小葉腫瘍を基軸とした早期乳癌の発生、進展に 関する臨床病理学的、分子生物学的検討
かつらだ ゆか
桂田 由佳
(病理学専攻)
防衛医科大学校
平成 28 年度
目 次
第1章 背 景
1
第2章
4
2-1. 4
2-2. 4
2-2-1. 4
2-2-2.
組織学的評価5
2-2-3.
免疫組織化学法6
2-2-4.
免疫組織化学の評価7
2-2-5.
統計学的解析7
2-3.
結 果7
2-3-1. 7
2-3-2.
早期浸潤を伴うLNsに関連する臨床病理学的パラメータ8
2-4.
小 括10
第3章
11
3-1. 11
3-2. 11
3-2-1. 11
3-2-2.
組織学的評価12
3-2-3.
免疫組織化学法12
3-2-4.
免疫組織化学の評価13
3-2-5.
統計学的解析14
3-3.
結 果15
3-3-1. 15
3-3-2.
乳管内成分の割合の比較15
3-3-3.
主診断組織型の比較16
3-4.
小 括16
目 的
臨床的に見つかるLNsに関連する臨床病理学的パラメータ 対象症例、材料及び方法
臨床的に指摘されたLN、および早期浸潤を伴うLNの臨床病理学的特徴に関 する検討
DCIS成分とLN成分の混在した非浸潤癌成分を有する乳癌(混合型CISを伴う
乳癌)の臨床病理学的特徴目 的
対象症例、材料及び方法 対象症例
対象症例
臨床病理学的パラメータの比較
第4章
18
4-1. 18
4-2. 18
4-2-1.
対象症例18
4-2-2.
細胞採取とDNA抽出19
4-2-3. PIK3CA
変異検索20
4-2-4. 16q LOH検索 21
4-2-5.
複数の腫瘍病変間におけるクローナリティの推定方法23
4-2-6.
統計学的解析23
4-3.
結 果24
4-3-1. 24
4-3-2. 16q LOHの検討 全般 24
4-3-3. 25
4-3-4. 26
4-3-5. IDC群における16q LOHの比較 26
4-3-6. 27
4-3-7. PIK3CA
変異と16q LOHを合わせた各症例のクローナリティ評価27
4-4.
小 括29
第5章
31
第6章
38
第7章
39
謝 辞
40
付 記
41
略語表
42
文 献
43
考 察
総 括
結 論 目 的
対象症例、材料及び方法
非浸潤癌と浸潤癌間でのallelic status共有症例の各群間の比較
小葉癌、乳管癌成分が混在する乳癌におけるPIK3CA遺伝子変異の病理学 的意義および、単一の腫瘍内に混在する小葉癌、乳管癌成分間の遺伝学的 関連性に関する検討
ILC群における16q LOHの比較 PIK3CA
遺伝子変異混合群における16q LOHの比較
第
1
章背 景
乳癌の早期病変として、非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ, DCIS)と小葉腫 瘍(lobular neoplasia, LN)が広く知られており、LNには非浸潤性小葉癌(lobular
carcinoma in situ, LCIS)および異型小葉過形成(atypical lobular hyperplasia, ALH)が
含まれる(図1
)1,2)
。LCIS
は、類円形で均一な腫大核を有する結合性の乏しい腫瘍細 胞が、小葉の拡張を伴いつつ小葉内に充満する像が、小葉内腺房の50%以上でみ
られるもので、乳管内のpagetoid
な進展を伴うこともある。ALHはLCIS
と同様の腫瘍 細胞の腺房内増殖からなるが、腫瘍細胞によって拡張している腺房が小葉の50%未
満であるものや、小葉内の充満が完全でなく、細胞間に空隙が残存しているものを指 す1-5)
。両者とも増殖する腫瘍細胞は同一であるが、小葉内での腫瘍細胞の増殖の程 度によってALH
とLCIS
に分類される。小葉のLN
は通常、乳腺手術検体の組織診断 の際に背景乳腺で偶然発見される微小な病変で、臨床的にも見つからないことが多い
1,5-7 )
。以前より、LNは同側/対側乳癌のリスクファクターであることが知られていたが5,8,9)
、近年の分子生物学的研究により、同時性のLN
および浸潤性小葉癌(invasivelobular carcinoma, ILC)が同一の遺伝子プロファイルや対立遺伝子(またはアリル)の
ヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity, LOH)を有していることが明らかとなり、LN 自体が浸潤癌の前駆病変であることが示された10-13)
。2000
年には、Perou
、Sørlie
らによるcDNA
マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発 現解析により、乳癌をluminal A、luminal B、HER2 enriched、basal-like、
normal-breast-like
の5
つのintrinsic subtype
に分類することが提唱された14,15 )
。現在 では、この分類を簡略化し、estrogen receptor (ER)、progestrone receptor (PgR)、human epidermal growth factor receptor type 2(HER2)の発現状態と、乳癌細胞の増
殖性(Ki67陽性細胞比率、もしくは組織学的Grade/核 Grade)により浸潤性乳癌を分
類する、代替サブタイプ分類が広く臨床応用されている。このintrinsic subtype
分類で は、ILCの多くはluminal A subtype
に分類される。さらに近年では、array CGH法によ り、染色体変化の部位や蓄積パターンは、乳癌の組織型や異型度と密接に関連して いることが明らかとなり、低異型度乳癌では16q
欠失と1q
増多が高頻度に検出される が、高異型度乳癌では16q
欠失がほとんど起こらない一方8q、17q、20q
の増多、17p の欠失などが高頻度に起こり、低異型度乳癌と高異型度乳癌では、異なった進展過 程をたどるというモデルが提唱された16-20 )
。LN
はDCIS
や浸潤性乳管癌と混在して単一の腫瘍を形成することがしばしばあり、粘液癌や管状癌のような低異型度な特殊型乳癌とも共存することが報告されている
1,21,22)
。また、LNでみられる遺伝子変化は、16q欠失や1q
増多、PIK3CA変異といった、低悪性度乳癌と共通のものであることが明らかになり
20, 23-26)
、LNは管状癌や浸潤 性小葉癌を含むlow-grade breast neoplasm family
の1
要素で、低異型度乳癌進展モ デルの早期病変に位置付けられると考えられるようになった(図2) 27,28)
。しかし、偶然見つかる微小な病変を含め、すべての
LN
が浸潤癌の前駆病変とし ての性質を有しているかは明らかでなく、LNが他組織型の乳癌と混在する混合型乳 癌の発生、進展に関わる組織学的、分子生物学的検討もあまりなされていない。そこ で我々は、前駆病変としての性質を有するLN
のグループと、浸潤癌に移行しないLN
違点を明らかにすることを目的とし、第
2
章において、臨床的に指摘されたLN、およ
