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大気エアロゾル観測のための観測装置・解析 アルゴリズムの高度化

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Academic year: 2021

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研究成果

大気中のエアロゾル(粒子状の浮遊物質)は、物理・

化学的な様々な側面から重要であることは間違いない が、その生成・維持・消滅などの機構は極めて複雑であ り、組成・粒径分布・形状を含めた実態について、いま だにわかっていないことが多い。地球の放射収支(地球 の気候)に果たす役割という観点では、エアロゾル自身 の直接的な放射特性に加えて、雲核として雲を形成しそ の間接的な働きがあるため、放射収支の理解が他の組成 と比べて複雑になっている。さらに近年では、微小なエ アロゾル(PM2.5:粒径2.5μm以下)等の人体への影響 も懸念され、社会問題にもなっている。

本研究チーム構成員は、これまで様々なリモートセン シング観測手法により、エアロゾルの光学特性に着目し た観測的研究をおこなってきた。福岡大学では、長年継 続しているライダー(Lidar)観測に加えて、昨年より MAX-DOAS 法* と呼ばれる大気中の微量気体成分およ びエアロゾルを観測できる新しいリモートセンシング観 測を開始した。そこで本課題では、既存観測技術を基礎 とした観測を長期間 (3年間)継続し、異なる観測手法 間のエアロゾルの観測データ比較を行うとともに、それ ぞれの装置の観測手法の高度化を行う。さらに地球規模 での物質循環という観点で、極域や熱帯域の観測にも対 応可能な観測手法の高度化を試みることを研究目的とし た。

* MAX-DOAS(Multi Axis Differential Optical Absorption Spectroscopy)法(複数仰角における太 陽散乱光分光計測・差分吸収測定法)。太陽散乱光を 利用した地上からのリモートセンシング観測手法で、

複数の対流圏下層の大気微量成分を同時に観測でき る。鉛直分布を得ることもでき、連続観測が可能である。

1.MAX-DOAS法による大気エアロゾル、ガス 観測

近年の国境を越えた大気汚染の深刻化を受け、中国大 陸から輸送される汚染大気と、日本の都市域から放出さ れる汚染大気(エアロゾル・大気微量ガス成分)の混合 過程を明らかにするため、大気汚染物質濃度の定量化を 目的とし、MAX-DOAS 法と呼ばれるリモートセンシン グ観測手法の高精度化を行ってきた。

1-1.都市中心部の汚染大気(大気エアロゾル・二酸 化窒素)の輸送・拡散過程の解明

 2012年に福岡大学に設置したMAX-DOAS 観測装置に より定常(連続)観測を実施した。得られた太陽散乱光 スペクトルデータからエアロゾル消散係数、二酸化窒素

(NO2)の鉛直分布を導出し、季節変動、日変動、年々 変動等について調べた。NO2 については地上観測データ

大気エアロゾル観測のための観測装置・解析 アルゴリズムの高度化

物質循環研究チーム (課題番号:137103)

研究期間:平成 25 年 7 月 24 日~平成 28 年 3 月 31 日 研究代表者:高島久洋 研究員:白石浩一

図1 2軸型MAX-DOAS観測装置。18号館屋上に2012年6月に 設置し、大気エアロゾル・大気微量ガス成分の連続観測を 継続している。

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を用いて検証を行った。福岡市は都市中心部(天神) で、

人為起源の大気汚染物質(窒素酸化物等)の排出が高い ことが期待される(図2)。一方、福岡は北側に海に接 しており、海陸風循環が卓越している。福岡大学から2 つの方位角方向の観測を行うことで(天神方向、糸島方 向についてのエアロゾル・ガス成分の鉛直部分布を測 定)、都市中心部の汚染大気が水平・鉛直方向に輸送さ れる過程を明らかにした(図3)。

1-2.小型MAX-DOAS観測装置の開発

都市域の大気汚染物質(エアロゾル・大気微量ガス成 分)の時空間分布を明らかにするため小型分光器・小型 テレスコープを用いたMAX-DOAS 観測用の装置を試作 した。またその装置を自動車に搭載して福岡都市高速 環状線にてエアロゾル・NO2 鉛直積算量(NO2 VCD)

の試験観測を行った。テレスコープ装置に不具合があり データ欠損が多かったが、観測した2日間(2015年8月、

11月)ともに、NO2 については午前中は環状線北~北東 側(都市中心部;博多-天神付近)で極大がみられ、午 後になると環状線南~南東側で高い傾向がみられた(図 5にNO2 の観測例について示す)。風向・風速の変動を 調べた結果、海風の流入にともない環状線北東側の濃度 が減少し、南~南東側の濃度が上昇する様子がみられ た。福岡都市域における NO2 濃度の時空間不均質性は、

