• 検索結果がありません。

2.3 先行状況一当該状況一後続状況

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "2.3 先行状況一当該状況一後続状況"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

wa⑪¢kとeersS

城 岡 啓 二

︵U雪⊥ハ∠つψ4 はじめに

〈変化〉の前提という共通点 く変化〉といっても,違いがある

〈変化〉の質まで考えてみる おわりに

0.はじめに

1.プリッツはまだ子供だ。

2.ブリッツはまだ20歳だ。

3.Fritz ist noch ein Kind.

4.Fritz ist erst 20 Jahre alt。

〈1)と②の「まだ」の用法に日本人である筆者は違いが感じられないが,ドイツ 語ではこの「まだ」に対応するnochとerstが使い分けられなければならない

という問題がある。n◎chとerstを使い誤ると非文法的な文ができあがる。

5.?Fritz ist erst ein Kind.[4/3/6]2)

6.?]Fritz ist noch 20 Jahre alt, [5/1/5]

つまり,Fritz ist e童n Kind。という文にはnochを付け加えることができるが erstは付加できないし,一方, Fritz ist 20 Jahre alt。のほうは,これとは反

対に,erstは付加できるがnochは使えない。どうやら, nochとerstには使 い分けがあるらしいことが分かる。

 しかし,nochとerstの使い分けが上記の例のようにいつでも,黒白はっき りしているかというと,そうでもない。次の(8a,b)は,(7)に対応するドイツ

(84)43

(2)

語として,使用上の違いは出てくるにせよ,nochとerstの両方の使用が可能

である。

 7、まだ11月だ。

 8.a.Es ist noch November.

  b。Es ist erst N ovember、

 整理すると,日本語の「求だ」は,ある場合にはnochが対応し・ある場合 にはerstが対応し,またある場合にはnochになったりerstになったりす る,という変なことになったわけである。さらに考えてみると・日本語の「ま だ」を出発点とした場合のnochとerstの使い分けは・そこに規則性があるは ずであるが,その規則性は,一一一S;Zしただけでは解読できないような複雑さ3}を 備えている,そういう使い分けということになるだろう。

 この複雑な規則性の解明が筆者の立てた目標である・具体的な問いのかた ちで示しておくと,

a.日本語の「まだjに対応するnochとerstのあいだに規則的な使い分け   があるかどうか。

b。nochとerstのあいだに規則的な使い分けがあるとすれば,その規則   はどのようなものか。

1.〈変化〉の前提という共通点

 まず,nochとerstの差異を探iる足がかりとして,この両者の共通点に圏を 向けてみよう。この二つの語は,どんな種類の文に付け加えても使える・と いうわけではない。いっしょに使える文について欄限がある。

9.Der K銭fer ist ein Au℃◎.

10.a.*Der Ktifer ist noch ein Auto.[0/0/6]4)

 b.*Der Ktifer ist erst ein Aut◎。[0/0/6]

(9)には,(10)が示すように,nochもerstも付加できない。

 次の(11>も,同様に,nochやerstの付かない文である。

11.Menschen haben zwei Augen.

12.a.*Menschen haben noch zwei Augen.[0/0/6]

 b.*Menschen haben erst zwei Augen。[0/0/6]

44 (83)

(3)

 (9)と(11)がn◎chの付加もerstの付加も許容しないのは,この二つの文に共 通する特徴がnochとerstに共通する使用条件と相容れないためだろう。そ れでは,(9)と(U)の二つの文に共通する特徴とは何であろうか。

 文の内容の妥当性が時の推移によって変化を受けない,という特徴が容易 に抽出できると思う。(9)は,フォルクスワーゲンが自動車のことだと説明し ているだけの文で,そこで述べられていることがらは時の推移と無関係に妥 当する内容だ。フォルクスワーゲンが去年は自動車のことでなかったとか,

今フォルクスワーゲンと呼んでいる自動車がこれから先いつか自動車のこと でなくなるとか,そういう可能性はおよそ考えることができない。(11)の文に しても同様で,人間が目をこ二つ持っているという事実は言わぼ普遍的な事実 であって,その妥当性が時の推移によって影響を受けることなど普通考えら れない。人智の及ぶかぎり,人間は以前も目を二つ持っていたし,それは恐

らくこれからもそう簡単には変わりそうにない。

 上で見たように,nochもerstも時の流れの中で変化を受けない内容を表 わす文とは共起しない。これは,nochとerstに共通する使用条件に反してい るからだと推論できよう。それでは,共通する使用条件とは何か。それは,

文の内容が時の流れの中で変化を受けるような内容でなければならない,と いうことになるだろう。

事実,nochやerstを付け加えることができた文に霞を転じてみると,(9)や

⑳とは対照的に,文の内容が蒔の推移で変化することがらになっている。

3.Fritz ist%oo乃ein、 Kind.

4。Fri亡z ist erst 20 Jahre alt.

8.a.Es ist noch November,

 b.Es ist erst November.

(3)のFritzがein Kindであるのも,(4)のFritzが20 Jahre altであるのも,

(8)のEs ist November.という内容も,どれも,時の流れの中の狭い範囲にし かあてはまりそうにない内容である。「プリッツ」がずっと「子供」であり続 けることは不可能だし,ずっと「20歳」であり続けることも不可能だ。また,

「11月」もずっと続iくことはあり得ない。nochかerstの一一方,あるいはその 両方が付加可能なこれらの文は,時の流れの中で変化を受ける内容だという 点で共通している。

以上,ここでは,nochとerstが〈変化〉をその使用条件とする点では共通 していることを述べた。

(82)45

(4)

2.〈変化〉といっても,違いがある

 前章では,nochとerstの使用上の共通点として,付加可能な文はその内容 が時の流れと無関係な恒常的,普遍的な内容であってはならず,時が変われ ばその妥当性もまた変わることが予想される内容を持っている必要がある,

という所まで考察している。ここでは,〈変化〉ということについてもう少し 突きつめて考えていくことにしたい。単純な変化の有無については両者とも 変化を条件としているという結論が出たのであるから,こんどは,変化の内 容を問うことによってn◎chとerstの差異が出る所まで入っていこうという 意図である。nochもerstも同じように変化を条件にしているといっても,そ の変化の中味には違いが出てくると思われるのである。

 文で表現されている内容を〈当該状況〉として,文に表現されてはいない が,これに先行または後続する(はずの)状況をそれぞれ〈先行状況〉,〈後 続状況〉として,これらの各状況を比較検討することで〈変化〉をより詳し

く捉え,これを基に分析を進めることにしよう。

2.1 当該状況から後続状況にかけて

 ものごとのく最終般階〉をその意味とする語がある琶)(13),(14)におけるaltや totがそれであるが,これらの語の表わす内容は,それに先立つ段階は存在す るものの(jungや1ebenを考えてみればよい),それに続く段階がもはや存在 しない,という意味でものごとの最終段階を表わしている語なのである。

13.Er ist alt.