び早期浸潤を伴うLN
の臨床病理学的特徴に関する検討を行った。また、LN成分を 含む混合型乳癌の発生、進展に関わる組織学的、分子生物学的特徴を明らかにする ために、第3
章においてDCIS
成分とLN
成分の混在した非浸潤癌成分を有する乳癌(混合型
CIS
を伴う乳癌)の臨床病理学的検討を、第4
章において小葉癌、乳管癌成 分が混在する乳癌におけるPIK3CA
遺伝子変異の病理学的意義および、単一の腫瘍 内に混在する小葉癌、乳管癌成分間の遺伝学的関連性に関する検討を、それぞれ 行った(図3)。
本稿に記載する研究・検討の中で、第
2
章の内容は国立がん研究センター中央病 院倫理委員会、第3~4
章の内容は学内倫理委員会の承認を得て行った。第2章
臨床的に指摘された
LN、および早期浸潤を伴う LN
の臨床病理学的特徴に関する 検討2-1. 目 的
臨床的に指摘される
LN、浸潤癌に移行する可能性のある LN
の臨床病理学的特徴 を明らかにする。2-2. 対象症例、材料及び方法
2-2-1. 対象症例
2002
~12
年の間に、国立がん研究センター中央病院で施行された乳腺手術症例4811
例から、LNないし早期浸潤を伴うLN
と診断された手術症例88
例を抽出し、そ のうち、E-cadherin陰性で、他組織型の混在を認めない62
例を検討の対象とした。こ れらの症例にはいずれも、化学療法あるいは内分泌療法等の術前治療は行われてい ない。62例のうち、54例は浸潤癌を伴わないLNs
で、8例は早期浸潤を伴うLNs
であ った。早期浸潤の定義は、最大浸潤径が10mm
以下のものとした。62
例のうち46
例のLNs
(41
例のLNs
および5
例の早期浸潤を伴うLNs
)には、同 側乳房のLNs
と離れた部位に同時性乳癌が認められた。同時性乳癌の組織像は、32 例が浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma, IDC)、9例がDCIS、3
例がILC、粘液
癌と管状癌がそれぞれ1
例であった。20
例のLNs
ないし早期浸潤を伴うLNs
は臨床的、または画像診断にて発見され、9
例は検診のマンモグラフィーないし触診で、6例が腫瘤触知で、4例が対側乳癌の術 前検査ないしはフォローアップ中のマンモグラフィーにおける石灰化で、1例が同側の 異なる乳癌に対する超音波検査で発見された。これら20
例は有症候群(Symptomaticgroup)と定義され、LNs
ないし早期浸潤を伴うLNs
に対する手術が施行された。その他
42
例は、臨床的に発見された別の乳癌(41例)ないし良性腫瘍(1例)の手術の際 に、背景乳腺に偶然発見され、これらはLNs自身による臨床徴候を伴わず、オカルト
群(Occult group)と定義された。以上より、62例のLNs
は、39例が早期浸潤を伴わな いオカルト群、15例が早期浸潤を伴わない有症候群、5例が早期浸潤を伴う有症候 群、3
例が早期浸潤を伴うオカルト群に分類された。2-2-2.
組織学的評価手術検体は
10%ホルマリン溶液にて一晩固定し、翌日切り出しを施行した。切り出
しブロック数は平均25
個(7~64個)で、パラフィン包埋した。各ブロックとも4μm
の切 片を作製し、Hematoxylin-Eosin(HE)染色標本を作製した。各症例につき、腫瘍径、核異型スコア(1、2、3)、LN部の組織分類(LCISないし
ALH)、高倍 10
視野における 核分裂数、同時同側多発乳癌の有無、およびKi67 labeling index(Ki67 LI)を 2
名の 病理医で評価した。核異型スコアは、乳癌取扱い規約29)
の核グレード分類に基づき、核の大きさが均一なものをスコア
1、核の大小不同や核形不整が目立つものをスコア 3、
スコア
1
とスコア3
の中間をスコア2、とし、核異型スコア 1
のものを低グレード、2~3 のものを高グレードとした。また、LNsの組織形態を優勢像から、結節型、充実型、置 換型、pagetoid
型の4
つに分類した(図4
)30)
。結節型は小葉内に腫瘍細胞が充満して小葉が高度に拡張し、明瞭な結節を形成するもの、充実型は、腫瘍細胞が小葉の拡 張を伴いつつ充実性に充満するが、明らかな結節形成はみられないもの、置換型は 小葉の内腔が腫瘍細胞に大部分置換されているものの、小葉の拡張を伴わないもの、
そして
pagetoid
型は、腫瘍細胞が小葉の拡張を伴わず、乳管上皮下にpagetoid
に進展するものとした。
62
症例を有症候群20
例とオカルト群42
例、または早期浸潤群8
例と非浸潤群54
例に分類し、それぞれにつき腫瘍径、核異型スコア、LNsの細分類(LCISないしALH)、組織形態、核分裂数、同時同側乳癌の有無、Ki67 LI
を比較検討した。2-2-3. 免疫組織化学法
検討対象病変を含むホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックから、4 m厚の連 続切片を作製した。
切片に対し、キシレンによる脱パラフィン処理及び希釈系エタノールによる親水処理 を行った。TRSバッファー(DAKO社, Glostrup, Denmark)ないしは
pH6
のクエン酸バ ッファー内で121℃ 10
分間オートクレーブして抗原賦活を行った。1次抗体はマウス 抗ヒトE-cadherin
抗体(clone NCN-38, 1:100; DAKO社)とマウス抗ヒトKi67
抗体(clone MIB-1, 1:100; DAKO社)を使用した。一次抗体および、二次抗体(Envision,
DAKO
社)反応はDako
自動染色装置を用い、プロトコルに沿って運用した。LNs19
例は、Ki67陽性腫瘍細胞をカウントする際、腫瘍細胞が識別困難であったため、E-cadherinと
Ki67
の2
重染色を施行した(図5)。2
重染色はEnVision G/2
Doublestain System, Rabbit/Mouse
(DAKO社)を用い、自動染色装置のプロトコルに 沿って染色した。2-2-4. 免疫組織化学の評価
免疫組織化学の評価は、標本上、腫瘍が最も含まれた領域にて行った。
E-cadherinは細胞膜における免疫反応を評価対象とし、全例陰性であることを確認
した。Ki67は核における免疫反応を評価対象とし、最も染色細胞の多い領域で、高倍1
視野中の陽性細胞数と、腫瘍細胞数をカウントし、陽性細胞率(Ki67 LI)を算出した。2重染色では、E-cadherin陰性の腫瘍細胞数とE-cadherin陰性かつKi67陽性の腫瘍細
胞数をカウントし、Ki67 LIを算出した。2-2-5. 統計学的解析
統計解析には
Statview software
を使用した。各群間での臨床病理学的パラメータ の比較検討にはカイ2
乗検定ないしはFisher
の正確検定を行った。平均値の比較検討には
Welch
のt
検定を行った。有症候群および早期浸潤群に影響の大きい臨床病理学的パラメータの検索にはロジスティック回帰分析を使用した。P値が
0.05
未満を示 した場合に、統計学的有意差ありと判定した。2-3. 結 果
2-3-1.
