家族内のソーシャル・サポートと大学生の抑うつとの関連
―子どもが認知する両親間のサポートの方向に着目して―
16015PCM
元山 正昭
Ⅰ.問題と目的
西河・坂本(
2005)は,青年期後期は,抑う つの問題が起こりやすいと述べている。うつ病 に罹患すると,日々の社会生活すらも難しくな ってしまうことがあるが,軽い抑うつにおいて も社会的機能は制限される(坂本・大野
, 2005)。
軽度の抑うつの増加や慢性化が指摘されており
(生野
, 2006),白石他(
2013)は,日常的な抑 うつと病的な抑うつは連続的に変化するため,
軽度の抑うつ状態を示す人たちや一般の人たち も支援の対象として考える流れがあると述べて いる。したがって,うつ病と診断されるほど重 度の抑うつのみならず,軽度の抑うつも含めて 検討していく必要があると言える。
大学生の抑うつを考える際,ソーシャル・サ ポート(以下
SS)は重要である。そして,家 族という存在は,大学生にとって未だに大きな ものであり,家族からの
SSは子どもの精神的 健康の増進に寄与することが示されている(福 岡
, 2000)。家族内の
SSでも情緒的な繋がりを 形成する情緒的サポートが重要な意味を持ち,
親子間のみならず両親間の
SSが子どもの精神 的健康へ寄与することが示唆されている。川 島・眞榮城・菅原・酒井・伊藤(
2008)は,両 親の仲が悪いなどの両親間葛藤が,子どもが認 知する両親との情緒的繋がりを介して子どもの 抑うつへ影響を及ぼすことを示唆している。こ のことは,家族内での
SSは
2者間で直接的に 影響するだけではなく, 「両親関係→親子関係→
子どもの抑うつ」というプロセスを経て抑うつ へ影響する可能性を示している。また,両親間 葛藤を両親の仲の悪さとして一括りにするので はなく,両親間のサポートの方向性(父→母,
母→父)を別々に見る必要があると考えられる。
以上より,本研究では,情緒的サポートの方 向性(父→母,母→父)と程度,そして家族内
SS
のプロセスの重要性という視点から,家族 内の
SSに対する子どもの認知がどのようなプ ロセスで子どもの抑うつへ影響を及ぼすのかを 検討することを目的とし,仮説
1「父親から母 親への情緒的サポートが直接的に子どもの抑う つを低減する。また,親子間の情緒的サポート を介して間接的に子どもの抑うつを低減する」 , 仮説
2「母親から父親への情緒的サポートが直 接的に子どもの抑うつを低減する。また,親子 間の情緒的サポートを介して間接的に子どもの 抑うつを低減する」,そして仮説
3「父親と母親 からの子どもへの手段的サポートが直接的に子 どもの抑うつを低減する」を検討する。
Ⅱ.方法
調査対象者:
A大学の大学生
283名を対象に質 問紙調査を実施した。 有効回答
238名(女性
182名,男性
56名)を分析対象とした。
調査手続き:
2017年
6月
15日,
6月
17日,
そして
10月
6日の講義時間内に質問紙を一斉 に配布した。
質問紙構成:
CES-Dうつ病(抑うつ状態)自己 評定尺度(
Radloff, 1977島・鹿野・北村・浅 井訳
1985),ソーシャル・サポート尺度(福岡・
橋本
, 1997),フェイスシートで構成された。ソ ーシャル・サポート尺度は「母→子」, 「父→子」,
「父→母」, 「母→父」 の
4つの尺度を用いたが,
順序効果を考慮し,これらの尺度の順番を組み 替えた
8通りの種類の質問紙を用いた。
Ⅲ.結果と考察
因子分析の結果,
CES-Dは
3因子,ソーシャ ル・サポート尺度は
2因子が抽出された。 「父
→母情緒的サポート」と「母→父情緒的サポー ト」との相関が
.705と高く,多重共線性の問題 を回避するために,仮説
1と
2はそれぞれ別の モデルに分けて検討した。
仮説
