経営情報システムの戦略的側面について
(SISの再設計に向けての試論)
杉原敏夫
[概要]
近年,話題を独占してきた感のある「SIS(Strategic Information Systems)」は,結局一つのブームとして終結したといわれる。SISは情報 が経営資源の重要な位置を占め,戦略上不可欠なものとしての認識が確定し た現在において,これまでの経営情報システムの発展的システムとして登場 した。それならば,「SISブームの終焉」とはどういうことであろうか。
「SISブームの終焉」は戦略支援情報システムそのものの否定ではなく,
「SIS」という概念の皮相的把捉の終焉であり,経営情報システムそのも のは,今まで以上に経営に密着したかたちで展開しつつあるものと考える。
ここでは,ブームとして終わったといわれる原因を探り,その問題点を考え たい。そのためには,再度,戦略性の原点において,情報システムの支援の 内容と戦略への係わりを整理し,戦略を支援する情報システムの要件を検討 する。そのことにより,今後の戦略情報システムの持つ基本的な要素と構築 の在り方を考える。
[Abstract]
Recently, it is said that the typical terminology "SIS (Startegic Informa-
tion Systems) " was a BOOM merely and faded out rapidly. Otherwise, on
modern management stage which information is the indispensable resource,
SIS has been regarded as a progressive image of Management Information
Systems. If so, what does mean"SIS BOOM HAZ BEEN OVER"? It is con-
sidered that the "SIS"has lossed it's superficial terminolgical character but it
m a i n t a i n s t h e r e a l i n n o v a t o r y c h a r a c t e r more c o n t a c t e d s t r a t e g i c m a t t e r s . I n t h i s p a p e r , we w i l l d e t e c t t h e r e a s o n s why S I S HAS BEEN OVER"
i s r e c o g n i z e d and w i l l c o n s i d e r t h e p r o b l e m s c o r r e s p o n d i n g t o t h e r e a s o n s . The c o n t e n t s and a f f a i r s o f Management I n f o r m a t i o n S y s t e m s f o r s t r a t e g i c m a t t e r s must b e t r i e d t o b e a p p r e c i a t e d o n t h e b a s i c s t r a t e g y c o n c e p t s . F o l l o w i n g , t h e e l e m e n t s a n d d e s i g n c o n c e p t s o f t h e n e x t s t a g e S I S c a n b e c o n s i d e r e d .
1 .はじめに
4 , 5 年以来 i S 1 S ( S t r a t e g i c I n f o r m a t i o n Systems ,戦略情報システム) J は経営および情報システム,さらには社会学的な領域においても最重要な言 葉のーっとして位置づけられてきた。しかしながら,この言葉は今や急速に その立場を喪失しつつある。言い方を変えれば, i S 1 S ブームは去った」
( 注