臨床的に見つかるLNs
に関連する臨床病理学的パラメータ有症候群とオカルト群の各パラメータの比較を表
1
に示す。患者平均年齢は、2群 間で有意差はみられなかった。平均腫瘍径は有症候群で41.5mm(10~100mm)、オカ
ルト群で
18.7mm(0.7~96mm)であり、有症候群で有意に大きかった。また、LNs
の腫 瘍径が30mm
以上を示す症例の割合はオカルト群(17%、7/42)に比べ、有症候群(65%、13/20)で有意に高かった(P < 0.001)。
平均
Ki67 LI
は有症候群で10.5%(1~38%)、オカルト群で 3.7%(0~26.1%)と、有症
候群で有意に高かった(P < 0.05)。同様に、有症候群は有意に核異型スコアが高く、核分裂数が多く、結節型、充実型の組織像を呈しやすいことが明らかになった(いず れも
P < 0.001)。オカルト群では、核異型スコア 3、結節型、核分裂像が高倍 10
視野 中2
個以上を示すものは1
例もみられなかった。有症候群5
例(25%)およびオカルト 群41
例(98%)には同時同側多発乳癌が認められ、その多くは低異型度の乳管癌で あった。有症候群の
5
例(25%)とオカルト群の3
例(7%)は、早期浸潤を伴っていた。オカル ト群の早期浸潤例はいずれも広範に進展するLNs
で、腫瘍径が30
㎜以上を呈するオ カルト群(7
例)の43%
を占めていた。ロジスティック回帰分析の単変量解析を行ったところ、大きい腫瘍径、高い核異型、
結節ないしは充実型の増殖形態、核分裂像の存在、高い
Ki67 LI
が有症候群LNsの
重要なリスクファクターであった(表2
)。さらに、それら5
つのパラメータの多変量解析 を行うと、腫瘍径30mm
以上、核分裂数1
個以上/高倍10
視野、そしてKi67 LI 10%
以上が、有症候の
LNs
に関わる互いに独立したリスクファクターであった(表2)。
2-3-2. 早期浸潤を伴う LNs
に関連する臨床病理学的パラメータ62
例のLNs
のうち、8例が早期浸潤を伴うLNs(早期浸潤群)で、54
例が早期浸潤を伴わない (非浸潤群)であった(表 )。平均患者年齢は早期浸潤群 歳
(38~77歳)、非浸潤群
53.0
歳(33~80歳)と、早期浸潤群でやや高い傾向にあったが、有意差はみられなかった。平均腫瘍径は、早期浸潤群
59.0mm(22~96mm)、非浸潤
群21.1mm(0.7~100mm)と、早期浸潤群で有意に大きく(P < 0.05)、腫瘍径が 30mm
以上を示すLNs
の割合も早期浸潤群で有意に高かった(早期浸潤群87%、非浸潤群 24%、P = 0.001)。平均 Ki67 LI
は、早期浸潤群で13.4%(1.2~38.0%)、非浸潤群で 4.8%(0~26.1%)と、早期浸潤群で有意に高く(P < 0.005)、Ki67 LI 10%以上の例は早
期浸潤群で38%、非浸潤群で 13%とこれも早期浸潤群で有意に高頻度であった(P <
0.005)。
ロジスティック回帰分析の単変量解析を行うと、大きい腫瘍径と高い
Ki67 LI
が早期 浸潤を伴うLNs
のリスクファクターであることが明らかになった。この2
つのパラメータに つき多変量解析を行うと、腫瘍径が30mm
以上、Ki67 LIが10%以上のいずれも早期
浸潤に関わる独立した因子であることが明らかになった(表4)。
早期浸潤群
8
例中5
例のLN
成分は、高グレードで中心に壊死を伴い、一部でア ポクリン様の分化を示す多形性LCIS
に相当する像であったが、これら早期浸潤群8
例の浸潤部は、いずれも古典型ILC
であった。早期浸潤群のうち5
例(62.5%)で、同 時同側多発乳癌が認められ、これらは4
例がIDC
、1
例がDCIS
であった。早期浸潤群
8
例は有症候群5
例、オカルト群3
例からなるが、これらは異なる特徴 を有していた。有症候群では、LNの組織像はすべて多形性LCIS
で結節型が多かっ た。一方、オカルト群のLN
はすべて古典型LCIS
で、pagetoidないしは置換型の増殖 を示すが、いずれも腫瘍径が大きく、広範に進展する傾向がみられた(P = 0.236
)(表5)。
2-4. 小 括
本章では、臨床的に見つかる
LNs
および10mm
以下の早期浸潤を伴うLNs
の臨床 病理学的を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。(1) 有症候群は、オカルト群に比べ、腫瘍径が大きい、核異型スコアが高い、核分裂
数が多い、Ki67 LIが高い、結節型または充実型の組織形態を示すことが明らかにな った。また、多変量解析を行うと、大きい腫瘍径(≧30mm)、核分裂像の出現(≧1個/高倍
10
視野)、高いKi67 LI(≧10%)が、臨床的に見つかる LNs
に影響を与える独立 した因子であることが明らかになった。(2)
早期浸潤を伴うLNs
は、非浸潤群に比べ、腫瘍径が大きく、Ki67 LIが高いことが 明らかになった。多変量解析を行うと、大きい腫瘍径(≧30mm)、高いKi67 LI(≧10%)
が、早期浸潤を伴う
LNs
に影響を与える独立した因子であることが明らかになった。(3)
早期浸潤を伴うLNs 8
例を有症候群5
例、オカルト群3
例に分類すると、有症候 群は核異型スコアが高く、結節型の組織形態を示すのに対し、オカルト群は核異型ス コアが低く、pagetoidないし置換型の組織形態を示すものの、腫瘍径が大きく、広範に 進展する傾向がみられることが明らかになった。以上から、広い進展、もしくは高い増殖能が、臨床的に見つかる
LNs
や早期浸潤を 伴うLNs
の特徴であることが明らかになった。第
3
章DCIS
成分とLN
成分の混在した非浸潤癌成分を有する乳癌(混合型CIS
を伴う乳癌)の臨床病理学的特徴
3-1. 目 的
DCIS
成分とLN
成分が混在した非浸潤癌成分を有する乳癌(混合型CIS