都市中心部の高濃度の気塊の移流と海上からの低濃度の 気塊の移流により支配されていることが示唆される(山 口ら,2016)。また観測データを用いて環状線内からの NOx の排出量を見積もった。今後、安定して連続観測 ができるよう装置を高度化し、排出量の時間変動、季節 変動等を調べることを計画している。

2.ライダーによる大気エアロゾル連続観測 これまで福岡大学で実施してきたライダー(lidar)観 測技術を基礎として、福岡大学において大気エアロゾル の長期自動連続観測を実施した。大気エアロゾルの鉛直 図2 窒素酸化物(NOx)の排出インベントリ(Kannarietal.,

2007による)。福岡大学18号館屋上に観測装置を設置し、

天神方向(北北東),糸島方向(北西)方向の太陽散乱光 を交互に観測し、両方位でのエアロゾル・NO2等の鉛直鉛 直分布の連続観測を実施した(Takashimaetal.,2015)。

図4 小型分光器・テレスコープを用いたMAX-DOAS観測装置。

自動車に搭載して福岡都市環状線内で観測を行った(山口,

2016)。

図3 天神・糸島方向で観測した窒素酸化物濃度(VCD)の

図5 小型観測装置による二酸化窒素(NO2)の観測例。福岡都 市高速環状線で連続観測を実施した(山口,2016)

(3)

では、2014年5月26日に寒冷前線通過時に飛来した黄砂 の高度分布に関する観測結果、2014年12月~ 2015年11月 にライダーで観測された大気境界層の変動、そして初期 解析結果の準リアルタイム表示機構の開発について報告 する。

2-1.寒冷前線通過時にライダーで観測された黄砂層 の光学特性

2015年5月26日にライダーにより、寒冷前線通過後に 黄砂を観測した。福岡管区気象台で計測された気圧、気 温、風の時間変化から、13時から14時にかけて寒冷前線 が東進し福岡上空を通過したと推測できた。

図6に2014年5月26日0時から23時59分にかけてライ ダーにより観測された散乱比、偏光解消度、波長指数の 時間高度断面図を示す。ライダーの観測結果は、午前7 時頃から寒冷前線の通過した時間(14時付近)まで、高 度1kmから3km付近まで雲が観測されており、時間の経 過とともにより下方に出現していた様子が観測された。

6時から8時にかけて1~1.5 kmの高度域では、散乱比と 偏光解消度は比較的低い値(R< 1.5、D< 0.05) を示した。

13時30分頃から17時にかけて4km以下の高度域で、散乱 比と偏光解消度の高いエアロゾル層(R=2~4、D= 0.1

~0.25)が観測された。オングストローム係数は、散乱 比と偏光解消度の高い高度域において、0.0 -1.0の低い値 を示した。一連の光学特性の時間高度変化は、寒冷前線 が通過した13 -14時以降に、比較的大きい非球形エアロ ゾル粒子(黄砂粒子)が頻繁に観測されたことを示唆し ていた。

前線通過以降の13時から17時にかけて観測された散乱 比の高度断面図は、Droegemeier and Wilhelmson(J.

Atmos. Sci., 1987)により示されたサンダーストームの 重力流の流れと非常に良い対応をしていた。彼らのモデ ルで示した空気塊の流れは、冷たい空気の前線に近いと ころでは、地表近くの空気の流れは、地表での摩擦によ り斜め下向きになる。そして、暖かい空気の下に潜るよ うに歪んで、その後、上方へ環状に輸送される。一方の 暖かい空気は、前線に近づくにつれて、冷たい空気の上 方に輸送され(持ち上げられ)、上方でしばしば雲を形 成する。

図6には,前線通過時の地上での気象パラメータ(風,

気圧,気温)の時間変化も示している。冷たい空気が地 上を通過する前に、風向が変化し始め、気圧も一時的に 上昇する(WS,PJ)。続いて、気温が低下する(TD)。

前線通過後、気圧は下降し、 局所的な最小値に達する

(PM)。これらの地上での気象パラメータの一連の時間 変動は、Droegemeier and Wilhelmson(J. Atmos. Sci., 1987)により、重力流の流れとの関係から、詳細に述べ られている。

彼らの重力流モデルに従えば、前線通過時、前線の前 面に相当する部分(図6での13~15時、地上~高度2km の部分)では、環状の上向きの流れが生じていると推測 された。その前面部分でのエアロゾルの光学特性の時空 間変動は、観測された黄砂層が、高度1kmから2kmにか けて、偏光解消度は減少し、波長指数の増加を示した。