1)の感が深いCブームはその言葉の持つ意味からして, i 大きな盛り上がりが 急速に生じるが,また,急速に衰退もする」ということであるが,過去にお いて継続的な進展を見せてきた経営情報システムの延長にも位置すると考え られる S1 S が,現代における情報化の動向から考えても 1 つのブームにす ぎなかったと考えられることは十分の吟味・検証される必要がある。たとえ,
ブームであったとしても S 1 S そのものなのか,ある L 、 は S 1 Sという言葉 なのかという議論は掘り下げて考える必要が十分にあるものと考えられよ う。ここでは,以上のような問題意識の下に, S 1 S の今日的な意義とブー ムであったならば,そうなった原因についていくつかの論点をまとめてみた い。さらに,今後の戦略情報システムにおける主要な流れとそれに対する要 求とを検討することも合わせて考えたい。
S 1 S は戦略情報システムと邦訳されるように,現代の企業における戦略
策定と密接に絡み,情報システムの機能によって企業の戦略立案を支援する
べきものである。したがって,戦略というものと切り放しては考えられない。
むしろ,戦略という側面における情報システムの意義と寄与という主題の下 に考えられるべきものであろう。このことから演縛すると, r S 1 S ブーム は去った」ということは, r 経営戦略において情報システムがその戦略支援 機能を喪失した」ことと等価なのかということの検証が必要といえる。これ らのことから,ここでは,現在の S1 S に対しての問題提起として,次の 3 つをとりあげて考えたい。
( 1 ) 戦略に対して支援する情報システムの機能は何であるのか ( 2 ) 戦略立案・評価と情報システムとの関わりはどういうものか
( 3 ) 戦略を支援する情報システムの近未来における技術的な環境と条件は どのようなものか
(1)は戦略そのものを考えることにより,戦略に対しての情報システムの貢 献を検討することである。このことは,戦略そのものの必要条件をもともと から洗いなおし,それに対する支援を満たす情報システムとしての条件を明 確にしようとするものである。もちろん,このことは情報システムの戦略に おける意義と寄与とを議論される当初から行われてきた。ここでは,それを 今一度,再確認してみたいと考える。なぜならば, r s 1 S ブームは去った」
の背景に現代の情報システムの自己増殖的な膨張ゆえに,本来の戦略サポー トの意義が薄まっているとするならば,この見地からの情報システムの再設 計は十分に有意義なものと考えられるからである。
( 2 ) は戦略情報システムを利用・運用する人間主体をとりあげる必要がある と考えたことに由来する。戦略は人間が行わなければいけない以上,それを どのように活用するかは人間そのものに対しての課題であり,そこに視点を 設定した上で情報システムの姿を検討する必要があるものと考えられるから である。同時に,活用する人間自体の戦略性への適応と能力開発をも検討の 対象として考察する必要があろう。
( 3 ) は技術的な条件の検討であるが,情報処理技術そのものを検討の主眼に
おくわけではない。現代の経営情報システムが要求されている経営的な要請 (ミッション)に対して情報システムが解決する技術的な要請を明確にする ことが中心的な着眼となる。たとえば,今後の近未来における方向として,
次のような前提が考えられよう。
‑一人が一台の固有のコンビュータを持ち, E U C (End User Com‑
p u t i n g ) 化が一層進む。
‑売上,利益のデータベースは製品/市場において,最小な単位(単品 /個人)までに構成される。
‑商品の源(素材の調達)から消費者への提供までのライフサイクル全 体からみた経営機能の合理的/効率的連動化(ロジスティックス)が 一層進展する。
. E D 1 ( E l e c t r o D a t a I n t e r c h a n g e ) などによる企業内のみならず,
企業間,企業グループ間でのグローバル規模での情報交換が一層進展 する。
‑データのオープン化が浸透し,共有化が進む など
これらの,経営に直接/間接に関与する情報システムの進展とタイアップ する技術動向の検討と予測も必要なものと考えられよう o
2 . 戦略性について