を伴う乳癌)の臨床病理学的パラメータを、その他の乳癌と比較することで、その臨床病理学的 特徴を明らかにする。
3-2. 対象症例、材料及び方法
3-2-1.
対象症例防衛医科大学校病院において、2011~2015年の間に手術を受けた乳癌症例
513
例 のうち、術前化学療法やホルモン療法などの術前治療を施行していない391
例を対 象とした。混合型CIS
を伴う乳癌(混合群)は28
例、その他の乳癌(その他群)は363
例であった。混合型CIS
を伴う乳癌は、単一腫瘍内の非浸潤癌成分でDCIS
成分とLN
成分の混在がみられるものと定義し、浸潤部の組織型は問わないものとした。DCIS
成分とLN
成分の鑑別は、形態学的特徴に加え、E-cadherin
免疫染色による染 色性の差異によって行い、E-cadherin
陰性のものをLN
とした。3-2-2.
組織学的評価手術検体は
15%中性緩衝ホルマリン溶液にて一晩固定し、翌日切り出しを施行し、
パラフィン包埋した。各ブロックとも
4μm
の切片を作成し、HE染色標本を作製した。各症例につき、腫瘍径、浸潤径、核グレード、リンパ節転移の有無、ER発現の有無、
PgR
発現の有無、HER2スコア、Ki67 LI、および浸潤癌症例における腫瘍内乳管内 成分の割合、を2
名の病理医で評価した。それぞれのパラメータにつき、混合型CIS
を伴う乳癌とその他の乳癌で比較検討した。核グレードは乳癌取扱い規約
29)
の核グレード分類に基づき、核異型スコア1~3
点(核が均一:1点、スコア
1
と3
の中間:2点、核の大小不同、核形不整が目立つ:3点)と核分裂像スコア
1
~3
点(核分裂像が高倍10
視野で5
個未満:1
点、5
~10
個:2
点、11
個以上:3点)の合計点により3
段階に分類し、2~3点をグレード1、4
点をグレード2、5~6
点をグレード3
とした。浸潤癌での腫瘍内乳管内成分の割合は、乳管内成分が腫瘍の
75%
以上(乳管内成分優位の癌)、25~75%
[extensive intraductal component,
EIC(+)の癌]、25%未満[EIC(-)の癌]の 3
段階に分類した。なお、3例(混合群
1
例、その他群2
例)では、リンパ節生検、郭清を施行しておら ず、リンパ節の評価は不能であった。また、その他群のうち2
例はPaget
病で、乳管内 増殖成分がごく尐量であったため核グレード評価を行わなかった。3-2-3. 免疫組織化学法
検討対象病変を含むホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックから、4 m厚の連 続切片を作製した。切片に対し、キシレンによる脱パラフィン処理及び希釈系エタノー ルによる親水処理を行った。その後、 (ニチレイ、東
京)に浸した状態で
100℃ 60
分間熱処理し、抗原賦活を行った。1
次抗体はマウス抗ヒトE-cadherin
抗体(clone 4A2c7, Invitrogen社、Waltham、MA、USA)、マウス抗ヒト Ki67
抗体(clone MIB-1, DAKO社)、ウサギ抗ヒトER
抗体(cloneSP1, Roche Diagnostics
社、東京)、ウサギ抗ヒトPgR
抗体(clone 1E2, RocheDiagnostics
社)、ウサギ抗ヒトHER2
抗体(clone 4B5, RocheDiagnostics
社)を使用し た。E-cadherin
およびKi67
は、ヒストファインシンプルステインMAX-PO(MULT)およ
びDAB
基質キットを2
次抗体として用い、1次抗体、2次抗体反応は自動染色装置(HISTOSTAINER48A、ニチレイ)を用いた。ER、PgR、HER2の
2
次抗体はI-VIEW DAB
ユニバーサルキットを用い、自動染色装置(BENCHMARK XT
、Roche
Diagnostics
社)にて1
次、2次抗体反応を行った。3-2-4. 免疫組織化学の評価
免疫組織化学の評価は、標本上、腫瘍が最も多く含まれた領域にて行った。
E-cadherinの免疫染色は混合群28例で施行した。E-cadherinは細胞膜における免
疫反応を評価対象とし、混合群全例において、DCIS部で陽性、LN部で陰性であるこ とを確認した。Ki67免疫染色は混合群28例とその他群338例、計366例で施行した。Ki67免疫染
色を施行しなかったその他群の25例は、非浸潤癌、Paget病、ないし同一乳房内同時 多発乳癌症例で、DCIS 13例、Paget病2例、IDC 10例であった。Ki67は核における免 疫反応を評価対象とした。最も染色細胞の多い領域で、高倍1視野中の陽性細胞数と、腫瘍細胞数をカウントし、陽性細胞比率(
Ki67 LI
)を算出した。ER、PgR免疫染色は混合群28例とその他群360例、計388例で施行した。ER、PgR
免疫染色を施行しなかったその他群の13例は、すべて同一乳房内多発乳癌の症例 で、DCIS 5例、IDC 8例であった。ER、PgRのいずれも浸潤癌および非浸潤癌での核 における免疫反応を評価対象とした。判定は、陽性細胞の占有率を6段階(0点:陰性、1点:0~1%未満、2点:1~10%未満、3点:10~33%、4点:34~66%、5点:>66%)、染色強
度を4段階(0点:陰性、1点:弱陽性、2点:中等度陽性、3点:強陽性)にスコア化し、そ れらの合計で評価するAllred score(0点、2点~8点)を用い、3点以上を陽性とした(図6) 31 , 32 )
。HER2免疫染色は混合群26例とその他群333例、計359例で施行した。HER2免疫
染色を施行しなかったその他群の32
例は、非浸潤癌、Paget
病、浸潤径が1mm
未満の 微小浸潤癌、ないしは同一乳房内同時多発乳癌例で、非浸潤癌19例(DCIS17例、混 合型CIS2例)、微小浸潤癌4例、Paget病1例、IDC8例であった。HER2は細胞膜にお ける免疫反応を評価対象とし、判定は米国臨床腫瘍学会/