これは観測された黄砂層が上方で水蒸気などの凝結によ り、形状が変化し変質した可能性があることを示唆して いた(図7)。

図6 2014年5月26日にライダーにより観測された(a)散乱比、

(b)偏光解消度、(c)オングストローム係数の時間高度断 面図(白石,2015)

図7 寒冷前線通過時の黄砂層のエアロゾル偏光解消度とオング ストローム係数の散布図(白石,2015)

(4)

2-2.2014~2015年11月にライダーで観測された 大気境界層の変動について

大気境界層内のエアロゾル濃度は自由対流圏と比べて 非常に濃度が高い。ライダー計測から、エアロゾル濃度 の高度勾配を利用して大気境界層の上端高度(以後、大 気境界層高度と称す)を導出し、それらの季節変動につ いて調べた。初めに導出した境界層高度の有効性につい て検討するため、福岡管区気象台での気象ゾンデ観測に より得られた温度の鉛直分布から境界層高度を推定し、

比較を行った。解析には、2014年12月から2015年11月の 間で得られた 532 nmでのライダーデータを用いた。

ライダーの測定データから境界層高度を導出する 方法については、Sasanoet al.(J. Meteor. Soc. Japan, 1982)の方法を用いた。

ライダーの距離自乗補正信号から次式NCG (Normarizzed Comcentration Gragiationの略字)で導出される。

NCG(Zi) = (PZi+12−PZi -12) PZi2×(Zi+1−Zi -1)

PZi2、PZi+12、PZi-12は、それぞれ高度 Zi、 Zi+1、Zi-1 で測定された信号に距離の自乗を乗じた値である。気象 ゾンデ観測は、福岡管区気象台で1日2回実施される。ゾ ンデ放球時刻(8時30分と20時30分)から5分間のライダー データを積算し、48 mの高度分解能で、高度500 mから 4kmまでのNCGを導出した。NCGが最大となる高度を 境界層高度とした。また、気象ゾンデの温度から境界層 高度を決定する方法については、Parcel法 (Luo et. la., Atmos. Meas. Tech., 2014)を用いた。境界層高度を計 算した例として、図8に2015年5月5日の結果を示す。

ゾンデから導出した境界層高度が 500 m以下であった場 合、それぞれの導出方法で境界層高度が導出できない場 合について、季節別に分類した。ライダーから推定した 境界層高度は、5~7割程度、レーウィンゾンデの結果と 一致した。冬季に一致した日が77%と多く観測された。

ほかの季節については、明瞭な違いは見られてなかった。

ライダーと気象ゾンデ観測から導出した境界層高度の 比較の結果を図9に示す。ライダーから導出した境界

両者の境界層高度が5-7割程度しか一致しなかった要 因として、福岡大学と福岡管区気象台が3kmほど離れて いるため、混合境界層の発達高度やエアロゾル濃度の空 間的に一様でなかった可能性が考えられる。また、ライ ダーでの境界層高度導出には、距離事情補正信号の鉛直 勾配が利用されているが、越境して福岡に飛来する黄砂 などのエアロゾルの移流があった場合には、境界層高度 は正確に導出することができない場合がある。

ライダーと気象ゾンデで推定した境界層高度が朝と夜 の比較でどちらも一致し、雲が観測されていない日は、

全期間中24日あった。その中で、境界層高度の日変動 が日射に伴った典型的な変動を示したケースは3日だけ だった。

ライダーで推定した境界層高度が、レーウィンゾンデ で推定した結果一致した場合だけを取り出して、1日で 図8 NCGの計算例。距離補正信号とNCG、温位の鉛直分布。

+印は、導出した境界層高度

図9 ライダーとレーウィンゾンデ観測により推定した境界層高 度の比較結果

(5)

ついて調べた(図10)。境界層最大高度は、3~6月の春 季に1.6~1.7 kmで最大になることが分かった。夏季は、

雲が多く観測され、境界層高度も低かった。我々のライ ダー装置は、設計上高度 500 mより高い高度からエアロ ゾルの鉛直分布の観測が可能である。気象ゾンデの観測 結果では、500 m以下の高度でもしばしば境界層高度が 観測されていた。そのため、現在高度100 - 500 mのより 低高度を観測するための受信装置を新たに組み込む検討 を行っている。

研究業績

山口秀芳, 高島久洋*, 丸山勇亮, 自動車搭載型装置を用 いたMAX-DOAS 法による分光観測~福岡都市圏 の二酸化窒素(NO2)の時空間不均質性~, Jpn J.

