少 数 派 を 拘束 す る。 この こと は,会 社 の 管 理 に つ き,ま た 会 社 お よび その 株 主 の 利 益 の た め に何 を な し何 を なす べ きで ない ふ に つ い て は株 式 所 有 の 多 数 が 決 定 す る とい う法 律 で 承 認 され た 原 則 の 必 然 的 帰 結 で あ る。 株 主 に な る者 は す べ て この事 実 を承 知 して い る はず で あ り,彼 が 自 己 の意 思 を貫 徹 で き るの は,総 会 で 議 決 権 の 多 数 を 有 す る場 合 にか ぎ られ る。
少 数 派 が 会 社 の 利 益 だ と考 え る よ うな意 味 で の 会 社 の 利 益 を 多数 派 が実 現 す べ き義 務 を 負 って い る とい うの は法 律 的 に誤 って い る。 そ の よ うな 義 務 は な い」。
この 判 決 に対 す る評 価 は分 かれ るが 川,そ こで は 資 本増 加 に よ る新株 引受 権 を め ぐる多 数 派 と少 数 派 の支 配 権 の争 奪 が 問 題 とな って お り,判 決 も認 め る よ う に この決 議 によ り少 な ぐとも少 数 派 が経 済 的 に有 形 ・無 形 の不 利益 を与 え られ る こ とは 明 白 で あ っ た。 それ に もか か わ らず ライ ヒ裁 判 所 は,前 述 した法 の 理 念 お よ び そ こか ら演 繹 され た教 義 を 決 定 的 な もの と して 確 認 し,原 告 株 主 の と り わ け風 俗 違 反(独 民138条 ・826条)の 主 張 を退 ぞ けて い る12}。
三 法 の理 念 と実 際 の 遊 離,そ こか ら生 ず る多数 派 株 主 と少 数 株 主 との 利 害 の不 公 正 に もか か わ らず 学 説 お よ び判 例 が法 の理 念 お よ び そ こか ら演 繹 され た 教 義 に固 執 した背 景 に は,と りわ け 当時 の個 人 主 義 的 ・自 由主 義 的 な法 思 想 お よ び ロ ーマ 法 的 社 団 理 論 が大 き く寄 与 して い た点 を み の がす ことがで きな い13}。
前 者 につ いて い え ば,そ れ は,法 律 の 最 低 基準(と く に公 の 秩 序,善 良 の風 俗)に 反 しない か ぎ り個 人 の 権 利 は制 限 され て は な らな く,個 人 に で きる か ぎ りの 自由 を 与 え その 法 律 関 係 の 形 成 を 個 人 の 自治 に ゆ だ ね な け れ ば な らな い と す る もの で あ る(個 人 意 思 自治 の 原 則,私 法 的 自治 の原 則)。 この法 思 想 は,法 令 ま た は定 款 の 具 体 的 な定 め に反 しな い か ぎ り株 主 は完 全 に 自由 で あ り,そ れ ゆ え総 会 で の 多数 派 の 意 思(利 益)が 会 社 の意 思(利 益)で あ る とす る教 義 の 確 立 へ の原 動 力 とな っ ただ けで な く,さ らに ま た 当時 の裁 判 所 の 活動 に対 して も重 大 な 影 響 を 及 ぼ して い た こ と に注 意 す る必 要 が あ る。す な わ ち,当 時 の
11)龍 田 ・注9)58頁 参照。
12)こ の事案では 旧商法第252条3項 の適用 も問題 とされて いるが この点 は拙稿 ・注7) 99頁,100頁 参照。
13)Dorpalen,a.a.0.(N.1),S.7,8 .