米国病理学会(ASCO/CAP
) 委員会によるガイドラインに従い、膜への染色強度により4段階(0~3+)に分類した(図7) 33 )
。3-2-5. 統計学的解析
各群間での臨床病理学的パラメータの比較検討にはカイ
2
乗検定ないしはFisher
の正確検定を行った。平均値の比較検討にはWelch
のt
検定を行った。P値が0.05
未満を示した場合に、統計学的有意差ありと判定した。3-3. 結 果
3-3-1. 臨床病理学的パラメータの比較
混合群とその他群の臨床病理学的特徴の比較を表
6
に示す。混合群は乳癌手術 例391
例のうち、28例(7.2%)に認められた。混合群の平均腫瘍径は
50.1mm(8~150mm)、その他群の平均腫瘍径は 37.0mm
(4~130mm)で、混合群はその他群に比べ、有意に腫瘍径が大きく(P < 0.05)、有意 差は認めなかったものの、浸潤径が小さい傾向がみられた。また、混合群は
28
例中18
例(64%
)が核グレード1
であったのに対し、その他群では核グレードを計測した361
例中147
例(41%)が核グレード1
であり、混合群は有意に低グレードのものが多かっ た(P < 0.05)。混合群では、平均Ki67 LI
も14%とその他群の 24.6%に比べて有意に
低値であり、混合群は増殖能が低いことが示唆された。リンパ節転移の頻度、ホルモ ン受容体の状態、HER2スコアは、いずれも有意差はみられなかったが、ホルモン受 容体陽性、かつKi67 LI < 20%である luminal A subtype
の乳癌の割合は、混合群で は28
例中21
例(75%)であったのに対し、その他群では360
例中146
例(41%)であ り、混合群でluminal A subtype
の乳癌が有意に多いことが分かった(P < 0.05)。3-3-2. 乳管内成分の割合の比較
乳管内成分の割合を比較した結果を表
7
に示す。混合群では、非浸潤癌、乳管内 成分優位の浸潤癌、EIC(+)の浸潤癌、EIC(-)の浸潤癌の症例はそれぞれ4
例(
14%
)、5
例(18%
)、9
例(32%
)、10
例(36%
)で、非浸潤癌、乳管内成分優位の浸潤 癌、EIC(+)の浸潤癌の合計が64%に及ぶのに対し、その他群ではそれぞれ 30
例(8%)、22例(6%)、84例(23%)、227例(63%)で、前
3
者の合計は37%にとどまり、
両群間に有意差が認められた(P < 0.05)。
3-3-3. 主診断組織型の比較
両群の主診断部の組織型を表
8
に示す。IDCが両群とも多数を占め、混合群で17
例(61%)、その他群で269
例(74%)であった。その他群のIDC269
例のうち、268例の 非浸潤部はDCIS
であったが、1例はLN
のみで、DCIS成分はみられなかった。非浸 潤癌は混合群で4
例、その他群で30
例であり、混合群はすべて混合型CIS、その他
群はすべてDCIS
であった。混合群は
IDC
以外の特殊型が7
例(25%)で、その内訳は、粘液癌、アポクリン癌が それぞれ2
例ずつ、ILC、IDCとILC
の混合型乳癌、ILCと管状癌の混合型乳癌がそ れぞれ1
例ずつで、大部分が低異型度乳癌であった。それに対しその他群では、特 殊型乳癌は64
例で全体の18%と、有意差はみられないものの混合群より低頻度で、
組織型も
ILC、管状癌、粘液癌、アポクリン癌だけでなく、髄様癌や基質産生癌、化生
癌(扁平上皮癌、骨軟骨化生を伴う癌、紡錘細胞癌)などの高異型度乳癌も散見され た。
3-4. 小 括
本章では、非浸潤癌部に
DCIS
とLCIS
が混在して認められる混合型CIS
を伴う乳 癌とその他の乳癌の臨床病理学的特徴を、形態像、免疫組織学的特徴から比較検討 し、その結果、以下のことが明らかとなった。(1)
混合群は、その他群に比べ腫瘍径が有意に大きい一方、浸潤径が小さい傾向が みられ、低核グレードでKi67 LI
が低いものが多く、luminal A subtypeの乳癌が有意に 多かった。(2)
混合群は、非浸潤癌、乳管内成分が優位な浸潤癌、EIC(+)の浸潤癌の割合が 有意に多かった。(3)
混合群の主診断は、その他群より特殊型乳癌の割合が高い傾向がみられたが、有意差は認められなかった。また、混合群の特殊型は
ILC
や粘液癌、管状癌、アポク リン癌などいずれも低異型度乳癌であった。以上から、混合型
CIS
を伴う乳癌は、非浸潤癌として広範に進展したのち浸潤し、浸潤部は、大部分がホルモン受容体陽性で増殖能が低い、いわゆる
luminal A
subtype
の乳癌になることが示唆された。また、浸潤部では、IDC
だけでなく低異型度の特殊型乳癌の形態も呈し得ることがわかった。
第
4
章小葉癌、乳管癌成分が混在する乳癌における
PIK3CA
遺伝子変異の病理学的意義 および、単一の腫瘍内に混在する小葉癌、乳管癌成分間の遺伝学的関連性に関する検討
4-1. 目 的
本章では、単一腫瘍内に小葉癌、乳管癌成分が混在する乳癌(混合群)における、
第
16
染色体長腕のヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity, LOH)、およびPIK3CA
遺伝子変異を検索することにより、混合型乳癌の分子学的特徴や、その腫瘍発生、進 展様式を明らかにすることを目的にした。4-2. 対象症例、材料及び方法
4-2-1. 対象症例
防衛医科大学校病院にて
2010
年1
月から2016
年3
月の間に外科切除の行われ た乳癌症例のうち、凍結検体ないしはパラフィン切片からDNA
採取可能な、混合群12
例を検討の対象とした。対照症例として、同様にDNA
採取の可能なILC 9
例、IDC13
例を選択した。これらの症例のうち、小葉癌1
例は術前内分泌療法が施行されてい た。混合群12
例の構成成分の内訳を表9
に示す。混合型乳癌では、LN、DCIS、IDC、ILC