Atmos. Environ., 2016.[Japanese with English abstract;査読有]

Takashima, H., Kanaya, Y., and F. Taketani, Downsizing of a ship-borne MAX-DOAS instrument, JAMSTEC Rep. Res. Dev., 2016. [Japanese with English abstract;査読有]

Kanaya,Y., H. Tanimoto, Y. Yokouchi, F. Taketani, Y. Komazaki, H. Irie, H. Takashima, X. Pan, S.

Nozoe, S. Inomata, Diagnosis of Photochemical Ozone Production Rates and Limiting Factors in Continental Outflow Air Masses Reaching Fukue Island, Japan: Ozone-Control Implications, Aerosol and Air Quality Research (AAQR), 16/2, 430-441, 2016年.[査読有]

Taketani, F., T., Miyakawa, H., Takashima, Y.

Komazaki, Y. Kanaya, and J Inoue, Shipborne observations of atmospheric black carbon aerosol particles over the Arctic Ocean, Bering Sea, and North Pacific Ocean during September 2014, Journal of Geophysical Research (JGR) Atmospheres, 121, 2016年.[査読有]

Takashima, H., Y. Kanaya, H. Irie, Spatiotemporal 2-3.エアロゾル観測データの準リアルタイム表示

機構の構築

福岡大学で実施しているエアロゾル観測について準リ アルタイムでweb上に表示し、インターネットから閲覧 できる機構を構築した(http://www.se.fukuoka-u.ac.jp/

fiteh/home/data_view/,http://www.se.fukuoka-u.

ac.jp/geophys/am/lidar_quicklook/)。

測定用コンピューターに蓄積されたデータは、解析用 コンピューターにバックアップを兼ねてコピーされる。

その後自動解析を行い、波長 532 nmと355 nmでの減衰 補正なしの散乱比、偏光解消度の時間高度図を1日ごと に作成される。次にweb上での観測結果の表示が更新で きるようにC言語プログラムで作成した。作成した図は、

アーカイブフォルダにも保存され、過去の観測結果も web上で閲覧できるようにした。

現在稼働しているライダー装置は、大気エアロゾルの 蛍光計測が可能な分光器と検出器を備えている。それら の自動制御を行う機構も構築した。2016年1月以降、夜 間の大気エアロゾルの蛍光計測は自動で行っている。

web上での表示機構は、それらの観測結果(蛍光強度ス ペクトルと積分蛍光強度の時間高度断面図)も、web上 で表示できるように、改良を行った。

図10 2014年12月~2015年11月にライダー観測で得られた月 平均境界層最大高度

図11 ライダー観測結果の準リアルタイム表示の例(http://

www.se.fukuoka-u.ac.jp/geophys/am/lidar_quicklook/)

(6)

inhomogeneity in NO2 over Fukuoka observed by ground-based MAX-DOAS, Atmospheric E n v i r o n m e n t , 1 0 0 , 1 1 7 - 1 2 3 , d o i : 1 0 . 1 0 1 6 / j.atmosenv.2014.10.057, 2015.[査読有]

Kanaya, Y., H. Irie, H. Takashima, H. Iwabuchi, H.

Akimoto, K. Sudo, M. Gu, J. Chong, Y. J. Kim, H. Lee, A. Li, F. Si, J. Xu, P.-H. Xie, W.-Q. Liu, A.

Dzhola, O. Postylyakov, V. Ivanov, E. Grechko, S. Terpugova, and M. Panchenko, Long-term MAX-DOAS network observations of NO2 in Russia and Asia(MADRAS)during 2007-2012:

instrumentation, elucidation of climatology, and comparisons with OMI satellite observations and global model simulations, Atmos. Chem. Phys., 14, 7909 -7927, 2014年.[査読有]

白石浩一, 木附雅貴, 高島久洋, 水谷耕平, 寒冷前線通過

時にライダーで観測された黄砂層の光学特性, 福岡

大学理学集報, 46/1, 21-29, 2016年.

Kobayashi, H., H. Masahiko, K. Shiraishi, Y. Nakura, T. Enomoto, K. Miura, H. Takahashi, Y. Igarashi, H. Nao, N. Kaneyasu, T. Nishizawa, N. Sugimoto, Development of a polarization optical particle counter capable of aerosol type classification, Atmospheric Environment, 2014年.[査読有]

白石浩一, 藤原玄夫, 高島久洋, 鳥越 剛, ライダーで観 測された福岡における成層圏エアロゾルの長期変 動, 福岡大学理学集報, 43/2, 153 -157, 2013年.

白石浩一, 林 政彦, 橋本あやか, 内山明博, 山崎明宏, ラ イダー比の推定とエアロゾルの同定

―2011年4- 11月

に福岡でライダーとスカイラジオメータにより観測

された下部対流圏エアロゾルの光学特性―, 福岡大

学理学集報, 43/2, 159 -165, 2013年.

参照

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