14.Er ist tot.

ということは,⑬,(K>で述べられていることがらすなわち当該状況が,将来 これに続く後続状況で発展,進展,展開などなんらかの変化をする可能性が 既に書葉の意味の上から否定されている,ということである。altやtotで表 わされる状態は最終段階で,行き止まりで先がなく,言わば将来性がまった

くないのである。当該状況でaltやtotであるものは後続状況でもaltやtot であり続けるしかない。

 このような,最終段階を表わす,かなり特殊なグループの語彙に着目して,

これと共起可能かどうか調べることによってnochとschonの違いを明示し たのがM.Doherty(1973)の研究である。これによると, schonは最終段階

46 (81>

(5)

語と共起し,nochは共起しない。

15.a.Er ist schon alt.

 b.*Er ist noch alt. 〔0/0/7]

16.a.Er ist schon tot.

 b.*Er ist noch tot.  [0/0/7]

この説明として,Dohertyは,当該状況が後続状況で否定されることをnoch が前提6)にしているのに対して,schonはそうでないためとしている。なるほ ど,そういうことなら,上の(15b),(16 b)でnochが使えない理由がよく理 解できる。現在の状態が否定され,別の状態に変わることが要求されている のに,altやtotなどの最終段階語があらわす当該状況は,言語外の現実世界 の事情を考えてみるまでもなく,すでに言語内の世界で変化の余地の無いこ

とが明らかであるからだ。

nochが後続状況にかけての〈変化〉を前提にすること7)がDohertyの方法 で明らかになっているのだが,おなじ方法でerstについて調べてみると,

erstもまた最終段階語のaltやtotとともに使えないことが分かる。

17.*Er ist erst alt. [0/0/7]

18。*Er ist erst tot, [0/0/7]

ということは,erstもnochと同様に後続状況にかけてく変化〉があることを 前提にしている§)ということになろう。

2.2 先行状況から当該状況にかけて

 2.1では,ものごとの最終段階を表わす語を利用して,当該状況から後続 状況にかけての変化について考えてみたが,ものごとの最初の殺階(始発段 階)を表わす語を利用すれば,同様に,先行状況から当該状況にかけての変 化について考察を進めることができる9)

19.Fritz ist ein Baby.

ein Baby(赤ちゃん)はブリッツの始発段階を表わしている。科学的な見方 から胎児でも考えるのでなければ,「赤ちゃん」という状態は始まりであって,

ブリッツはそれ以前になにかであったわけではない。ここが肝心な所である が,仮に,先行状況における当該状況の否定・変化をnochの使用が前提とし

(80)47

(6)

ているならば・⑲にnochは付け加えることができないはずだ。そればかり か,以前になにか別の状態であったものが,それとは異なる状態に発展,展 開・進展・変化した・というような含みを持つ語は,なんであれ,⑲に付加 することができない,ということになるだろう。

⑲にnochは付加でき, erstは使いにくい乙゜)

 20.a. Fritz ist noclz ein Baby.

  b.?〜Fritz ist erst ein Baby. [2/4/7]

 jung(若い,幼い)という形容詞も先立つ段階の無い始発段階語であるが,

n◎chは使え, erstは使えない。

 2L a. Fritz ist noclz jung.

  1).*Fritz ist eTst jung. [0/0/9]

 (20 b)と(21b)におけるインフォーマント・テストの結果の差については 分からないが・とにかく,nochとerstの差異がここに来てDohertyの方法で 見つかったことは確かだ・nochは先行状況から当該状況にかけての変化を前 提としなくともよいが}1)erstはそれを前提とする。

2.3 先行状況一当該状況一後続状況

 文で述べられている状況すなわち当該状況をTとして,これまでに分かっ たことを表のかたちにまとめておこう。

先行状況 当該状況 後続状況

noch Tでもよい12 T Tではだめ

erst Tではだめ T Tではだめ

 表から分かる通り,nochとerstの違いは先行状況に関する条件の違いと いうことになる。当該状況と異なる先行状況を条件とするerstと,先行状況 は当該状況と同じであってもよいnoch,この点で両者は対立している。

 48 (79)

(7)

しかし,上の表にまとめられた知識だけでは説明できない場合がある。た とえば次の⑳や㈱におけるnochとerstのふるまいの違いだ。

22.a.Er war damals noch der Kδnig des Landes.[6/0/0]

 b.*Er war damals erst der K6nig des Landes.[1/0/5]

23.a.Er ist noch Papst. [4/0/2]13)

 b.*Er ist ersオPapst. [0/0/6】

皇太子を考えるだけで足りるが,王(K6nig)が以前王でないことは十分にあ り得ることである。同様に,ローマ法王(Papst)が以前ロー一マ法王でないこ ともあり得ることだ。つまり,伽,㈱のいずれの場合においても,先行状況 に関して,nochやerstの使用条件を満たすはずの「T」でも「Tの否定」で も容易に想定できるような場合である。にもかかわらず,(22),(23)でnochは使 え,erstは使えない。なぜか。

結論としては,nochとerstの使い分けの規則はこの段階の知識ではまだ 説明しきれない,ということに落ち着けておくのが良さそうだ。

3.〈変化〉の質まで考えてみる

 前章では,十分ではなかったにせよ,当該状況の前後における変化の有無 でnochとerstの差異の一部が明らかになった。そこで,今度は,同じ方向で

さらに先へ進むことを考えたい。どういう種類の変化が当該状況の前後に前 提されるのか考えてみるのである。

 と雷っても,どういう種類の変化を想定すればよいのか,という点につい て,必然的に出てくるような答えはない。〈早い変化〉,〈遅い変化〉,〈希望通 りの変化〉,〈期待はずれの変化〉,などなど,様々な変化が無限に想定できる 中でnochとerstの使用条件とかかわっている変化を見つけるには,結局の ところ,暗中模索するしかないようである。

 以下では,〈同一状況〉,〈上昇変化〉,〈下降変化〉の三つの種類の変化を想 定している。先行状況から嶺該状況,当該状況から後続状況,時間軸上に並 ぶ各状況をくらべて,二つの状況がおなじであればee 一一状況と言うことにし,

変化があれば,その変化のあり方から上昇変化と下降変化を区別する、上昇 変化や下降変化というのは幾分あいまいでかなり広い意味を持つ概念で,厳 密には異なるかも知れない幾つかの現象に見られる共通性を説明するために 筆者が仮定した概念である。

(78)49

(8)

