解析
I
・講義ノート
第8回
(2020年7月7日(火)配信分)
第8回本題
前回の最後にも触れましたように、f(x) が C∞ 級のとき、関数
列の極限である無限級数の和
f(x) = X∞
n=0
1
n!f(n)(a)(x − a)n
= limn→∞ Xn
k=0
1
k!f(k)(a)(x − a)k
として f(x) を表したものを、f(x) の x = a におけるテイラー級
数展開と呼びます(教科書86頁参照)。ただし、この無限級数は任 意の x に対して収束するとは限りません。その収束範囲を調べる ことが、今回のテーマです。
一般に、
X∞ n=0
an(x−a)n = a0 +a1(x−a) +a2(x−a)2+· · · +an(x−a)n +· · ·
をa を中心とするべき級数(または整級数) と呼びます(教科書83
〜84頁参照)。この級数が収束してx の関数になる範囲では、そ のグラフは、a = 0 の場合
X∞ n=0
anxn = a0 + a1x + a2x2 + · · · + anxn + · · ·
のグラフを右へ a だけ平行移動したものですから、収束するよう な x の範囲も、同じく右へ a だけ平行移動されるので、収束する 範囲については、a = 0 の場合について調べれば(情報として)十
分です。
係数 a0, a1, a2, . . . , an, . . . が、全て同じとき、この級数は、
X∞ n=0
a0xn = a0 + a0x + a0x2 + · · · + a0xn + · · ·
で、初項(第 0 項) a0, 公比 x の等比級数(等比数列の和)ですか
ら、第 n 項までの部分和は
Xn k=0
a0xk = a0 + a0x + a0x2 + · · · + a0xn = a0(1 − xn+1) 1 − x
より、級数の値は
X∞ n=0
a0xn = lim
n→∞
a0(1 − xn+1)
1 − x = a0
1 − x (|x| < 1)
です(教科書81頁参照)。a0 ̸= 0 のとき、x = 1 では a0 と同符号
の ∞ に発散し、x = −1 では a0 と 0 を振動しますから、収束す る範囲としては、|x| < 1 がぎりぎりです。
一般の場合は、優級数定理を用いて、この等比級数と比較する 判定法が有力です。その主張をべき級数に限定して書くと、
十分大きい(つまり、ある n0 以上の) 全ての自然数 n に対し、
|anxn| ≤ CRn
を満たすような正の実数C と R < 1 が存在するならば、(言い換えれば、絶対 値をとった数列 |anxn| が、公比 1 未満の等比数列で、上から押さえられるな らば、)そのような x において、べき級数
X∞ n=0
anxn
も収束する
となります。
上の条件は、次のように書き直せます。
|x| ≤
C
|an|
1/n
R (an ̸= 0)
ここで
r ≤
C
|an|
1/n
(an ̸= 0)
を満たす r が存在すれば( n に依らずに選べれば)、べき級数
X∞ n=0
anxn が |x| ≤ rR で収束することがわかりますが、R は 1 未
満の範囲で、いくらでも 1 に近いものに取り換えても条件を満た すので、結局 |x| < r で収束と言うことになります。
ただ、このままではまだ判定条件としてはやや使い勝手が悪い ので、通常は次のどちらかの判定条件を用いることが多いで
しょう。
コーシー-アダマールの判定条件(教科書85頁参照。)
nlim→∞ |an|1/n = 1 r
が存在すれば、|x| < r で収束する。
(略証)ϵ > 0 を任意に一つとります。極限値が 1
r なので、十分大きい全ての n ( n ≥ n0 とします)に対しては|an|1/n < 1+ϵr が成り立ちます。従って、
r
1 + ϵ <
1
|an|
1/n
より、このべき級数は|x| < 1+ϵr で収束します。ここで ϵ > 0 は自由に選べた ので、|x| < r を満たす任意の x に対し、|x| < 1+ϵr を満たす ϵ > 0 を一つ選ん で、上の論証を行えば、収束が示せます。
