静岡大学電子工学研究所研究報告
37(2002)23〜 27
窒化 ガ リウム結晶の常圧下液相エ ピタキシャル成長
田中
昭,船山幸憲,村上隼也,勝野廣宣
(2002年11月 11日
受理
)Liquid Phase Epitaxy of GaN Crystals at Atmospheric Pressure
Akira TANAKA, Yukinori FUNAYAMA, Toshiya MURAKAMI, Hironobu KATSUNO
(Received Nov. 11, 2002)
Abstract
In order to obtain GaN epitaxial layers at atmospheric N, pressure, effects of reaction at the Ga solution surface with NH, on the growth at the SiC substrate surface were investigated. The growth experiments from the meniscus region on a stationary substrate revealed the presence of a solution thickness preferable to epitaxial growth. Using wetting solution formed on a rotating substrate, a GaN layer with about 4 pm was grown on a part of Si-face of the substrate at 980 C with
the NH, supply rate of lsccm. Effects of NH, supply rate on the preferable thickness of solution are also discussed.
1.は
じめ に
GaN(窒
化 ガ リウム
)結晶 は
MOVPE(有機 金属気相 成長法
)によつてサ ファイア基板上 に成長す るのが通例 である。結晶成長論 か ら見 れば
,非平衡性 の強い環境 か らの成長である。他 の多 くの半導体結晶が平衡 に近 い溶 液成長 の歴 史 を もつの に比べ
,GaN結晶 にはその歴 史が ない。特 に常圧下 における溶液成長 は
,平衡窒素圧が非 常 に高 い こ とと溶解度が頗 る低 い こ とに よって
,一般 に は無理 とい うのが常識 である。一方
,GaNデバ イス を作 製す る工学的 な立場 か らは
,サフ ァイア基板 との大 きな 格 子 不 整 が大 問題 で あ る。 ホモ成 長 に使 える
GaN自体 のバ ル ク結晶や厚 い成長層 の成長技術 の開発が熱望 され る所 以 で あ り
,溶液 成 長 に大 きな期待 が寄せ られ てい る。
GaN結
晶の溶液成長 の開発 には主 として二つの潮流が あ る。一つ は Ga―
N2二元系 その ものの平衡状態 図 を利用 す る方法 であ る。Karpinskiら
1'のは
GaNの分 解 を抑 え
,溶 解度 を確保 す るため に
,1200℃,8000気圧 の高温高 圧 での成長 を開発 中である。熱力学 的 には王道ではある が
,温度 と圧力 が如何 に も高 い。山根 らのはこの条件 を 緩和 す るため に
Naフラ ックスの利用 を提案 し
,800℃, 100気圧程度 での成長 に取 り組 んでい る。今 ひ とつ は
Gaと
NH3との反応 を利 用 して
,溶質
GaNを生 成す る方法
である。この反応は常圧下で も十分な速 さで進行するの で,これが利用で きれば特別な耐圧装置の不要な実用的 な成長方法が実現で きる。Loganら のはこの反応 を急峻 な温度勾配 をもつGa溶液 に適用 してGaNを成長 させた が,その後の報告 はなされていない.近年,柴田 ら5,o
はGa溶液 に直接NH3ガス を吹 き込み,溶液中に置いた 基板 に泡を当てることによって成長 を得ているが,工業 的な成長技術 にはまだ遠い。
しか しなが らこのNH3珂
eCtiOn Methodは
新 しい成長 方法 を考える上で示唆的である。なぜ ならば,この方法 においてはGaN結晶はまった く均一 な温度環境で成長 してお り,いわゆる溶液成長では常識である温度勾配な どの結晶成長の駆動力は働 いていない。考 えて見れば,溶解度が極端 に低い
Ga―
N系において温度勾配 を設けて も,溶質輸送 に有効 に働 く溶質濃度勾配は生 じない。上 記方法の場合,NH3の泡 とGaと の界面で起 こるGaN生 成反応が,基板 と泡 との間のGaの薄い液膜 を介 して,基板上 に結晶成長の駆動力 を発生 したと考えざるを得な い。すなわち基板面上の溶液層が薄ければ,液表面での 化学反応が基板面上で結晶成長の駆動力 を生 じさせ得る