成分が様々なパターンで混在してみられ、最も多いパターンはLN、DCIS、IDC
か らなる症例(4例)であった。また、1例では特殊型である管状癌成分も認められた。IDC 13
例は、いずれもホルモン受容体陽性で、Ki67 LIが20%未満の luminal A subtype
のものを選択した。これら
34
例につき、混合群12
例の浸潤部、非浸潤部の各組織型ごと、22例のILC、
IDC
例の浸潤部と非浸潤部、および全例の正常組織(リンパ節ないしは非腫瘍部の乳 腺、脂肪組織)において、以下の検討を行った。4-2-2. 細胞採取と DNA
抽出乳腺手術直後に腫瘍および非腫瘍部から採取し、-80℃で保存されていた凍結検 体、ないしはホルマリン固定パラフィン包埋ブロックから
10 µm
厚の組織切片を作製し、スライドグラスに乗せて乾燥させたのち、パラフィン切片はキシレンによる脱パラフィン 処理及び希釈系エタノールによる親水処理を行った。続いて
HE
染色、濃縮系エタノ ールによる脱水ののち、スライドを乾燥させた。PENfoil
に覆われた特殊スライドMembraneSlides(Leica
社, Narishige Micromanipulator, Wetzlar, Germany)に乗せて 乾燥させたのち、キシレンによる脱パラフィン処理及び希釈系エタノールによる親水処 理を行った。続いてHE
染色、濃縮系エタノールによる脱水を経て、ドライヤー送風に よる切片の急速乾燥を行った。作製された切片から、顕微鏡弱拡大下で爪楊枝を用 いて、各症例の非浸潤癌部(混合型の場合はLN
とDCIS
部を区別)、浸潤癌部(混合 型の場合はILC
とIDC
を区別)、正常部の組織をそれぞれ採取した。爪楊枝での細胞採取が困難な症例に対しては、PENfoilに覆われた特殊スライド
MembraneSlides(Leica
社, Narishige Micromanipulator)を使用してHE
染色スライドを 作製し、Leica LMD 6000システム(Leica社)を用いて細胞を採取した。採取した細胞組織から、
DNA
抽出キットNucleoSpin Tissue
(MACHEREY-NAGEL
社、Duren、Germany)を用い、DNA抽出を行った。
4-2-3. PIK3CA
変異検索PIK3CA変異の大部分は、hot spotであるexon 9(E542、E545およびQ546)ないし exon 20(H1047)で生じるため、過去の論文 34 )
とWeb上のゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参考にし、これらの領域を含むプライマーペア配列 をそれぞれデザインし、FASMAC社(厚木、神奈川県)にて精製依頼・購入した。
PIK3CA exon 9およびexon 20のプライマー配列は以下のとおりである。
exon 9: forward primer 5’-CCAGAGGGGAAAAATATGACAA-3’
reverse primer 5’-ACCTGTGACTCCATAGAAA-3’
exon 20: forward primer 5’-CTCAATGATGCTTGGCTCTG-3’
reverse primer 5’-AATTGTGTGGAAGATCCAATCC-3’
PCR
法によるゲノムDNA
増幅は、核酸増幅装置GeneAmp PCR system 9600
(Applied Biosystem社)を用い、1μlの
DNA
溶液、0.2 pmol/μlのプライマー(forward& reverse
)、0.63 U
のAmpliTaq Gold DNA polymerase
(Applied Biosystems
社)、200 μM
のdNTP、及び 4 mM
のMgCl 2
を含む25 μl
の反応系にて行った。PCRサイクル は、95 °C 11分間のDNA
変性の後、50増幅サイクル(95 °C 30秒、55 or 60 °C 40秒、72 °C 40
秒)を経て、72 °C 5
分間の伸長ステップを加えて終了した。アニーリングの温度は、exon 9が
55
℃、exon 20が60
℃で行った。PCR
産物に対し、BigDye Terminator ver.1.1(Applied Biosystem社)およびそれぞれ のforward primer
を用い、96 °C 1分間のDNA
変性の後、25増幅サイクル(96 °C 10 秒、51 °C 15秒、60 °C 4分)を経てSequence labeling
反応を行い、BigDyeXterminator(Applied Biosystem
社)で精製した。精製産物に対し、ABI 3130 systemな いしはABI 3500xL system(Applied Biosystems
社)によるDNA sequence
を行い、Sequencing Analysis
ソフトウェア(version 6, Applied Biosystems社)を用いてシーケン シング解析を行った。4-2-4. 16q LOH
検索過去の論文を参考に
35, 36 )
、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)による当該染色体領域の遺伝子増幅産物が250塩基長未満と推定される、染色体16q に位置する
5
種類のpolymorphic marker
を選出した。Web上のゲノムデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照し、それぞれの polymorphic markerに対するプライマーペア(forward & reverse)配列をデザインし、
Perkin-Elmer
(Applied Biosystems
社)にて精製依頼・購入した。それぞれのforward
プ ライマーの5′