また、極限値が 0 のときは、十分大きい全ての n に対して|an|1/n < ϵ が成 り立つので、このべき級数は|x| < 1ϵ で収束しますが、ϵ > 0 は自由に選べたの で、結局 |x| < +∞ すなわち任意の x に対し、収束が言えます。
ダランベールの判定条件(教科書85頁参照。)
nlim→∞
|an+1|
|an| = 1 r
が存在すれば、|x| < r で収束する。
(略証)ϵ > 0 を任意に一つとります。極限値が 1
r なので、十分大きい全ての n ( n ≥ n0 とします)に対しては |a|n+1a |
n| < 1+ϵr が成り立ちます。従って、
|an0+m|
|an0| < 1+ϵr m も成り立つので、
r
1 + ϵ <
|an0|
|an0+m|
1/m
より、このべき級数(の第 n0 項以降)は|x| < 1+ϵr で収束します。ここで ϵ > 0 は自由に選べたので、|x| < r を満たす任意の x に対し、|x| < 1+ϵr を満たす
ϵ > 0 を一つ選んで、上の論証を行えば、収束が示せます。
また、極限値が 0 のときは、十分大きい全ての n に対して |a|n+1a |
n| < ϵ が成り 立つので、このべき級数は|x| < 1ϵ で収束しますが、ϵ > 0 は自由に選べたの で、結局 |x| < +∞ すなわち任意の x に対し、収束が言えます。
この r ( 0 以上の実数または +∞ )を、べき級数 X∞
n=0
anxn の収
束半径(教科書84頁参照) と呼び、一般に |x| < r で収束、|x| > r
で発散します。ちょうど |x| = r (つまり x = ±r )では、どちら
になるかは、べき級数によります。ただし r = 0 のときは、x = 0
でのみ収束します。
さらに |x| < r では、関数 f(x) = X∞
n=0
anxn は、無限回微分可能
で、導関数は項別微分
f′(x) = X∞
n=1
annxn−1 f′′(x) = X∞
n=2
ann(n − 1)xn−2
... ...
により得られることも知られています(教科書85頁参照)。証明に
はやや難しい議論が必要なので、この講義では省略します。
なお、 X∞
n=0
an(x − a)n については、x を全て x − a に置き換える
だけで、同様の主張が得られます。
二つの判定法によって得られる収束半径は、どちらで計算して も同じ値が得られます。比較的計算しやすいのは、ダランベール の判定条件の方ですが、係数 an に 0 が繰り返し現れる場合は適 用できないと言う難点があります。
ただし、奇数番目のみ全て消える(つまり偶関数になる)場合
には、
f(x) = X∞
n=0
anxn = X∞
k=0
a2kx2k
= X∞
k=0
a2k(x2)k
より、別のべき級数
g(y) = X∞
k=0
a2kyk
の収束半径 r′ が求められれば、f(x) = g(x2) より、|x2| < r′ つま
り |x| < √
r′ で元のべき級数も収束するとわかります。
偶数番目のみ全て消える(つまり奇関数になる)場合にも、ほぼ
同様ですが、
f(x) = X∞
n=0
anxn = X∞
k=0
a2k+1x2k+1
= x X∞
k=0
a2k+1(x2)k
より、別のべき級数
g(y) = X∞
k=0
a2k+1yk
の収束半径 r′′ が求められれば、f(x) = xg(x2) より、|x2| < r′′ つ
まり |x| < √
r′′ で元のべき級数も収束するとわかります。
テイラー級数展開
f(x) = X∞
n=0
1
n!f(n)(a)(x − a)n
の場合、
an = 1
n!f(n)(a)
と言うことになります。
教科書88頁にも判定法がありますが、ここでは、直接上の判定 条件を用いてみましょう。
指数関数 ex の x = 0 におけるテイラー級数展開
X∞ n=0
1 n!xn
では、全ての n でan = 1
n! ですから、ダランベールの判定条件を 適用すると、
1
r = limn→∞
1 (n+1)!
1
n!