経営戦略については,数多くの定義や内容の規定がある。代表的なものを 挙げてみよう。
「経営戦略とは,
企業が,内包する諸課題を解決して,中・長期の経営目標を達成す るために,経営資源の重点配分を行いながら経営の基本構造を変革
していくのに必要な全社的基本方針,すなわち,
各部門そして各構成員が革新的な行動を起こすのに必要な指針とな
( 注 2)
るものである。 J
「経営戦略とは,組織活動の基本的方向を環境とのかかわりにおいて 示すもので,組織の諸活動の基本的状況と諸活動の組み合わせの基
( 注
3)本方針の決定を行うものである。」
また,経営戦略を動態的に捉え,企業環境の変化における経時的な環境適応
( 注
4)として記述する例もある。すなわち,次の図表‑1 に示すものである。
[図表‑ 1 1 . A n s o f f による経営戦略]
(参考文献 9より引用)
│ L 叫 叩 P l a n n i g
・外挿的(現状延長型)
S t r a t e g i c P l a n n i n g
長期経営計画
戦略的経営計画
‑現状と切り離した形で将来を予則する .目標と現状のギャップをいかにして埋 めるかという観点から戦略を設定する
S t r a t e g i c Management 戦略経営
‑戦略的経常計画+能力開発+システマティック な実行・統制
・不連続な変化への対応計画 ( C o n t i n g e n c y P l a n ) の組み込み
戦略を支援する経営情報システムを考えるにあたっては,代表された企業 戦略という言葉の背後にある必要不可欠な要因を考える必要がある。ここで は,それがまとまって明確に表現されている伊丹敬之氏の考えにもとづいて
( 注
3)整理する。伊丹氏は経営戦略の基本的要素として,次の 6 つをその支柱と
している。すなわち,
経営戦略のキーワード
① 差別化
② 集 中
③ タイミング
① 流れの設計
① 組織の勢い
① 組 み 合 わ せ の 効 果
これらの中で,伊丹氏は特に①番目の組み合わせの効果を経営戦略の中の最 も中核となる要素と考える。そのことは,前述した伊丹氏の経営戦略の定義 においても明白であろう。ここでは,これらの 6 つのキーワードを中心とし て,戦略性についての各キーワードの構造化を試みる。ここで,前提とする のは,戦略性を氏の表現による「差別化」と同義とすることである。この広 義とも言える差別化は文字どおり,その企業が他の企業より優位に立つこと を別な記述で表現しているものであり,戦略性と考えても決して無理がある ものとは考えられない。それを経営戦略の究極の目的とするならば,以上の キーワードは次の図表 ‑2 として構成されよう。
[図表 ‑2 戦略性の構造]
差 別 化(他の企業より優位に立つ)
:合理化 経営資源の集中と分散 経営機能の連動化 ヒューマン i (ヒト,モノ,カネ,情報, ,ロジスティックスの確立 スキルとそ j
l 時 間 . . の 統 合 化
図表 ‑2 には伊丹氏によって提示されたものに,コスト低下/サービスの 向上が加わった形となってはいるが,これはもともと差別化の中において包 含されていたものであり,ここでは差別化を経営戦略の共通の目的として位 置づけたために,コスト低下/サービス向上を独立したキーワードとして,
それを支える要素として位置づけたものである。図表 ‑2 の最下段の表現は,
ある程度,抽象的な表現であるキーワードを経営の言葉によって表現し直し たものである。この場合 2 つのキーワードを 1 つの表現としてまとめたも のもある。その記述の意図と根拠を以下に簡単に示す。
‑合理化
現在の経営機能の達成に要する経営資源(ヒト,モノ,カネ,情報,
時間)の効率化である。一言で表現すれば「ムダを省く」である。こ のことに対しての情報システムの貢献は大なものがある。過去におい ては,このことが情報システムの効果測定の第一の尺度であった。そ の結果としては,一般的には利益性の向上が浮かび上がるが,それに よる企業の体質強化以上に,ここでは,原価低減への還元と新サービ スの付加を重要なものと考える。
‑経営資源の集中と分散(ヒト,モノ,カネ,情報,時間)