1に基づいてモデルを作成し,パス解析
を行った。その結果, 「父→母情緒的サポート」
が高まると,直接的に「精神運動性の減退」が 低減されることと, 「父→子情緒的サポート」の 高まりを介して,「抑うつ気分」と「気分変調」
が低減されることが分かった(図
1) 。また,仮 説
2に基づいてモデルを作成し,パス解析を行 った。その結果, 「母→父情緒的サポート」が高 まると, 「父→子情緒的サポート」の高まりを介 して, 「抑うつ気分」, 「気分変調」, 「精神運動性 の減退」が低減されることが分かった。 (図
2) 。 本研究では,子どもの抑うつは「父→子情緒 的サポート」から影響を受けていることが示さ れたが, 「母→子情緒的サポート」からの影響は みられなかった。これは,母親は夫婦関係での 感情を母子関係へ持ち込みにくいという可能性 から理解できる。娘にとっての父親という存在 は母親を介した間接的存在であるという小野寺
(
1984)や尾形(
2011)の知見とは異なるもの である。しかし,板倉・長谷川(
2012)は,父 親は夫婦関係が否定的になれば父子関係も否定 的になるが,母親は夫婦関係において十分な欲 求の充足が得られない場合に,子どもとの関係 においてそれを補おうとすることを示唆してい る。したがって,父親から母親への情緒的サポ ートが低くなったとしても,母親がそれによる 否定的な感情を子どもへ向けることは少なく,
夫婦関係は母子関係を介して子どもの抑うつへ 影響を及ぼしにくいと考えられる。
また, 「父→母情緒的サポート」と「母→父情 緒的サポート」ともに「父→子情緒的サポート」
を媒介変数として子どもの抑うつへ影響を及ぼ していることから,両親間の
SSは双方向とも 大切であることが示唆されたが, 「父→母情緒的 サポート」は直接的に「精神的運動性の減退」
図
1.父→母情緒的サポートの子の抑うつへの影響。へ影響を与えており,父親から母親への情緒的 なサポートが重要であることが示唆されたと言 えよう。さらに,先述したように, 「父→子情緒 的サポート」が両親間情緒的サポートから抑う つへの媒介変数になっており,父親から子ども のへの情緒的サポートが重要であることも分か った。したがって,子どもに対してか,母親に 対してかに関わらず,父親からの情緒的サポー トが重要であると考えられる。
続いて,仮説
3に基づいてモデルを作成し,
パス解析を行った結果, 「母→子手段的サポート」
が抑うつの
3下位尺度へ負の影響を及ぼしてい ることが分かった。一方で, 「父→子手段的サポ ート」が影響を及ぼさなかったことは,私立大 学へ通う調査対象者の経済的状況の偏りによる ものであると考えられる。本研究の結果からは,
子どもの抑うつについては母親からの手段的サ ポートが大切であることが示唆された。
本研究の結果が示唆するのは,
SSが子ども の抑うつへ与える影響は親子関係という
2者関 係間のみで考えられるものではなく,他の家族 メンバーからの影響を含めて考える必要性であ る。
SS研究は,友人や学校の先生,または家 族からといった誰かから受けることや誰かへ提 供することを想定して行われていることが多い が,家族内では
2者のみを切り取り,単純に一 方向,もしくは双方向の
SSを見るだけでは十 分ではない可能性がある。言い換えると,母子 関係や父子関係,夫婦関係だけでなく,家族全 体を一つのまとまりとして考え,家族の中で
SSがどのような過程を経て子どもの抑うつを低減 するのかを捉える必要がある。家族内での
SSのプロセスを理解することで,より大きな視点 で子どもに対する支援を考えられると言えよう。
図
2.母→父情緒的サポートの子の抑うつへの影響。注)*p<.05,**p<.01,***p<.001 注)*p<.05,**p<.01,***p<.001