86 商 学 討 究 第34巻 第1号
支 配 的 見解 に よれ ば,「 会 社 お よ び 企 業 に お い て指 揮 権 を行 使 す る者 は,法 お よ び風俗 違 反 に つ い て 法 的監 督 を うけ るが,裁 量 に つ いて は監 督 され る こと は な い。 裁 判 所 の監 督 が及 ぶ の は形 式 的合 法 性(謙 βereLegalit互t)に か ぎ られ, そ の 措 置 の 内容 の実 質 的妥 当性(inneresachlicheAngemessenheit)に は 及 ぶ もの で な い」 と解 されて い た ので あ る141。具 体 的 な 法 律 また は定款 違 反 の 場 合 は別 と して,裁 判 官 が総 会 決 議 の 内容 を風 俗 違 反 と決 め つ け る こ とが で き る場 合 は稀 で あ ろ う。 なぜ な ら,そ の 内容 が 一 般 に 自明 と思 わ れ る基 準 に 著 し くき わ だ って 違 反 して い る場 合 は別 と して,総 会 決 議 の 場 合 には そ の 内 容 の厳 密 な 分 析 と包 括 的 な利 益 衡 量 を必 要 とす る もの で あ り,そ れ につ き裁 判 官 は 風俗 違 反 の認 定 に きわ めて 慎 重 に な らざ る を え な い と思 わ れ るか らで あ りま た 実 際 に もそ うで あ ったi51。 した が って,前 記 法 思 想 は,理 論 的 に も実 際 的 に も多数 決 権 を有 利 な ら しめ る方 向 に寄 与 す る もの で あ った 。
つ ぎ に ロ ーマ 法 的 社 団 理 論 は,社 団(universitas)と 組 合(societas)と を鋭 く対 立 す る もの と して 位 置 づ け,社 団 を あ らゆ る点 で個 々 の構 成 員 か ら分 離 し か つ 独 立 した もの とみ な す 点 にそ の 特 色 が あ る16}。これ に よ れ ば,団 体 と その
14)RG.Urt.v.3.M互rz1904(HoldheimsMonatsschriftfUrHandelsrecht
undBankwessen,1904,S.166)(龍 田 ・注9)〔1〕 事 件 参 照);RG82,182 (188)(龍 田 ・注9)〔6〕 事 件 参 照);Staub‑Pinner,StaubsKommentarzum
Handelsgesetzbuch,14Aun.,Bd.z,1933,§115Anm.9;Zdllner,a.a.0.
(N.6),S.328;H.Wiedemann,a.a.0.(N.3),S.408.
15)H.Wiedemann,a.a。0.(N.3),S.426f.こ の 点 の 詳 細 は 第 二 款 を 参 照 さ れ
た い 。 璽
16)豊 崎 光 衛 「 株 式 会 社 に 於 け る 多 数 決 の 濫 用 」 『 法 学 協 会 雑 誌 』 第58巻5号643頁, 644頁 参 照(1940),A.Hueck,Gesellschaftsrecht,15AuH.,§2.VI.1,2.ち
な み に こ こ で フ ッ ク に 従 っ て ロ ー マ 法 的 社 団 理 論 の 内 容 に つ き 要 約 す れ ば つ ぎ の ご
と くで あ る 。 社 団 は 権 利 能 力 を 有 し し た が っ て 法 人 で あ り,外 に 向 っ て 独 自 の 単 一
体(Einheit)と して 現 わ れ 構 成 員 の 数 多 性(Vielheit)は そ の 背 後 に 消 え う せ る の
に 対 し,組 合 は 権 利 主 体 で は な く独 立 し た 個 々 人 間 の 債 務 法 的 関 係 に す ぎ な い 。 そ
の 財 産 は,社 団 で は 社 団 の 財 産 と して 現 わ れ 構 成 員 の そ れ と して は 現 わ れ な い の に
対 し,組 合 で は 組 合 財 産 な る も の は 存 在 し な く個 々 の 組 合 員 の 個 人 財 産 か ら 完 全 に
分 離 さ れ な く む し ろ 組 合 目 的 の た め に さ さ げ られ る 財 産 は 割 合 的 に 構 成 員 に 帰 属 す
る 。 債 務 に つ い て は,社 団 で は 社 団 財 産 だ け が 責 任 を 負 い 構 成 員 は 負 わ な い の に 対
し て,組 合 で は 個 々 の 組 合 員 が 責 任 を 負 う 。 訴 訟 に つ い て も,社 団 で は 社 団 だ け が
当 事 者 と な る が,組 合 で は 全 組 合 員 が 当 事 者 と な る 。 社 団 で は 構 成 員 の 交 替 は 社 団