 まず,数字が大きくなることに関係するような変化はすべて上昇変化,逆 方向の変化が下降変化と考える。したがって,体積,面積,長さ,重さ,速 度,温度,年齢,学年などの場合には,容易に上昇変化と下降変化が区別で きよう。それから,数字では必ずしも表わせなくとも,「成長」,「出世」,「完 成」,「到着」,r強化」といった方向の変化も上昇変化と見なしている。した がって,係長が課長になることや子供が大人になることも上昇変化であるし,

目的地に近づいて行くという移動も上昇変化である。形容詞の場合には,さ らに,「程度が強化される」ことも上昇変化と考える(hoch→sehr hoch,

h6her;niedrig→sehr niedrig, niedriger;halb wach・→wach)。

 上に見るような雑然とした概念をここでわざわざ持ち出しているのは,そ うすることによって,nochとerstの使い分けの規則が統一的に説明できる ようになると思うからである。

3.1 数字に関連づけた〈変化〉

 「成長率(増加率)は去年1%だった」という内容のドイツ語の文は,noch もerstも付加可能な文である。        ・

24.a.Die Zuwachsrate war vor einem Jahr noch ein Prozent.

 b.Die Zuwachsrate war vor einem Jahr erst ein Prozent.

この二つの文は,それだけで見れば,いずれも正しい文であるが,コンテク ストをいれればどうなるだろうか。先行状況としてたとえば「3%の成長率」

がある場合でも両方言えるのだろうか。あるいは,後続状況として,「0.5%

の成長率」が来る場合はどうだろうか。

 成長率を変化させた先行状況と後続状況を実際に(24a,b)に付け加えて,

その上で,できあがった文連続全体の文法性を何人かのネイティブ・スピー カーをつかって調べてみた。

 成長率が増加したかどうか(上昇変化かどうか),減少したかどうか(下降 変化かどうか),あるいは,同じままかどうか(同一一状況かどうか),という

ことだけに注目して,どれだけ増大または減少したかということを無視する と,先行状況くS)−y該状況0の一後続状況㈹における変化のパターンは9 つにまとめられる。この9つのパターンに沿った例文をつくり14)文法性を判 断してもらっている。9つのパターン,および各パターンにおけるnochと erstのインフォーマント・テストにおける結果を蓑にまとめて出しておく。

50 (77)

(9)

(a)

K

noch :3/O/2

erst : 6/O/O

(d)

K

noch :6/O/O

erst : O/O/6

s

(g)

K

noch :4/e/2

erst: 1/O/5

(b〉

T K

noch : 1 / O / 4

erst: O/O/6

(e)

noch: 3/O/2

erst: O/O/5

s

(h)

noch : 3 / 2 / 1

erst : 1/Q/4

(c)

T

ltoch :1/O/4

erst: O/O/5

s

(f)

T

noch :6/o/e

erst: O/O/5

s

〈i)

noch :6/O/O

erst: 1/e/4

(76) 51

(10)

 結果にはずれも見られるが・全員一致している結果にとくに注目したい。

重なりの無い分布が見られる。

noch:(d), (f);(i)

erst:(a)

 3.2,3.3では,テスト結果からnochやerstの典型的タイプをまず抽出 し・そのあとで・nochとerstの使い分け一般と抽出した典型的タイプとのあ いだの整合性を検討し・それぞれの典型的タイプの,モデルとしての有効性 を主張する根拠とする。

 3.2ではerstを中心に,3.3ではnochを中心に述べていく。

3.2 erstの結果から

 結果のはっきりしているところから結論を出していくという意味で,まず

erstについて見ると,(9),(h),(i)でそれぞれひとりが逸脱を示した他は,完 全に一致した結果となっている。これは,ここで行ったテストがerstの性質 を探る上で信頼性の高いものだということを示していると同時に,erstの使 用条件がきわめて厳格なものであ為ことを示唆している。(a)のタイプの文連

続では全員がその文法性を認め,残る(b>,(c),(d),(e),(f>の文連続に対して

は全員が非文法的な文連続だと判断している罰実際に使用した(a)のタイプ の文連続は次の通りである。

25・Die Zuwachsrate war vor zwei Jahren O,5 Prozent. Sie war vor   einem Jahr ersl ein Prozent、 Und in diesem Jahr ist sie zwei   Prozent.[6/0/0]

 (25>の文連続では,成長率が0.5%から1%,1%から2%へと上昇変化を続 ける途中の1%の状況について「erst 1%」ということが書われている。お そらくこの(a)タイプの変化[S/T/K]にerstの使用条件の本質がある。

 この,当該状況の前後に上昇変化を必要とするというerstの特性は, erst についての前章で出した結論,先行状況および後続状況は当該状況と異なっ ていなければならない,という条件とも矛贋しない。

 さらに,erstが,次の例に見るように,数字を含んだ表現とともに使われ ることが多い・という事実も,この(a)タイプの変化という条件から理解でき よう・というのは,数字を含んだ表現なら,当該状況の前後の上昇変化が容

 52 (75>

(11)

易に想定できるからだ。

26。a.Es ,ist erst 5 Uhr.

 b.Sie ist erst 17 Jahre alt.

 c,Wir sind erst 5km gegangen.(W6rter und Wendungen)

 d.Es ist doch erst der 5。(Eier・kuchen)!(E. Kastner:Das doPPelte

   Lottchen)

(26a)では,2時,3時,…,5時,…,7時,…というふうに時間が経過し、

言わば上昇変化していく途中の5時という当該状況についてerst 5 Uhr(ま だ5時)と言われているのだし,(26b>では,年齢が雷わば上昇変化、していく 途中の17歳が取り上げられ,erst 17 Jahre alt(まだ17歳)と言われてい

る。(26c)では,歩いた距離が上昇変化を続けるなかで,まだ5kmしか歩い ていないことが言われている。また,(26d)では,ホットケーキをどんどん食 べて行っている途中で、言わばその数が上昇変化していく途中で,今食べて いるのがerst der 5.(まだ五つめ)だと奮われている。いずれの例も、当該 状況の前後における上昇変化という条件を満たしている。

 また,数字は出てこないが,職業における序列や学生の各殺階(幼稚園児,

小学生,中学生,…)も容易に当該状況の前後の上昇変化が想定できる領域 である。そして,やはり次のようなerstを使った褒現が可能になる。

27.a.Er ist召フtsl Abteilungsleiter.

 b.Er ist erst Hauptman.n.

 c.Er ist erst Volksschtiler.