キーワードの P/M の組み合わせと新製品開発/新市場創造をまとめ た記述となっている。経営資源の集中と分散は経営戦略の直接的実施 に相当する。戦略とは,選択の問題であり,限られている経営資源を その選択の領域に集中的に投下することが戦略の実施に他ならない。
それが,現存の製品/市場を対象とすることもあるし,新製品/新市 場を対象とする場合も当然あり得ょう。したがって,戦略性とは集中 投資計画がその代替表現であり,集中と分散とは戦略性そのものの表 現である。ここにおける戦略支援システムへの要求事項は適切な切り 口・単位で集中・分散のポートフォリォを描くことに他ならない。
‑経営資源の連動化
別名で言えば,ロジスティックスの確立である。これは流れの設計と 意思決定のタイミングの 2 つのキーワードを包含したものである。流 れの設計とは,経営の諸機能が各種の問題解決において最適なタイミ イングでもって最適な選択ができることであり,マーケティングにお ける素材調達から消費者への提供までの流れを通して考えると分かり やすく,また最も大切な部分である。従来は兵タンといわれていたロ ジスティックスであるが,これはとりもなおさず,製品が生産され,
消費者の手に渡るまでの,機会損失の最小化と過剰生産/在庫の最適 化を目標に経営機能が連動化することである。受発注オンラインシス テムなどはその代表的なものと言えよう。
‑ヒューマンスキルとその統合化
キーワードでは,組織の勢い/組織力の増強がこれに当該する。組織 については「組織は戦略に従う」という A. D. チャンドダピゐ言葉 を借りれば,組み合わせの効果と考えられなくもない。確かに,立案 されたポートフォリォによる経営資源(特にヒト)の集中と分散は戦 略性そのものであるが,ここでは,組織構成員の戦略的ものの考え方 という面を強調したいと思う。意思決定の主体がヒトである以上,戦 略の策定と評価は人間の努めであることは言うまでもない。したがっ て,その企業組織の構成員がどの程度の戦略的なものの考え方をする かということは,戦略を実施する上で決定的なポイントとなる。現在 では,戦略情報システムの効果的な活用そのものが上記の能力となる ウェートが高くなりつつある。同時に,個人の能力以上に,組織とし ての能力が是非とも検討されなければならない。これは,戦略性その ものが組織の中で提起され,育まれ,引き継がれていく経過において 組織そのものが戦略化することである。これは組織そのものが知能化
{ 注
6)するということもできるし戦略的なパワーの内在化という表現も考
えられよう。たとえば,日本的経営の代名詞のように用いられる小集
団活動もその組織的な組み合わせの巧妙さと同時に集団的なモチベー ションを前提とした改善活動という一つのボトムアップ的な戦略性の 向上を意図したものであることは間違いのないところであろう。
3 . 戦略面から見た情報システムの対応
情報システムの立場から見ると,戦略のキーワード個々に基づくよりも,
経営活動に直結した戦略の要点に焦点を合わせる方が現実的である。したが って,図表一 2 の 4 つの戦略を指向した経営活動への要請, r 合理化 j , r 経
営資源の集中と分散 j , r 経営機能の連動化 j , r ヒューマンスキルとその統合 化 J を情報システムの戦略性の基本視点とする。各々について,その要旨と それを支援する情報システム機能を描いたものが図表 ‑3 である。
各々の基本視点の内容と情報システム機能について述べれば次のごとくな る 。
( 1 ) 合理化
合理化の主目的としては,次の 2 つに絞られよう。
‑ムダ,賛肉落としによる利益,企業体質の向上
・製品原価の低減と付加するサービスの向上
最初の目的は合理化の第一次項目であり, r どれだけ削れるか」の主旨に 沿ったものである。新聞・ニュースをにぎわす合理化計画もほとんどがこの 目的のものと考えられる。企業戦略としては,このことによりまず肥大化し て硬直化した組織を体質的に身軽なものにすることを目的としており,人件 費を含めた各種経費の削減による財務体質の向上とともに,情報の流れの円 滑化,意思決定の迅速化など多くのメリットを期待する。第二のものはもっ と直接的に戦略と連動する。このことは,競合する他社に対しての明らかな 差別化を意識したものであり,余剰となった経営リソースの再配分は,次の 項目である「経営資源の集中と分散」と基本的に同ーのものと考えられよう。