末端は6-carboxyfluorescein(6-FAM)にて蛍光標識した。本章で検討した16q領域に存在する5種のpolymorphic markerを以下に示す: 16q22.1(D16S265);
16q22.1(D16S752); 16q22.1(D16S3025); 16q24.1(D16S393);
ならびに16q24.1(D16S402)。これらのプライマーの配列は以下のとおりである。
D16S265: forward primer 5’-CCAGACATGGCAGTCTCTA-3’
reverse primer 5’-AGTCCTCTGTGCACTTTGT-3’
D16S752: forward primer 5’-AATTGACGGTATATCTATCTGTCTG-3’
reverse primer 5’-GATTGGAGGAGGGTGATTCT-3’
D16S3025: forward primer 5’-TCCATTGGACTTATAACCATG-3’
reverse primer 5’-AGCTGAGAGACATCTGGG-3’
D16S393: forward primer 5’-GAGGACATTTATTCATAGGAAGGAGG-3’
reverse primer 5’-CGACTCTAGAGGATCCCAGACTTCG-3’
D16S402: forward primer 5’-TTTTGTAACCATGTACCCCC-3’
reverse primer 5’-ATTTATAGGGCCATGACCAG-3’
PCR
法によるゲノムDNA
増幅は、PIK3CA変異検索と同様の機器および反応系で 行い、PCR
サイクルは、いずれのpolymorphic marker
に対しても、95 °C 11
分間のDNA
変性の後、40増幅サイクル(95 °C 30秒、55 °C 40秒、72 °C 40秒)を経て、72 °C 5
分間の伸長ステップを加えて終了した。PCR
産物に、泳動用標準サイズマーカーGeneScan-500LIZ size standard
(Applied Biosystems
社)及びホルムアミドを混じて、ABI 3130 systemないしはABI 3500xL system(Applied Biosystems
社)によるキャピラリ電気泳動を行い、GeneMapperソフトウ ェア(version 5, Applied Biosystems社)を用いてフラグメント解析を行った。非腫瘍組織
DNA
からのPCR
増幅産物にて、2
つの異なった塩基長を示す泳動ピ ークが検出された場合に、1つのpolymorphic marker
に関するLOH
解析が評価可能(informative)と解釈した。非腫瘍性組織における
2
つの泳動ピークの大きさ(高さ)の 比に対する病変(各組織型ごと)の2
泳動ピーク比が、0.67
を下回る場合あるいは1.35
を超える場合に、LOHが存在すると判定した(図8)。一方これらの泳動ピーク比が
0.67~1.35
の間にとどまる場合はLOH
はなく、ヘテロ接合性が維持されていると判断された。
非腫瘍組織DNAからのPCR産物にて泳動ピークが1種類しか検出されない場合、
該当領域はhomozygousであると判定し、評価不能とした。また、PCRにてゲノムDNA の増幅が得られない場合、あるいはPCRによる増幅は得られるものの、明らかな泳動
ピークを形成しない場合についても評価不能とした。
4-2-5. 複数の腫瘍病変間におけるクローナリティの推定方法
単一個体における、異なる
2
つの腫瘍(腫瘍1、腫瘍 2
とする)が互いに独立である 場合、PIK3CA変異と情報の得られた16q LOH
が検討結果のような値になる確率(probability, P)を算出し、複数の腫瘍病変間におけるクローナリティの有無を推定す ることとした。P値は、Fisherの正確検定をもとに
Begg
ら37)
により考案されたConcordant mutations test
によって算出した。P値が0.05
未満の場合、2つの腫瘍病 変はモノクローナルな関係であり、同一クローン由来であることが示唆された。混合群で
3
つ以上(腫瘍1、腫瘍 2、腫瘍 3)の腫瘍成分がみられる場合は、それぞ
れの腫瘍間(腫瘍1
と2、腫瘍 2
と3、腫瘍 1
と3)での上記のクローナリティ推定を行っ
た。4-2-6. 統計学的解析
各組織型における
LOH
頻度やPIK3CA
変異頻度の比較検討にはカイ2
乗検定ないし
Fisher
の正確検定を行った。P値が0.05
未満を示した場合に、統計学的有意差ありと判定した。
4-3. 結 果
4-3-1. PIK3CA
遺伝子変異PIK3CA
変異は、ILC群9
例中1
例(11%)、IDC群13
例中5
例(38%)、混合群12
例中7
例(58%)で認められた(表10)。統計学的有意差はみられなかったものの、混
合群での
PIK3CA
変異頻度が高い傾向にあった。PIK3CA変異のみられた症例はいずれも
exon 9
ないしexon 20
のhot spot
に変異が存在し、浸潤癌に変異がみられた症 例は、全例非浸潤部にも同一の変異が認められた(表11)。各群とも変異部位に偏り
はみられなかった。混合群で変異のみられた
7
例中4
例(MIX2、4、6、8)では、乳管癌成分と小葉癌成 分に同一の遺伝子変異が認められた。残り3
例(MIX1、3、7)では、乳管癌、ないし小 葉癌成分のいずれかのみに遺伝子変異が認められ、MIX1
、3
では乳管癌成分(DCIS、IDC)のみに、MIX7では小葉癌成分(LN、ILC)のみに変異がみられた。乳 管癌、小葉癌成分に同一の変異がみられた症例と、いずれかのみに変異がみられた 症例を形態学的に鑑別することは困難であった(図
9、図 10)。
4-3-2. 16q LOH
の検討 全般ILC
群、IDC 群、混合群の非浸潤部、浸潤部における5
種類のマイクロサテライトマ ーカーでの16q LOH
検索結果を図 11に示す。ILC群9