名詞ばかりでなく,形容詞もerstと結びつく。ただし,当該状況の前後に 上昇変化が想定できる場合に限られる。ということは,最低でも3段階の言 わば大小関係を表わす語彙が想定できなければならない。しかも,3段階だ として,その3段階の中間段階を表わす語としか結びつかない。このような,

形容詞にとってはかなり厳しい制限のため,ほとんどの形容詞はerstととも に使うことができないようだ。

 しかし,たとえば熱変化に対応する一連の形容詞においては,上の条件が 満たされる場合が出てくる。kalt−一一一一一一一lauwarm−hei Bのうちの1auwarm だけはerstとともに使える。

28.a.*Das Wasser im Kessel ist 6癬kalt.

(74)53

(12)

b,Das Wasser im Kessel ist erst lauwarm.

c.*Das Wasser im Kessel ist謬剛heiβ.

(a)タイプの変化[S/T/K]が想定できるlauwarmの場合にだけerstの 使用が可能になっているわけだ。それだけではない。(28b)では,これ以前,

やかんの水は冷たかったはずであり,このあと,水は熱くなるはずであるこ と16}をネイティブ・スピーカー4人で確認している。これも,当該状況の前後 における上昇変化をerstの使用条件として認めれば,容易に説明できること がらであろう。

 また,形容詞の前にhalb(半分,完全にではなく)が付くことがあるが,

この場合もerstの使用条件が満たされることになる。というのは, reifの場 合を例にとると,halb reifを使うことによって,この意味領域では,nicht reif

(熟していない),halb reif(完全には熟していない), reif(熟している)と いう3段階の上昇段階が想定可能になるからだ乙7)

29。a.Die Birnen sind ersオhalb rei五(W6rter und Wendungen)

 b.Sie war erst halb wach.〈W6rter und Wendungen)

 c.Ich bin erst halb fertig.(独和言林)

 最後に,前章までの結果では説明できないとして挙げた事例についても考 えておこう。次の(30a,b)におけるような非文の発生が説明できなかった

〔(22),㈱参照〕。

30.a.*Er ist erst Papst. [0/0/6]

 b.*Er war damals erst der Kδnig des Landes.[1/0/5]

これも,これまで述べてきた,ers之の使用条件としての(a)タイプの変化[S/

T/Kllで説明することができる。実は,述語名詞の意味論的性格がerstの使 用条件を満たすための障害になっていたのだ。Papst(u−一マ法王)やder K6nig des Landes(その国の王)というのは,後続状況にかけての上昇変化

(「出世」)があり得ない概i念を意味している。それで,(30a,b)におけるerstの

使用は使用条件[S/T/K]の後半に抵触し,非文を生み出す,と説明でき

る乙s)

 ところで,(30b)の場合には,述語名詞の内容を少し変えて, der K6nig eines einzigen Landes(一国の王)とすると,まったく正しい文となる。な ぜかと言うと,やはり,erstの使用条件の一部である後続状況にかけての上

54 (73)

(13)

昇変化がこれで可能になるためなのである。この場合,後続状況にかけての 上昇変化として,二国以上を支配した王様になったはずである。

31.Er war damals醐s der K6nig eines einzigen Landes.(Sp芸ter wurde   er der K6nig mehrerer L琶nder.) [6/0/0]

 以上,3.1のテストの結果から得られたerstの変化タイプ[S/T/K]

が多くの事例で支持されるのを見てきた。このerstの変化タイプ[S/T/

K],当該状況の前後に上昇変化を持つ変化全体のことをく成長型(変化)〉と 名付けておきたい。

       K

成長型(変化)のerst

3.3 n◎chの結果から

 nochに移ろう。 S−−T−−Kにパーセントの組み合わせを当てはめて行った 3.1のインフォーマント・テストの結果を解釈することから始めたい。

erstが成長型の[S/T/K]に対応する組み合わせのときしか適切な文 連続をつくりださず,結果がはっきりしていたのに対して,nochの結果は

ずっとはっきりしない。

 すべての文連続で,誰かしら,インフォーマントの少なくともひとりがそ の文法性を認めている。合計5人あるいは6人のインフォーマントのうち2 人以上が容認した組み合わせでも,かなりある。しかも,2人以上が容認し

た組み合わせのf・・…v−一一一部は,2人以上が容認しなかった組み合わせでもある。イ

ンフォーマントの判断に明らかな対立も見られるわけだ。

上で述べたようなことは,nochがerstよりも広い意味範囲の語であるこ とを示しているし,nochの使用条件にあいまいな部分があることも窺わせ る。また,ここで行ったテストがnochの使用条件を調べる上で必ずしも適切 ではなかった,という可能性も否定することができないだろう。

 とは言え,インフォーマント全員が適切だと判断した文連続もあるわけだ から,そこにnochの典型的な使われ方を見ることができるだろう。(d)の〔S

(72)55

(14)

一・T!K〕,(f)の〔S→T\K〕,(i)の〔S\T\K〕,この三つがそれだ。

これは,先行状況から当該状況にかけての変化の種類で,さらにご二つのタイ プにまとめることができる。先行状況から当該状況にかけて下降変化である

(i)のタイプと,先行状況が当該状況と同一状況である④と(f)のタイプである。

 まず,(i>のタイプのnochから考えて行こう。

32・Die Zuwachsrate war vor zwei Jahren drei Pr◎zent. Sie war vor   einem Jahr noch ein Prozent. Und in diesem Jahr ist sie O,5 Prozent.

  [6/0/O]

(32)がインフォーマントに実際に判断してもらった文連続である。S−T−Kが 3%−1%−0.5%と変化している。当該状況の前後両方に下降変化のあるタ イプで、下がる一方の変化であるから,〈没落衰退型(変化)〉と命名しよう。

 没落衰退型のnochでまず注意しなくてはならないのは, nochについての 前章までの結論とのかかわりだ。注12)でも述べておいたように,nochが始 発段階語と結びつく事実から結論できるのは,先行状況が当該状況と同じで なければならない,ということではなく,先行状況が当該状況と同一状況の 場合にnochが少なくとも使える,つまり,先行状況が当該状況と同じであっ てもよい,ということに過ぎない。没落衰退型のnochでは,先行状況と当該 状況が異なるが,したがって,前章までのnochについての結論とのあいだに

矛盾はない。…一一.一般に,nochと言えば「i持続・継続」ということが雷われ,先 行状況と当該状況が同一のものと決めてかかることにもなりかねないので,

この点は強調しておかなければならない。

 次に,没落衰退型のnochを仮定することで説明される事例を見て行こう。

 没落衰退型の変化〔S\T\K〕はerstの成長型の変化〔S/T!K〕と

正反対の変化である。それゆえ,次の(33a,b)では, erstとn◎chが入れ代わ ることでまったく正反対の事実関係を表わしている。

33。a.Das Wasser im Kessel ist erst lauwarm.

 b.Das Wasser im Kessel ist noch lauwarm,

〈33a)では,やかんの水はこれ以前冷たかったはずであるし,これから熱く なって行くはずであると9}対する(33b)では,その逆で,やかんの水はこれ以 前熱かったはずで,これから冷えて行くはずである㌍それぞれ,お湯をわか している状況と,わかしたお湯を放置した状況に対応している含1》このこと は,4人のネイティブ・スピーカー一で確認している。この関係を,視覚的に

56 (71)

(15)

捉え易くなるように・図示しておこう。

次の(34a,b)も,同様の関係を表わしていて,成長型と没落衰退型でうまく 説明される。

34.a.Sie ist erst halb wach.

 b.Sie ist noch halb wach.