合理化を支援する情報システムの機能としては,まさしく機械によるマン
パワーの代替効果である「直接・間接省力効果」である。この効果は,情報
[図表 ‑3 戦略性項目内容と情報システム機能]
項 目 内 廿
Hヴ情 報 シ ス テ ム 機 能 合理化 省力・少人効果ームダ,賛肉落とし 機械によるマンパワーの代替
(どれだけ削れるか) 直接・間接省力効果
大量反復業務と間接業務の効率化 量的な把握が可能なもの コストの削減が利益の向上だけでなく 生産現場
原価の低減とサービス向上に連動 自動化, CAD/CAM , FMS C 1M ,無人化工場へ
経営資源の 市場情報の整理と分析 データベース管理,データの区分 集中と分散 情報の組み合わせ,シミュレーション シミュレーションによる最適化
(何を求めているか) R&D 情報 組み合わせ分析の精徹化と高速化 意思決定の迅速化
企画業務の発展
経営機能の 生産から消費者の手に渡るまでの時間 オンライン即時処理とデータベース
連動化 の最小化 基模業務の即時化と広域化
必要時に必要量が即時に調達できる 企業間情報連携と VAN , LAN
機会損失と過剰生産・在庫の極小化 ライフサイクル・コストの最小化
パーチカルインテグレーション 受発注オンライン
生産システムとジャストインタイム 設計と製造との連動, C 1M へ ヒューマン 戦略を意識した組織 SBU ,小集団活動
スキルとそ 組織目標とインセンティプ OA と EUC
の統合化 組織知能 情報の共有化
ダウンサイジングの流れ 情報処理の非専門化 水平統合システム 現場での意思決定支援
単純作業の追放と意思決定の重要性 オフィス環境の向上
」一一L一一一一一 」 一 一
システムが登場して以来,まず第一に期待された効果である。特に,生産現 場においては ' 5 0 年代における自動化を皮切りに, NC マシンの採用, CA D/CAM , FMS へと進み,無人化工場を目指す CIM へと一貫して合理 化が志向されてきた。もちろん, CAD/CAM 以降の情報システムは単な る合理化だけでなく,生産システム全体を意識した壮大な戦略的構想の下に 進められているものであることは言うまでもない。一方,事務・間接部門で は情報システムは合理化への寄与として,大量反復の定型業務を主とした ターゲットとして開発・導入が進んだ。また,オンライン即時処理の時代に 入ってからは,従来のような自己完結的業務を対象とする以上に受発注シス テムに見受けられるような基幹業務がシステム化の対象となった。このこと は,基幹業務に付随する作業自体が根本的に見直しの対象となり,基幹業務 に関わる業務自体が抜本的に再設計され,省力されたことを意味している。
この時代に入ってからは,合理化の効果も大きいものがあり,また,それ以 上に情報システムは仕事の質を変革する手段としての性格も併わせ持つもの である。
このように,合理化に対しては情報システムは人間の作業に対する機械代 替として直接的な支援を行ったことになる。
( 2 ) 経営資源の集中と分散
経営資源の集中と分散のもともとのキーワードは製品/市場の組合せと新 製品開発/新市場創造の 2 つである。前者は既存,後者は新規という相違は あるが,いずれも製品と市場の組合せの評価である。製品/市場という言葉 は戦略の枠組みを大きく捉えたものであるが,それらを細分化して考えれば,
次のように考えられよう。
[製品について]
・製品種別,包装種別など
・付加するサービスの種別
‑製品のライフサイクル種別
など
[市場について]
.地域別
・顧客層別(所得別,年齢別など)
・商品販売チャネル別 など
これらの組合せについて,現状での配分しているヒト,モノ,カネ,情報,
時間の経営資源の最適化を図るためのポートフォリォの変更はまぎれもなく 経営戦略である。そのための前提としては次のものが用意されていなければ ならない。
A. 製品/市場における上記の項目の属性を持つ一元的データ管理 B. 管理されたデータ区分に対応する経営資源の情報管理
C. A と B 双方の連動と柔軟かつ迅速な集計と分析
上記の要件について,情報システムの観点から要求事項を整理すれば,第一 に挙げられるものは,データベース管理であろう。その要件としては,マル チインディックスと自在な連結機能を持つリレーショナル性がある。また,