例、IDC群13
例、混合群12
例のうち、ILC群1
例(ILC5)とIDC
群1
例(IDC12)を除き、全例で尐なくとも1
つ のlocus
でのLOH
評価が可能であり、評価可能なILC
群8
例全例、IDC
群12
例中10
例、混合群12
例全例に、尐なくとも1
つ以上のLOH
イベントが検出された(30/32例;93%)。
4-3-3. 混合群における 16q LOH
の比較混合群
12
例(MIX1~12)の非浸潤部および浸潤部と、全マイクロサテライトマーカーの 組み合わせにおいて、情報の得られたlocus
は170 loci
中109 loci(LN 35 loci、DCIS 33 loci、ILC 17 loci、IDC 24 loci)であった。情報の得られた locus
におけるLOH
の頻 度は、LNで60%(21/35 loci)、DCIS
で97%(32/33 loci)、ILC
で71%(12/17)、IDC
で
92%(22/24)であり、非浸潤癌成分(LN+DCIS)と浸潤癌成分間(ILC+IDC)に有意
差はみられなかったものの(
P = 0.63
)、LN
成分とその他の成分(DCIS+ILC+IDC
)に 有意差が認められた(P = 0.0007)。12
例中2
例(MIX3、7)では、すべてのマイクロサテライトマーカーでLN
部ないし浸 潤癌部の情報が得られず、同一症例内の他の組織型との比較が不能であったが、そ の他10
例では尐なくとも1
か所のマイクロサテライトマーカーにおいてLOH
が認めら れた。10例中MIX1、4、5、6、10、12
の6
例で尐なくとも1
か所のマイクロサテライトマ ーカーで、すべての組織型に共通のLOH
が認められた。一方、すべてのマイクロサテ ライトマーカーでアリルの状態が異なっていた症例は4
例認められた(MIX2、8、9、11)。MIX2、8、11
では乳管癌成分にのみLOH
がみられ、小葉癌成分ではヘテロ接合性が保持されており、異なるクローンの可能性とクローン進化の可能性の両方が考 えられた。また、MIX9では小葉癌成分と乳管癌成分で異なった
LOH
パターンを示し、各成分が互いに異なるクローンの可能性が高いと考えられた。
4-3-4. ILC
群における16q LOH
の比較ILC
群9
例(ILC1~9)の非浸潤部および浸潤部と、全マイクロサテライトマーカーの組 み合わせにおいて、情報の得られたlocus
は90 loci
中46 loci(非浸潤部 18 loci、浸
潤部28 loci)であった(図 11)。これらの locus
におけるLOH
の頻度は、非浸潤部で67%(12/18 loci)、浸潤部で 89%(25/28 loci)であり、有意差はみられなかったものの
(P = 0.12)、浸潤癌で
LOH
頻度の上昇がみられた。9
例中3
例(ILC1、4、5)では、すべてのマイクロサテライトマーカーで非浸潤部の情 報が得られず、浸潤部と非浸潤部の比較が不能であったが、その他6
例では、尐なく とも1
か所のマイクロサテライトマーカーにおいて、LOH が認められた。6 例中2
例(
ILC6
、8
)では、いずれも1
つのマイクロサテライトマーカーのみで共通のLOH
がみら れたが、その他4
か所でのLOH
情報が得られなかった。残り4
例(ILC2、3、7、9)では、尐なくとも
1
つのマイクロサテライトマーカーに共通のLOH
が認められた。4-3-5. IDC
群における16q LOH
の比較IDC
群13
例(IDC1~13)の非浸潤部および浸潤部と、全マイクロサテライトマーカーの 組み合わせにおいて、情報の得られたlocus
は130 loci
中73 loci(非浸潤部 37 loci、
浸潤部
36 loci)であった(図 11)。情報の得られた locus
におけるLOH
の頻度は、非 浸潤部で78%(29/37 loci)、浸潤部で 64%(23/36 loci)と有意差はみられず(P = 0.2)、
各マイクロサテライトマーカーにおける浸潤部と非浸潤部の
LOH
イベントを比較すると、非浸潤部のみの
LOH
が5
事象認められたが、浸潤部でのみのLOH
は認められなか った。例中 例( 、 、 )では、尐なくとも か所のマイクロサテライトマーカ
ーにおいて、LOHが認められ、10例全例において、尐なくとも
1
か所のマイクロサテラ イトマーカーで非浸潤部、浸潤部間での共通のLOH
がみられた。4-3-6.
非浸潤癌と浸潤癌間でのallelic status
共有症例の各群間の比較非浸潤部と浸潤部の両成分から
allelic status
情報を得られた事象のうち、非浸潤癌 部と浸潤癌部でallelic status
が共有(両成分ともに同一アリルのLOH
ないしヘテロ接 合性保持を示す)されていた症例の割合は、ILC群で56%(10/18
事象)、IDC群で86%(31/36
事象)、混合群で48%(16/33)であり、ILC
群とIDC
群との間、IDC群と混 合群の間に有意差が認められたが(各々P < 0.05
)、ILC
群と混合群間には有意差は みられなかった(P = 0.77)。これは、ILC群、混合群の両群において、LN成分でヘテ ロ接合性が保持されている割合が高いことが原因と考えられる。4-3-7. PIK3CA
変異と16q LOH
を合わせた各症例のクローナリティ評価Concordant mutations test
を行うと、混合群では、すべてのマイクロサテライトマー カーでLN
部ないし浸潤癌部の情報が得られなかった2
例(MIX3、7)を除く10
例のう ち、MIX4、10、12の3
例(30%)は、すべての構成成分が同一クローン由来と推定され た。また、MIX6のLN
成分とIDC
成分の間にモノクローナルな関係が示唆されたが(P= 0.02)、LN
とDCIS、DCIS
とIDC
の間にモノクローナルな関係は明らかでなかった(それぞれ