(34a)では, erstが使用されているから成長型〔S/T/K〕で,〔nicht wach

(schlafen)ノhalb wach/wach〕となり,これ以前眠っていた入でこれから 起き出す人について使われる文だということが分かる。これに対して(34b)

では,nochが使用されているから没落衰退型〔S\T\K〕で12)〔wach\

halb wach\難icht wach(schlafen)〕となり,これ以前起きていた人でこれ から眠りに落ちるであろう人について使われる文だということが分かる。

今度は,少し違った例文だが,やはり,没落衰退型のn◎chと成長型のerst ということで説明できる場合である。人間の歯の数が問題になっている。

35.a.Das Kind hat erst zwei ・Z蕊hne.(Wδrter und We1ユdungen)

 b.*Der alte Mann hat exst zwei eigene Z装hne。

 c.Der alte Mann hat noch zwei eigeRe Ztihne.

人間の歯の数は,一生のうちに,歯が生え出す頃の成長型変化と,年ととも に歯を失って行く没落衰退型変化のふたつを経験する。同じように2本の歯 があるといっても,成長型変化の(35a>ではerstが使われることになるし,

没落衰退型変化では,(35b)が示しているように, erstが使えず,(35 c)が示 しているように,nochが選ばれることになる。

以上,没落衰退型のn◎chの実際をerstの成長型変化と対比しながら見て

(70)57

(16)

きた。最後に,筆者の作ったものでない,没落衰退型変化でうllkく説明でき るnochの例文をもう一つあげることで締めくくっておきたい。

36・In Mittele縫ropa kann man im Freien an ei鷺em somigen Tag im   Sommer 100000 Lux messen, im Her1)st immerhin noch 30000 und   im Winter caユ0000 Lux.(J. Pinske:Orchideen f r zu Hause.〉

 なお,3.1のパーセントの組み合わせのテストで出てきた(9)や(h)の変化の タイプは,詳しいことは分からないが,(1)の没落衰退型変化の逸脱タイプで あると筆者は考えている。(9),(h)を含めて,図にまとめておこう。

,濁(9)4/0/2

K

 九一一一一一一一一怜…一・e・@(h)3/2/1

T      K

(i)5/0/◎

K

没落衰退型(変化)のnoch

 それでは,nochのもうM・・一・一・一つのタイプに移ろう。3.1の9つの変化パターン のうち,(d)の〔S−・T/K〕と(f)の〔S→T\K〕に対応するnochのこと である。(d)と(f)の両変化パターンでは,erstが使えず, nochだけが許容され ている。しかも,nochの使用はインフォーマント全員一致で支持…されている。

次の㈹,㈱の文連続でテストしている。

37.Die Zuwachsrate war vor zwei Jahren, ein Prozent. Sie war vor   einem Jahr noclz ein Prozent. Und in diesem Jahr ist sie 2 Prozent.

  [6/0/0]

38.Die Zuwachsrate war vor zwei Jahren ein Prozent. Sie war vor   einem Jahr noch ein Prozent. Und魚diesem Jahr ist sie O,5 Prozent,

  [6/0/0〕

 まず,これまでと同様に,前章までの結論との整合性から見ておこう。後 続状況は当該状況と異なっていなければならないがe先行状況は当該状況と 同じであってもよい,というのがnochについての前章までの結論である

(2.3参照)。(d)と(f)の変化パターンは両者ともこの条件を満たしている93}

58 (69)

(17)

 ところで,(d)や(f)におけるようなnochについては,辞書などでもごく普通 に取り上げられ,wie zuvor(以前同様に)と言いかえられたり, Fortdauer

(持続・継続)という説明が付いたりしている。ということは,どうやら,(d)

と(f)におけるnochは,便宜的にも意味の上からも,ひとつのものとしてまと めて扱うのが良さそうだ。

 (のと(f)の変化パターンに共通しているのは,もちろん,先行状況から当該 状況にかけての部分で,ここが同一状況になっている・したがって,このタ

イプのnochでは,言わば旧状が維持されるわけだから,〈旧状維持型(変化)〉

のnochと呼んでおこう。

 旧状維持型のnochは,先行状況と当該状況が同一状況でありさえすれば,

後続状況にかけては上昇変化でも下降変化でもよいのだから,結局,後続状 況にっいての条件は,変化がありさえすれぼよいということである。したがっ て,結果的に見ると,旧状維持型のnochでは,上昇変化や下降変化の概念は 不要であったことが分かる。

 2.2で確認したことであるが,nochは始発段階語と共起する。実は,それ が可能になるのは,没落衰退型のnochではなく,旧状維持型のnochの存在 があるからだ。もう一度,この辺りのことを確認しておこう。次の㈲では,

まあ始発段階語と見てよいfrUh24)が使われている。 nochを使用した(a)は文 句のない例文であるが,erstを使用した(b)は容認しない人の方がずっと多

いo

39.a. Es ist noch frUh. [7/0/0]

 b.??Es ist erst fr蓑h。 [2/0/5]

どうして(b)が認められないかというと,成長型変化のerstではもう一つ「前」

(「下」)の段階が必要であるのに,始発段階語ではいかなる前段階も想定不可 能だからだ。一方,旧状維持…型のnochでは,先行状況が当該状況と同一であ るから,異なる後続状況が可能でありさえすればよい。Es ist frah.という当 該状況については,Es ist sp翫.という後続状況が想定できる。したがって,

いい加減な書き方をすると,fr員h→noch frtth 一 sptitという変化パターン が想定でき,(a>は文法的だということになる。

成長型のerstと旧状維持…型のnochとの関連を見るために,もう一一つだけ 考えておこう。

 「まだ春のはじめで,まだ雪があった」という内容についてであるeまず,

「まだ春のはじめで」という部分から検討すると,先行状況から当該状況にか

(68)59

(18)