分析の迅速性から見れば,データベースの更新はデータ入力との同時性が要 求される。一方,新製品開発においては,開発についての要求情報は広範囲
( 注 7 )
の利用者情報から得られる場合が多い。すなわち,利用者情報は企業が消費 者に提供した製品・サービスに対しての消費者からのフィードパックと考え るならば,それらの情報を可能な限り次の新製品の特性として生かすような データ区分化が必要であろう。収集と分析の迅速性も売上データの場合と同 様である。すなわち,オンライン即時処理におけるデータベース管理がこの 場合も基本的な事項となろう。
以上を情報システムの技術的な側面からまとめてみれば,次のものとなる。
a. 製品/市場のデータ区分と連動した売上と経営資源のデータベース
マネジメント
b. データ発生とデータベース更新の同時性の確保,すなわち,即時処 理
C. 柔軟で迅速な分析システム,組合せの選択に適した人問機械系の設 計
( 3 ) 経営機能の連動化
経営機能の連動化のもとになる経営戦略のキーワードは,流れの設計と意 思決定のタイミングの二つである。前者は製品が素材の調達の段階から消費 者の手に渡るまでの一連のプロセスにおいて,各種の最適性を満たすための 経営機能(生産,物流,販売など)の連動性の確保(ロジスティックスと呼 ばれる)である。後者はその最適性の上に立って経営機能を十二分に機能さ せるタイミングの提示と見極めである。その内容としては次の点に代表され る 。
‑必要時に必要量が即時に調達できる。すなわち,機会損失の絶無 .生産から消費者の手に渡るまでの時間の最小化
‑製品のライフサイクルコストの最小化
この項目の実現は近年の S1 S が共通して目指していたものである。販売 面に限定すれば POS による現場販売情報の即時入力と必要量の即時調達が 代表的なものとして挙げられよう。 POS と輸送能力の向上により,無在庫 販売と売れ筋を即時に反映させた品揃いが可能になった。このことは,機会 損失と過剰在庫の双方の面から,従来の背反する状況を情報力により一挙に 改革したものといえよう。さらに,製品の生産領域までに延長して考えれば,
この考え方は製品のライフサイクル全体における調達時間の最小化,コスト の最小化を目的とするものと言えよう。販売におけるパーチカルインテグ
( 注 8)
レーション(垂直統合化)やトヨタのかんばん方式に代表されるジャスト
インタイム方式などは現実の実現例である。特に,パーチカルインテグレー
ションは同時に,製品流通の一元化という販売政策上の戦略構築に大きく寄
与したことも忘れるわけにはいかない。
上記については,情報システムを抜きにしては語られない。 S1 S が特に この点に関して強調されたのも,情報システムの特長がこの項目に集中して 表れているからである。
ここにおける情報システムについてのキーワードはデーダベースと同時に 情報ネットワークであろう。ネットワークシステムはデータの入出力の広域 化と即時化をもたらし,さらに V A N に代表される一企業を越えたネット ワークの共有化はその方向への加速化を強烈に推進させた。特に,パーチカ ルインテグレーションは VAN の存在が不可決であったと考えられる。以上 のようなネットワークの利用は一時的には,固い込み現象などの排他戦略を 生成したが,本当の差別化はそれに付加されるロジスティックスに依存する ものであり,消費者に対するアピール力の強化という本来の差別化の方向を 目指すものとなろう。
生産領域においては古典的ながら MR P ( M a n u f a c t u r i n g R e q u i r e m e n t P r o g r a m ) の影響力が大きい。 MRP は所要量展開プログラムと邦訳される ように,目標とする生産数量に必要とする資材・必要資源を系統的に割り出 し,リードタイム・コストなどの諸条件の下においてそれらを管理する手法 である。ジャストインタイム方式は MRP の究極的使用方法と言うこともで
きょう。
( 4 ) ヒューマンスキルとその統合化
この項の内容は一言で言えば,戦略的発想のできる人材とその組織的編成 である。言い方を変えれば,経営組織における戦略性の保持と育成である。