= limn→∞ 1
n + 1 = 0
より、収束半径は +∞, つまり全ての実数 x において収束するこ
とがわかります。
一方、対数関数 log x の x = 1 におけるテイラー級数展開
X∞ n=1
(−1)n−1
n (x − 1)n
では、全ての n でan = (−1)n−1
n ですから、ダランベールの判定 条件を適用すると、
1
r = lim
n→∞
(−1)n n+1
(−1)n−1 n
= lim
n→∞
n
n + 1 = 1
より、収束半径は 1, つまり |x − 1| < 1 ( 0 < x < 2 )においては
収束しますが、|x − 1| > 1 ( x > 2 )においては収束しないことが わかります。
ちょうど |x − 1| = 1 ( x = 2 )ではどうでしょうか?
三角関数 sinx, cos x では、既にお話しました、奇関数、偶関数 の場合の計算方法を適用して、収束半径が +∞ であることが示せ
ます。確かめてみましょう。
実は(解析IVで扱う)複素関数 f(z) でも、同様にテイラー級数展開が定義さ れ、収束半径は対応する実関数の場合と同じ値になります。ちなみに複素関数 としての指数関数はez = ex+iy = ex(cosy + i siny) で、その z = 0 におけるテ イラー級数展開
X∞ n=0
1 n!zn
の収束半径は +∞ です。ここで特に純虚数 z = iy に制限してかんがえると、
eiy = cosy + isin y ですから、
cosy + i siny = X∞
n=0
1
n!(iy)n = X∞
k=0
(−1)k
(2k)! y2k + i X∞
k=0
(−1)k
(2k + 1)!y2k+1
が全ての y ∈ R について成り立つ、つまり cosy と sin y のy = 0 におけるテ イラー級数展開の収束半径も+∞ であることが同時にわかります。
なお、有理関数などでは、高次の微分係数を求めるまでもなく、
べき級数で表せる場合もあります。
典型的なのが、|x| < 1 における次の例でしょう。
1
1 − x = lim
n→∞
1 − xn+1 1 − x
= lim
n→∞(1 + x + x2 + · · · + xn)
= limn→∞ Xn
k=0
xk
= X∞
n=0
xn
ここで、log x の x = 1 でのテイラー級数展開に1 − x を代入す
れば、
log(1 − x) = X∞
n=1
(−1)n−1
n {(1 − x) − 1}n
= X∞
n=1
−1 n xn
より、log(1 − x) の x = 0 でのテイラー級数展開が得られ、
|(1 − x) − 1| < 1 すなわち|x| < 1 で収束しますが、これを項別微 分すると、
−1
1 − x = {log(1 − x)}′ = X∞
n=1
−1 n xn
′
= X∞
n=1
(−1)xn−1 = − X∞
n=0
xn
で、上と同じ展開が得られます。
第7回練習課題の解答
ロピタルの定理を繰り返し用いる等、計算方法はいろいろある と思いますが、今回は種明かし的な説明をしておきましょう。
実は sin x のテイラー級数展開
sin x = X∞
k=0
(−1)k
(2k + 1)!x2k+1 (x ∈ R)
を x で割ると、
g(x) = sin x
x = X∞
k=0
(−1)k
(2k + 1)!x2k (x ̸= 0)
で、一方、
g(0) = 1 = (−1)0
(2 · 0 + 1)! = X∞
k=0
(−1)k
(2k + 1)!02k
より、結局 g(x) のテイラー級数展開が
g(x) = X∞
k=0
(−1)k
(2k + 1)!x2k = X∞
k=0
1 (2k)!
(−1)k
2k + 1x2k (x ∈ R)
で与えられることがわかります。
sin x の場合と次数が 1 ずれただけで、係数は同じものが並ん でいるので、収束半径は変わらず +∞ です。従って、
g(n)(0) =
(−1)k
2k+1 (n = 2k)
0 (n = 2k + 1)
となりますが、これはもちろん、
g(n)(0) = f(n+1)(0)
n + 1 (この場合 f(x) = sin x)
から来たものです。