けての関係は,「春のはじめ」→「まだ春のはじめ」ではないだろう。S−一一T−一一K には・「冬」→「まだ春のはじめ」→「春のさかり」などを考えているはずだ。

したがって,旧状維持型ではなく成長型の〔S/T/K〕の変化パターンに 合致するから劉erstを使うことになる。次に,後半の「まだ雪があった」の 部分を考える。成長型変化は想定不可能だ。「雪があったj→「まだ雪があっ た」→「雪がない」という変化を考えることになるだろう。したがって,IH 状維持型のn ochを使うということになる。

 というわけで,次の㈲では,前半の「まだ春のはじめで」の部分にnochを 使った(a>は非文法的で,erstを使った(b)は文法的だという判断を受けてい

る。後半は(a),(b>ともにnochが使われている。

40・a2PEs war−9. Es gab noch Schnee.[0/1/2]

 b・ Es war erst Anfan Fr蕪hlin.Es gab noch Schnee.〔3/0/0]

 旧状維持型のnochをまとめて図示しておこう。3.1のテスト結果も添え

ておく。

 (d)6/0/O

K

輸一噛り階一貞一一一嘩一一 ag(e)3/0/2

     K

(h)6/0/0

K

旧状維持型(変化)のnoch

 最後に,erstと混同されているn◎chのタイプについても触れておこう。

erstの使用条件である成長型変化でnochの使用も認めるインフォーマント がいる。事実,次のωはインフォーマント5人のうち2人が非文法的と判断

しているものの,3人は文法的だと判断を下している。

4L?Die Zuwachsrate war vor多wei Jahren O,5 Prozent. Sie war vor   einem Jahr noch ein Pr◎zent。 Und in diesem Jahr ist sie zwei   Pr◎zent. [3/0/2]

いい加減に判断されてこういう結果になった,というものではないようだ。

というのは,(41)でn◎chの使用を認めた者は,完全に一致はしていないが,次

60 (67)

(19)

の㈲や㈲のような他の成長型変化の文脈でもnochの使用を認めているから

だ。

42.a.Plch habe vorhin Kaffee zum Aufwarmen auf die Kochplatte     gestellt, aber er ist noch lauwarm.[4/2/1]

 b.Ich habe vorhin Kaffee zum Aufwtirmen auf die Kochplatte

    gestellt, aber er ist erst lauwarm.[7/0/0]

43.a.Fritz ist noch 20 Jahre a蓋t。 [5/1/5]

 b.Fritz ist erst 20 Jahre alt. [11/0/0]

 しかし,こういう用法のn◎chを許容することが,そのまま,自分でも実際 に使用する,ということに必ずしもならないだろう。筆者は,この研究を始 めてからnochやerstを含む文には注意していたが,(43 b)のような,

「erst十年齢」を述語とする文にはよくお目にかかったけれど,(43 a)のよう な,n◎chを使う文にば一度しかお目にかかっていない。しかも,それは日本 人のつくったドイツ語の教科書だった【注1)参照】。つまり,(43a)のよう な文は,11人中5人ものインフォーマントが許容しているものの,まずお目 にかからない文であることが言えようかと思う。

4.おわりに

 nochとerstのあいだには,紛らわしい点はあるにせよ,かなり規則的な使 い分けがあることが分かった。文で表わされている状況(当該状況)とその 前後の状況(先行状況および後続状況)を考えて,それが成長型変化の場合 にはerstを使い,没落衰退型変化と旧状維持型変化の場合にはnochを使う,

という使い分けである。ただし,成長型変化でnochの使用を認めるイン フォー一マントもいる。その意味では,nochとerstの使い分けに混乱が見られ るというのも事実である。

本稿の冒頭に置いた日本語の隊だ」との関連の問題を最後に考えておこ

う◎

 「プリッツはまだ子供だ」という文で,先行状況はどうなっているか考え ると,プリッツは子供以外のなにかであったはずはない。先行状況でも子供 であったはずだ。ということは,上の文では,先行状況でも子供であったブ リッツについて「まだ子供だ」と書われているのであり,旧状維持型変化が あてはまる。したがって,erstではなくnochを選んで, Fritz ist noch ein

(66)61

(20)

Kind.と言うことになろう。

 「ブリッツはまだ20歳だ」の場合,先行状況として同一状況の20歳が想 定できるようなことはまずない。この前会ったときには20歳だったが,今も

「まだ20歳だ」という文脈で言われることはないだろう。そうではなく,以 前はもっと若かったであろうし,これから少しずつ年もとって行くだろう,

そういう成長の変化は当然のこととしながら「まだ20歳だ」と言われるのが 普通だろう。したがって,旧状維持型変化ではなく成長型変化があてはまる 場合だから,nochではなくerstを使って, Fritz ist erst 20 Jahre alt.と言

うことになろう6

 もっと微妙な場合も出てくる。地下鉄に乗っていて,連れはうとうとして いる。目が覚めたかと思うと,Wo sind wir jetzt〜(今,どこ?)と聞いて くる。まだたいして進んでいないという気持で,進行途中の一一・,9Nについてた とえば「まだ秋葉原」と書いたいのであれば,成長型変化のパターンにうま く合う場合だから16) Erst in Akihabara.となるだろう。これに対して,故障 かなにかでしばらく前から秋葉原から進んでいなかったとして,依然として 秋葉原にいることが言いたくて「まだ秋葉原」と考えるのであれぼ,旧状維 持型変化のパターンだから,Noeh in Akihabara.が対応することになろうa

1)日本の小説の独訳(ドイツ人の手による)を使って,「まだ」とnochとerstの 関係を調べてみた(「女面」,「沈黙」,r氷壁」,「山の音」,「万延元年のフットボー

ル」)◎

隊だ」

312例 n◎ch 225例(noch immer,immer noch, auch nochを含む)

erst 3例

その他 84例(対応の無い場含が多い〉

「まだ」はだいたいnochで訳されている。 erstが使われているのは,たった3例 しかないe対応する語がドイツ語の訳文に表われていない場合や他の手段による

もの(たとえば,nun auch, bisher, unvertindert, weiter, zesminde$tなど)は,

84例でかなり少ない。

 日本人のドイツ語学翌者(私自身も含めて)の犯しやすいまちがいの傾向は,

62 (65)

(21)

 「まだ」が圧倒的大多数の場合nochで訳せるため「まだ」とIlochを完全に同一  視してしまい,erstを使った方がよいところでnochを使ってしまうというもの  である。次に載せるのは,日本人のつくったドイツ語の教科書の本文から採った  ものである。

  Onkel Karl war damals noclz drei Monate a1t. Er war noch ein Baby und   schrie immer,(「橋本現代ドイツ語のための読本」 郁文堂)

 続けて二度出てくるnochのうち前者のnochがerstであった方がいい。また,次  の辞書の例文のnochもerstの方が良さそうな場合である。

  寒いとはいうもののまだ11月だ。

  Kalt, und doch ist es noch November.