構 成 員 お よ び構 成 員 相 互 の 関係 は個 人 対 個 人 とい う全 く対 等 な関 係 と して 理 解 され る こ と に な り,そ の結 果,一 方 で 構 成 員 は団 体 に対 して 法 令 ま た は定 款 で 認 め られ た具 体 的 な権 利 お よ び義 務(例,出 資 義 務)以 上 の もの を 有 しな く, ま して や 他 方 で 構 成 員 相 互 の間 に何 らか の法 的 な関 係 を 認 め る とい う よ うな 余 地 は全 く生 じな い とい う こ とが 演 繹 され る こと に な るの で あ る171。この よ うな 社 団 理 論 が また 前 記 学 説 上 の教 義 の 確 立 お よ び判 例 の 態 度 の 方 向 づ け に寄 与 す る もの で あ った こ とは疑 い の な い所 で あ る。
しか し,前 述 した法 思 想 お よ び社 団 理 論 に支 え られ た 法 理 念 お よ び 教 義 は, と くに第一 次 世 界 大 戦 を境 と して 判 例 ・学 説 によ り実 質 的 に弱 め られ る こ と と な り,そ れ に か わ って 株 主 の権 利 行 使 の 自由 を 実 質 的 に 制 限 す べ く多 くの 試 み が 新 た に展 開 され る こ と に な る。
第二 款 風 俗 違 反 概 念 の 生 成 とそ の 問 題 点
一 第 一 次世 界 大 戦 ,イ ンフ レおよび通貨価値 の不安 定などによ る ドイッ経 済 活動 の動 揺 とい う社 会 的 ・経 済 的 現 象 が 引 き金 とな って,以 前 か らす で に制 止 し難 く進 展 して い た 経 済 の 資 本 化,す な わ ち カ ル テ ル,コ ンツ ェル ン,ト ラ ス トに お け る企 業 の 連 累 お よび 合 同 も し くは個 別会 社 の 巨 大 な 資 本 量 の 集 積 (資 本 集 中)を 背 景 とす る企 業 集 中 の傾 向 が一 段 と強化 さ れ る 中 で,不 可 避 的 に 会社 内部 に お け る利 益 の 対 立 的 相互 志 向 の 緊 張状 態 が 強 め られ る こ とに な り 会 社活 動 は その 根 底 か ら不 安 に 陥 し入 れ られ る こ とに な ったD。
と りわ け一 方 で,通 貨 の 下 落(WahrungsverfaH)は ドイ ッ国 内企 業 に対 す
の 存 立 に 影 響 を 及 ぼ さ な い の に 対 し て,組 合 で は 各 組 合 員 が 組 合 蘭 係 の 解 消 を 要 求 で き,組 合 員 の 除 名(例,死 亡 に よ る 除 名)は 必 然 的 に 組 合 解 消 の 効 果 を 生 ず る 。 17)ド イ ツ 法 的 社 団 理 論 の 詳 細 に つ い て は 第 二 節 第 二 款 で 論 述 す る の で そ こ を 参 照 さ れ
た い 。
1)A.Hueck,DieSittenwidrigkeitvonGeneralversammlungsbeschlUssen derAktiengesellschaftenunddieRechtsprechungdesReichsgerichts,Die ReichsgerichtspraxisimdeutschenRechtsleben,Bd.IV,1929,S.167;
Dorpalen,DieTreupflichtdesAktion琶rs,1936,ZeitschriftfUrHandels‑
recht,Bd.102,S.8,9;Mestm互cker,Verwaltung,Konzerngewaltund
RechtederAktion吾re,1958,S.12,267;Rasch,DeutschesKonzernrecht,
2Aufl.,1955,S.112.
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商 学 討 究 第34巻 第1号、
る 「外 部 的 外 資 支 配 」(auβereUberfremdung)の 危 険 を助 長 した。企 業 の 経 営 者 は そ れ に 対 抗 す べ くい か に した ら資本 の認 知(Kapitallegitimation)な しに 自己 の 地 位 を 保 持 で き るか,そ の最 も有 効 な人 為 的手 段 は何 か を案 出 せ ん と し た2)。 そ の 結 果 利 用 され た のが 議 決 権 行 使 の た め の資 格 譲 渡 お よび 複 数 議 決権 株 の 発行 で あ る3,。 と くに後 者 につ いて は そ の適 法 性 が 疑 わ し く4)は げ しい 論 議 を 喚起 した が,経 営 者 は そ の後 通 貨 が 安 定 し外 資 に よ る国 内 企 業 の侵 略 の危 険 が 少 な くな っ た後 に お いて も,依 然 と して 同様 の方 法 で 今度 は 「内部 的外 資 支 配 」(innerUberfremdung),つ ま り国 内 の好 ま し くな い 資本 家 に よ る会 社 の 侵 略 を防 止 す べ く試 み る よ う にな った の で あ る5}。 この よ うに外 資 支 配 か ら の 企 業 の 防 衛 と い う美 名 の 下 で,実 質 的 には 少 数 派 の犠 牲 で経 営者 お よ び それ と結 託 した多 数 派 の 利 益 追 求 を 企 図 した 種 々 の 措 置 は,株 主総 会 の 中 に多 数 派 と少 数 派 との 支 配 権 争 奪 を め ぐ る激 しい 利 害 対立 を生 ぜ しめ る こ とと な った。