ことを示唆 している。
本報告では,こ うした新 しい結晶成長の駆動力の存在 を実験的に示す と共に,それを広い面積への成長 に応用 する一つの試み としておこなった,濡れ液成長実験 につ
いて述べ る。
2.実
験 装 置 お よび 手 順
Fig。 1に 成長実験 に用 いた装置 の概 略 を示す。装置 は 水平 か ら
30度傾 い た台座上 に組 み立 て た。 ル ツボ は カ ーボ ン製であ り
,基板 保持 部 と
Ga溶液溜 め とか らな っ てい る
.溶液溜 めは内径
22mm,長さ
55mmであ り
,内面
には
BNによる コーテ イングを施 した。 これは通常 はカ ーボ ンと濡 れ る こ との ない
Ga液が
,NH3ガスの存在下 で はル ツボカーボ ンに滲み込 む現象が見 られ
,これ を防 止 す る た め で あ る。 この実 験 で は簡 易 的 にス プ レー (Dcnka Co.#1520)を 用 いてい る。成長用基板 には 6H― SiC 基板 の Si面 ,15×
15mm2,を用 い
,ルッボ底 に固定 した。
この上 に約
5gのGa液を仕込 むが
,この量 は基板 の下半 分 が
Ga液中に浸 る量 であ る
.この ル ツボ を
N2ガス を流 した石英管 中で
lrpmの速 さで 回転 した。 この時 の ル ツ ボ中での濡れ液のイ 犬態 を見るため に
,別の ル ツボを用い
て直接観察 した ところ
,少量 の
NH3ガス を導入す るだけ
で
,Ga液は基板全面 とル ツボ下部 内壁 とを濡 ら してい る こ とが確認で きた
.原料 ガス と しては lsccmあ るいは
9sccmの純
NH3ガス を
loosccmの N2ガスで希釈 し
,ガス
をル ツボ内 に閉 じ込 め るため に
,ルッボ上部 の
8mm径の孔 を通 して外径
6mmの石英 管 で導 入 した。加熱 には 高周波加熱 を用 い
,ルッボ下部が ほぼ均 一 に
980℃とな る よう
,コイル位置 を調節 した
.この時
,ルツボ上部 は
約 800℃ と低温 になるが
,この温度が下部 よ りも高い場 合 には
Ga液はル ツボ内壁 を這 い上が り
,外部 に流 れ出 す現象が起 こる。所定 の成長時 間保持 した後
,冷却 した
Fig.l Schematic drawing of the growth system used for the wetting solution growth.
ル ツボか ら取 り出 した基板 を塩酸水溶液で煮沸 し
,付着 してい る
Ga液を溶解除去 した。
3日
実 験 結 果 お よび 討 論
3.1
静止 系 での メニ スカス部 か らの成長 と最適溶液厚 さの存在証明
回転系 の実験 に先立 ち
,静止系 において基板上 に自然 形 成 され る メニ ス カス か らの成 長 の様 子 を観 察 した 。
NH3供
給 速度
lsccmで 5時間静置 した後 の基板上 には幅 数
mmの黄色 っぽい色 の帯 が メニス カス に沿 って生成 し てい た。 Fig。
2(a)はその帯 の下端付近 を光学顕微 鏡 の透 過 モ ー ドで観察 した写真である。帯上部の大部分 は不規 則 な形状 の グ レー ンか ら成 ってお り
,ピンセ ッ トで引 っ
掻 くと容易 に基板 か ら剥離 す る
.この こ とはこの領域 に 生 成 した結 晶 と基板 との密着性 が弱 い こ とを示 してい る。帯 の厚 さはメニス カスの断面形状 を反映 して上方で 薄 く下方 に行 くに従 つて厚 くな り
,下端 近傍 で約 10μ
mに
達す る。 これ を過 ぎる と急激 に薄 くな り
,基板面 ま で落 ち込 む。 この間約
0.lmmであ る。 この帯 の下 端 近 傍 は挿 入の
SEM写真
(b)(c)に見 られ る ように
,多くの微
結 晶か ら成 る。 これ らの結 晶 は引 つ掻 いて も剥がれ落 ち る ことはな く
,基板 と強 固 に接着 してい る。 これ よ り下
Bare substrate surface in the bulk of solution
100μm
Optical transmitted microphotograph of the crystals grown from meniscus of the solution (a), and SEM images (b) and (c) of two parts indicated by arrows.