  (「現代和独辞典」 三修社)

2)斜線で区切った数字〔数1/数2/数3〕は〔正/?/誤〕の順で,そのよう  に判断したインフォーマントの人数を示している。たとえば〔3/1/2〕は,

 その例文を3人が文法的と認め,1人があいまいな判断を下し,2人が非文法的  と判断したことを示している。

3)この複雑さであるが,これが複雑な言語規則に由来するのであれば,からみ 合った条をほどくようにして解明は可能であるが,言語の不規則性から来る複雑  さであれば,解明は不可能に決まっている。筆者は,本稿で,基本的には前者の 立場から記述を行おうとしているのであるが,実際の言語は両者のまじり合った  ものである可能性が強いと思う。そうであれば,「複雑さの解明」と言ってみたと  ころで,おのずから限度があるはずであろう。ネイティブ・スピーカーによるイ  ンフォーマント・テストで出てくる結果の「ゆれ」や「ずれ」に説明のできるも のもあれば,できないものもあるのは,言語の持つ規則性と不規則性を反映して  いるように思われる。

4)BMWはクルマだがホンダはクルマじゃない。フォルクスワーゲンはまだクル マだ,というような特殊な意味合いだろうと思うが,極めて特殊な場合には使え ないこともないと答えたインフォーマントが何入かいた。

5)この章では,「最終段階(final states>」語や「始発段階(initial states>」語と いう概念を操作して分析をして行くが,これは,M. Doherty(1973)のnochと schomこついての研究にある考え方で,この2.1では,それをerstにも応用して

いる。

6)M.DohertyはPrtisuppositionという語を使っている。この術語(Pr装supposi・

tion/前提〉は最近の言語学や言語哲学で比較的多く使われ,たとえばwissenの daB節の内容のように,轡定文でも否定文でも同じように含意される内容だと か,疑問文にしても疑問視され得ない内容を指して使われるようであるが,ここ でのそれはその種のものではない。

 また,必ずしも絶対的な拘束力を持つものでもない。E. K6nig(1976)では,

(64)63

(22)

 M.Doherty(1973)のこの点が批判され,後続状況で当該状況が否定されること  をnochはprasupponierenしていないとして,次の例があがっている。

  a.K6nig Konstantin lebt noch im Exi1, und das wird wohl immer so     bleiben.(コンマはi筆者が追加)

 確かに上の文はドイツ語として問題がないようだ。筆者も6人のインフrk・一マン  トで確認している。とは言え,時制を変えて全体を過去のできごとにすると,こ  れを認めないインフォ・一一一一一マントも出てきている。おそらく,時制が変わることに  よって前提の拘束力といったものが変わってくるのだろう,と考えられる。

  b・〜K6nig Konstantin lebte noch im Exi1, und das b玉ieb auch so.[3/1/2〕

  それに,altやtotなどの最終段階語とnochが結びつかない事実も,やはり見

 逃せない。

  したがって,前提がなんらかの条件の下でそれ程厳格に守られないとしても,

 K6nigのように, nochの意味記述の中から後続状況に関するものを外してしま  うのは問題である,と欝える。

7)ここで,Dohertyが否定と捉えているものを筆者は変化と捉え直している。「変  化」は「否定」を含む上に,種類や経過も問題にできる概念であろう。この発想  の転換は次のステップで重要な意味を持ってくる。次章で出てくる没落衰退型の  nochや成長型のerstは,この発想の転換をもとにして生豪れている。

8)erstについても注6)が扱ったのと共遍する問題が生じる。

  後続状況で当該状況が否定されることをerstが前提にしているとここで述べ  ている。また,次の章では,たんに否定されるだけでなく,上昇変化(たとえば  3歳の子供が4歳 5歳と成長して行くこと)の必要があることを述べる。

  ところが,次の例文のように,後続状況の無い例文も可能になることがあるよ

 うだ。

  Er war erst 3 Jahre alt, als er starb.(P. Blumenthal)

9>M.Dohertyは, schonとその否定の対であるn◎ch nichtが始発段階語と共起  しない事実の確認から,schonおよびnoch nichtがnot−S→Sという連続を前提  にしていると述べている(Sは当該状況)。

  *Peter ist schon jung。

  *Peter ist nock nicht jung.

10)MDGhertyが始発段階語と共起しないことを指摘しているschonであるが,

 erstとくらべてみると,先行状況に関する前提の拘束力に違いがあるのだろう  か,インフォーマントの判断にはかなり差がある。⑳と同じ文脈でschonの使用

 を認めたインフォー一マントは一一…一一・・人もいなかった。

  *Fritz ist schon ein Baby. [0/1/10]      ,

11)始発段階語とnochが共起可能なことを解釈して,先行状況が当該状況と同じ  場合にしかnochは使えない,という結論は出せない。なぜなら,ここで証明でき

64 (63)

(23)

 ているのは,先行状況が当該状況と同じ場合にnochが使える,ということであっ  て,その場合にしか使えない,ということではないからだ。

12)厳密に言うと,先行状況がrT」でなければならないnochiと「T」であっては  ならないnoch2の二つの場合を区別するべきである。次の章では,それを旧状維

持型のnochと没i落衰退型のnochとして説明しているζ注11>も参照のこと】。

13)この文を容認しないインフォーマントが2人もいた。不可解である。文頭に疑 問符は敢えて打たなかった。

14>作った文連続は,次のようなパーセントの組み合わせになっている。

 (a)0.5%→1%→2%

 (b)  0。5%  → 1%→1%

 (c) 0.5% → :L%→0.7%

(d>

(e)

(f)

(9)

(h)

(i)

15>全員と言っても,      5人のこともある。

16)この点については,注19)および本文の,例㈲を含む箇所も参照されたい。

17)3.の冒頭で述べたように,halb reif→reifの方向の変化を筆者は上昇変化と  捉えている。形容詞の「程度」を考え,これが強まるようなら上昇変化,弱まる  ような変化なら下降変化と考えるわけだ。

18)ある概念が後続状況にかけての上昇変化が可能な概念かどうかを決めるのは,

幾分個人的な色彩を帯びるにせよ,文化集団に共通の価値判断ということになる  だろうか。

  たとえばRektor(大学の学長)の場合について考えてみると,これは大学内部 では最高の地位にあり,これ以上の上昇変化はあり得ないはずだ。しかし,調べ  たインフォーマント全員(6人)がerstとの使用を許容している。つまり,ドイ  ツ語を話す文化集団は,学長にはまだ文部大匝,首相,大統領などへの上昇変化  が可能であると見倣しているわけであろう。

 Er ist erst Rekt◎r ein.er Universitat.