これまでに述べた情報システムの戦略的な活用に対して,それを行う人の
( 注 9)
能力としては次のようなものが考えられよう C
① システム的思考ができる
② 仮説型思考ができる
① システム同定的思考ができる
①については,常に全体的視点からものを視ること及びものごとの因果関
係を多くの観点から追求できる能力である。戦略的な何かの活動が部分的に 最適であっても,全体から視たら最適でないケースはよく見受けられる。② については,一般にシステム(業務システム,情報システムなど)からのア ウトプットをどのように読むかという読解能力である。アウトプットを適切 に読みとり,意思決定にタイミングよくつなげることが戦略を実施する基本 であるが,そのためには,事項の仮説を設定することが要求されよう。「仮 説 J‑ i 行動 J‑ i 検証」のサイクルを通じて種々のケースを試み,最適な 手段・方法を決定する能力は戦略の展開においてウェートの高いものであろ う。最後のものは未知のシステムに対し,その構造を探り出す能力である。
情報の偏り,伝達のルートなどの様々なフィルタを通過してきた情報を逆フ ィルタリングする能力である。
情報システムの変化は個人がこれらの能力を養うのを効果的に支援しつつ ある。例えばつぎのようなものが考えられよう。
‑単純作業の追放による時間的余裕の増加 .現場における情報処理の展開と非専門化
‑現場における情報システムによる意思決定
技術的なものとしては,従来からの O A の進展やオフィスにおける情報環境 の向上があげられるが, O A はボトムアップ的な職場環境の改善活動であり,
情報化の領域での小集団活動と考えられなくもない。また,最近のダウンサ イジングの流れによる EU C ( E n d User C o m p u t i n g ) はこの傾向を一層助 長させるものと考えられる。
次に,組織面について考えてみよう。組織としての戦略性の保持・育成に も情報システムの影響は欠かせないものがある。情報システムの進展による マネジメントシステムへの影響としては特徴的なものに限定しでも次のよう なものがある。
‑縦割り型から横断的組織へ
.ピラミッド型からの脱皮
‑組織の動態化
これらは,いずれも従来からの伝統的組織であったピラミッド階層型組織か ら横断的・水平的そして柔軟な運営を目指したものである。この傾向は情報 のもつ職能横断性とその一元的・集中的管理によるマネジメントの 2 極分解 による。さらに, LAN に代表される水平分散型ネットワークは自在な組織 構成を可能にし,情報の共有化をはかることにより, S B U ( S t r a t e g i c B u s i n e s s U n i t ) 的な組織展開も容易に可能にするものである。
4 . これまでの経営情報システムと戦略性
戦略情報システムは最近になって,その必要性や内容が集中的に議論され た感が深いものがあるが,決してそれ以前の経営情報システムに戦略性がな かったのではない。特に, S 1 S という言葉については,それがもっ意味と 生成した経緯を離れて,一人歩きをすることによって,以前からの経営情報 システムの延長にある戦略情報システムとしてのイメージが微妙に変化して きたと言うことができる。このことが, r S 1 S ブームは去った」という大 きな原因であったと考えられる。 S1 S に対してのイメージの変化のポイン
トは次の点に代表されよう。
. S 1 S にはネットワークを基本構成とする大規模な情報システム環境 が必要である
‑したがって,かなり大きな情報化への投資が必要である
. S 1 S は他社に先駆けて構築して初めて有用性を持つ。したがって,
システム構築は先手必勝である必要がある
‑一度,構築すればそれにより他社に対しての戦略の優位性は確保され る
など
これらのポイントから考えられることは,経営における戦略性という意味の
追求の不徹底さと情報システムに対しての虚像が想起される。バブル景気と
も相まって,はなぱなしく暮を開げた S1 S はそれを構築した先進ユーザの
[図表 ‑4 情報化段階と戦略的要素]
全体スケッチ
1 9 5 0 年代
11 9 6 0 年代
1
1 9 7 0 年代
1
1 9 8 0 年代
1