The graph inserted in the left side is a schematic drawing of the thickness distribution of the crystal assembly segregated.
Ga solution
Fig。
2
は基板その ものの露出面であ り,結晶核の発生は見 られ ない。
この結果は以下の ように説明で きる。
Fig.3に
メニス カス部の断面 と溶液中の過飽和度分布の模式図を示す。溶液表面での反応 は,溶液表面近傍のGaN溶質の濃度 を増大 させる。溶解度が頗る低いので,溶質濃度は容易 に均一核生成の過飽和度 を超える。 したがって溶液厚 さ が厚い,すなわち基板が深い場合には,溶液表面で生成 した溶質は基板 に到達する途中においてパ ウダー となっ て析出 して しまい,基板 に到達 しない。 こうした条件下 にあるのが結晶核の見 られない基板下部である。逆 に溶 液層が薄い場合 には,基板が大 きな過飽和度の均一核生 成領域 にあるので,基板上に結晶が析出するが,不均一
核生成ではないので基板 との接着は悪い。帯状析出物の 上部が これに対応する。これ らの間の領域 において,基
板上での過飽和度が不均一核生成 に要する過飽和度 とな る領域がある。こうした領域で基板上に析出する結晶は 不均一核生成によるので,基板 との接着は頗 るよい。 こ の条件で成長 したのが帯状の下部である。この時には溶 液表面で進行する化学反応は,基板表面への溶質の連続 供給 と過飽和の維持 に貢献するか ら,エピタキシーをお
こなうためには,この領域の成長モー ドを利用すべ きで ある.
この ように溶解度の低い
Ga―
GaN系において も,NH3との反応 によつて溶液表面の下の適 当な深 さの ところ に,不均一核生成 を起 こす過飽和度の領域 を生成 させる ことがで きる。すなわちNH3とGaと の反応でGaN結晶 を基板上に成長 させる場合には,溶液層の最適 な厚 さの
Fig3 Illustration of the cross section of meniscus region and the profile of saturation degree.
あることが判 つた。
3.2 濡れ液成長 と最適溶液厚 さのNH3供給速度依存性 前節で議論 した厚 さの溶液層 を基板上の広い範囲で実 現すれば,広い面積での層状成長が期待で きる。その一 つの方法 として回転する基板上に形成 される濡れ液層の 利用 を試みた。
Fig.4は
回転するルツボ中の液表面の形状 を模式的に 描いた ものである。Ga溶液 は基板表面 と同時 にルツボ 内壁 も濡 らすので,液表面は基板 とルツボ内壁 との接触 部において引 き上げられ,外側ほど厚い濡れ液層 を形成 する。反対側 において も溶液の引 き込みは起 こらず,濡れ液 となっていることは直接観察で確かめた。この濡れ 液層の何処かの領域 において,前節で述べた適当な厚 さ の溶液層が実現 されるはずである。その領域は基板の回 転 に従 つて基板上 を移動するので,基板面上のその場所
は回転回数 (あるいはその倍)に応 じて何度 も成長が繰 り返 され,厚い成長層が期待で きる。
Fig。
5はNH3供給速度 9sccmの 条件で30時間の成長 を お こなった結果である。回転 を反映 してリング状の成長 が見 られ,半径方向に成長の様子が図(a)から図(c)に示 す ように変化 していた。中央近傍では不規則 な形状 をし た高 さ約2μ
mの畝状 の成長が見 られた。外 に移 るにし たが って畝状成長は小 さな六角の孔 を残 しなが ら融合し,周辺部 においては六角の晶癖 を示す厚 さ約
4μ
mの ほぼ完全な層 を形成 している部分が見 られた。この実験結果はここで用いたNH3供給速度9sccmの 条 件下で起 こる液表面での反応速度が,周辺部の溶液層の 厚い領域 において成長 に適 した過飽和 を生成 したことを 示 している。
NI13供
給速度 をlsccmに 減 じた実験 におい(Radial dttection)
Fig.4 Illustration of the wetting solution standing in a rotating crucible.
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nucleation
Depth from the solution surface
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Fig.S Microphotographs of the crystals grown on the areas
of near center (a), middle (b) and outer region (c) of the rotating 6H-SiC substrate. The NH., supply rate was 9 sccm.