19)やかんのお湯が放置されて冷えてくるような場合ではなく,アイスコーヒーを  つくる場合のように,意図して冷却する場合にerst Iauwarmが使えるようにな  るかどうか,という点については,これを容認する人と容認しない人がいる。い ずれにしても,この場合でもnoch lauwar瓢の方が普通であることは確かなよう

 だ。

  a.工ch habe voτhin Kaffee zum Abk茸hlen in den K趨h互schrank gesteUt, aber

1%→1%→2%

1%→1%→1%

1% → 1%→0.5%

3%→1%→2%

3%→1%→1%

3% → 1%→0.5%

     6人のこともあれば,

(62)65

(24)

    er ist noch lauwarm.〔7/0/1]

  b.〜lch habe vorhin Kaffee zum Abktihlen in den Ktihlschrank gestellt, aber     er ist erst lauwarm.[3/0/5]

  なお,erstについては, E. Kδni慕(1979)1ま, Das Wasser ist erst lauwarm,

 という表現は加熱する場合でも冷却する場合でも使える,としている。筆者の結  果とは一一致していないが,紹介しておく。

20)nochのもう一つのタイプ,言わゆる「持続・継続jの旧状維持型のタイプは,

 この文脈で,現実世界とのかかわりから考えにくいのだと思われる。やかんの水  が少しあたたかいままに変化もせずとどまっているのが,あまりあり得そうにな  いばかりか,誰もそんなことを殊更問題にしそうにないからだ。

21)事のついでに日本語の「まだ」について考えてみると,「まだぬるい」と言えば,

 これ以前水は冷たかったことになるだろうし,「まだ少しあたたかい」と言えば,

 これ以前水は熱かったはずであろう。つまり,詳細は不明だが,「まだ」と結びっ  く語の選択によって温度変化の方向が変わるようだ。nochとerstの選択にょっ  て温度変化の方向が変わるドイツ語の場合とは異なる仕組みとなっている。

22)ここでは,言わゆる「持続i・継続i」の旧状維持型のnochは考えられない,とい  うインフrt・一マント(1人)の判断がある。

23)ただし,5人中3人が認めている(e)の変化パターン〔S→T−→K〕でのnochの  使用を考慮に入れると,話は違ってくる。没落衰退型変化における(h)の変化パ  ターン〔S\T→K〕もそうだが,(e)では後続状況が当該状況と同一一状況である  から,前章までのnochについての結論とのあいだに矛盾がある。だからこそ,(e>

 や(h)に対応する,nochを含む文連続を非文法的な文連続とするインフォーマン  トもいるのだ,と言うこともできよう。

  erstの場合と比較すると, erstを含む文連続は,後続状況にかけての上昇変化  を満たさないと〔(b)および(c>〕,インフォーマント全員によって非文法的な文連続  として判断されている。ここで結論を出すつもりはないが,後続状況に関する条  件の持つ拘束力といったものを考えれば,nochとerstのあいだに差があること

 は確かだ。

24)frtthの前後両方にsp翫を考える人にとっては, frtthは始発段階語ではない。

25)未来への方向のr時の流れ」を上昇変化と見倣している。だから,たとえば「春」

 →「夏」,「月曜日」→「火曜日」はいずれも上昇変化である。

26)出発地から目的地への移動の過程は上昇変化と見なせるのではないかと筆者  は考えている。

66 (61)

(25)

6X Y mbk

Abraham, W. (1977). "̀noch' ultd tschon' als polare Satzfunktoren." In : Sprengel/

  Bald/Viethen (Hg.) Semantik uRd Pragmatik, Tttbingen, 3‑20.

Abraham, W. 〈1980〉. ttThe Synchrenic and Diachronic Semantics of German   Temporal tnoch' and tschon'. With Aspects of English "still', tyet' and   "already'." In : Studies in Language, Amsterdam, Vol. 4, No. I, 3‑24.

Blumenthal, P. (1974). "tEine kentrastive Prtisuppositien$analy$e: nur/erst ‑  seulment." In : Linguistik und Didaktik, Mitnchen, 5, 5e‑58.

Curme, G. O. (19222). A Grammar of the German Language, New York.

Doherty, M. (l973). t'noch' and tschon' and their presuppositions." In : Kiefer &

 Ruwet (Eds.) Generative Grammar in Europe, Derdrecht.

Galton, H. (1977). "tnoch' und tschon' im Deuts¢hen und Russischen." In : Folia  Linguistica, The Hague, IO, 377‑384.

Hoepelman, J./Rohrer, C. (i981). "tRemarks on tnoch' and {schon' in German."

 In : Syntax and Semantics, New York, l4, 103‑l26.

K6nig, E. (l976). trSemalttische Analyse voR {noch' und tschon'." In : L6wen und  Sprachtiger, L6wen/Louvain, 225‑237.

K6nig, E. (1977). t"Temporal and Non‑temporal Uses of tnoch' and tschon' in  German." In : Linguistics and Philosophy, Vol. 1, No. 2, 173‑198.

K6nig, E. (l978). ("noch' und tschon' und ihre Entsprechungen im Englischen. Eine  kontrastive Untersuchung." In : Linguistik und Didaktik, Mimchen, 9, 246‑267.

K6nig, E. (1979). ttA Semantic Analysis of German Cerst'." In : Btiuerle/Egli/von  Stechow (Eds,) Semantics from Different Peints of View, Berlin, 148‑!6e.

Shetter, W. Z. (1969). ttThe Meaning of German noch." In : Language, 42, No, 1,  42‑66.

(6e) 67

参照

関連したドキュメント

人は何者なので︑これをみ心にとめられるのですか︒

の応力分布状況は異なり、K30 値が小さいほど応力の分 散がはかられることがわかる。また、解析モデルの条件の場合、 現行設計での路盤圧力は約

契約業者は当該機器の製造業者であ り、当該業務が可能な唯一の業者で あることから、契約の性質又は目的

「聞こえません」は 聞こえない という意味で,問題状況が否定的に述べら れる。ところが,その状況の解決への試みは,当該の表現では提示されてい ない。ドイツ語の対応表現

が有意味どころか真ですらあるとすれば,この命題が言及している当の事物も

従来より論じられることが少なかった財務状況の

規則は一見明確な「形」を持っているようにみえるが, 「形」を支える認識論的基盤は偶 然的である。なぜなら,ここで比較されている二つの規則, “add 2 throughout” ( 1000, 1002,

線遷移をおこすだけでなく、中性子を一つ放出する場合がある。この中性子が遅発中性子で ある。励起状態の Kr-87