他 方 で,1925年 の 社 団 税法 に よ り株 式会 社 の 利益 に対 し二 重 課 税(Doppel, besteuerung)が 実 施 され る ことに な った た め経 営 者 は そ れ を回 避 す べ く自 己金
融,減 価 消却 お よ び秘 密準 備 金 の積 み立 て な どの方 法 に よ って,獲 得 した利 益 を会 社 に留 保 す るた め の あ らゆ る努 力 を行 うよ うに な った。 しか も,ド ィ ッ税 立 法 は,こ の 二重 課 税 の最 も重 大 な例 外 と してScha℃htelprivileg,と りわ け法 人 株 主 に 対 す る税 法 上 の特 典 を認 めて い た た め に,資 本 参 加 に よ る コ ンッ ェル ン形 成 が一 段 と促 進 され そ れ に伴 い経 営 者 の権 限 もま た著 し く増 大 す る こ と に な った の で あ る61。 この こ とは結 局 に お いて,コ ンツ ェル ンの 支 配 会 社 と従 属
2)こ の 点 に っ い て は と く にMestmacker,a.a.0.てN.1)S.12ff.参 照 。 3)資 格 譲 渡 の 法 的 性 質 お よ び 複 数 議 決 権 に つ い て は,大 隅 健 一 郎 『企 業 合 同 法 の 研 究 』
300頁 以 下(1935),同 『株 式 会 社 法 変 遷 論 』124頁 以 下(1953),菱 田 政 宏 『株 主 の 議 決 権 行 使 と 会 社 支 配 』(1960)参 照 。 西 原 寛 一 「株 主 権 の 濫 用 と そ の 対 策 」 『商 事 法 研 究 』 第 二 巻84頁 以 下 参 照 。
4)複 数 議 決 権 株 は1937年 株 式 法i2条 に よ り 原 則 と して 禁 止 さ れ,例 外 と して 会 社 の 福 祉 ま た は 全 体 経 済 の 重 大 な 利 益 の た め 必 要 あ る 場 合 に か ぎ り,政 府 の 許 可 を え て 発 行 す る こ とが 認 め られ た 。これ は1965年 株 式 法 で も継 受 さ れ て い る(同12条2項 参 照)。
5)大 隅 ・注3)『 変 遷 論 』126頁,Zδllner,KblnerKomm.zumAktiengesetz, Bd.2,§243,Anm.198(1976)参 照 。
6)Mestmacker,a.a.0.(N.1),S.14.
会 社 お よ び そ の局 外 株 主 との 深 刻 な利 害 対 立 を生 ぜ しめ る こと と な る。 す な わ ち,支 配 会 社 は従 属 会 社 の 株 主 総 会 で 決 議 す るの で な く,従 属 会 社 お よ び そ の 局 外 株 主 に命 令 を 下 す だ け とな り,し か もそ の追 求 す る利 益 は従 属 会 社 の 株 主 で もあ る支 配 会 社 の 地位 の 強化 だ けに あ る。 そ こで は決 して 従 属 会 社 の 利 益 は 顧 慮 され る こ とは な く,そ れ ど ころ か会 社 お よ び他 の 株 主 の 利 益 を 著 し く侵 害 す る事 態 が む しろ通例 と され た。
二 前 述 の よ うな事 態 か らつ ぎ つ ぎ と持 ち込 まれ て くる株 主 総 会 決 議 の 効 力 を争 う少 数 株 主 の 訴 に 対 して,裁 判所 は それ らの 利 益 衝 突 を解 決 す るた め に新 た な 対応 を迫 ま られ る こ とに な った。 しか しなが ら裁 判 所 は,当 初 その解 決 に あ た り決 疑 論的 に 対応 し個 別 的 ・具 体 的 事件 で 生 じた 弊 害 を除 去 す る こ と に専 念 す る の みで,そ の法 的 思 考 は依 然 と して 従 来 の 伝 統 的 観 念 に 固 執 す る もの で あ っ た7}。 す なわ ち,そ の 解 決 の法 的 基 準 を民 法 第138条 ・826条 ゐ 風 俗 違反 の 規 定 に求 め たの で あ る。
しか し,こ の 風 俗 違 反 と い う民 法 の 一 般 条 項 を 会 社 法 の 中 に持 ち 込 む こ とに 対 して は,理 論 的 ・実 際 的 に重 大 な 疑 問 が 提 起 され る こ とに な った。 理 論 的 に はつ ぎの よ うな 問 題 が 指 摘 され る。 す な わ ち,風 俗 違反 とい う概 念 は い わ ば校 正 の 最 後 的 手 段8⊃,非 常 手 段9,と して 社 会 違 反 の行 為 に 使 用 され る もので あ る。
それ は法 道 徳 ・倫 理 に よ り同 類 の 権 利 行 使 に際 して そ の 最低 要 求 の不 履 行 が あ る場 合 に か ぎ り認 め る こ とが で き るに す ぎな い。 しか し,そ れ は,社 員 権 行 使