Fig.6 Microphotograph of the GaN layer grown by reducing the NH-, supply rate to I sccm.
ては層状成長の領域 は中央部 に移動 した。その層状成長 の様子 をFig.6に 示す。 ひび害
1れや イ ンクルー ジ ョンな どが見 られ
,まだ まだ改善の余地 は多いが
,これ らの実 験結果 は
NH3供給速度
,言い換 えれば液表面での反応速 度が基板表面上で成長 に適す る過飽和度 を生成す る深 さ に影響す ることを示 している。す なわち大 きな
NH3供給 速度 はパ ウダー生成領域 を広 げ
,結果 として適切 な過飽 和領域 を深 くに形成す る。 したが って成長 に適 した溶液 厚 さは大 きい。
NH3供給速度 が小 さ くなれ ばその逆 とな る。 この ように最適溶液厚 さが
NH3供給速度 に関係 す る こ とが半
Jった
.3.3
基礎 的評価
Fig。
7は成 長結 晶か らの
X線回折 (a2θ モ ー ド
)の例 で あ る 。 基 板 全 面 が
GaNで覆 わ れ て い な い の で
,GaN002と
共 にSiC006も 同時 に観測 される。両者 を比較 す る と線源 に用 いた
CuKαlと
CuKα2と の分離が
GaNにお い て悪 い。おそ ら く Fig。
6に見 られ た ようなひび割 れ な どに よる もの と思 われる。 この問題 は将来の課題 と し て解決 に取 り組 まなければな らない。
Fig。
8は77Kで測 定 した フ ォ トル ミネセ ンススペ ク ト ルであ る。成長時間の比較 的短 い もの (9時 間
)と長 い もの
(30時間
)とを示 した。前者 にお い ては非常 に強 いバ ン ド間発光が見 られるの に対 し
,後者で は特 に層状
成長の部分 において黄色帯が顕著 である。
GaNの黄色帯 は カーボ ンに起 因す る と言 われてい る ことか ら⊃
,本実 験 で用 い た カー ボ ンル ツボ 自体
,あるい は カー ボ ンと
NH3との反応 な どが原 因 と考 え られる。今 は簡易 コーテ ィングを施 しているに過 ぎないが
,工夫 に よって解 決で きる もの と考 えている。
34.500 35.000 35.500
Diffracti on angle, 20
今 ●
.じ む
︼∽ c ヨ o
︼ ︑
︱
︲X
Fig.? X-ray diffraction pattern of the sample shown in Fig.S.
今●.じむ
︼ ∽︼日飩口oヨ
380 420 460 500 540 580
Wavelength (run)
Photoluminescence spectra of the samples grown for t hours (thick line) and for 30 hours (fine lines).
4.お
わ りに回転す るSiC基板上 に形成 されたGa溶液の濡れ液 と NH3ガス との反応 によつてGaN結晶を成長 させ る実験 を おこなった。その結果,溶液表面での反応の駆動力 を基 板表面での結晶成長の駆動力の生成 に利用で きること, そのためには適当な溶液厚 さがあること,その溶液厚 さ
はNH3供給速度 に依存すること,まだ部分的ではあるが 層状成長が得 られることなどの知見が得 られ,常圧下で GaN結晶の新 しい液相成長方法の開発 に展望 を拓 くこと がで きた。
謝 辞
本研究の推進に際 し,当研究所天明二郎教授 のご協力, 三菱電線工業 (株)の只友=行氏のご支援 に感謝 します. また本研究の一部は高橋産業経済研究財団の助成による ものであることを記 し,謝意 を表 します。
参考文献
1)J.Karpinski,Jo Jun and S.Porowski,J.Crystal Growth 66 (198o l.
2)J.Karpinski and S.PoЮ
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wth 66(1984)11.3)H.Yamane,M.Shimada9■
Sekiguchi,RJ.DiSalvo,Jo Crystal Growth 186(1998)8.4)R.A.Logan and C.D.Thumond,J.Electrocheln.Soc。 ,119[2]
(1972)1727.
5)M.Shibata,To Furuya,H.Sakaguchi,S.Kuma,Jo Crystal
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7)■ OginO and M.Aoki,Japan.Jo Appl.Phys.,19[12](1980)